関連ワード | 技術的手段 / 発明の詳細な説明 / 技術的意義 / 実施 / 構成要件 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 不法行為(民法709条) / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
13年
(ワ)
684号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 株式会社サンエイ 訴訟代理人弁護士 村林隆一 同 松本司 同 岩坪哲 同 山形康郎 被告 株式会社オプテック 訴訟代理人弁護士 中井克洋 同 中尾正士 同 山本英雄 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2001/08/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は、別紙「イ号物件説明書」記載のCDケース保持具を製造し、販売し、販売のために展示してはならない。 2 被告は、前項記載の製品及び同金型を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、金2400万円及びこれに対する平成13年2月3日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は、後記特許権を有する原告が、被告による別紙「イ号物件説明書」記載のCDケース保持具の製造販売等の行為は同特許権を侵害するとして、被告に対し、特許権に基づく同CDケース保持具の製造販売等行為の差止めと廃棄等を請求するとともに、民法709条、特許法102条1項本文に基づく損害賠償を請求した事案である。 (争いのない事実等) 1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明」、本件特許権に係る明細書を「本件明細書」という。)を有している。 登録番号 第2811418号 発明の名称 CDケース保持具 出願日 平成 7年2月8日(特願平7-20419号) 登録日 平成10年8月7日 特許請求の範囲 前方に開放部(3)を設けてCDケース(2)を挿脱自在とした本体(1)の周縁部に、ストッパー(4)と支持片(13)を互いに対向する位置に設け、これらストッパー(4)と支持片(13)により、本体(1)に収容したCDケース(2)の前記開放部(3)からの離脱を防止するようにしたCDケース保持具であって、本体(1)の上部周縁部に溝(8)を設け、ストッパー(4)に設けた弾性変形可能な掛止部(6a)を、前記溝(8)の中に設けた被掛止部(9a)に係合させることにより、ストッパー(4)が抜けないようにし、かつ、本体(1)の上部周縁部に差し込み穴(11)を設け、この差し込み穴(11)に入れたキー(10)を横にスライドして前記掛止部(6a)を弾性変形させることにより、前記掛止部(6a)と被掛止部(9a)との係合がはずれてストッパー(4)によるCDケース(2)の着脱防止を解除できるようにすると共に、本体(1)の後面に穴(12)を設け、前記解除時にこの穴(12)からCDケース(2)を前方に押し出せるようにしたことを特徴とするCDケース保持具(請求項1)。 2 本件発明の構成要件を分説すれば、次のとおりである。 A 前方に開放部(3)を設けてCDケース(2)を挿脱自在とした本体(1)の周縁部に、ストッパー(4)と支持片(13)を互いに対向する位置に設け、これらストッパー(4)と支持片(13)により、本体(1)に収容したCDケース(2)の前記開放部(3)からの離脱を防止するようにしたCDケース保持具であって、 B 本体(1)の上部周縁部に溝(8)を設け、ストッパー(4)に設けた弾性変形可能な掛止部(6a)を、前記溝(8)の中に設けた被掛止部(9a)に係合させることにより、ストッパー(4)が抜けないようにし、 C かつ、本体(1)の上部周縁部に差し込み穴(11)を設け、この差し込み穴(11)に入れたキー(10)を横にスライドして前記掛止部(6a)を弾性変形させることにより、前記掛止部(6a)と被掛止部(9a)との係合がはずれてストッパー(4)によるCDケース(2)の着脱防止を解除できるようにすると共に、 D 本体(1)の後面に穴(12)を設け、前記解除時にこの穴(12)からCDケース(2)を前方に押し出せるようにした E ことを特徴とするCDケース保持具 3 被告は、少なくとも過去においては、別紙「イ号物件説明書」記載のCDケース保持具(以下「イ号物件」という。)を業として製造し、販売し、販売のために展示していた。 4 イ号物件は、本件発明の構成要件A、B、D及びEをいずれも充足する。 (争点) 1 構成要件Cの充足性 (原告の主張) (1) 「差し込み穴(11)に入れたキー(10)を横にスライドして」とは、本体1との関係において横にスライドさせることをいう。本件発明では、CDケース保持具(すなわち本体)の前方を開放部(3)と称し、その反対側を後面と称している。そして、本体(1)の上部の装着部(5)が設けられるところを上部周縁部と称し、当該部分の前方視左側を図1の左側と称し、右側を右側と称しており、そこで、上記装着部を平面視として「横」と称しているだけである。 (2) 被告主張の「差し込み穴に入れたキーを入れた方向に押し込む」ということも、同キーを前方視で横にスライドさせているから、イ号物件は構成要件Cを充足する。 (被告の主張) (1) 「差し込み穴(11)に入れたキー(10)を横にスライドして」とは、本件発明の特許出願の経過やその明細書の記載に照らし、キーを差し込み穴の正面から奥に差し込んだ後に行う、差し込み方向から90度角度を変えた方向にずらす二段階目の操作をいい、キーを差し込み穴に入れ、差し込み方向に押し込むだけの操作はこれに含まれない。 (2) イ号物件は、差し込み穴に入れたキーを入れた方向に押し込むものであり、横にスライドさせるものではないから、構成要件Cを充足しない。 2 差止めの必要性 (原告の主張) 被告は、現在も、イ号物件を業として製造し、販売し、販売のために展示している。 (被告の主張) 否認する。被告は、現在はイ号物件の製造、販売、展示を中止している。 3 原告の損害 (原告の主張)2400万円(30×800000) (1) 原告の利益率は1個当たり30円である。 (2) 被告が平成10年8月から同12年7月までの間に製造し、販売し、販売のために展示したイ号物件の数量は合計80万個である。 (被告の主張) いずれも否認する。 |
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判断-争点1について
1 本件発明の構成要件Cにおいては、「差し込み穴(11)に入れたキー(10)を横にスライド」するものとされているが、ここにいう「横にスライド」について、原告は、本体1との関係において横にスライドさせることをいうと主張するのに対し、被告は、キーを差し込み穴の正面から奥に差し込んだ後に行う、差し込み方向から90度角度を変えた方向にずらす二段階目の操作をいうと主張するので、 検討する。 (1) 本件発明の特許請求の範囲の記載によれば、本件発明のCDケース保持具は、本体1の上部周縁部に設けた溝8の中に設けた被掛止部9aと、ストッパー4に設けた弾性変形可能な掛止部6aを係合させることによってストッパー4が抜けないようにするとともに、本体1の上部周縁部に設けた差し込み穴11に入れたキー10を横にスライドして掛止部6aを弾性変形させることにより、掛止部6aと被掛止部9aとの係合がはずれてストッパー4によるCDケース2の離脱防止を解除できるようにするという構成を備えているものであるが、特許請求の範囲の記載からは、「横にスライド」の横が何に対して横か(あるいは、どのような方向から見て横か)明らかでなく、「横にスライド」の意義が自明であるとはいえない。 (2) そこで、本件明細書の発明の詳細な説明と図面をみると、次のような記載があることが認められる(甲2。別紙特許公報(以下「本件公報」という。)参照)。 ア 本件発明の課題及び解決するための手段 本件発明は、CD(コンパクトディスク)の販売店やレンタル店等で、 CDの入ったケースを陳列するときに使用され、本体後面内側に盗難検知用タグを取り付けたCDケース保持具に関するものであるが、従来あったCDケース保持具では、CDケースに穿たれた穴に掛着する鉤状部を有するストッパーを側部に設けたものがあり、これではストッパーの鉤状部がCDケースの包装フィルムを突き抜くので、包装フィルムが破れるという問題があった。本件発明は、ストッパーがCDケースの包装フィルムを突き抜くことがないCDケース保持具を提供することを課題とするものであり、この課題を解決するために特許請求の範囲記載のような技術的手段を採用したものである(本件公報【0001】〜【0008】)。 イ 本件発明の効果 本件発明は、「ストッパー4と支持片13により、CDケースを包装フィルムを突きぬくことなく本体内に本体内に保持することが可能で、しかも、ストッパーを解除し、後面の穴からCDケースを前方に押し出すことにより、本体からCDケースを取り出すことができる。」との効果を奏する(本件公報【0046】)。 ウ 実施例の記載 【実施例】の項には、本件発明の実施例が説明されており、図1ないし6には実施例のCDケース保持具、ストッパー及びキーが示されている。そして、 実施例の説明として、「本体1の後面には、図2に示すように、前記掛止部6aと前記被掛止部9aとの係合を解除するためのキー10の差し込み穴11を、前記各被掛止部9aの正面より横にずれた位置に設けている。」(本件公報5欄16行〜19行)、 「ストッパー4を取り外すときは、まず、図5に示すような屈曲した2つの差し込み部14を有するキー10を前記差し込み穴11から入れる。そして、図6に示すように、キー10をこの図の右方向にスライドさせる。」(本件公報5欄41行〜44行)、「前記差し込み穴11が掛止部6aの正面からずれた位置に設けられているため、ストッパー4の掛止部6aと装着部5の被掛止部9aとの係合を解除するには、屈曲した差し込み部14を有するキー10を差し込み穴11から入れ、横にスライドさせる必要があるので、前記キー10の代わりに例えば指の爪や爪楊枝のようなもので前記係合を解除することは極めて困難である。」(本件公報6欄6行〜12行)との記載がある。 (3) 本件明細書の前記記載によれば、本件発明は、前記(2)アのような従来技術の課題を解決するために、特許請求の範囲記載の技術的手段を採用し、そのことにより同イ記載のような効果を奏するものであるところ、本件発明の差し込み穴とキーの構成は、CDケース保持具本体とCDケースの離脱防止のためのストッパーの係合及び解除に関わり、本件発明の課題解決手段を基礎づける具体的な技術手段の一部をなすものであるということができる。そして、「差し込み穴11に入れたキー10を横にスライドさせる」点については、実施例の項に記載されているように、 本体1の上部周縁部に設けた差し込み穴11がストッパー4の掛止部6aの正面からずれた位置に設けられているために、ストッパー4の掛止部6aと装着部5の被掛止部9aとの係合を解除するには、屈曲した差し込み部14を有するキー10を差し込み穴11から入れ、「横にスライドさせる」必要があるというところに、その技術的意義が明らかにされていると認められる。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載に照らせば、 「横」の概念は、本件明細書上、「差し込み穴11」に関連させて記載されたことが明らかというべきである。 原告は、「横にスライド」とは本体1との関係において横にスライドさせることをいうと主張するが、本件明細書の発明の詳細な説明中には、「差し込み穴11に入れたキー10を横にスライドする」ことに関して「横」の意義を説明した記載はなく、原告が主張するように本体と関連させて「本体1との関係において横にスライドさせる」ことを示唆するような説明もない。もっとも、本件明細書では、特許請求の範囲中に「前方に開放部(3)を設けて」「後面に穴(12)を設け」とあり、発明の詳細な説明中に「本体1の周縁部の下部左右の前面側コーナー」(本件公報5欄24行)などとあるように、本体に関して前後、左右の方向が記載されており、一般に「横」とは「前後に対して、左右の方向・位置」(岩波書店「広辞苑」第5版)を意味するから、原告主張のような解釈も一般論としては成り立たないわけではない。しかし、本件明細書においては、前記のとおり、「横にスライド」を本体に関連させた記載はなく、また、「横にスライド」の「横」の意義を単に本体に関して横(装着部を平面視として「横」と称する)と解したのでは、本件発明の特許請求の範囲に「差し込み穴(11)に入れたキー(10)を横にスライドして」と記載されていることの技術的意義が不明になるといわざるを得ない。 以上によれば、構成要件C「差し込み穴(11)に入れたキー(10)を横にスライドして」とは、差し込み穴(11)に入れたキー(10)を入れた方向に対して横(直角方向)にスライドすることをいうと解するのが相当である。これと異なる原告の前記主張は、本件明細書の記載に基づかないものであって、採用することができない。 2 イ号物件においては、当事者間に争いのない別紙イ号物件説明書の記載によれば、「差し込み穴11から挿入された差し込み部14-1、14-2、14-3によりストッパー4の掛止部6a-1、6a-2、6a-3をそれぞれ押し上げながら弾性変形させ」る構造(別紙イ号物件説明書2(ハ))を有するものであるから、差し込み穴に入れたキーを入れた方向に対して更に挿入するものであり、先にみた本件発明の構成要件Cのように、差し込み穴に入れたキーをキーを入れた方向に対して横(直角方向)にスライドさせるというものではない。 したがって、イ号物件は本件発明の構成要件Cを充足しない。 |
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結論
以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。 |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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裁判官 | 中平健 |
裁判官 | 田中秀幸 |