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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ネ10005損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10034特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10077特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10030特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成17ネ10096損害賠償請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 冒認出願(冒認) /  特許を受ける権利 /  発明者 /  改良発明 /  協議 /  技術的思想 /  創作性(創作) /  使用方法 /  守秘義務 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  慣用技術 /  技術的範囲 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  着想 /  クレーム /  権利の濫用(権利濫用) /  出願経過 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  実施権 /  専用実施権 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (ネ) 10069号 特許権侵害差止等請求控訴事件
控訴人(原告) X
控訴人(原告) 株式会社日本省開削協会
控訴人(原告)ら訴訟代理人弁護士 松本直樹,松本ゆう子
被控訴人(被告) 株式会社トプコン
訴訟代理人弁護士 熊倉禎男,田中伸一郎,外村玲子,佐竹勝一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/08/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
控訴人らの求めた裁判
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,原判決の別紙「物件目録」記載の装置を製造し,又は販売してはならない。
3 被控訴人は,その本店・営業所及び工場に存する前項記載の物件を廃棄せよ。
4 被控訴人は,控訴人Xに対し,1668万円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被控訴人は,控訴人株式会社日本省開削協会に対し,432万円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 上記第2項,第4項及び第5項につき仮執行宣言。
事案の概要
本判決においては,原判決と同様の意味において又はこれに準じて,「控訴人X」,「控訴人会社」,「本件特許発明1」,「本件特許発明3」,「本件各特許発明」,「本件特許権」,「本件明細書」,「本件公報」,「構成要件A」(同様にBないしD),「被控訴人装置」,「省開削工法」,「乙14の2の発明」,「乙17の発明」,「本件展示会」との略称を用いる。
1 本件は,本件特許権について特許権者として登録されている控訴人X及び同人から専用実施権設定登録を受けた控訴人会社が,被控訴人の製造販売する被控訴人装置が本件各特許発明(本件特許発明1及び3)の技術的範囲に属すると主張して,控訴人会社から被控訴人に対し,特許法100条に基づく被控訴人装置の製造販売の差止めを求めるとともに,同法102条3項に基づく損害賠償として432万円の支払い(専用実施権設定登録後のもの)を求め,控訴人Xから被控訴人に対し,同法65条1項に基づく補償金及び同法102条3項に基づく損害賠償として1668万円の支払い(専用実施権設定登録前のもの)を求めた事案である。
原判決は,(1)本件各特許発明は,控訴人Xによる冒認出願により特許されたものであるから,特許法123条1項6号の無効理由を有することが明らかであり,また,(2-1)本件特許発明1は,(a)乙14の2の発明に乙10の1ないし3(以下単に「乙10」という。)及び乙11の構成を組み合わせることにより,あるいは(b)乙14の2の発明に本件展示会に展示されて公知となった被控訴人装置の試作品の構成を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性欠如の無効理由を有することが明らかであり,(2-2)本件特許発明3は,上記(2-1)(a)(b)の事項に加え,乙17の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性欠如の無効理由を有することが明らかであって,控訴人らの本訴請求は,権利の濫用に当たり許されないとして,これらをいずれも棄却した。
当事者の主張は,後記のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」及び「第3 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決中,7頁11〜12行目に「本件各特許発明」とあるのを「本件特許発明1」と訂正する。
2 当審における控訴人らの主張(控訴理由)の要点 (1) 冒認出願について 本件特許発明1は,クレームに記されているとおり,分割などの仕組みによって実際の工事に役立つ測定器を提供することを内容とするものであり,レーザ機構などの細部を問題とするものではない。
原判決は,控訴人Xが伝えたのは「要望」にすぎないというが,誤りである。原判決でも,控訴人Xが,小型マンホール対応のための「小型化」と表示パネル「分離」などを提案したとしているが,これらが本件特許発明1の内容そのものである。原判決は,これを「要望」というが,達成されるべき結果(小口径マンホールの工事に好適な測定器)だけを要望として伝えたものではない。そのための構成を教示したものであり,本件特許発明1の内容を伝えている。原判決は,本件特許発明1の「本質」を認定しているが,これは,控訴人Xの伝えたことと同じである。
本件の経過からしても,下水道工事用レーザについて相当の販売実績をもち省開削工法の特許を有するなど,工事の実際について相当通じている控訴人Xが,現場での使い方に即した商品開発ができていなかった被控訴人に対して,本件特許発明1を教示したことは明らかである。発明者は,控訴人Xである。
また,本件特許発明3の発明者も控訴人Xである。
(2) 本件各特許発明進歩性について (2-1) 本件特許発明1について (a) 乙14の2の発明に乙10及び乙11の構成を組み合わせることについて 原判決は,上記を組み合わせることで容易に発明をすることができたと判断したが,誤りである。
(a-1) 本件特許発明1の装置は,クレームのとおり「レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離」したものである。省開削工法のレーザ測定器として使う以上は,レーザ照射部を地下に設置することが前提となる。その上での「分離」であるから,レーザ照射部を分離した残りの本体で操作できるものを意味している。
(a-2) これと乙10や乙11とは,基本的に違う。乙10で開示されているのは,いくつかのスイッチが用意されているだけのリモコンが,地下に置かれた「本体」から分離され,地上に置かれているにすぎず,装置の状態を示す表示器などは,依然,地下に置かれた「本体」に付いているために,地上から操作することができない従来型の装置にすぎないからである。乙11にいたっては,単に電池が分離しているだけであり,照射部・操作部・表示部は,すべて一体になったままであって,本件特許発明1とは全く別物である。
(a-3) それでも,「少なくとも」であるから,操作に必要な部分(スイッチ類や表示類)をも照射部側にすることもこの「分離」に該当し得るとの議論もあるかもしれないが,曲解である。地下に置く照射部などを「分離」する趣旨なのであり,そこに操作のための部分までも持っていくことには全く意味がない。「少なくとも」といっているのは,そうした趣旨ではなく,“地下でのレーザ照射のために必要なものを分離する”という意味であるのは自明である。
(a-4) このように乙10や乙11と本件クレームとの間には明確な相違があり,しかも,この相違に伴って,本件特許発明1には大きな利点がある。本件明細書に開示されているように,小口径マンホールの工事の際に役に立つわけであるが,これは,照射部を地下に置いたまま縦管(小口径マンホール)を完成させてしまい,その後も地上から操作をして,地下にある照射部によるレーザ照射を使って,管敷設の工事を進めるという使い方をするものである。
乙10や乙11では,このような使い方はできない。それでも,レーザ測定器として,それも小口径マンホール工事の場合に使うこと自体は可能である。しかし,縦管を完成させてしまうと,小口径マンホールであるがために人が降りていくことができないから,地下のレーザ測定器を操作できずに困ってしまうことになる。
縦管を先に完成できることには,大きな利点がある。
(a-5) 原判決は,「仮に操作部,表示器を別途設けることが本件特許発明1の構成であるとしても,当業者が容易に発明することができたものであることに変わりはない」としているが,不適切である。現に,乙10や乙11のようなものしかなかったのであり,このことは,上記のような工事の仕方のできる装置として大きな意義があるのに,考えついていなかったことを示しており,進歩性があることを実証している。
本件特許発明1は,分離して地上から操作できるようにすることで小口径マンホールの工事を特に効率的にするというところ自体を内容とするものである。
(a-6) 控訴人Xは,本件各特許発明構成要件Bについて,下線部分を付加して,次のように訂正する用意がある。
「レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさとして,この分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能としかつこれと分離 された 機構本体側 で遠隔制御 が可能とし たことを特徴とする」 (b) 乙14の2の発明に本件展示会に展示された被控訴人装置の試作品の構成を組み合わせることについて (b-1) 原判決は,本件展示会に展示されたことにつき,意に反する公知としての特許法30条2項の適用を認めなかったが,誤りである。本件展示会に展示された被控訴人装置の試作品の構成は,展示が控訴人Xの意に反してなされたものであるから,先行技術とされるべきでない。
(b-2) 原判決は,特許法30条2項が例外規定であるというが,それが事実としても,法の規定である以上は,基本的にその規定のとおりに適用が認められるのが当然である。同条では「意に反して」が要件とされているのであるから,現に意に反しているなら,それでこの要件は充足しているのである。同条の文言は,特許を受ける権利を有する者の「秘密管理」の程度などを何ら問題としていない。
また,同条の適用を認めなければ,本来,特許を受ける権利を有する発明者が,特許を得られなくなるのであって,実質的にも不合理である。
個人的な発明家にとっては,守秘義務契約を締結した上でだけ開示することは,現実的ではない。相手方に発明の内容を示さなければ,契約を締結するだけの意義があることを理解してくれない。事前に守秘義務契約を結ぶのは極めて難しい。そうなると,出願するまでは事業化のための協議を避けることになり,発明の成果を速やかに役立てることができないのであって,特許制度の趣旨に反する。
(b-3) 本件においては,展示会での展示は,控訴人Xの意に反したものである。
控訴人Xは,特段の守秘義務契約を締結することなく被控訴人に本件各特許発明を教えたが,それで直ちに被控訴人がそれを公知にすることはないと考えていた。本件では,実際に商品化されるよりも随分と前に展示会に展示されてしまったが,これは営業戦略として不合理であり,かなり異常な事態である。控訴人Xとしては,平成10年7月に展示されるなどとは全く考えていなかった。
(2-2) 本件特許発明3について 本件特許発明3についても進歩性があるというべきである。
3 当審における被控訴人の主張の要点 (1) 冒認出願について 被控訴人が,控訴人Xから,従来のパイプレーザに関する改良要望を受けたことは事実であるが,具体的な構成を有する本件各特許発明は,被控訴人の従業員がその技術,知識及び経験に基づき発明したものである。被控訴人は,この改良要望を参考に,被控訴人装置の開発をスタートさせ,被控訴人の従業員が,その構成に想到し,被控訴人において,具体的な製品として技術化したものであり,その過程において,本件各特許発明がなされたのであるから,その発明者が被控訴人の従業員であることは明らかである。
(2) 本件各特許発明進歩性について (2-1) 本件特許発明1について (a) 乙14の2の発明に乙10及び乙11の構成を組み合わせることについて (a-1) 乙14の2の特許請求の範囲には,本件特許発明1の構成要件Aが記載されている。
乙10には,本件特許発明1の構成要件Cを充足する上下水道埋設工事用レーザ装置が記載され,当該レーザ装置は,電源部及びリモートコントロール部と,レーザ照射部を含む部分とが分離されていること,レーザ照射部を含む部分は,小型マンホールや小型パイプの中に設置することができることが記載されている。なお,小型パイプの場合は,直径150oの小さなパイプの中でも使用でき,小型マンホールの場合は,直径225oのマンホールの中にも設置することができることが写真入りで説明されていることから,本件特許発明1の構成要件B「小口径マンホールを通過する大きさとして,この分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能としたこと」及び構成要件Cが公知であったことは明らかである。
乙11は,構成要件Cを充足する上下水道埋設工事用レーザ装置のパンフレットであり,これには,「小さいことは利点です。グレードライト2000は,動力パックが外せるので,異常に狭い逆アーチ状のものにも入れることができる。」との記載がある。
本件特許発明1は,乙14の2の発明に,乙10,乙11を組み合わせることによって,当業者が容易に想到することができたものである。
(a-2) 控訴人らの主張は,本件特許発明1の構成要件について,特許請求の範囲の記載に基づかず,本件明細書のいずれの記載にも基づかない解釈をするものであり,全く理由がない。すなわち,構成要件Bの「レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離して」との構成は,要するにレーザ光を照射できる部分を含む部分が敷設パイプ内に設置可能となっていれば足り,その他の部分のいずれかが地上にあれば,どれが地上にあるか地下にあるかは,要件としないものであり,ましてや操作部,表示器の構成や設置位置など何も限定していない。
乙10のレーザ装置は,外部から電源を得る形で電源部が分離されているのであって,リモコンのみが分離されているのではないが,いずれにしろ,レーザ光を照射する部分を含む部分が分離され,敷設パイプ内に設置可能となっていることから,本件特許発明1の構成要件Bを充たすことは明らかである。また,乙11のレーザ装置も,同様にレーザ光を照射する部分を含む部分が分離され,敷設パイプ内に設置可能となっていることから,本件特許発明1の構成要件Bを充たすことは明らかである。
(a-3) 控訴人らは,本件特許発明1では,照射部を地下に置いたまま縦管(小口径マンホール)を完成させ,その後も地上から操作をして,地下にある照射部によるレーザ照射を使って,管敷設の工事を進めるという使い方が可能である点で,乙10や乙11と異なると主張するが,本件特許発明1の構成要件について,特許請求の範囲の記載や本件明細書の記載のいずれにも基づかない解釈をするものであり,全く理由がない。
(b) 乙14の2の発明に本件展示会に展示された被控訴人装置の試作品の構成を組み合わせることについて (b-1) 平成10年7月28日,本件展示会において,被控訴人は,その製品を展示しており,展示されていた製品は,被控訴人の従来製品である「TP-L3」シリーズにおいて,レーザ照射部と電池部及び操作部が分離された構造のものであり,分離されたレーザ照射部が小口径のパイプに設置された状態が展示されていることから,本件特許発明1の構成要件B及びCの構成は公知であったことは明らかである。
本件特許発明1は,乙14の2の発明に,本件展示会に展示されて公知となっていた被控訴人装置の試作品を組み合わせることによって,当業者が容易に想到することができたものである。
(b-2) 本件展示会における公開は,控訴人Xの意に反するものではない。
特許法30条2項について,公表の事実が発明者の不利な結果となった場合において,そのような結果を発明者が望んでいなかったとしても,そのことだけから当該公表が常に「意に反して」に当たるということはできず,発明者が自らの行為によって公表しなくても,発明の内容が公知となることが予想される状況にあることを知りながら,それを放置したときは,客観的にその発明者には発明を秘密にしようという意は認められず,公表されても「意に反して」の公表とは認められないと解すべきである。
控訴人Xは,パイプレーザのメーカーである被控訴人と打合せを持ち,そこで製品の改良要望をしたものであり,被控訴人が控訴人Xの要望にかなう商品を開発して販売することを望んでいたはずであるから,本件展示会において被控訴人装置の試作品を展示したことは,むしろ控訴人Xの意に沿ったものであり,「意に反して」なされたものとはいえない。また,控訴人Xは,被控訴人装置は開発当初から商品化する可能性があり,試作品が作成される見通しまで知っていたのであるから,公開することを認めていなかったのであれば,秘密保持契約を締結するか,少なくとも秘密保持の要求をすべきであったのに,何らこれらをしないで放置していたことからしても,「意に反して」なされたものとはいえない。さらに,控訴人Xは,秘密保持契約を締結することは充分可能であった。
(2-2) 本件特許発明3について 本件特許発明3については,乙17に本件特許発明3の構成要件Dが開示されていることは明らかである。よって,進歩性を欠くとした原判決は正当である。
当裁判所の判断
1 本件特許発明1及び3に係る特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められ,控訴人らは,被控訴人に対し,本訴請求に係る権利を行使することができないものというべきであるから,当裁判所も,控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。なお,本件各特許発明の内容及び本件特許権の出願経過については,原判決の17頁15行目から24頁1行目までの記載を引用する。
2 本件特許発明1の進歩性について 本件特許発明1が,乙14の2の発明,乙10及び乙11に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについて検討する。
(1) 本件特許発明1の特許請求の範囲の記載を構成要件AないしCとして分説すると次のとおりである(上記原判決引用部分にも記載があるが,再掲する。)。
「路面に敷設パイプ類1本の長さに応じた距離を開削機械によって開削し,この開削部分に敷設パイプ類1本の長さ分の土留をして敷設パイプ類を敷設し,勾配等を敷設パイプ類に沿って設置したレーザ照射機構によって照射しながら開削作業を行ない,かつ上記開削機械で開削部分を埋め戻す工程を順次繰り返すようにしたレーザ開削工法に使用する土木工事用レーザ測定器であり,」(構成要件A) 「レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさとして,この分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能としたことを特徴とする」(構成要件B) 「土木工事用レーザ測定器。」(構成要件C) (2) 乙14の2(特公平8-23141号公報)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。
「路面(1)に敷設パイプ(3)類1本の長さに応じた距離を開削機械によって開削し,この開削部分にパイプ(3)類1本の長さ分の土留をしてパイプ(3)類を敷設し,勾配をパイプ(3)類の内部に設置したレーザ測定器(9)によって測定するとともに,測定用のレーザ光で開削部分を照しながら開削作業を行ない,かつ上記開削機械で開削部分を埋め戻す工程を順次繰り返すようにしたことを特徴とする路面開削工法。」 上記記載自体は,路面開削工法に関するものではあるが,乙14の2の明細書の記載にも照らせば,乙14の2には,「路面に敷設パイプ類1本の長さに応じた距離を開削機械によって開削し,この開削部分にパイプ類1本の長さ分の土留をしてパイプ類を敷設し,勾配をパイプ類の内部に設置したレーザ測定器によって測定するとともに,測定用のレーザ光で開削部分を照しながら開削作業を行ない,かつ上記開削機械で開削部分を埋め戻す工程を順次繰り返すようにしたことを特徴とする路面開削工法に使用する土木工事用レーザ測定器。」が記載されているものと理解し得る(以下,このような意味において「乙14の2の発明」という。)。
そして,若干の表現の差異はあるが,乙14の2に開示された「土木工事用レーザ測定器」と構成要件Aの「土木工事用レーザ測定器」とは,そこに記載された限度において,同一のものといえる(甲1及び乙14の2のほか,控訴人Xの審査段階における意見書である乙20にも照らせば,本件特許発明1は乙14の2の発明の改良発明であり,控訴人らも,構成要件Aの限度では両者が同一と理解することについては,積極的に争うものではない。そして,本件明細書の段落【0008】においては,乙14の2の発明として,上記の乙14の2の特許請求の範囲の記載を引用するのではなく,本件特許発明1の構成要件Aと一言一句同じ記載をして,これが乙14の2の発明であると記載している。)。
(3) 以上をふまえて,本件特許発明1と乙14の2の発明(土木工事用レーザ測定器)とを対比すると,両者は,構成要件A及びCの点で一致するが,本件特許発明1が,土木工事用レーザ測定器につき,「レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさとして,この分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能としたことを特徴とする」という構成(構成要件B)を有するのに対し,乙14の2の発明は,土木工事用レーザ測定器について,そのような構成を有しない点で相違する。
(4) そこで,上記相違点(構成要件Bの点)について検討する。
(4-1) 乙10(平成元年9月ジオジメーター株式会社作成に係る「AMA SLP-86パイプレイヤー」のパンフレット)には,「AMA SLP-86パイプレイヤー」が,上下水道管埋設工事用レーザ装置(シールド工法)であり,当該レーザ装置は,電源部及びリモートコントロール部と,レーザ照射部を含む部分とが分離されていること,レーザ照射部を含む部分は,小型マンホールの場合,直径225mmのマンホールの中にも設置することができること,小型パイプの場合,直径150oの小さなパイプの中でも使用することができることが記載されている。そして,乙10には,上記パイプレイヤーが直径225mmの小型マンホール内に設置された写真のほか,直径150o小型パイプ内に設置された写真が掲載されている。
また,乙11(平成7年AGLCorporation作成に係る上下水道埋設工事用レーザ装置「GradeLight2000」のパンフレット)には,「グレードライト2000は…モジュール構成で設計されています。搭載電源パックは,…何時でも付け外しできます。」,「小さいことは利点です。グレードライト2000は,動力パックが外せるので,異常に狭い逆アーチ状のものにも入れることができます。」,「調節可能な脚は,200mmから300mmのパイプの中に中心線をセットします。脚を取れば150mmになります。」と記載され,その3頁左上の写真及びその説明書において,左右の2つの操作ボタンを有するリモートコントローラがあることが示されている。
(4-2) ここで,相違点についての判断の前提として,本件で争われた点を中心に本件特許発明1の要旨を認定しておく。
要旨認定は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるところ(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁),本件特許発明1の特許請求の範囲の記載は,極めて包括的で「土木工事用レーザ測定器」の構成として想定し得る多くの要素のほとんどについて何らの限定もされていないものである。
すなわち,構成要件Aは,開削方法によって「土木工事用レーザ測定器」を限定するものであり,構成要件Cは,「土木工事用レーザ測定器」というにすぎない。
そこで,構成要件Bが「土木工事用レーザ測定器」の構成を規定するものであるが,「レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離」すること,分離した結果,「小口径マンホールを通過する大きさ」とすること,「この分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能」とすることが規定されているにすぎない。
したがって,@「レーザ照射機構から分離されるもの」については,「レーザ照射部」が特定されているのみで,「少なくとも」ということから,他の機器をも分離することができるものの,どの機器を分離し,どの機器を分離しないのかについては,全く限定がないことが明らかである,A「レーザ照射部等が分離された後に残ったレーザ照射機構が具体的にどのような構成であるのか」については全く限定がない(前記@の裏返しでもある。),B「レーザ照射部を操作する方法及び操作機器の構成」については,どこに設けられたどのような構成の機器によってどのように操作されるのかなど,全く限定がないことが明らかである,C「分離後のレーザ照射機構がどこに設置されるのか」について明記されていないが,分離されたレーザ照射部が小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置されることからして,一応,マンホールの外である地上にあると理解し得る(被控訴人もこの点は明示的に争うものではない。もっとも,構成要件Aでは,「レーザ照射機構」は,「地下の敷設パイプ類に沿って設置」されると規定されており,構成要件Bでは,この「レーザ照射機構」からレーザ照射部等を分離するとしか規定されおらず,分離後の「レーザ照射機構」の位置について改めて規定しないのであるから,文理上は,「地下の敷設パイプ類に沿って設置」されたままであるとの帰結となる。特許請求の範囲の記載の仕方が不適切であるというべきである。),D「レーザ照射部の大きさ」は,「小口径マンホールを通過する大きさ」と規定されているが,この点については,一義的に明確でないので,発明の詳細な説明参酌すると,「小口径マンホールとは,人が入り込めないマンホールや汚水枡等を意味する」との定義がされている(段落【0019】)ものの,なお曖昧さが残っている,E「レーザ照射部が入れられるとされる敷設パイプ類の大きさ」も具体的な限定がない,ということが認められる。
なお,上記@〜B,Eの点は,特段の限定がないという意味において,Cはそのように理解し得るという意味において,特許請求の範囲の記載自体は一義的かつ明確に理解し得るものであり,解釈に矛盾も生じない。よって,これらの点を理解するについて,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される場合には該当しないものというべきである(前記最高裁判決参照)。
(4-3) 以上検討したところを前提として相違点について検討するに,詳細な仕様が開示されている上記乙10の上下水道管埋設工事用レーザ装置は,平成元年9月には公知のものとなっていたものであり,当該レーザ装置は,電源部及びリモートコントロール部とレーザ照射部を含む部分とが分離され,レーザ照射部を含む部分は,直径225mmの小型マンホールの中にも設置することができ,直径150oの小型パイプの中にも設置して使用できるものである。
そうすると,この装置は,「レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさとして,この分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能としたことを特徴とする」という構成(構成要件B)を有することが明らかである(前記Dの点に照らせば,「直径225mmの小型マンホール」が「人が入り込めないマンホールや汚水桝等」に含まれることは明らかである。また,前記@,Aの点に照らせば,レーザ照射部等を分離した残りが電源部及びリモートコントロール部であるとの構成も,上記構成要件Bに該当するものである。)。
また,上記乙11の上下水道埋設工事用レーザ装置は,平成7年には公知のものとなっていたものであり,電源パック部及びリモートコントロール部とレーザ照射部を含む部分とが分離され,直径150mmのパイプ内にも設置可能なものであるから,これらのことからして,相違点に係る構成を有するものと認められる。
以上によれば,乙14の2の発明における土木工事用レーザ測定器に,乙10又は乙11に記載された事項を適用することにより,本件特許発明1の構成のようにすることは,当業者が容易になし得たことである。そして,これらの発明の属する分野が共通し,後記のとおり,レーザ測定器の小型化という技術課題及び装置の一部を分離するという課題解決方法が広く知られていた状況にもあること(乙1の1ないし4)にかんがみれば,上記の適用は,容易であるというべきである。
したがって,本件特許発明1は,乙14の2の発明,乙10及び乙11に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,本件特許発明1に係る特許は,特許無効審判により無効にされるべきものというべきである。
(5) 補足説明の意味を含め,控訴人らの主張について検討しておく。
(5-1) 控訴人らは,「構成要件Bの「分離」は,レーザ照射部を分離した残りの本体で操作できるものを意味している。」,「装置の状態を示す表示器などが地下に置かれ,地上から操作することができないもの(乙10)は,従来型の装置にすぎず,本件特許発明1とは異なる。」,「照射部・操作部・表示部がすべて一体になったままのもの(乙11)は,本件特許発明1とは全く別物である。」,「「少なくとも」といっているのは,操作に必要な部分(スイッチ類や表示類)をも照射部側にすることも「分離」に該当し得るという趣旨ではなく,“地下でのレーザ照射のために必要なものを分離する”という意味であるのは自明である。」,「本件特許発明1は,照射部を地下に置いたまま縦管(小口径マンホール)を完成させてしまい,その後も地上から操作をして,地下にある照射部によるレーザ照射を使って,管敷設の工事を進めるという使い方をするものであり,乙10や乙11では,縦管を完成させてしまうと,人が降りていくことができないから,地下のレーザ測定器を操作できずに困ってしまうことになるのであって,本件特許発明1のように縦管を先に完成できることには,大きな利点がある。」などと,前記第2,2(2)(2-1)(a)のように主張する。
(5-2) 前記(4)(4-2)で検討したところから明らかなように,上記控訴人らの主張は,特許請求の範囲の記載に基づかず,その主張の前提とする本件特許発明1についての要旨認定自体が失当であって,採用し得ないものであるというほかない。
(5-3) そこで,以下においては,念のため控訴人らの主張に沿って検討しても,前判示の結論が変わらないことを説明する。
(a) 前記@Aの各点にもかかわらず,本件特許発明1の構成が,レーザ照射部を操作する機器が分離されることなく,分離後のレーザ照射機構に残され,そのレーザ照射機構が地上に置かれて,地上から照射部を操作するものであると仮定しても,以下のとおり,控訴人らの主張は,採用することができない。
控訴人らの主張は,操作のためには,少なくとも「スイッチ類と装置の状態を示す表示類(表示部)」が必要であって,これらが地上になければ,地上から操作することができない,との前提に立っていることが明らかである。
ところが,本件特許発明1に係る特許請求の範囲の記載には,「操作部」や「表示部」に関しては,何らの記載も存在しない(唯一,操作について明記されている請求項2でさえ,「有線もしくは無線で遠隔操作」との記載があるのみである。)。そして,技術的にみてスイッチ類は操作に不可欠であるとしても,「表示部」がなければ操作することができないことを示す証拠はなく,たとえ装置の状態を知る必要があるとしても,ディスプレイのような「表示部」の目視のほかに,例えば,装置の状態に応じて種々の音を発するようにして把握することも,当業者としては慣用技術の範囲に属するものと考えられるのであり(乙15の引用文献中にも例がある。),当業者が,本件特許発明1の特許請求の範囲の記載から,当然に「表示部」が設けられるものと認識するとはいえない。
ここで,発明の詳細な説明参酌するとしても,発明の詳細な説明においてでさえ,「操作部」や「表示部」の言葉すら出てこない。そして,「分離」に関してみると,一実施例の記載にすぎないが,「【0030】上記レーザ照射機構105には,CPU等を含むレーザ照射部112のための各種の制御機器類,遠隔制御のための機器類,またエアバッグ113によるレーザ照射部112の角度調整のための,コンプレッサやエアシリンダその他の制御機器類が内蔵されている。」とされているものの,「【0031】またレーザ照射部112は,レーザ発光源ランプとレーザ照射ヘッドとを内蔵しただけのコンパクトな構造とすることができるが,マンホール106から取り出せる大きさの範囲内でレーザ照射部112の制御機器類の一部やエアバッグ113の制御機器類あるいはその一部を内蔵させることもできる。」とされている。これによれば,マンホール106から取り出せる大きさの範囲内との条件付きではあるが,「遠隔制御のための機器類」以外のものは,すべて分離してレーザ照射部112に内蔵される可能性があることになる(CPUでさえレーザ照射部側となり得る。レーザ照射部112の制御機器類で分離されるのは一部であるが,一部の内容については限定がない。)。ここで,「遠隔制御のための機器類」とは「リモートコントロールのための機器類」と同義と解されるが,性質上必ず「表示部」を有するものではないし,発明の詳細な説明においても「表示部」を有するとの記載はない。なお,地上からの遠隔操作ができるようにしたこととその作用効果が記載された部分があるが(段落【0019】【0035】【0037】等。なお,「遠隔制御」は請求項2に規定されているものである。),ここでも,レーザ照射部を操作する機器がどのような構成をしており,どのように操作するのか,装置の状態を確認する方法として,表示部を有する構成とするのかなどについて,全く記載がない。
結局は,前記Bのように認定せざるを得ないのであって,本件特許発明1の「レーザ照射部の操作用の機器」は,何らかの構成によって照射部が操作できるような機器であれば足りるものと解される。
したがって,乙10,11に記載されたリモートコントロール部(リモートコントローラ)は,レーザ照射部を操作する機器に該当し,前判示のとおり,構成要件Bを充足するのである。なお,本件特許発明1では,縦管を先に完成できること及びそれが大きな利点であることについては,発明の詳細な説明にさえ明記されているわけではないし,上記のように,本件特許発明1の構成に容易に想到し得る当業者にとっては,予測し得る範囲内の作用効果にすぎないというべきである。
(b) さらに,前記@A及びBの各点にもかかわらず,控訴人らが主張するように,本件特許発明1における,レーザ照射部等を分離した後の「レーザ照射機構」が,照射部の状態を示す「表示部」を具備し,かつ,「照射部の動作のすべてを操作し得る」スイッチ類等の操作機器を備えたものである場合を想定してみる。
検討するに,乙1の1ないし4(平成3年2月15日環境公害新聞社発行「月刊下水道」)には,各社の下水道管工事用のレーザ測定器が掲載されており,レーザ照射部とリモートコントロール部が分離されたもの(60〜61頁,70〜71頁,乙1の3最終頁)や,直径150mmまでの小型パイプ内に設置し得るもの(55頁,58頁,60〜61頁,63頁,68頁,69〜71頁,「桃-3」,乙1の3最終頁)が掲載され,双方の要素を兼ね備えたものも存在する。そして,乙1の2の57頁には,下水道普及率の高い欧米では1970年代の初頭に既に下水管工事でのレーザの利用が始まり,今日ではほとんどの工事がパイプレーザの使用を義務づけているといわれていることが記載された上,上記のとおり,150mmの小口径管内にレーザ装置を設置する使用方法が紹介されている。これによれば,パイプレーザの使用は,欧米では昭和40年代から始まっており,遅くとも平成3年2月15日までには,我が国においても,下水道管工事用のレーザ測定器であって,直径150mmの小型(小口径)の下水管に対応して,その管の中にレーザ照射部を含む装置を設置して使用するように,小型化されたレーザ測定器が多くの会社から販売されており,その中には,レーザ照射部とこれを操作するリモートコントロール部とを分離している装置も存在し,これらの要素を併せ持つ下水道管工事用のレーザ測定器は,既に,周知のものとなっていたことが認められる。この事実は,当時既に,直径150mmの小型(小口径)の下水管内にも設置できるほどのレーザ測定器の小型化の課題が周知となっており,装置の一部を分離する方法による課題解決も一般に行われていたことをうかがわせるものである。そして,ある機器の作動状態等をモニターするために表示部を設けること自体は通常行われることと認められる。
そして,前判示のとおり,乙10,乙11においては,レーザ照射機構のうち,電源部や動力パックのような部分とレーザ照射部を含む部分とに分離することにより,レーザ照射部を含む部分を小型化し,小型(小口径)マンホールを通過し,小型パイプ内にも設置し得るものとすることが記載されていること,さらに,リモートコントロール部(リモートコントローラ)という照射部を操作する機器を,レーザ照射部を含む部分とは別に設けて,遠隔操作することも記載されている。
以上の諸事情にかんがみれば,乙14の2の発明におけるレーザ測定器において,レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離し,分離したレーザ照射部を構成要件Bのような構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものといえ,その際,分離後の「レーザ照射機構」に対し,レーザ照射部を操作するための機能をどの程度もたせるかは,当業者において必要に応じて検討するのは当然のことであって,照射部の状態を示す表示部を具備し,かつ,照射部の動作のすべてを操作し得るスイッチ類等の操作機器を備えたものとすることも,当業者が容易に想到し得たものといえる。よって,上記のような場合を想定したとしても,本件特許発明1は,乙14の2の発明,乙10及び乙11に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということができる。
(6) 訂正について 控訴人Xは,本件各特許発明構成要件Bについて,下線部分を付加して,「レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離して小口径マンホールを通過する大きさとして,この分離したレーザ照射部のみを小口径マンホールを介して敷設パイプ類内に設置可能としかつこれと分離 された 機構本体側 で遠隔制御 が可能 とし たことを特徴とする」と訂正する用意があると主張する。
検討するに,控訴人らは,上記訂正がされた後の本件特許発明1の構成との対比において,被控訴人装置がこれを侵害するものであることについては,具体的に主張するものではなく(上記訂正後のものは請求項2と酷似するが,本訴では,請求項2の発明に係る特許権侵害は主張されていない。),主張自体が不十分であるというべきである。しかし,その点はおいて,上記訂正後の発明の容易想到性について検討する。
上記訂正により付加された構成については,上記のような訂正がなくとも,本件特許発明1の解釈として,地上に置かれた装置から照射部を(遠隔)操作することを理解し得ると仮定した上で検討し,既に判示したところである。すなわち,特許請求の範囲を上記のように訂正したとしても,操作用の機器の具体的構成については限定はなく,何らかの構成によって照射部が操作できれば足りるものと解すべきであることは前判示のとおりである(控訴人らが主張するように,操作のためにはスイッチ類と装置の状態を示す表示類(表示部)が必要で,これらが地上になければ,地上から操作することができないとの前提自体が採用し得ないことも前判示のとおりである。)。そして,乙10に記載されたリモートコントロール部は,前判示のことからすれば,照射部側とは分離されており,これによって遠隔制御が可能であるといえるのであって(乙11も同様),訂正後の発明も当業者が容易に発明をすることができたものというべきである(前記乙1の1ないし4の記載にも照らせば,上記遠隔制御の点は,周知技術であるとさえいえる。)。
なお,上記訂正では「遠隔制御」とされており,本件明細書には,その表現があるが(段落【0035】【0037】),その記載ぶりからして,請求項2に対応する説明であると解されるところ,請求項2では,「遠隔操作」とされ,課題を解決するための手段でも「遠隔操作」とされているのであるから(段落【0019】),両者は,同じ意味で使用されていると解するのが相当である。したがって,「遠隔制御」とされているからといって,前記の判示を変更すべき理由はない。
また,仮に,「制御」ということから,控訴人らのいう「装置の状態を示す表示類(表示部)」を含ませようとするのであれば,その訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でされたものではないというべきである。
以上の点をおいて,控訴人らの主張に沿って検討しても,結論が変わらないことは,(5)(5-3)に判示したとおりである。
いずれにしても,控訴人ら主張の訂正によっては,本件特許発明1に係る特許が無効にされるべきことを回避し得るものではない。
3 本件特許発明3の進歩性について 控訴人らが主張する本件特許発明3は,本件特許発明1の構成要件AないしCを引用した上,構成要件Dを付加したものである。
本件特許発明3に係る特許は,特許無効審判により無効にされるべきものというべきである。その理由は,本件特許発明1に関して判示したところに加え,原判決の35頁16行目から36頁19行目まで(ただし,36頁16行目の「あるいは本件展示会の展示内容」との部分を削除する。)のとおりであるから,これを引用する(請求項3は,請求項1及び2を引用しているが,控訴人らの主張は,請求項2における固有の構成要件に関する侵害事実を主張するものではなく,請求項1の構成要件AないしCと請求項3の固有の構成要件Dを主張するのみであるから,請求項2の固有の構成要件についての容易想到性の判断は,本来は必要がない。もっとも,前記の「訂正の用意がある」とする控訴人らの主張内容は,請求項2の固有の構成要件と実質的に同じであると解されるところ,この点についての判断は,既に判示したとおりである。)。
4 本件特許発明1及び3の進歩性についての判断をふまえた結論 以上判示のとおり,本件各特許発明に係る特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められ,控訴人らは,被控訴人に対し,本訴請求に係る権利を行使することができないものというべきであるから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく,棄却されるべきである。原判決は,これと同旨をいうものであって,相当である。
5 冒認出願について 本訴請求に対する判断は,既に結論に達しているが,従前の審理の経緯にかんがみ,冒認出願の争点についても判断を示しておく。
(1) 冒認出願の争点についての原判決の認定判断(原判決24頁2行目から31頁2行目まで)は,相当として是認し得るものであるから,これを引用した上で,以下の点を付加する。
(2) 控訴人らは,前記第2,2(1)のとおり主張する。
本件特許発明1の構成要件自体が簡素であって,その内容は,レーザ照射機構から少なくともレーザ照射部を分離すること,分離したものの大きさが小口径マンホールを通過するもので,これを介して敷設パイプ類内に設置可能なものであることなどを中心的な構成とするものである。
しかし,控訴人Xの被控訴人の社員に対する発言の内容は,原判決が認定したとおりであるところ,控訴人Xが開示した内容は,本件特許発明1の構成要件と必ずしも同じものとはいえない。また,発明者であると評価されるためには,抽象的着想ないしアイデアの表明に止まらず,技術的思想創作行為に現実に関与する必要があるところ,控訴人Xが開示した内容を検討しても,同人が本件各特許発明に係る技術的思想創作行為に現実に関与したものということはできない(仮に,控訴人Xの行為が,上記創作行為に何らかの関与があったと評価し得たとしても,控訴人Xが単独で本件各特許発明をなしたものとは認められず,被控訴人の従業者による上記創作行為への現実的関与が大きいことは否定できないのであって,この点を欠落させて本件特許出願がされたという点において,本件特許が無効審判において無効とされるべきことに変わりはない。)。
以上の認定判断は,当審で提出された証拠(甲24,25)に照らして検討しても,変更すべきものとは判断されない。
6 結論 以上によれば,原判決は相当であり,控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないので,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文