関連審決 | 不服2004-473 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17行ケ10137審決取消(特許)請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ネ2790損害賠償等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成20ネ10019特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10109審決取消(特許)請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ネ648損害賠償請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 技術的思想 / 製造方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明特定事項 / 周知技術 / 同一の発明 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 着想 / 数値限定 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10102号
審決取消(特許)請求事件
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原告 凸版印刷株式会社 訴訟代理人弁理士 高橋詔男 同 青山正和 同 坂野史子 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 上野信 同 末政清滋 同 立川 功 同 宮下正之 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/08/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2004-473号事件について平成16年8月3日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,後記特許出願の出願人である原告が,特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたため,原告が同審決の取消しを求めた事案である。 |
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当事者の主張
1 請求原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「光散乱膜,反射型液晶表示装置用電極基板,及び反射型液晶表示装置」とする発明につき,平成12年9月4日に特許出願(以下「本件出願」という。甲2)をしたところ, 特許庁から拒絶理由通知を受けたため,平成15年10月14日付けで手続補正(以下「第1次補正」という。)をしたが,特許庁は,本件出願に対し,平成15年12月3日付けで拒絶査定をした。 そこで原告は,平成16年1月7日付けで拒絶査定不服審判を請求し,同請求は不服2004-473号事件として特許庁に係属した。同審判事件係属中の平成16年2月6日に,原告は再び手続補正(以下「第2次補正」という。)を行った。 特許庁は,同審判事件について審理し,平成16年8月3日付けで,第2次補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」又は「審決」という。)をし,その謄本は,同年8月17日原告に送達された。 (2) 発明の内容 ア 平成12年9月4日付けでなされた本件出願(甲2)及び平成15年10月14日付けでなされた前記第1次補正(甲3)の請求項はいずれも1ないし26から成り,その後平成16年2月6日付けでなされた前記第2次補正(甲4。以下,第2次補正後の明細書を添付の図面を含めて「本願補正明細書」という。)では,それまでの請求項13が削除されて以下順次繰り上がったため請求項1ないし25から成るが,本件審決において問題とされたのは第1次補正後の請求項26と第2次補正後の請求項25であり,これらは内容が完全に同一であり,かつその内容は下記のとおりである(以下,請求項25に係る発明を「本願補正発明」という。)。 記 「【請求項25】 一方の主面に金属反射層が設けられた背面側電極基板と,前記背面側電極基板と対向して配置され且つ前記背面側電極基板と対向する面に透明電極層が設けられた観察者側電極基板と,前記背面側電極基板と前記観察者側電極基板との間に挟持された液晶層とを具備する反射型液晶表示装置であって, 前記背面側電極基板及び前記観察者側電極基板の少なくとも一方は,第1の屈折率を有する透明樹脂と前記透明樹脂中に分散され第2の屈折率を有する複数の透明粒子とを備えた光散乱膜を具備し, 前記第1及び第2の屈折率の一方に対する他方の比は1より大きく且つ1.08以下であり,前記複数の透明粒子の実質的に全ては表面が滑らかであり,前記滑らかな表面は凸面及び凸面と平面との組み合わせのいずれか一方からなり,かつ,前記光散乱膜の膜厚は4μm未満であり,前記光散乱膜の一方の主面側に反射板を配置し且つ前記光散乱膜の他方の主面側から前記光散乱膜に光を照射した場合に,前記光の前記光散乱膜への入射角αが0°〜75°の範囲内のいずれの角度であっても,正反射光の進行方向に対して-30°〜+30°の範囲内の角度をなして進行する反射光の光量と前記正反射光の光量との差が全反射光の光量と前記正反射光の光量との差の85%以上であることを特徴とする反射型液晶表示装置。」 イ なお,説明の便宜のため本願補正発明を分節すると,以下のとおりである。この場合,A〜Gをそれぞれ「構成要件A」等といい,また,構成要件Fを「反射光強度プロファイル」ということがある。 A 一方の主面に金属反射層が設けられた背面側電極基板と,前記背面側電極基板と対向して配置され且つ前記背面側電極基板と対向する面に透明電極層が設けられた観察者側電極基板と,前記背面側電極基板と前記観察者側電極基板との間に挟持された液晶層とを具備する反射型液晶表示装置であって, B 前記背面側電極基板及び前記観察者側電極基板の少なくとも一方は,第1の屈折率を有する透明樹脂と前記透明樹脂中に分散され第2の屈折率を有する複数の透明粒子とを備えた光散乱膜を具備し, C 前記第1及び第2の屈折率の一方に対する他方の比は1より大きく且つ1.08以下であり, D 前記複数の透明粒子の実質的に全ては表面が滑らかであり,前記滑らかな表面は凸面及び凸面と平面との組み合わせのいずれか一方からなり,かつ, E 前記光散乱膜の膜厚は4μm未満であり, F 前記光散乱膜の一方の主面側に反射板を配置し且つ前記光散乱膜の他方の主面側から前記光散乱膜に光を照射した場合に,前記光の前記光散乱膜への入射角αが0°〜75°の範囲内のいずれの角度であっても,正反射光の進行方向に対して-30°〜+30°の範囲内の角度をなして進行する反射光の光量と前記正反射光の光量との差が全反射光の光量と前記正反射光の光量との差の85%以上であることを特徴とする G 反射型液晶表示装置。 (3) 審決の内容 ア 審決の内容は,別添審決謄本のとおりである。その要旨とするところは,本願補正発明は,その出願前に頒布された特開平11-237502号(甲5。以下「引用刊行物1」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により,独立して特許を受けることができず,したがって,第2次補正は許されず,同補正前の第1次補正に係る請求項26も,本願補正発明と同一の発明であるから,特許法29条2項により特許を受けることができない,としたものである。 イ なお,審決が前記判断をするに当たり,本願補正発明と引用刊行物1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)との一致点及び相違点について,次のとおり認定している。 (一致点) 「 反射型液晶表示装置であって, 第1の屈折率を有する透明樹脂と前記透明樹脂中に分散され第2の屈折率を有する複数の透明粒子とを備えた光散乱膜を具備し, 前記第1及び第2の屈折率の一方に対する他方の比は1.08以下であることを特徴とする反射型液晶表示装置。」である点。 (相違点1) 引用発明1では,「反射板」と「液晶セル」の間に「光拡散板」を配置した構成であるのに対し,本願補正発明では,「背面側電極基板」と「観察者側電極基板」の間に「液晶層」を挟持した構成である点。 (相違点2) 引用発明1では,「屈折率n2」(本願補正発明の「第1の屈折率」に相当)に対する「屈折率n1」(本願補正発明の「第2の屈折率」に相当)が0.92 (相違点5) 本願補正発明では,光散乱膜について「光散乱膜の一方の主面側に反射板を配置し且つ前記光散乱膜の他方の主面側から前記光散乱膜に光を照射した場合に,前記光の前記光散乱膜への入射角αが0°〜75°の範囲内のいずれの角度であっても,正反射光の進行方向に対して-30°〜+30°の範囲内の角度をなして進行する反射光の光量と前記正反射光の光量との差が全反射光の光量と前記正反射光の光量との差の85%以上であること」としているが,引用発明1の「光散乱板」(本願補正発明の「光散乱膜」に相当)にはそのような限定がない点。 (4) 審決の取消事由 しかしながら,本件補正発明は,出願の際独立して特許を受けることができるものであり,これができないとして第2次補正を却下した本件審決は,以下で述べる次第により,違法として取消しを免れない。 ア 取消事由1(相違点4に関する認定判断の誤り) 光散乱膜の厚さ(構成要件E)に関する相違点4について,審決は,「引用発明1における光散乱板の厚さが「1〜100μm」であることから,本願補正発明の「4μm未満」である範囲の値を含むので,この表現の違いをもって本願補正発明が引用発明1と相違するとはいえない。」(6頁下第3段落)と判断したが,以下のとおり誤りである。 (ア) 引用刊行物1(甲5)には,「光散乱型粘着層」の厚さについて,「200μm以下,就中1〜100μm,特に5〜50μmとされる。」(段落【0017】)と記載されていることからすれば,引用発明1は,数値的には4μm未満を含むが,本願補正発明の光散乱膜の厚さである4μm以下は好ましい範囲から除外されている。 すなわち,引用刊行物1の上記記載によれば,散乱型粘着層の厚さの下限が,好ましいとされるものほど切り上がってきていることから,該粘着層には一定の厚みが必要であることを示唆している。さらに,実施例には当該粘着層の厚さが25μmであるものが示されている。これら記載を総合的に勘案してみると,引用発明1における散乱型粘着層の厚みは,実用的には,5μm未満は好ましくなく排除されていると解すべきである。 (イ) これに対し,本願補正明細書(甲2〜4)の段落【0080】では光散乱膜の膜厚は最も厚くて4μmと記載されていることや,同明細書に記載された本願補正発明の実施例としては光散乱膜の膜厚が2.0μm〜3.44μmのものしか示されていないことからして,本願補正発明に係る反射型液晶表示装置においては,光散乱膜の膜厚を4μm未満とすることは臨界的意義を有するものである。引用刊行物1には,光散乱型粘着層の厚さを4μm未満にすることの臨界的意義が記載されていないことはもちろん,4μm未満という数値に着目した記載は一切ない。 引用刊行物1記載の「光散乱型粘着層」の厚さが1〜100μmとされているのは,反射型液晶表示装置と透過型液晶表示装置の両方に適用するための必要な厚さであるのに対して,本願補正発明は,反射型液晶表示装置のみに着目して,高コントラストの表示や適度な視野角および明るい表示を可能とし,さらに高い解像性を実現するために,光散乱膜の厚さを4μm未満としたものである。したがって,本願補正発明のように光散乱膜の厚さを4μm未満とすることは,反射型液晶表示装置と透過型液晶表示装置の両方を想定した引用刊行物1の光散乱板の厚さの記載からは,当業者といえども容易に設定できるものではない。 イ 取消事由2(相違点5に関する認定判断の誤り) (ア) 審決は,相違点5について,「相違点5に関連する記載は本願補正明細書の段落【0100】以降にあり,そこで記載されているものは,本願補正発明の光散乱板の機能を表す反射光強度プロファイルにあたり,光散乱板として当業者が当然期待する機能を数値により表現しているもので格別の点はない」(6頁下第2段落)と判断したが,誤りである。 本願補正発明の相違点5に係る構成(構成要件Fの反射光強度プロファイル)は,反射型液晶表示装置には,広い視野角は要求されず,むしろ,特定範囲の角度における明るい表示が求められるという特性があることから,かかる特性に係る制御条件を数値をもって限定したものである(本件補正明細書の段落【0101】参照)。したがって,当該構成は,光散乱板として当業者が当然期待する機能を数値により表現しているものではない。 (イ) また,審決は,相違点5について,「相違点5である本願補正発明の構成は,本願補正発明における屈折率比の値,光散乱膜に対する透明粒子の割合,および透明粒子の粒径を変化させることで実現できると明示されているし,段落【0116】以降に実施例が示されていることから,発明を記述するに際し,効果としての反射光強度プロファイル値ではなく,他の構成による表現が可能であるにも拘わらずなされていない。………。相違点5として抽出した反射光強度プロファイル自体は,当業者にとっては格別の点はないし,本願補正発明における反射強度プロファイル以外の他の構成により実現されているものであるため,発明の構成とは認められず,単なる発明の効果の提示であり,結果として引用発明1との相違点とならない」(7頁第1段落〜下第2段落)と判断したが,誤りである。 特許請求の範囲の記載については,特許法36条5項及び同条6項が定めるように,発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載し,その記載が明確で簡潔であればよいはずである。審決の説示のように,必ずしも屈折率比の値,光散乱膜に対する透明粒子の割合,及び透明粒子の粒径を数値をもって限定しなければ特許を受けることができないものではなく,むしろ本願補正発明のように反射光強度プロファイルで記載する方が,より実用面から発明を特定するために必要な事項をすべて記載しており,明確であり,簡潔なのである。 本願補正発明の反射光強度プロファイル(構成要件F)は,他の構成(構成要件C〜E)を規定しただけでは得られない本願補正発明特有の効果(後方散乱の低減,適度の視野角,明るい表示,優れた解像性,高いコントラスト)を実現するために必要な構成要件である。よって,本願補正発明の他の構成によって必然的にもたらされる作用効果をそのまま記載したものではなく,反射型液晶表示装置において技術的に意義のある構成要件の一つなのである。なお,反射光強度プロファイルの具体的な制御方法の例は,本件補正明細書の段落【0110】〜【0112】に記載されている。 (ウ) 被告は,新たに乙1〜乙5を提出し,本願補正発明の構成要件Fの反射強度プロファイルは当業者にとって自明のものであると主張するが,失当である。 本願補正発明は,0°〜75°の広い範囲の入射角のいずれの角度に対しても,正反射光の進行方向に対して±30°以内の反射光量を特定の値(85%以上)となるよう規定した点に特徴がある。このような光散乱膜は,本願発明者が初めて着想し開発したものであって,このような優れた特性を有する光散乱膜が得られたことは甲10に示す実験によって明らかである。 これに対し,乙1〜乙5に記載された技術事項は下記の点にとどまり,本願補正発明の上記特徴は,乙各号証のいずれにも記載されていないし,示唆もされていない。 a 乙1に示された反射板の全光拡散反射率及び光拡散反射率の角度依存性は,「入射光」に対する「拡散反射光」の割合であって,単に「入射光」のうち,どの位の割合の光を「拡散反射光」として利用し得るか,ということを示す「拡散反射光の反射率」を表すものや,「一方向からの入射光」について,単に「2つの角度における反射光の強度比」を示すものにすぎない。 b 乙2(第4図,3頁左上欄2行〜右上欄1行),乙3(第3図,4頁右上欄1〜12行),乙4には,「特定の一方向からの入射光」がどの様に反射するかについて記載されているにすぎない。 (エ) 被告は,引用発明1においても,散乱パラメータα及び粒子投影面積比γを限定することにより反射光強度プロファイルを好ましい形にするというという課題の実現を図っていると主張するが,以下のとおり失当である。 a 散乱パラメータαについて 本願補正発明の反射光強度プロファイルを得るためには,具体例(本願補正明細書の段落【0110】【0111】))で示したように,粒径は,0.7μm以上,3.5μm未満の範囲で,この範囲は可視光額域の波長である0.4μm〜0.7μmの範囲と同程度あるいはそれ以上の大きさである必要がある。 これに対して,引用発明1の散乱パラメータαの値(1〜20)から粒子の粒径を算出すると,0.22μm〜2.55μmの範囲となり,前記可視光領域の波長である,0.4μm〜0.7μmの範囲以下の粒径を含む範囲となる。 このように,引用発明1の規定する散乱パラメータαから算出される透明粒子の粒径の範囲は,本願補正発明と異なる。 b 粒子投影面積γについて 本願補正発明においては,膜厚を4μm未満とすることにより,膜の厚さ方向において,透明粒子が重ならない様に配置することができるようにしている。そのため,個々の粒子の界面で発生する散乱光が相互に影響せず,特定範囲に散乱光が出射するようにすることができる。 これに対して,引用発明1においては,粒子投影面積比γはできるだけ粒子同士が離れる様に規定されている。これによって,厚さ方向に複数の粒子を重ならないように分布させることができる。したがって,引用発明1においては,膜厚を大きくすることにより,厚さ方向に分布する透明粒子をできるだけ離れるように配置することが望ましい。 このように,透明粒子の配置に係る観点が異なるため,本願補正発明の具体例と引用発明1の具体例においては,透明粒子の重量割合が大きく異なる。つまり,本願補正発明と,引用発明1とは,その散乱特性の制御について,全く異なるアプローチをとっているということができる。 c したがって,引用発明1においては反射光強度プロファイル自体は明示されていないが,屈折率比,散乱パラメータ,粒子投影面積比を限定することにより反射光強度プロファイルを好ましい形にするという課題の実現を図っている,とした被告の主張は失当である。 2 請求原因に対する認否 請求原因(1)〜(3)の各事実は認める。同(4)は争う。 3 被告の反論 審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 (1) 取消事由1について 引用刊行物1では,光散乱型粘着層の厚さについて,「一般には,………200μm以下,就中1〜100μm,特に5〜50μmとされる。」と記載されているにとどまり,これは,5μm未満のものを特に排除する記載ではない。 また,本願補正発明において光散乱膜の厚さを4μm未満と限定したことには臨界的意義があると原告は主張するが,本件補正明細書には,厚さが4μm以上のものと4μm未満のものとの間での特性の相違等は示されておらず,「通常,最も厚くて4μmであり」(段落【0080】)との記載があるだけであるから,4μmの数値に臨界的意義があるという原告の主張は,根拠がない。 (2) 取消事由2について ア 反射型液晶表示装置では,明るく表示品位の優れた良視認性の表示を得るため,正反射角を中心とした所定の範囲に反射光が散乱するようにすることは,反射・散乱(あるいは拡散)の手段としてどのようなものを採用するかを問わず,一般的に要求される特性であり,当業者には自明のものである。 そして,本願補正発明における反射光強度プロファイルの数値は,これまでは数値によって表現されていなかったとしても,当業者にとっては,要求される好ましい特性として知られているものを普通に予想し得る数値によって規定したものにすぎない。 イ 本願補正発明における反射光強度プロファイルの数値は,これまでには数値によって表現されていなかったとしても,当業者にとっては,乙1〜乙5で示されるように好ましい特性として知られているものを,普通に予想し得る数値によって規定したものにすぎない。 ウ 引用発明1においても,散乱パラメータα及び粒子投影面積比γを制御することによって,本願補正発明の反射光強度プロファイルと同様の光散乱型粘着層の特性を実現することを図っており,引用発明1のα及びγの数値範囲では本願補正発明の反射光強度プロファイルを実現できないとの根拠も特に見いだせないので,原告の主張は意味がない。 |
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当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)(審決の内容) の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 そこで,以下においては,原告主張の取消事由について順次判断する。 2 取消事由1について (1) 引用発明1の「散乱型粘着層」は,本願補正発明の「光散乱膜」に相当することは明らかであり,引用刊行物1(甲5)の「散乱型粘着層の厚さは,………。一般には,………200μm以下,就中1〜100μm,特に5〜50μmとされる。」(段落【0017】)の記載から,審決が引用発明1を「粘着層の厚さは1〜100μmとしたことを特徴とする反射型液晶表示装置」(3頁22〜23行)であると認定したことは正当であり,本願発明の光散乱膜の厚さである「4μm未満」は数値的にこの範囲内に含まれている。 また,本願補正明細書(甲2〜4)の発明の詳細な説明の記載では,光散乱膜の厚さについて,「なお,電極基板の液晶層と対向する面に光散乱膜14を配設する場合,光散乱膜14の膜厚は,観察者側電極基板と背面側電極基板とのシール強度や膜面の硬度のように反射型液晶表示装置の品質及び信頼性に影響を与える傾向にあるので,通常,最も厚くて4μmであり,望ましくは2μm以下である。」(段落【0080】)という記載が認められるにとどまり,光散乱膜の厚さを4μm未満と限定することの具体的理由や,その臨界的意義を明らかにした記載はない。 そうすると,審決が,相違点4について,「引用発明1における光散乱板の厚さが『1〜100μm』であることから,本願補正発明の『4μm未満』である範囲の値を含むので,この表現の違いをもって本願補正発明が引用発明1と相違するとはいえない。」(6頁31〜33行)とした判断に誤りはない。 (2) 審決の上記判断が誤りであるとして原告が主張する点は,以下のとおり,いずれも採用できない。 ア 原告は,本願補正明細書(甲2〜4)の段落【0080】の記載や,同明細書に記載された本願補正発明の実施例1〜6において光散乱膜の膜厚が2.0μm〜3.44μmのものしか示されていないことからして,本願補正発明に係る反射型液晶表示装置において,光散乱膜の厚さを4μm未満とすることは臨界的意義を有するのに対して,引用刊行物1には光散乱型粘着層の厚さを「4μm未満」にすることの技術的意義を示唆する記載はなく,むしろ引用発明1においては,散乱型粘着層の厚さとしては,以下の@及びAの理由で,5μm未満は好ましくないものとして排除されていると解すべきであると主張する。 @ 引用刊行物1には,「光散乱型粘着層」の厚さについて,「200μm以下,就中1〜100μm,特に5〜50μmとされる。」(段落【0017】)と記載されていることからすれば,本願補正発明の光散乱膜の厚さである4μm以下は,引用発明1の好ましい範囲である「5〜50μm」から除外されている。 A 引用刊行物1の上記記載では,散乱型粘着層の厚さの下限が好ましいとされるものほど切り上がってきていることからすれば,該粘着層の厚さは,一定の厚さが必要であることが示唆され,さらに,実施例には当該粘着層の厚さについて25μmが示されている。 しかし,本願補正発明の実施例1〜6の光散乱膜の膜厚が2.0μm〜3.44μmであるとしても,それらは,2.0μm〜3.44μmの膜厚のものにおいて本願補正発明の作用効果を確認できたというにすぎず,膜厚が4μm以上になると本願補正発明の作用効果を奏することができなくなることが確認されたわけではないから,散乱膜の膜圧を4μm未満と限定することの臨界的意義が本件補正明細書には記載されていない。したがって,原告の主張は,本件補正明細書の記載に基づかないものであって,失当である。 また,原告が引用する引用刊行物1(甲5)の記載は,散乱型粘着層の厚さについて,「前記粒子投影面積比γを達成する点などより200μm以下,就中1〜100μm,特に5〜50μmとされる。」(段落【0017】)としているにとどまり,下限値を5μmとすることの技術的意義が具体的に明らかにされていない。さらに,引用刊行物1における特許請求の範囲の記載をみると,【請求項3】で「請求項1又は2において,層厚が5〜50μmである散乱型粘着層」について特許請求がされており,【請求項1】及び【請求項2】には粘着層の厚さについての限定がなく,厚さが5μm未満のものも含めて特許請求がなされているのである。そうすると,引用発明1において,散乱型粘着層の厚みが5μm未満のものは好ましくないものとして積極的に排除されていると解することはできない。 よって,原告の主張は採用することができない。 イ 原告は,刊行物1記載の「光散乱型粘着層」の厚さ1〜100μmは,反射型液晶表示装置と透過型液晶表示装置の両方に適用するために必要な厚さであるから,本願補正発明のように,反射型液晶表示装置のみに着目して,高コントラストの表示や適度な視野角及び明るい表示を可能とし,さらに高い解像性を実現するために光散乱膜の厚さを4μm未満とすることは,引用刊行物1の反射型液晶表示装置と透過型液晶表示装置の両方に適用するための光散乱板の厚さの記載からは,当業者といえども容易に設定できるものではないとも主張する。 しかし,引用刊行物1記載の「光散乱型粘着層」の厚さ1〜100μmが,反射型液晶表示装置と透過型液晶表示装置の両方に適用するための必要な厚さであると解されるとしても,引用発明1を,反射型液晶表示装置のみに適用することとした場合に,当該数値範囲のうちで厚さの小さい方を採用し,さらに4μm以下にこれを限定することを阻害する記載は,引用刊行物1には見当たらない。 よって,原告の上記主張も採用することができない。 3 取消事由2について (1) 原告は,審決が相違点5について,「相違点5に関連する記載は本願補正明細書の段落【0100】以降にあり,そこで記載されているものは,本願補正発明の光散乱板の機能を表す反射光強度プロファイルにあたり,光散乱板として当業者が当然期待する機能を数値により表現しているもので格別の点はない」(6頁下第2段落)と判断したことは誤りであると主張するので,検討する。 ア 審決が上記判断において言及する本願補正明細書(甲2〜4)の段落【0100】以降には,下記のとおりの記載がある。 記 「反射型液晶表示装置10の用途として,多人数により同時に視覚される据え置き型のテレビとは異なり携帯機器のように個人に利用される場合を想定すると,反射型液晶表示装置10に広い視野角は要求されない。この場合,広視野角よりはむしろ,明るい表示が求められる。すなわち,例えば,図10に示すように反射型液晶表示装置10の一主面に垂直な方向を基準として-30°の入射角で外光31が反射型液晶表示装置10に入射し且つ+15°の方向から散乱光である表示光36を視覚する場合,表示光36は+15°及びその近傍の方向に選択的に出射することが望まれる。」(段落【0101】) 「図11は,図9に示す反射型液晶表示装置10の図10に示す条件下で観測される光散乱特性を示すグラフである。図11において,横軸は反射型液晶表示装置10の一主面に垂直な方向を基準とした角度を示し,縦軸は反射光強度を示している。」(段落【0103】) 本願補正明細書の上記記載及び図9〜11を参照すると,反射型液晶表示装置においては,「広視野角よりもむしろ明るい表示が求められ」ており,それを具体的に入射光に対する反射強度の分布グラフとして表すと,図11のように,入射光に対する正反射の角度(例えば入射角が-30°のときの正反射角は+30°となる。)に極端なピークを有し,そこから左右対称に反射強度を減ずるような逆漏斗型の形状を示すことが好ましい,ということが示されている。 イ ここで,反射型液晶表示装置における入射光の反射特性について,本件出願前に頒布されていた技術文献によって当業者(発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識を検討すると,次のとおりである。 (ア) 「半導体基板を用いた反射型液晶表示装置」の発明が開示されている特開昭56-153322号公報(乙2)には下記の記載がある。 記 「第4図の(a),(b),(c)は,それぞれ鏡面に近いアルミ面,セラミック白色散乱面,析出を利用して形成したアルミ白色面における光散乱特性を示した図である。4-(a)-1は,鏡面に近いアルミ面での反射光の正反射成分の強度を表わしている。正反射方向以外の方向からこの拡散面を見ると反射光強度は小さい為暗くなる。4-(b)-1は,セラミック拡散反射面における正反射方向の光強度を示している。4-(b)-2は,正反射方向以外の方向の反射光強度で,セラミック基板においては,正反射光強度と拡散反射光強度は,略ぼ同程度の大きさとなっており,この様な特性を示すセラミック散乱板は,標準白色に近い色を示す。第4の(c)は,表面を析出を利用する方法で凹凸形状にした基板の光拡散特性を示している。正反射成分4-(c)-1は,それ以外の方向の反射光強度4-(c)-2と比較するとやや大きく,鏡面とセラミック光拡散面との中間的な特性を示している。この様なアルミ表面を液晶表示パネルの裏側電極として用いると表示として非常に明るいパネルが出来る。」(3頁左上欄2行〜右上欄1行) 乙2文献の上記記載は,反射型液晶表示装置の反射・拡散特性としては,正反射を中心に一定の角度の広がりを有する特性を有するものが,明るいパネルが得られる点で好ましいことを明らかにしたものということができる。 (イ) 「電気光学装置およびその製造方法」の発明が開示されている特開平4-212931号公報(乙3)には,下記の記載がある。 記 「〔従来の技術〕 従来の液晶表示装置,例えば………に示される反射型の液晶表示装置においては,………によって,明るい表示が得られるようにすることが提案されている。 しかし,上記従来のものは………,………等の不具合がある。」(2頁右下欄6行〜16行) 「上記のように基板の液晶層側の面に凹凸を設け,その表面に反射層として薄い金属膜を設けることにより,基板側の凹凸が金属膜表面に波及し,その凹凸面が光散乱面となって観察面側(図で上側)から入射した光を良好に散乱反射させることができるものである。なおその場合,第3図(b)に示すように観察者側に反射光が多くなるように制御するのが望ましく,例えば凹凸のピッチを均一に形成すると,反射光に指向性を生じ,全方向に対して均一に効果が生じないため,凹凸のピッチは第2図のように不均一にランダムに形成するのが望ましい。」(4頁右上欄1行〜12行) 上記各記載によれば,乙3文献も反射型液晶表示装置の改良を目的とした発明を開示するものであって,入射光の正反射光の方向を中心とした特定角度範囲内に光量を集めることで明るい表示を得ることを技術課題としてなされた発明が開示されている。 ウ そして,乙2文献及び乙3文献の頒布時期がそれぞれ本件出願(平成12年)の約19年前,約8年前であることからすれば,上記イの記載に表れた技術事項は,本件出願当時,当業者にとって周知のものであったと認められる。 そうすると,本願補正明細書に記載された上記アの内容,すなわち,明るく表示品位の優れた良視認性の表示を得るため,入射光の正反射光の方向を中心とした特定の角度範囲内に散乱光を集めるようにすることは,反射型液晶表示装置の技術分野において,本件出願当時周知の技術的課題及びその解決手段を示したものにすぎないと認められる。 エ 本願発明の「反射光強度プロファイル」は,構成要件Fのとおり,「前記光散乱膜の一方の主面側に反射板を配置し且つ前記光散乱膜の他方の主面側から前記光散乱膜に光を照射した場合に,前記光の前記光散乱膜への入射角αが0°〜75°の範囲内のいずれの角度であっても,正反射光の進行方向に対して-30°〜+30°の範囲内の角度をなして進行する反射光の光量と前記正反射光の光量との差が全反射光の光量と前記正反射光の光量との差の85%以上である」として定義されるものである。 この「反射光強度プロファイル」は,以下に述べるとおり,入射光の正反射光の方向を中心とした特定角度範囲内に散乱光を集めるようにするという上記ウの周知の技術課題を言い換えたものにすぎず,数値限定にも特段の意味はないというべきである。 (ア) 特定の角度範囲内に散乱光を集めることの指標として,当該角度範囲に反射された反射光の光量の全反射光に対する割合を採用することは,当業者であれば,当然考慮する程度の事項である。 また,反射光の光量として,全反射光の光量から正反射光の光量を除くことは,例えば,本件出願(平成12年)よりも約24年前に公開された特開昭50-134597号公報(乙1)に,「全光拡散反射率とは,反射光9を除いた,反射光10の様な入射光8に対して角度をもつたあらゆる反射光の強度を積分した全強度と入射光8との強度比をとるものである。」(2頁右上欄9行〜12行)と記載されているように,本件出願当時周知であったと認められる。 してみると,引用発明1の開示する光散乱膜を反射型液晶表示装置に適用するに当たっては,入射光に対する正反射光の方向を中心とした特定角度範囲内に所定の割合で散乱光を集めるようなものとするため,入射光の正反射光の方向を中心とした特定角度範囲内の反射光の光量及び反射光全体からそれぞれ正反射光を除くこととし,「正反射光の進行方向に対して特定の範囲内の角度をなして進行する反射光の光量と前記正反射光の光量との差が全反射光の光量と前記正反射光の光量との差の所定割合以上である」ようなものとして反射光強度プロファイルを定義することは,当業者が必要に応じて成し得る設計事項である。 (イ) さらに,観察に利用される反射光の観察角度範囲である上記特定角度範囲や該角度範囲に集められる散乱光の光量の具体的数値は,反射型液晶表示装置の用途や観察する環境によって適宜決定されるものにすぎないというべきである。 この点について,本願補正明細書には,下記の記載がある。 記 「特に,図11に示すように,0°〜+60°の範囲内の角度で進行する表示光36の光量が全表示光36の光量の85%以上である場合,すなわち,正反射光35の進行方向に対して-30°〜+30°の範囲内の角度をなして進行する反射光の光量と正反射光35の光量との差が,-90°〜+90°の範囲内の全反射光の光量と正反射光35の光量との差の85%以上である場合,実用上充分に広い視野角及び明るい表示の双方を実現することができる。なお,ここで,正反射光35の光量とは,正反射角に対して-3°〜+3°の範囲内の角度をなす反射光の光量を意味する。また,図11では,外光31の入射角を-30°としたが,入射角を0°に近づけるように変化させると,曲線41及び42は図中左方向にシフトする。一方,入射角を-75°に近づけるように変化させると,曲線41及び42は図中右方向にシフトし,-90°とすると,曲線41及び42は完全に左右非対称となる。したがって,上記条件は,外光31の入射角が-75°〜0°の範囲内において満足されればよい。」(段落【0107】)) 上記記載は,本願補正発明の反射光強度プロファイルにおいて,@ 反射光を観察に利用する入射光の入射角範囲を0°〜75°としたこと,A 観察角度範囲である上記特定角度範囲を-30°〜+30°としたこと,B 散乱光を集める割合である上記所定割合の数値を85%以上としたこと,についての理由を述べたものであるが,A及びBについては,このような数値とすれば「実用上十分に広い視野角及び明るい表示の双方を実現することができる。」と述べられているにとどまり,これらの数値の臨界的意義については何ら明らかにするところがない。また,@についても,「図11では,外光31の入射角を-30°としたが,入射角を0°に近づけるように変化させると,曲線41及び42は図中左方向にシフトする。一方,入射角を-75°に近づけるように変化させると,曲線41及び42は図中右方向にシフトし,-90°とすると,曲線41及び42は完全に左右非対称となる。したがって,上記条件は,外光31の入射角が-75°〜0°の範囲内において満足されればよい。」との記載からは,数値限定についての技術的意義が明らかにされていない。 そうすると,本願補正発明が構成要件Fとして定める反射光強度プロファイルの具体的な数値は,当業者が発明の実施に当たり適宜決定すれば足りる程度のものにすぎないといわざるを得ない。 オ 以上によれば,審決が「相違点5に関連する記載は,………,本願補正発明の光散乱板の機能を表す反射光強度プロファイルにあたり,光散乱板として当業者が当然期待する機能を数値により表現しているもので格別の点はない」(6頁下5行〜下2行)とした判断に,誤りはない。 (2) 原告は,審決が「相違点5である本願補正発明の構成は,本願補正発明における屈折率比の値,光散乱膜に対する透明粒子の割合,および透明粒子の粒径を変化させることで実現できると明示されているし,段落【0116】以降に実施例が示されていることから,発明を記述するに際し,効果としての反射光強度プロファイル値ではなく,他の構成による表現が可能であるにも拘わらずなされていない。………。相違点5として抽出した反射光強度プロファイル自体は,当業者にとっては格別の点はないし,本願補正発明における反射光強度プロファイル以外の他の構成により実現されているものであるため,発明の構成とは認められず,単なる発明の効果の提示であり,結果として引用発明1との相違点とならない」(7頁第1段落〜下第2段落)と判断したことは誤りであると主張する。 このうち,本願補正発明の反射光強度プロファイルが「他の構成による表現が可能であるにもかかわらずなされていない」,「他の構成により実現されているものである」,とした審決の説示について,原告は,当該「他の構成」とは,本願補正発明の構成要件C(透明粒子と透明樹脂との屈折率比),構成要件D(透明粒子の形状),構成要件E(光散乱膜の膜厚)であることを前提にして「他の構成によって実現されているはずはないのである。」等と主張するが,審決の上記引用部分のうち,「相違点5である本願補正発明の構成は,本願補正発明における屈折率比の値,………透明粒子の割合 ,および透明粒子 の粒径 を変化させることで実現できると明示されているし,」(下線部は判決注)との記載に照らせば,むしろ,審決のいう「他の構成」とは,本願補正明細書の下記記載において詳細に説明された「透明粒子の割合」及び「透明粒子の粒径」を指しているものと解される。 記 「図11に示す反射光強度プロファイルは,光散乱膜14中の透明粒子22の形状,透明粒子22の粒径,及び透明樹脂21の屈折率と透明粒子22の屈折率との比を適宜変更することにより制御することができる。例えば,透明粒子22の屈折率n1と透明樹脂21の屈折率n2との差を大きくすると,反射光強度プロファイルは曲線41から曲線42へと変化する。また,透明粒子22の粒径を小さくすると散乱効果が高められるため,反射光強度プロファイルは曲線41から曲線42へと変化する。同様に,光散乱膜14に対する透明粒子22の割合が増加すると散乱効果が高められるため,反射光強度プロファイルは曲線41から曲線42へと変化する。但し,光散乱膜14に対する透明粒子22の割合が反射光強度プロファイルに与える影響は,屈折率n1と屈折率n2との差や透明粒子22の粒径が与える影響に比べれば僅かである。」(段落【0110】) 「通常,上記の関係を満足する反射光強度プロファイルを得るには,透明粒子22の粒径を0.7μm以上であり且つ3.5μm未満とすることが好ましく,1.0μm以上であり且つ3.0μm未満とすることがより好ましく,1.5μm以上であり且つ3.0μm未満とすることが最も好ましい。」(段落【0111】) 「また,上記の関係を満足する反射光強度プロファイルを得るには,透明樹脂21の容積に対する透明粒子22の容積の比は,0.2以上であり且つ1.2未満とすることが実用的であり,0.6以上であり且つ1.2未満とすることが好ましい。」(段落【0112】) すなわち,審決は,反射光強度プロファイルによって発明を特定するだけでは,上記(1)のとおり発明が得ようとする効果を通常考えられる数値によって表現したにとどまり,それ自体は当業者であれば容易に想到し得るものである,との判断を前提として,構成要件Fの反射光強度プロファイルを得るための具体的な構成であるところの透明粒子の粒径(段落【0111】参照〕や透明粒子と透明樹脂との容積比(段落【0112】)等を発明特定事項として加えることによって初めて発明の構成を示したことになる,との判断を説示しているのである。 よって,審決が言う「他の構成」が構成要件C,D,Eを指すものであることを前提として審決の判断を論難する原告の上記主張は,その前提において誤りがあり,採用することはできない。 (3) 原告は,被告が乙1〜5に基づいて反射光強度プロファイルが当業者にとって自明のものであると主張していることに対して,被告の当該主張は失当であると反論する。しかし,乙1〜3が,本願補正発明の反射光強度プロファイルの技術的思想の一部を開示していることは上記(1)のとおりであるから,原告の反論は採用できない。 また,被告が引用刊行物1にも本願補正発明の反射光強度プロファイルの技術的思想が示されていると主張していることについても原告は反論している。確かに,引用刊行物1(甲5)には,【発明の技術的課題】において「本発明は,レイリー散乱や回折散乱を生じにくくて偏光状態の解消や後方散乱や散乱光の着色化を生じにくい散乱型粘着層の開発を課題とする。」(段落【0003】)と記載されているとおり,引用発明1は散乱を制御することのみを課題とするものであって,本願補正発明の反射光強度プロファイルに相当する技術的思想が含まれているとはいえない。しかし,引用刊行物1に本願発明の反射光強度プロファイルの技術的思想が開示されていないとしても,そのことは,本願補正発明の反射光強度プロファイルが反射型液晶表示装置の光散乱膜に期待される効果を数値により表現したものにすぎない,とした審決の判断に誤りがないという当裁判所の判断(上記(1))を,何ら左右するものではない。 4 以上検討したところによれば,原告の主張する取消事由1,2はいずれも理由がなく,本願補正発明は特許を受けることができないとした審決に誤りはない。 よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 上田卓哉 |