審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17ワ10524特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15ワ3179特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ12752特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18ワ29554特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ 785特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 製造方法 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 共有 / 権原 / 構成要件 / 侵害 / 発明の範囲 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
11年
(ワ)
21974号
損害賠償請求事件
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原告 新日本製鐵株式会社 訴訟代理人弁護士 久保田 穣 同 増井和夫 被告 日本鋼管株式会社 訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣 同復代理人弁護士 柳 誠一郎 補佐人弁理士 細江利昭 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2001/07/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告は,原告に対し,金28億円及びこれに対する平成11年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要等
1 争いのない事実等 (1) 当事者 原告は製鉄,鉄鋼及び鉄鋼製品の製造並びに販売等を業とする会社であり,被告も製鉄,製鋼及び鉄鋼製品の製造並びに販売等を業とする会社である。 (2) 原告の有する特許権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,特許請求の範囲第1項の発明を「本件発明」という。また,別添特許公報(甲2)を,「本件特許公報」といい,本件特許に係る明細書を,「本件明細書」という。)を,トヨタ自動車株式会社と共有している。 ア 発明の名称 カチオン電着塗装用のメッキ鋼材 イ 出願日 昭和55年3月24日 ウ 出願番号 昭55-36244 エ 出願公告日 昭和58年3月26日 オ 出願公告番号 昭58-15554 カ 登録日 昭和61年1月31日 キ 登録番号 特許第1299498号 ク 特許請求の範囲第1項 「亜鉛40重量%以下からなるFe-Zn系連続被覆表面層,下層に耐食性金属層からなるカチオン電着塗装用のメッキ鋼材」 (3) 構成要件の分説 本件発明は,次のように分説される。 A 亜鉛40重量%以下からなるFe-Zn系連続被覆表面層 B 下層に耐食性金属層からなる C カチオン電着塗装用のメッキ鋼材 (4) 被告の行為 被告は,パームジンクアロイタイプB(PZB)という商品名の製品(以下「被告製品」という。)を製造販売している。 (5) 被告製品の構成 被告製品は,Fe-Zn電気メッキ層を上層に,合金化溶融亜鉛メッキ層(GA層)を下層に有する合金化溶融亜鉛メッキ鋼板である。被告製品の表面には溶融亜鉛メッキ鋼板であることに由来する凹部(未調圧部)と平坦部(調圧部)が存在し,両者の割合は,ほぼ1:1である。平坦部はFe-Zn電気メッキ層で覆われており,その亜鉛重量%は平均すれば40重量%以下である。 被告製品の下層は,構成要件Bを充足する(その余の構成要件については当事者間で争いがある。)。 2 事案の概要 本件は,本件特許権を共有している原告が,被告に対し,被告製品の製造販売は,本件特許権を侵害するものであると主張して,28億円(28億7980万円の内金)の損害賠償を求める事案である。 3 本件の争点 (1) 被告製品の構成 (2)ア 被告製品は本件発明の構成要件Aを充足するか。 イ 被告製品は本件発明の構成要件Cを充足するか。 (3) 被告製品のA層とB1層というメッキ層を持つ鋼板が生産された時点で本件発明の構成要件を充足する鋼板が生産され,それにB2層をメッキすることにより上記鋼板を使用しているといえるか。 (4) 被告製品は亜鉛40重量%以下であるB2層が全面積中約20%存在することにより本件発明の構成要件を充足するか。 (5) 損害の発生及び額 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点(1)について 【被告の主張】 被告製品の構成は,別紙被告物件目録記載のとおりである。 【原告の主張】 被告製品の構成は,別紙被告物件目録記載のようなものではない。 (1) 被告製品の平坦部について 被告製品は,表面近くの鉄含有量が少ないとはいえるが,別紙被告物件目録記載のようにB1層とB2層に分かれていない。 (2) 被告製品の凹部の表面状態について 被告製品の凹部でもかなり電気メッキされており,GA層の柱状結晶の表面を覆い又はその廻りを巻いた電気メッキ層がある。 (3) 別紙被告物件目録記載の被告製品表面の平均Fe重量%について 被告製品の表面がどこか明確でないし,仮に表面に凹部を含むとすると,凹部は含めるべきではない。 2 争点(2)アについて 【原告の主張】 (1) 「表面層」について 「表面層」とは,下層の耐食性金属層以外の上層すべてを指す。 (2) 「亜鉛40重量%以下からなる」について 構成要件Aにいう「亜鉛40重量%以下からなる」とは平均が40重量%以下であれば足り,あらゆる箇所において分布が一様でなければならないということはない。 (3) 「連続被覆」について 「連続被覆」とは全面的に被覆していることを意味し,被覆に穴があって下層の亜鉛リッチな層が露出していてもよい。 (4) 本件発明の作用効果 本件発明は,カチオン電着塗装ができ,耐食性も塗装性も改善されるという作用効果を有する。 (5) 本件発明と被告製品との比較 被告製品の電気メッキ層(被告がB1層とB2層として主張する層)が表面層であり,それは鉄と亜鉛の合金から成り,かつ平均して亜鉛の割合が40重量%以下である。そして,被告製品は,カチオン電着塗装ができ,耐食性も塗装性も改善されるという本件特許の作用効果を奏しており,このことは現に被告製品がカチオン電着塗装のために自動車メーカーによって購入され,使用されていることから明らかであるし,また,GA層に比して通電ブツの発生を桁違いに抑制している。したがって,被告製品は構成要件Aを充足する。 【被告の主張】 (1) 「表面層」について 「表面層」とは,下層の耐食性金属層以外の上層であって,かつ,表面に露出している層を指し,いかなる意味においても表面に現れていない層を意味するものではない。 (2) 「亜鉛40重量%以下」について 本件特許公報の第1図は,本件発明の作用効果を説明する説明図であるが,亜鉛量が40重量%である点を境にして通電ブツの発生個数が急激に変化している。本件発明は,このことに注目して「亜鉛40重量%以下」を構成要件としたものである。仮に平均値において亜鉛40重量%以下であれば良いとするならば,被膜を平面的に見た場合,亜鉛20重量%の部分が半分,亜鉛60重量%の部分が半分であるようなメッキ鋼材も平均すれば亜鉛40重量%となり,本件発明の技術的範囲に含まれることとなる。しかしながら,このようなメッキ鋼材では,その表面の半分が亜鉛重量%が60%である表面層で覆われていることになり,その部分では多数の通電ブツが発生するので,残りの半分の部分において通電ブツの発生を冷延鋼板並みに抑えたとしても全体を平均すると通電ブツの発生は冷延鋼板並みにはならず,後述の作用効果を奏するとはいえない。 本件特許公報の第3図及びその説明に記載されているように,亜鉛重量%が40重量%以下となると,リン酸塩の結晶がホスホフィリットを主体とする緻密な粒状結晶となるとされているが,亜鉛重量%濃度が40%を越える領域が部分的にも存在すると,電気化学的活性度が相対的に高い高亜鉛濃度部が優先溶解してホペイトが形成されるので,後述のホスホフィリット主体の粒状結晶が形成されるという作用効果を奏しない。 したがって,本件発明における「亜鉛40重量%以下」は,表面層を平面的に見た場合,どの部分においても亜鉛が40重量%以下であることを意味する。 (3) 「連続被覆」について 本件発明の作用効果は,後述のとおりカチオン電着塗装における通電ブツの発生及びその下地処理としてのリン酸塩処理適性に関して,Fe-Zn系メッキ表面における亜鉛の量が40重量%の点において臨界的効果を有することにある。 そうすると,「連続被覆」といえるためには,このような作用効果を奏する程度に連続していることを要し,それは,被覆が表面を切れ目なく完全に覆っている状態を指すと解される。鋼材の表面を網目状の被覆で覆ったとしても,網目の穴の部分は下層が露出することになるから,その部分において通電ブツの発生を防ぐことはできず,本件発明の目的は達成できない。 (4) 本件発明の作用効果 本件発明は,亜鉛40重量%という数値に臨界的意義を見出し,本件特許公報の第1図記載の過酷な条件の下でも通電ブツの発生を冷延鋼板並みに抑制するとともに,カチオン電着塗装の前処理であるリン酸塩処理を行った際に,粒状結晶(ホスホフィリット)が形成されるという作用効果を有する。 (5) 本件発明と被告製品との比較 被告製品において構成要件Aに対応する被膜は表面層であるB2層であるところ,鋼板を平面的に見た場合,B2層の存在する平坦部は全体の50%程度又はそれ以下であり,凹部にはFe-Zn系被膜は形成されていないのであるから,被告製品には「連続被覆」表面層が存在しない。また,B2層において亜鉛重量%が40%以下である部分はごくわずかであり,鋼板表面全体の20%程度であるし,原告が主張するように平均でみてもB2層の平均亜鉛重量%は41%であるから,「亜鉛40重量%以下」を充足していない。 被告製品は,亜鉛露出部分の存在により,本件特許公報の第1図の条件では通電ブツが多数発生するし,第3図のとおりメッキ鋼板に対してカチオン電着塗装の下地処理としてリン酸塩処理を施すと,ホスホフィリットを主体とする緻密な粒状結晶は形成されないので,上記作用効果をいずれも奏していない。 【原告の反論】 本件特許公報の第1図の条件で通電ブツが発生しないこと及び第3図記載のリン酸塩処理後の結晶形態がホスホフィリットであることは本件発明の作用効果を表すための条件であるとはいえない。 3 争点(2)イについて 【原告の主張】 本件発明の構成要件Cの「カチオン電着塗装用のメッキ鋼材」という文言は,効果の記載であって,用途を限定したものではないから,本件発明は,その用途がカチオン電着塗装用に限定されている用途発明ではない。被告製品はカチオン電着塗装に使用できるから,構成要件Cを充足する。 【被告の主張】 本件発明は,その用途が「カチオン電着塗装用に」限定されている用途発明であるところ,被告製品は本件明細書に記載された塗装条件でカチオン電着塗装を行っても通電ブツの発生が冷延鋼板並みに抑えられるという性質を有しておらず,そのような性質を利用することはあり得ないから,構成要件Cを充足しない。 また,被告製品は,「カチオン電着塗装用」という用途と結びつくような構成を何も備えていないから,構成要件Cを充足しない。 4 争点(3)について 【原告の主張】 被告製品の構成が,別紙被告物件目録記載のとおりであるとしても,被告製品の製造過程においてA層の上にB1層のメッキをしたことにより,鋼板の上にA層+B1層というメッキ層を持つ鋼板を生産し,その上に更にB2層のメッキをしたとき,その物を使用することになる。 前記B1層のメッキは鉄と亜鉛の合金で,鉄分が平均67重量%であり,B1層はメッキ液に通して形成されることから「連続層」である。したがって,鋼板の上にA層+B1層というメッキ層を持つ鋼板は構成要件Aを充足する。 【被告の反論】 本件発明は,上記のとおりカチオン電着塗装用のメッキ鋼材にかかるものであり,いわゆる用途発明であるところ,A層の上にB1層をメッキした鋼板はカチオン電着塗装に用いられることを意図して製造されたものではないから,本件発明の構成要件Cにいう「カチオン電着塗装用」鋼板ではないし,被告はこれにカチオン電着塗装を施しているわけではないから,このような製品の使用は本件発明に係る物品の使用には当たらない。 5 争点(4)について 【原告の主張】 上記1,2に関する被告の主張によると,B2層の鉄含有量が60重量%以上の部分の面積が銅板表面全体の約20%であるというのであるから,その部分については構成要件Aを充足する。 【被告の主張】 本件発明の対象はメッキ鋼材であって,メッキでもなければメッキ用組成物ではないので,20%の部分は「メッキ鋼材」という構成要件を充足しない。そして,本件発明の目的は過酷な塗装条件の下でも通電ブツの発生を冷延鋼板並に抑えることであるが,たとえ20%の範囲で通電ブツの発生を阻止できたとしても,全面積の80%の範囲で通電ブツが発生するような鋼板は,全体として前記目的を達成できないことは明らかである。 6 争点(5)について 【原告の主張】 被告は被告製品を現代自動車株式会社,双龍自動車株式会社及びいすゞ自動車株式会社に対して次のとおり販売した。 現代自動車(平成7年7月〜平成11年6月) 40700トン 双龍自動車(平成4年1月〜平成11年6月) 23500トン いすゞ自動車(平成9年1月〜平成11年6月) 1000トン 合計 65200トン 被告製品の販売価格は,販売期間を通じて現代自動車及び双龍自動車に対しては1トン当たり8万円,いすゞ自動車に対しては1トン当たり10万円であり,売上額から製造販売の直接経費を控除した額が特許権侵害行為によって発生した利益額に相当するので,被告の得た利益額は28億7980万円である。 原告は,このうち28億円を請求する。 【被告の主張】 原告の主張は争う。 |
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当裁判所の判断
1 争点(1)について (1) 被告製品の平坦部について 証拠(甲16,21,23,35,37,乙5,6,16)によると,被告製品の表面に近い方は,遠い方に比べてややZn強度が強いこと,中心部の組成は70±3wt%であるのに対しFe表層から0.1ミクロンの深さの部分では60±3wt%Feと鉄濃度がやや低い傾向を示すこと,同様に表面から深さ0.10ないし0.15ミクロンの箇所とそれよりも深い箇所とではFe-Zn組成の変化がみられること,被告製品の製造方法として電気密度90ないし120A/du,60A/duの2段階メッキを行うこと,電気メッキにおいて電気密度を変えることによりメッキ組成が変化し組成の異なるメッキ層が形成されること,以上の事実が認められる。 以上の事実に弁論の全趣旨を総合すると,被告製品の平坦部におけるFe-Zn電気メッキ層には組成の異なるB1層とB2層が存在するものと認められ,それらの厚さは,証拠(乙5)によると,GA層の上に形成されたB1層が0.3ないし0.5ミクロン,その上に形成されたB2層が0.1ないし0.2ミクロンであると認められる。 (2) 被告製品の凹部の表面状態について 証拠(甲23,35,乙5)と弁論の全趣旨によると,被告製品の凹部にはGA層が露出している部分と電気メッキ層で覆われている部分が存在すること,凹部の表面に柱状結晶及び粒状の析出物がみられ,柱状結晶はその角部が丸みを帯びているところ,その角部は電気メッキ層で覆われていること,粒状結晶も電気メッキ層であること,凹部には,GA層が露出している部分がかなり存すること,以上の事実が認められる。 したがって,以上のように凹部にはGA層が露出している部分と電気メッキ層で覆われている部分が混在しているものと認められる。 2 争点(2)ア及び(3)について (1) 本件発明における「表面層」について ア 本件特許請求の範囲の記載によると,表面層は,まず耐食性金属層の上に存する層であるということができる。 イ そして,本件明細書中の【発明の詳細な説明】には, 「本件発明はリン酸亜鉛・鉄系リン酸塩処理およびカチオン電着塗装の下地として好適な塗装を含めた総合的防錆性のすぐれた耐食鋼材(中略)をねらいとするものである。」, 「近年特に,自動車業界を中心にカチオン電着によるプライマー塗装が広く行なわれるようになったが,従来の亜鉛メッキ鋼材ないしは亜鉛を主体とする合金メッキ鋼材にカチオン電着塗装を施すと次のような不利益が生ずることが明らかとなった。即ち,カチオン電着塗装後の塗面に径0.3〜2o程度の凸起物あるいはピンホールが発生し(以下通電ブツと称する。),この欠陥は局部的な発錆の起点となるとともに,この上に上塗塗装を施しても解消されない外観上の欠陥として残る。 本発明者らの研究によれば,上記欠陥部の塗膜内部には気泡が認められ,これは通電中発生し,とじこめられたH2ガスであると考えられる。電着過程中被塗物表面ではカチオン塗料粒子が電析すると同時に,媒体である水の電気分解によりH2ガスが併行して発生する。既に電析した塗膜を破壊してH 2ガスが発生することが塗膜欠陥の原因であると考えられる。本発明者らは,種々の金属および合金のカチオン電着特性を試験した結果,通電中に発生する塗膜欠陥現象は,特に亜鉛および亜鉛を主体とする亜鉛合金に特異的に認められることを発見した。」, 「第1図は冷延鋼板上に種々の組成のFe-Znメッキを施し,塗膜欠陥を故意に発生し易い条件で通電ブツ発生試験を行なった結果である(中略)Fe-Znメッキ面の亜鉛含量が40重量%を越えると塗膜欠陥(通電ブツ)が多発し,亜鉛含量が40重量%以下では通電ブツ数は冷延鋼板と同レベルであり,実害のない程度であることがわかる。」, 「第3図はFe-Znメッキの組成とリン酸亜鉛鉄系処理の結晶の大きさおよび被覆状態との関係を示したものである。Zn含量が40重量%以下ではリン酸塩の結晶はホスホフイリットZn2Fe(PO 4) 2・4H 2Oを主体とする緻密な粒状結晶となるが,Zn含量が更に大になるにつれて結晶はホペイトZn3(PO 4) 2・4H 2Oを主体とする針状結晶に変化し粗大化する。即ち,真にリン酸亜鉛系被膜が形成するにはZn含量40重量%以下が好適であるといえる。第2図に示した耐ブリスター性がZn含量40重量%未満で最良である理由の一つがこのリン酸塩被膜の結晶の形態に帰せられると考えられる。」, 「亜鉛40重量%以下のFe-Znメッキ鋼板はカチオン電着塗装した場合,塗装を含めた総合的な防錆作用がすぐれており,この作用は本発明の範囲の亜鉛の存在によるものである。」, 「メッキ面の表面は亜鉛40重量%以下のFe-Zn系メッキの連続被覆を有すれば実質的に十分であるが,リン酸塩処理を施す場合には処理中メッキ面表面が若干溶解し,更にカチオン電着塗装の際にも僅かに表面が溶解すること,また現実的には表面を完全に被覆する程度に表面層を形成させるためにはある有限の厚さが必要となろう。」との記載がある。 ウ また,「チームプレイ型防錆皮膜」と題する論文(乙12)には, 「Feリッチ上層(80〜90%Fe-Znめっき層)はリン酸塩処理で溶けてなくなり,フォスフォフィライトに変換して析出し,塗膜/めっき層の界面の密着性を確保する。」, 「Feリッチ上層にはもう1つの働きがある。そのためには,リン酸塩処理で完全に消失させないで,一皮残しておく必要がある。それは,Feリッチ上層がないと,電着塗装において,月面のクレーターのような,あるいはすり鉢のような形態をした塗膜欠陥が発生することがあるからである。」, 「このクレータリング現象はZn系表面のみに特異的に発生するものである。特に下層の10%Fe-Zn組成において最も激しく発生する。カチオン塗料のミセルが電気泳動してカソードのめっき層表面に電着するとき,同時にH2ガスが発生し電着膜の電流経路を埋めると,10μm程度のガス相に300V程度の電圧がかかることになり,スパーク放電が起こる。この放電エネルギーによって周囲の塗膜が硬化反応を起こし,クレーターになるのである。カチオン塗料が電着するとき界面のpHは12を超えており,両性金属であるZnはH2を発生しつつ溶解する。このときZn中のFeは,H+還元反応の過電圧の小さい金属なので,反応サイトとなり,H2発生速度を倍増させる。Feリッチ上層が存在すると,H 2ガスはほとんど発生せず,したがってクレーターは防止できるのである。」との記載がある。 エ 以上述べたところに「表面層」という文言を総合すると,本件発明における表面層は,GA層の上に存在し,その上部は表面に露出している層であり,リン酸塩処理及びカチオン電着塗装に際して溶解し,リン酸塩被膜形成,カチオン電着塗装被膜形成に関与し,塗装後の総合的な防錆作用に寄与する層を指すと解される。 (2) 本件発明における「亜鉛40重量%以下」の意味について 弁論の全趣旨によると,Fe-Zn合金電気メッキは,メッキ層を所定割合の鉄イオンと亜鉛イオンを含む水性媒体で満たし,鋼板を通して,メッキ層中にある電極の作用で,プラスのイオンを鋼板に沈着させ,鋼板上に合金結晶を形成するという方法で行われるため,多少のばらつきがあるものの,ほぼ均一な組成の皮膜を形成することができるものと認められる。そうすると,本件発明における「亜鉛40重量%以下」を「電気メッキ層の平均の値」と解したときには,その値は,上記のほぼ均一な組成と一致するものと考えられるから,このように解するのが相当である。 (3) 本件発明における「連続被覆」の意味について 証拠(甲36)と弁論の全趣旨によると,電気メッキ被覆において孔が存在することは避けられないものと認められるから,「連続被覆」とは皮膜で表面を切れ目なく完全に覆うことであるとは認められない。 しかし,上記(1)認定の本件明細書の記載によると,本件発明における表面層の目的は,リン酸塩処理及びカチオン電着塗装の下地として好適な総合的防錆性のすぐれた耐食鋼材を提供することである。そして,上記(1)認定の事実に証拠(乙30)と弁論の全趣旨を総合すると,Fe-Zn合金電気メッキ被覆に孔が存在することによって,下層の亜鉛の影響を受け,亜鉛の影響を受けることによって,通電ブツが発生したり,リン酸塩被膜の結晶がホペイトを主体とする針状結晶になったりして,本件発明における上記目的を達成することができないことがあり得るものと認められる。 また,前記(1)認定の本件明細書の記載からすると,本件発明は,通電ブツの発生防止及びリン酸塩処理におけるホスホフイリットを主体とする緻密な粒状結晶形成について,「亜鉛40重量%以下」の臨界的効果を見い出し,それを作用効果とする発明であるということができる。そして,このことは,原告が,本件特許の特許異議答弁書(乙10)において,「本件発明がかかる構成を採ったのは,第1図,第2図,第3図に示した知見に基づくものであり,カチオン電着塗装において,Fe-Zn系メッキ表面におけるZnの量が40重量%の点において臨界的意義を見出したことによるものである。すなわち,Zn40重量%以下において通電ブツの発生が急激に低下してカチオン電着塗装に対する適性が格段に向上し,又,下地処理としてのリン酸塩処理適性にも極めて優れていることを見出したものである。」と述べていることからも明らかである。 そうすると,本件発明にいう「連続被覆」とは,本件発明における上記目的を達成できる程度に皮膜を連続して被覆することを意味し,上記目的は「亜鉛40重量%以下」の臨界的効果によって達成されなければならないと解される。 (4) 本件発明と被告製品との対比 上記認定を前提に本件発明と被告製品全体の構成を対比して検討する。 ア 被告製品の表面層について 被告製品におけるB1層及びB2層はいずれもGA層の上に存在し,B2層の上部は表面に露出している。 また,「2層合金化溶融亜鉛めっき(AS-E)の開発と製品特性」と題する論文(乙13)には,上層を2.5g/u(甲37によると,1g/uが0.14ミクロンに当たるので,0.35ミクロン,g/uのミクロンへの換算については,以下同じように甲37の記載による。)以上被覆させるとち密な粒状結晶のフォスフォフィライト主体の皮膜が得られると記載されていること,「我が国における自動車用防錆鋼板の動向」と題する論文(甲25)によると,クレーター発生を抑制するためにFe-richなFe-Zn合金層を配することが有効であり,通常,溶融Zn-Fe合金30〜60g/uに対しては,3g/u(0.42ミクロン)程度の上層被覆が行われていること及び上層皮膜が2.5g/u(0.35ミクロン)ではクレーター発生がほぼ冷延鋼板並みであるのに対し,1.5g/u(0.21ミクロン)ではそれが劣ると記載されていること,証拠(甲27)によると,原告が行った実験によると,GA基板上に0.1ミクロンのFe54(Zn46)%のFe-Zn合金層を電気メッキしたものでは塗装性(塗装ブツ発生の頻度)が劣位であったこと,証拠(甲37,39)によると,原告の実験によると,B1層に相当する部分の厚さを変えることにより,リン酸塩被覆の結晶構造,通電ブツの発生個数が変化すること,以上の事実が認められる。 これらの事実によると,被告製品の平坦部においてリン酸塩被膜形成及びカチオン電着塗装形成に関係しているのはB1層及びB2層であるということができるから,被告製品の平坦部における表面層はB1層及びB2層である。また,被告製品の凹部においては,そこに析出したメッキ層がGA層の上に存在し,メッキ層の上部は表面に露出しており,そのメッキ層は,リン酸塩被膜形成及びカチオン電着塗装形成に関係しているものと認められるから,そのメッキ層も,被告製品の表面層に当たるものというべきである。 これに対し,上記認定のとおり表面層はGA層の上に存在する層であるから,凹部のGA層が露出している部分は,表面層であるとは認められない。 イ 被告製品の表面層は「亜鉛40重量%以下」といえるか 上記のとおり被告製品の表面層は,平坦部におけるB1層とB2層及び凹部における電気メッキ層であるところ,前記争いのない事実のとおりB1層とB2層の亜鉛濃度の平均は40重量%以下である。そして,弁論の全趣旨によると,被告製品において,凹部の電気メッキ層は,平坦部と同様に電気メッキされるものと認められるから,B1層とB2層の亜鉛濃度の平均が40重量%以下である以上,凹部の電気メッキ層の亜鉛濃度の平均も40重量%以下であると認められる。 上記認定のとおり本件発明の「亜鉛40重量%以下」は電気メッキ層の平均の値であるから,被告製品の表面層は「亜鉛40重量%以下」を充足すると解される。 ウ 被告製品の表面層は連続被覆表面層といえるか (ア) 上記のとおり,被告製品の表面層が連続被覆か否かの判断に当たっては,表面層が全体として本件発明の連続被覆の目的を達成しているか否かを検討する必要がある。 (イ) 被告製品の表面層は全体としてカチオン電着塗装による塗膜欠陥(通電ブツ)を解消する効果を奏するか @ 証拠(乙17,20)によると,被告が本件特許公報の第1図記載の実験条件と同一の実験条件であるとして行った実験(以下「被告実験」という。)では,被告製品における通電ブツの発生数は454又は623であり,冷延鋼板並みではなかったことが認められる。これに対して,証拠(甲41)によると,原告が本件特許公報の第1図記載の実験条件と同一の実験条件であるとして行った実験(以下「原告実験」という。)では,被告製品の通電ブツの発生数は18であり,冷延鋼板並みであったことが認められる。そこで,両実験結果を対比して検討する。 まず,証拠(乙33)と弁論の全趣旨によると,被告実験が定速度で昇圧しているのに対し,原告実験では,230V,280Vの2段階で昇圧していることが認められる。そして,原告は,2段階で昇圧することは,一般に知られていると主張し,証拠(甲44,47)を提出するが,これらの証拠に照らしても,2段階で昇圧することが一般的に行われている方法であるとは認められない。 また,上記第1図において特に昇圧条件が記載されていないことからすると,定速度で昇圧しているものと考えるのが自然である。そうすると,原告実験は,上記第1図とは条件が異なり,被告実験は,上記第1図の条件に適合しているということができる。他に,被告実験が上記第1図の条件に適合していないことを認めるに足りる証拠はない。 また,証拠(甲41,45)と弁論の全趣旨によると,原告実験では,電流密度と硫酸亜鉛濃度を同時に変化させて,鉄と亜鉛の割合が異なる複数の試料を作成し,それに基づいて,鉄60パーセントの近傍で通電ブツの発生数が臨界的な変化を生じることを確認したうえ,それと同じ条件で,被告製品において通電ブツを発生させる実験を行ったことが認められる。しかし,証拠(甲45,乙34)によると,試料作成に当たって,メッキ浴の硫酸亜鉛濃度を高くすると,試料の亜鉛の割合が高まること,硫酸亜鉛濃度が同じでも,電流密度を低くすると,試料の亜鉛の割合が高まること,そのため,硫酸亜鉛濃度と電流密度の組合せは異なるが,結果的には,鉄と亜鉛の割合が同じ試料を作成することができること,鉄と亜鉛の割合が同じでも,硫酸亜鉛濃度と電流密度の組合せが異なると,その表面の状態が異なり,その結果,通電ブツの発生数が異なることがあり得ること,以上の事実が認められるのであるから,原告実験のように,試料作成において,電流密度と硫酸亜鉛濃度を同時に変化させて試料を作成した場合には,それらの試料を比較する実験をしたとしても,試料における鉄と亜鉛の割合と通電ブツの発生数との関係を正確に認識することができないものといわなければならず,本件明細書及び本件特許公報の第5図に,電気メッキにおいて,電流密度を一定にして硫酸亜鉛濃度を変化させることが記載されていることとも適合しない。この点,原告実験に使用された試料を作成した原告社員の陳述書(甲45)には,試料を精度よく効率的に作成するために,特定のメッキ浴において予備材を作成し,そのメッキ浴において作成することが可能なメッキ組成の範囲と電流密度との関係を求めたうえで,それぞれのメッキ浴において作成することが可能かつ適当な組成の試料を作成したとの記載がある。原告が,電流密度と硫酸亜鉛濃度を同時に変化させて,鉄と亜鉛の割合が異なる複数の試料を作成した理由がこのようなものであるとしても,上記認定のとおり,電流密度と硫酸亜鉛濃度との組合せいかんによって通電ブツの発生数が異なることがあり得ることからすると,原告実験における試料の比較実験から,試料における鉄と亜鉛の割合と通電ブツの発生数との関係を正確に認識することはできない。また,証拠(乙34)と弁論の全趣旨によると,現在存する原告実験で用いられた試料に基づいて,通電ブツの個数を数えた場合には,その数は,原告の実験結果とは異なり,試料9(鉄濃度60.4パーセント)と試料10(鉄濃度51.9パーセント)では,通電ブツの違いはほとんど認識することができないことが認められる。この点について,原告は,実験時に存した通電ブツが写真撮影時には消滅したと主張し,それに沿う証拠(甲42の1,2,甲43)を提出するが,これらの証拠はいずれも陳述書であって,上記消滅の事実を裏付ける客観的な証拠ではないうえ,弁論の全趣旨によると,通電ブツが消滅するという事実はこれまでおよそ知られておらず,そのようなことを記載した文献も存しなかったと認められるから,原告の上記主張を採用することはできない。そうすると,原告実験において用いられた条件下で,真に鉄60パーセントの近傍で通電ブツの発生数に臨界的な変化が生じていたかどうかについては,不明であるというほかない。これに対して,証拠(乙33)によると,被告実験では,電流密度を一定にして,硫酸亜鉛濃度のみを変化させて試料を作成し,それに基づいて,鉄60パーセントの近傍で通電ブツの発生数が臨界的な変化を生じることを確認したうえ,それと同じ条件で,被告製品において通電ブツを発生させる実験を行ったことが認められる。また,被告実験において,通電ブツの数え方その他の点について,問題があったことを認めるに足りる証拠はない。 以上述べたところからすると,被告実験は,上記第1図の条件に適合し,鉄60パーセントの近傍で通電ブツの発生数に臨界的な変化が生じる条件下でされたものであるので,その実験結果を採用することができるが,原告実験は,上記第1図の条件に適合していないうえ,真に鉄60パーセントの近傍で通電ブツの発生数に臨界的な変化が生じる条件下でされたか不明であるので,その実験結果を直ちに採用することはできない。 A 上記@で述べたところによると,被告製品は,上記第1図の条件で実験した場合には,通電ブツの発生数が454又は623であり,冷延鋼板並みではなかったことが認められる。前記(1)認定の本件明細書における通電ブツの問題点の記載や本件明細書には上記第1図の実験について「通電ブツ数は冷延鋼板と同レベルであり,実害のない程度であることがわかる。」と記載されていることからすると,被告実験における通電ブツの発生数は,実害を生じるおそれがあるものと認められるから,上記第1図の条件下では,被告製品の表面層が,通電ブツの発生の防止について,その目的を達しているとは認められない。そして,上記イ認定のとおり,被告製品の表面層は,「亜鉛40重量%以下」を充足するにもかかわらず,上記のとおり,通電ブツの発生の防止について,その目的を達していない原因は,前記1(2)認定のとおり,凹部にGA層が露出している部分がかなり存することによるものと推認される。 証拠(甲40,乙14,22,23)と弁論の全趣旨によると,電着塗装の条件を調節することにより通電ブツの発生を抑制することが可能であること,自動車メーカーの中には,電着塗装の条件を調節することにより,単層亜鉛メッキ鋼板にカチオン電着塗装を行っているところもあること,被告製品も,電着塗装の条件を調節することによって通電ブツを発生しないものとすることが可能であること,以上の事実が認められる。しかし,このように電着塗装の条件を調節することによって通電ブツを発生しないようにしたというだけでは,本件発明における,通電ブツの発生防止に関する「亜鉛40重量%以下」の臨界的効果を利用しているかどうかは不明である。 そして,他に,被告製品が,皮膜を連続して被覆することにより,本件発明における通電ブツの発生の防止という目的を「亜鉛40重量%以下」の臨界的効果によって達成していることを認めるに足りる証拠はない。 B なお,原告は被告製品は通電ブツの抑制についてGA層より桁違いに改善されているとの主張をしているが,そうであるからといって,直ちに,被告製品が,本件発明における通電ブツの発生の防止という目的を「亜鉛40重量%以下」の臨界的効果によって達成しているとは認められないことは明らかである。 (ウ) 被告製品の表面層は全体として下地処理としてのリン酸塩処理適性にすぐれているという効果を奏するか @ 前記(1)認定の事実によると,本件発明においては,鋼板をリン酸塩処理した場合,リン酸塩の結晶はホスホフイリットを主体とする緻密な粒状結晶となることが認められる。 A しかしながら,証拠(甲37,乙18,24,29)によると,被告製品においては,その表面に形成されるリン酸塩被覆は,ホペイトを主体とするもので,P比率(リン酸塩被覆の結晶状態を示す指標,結晶がすべてホペイトで構成されている場合には0になる。)は0ないし0.347と低いことが認められる。そうすると,被告製品においては,ホスホフィリットを主体とする緻密な粒状結晶は形成されていないことになる。上記イ認定のとおり,被告製品の表面層は,「亜鉛40重量%以下」を充足するにもかかわらず,上記のとおり,ホスホフィリットを主体とする緻密な粒状結晶が形成されていない原因は,前記1(2)認定のとおり,凹部にGA層が露出している部分がかなり存することによるものと推認される。 B したがって,被告製品が,皮膜を連続して被覆することにより,本件発明におけるリン酸塩処理適性にすぐれているという目的を達成しているとは認められない。 (エ) よって,被告製品は連続被覆表面層を有するとはいえないから,構成要件Aを充足しない。 (5) 被告製品は,凹部において露出するGA層の亜鉛の影響によって,連続被覆表面層が有する上記の各目的を達成していないところ,A層+B1層というメッキ層が生産された時点においては,その上にB2層が形成され被告製品が完成された時点よりも,凹部において露出するGA層の亜鉛の影響が小さいとは認められない(B2層が形成されていない分だけ亜鉛の影響が大きいとも考えられる。)から,被告製品のA層+B1層というメッキ層が生産された時点をとらえてもやはり構成要件Aを充足しないということができる。 3 よって,その余の争点について判断するまでもなく原告の請求は理由がない。 |
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追加 | |
(別紙)被告物件目録下記構成を有するFe-Zn電気メッキ層を上層に有する合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(商品名パームジンクアロイタイプB,以下「PZB」という。)記被告製品の構成1被告製品を平面的に見た場合,別紙図面の平面図に記載のように,平坦な部分@(以下「平坦部」という。)と凹部A(以下「凹部」という。)(ハッチングで図示)とが相互に入り組んで斑な模様をなしている構造を有している。平坦部は,製造工程において,調質圧延によって平坦にされた部分であり,調圧部とも呼ばれる。凹部Aは,製造過程において調質圧延がかからなかった部分であり,未調圧部とも呼ばれる。平坦部@と凹部Aの面積比は,位置によってかなりのばらつきが見られるが,概ね1:1である。1つの凹部Aの大きさにはかなりのばらつきがあり,大きいものでは100μm×100μm程度,小さいものでは,5μm×5μm程度である。 2被告製品の断面構造を見ると,別紙図面の断面図に記載のように,冷延鋼板Bの上に,凹凸のあるA層Cが形成されている。そして,平坦部@においては,A層Cの上にB1層Dが形成され,さらにその上にB2層Eが形成されて,皮膜は三層皮膜構造を有している。一方,凹部においては,A層C一層のみの皮膜構造を有している。 3A層Cは,PZB鋼板の原板である溶融亜鉛メッキ鋼板の製造過程で成膜される部分であり,厚さが約5〜10μmであり,Feが約10重量%,Alが約0.2〜0.3重量%,残部がZnの組成を有する。A層Cは「GA層」とも呼ばれる。A層Cは,冷延鋼板Bを0.1〜0.2重量%相当のAlを含有する溶融したZnの浴槽中に通過させることにより,冷延鋼板Bの表面に微量のAlを含有するZnメッキを行い,その後,加熱処理により冷延鋼板中のFeをメッキ層中に拡散させること(合金化処理)により,微量のAlを固溶したZn-Feの合金層を形成させることによって製造される。 この合金化処理中に,必然的にA層Cは凹凸となり,その後材質を改善するために行う調質圧延により,凸部は圧延されて平坦な調圧部@となり,凹部Aは圧延されずにそのまま残存して未調圧部Aとなる。 A層Cの厚さは約5〜10μmであり,防食の機能を有する。 4B1層Dは,厚さが約0.3〜0.5μmであり,Fe含有率が66〜70(平均67)重量%Fe-Zn合金層である。B1層Dは,電気メッキによって形成される層である。PZB鋼板を製造する過程においては,電気メッキを2段階に分けて行うが,B1層Dは,その第1段階の電気メッキによって製造される層である。 5B2層Eは,厚さが約0.1〜0.2μmであり,Fe含有率が53〜64(平均59)重量%のFe-Zn合金層である。B2層EのFe含有率が60重量%以上の部分の面積は鋼板表面全体の約20%である。B2層Eは第2段階の電気メッキによって形成される層である。 6未調圧部Aにおいては,A層Cの上に皮膜は形成されていない。すなわち,未調圧部Aは,典型的には,添付図面の断面図においてCで示したような構造又はDで示したような構造をしている。Cで示した構造においては,A層Cの一部であるζ相(合金化溶融亜鉛メッキ層(GA層)の一部)Fが剥き出しになっており,その間に粒状のFe-Zn合金Gが挟まっている構造となっている。これに対して,Dで示した構造においては,未調圧部がほとんどζ相Fで占められており,極わずか,小さい粒状のFe-Zn合金Gが点在しているのが認められる。未調圧部Aは,ここに典型例として模式的に示されたC及びDの構造の組み合わせで構成されている。しかしながら,どの部分をとって見ても,A層Cの一部であるζ相Fの表面はFe-Zn合金Gで覆われていない。 7被告製品表面の平均Fe重量%は約50%である。 別紙図面 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 内藤裕之 |
裁判官 | 上田洋幸 |