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関連ワード 発明者 /  実施 /  権原 /  構成要件 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (ワ) 14364号 特許権侵害差止請求事件
原告 春日製紙工業株式会社
訴訟代理人弁護士 横山寛
補佐人弁理士 岩堀邦男
被告 丸富製紙株式会社
訴訟代理人弁護士 安原正之
同 佐藤治隆
同 小林郁夫
補佐人弁理士 福田武通
同 福田賢三
同 福田伸一
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/08/31
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は別紙物件目録1記載の装置を使用してはならない。
事案の概要及び争点
1 争いのない事実 (1) 原告の有する特許権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,特許請求の範囲請求項1記載の発明を「本件発明」という。また,本件特許に係る明細書を「本件明細書」という。)を有している。
ア 発明の名称 芯なしトイレットペーパーロールの製造装置 イ 出願日 平成4年11月26日 ウ 出願番号 平4-341258 エ 出願公告日 平成8年2月21日 オ 出願公告番号 平8-15959 カ 登録日 平成10年6月19日 キ 特許番号 第2136894号 ク 特許請求の範囲請求項1 「原反ロールから繰り出されたペーパーを,巻取初期に水を噴霧して巻軸表面に仮接着させ,その後水を噴霧することなく,巻軸上に巻取ってトイレットペーパーロールにする巻取装置に,巻軸が装着されたままのペーパーロールを前記水が乾燥するに必要な時間保存しておくための保存設備と,該保存設備で最内層のペーパーが乾燥されたペーパーロールから巻軸を抜取る抜取り装置とを付設したことを特徴とする芯なしトイレットペーパーロールの製造装置。」 (2) 本件発明は,次のように分説される。
A 原反ロールから繰り出されたペーパーを,巻取初期に水を噴霧して巻軸表面に仮接着させ,その後水を噴霧することなく,巻軸上に巻取ってトイレットペーパーロールにする巻取装置に B 巻軸が装着されたままのペーパーロールを前記水が乾燥するに必要な時間保存しておくための保存設備と C 該保存設備で最内層のペーパーが乾燥されたペーパーロールから巻軸を抜取る抜取り装置とを付設した D ことを特徴とする芯なしトイレットペーパーロールの製造装置 (3) 被告は,芯なしトイレットペーパーロールの製造装置(以下「被告装置」という。)を業として使用している。
(4) 被告装置は,構成要件Dを充足する。
2 本件は,本件特許権を有する原告が,被告に対し,被告装置を使用して芯なしトイレットペーパーを製造している行為は,本件特許権を侵害するものであると主張して,その使用の差止めを求める事案である。
3 争点 (1) 被告装置の構成 (2) 被告装置が構成要件AないしCを充足するか。
4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)について 【原告の主張】 被告装置の構成は,別紙物件目録1記載のとおりである。
【被告の主張】 被告装置の構成は,別紙物件目録2記載のとおりである。
【原告の反論】 ア 被告装置の巻取装置は,ペーパーの端始から水を噴霧している。先端から12.5〜14p巻き取った時点から水の噴霧を開始するのではない。
イ 被告装置において,巻軸を装着したままのトイレットペーパーロールが,前工程のテールカット部から加熱成形装置に送り込まれ,次工程の巻軸抜取り装置へ送り出されるまでの保存時間は5分43秒であり,4分40秒ではない。
ウ 被告装置のアキュムレータは,滞留装置とも呼ばれ,前後の工程の作業効率を落とさないように,中間製品を溜め置く装置であり,保存乾燥装置ではない。
(2) 争点(2)について 【原告の主張】 被告装置は,原反ロールから繰り出されたトイレットペーパーを,トイレットペーパーの端始から水を噴霧して巻軸表面に仮接着させ,その後水を噴霧することなく,巻軸上に巻き取ってトイレットペーパーロールにする巻取装置を有するから,構成要件Aを充足する。
被告装置は,巻軸が装着されたままのトイレットペーパーロールを,水がある程度乾燥するのに必要な時間保存しておくための保存設備(別紙物件目録2記載の加熱成形装置)を有するから,構成要件Bを充足する。
被告装置は,上記保存設備で最内層のペーパーが乾燥されたペーパーロールから巻軸を抜き取る抜取り装置を有するから,構成要件Cを充足する。
【被告の主張】 ア 本件発明の装置は,ペーパーの巻取初期に水を噴霧することによって,ペーパーを巻軸表面に仮接着させて,ペーパーと巻軸との間に大きな摩擦を生じさせ,その摩擦を利用してペーパーを巻軸に巻き取って,トイレットペーパーロールにするが,トイレットペーパーロールから巻軸を抜き取るときには,ペーパーと巻軸との間の摩擦が邪魔になるので,保存設備で巻き取ったトイレットペーパーロールを保存して,水を乾燥させ,摩擦がなくなったところで,トイレットペーパーロールから巻軸を抜き取る装置である。
被告装置においては,ペーパーの巻取初期に水を噴霧して,ペーパーを巻軸表面に仮接着させなくとも,ペーパーを巻軸に巻き取ることができるし,また,巻軸の表面にフッ素樹脂テープを貼り付けてあるため,ペーパーの水を乾燥させなくとも,トイレットペーパーロールから巻軸を抜き取ることができる。そのため,被告装置では,ペーパーをその先端から12.5〜14p巻き取った時点から水を噴霧していて,ペーパーの「巻取初期に水を噴霧して」いないし,ペーパーを「巻軸表面に仮接着」させていない。また,被告装置では,トイレットペーパーロールから巻軸を抜き取る前に,トイレットペーパーロールの水を乾燥させる必要はないので,そのような乾燥をするための保存設備はなく,トイレットペーパーロールの内周部分を乾燥させることなく水を噴霧した状態で巻軸からトイレットペーパーロールを抜き取っている。被告装置の加熱成形装置は,トイレットペーパーの芯部分を成形するための装置であって,トイレットペーパーロールの水を乾燥させることはない。
したがって,被告装置は,構成要件AないしCのいずれも充足しない。
イ 本件発明の構成要件B及びCの「乾燥」は室温による自然乾燥を意味するところ,被告装置の加熱成形装置において「乾燥」が生じているとしても,それは,加熱による乾燥であって,室温による自然乾燥ではないから,構成要件B及びCを充足しない。
【原告の反論】 本件発明の「保存設備」の奏する効果は,巻軸とトイレットペーパーロールの分離が円滑に行えることとともに,ロール形状が崩れない芯なしトイレットペーパーロールが得られることにある。被告装置において、加熱成形装置を経由しないで巻取り直後にトイレットペーパーロールから巻軸を抜き取ることがスムーズにできるとしても,加熱成形装置を経由しなければ,ロール形状が崩れないトイレットペーパーロールは得られない。このように被告装置は本件発明の「保存設備」を備えている。
当裁判所の判断
1 争点(1)について 証拠(乙2,3,5)及び弁論の全趣旨によると,被告装置には巻取装置,加熱成形装置,巻軸抜取り装置が存すること,巻取装置は巻軸に原反ロールから繰り出されたペーパーを巻き取るに際し,水を噴霧して加湿するが,その後水を噴霧することなくペーパーを巻軸上に巻き取ってトイレットペーパーロールとする装置であること,加熱成形装置は,巻取装置の下流に位置し,トイレットペーパーを巻き取った状態の巻軸を順次段階的に移動させ,巻軸内部のヒーターに給電することによって加熱する装置であること,巻軸抜取り装置は,加熱成形装置の下流に位置し,トイレットペーパーロールから巻軸を抜き取る装置であること,以上の事実が認められる。
2 争点(2)について (1) 本件明細書(甲2)によると,【発明が解決しようとする課題】の欄に,「本発明者は芯なしトイレットペーパーロールを製造するため,ウエブを巻軸に巻付ける当初に水を噴霧して,ウエブと巻軸およびウエブの初期巻取層を仮接着させることを提案している(特開平4-209156号公報)。この製法によれば,ロールの巻取りを完了すれば,ペーパーロールから巻軸を抜き取る際,噴霧された水分によって,巻軸とウエブ初期(内側)巻取層が付着したままになって,抜き取りができないか,あるいは無理に抜取るとロール形状が崩れて,製品として使いものにならなくなるという問題があった。本発明はかかる事情に鑑み,巻取り完了後の巻軸とペーパーロールの分離が円滑に行え,ロール形状が崩れずきれいに仕上る芯なしトイレットペーパーロールの製造装置を提供することを目的とする。」との記載があり,【作用】の欄に,「本発明の芯なしペーパーロールの製造装置では,巻取装置にて,原反ロールから繰り出されたペーパーを巻軸に巻き付け,かつ巻取初期に水を噴霧して巻軸とウエブおよびウエブの初期巻取層を仮接着すると共に,続いて水を噴霧することなくウエブを巻軸上に巻き取って,所定巻取径のトイレットペーパーロールを作り,つぎに保存設備により,巻取りを完了したペーパーロールを,巻軸が装着されたままの状態で所定時間保存して,前記巻取初期に噴霧した水分を乾燥させる保存工程を実行し,水分が乾燥した後に,抜取り装置によって巻軸からペーパーロールを抜き取って,芯なしペーパーロールを作ることができる。そのため,本発明によれば,巻取工程で噴霧した水分が保存工程で所定時間経過する間に乾燥するので,抜取り工程で巻軸からペーパーロールを抜き取るとき,巻軸とペーパーロールの最内層との摩擦が極く小さくなっているので,抜き取りが円滑に行え,トイレットペーパーロールの形崩れがしない。」との記載がある。さらに【実施例】の欄に,「前記保存設備20におけるペーパーロールRの収容本数は巻取完了後のペーパーロールから水分が蒸発して乾燥するまでの時間と,その間に巻取装置10で製造されるペーパーロールRの本数から決定される。ペーパーロールRの乾燥時間もウェブWの紙質や噴霧水量によって変動するが,一例としては約17分である。」,「つぎに保存工程103に入り,巻取りの完了したペーパーロールRを中心に巻軸1を装着したままで,例えば17分間保存しておく。この間に噴霧された水分は蒸発していき,巻軸1表面とペーパーロールR最内層との間の水気による付着状態は無くなり,乾いて付着していない状態となる。もちろん,巻軸1の回りにペーパーロールRが巻付いているので,物理的には接触しているが,接着はしていない状態である。」,「つぎに抜き取り工程104で巻軸1とペーパーロールRを分離することになるが,上記のごとく巻軸1とペーパーロールRの間は乾いているので,大きな摩擦が発生せず,巻軸1を引き抜いてもペーパーロールRの形状に形崩れは生じない。このとき,巻軸1が本発明者の考案に係る前記実開平4ー31754号公報記載のエアーシャフトであれば,外形が半径方向に収縮するので,より円滑に抜取りを行いうる。ただし,上記のエアーシャフトでなく外形の収縮しない巻軸を用いた場合も,ロールの形崩れを起こさないで抜きとることが可能となる。」との記載があり,【発明の効果】の欄に,「本発明によれば,巻軸とペーパーロールの分離が円滑に行え,ロール形状が崩れない芯なしトイレットペーパーロールが得られる。」との記載がある。 以上を総合すると,本件発明における「巻軸表面に仮接着」(構成要件A)とは,水分によりペーパーが巻軸に張り付いているために,トイレットペーパーロールから巻軸を抜き取ることができないか,又は,無理に抜き取るとロール形状が崩れて,製品として使いものにならなくなる状態を意味し,「水が乾燥するに必要な時間保存」(構成要件B)とは,水分の乾燥によって,上記の状態が解消されて,トイレットペーパーロールから巻軸を円滑に抜き取ることができるようになるまで保存することを意味し,「保存設備」(構成要件B)は,このような保存のための設備を意味するものと解される。
(2) 証拠(乙2,3,5)及び弁論の全趣旨によると,被告装置においては,水を噴霧したペーパーの巻取直後で加熱成形装置への移動前においても,巻軸にペーパーが付着することなく,トイレットペーパーロールから巻軸を円滑に抜き取ることができることが認められる。なお,証拠(甲16の1ないし9,検甲1)及び弁論の全趣旨によると,原告が使用している芯なしトイレットペーパーロールの製造装置においても,巻取り後0分経過後でも巻軸からトイレットペーパーロールを抜き取ることが可能であることが認められ,この事実は,被告装置に関する上記事実を裏付けるものということができる。 そして,被告装置において,巻取初期には,巻軸にペーパーが付着しており,トイレットペーパーロールから巻軸を円滑に抜き取ることができない状態が生じ,その後,上記の巻取直後の状態が生じたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,被告装置において,巻取初期に「巻軸表面に仮接着」(構成要件A)の状態が生じているとは認められないから,被告装置は,構成要件Aを充足しない。
また,被告装置において,水を噴霧したペーパーの巻取直後における状態が上記のようなものであることからすると,被告装置の加熱成形装置は,水分を乾燥させることによって,「水分によりペーパーが巻軸に張り付いているために,トイレットペーパーロールから巻軸を抜き取ることができないか,又は,無理に抜取るとロール形状が崩れて,製品として使いものにならなくなる」状態が解消されて,トイレットペーパーロールから巻軸を円滑に抜き取ることができるようにするための保存設備でないことは明らかであるから,「保存設備」(構成要件B)に当たるものではない。よって,被告装置は,構成要件Bを充足しない。
(3) 原告は,本件発明の「保存設備」の奏する効果は,巻軸とトイレットペーパーロールの分離が円滑に行えることとともに,ロール形状が崩れない芯なしトイレットペーパーロールが得られることにあると主張する。確かに,上記(1)認定のとおり,本件明細書の【発明の効果】の欄には「ロール形状が崩れない芯なしトイレットペーパーロールが得られる」との記載があり,また,本件明細書の他の部分にも「ロール形状の形崩れ」の防止について記載されているが,上記(1)認定の本件明細書の記載によると,ここでいう「ロール形状の形崩れ」とは,水分によりペーパーが巻軸に張り付いているために,トイレットペーパーロールから巻軸を抜き取ることができず,それでも無理に抜き取ることによって生じるロール形状の形崩れを意味しているものと認められる。本件明細書(甲2)には,このようなロール形状の形崩れの防止については記載されているが,トイレットペーパーロールから巻軸を円滑に抜き取ることができるにもかかわらず,ペーパーの内層に水分が含まれていることによって生じるロール形状の形崩れについては,全く記載されていないから,本件発明の「保存設備」が,そのようなロール形状の崩れを防止するためのものとは認められない。
3 よって,その余の争点について判断するまでもなく原告の請求は理由がない。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 内藤裕之
裁判官 上田洋幸