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事件 平成 12年 (ワ) 23114号 損害賠償請求事件
原告 東成建設株式会社
訴訟代理人弁護士 齋藤宏
同 彌冨悠子
補佐人弁理士 清水敬一
被告 株式会社ライナックス
訴訟代理人弁護士 熊倉禎男
同 吉田和彦
同 渡辺光
補佐人弁理士 倉澤 伊知郎
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/07/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は,原告に対し,金4000万円及びこれに対する平成12年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 争いのない事実等 (1) Xは,次の特許権(以下「本件特許権」といい,特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明1」,同請求項2の発明を「本件発明2」という。また,本件特許に係る明細書(甲1)を,「本件明細書」という。)を有している(甲1,弁論の全趣旨)。
特許番号 特許第1640200号 登録日 平成4年2月18日 出願日 昭和60年5月27日 発明の名称 可撓性床体の修理方法及び切削装置 特許請求の範囲請求項1 「固い基礎床体上に固着された可撓性層を切削し,該可撓性層の表面部を除去する切削過程,上記基礎床体上に残された下部可撓性層の切削面に接着剤を塗布する塗布過程,及び接着剤が塗布された上記切削面に新しい可撓性層を付着する接着過程,からなる可撓性床体の修理方法。」 特許請求の範囲請求項2 「固い基礎材料上に固着された可撓性層を切削する装置で,回転駆動源に連結されかつ回転可能に支持されたシャフトと,該シャフト上に固定された複数の円形板と,各円形板間に配置されたスペーサと,各円形板の外周部に固着されたチップとを有し,該チップは,隣接する円形板のチップに対し,一定角度間隔ずらして配置されたことを特徴とする可撓性床体の切削装置。」 (2)ア 本件発明1は,次のとおり分説される(弁論の全趣旨。なお,以下,下記(ア)の過程を「切削過程」,下記(イ)の過程を「接着剤塗布過程」,下記(ウ)の過程を「接着過程」という)。
(ア) 固い基礎床体上に固着された可撓性層を切削し,該可撓性層の表面部を除去する切削過程, (イ) 上記基礎床体上に残された下部可撓性層の切削面に接着剤を塗布する塗布過程,及び (ウ) 接着剤が塗布された上記切削面に新しい可撓性層を付着する接着過程, (エ) からなる可撓性床体の修理方法。
イ 本件発明2は,次のとおり分説される(弁論の全趣旨) (ア) 固い基礎材料上に固着された可撓性層を切削する装置で, (イ) 回転駆動源に連結されかつ回転可能に支持されたシャフトと,該シャフト上に固定された複数の円形板と,各円形板間に配置されたスペーサと,各円形板の外周部に固着されたチップとを有し, (ウ) 該チップは,隣接する円形板のチップに対し,一定角度間隔ずらして配置された (エ) ことを特徴とする可撓性床体の切削装置。
(3) Xは,原告に対し,平成4年3月16日,本件特許権の独占的通常実施権の許諾をした(甲2)。
(4) 被告は,商品名が「ウレタン表層切削機ライナックスUー650」という切削装置(以下「被告製品」という。)を製造販売している(甲4の1ないし4,弁論の全趣旨)。
2 本件は,本件特許権の独占的通常実施権者である原告が,被告に対し,被告製品は,本件発明1の実施にのみ使用するもので,かつ,本件発明2の技術的範囲に属するから,被告による被告製品の製造販売は,本件特許権の侵害であると主張して,不法行為又は不当利得に基づき,この侵害によって原告が被った損害の賠償又は不当利得の返還を求める事案である。
争点及びこれに関する当事者の主張
1 争点 (1) 被告製品が,本件発明1の実施のみに使用する製品かどうか (2) 本件特許請求の範囲請求項1が明らかに無効かどうか (3) 被告製品が,本件発明2の構成要件(ウ)を充足するかどうか (4) 損害又は損失の発生及び額 2 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)について (原告の主張) 被告製品は,本件発明1の実施にのみ使用するものである。
競技用走路等として使用される全天候型運動施設において,ベース層と上塗り層とを密着し一体化させることは,改修工事の大前提である。したがって,可撓性床体を修理する場合,ベース層と上塗り層を密着し一体化させるために,本件発明1の「接着剤塗布過程」及び「接着過程」が必要である。
東洋スポーツ施設株式会社(以下,「東洋スポーツ施設」という。)が,千葉県船橋市の船橋市運動公園陸上競技場2種公認施設改修工事(その2)において,全天候型弾性舗装材の改修工事を行った際,接着効果のあるポリウレタンを,下地プライマーとして薄く均一に塗布し,その上に,上塗りウレタン樹脂を塗り重ねたが,この下地プライマーは,「接着剤」に当たり,この工事には,本件発明1の「接着剤塗布過程」及び「接着過程」が存する。被告が後記のとおり主張する方法においても,上記の東洋スポーツ施設株式会社による工事と同様に,薄い液体状のポリウレタン樹脂等の接着剤が用られている。
仮に,これらの方法において,このような接着剤が使用されていないとしても,これらの方法は,複数のポリウレタンを塗り重ねて,基層,ベース層,上塗り層を密着させるものであるところ,ウレタン樹脂は,接着性のあるイソシアネート基を含み,接着する性質を持つから,下層のポリウレタンを「接着剤」として「塗布」する「接着剤塗布過程」,その上に,ポリウレタン系樹脂を塗り重ねて形成される「新しい可撓性層」を「接着」する「接着過程」を含むものである。
本件発明1において,「接着剤」は,接着現象を生起するすべての物質を指し,「可撓性層」と「接着剤」が同種のものであってはならない理由はない。
また,可撓性層が,いわゆる「貼り物」,すなわち固体であることは本件発明1の要件ではない。本件明細書の発明の詳細な説明における「ゴム等の可撓性層」の記載は,ポリウレタン系樹脂を塗り重ねて固体化した可撓性層を含む。本件明細書の発明の詳細な説明における「張り替える」との表現は,塗り物が固体化した物を張り替えることを含む。さらに,本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の「固着」との表現は,「塗り物」が固まってつくことも含む。本件明細書に,可撓性層が「貼り物」に限られるとの記載はない。
そもそも,本件発明1は,ポリウレタン系樹脂を塗り重ねて可撓性層を形成する施工法を念頭において発案されたものである。
(被告の主張) 被告製品は,固い基礎床体の上にあるポリウレタン等の弾性層(可撓性層)の表面を研磨又は切削した後,ポリウレタンを塗り重ねて施行する方法に用いられているが,この方法は,大阪市営長居陸上競技場の改修工事,大阪府堺市の金岡公園陸上競技場改修工事などにおいて,遅くとも昭和59年から現在に至るまで採用されている。
以下のとおり,この方法は,本件発明1の「接着剤塗布過程」及び「接着過程」を充足しない。
ア 本件発明1は,特許請求の範囲請求項1の文言上も,発明の詳細な説明の記載上も,明確に,「接着剤」と「可撓性層」,「接着剤を塗布する塗布過程」と「可撓性層を付着する接着過程」を別のものとしているから,同種のものを塗り重ねることがこれらの要件を満たすと解することはできない。しかるに,上記の方法は,同種のポリウレタンを塗り重ねているものである。
イ 「接着剤」とは,2つのものを貼り合わせるものであり,少なくとも,「下部可塑性層」と「新しい可塑性層」を直接接触させた場合よりも接着作用が強くなるものでなければならない。しかしながら,上記の方法では,最下層のウレタン層は,上層のウレタン層と同種であるから,既存のウレタン層に上層のウレタン層を直接接触させた場合と,接着作用は同等である。しかも,最下層のウレタン層が既存のウレタン層に接着するのは,主として物理的なアンカー効果によるから,最下層のウレタン層と既存のウレタン層との接着力は,化学結合が生じる最下層のウレタン層と上層のウレタン層との接着力よりも弱い。したがって,最下層のウレタン層は「接着剤」には当たらない。
ウ 本件発明1にいう「可撓性層」とは,固体であるいわゆる「貼り物」を指している。このことは,本件特許の特許請求の範囲の文言中に「固い基礎床体上に」「可撓性層」が「固着」されたという用語が用いられていること,本件明細書の発明の詳細な説明に,「ゴム等の可撓性層」,「可撓性層を張り替える」,「固着された可撓性層」などの記載があること,本件明細書に,「塗り物」を含むことを開示ないし示唆する記載がないことから明らかである。そして,本件発明1にいう「可撓性層」が「貼り物」であるがゆえに,接着剤を塗布する必要があることになる。
上記ウレタンは,いわゆる「塗り物」であって,塗り重ねるのに接着剤を塗布する必要がないから,本件発明1の「可撓性層」に当たらない。
エ 液体であるポリウレタンを塗布することは,「可撓性層」の「付着」に当たらない。
このように,被告製品は,可撓性床体の修理を,本件発明1によらない方法で行う場合にも用いられるから,本件発明1の実施にのみ使用するものではない。
(2) 争点(2)について (被告の主張) ア 本件発明1は,本件特許出願前に頒布された刊行物(乙6)に記載された技術と同一又はこの技術から容易に発明をすることができたものであるから,本件特許請求の範囲請求項1は,明らかに無効である。
この技術は,可撓性床体の修理方法であって,既設舗装材(タータン)の摩耗等により痛んだ表面部を削り取って下部を残す工程は,本件発明1の「切削過程」に,残った既設舗装材上に,接着剤であるTCプライマーを塗布する工程は,本件発明1の「接着剤塗布過程」に,平坦化のための新舗装材下塗を付着させる工程,又は,さらにその上のTCプライマーの上に新舗装材上塗を付着させる工程は,本件発明1の「接着過程」にそれぞれ相当する。
この技術は,サンダ(紙又は布ヤスリ)で切削するものであるが,本件発明1において,切削刃による切削は要件となっていないから,このような切削も本件発明1の「切削過程」に含まれる。また,本件発明1には,「表層部分の摩耗部分,退色部分,剥離部分を正確な深さで均一にかつ容易に除去する切削装置による改修方法」などという限定はないうえ,上記技術においても,表層部分の摩耗部分,退色部分,剥離部分を正確な深さで均一にかつ容易に除去することができる。 イ 仮に,複数のウレタン層を塗布することが「接着剤の塗布過程」に当たるとすると,本件発明1は,本件特許出願前に頒布された刊行物(乙14の2又は3)に記載された技術から容易に発明をすることができたものであるから,本件特許請求の範囲請求項1は,明らかに無効である。
(原告の主張) 被告の主張する刊行物記載の技術(乙6)は,表層部分の摩耗部分,退色部分,剥離部分を,サンダ(紙又は布ヤスリ)で磨くもので,切削刃によって切削するものではないから,接着剤を塗布し新しい可撓性層を付着させるのに十分な深さまで研磨すること,良好の既設舗装材質を露出させるために均一に研磨することは,容易に行えない。したがって,この技術から,表層部分の摩耗部分,退色部分,剥離部分を正確な深さで均一にかつ容易に除去する切削装置による改修方法である本件発明1が容易に想到できるとはいえない。
(3) 争点(3)について (原告の主張) ア 被告製品は,別紙第1図Aのとおり,車輪の進行軸に対し,シャフトが一定角度傾斜させて取り付けられているから,チップは,隣接する円形板のチップに対し,切削機の進行方向において,一定角度間隔ずらして配置されている。したがって,被告製品は,本件発明2の構成要件(ウ)を充足する。本件特許に係る図面の第7図は,実施例の1つを記載したものにすぎない。
イ 被告製品は,別紙図面第2図のとおり,各円形板32の嵌合孔に支持ロッド50を挿入することで,一連の円形板32が一体に固定されるが,別紙図面第3図のとおり,各円形板32の嵌合孔51は,支持ロッド50よりもかなり大きいので,各円形板32のチップ33は,結果的に,隣接する円形板32のチップ33に対して,一定角度ずれて配置される。
(被告の主張) ア 被告製品が別紙第1図Aの構成を有することは否認する。被告製品は,別紙第1図Bのような構成を有するから,被告製品の各円形板のチップは,いかなる意味においても,隣接する円形板のチップに対し一定角度間隔ずらして配置されていない。
イ 仮に,被告製品が,原告の上記主張のような構成を有しているとしても,「一定角度間隔ずらして配置」するのは,チップ間の衝突による損傷を防止するためであって,「一定角度」とは,本件特許に係る図面第7図のl(小文字のエル)に対応する角度であるところ,別紙第1図Aの角度θは,これに対応するものではなく,チップ間の衝突が生じ得る状態になっているから,被告製品は本件発明2の構成要件(ウ)を充たさない。
ウ 被告製品の支持ロッド50と円形板32の嵌合孔との間に生じる間隙に相当する間隙は,本件発明2にも当然にありうるが,このような間隙によって結果的に発生するずれが,本件発明2でいう「一定角度間隔」のずれであるとの説明は,本件明細書に一切無い。本件発明2の「一定角度間隔」のずれは,チップ間の衝突による損傷を防止し,可撓性材料の表面部を正確な寸法で平坦面に切削し,かつ虎刈りを防止するためのものであり,支持ロッドと円形板の嵌合孔との間の間隙により,不可避的,結果的に発生するようなものではない。
また,このような間隙によって発生するずれは,偶発的,流動的に生じるものであって,「一定」角度ずれるわけではない。
(4) 争点(4)について (原告の主張) 被告が製造販売した被告製品の販売額は8000万円を下らず,その利益率は,販売額の50パーセントを下らない。
したがって,原告の被った損害又は損失は,4000万円を下らない。
(被告の主張) 損害又は損失の発生及び額については争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)について (1)ア 証拠(乙1ないし3)によると,東洋スポーツ施設が,昭和59年1月に竣工した大阪市営長居陸上競技場の改修工事において,全天候型弾性舗装材改修工法を施工したこと,この工事に関する工事設計書において,「舗装工」の欄に接着剤塗布に関する記載が無いこと,この工事の特記仕様書において,この工事の施工方法について,以下のように記載されていること,以上の事実が認められる。
(ア) 既設ウレタン舗装表面をサンディングし,研磨面を損傷しないように水又は中性洗剤等で清浄する。
(イ) 既設ウレタン舗装の研磨面が清浄化されていることを確認し,その上に,ウレタン材の主剤及び硬化剤が規定比において均一混合された全天候型ウレタン樹脂舗装材を塗布する。水張り試験により不陸箇所の点検とその修正を行う。
下塗り表面は水洗い等により清浄状態を維持する。
(ウ) ウレタン材の主剤及び硬化剤が規定比において均一混合された全天候型ウレタン樹脂舗装材(上塗り材)をトッピング剤が有効に埋設されるよう均一に塗布する。
(エ) 上塗り材流し込み塗布後,直ちに所定のトッピング材を散布する。
トッピング材散布はトッピングの沈下により有効に埋設接着されるようにトッピング工を行う。
イ 証拠(乙1,4)によると,東洋スポーツ施設が,平成11年3月に竣工した大阪府堺市の金岡公園陸上競技場改修工事において,全天候型弾性舗装材改修工法を施工したこと,この工事にかかる特記仕様書において,この工事の施工方法について,以下のように記載されていること,以上の事実が認められる。
(ア) 既設全天候舗装表面の粉塵をスイーパー等により除去した後,所定量をサンディングする。
(イ) 研磨面の清掃後不陸チェックを行い,状況によりウレタン材を塗布し,不陸修正を行う。
(ウ) ウレタン舗装材を,所定の厚さになるように,2,3層に分けて舗装する。
(エ) 表面仕上は、スプレーにてエンボス状に仕上げる。
ウ 証拠(乙5)によると,日本運動施設建設業協会発行の「全天候舗装施工指針(案)」には,表層にポリウレタン系の材料を用いる舗装施工において,基層の上に,接着剤であるプライマーを用いずに,ウレタン材を塗布してベース層を施工し,さらに,その上に,接着剤であるプライマーを用いずに,ウレタン材を塗布して上塗り層を施工する舗装施工方法があることが記載されていることが認められる。 エ 以上の事実によると,可撓性床体の修理方法において,既設舗装面の表面を切削した後,接着剤(プライマー)を塗布することなく,ウレタン材を塗り重ねる施工方法があることが認められ,証拠(乙1)によると,この切削に被告製品を用いることができるものと認められる。
(2) 原告は,東洋スポーツ施設が,千葉県船橋市の船橋市運動公園陸上競技場2種公認施設改修工事(その2)の全天候型弾性舗装材の改修工事において,接着効果のあるポリウレタンを,下地プライマーとして薄く均一に塗布し,その上に,上塗りウレタン樹脂を塗り重ねたと主張する。
証拠(甲10,12,乙1)によると,東洋スポーツ施設が,千葉県船橋市の船橋市運動公園陸上競技場2種公認施設改修工事(その2)における全天候型弾性舗装材の改修工事を施工したこと,船橋市が作成したこの工事の単価表において,ウレタンオーバーレイ工の欄に,接着剤である「下地プライマー」の記載があること,この工事の特記仕様書には,「タックコート工」の表題の下に「研磨後の表面強化とウレタン中間層との密着及び一体化のため,プライマーを均一に散布する。」との記載があること,以上の事実が認められる。
しかしながら,証拠(乙16)によると,東洋スポーツ施設が作成した単価表においては,ウレタンオーバーレイ工の欄に「下地プライマー」の記載はないことが認められ,また,証拠(甲12,乙16)によると,この工事を撮影した写真には,トップコートをローラーエンボス層に塗布する際にプライマーを散布している写真があることが認められるが,既設舗装面と新しいウレタン材との間にプライマーが用いられたことを示す写真があるとは認められない。
以上によると,この工事において,既設舗装面と新しいウレタン材との間にプライマーが用いられたとまでは認められないが,仮に,この工事において,既設舗装面と新しいウレタン材との間にプライマーが用いられたとしても,そのことから直ちに,上記(1)の方法においてプライマーが用いられたことになるものではない。
また,証拠(甲15,乙1,16)によると,東洋スポーツ施設が,横浜市の三ツ沢公園陸上競技場トラック外改修工事について,全天候型弾性舗装材改修工法を施工したこと,横浜市が作成したこの工事の設計図において,「タックコート工」として,「ベース層と上塗り層を密着,一体化させる為に専用プライマーを均一に塗布する。」との記載があることが認められるが,仮に,この工事において,ベース層と上塗り層との間にプライマーが用いられたとしても,そのことから直ちに,上記(1)の方法においてプライマーが用いられたことになるものではない。
(3) 原告は,ウレタン樹脂は接着効果を有しているから,上記(1)の方法における下塗りのウレタン材が「接着剤」に当たり,下塗りウレタン材によって,上塗りウレタン材と既設ウレタン舗装が接着していると主張する。
しかしながら,本件特許請求の範囲請求項1において,「接着剤を塗布する」過程と「新しい可撓性層を付着する」過程は,文言上明確に区別されていること,本件明細書(甲1)には,実施例としては,切削面にエポキシ樹脂等の接着剤を塗布して接着剤層を形成した後に,新しい可塑性層を固着する実施例のみが記載されていること,発明の効果として「安価な接着剤の使用により修理コストを最小限度に低下することができる」との記載があることからすると,本件発明1においては,「新しい可撓性層を付着する」過程の前に,それとは別個の「接着剤を塗布する」過程がなければならず,上記(1)の各方法のように既設ウレタン舗装の上に同一の物質を塗り重ねた場合には,そのような2つの過程が存するとはいえないから,本件発明1の構成要件を充足するということはできず,原告の上記主張は採用できない。
(4) したがって,被告製品は,本件発明1の実施のみに使用される製品であるとは認められない。
2 争点(3)について (1) 原告は,被告製品は,別紙第1図Aのとおり,シャフトが車輪軸の進行軸に対し一定角度傾斜しているから,各円形板のチップは,隣接する円形板のチップに対し,切削機の進行方向において,一定角度間隔ずらして配置されていると主張する。
被告製品が原告の上記主張のような構成を有している旨の説明書(甲9)が存するが,被告製品は別紙第1図Bのとおりの構成を有している旨の陳述書(乙8)が存することに照らすと,いまだ被告製品が原告の上記主張のような構成を有することを認めることはできないが,仮に,被告製品が原告の上記主張のような構造を有しているとしても,以下のとおり,被告製品は,本件発明2の構成要件(ウ)を充足しない。
証拠(甲1)によると,本件明細書には,実施例として,各チップの側面が,テーパ状に形成され,チップの幅が,円形板の幅よりも大きく,外周部で交互にオーバーラップした状態で配置される装置が記載されており,その装置について,可塑性材料の表面部を正確な寸法で平坦面に切削できる旨及びチップ間の衝突による損傷を防止するために,チップを一定角度間隔ずらして配置する旨が記載されていること,図面第7図において,円形板の円周方向においてチップを一定角度間隔l(小文字のエル)ずらした図面が開示されていること,発明の効果として,「この発明の前記切削装置を使用することにより,正確かつ平坦な切削面を形成することができる。これは,隣接する円形板のチップが交互にオーバーラップした状態で配置される新しい構成によって達成することができる」との記載があること,以上の事実が認められる。
以上の事実によると,本件発明2の「一定角度間隔ずらして配置された」とは,オーバーラップした状態における隣接するチップ間の衝突を避けるために,円周方向において,上記チップ間の衝突を避ける程度の一定の角度間隔ずらすことを意味するものと認められる。
これに対して,証拠(甲5,9,乙8)と弁論の全趣旨によると,被告製品においては,チップは,外周部で交互にオーバーラップした状態で配置されていないものと認められるから,隣接するチップの衝突を避けるために,円周方向において,チップ間の衝突を避ける程度の一定の角度間隔でずらす必要はない。被告製品が,仮に別紙図面第1図Aの構成を有しているとしても,チップが,隣接する円形版のチップに対し,円周方向にずらして配置されていないから,上記構成要件を充足しない。
なお,被告製品は,別紙図面第1図Bの構成を有しているとしても,チップがオーバーラップした状態で配置された場合に,チップ間の衝突を避ける程度の一定の角度間隔,円周方向にずらして配置されているとは認められないから,上記構成要件を充足しない。
(2) 原告は,被告製品は,その円形板の嵌合孔が,支持ロッドよりも大きいことから,チップが,結果的に,隣接する円形板のチップに対し,一定角度間隔ずらして配置されるとも主張する。
しかしながら,仮に被告製品においてこのようなずれがあるとしても,上記認定のとおり,「一定角度間隔」とは,チップがオーバーラップした状態で配置された場合に,チップ間の衝突を避ける程度の「角度間隔」を意味するところ,被告製品において,チップが,オーバーラップした状態で配置された場合に,上記のずれによって,チップ間の衝突を避ける程度の「角度間隔」ずれて配置されることを認めるに足りる証拠はなく,また,そのずれは偶発的なものであるから,「一定」のものとも認められない。
したがって,原告の上記主張は,これを採用することができない。
3 以上によると,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 岡口基一
裁判官 男澤聡子