審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成14ワ25697特許権侵害に基づく損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ11906特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18ワ13040特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ10170特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19ワ11944特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 協議 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 共有 / 抵触 / 対象製品 / 特許発明 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 販売数量(販売数) / 実施料 / 実施許諾(実施の許諾) / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 代理権 / |
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事件 |
平成
12年
(ワ)
8267号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 新倉計量器株式会社 原告 株式会社村春製作所 原告ら訴訟代理人弁護士 高橋隆二 原告ら補佐人弁理士 元井成幸 被告 タムラ産業株式会社 訴訟代理人弁護士 及川信夫 補佐人弁理士 忰熊弘稔 被告 株式会社アイティーオー 訴訟代理人弁護士 青山學 同 井口浩治 同 加藤文子 同 石川恭久 同 平林拓也 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2001/08/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1(1) 被告タムラ産業株式会社は,別紙物件目録(1)記載の製品を製造,販売してはならない。 (2) 被告タムラ産業株式会社は,その占有する上記製品及び上記製品を製造するための金型を廃棄せよ。 (3) 被告株式会社タムラ産業株式会社は,原告新倉計量器株式会社に対し,金682万4519円及びこれに対する平成12年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2(1) 被告株式会社アイティーオーは,別紙物件目録(1)記載の製品を販売してはならない。 (2) 被告株式会社アイティーオーは,その占有する上記製品を廃棄せよ。 (3) 被告株式会社アイティーオーは,原告新倉計量器株式会社に対し,金116万0888円及びこれに対する平成12年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告新倉計量器株式会社の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用については,原告新倉計量器株式会社に生じた費用の3分の1と被告らに生じた費用の9分の2を原告新倉計量器株式会社の負担とし,原告株式会社村春製作所に生じた費用と原告新倉計量器株式会社及び被告らに生じたその余の費用を被告らの負担とする。 5 この判決の第1項及び第2項は,仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 主文1(1),(2),同2(1),(2)と同旨 2 被告株式会社タムラ産業株式会社は,原告新倉計量器株式会社に対し,金3000万円及びこれに対する平成12年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告株式会社アイティーオーは,原告新倉計量器株式会社に対し,金1360万円及びこれに対する平成12年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要等
1 争いのない事実等 (1) 当事者 ア 原告新倉計量器株式会社(以下「原告新倉」という。)は,計量器販売等を目的とする株式会社であり,原告株式会社村春製作所(以下「原告村春」という。)は傘袋自動装着装置の卸等を目的とする株式会社である。 イ 被告タムラ産業株式会社(以下「被告タムラ」という。)は,自走式,機械式立体駐車場の駐車装置等の販売等を目的とする株式会社であり,被告株式会社アイティーオー(以下「被告アイティーオー」という。)は,文房具,事務用品,オフィス用品,事務用器具及び家具類の製造並びに販売等を目的とする株式会社である。 (2) 原告らが有する特許権 ア 原告らは,以下の特許権(以下,その特許権を「本件特許権」といい,その特許発明を「本件発明」という。)を共有している。 【発明の名称】 傘の袋収納装置 【特許番号】 第2562806号 【出願日】 平成6年1月20日 【公開日】 平成7年8月8日 【登録日】 平成8年9月19日 【特許請求の範囲】 装置本体に傘の収納袋を装填し,その収納袋の挿入口を開放する開放操作部材を装置本体内に回動可能に設け,その開放操作部材に傘の先端を当接させて回動させることによって上記収納袋の挿入口を開放すると共に,上記開放操作部材に当接させた傘の先端を該開放操作部材の表面を滑らせながら上記挿入口から収納袋内に押し込んで収納するように構成したことを特徴とする傘の袋収納装置。 イ 本件発明の構成要件を分説すると,以下のとおりである。 A 装置本体に傘の収納袋を装填し, B その収納袋の挿入口を開放する開放操作部材を装置本体内に回動可能に設け, C その開放操作部材に傘の先端を当接させて回動させることによって上記収納袋の挿入口を開放すると共に, D 上記開放操作部材に当接させた傘の先端を該開放操作部材の表面を滑らせながら上記挿入口から収納袋内に押し込んで収納するように構成したことを特徴とする E 傘の袋収納装置 (3) 被告製品の製造販売 ア 被告タムラは,別紙物件目録(1)記載の傘袋収納装置(以下「被告製品」という。)を,平成7年6月末ころから製造販売している。 イ 被告アイティーオーは,有限会社アマノタイムサービス(以下「アマノタイムサービス」という。)及び被告タムラから被告製品を仕入れて,平成11年5月から平成12年10月までの間に販売した。 ウ アマノ株式会社(以下「アマノ」という。)は,被告タムラから被告製品を仕入れて販売していた。 2 事案の概要 本件は,被告製品の製造販売が本件特許権を侵害するとして,原告らが被告らに対して,被告製品の製造販売の差止め等を求めるとともに,原告新倉が被告らに対し損害賠償を求めている事案である。 3 本件の争点 (1) 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するかどうか (2) 原告らとアマノとの間の特許権実施契約によって,被告製品の製造販売に関する被告タムラの責任はないといえるかどうか (3) 原告らが被った損害額及び差止請求の成否 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点(1)について 【原告らの主張】 (1) 被告製品の具体的構成は,別紙物件目録(1)記載のとおりであるところ,以下に述べるとおり,同製品は,本件発明の技術的範囲に属する。 ア 被告製品の収納装置本体1の内部には,傘の収納袋である傘袋6を装填する構成を有しているから,本件発明の構成要件Aを充足する。 イ 被告製品の第1当て板12,第2当て板14及び舌状板16には,それぞれ互いに連結されてバネ付蝶番11,13,15によって回動可能に設けられ,舌状板16の先端は,傘袋挿入口17を回動によって開放する構成となっているので,本件発明の構成要件Bを充足する。 ウ 被告製品の舌状板16は,傘の先端を第1当て板12又は第2当て板14に当接させて下方に押圧することにより傘袋挿入口17を開放するものであるから,本件発明の構成要件Cを充足する。 エ 被告製品の傘挿入口5に挿入された傘の先端は,第1当て板12及び第2当て板14の表面を滑りながら開放された傘袋挿入口17から傘袋6内に収納されるので,本件発明の構成要件Dを充足する。 オ 被告製品は,傘袋6を収納する装置であるから,本件発明の構成要件Eを充足する。 カ 被告製品は,モータ等を用いることなく傘を袋内にワンタッチで容易に収納することができる効果を有する点で本件発明と同一の効果を有している。 (2) なお,構成要件BないしDの「開放操作部材」は,「その収納袋の挿入口を開放する開放操作部材」と記載されているとおり,挿入口を開放する機能を有する部材として特定されている。そして,被告製品の第1当て板12,第2当て板14及び舌状板16は,3つの蝶番によって連結しながら,それぞれ回動可能に構成されており,それらの部材は収納袋の挿入口を開放する機能を有しているから,被告製品は,本件発明の構成要件BないしDの「開放操作部材」を充足する。 【被告タムラの主張】 被告タムラは,別紙特許公報記載の特許権(以下「被告タムラ特許権」という。)を有している。被告タムラ特許権と本件特許権とは先後願の関係にあり,後願の被告タムラ特許権の出願が先願の本件発明の技術的範囲内に属するとすれば,審査過程で拒絶理由通知が発せられるところ,被告タムラ特許権の出願過程においては,このような通知はされていない。したがって,特許庁は,両者を同一であるとは考えていなかったということである。そして,被告製品は,被告タムラ特許権の実施品であるから,同製品は,本件特許権に抵触しないというべきである。 【被告アイティーオーの主張】 (1) 本件発明の構成要件BないしD各記載の「開放操作部材」という用語は造語であり,その意味するところは一義的明確であるとはいえないところ,当該用語を解釈するについては,特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮する必要がある。 本件特許に係る明細書中の発明の詳細な説明によると,本件発明でいう「開放操作部材」は,板状のもので,先端部は平面略三角形状に,かつ下向きに屈曲形成され,中央部は凹部状で,先端部の反対側の両側部には内向きコ字形の屈曲部が形成されているものであることが示されている。そうすると,本件発明における「開放操作部材」とは,@先端部は平面略三角形状に,かつ下向きに屈曲形成され,A中央部は凹部状で,B先端部の反対側の両側部には内向きコ字形の屈曲部が形成されている,C1枚の板状のものを意味するというべきである。 (2) 以上を前提として,被告製品をみると,別紙物件目録(1)記載のbないしdの各部分は,2枚のL字形の板(第1当て板12,第2当て板14)と1枚の舌状板16によって構成されており,上記の本件発明に係る「開放操作部材」の@ないしCの特徴のいずれも備えていない。したがって,被告製品は,本件発明の構成要件BないしDを充足せず,本件発明の技術的範囲に属しないから,被告アイティーオーの販売は,本件特許権を侵害する行為ではない。 2 争点(2)について 【被告タムラの主張】 (1)ア 原告らは,平成9年1月30日付けで,アマノとの間で,平成7年10月4日以降に販売した被告製品に対し,1台当たり3000円の特許実施料を支払うこと等を内容とする特許権実施契約(以下「本件特許実施契約」という。)を締結した。同契約締結について,被告タムラは,アマノに対し,代理権を授与した。 被告タムラは,アマノからの要請に基づいて,アマノを通じて,原告らに対し,本件特許実施契約に定められた1台当たり3000円の特許実施料を支払った。 イ 同一商品につき,既に特許実施料が支払済みであるのに,なおも取扱者が異なる毎に実施料を収受できるとすると,商品流通を妨げ,産業発達を阻害するのみならず,特許権者に不当な利益をもたらすことになるから,許されない。 (2) なお,原告らは,本件特許実施契約において,アマノから製造元の開示を受けていない旨主張するが,実施料を収受するからには対象商品がどこの製品であるかについて議論されないことはない。また,専門業者である原告らが,アマノが販売している製品が,被告タムラの製造した製品である事実を知らないはずがない。 【原告らの主張】 (1) 特許製品の流通業者が,その販売行為について特許権者から実施許諾を得た場合,その特許製品の仕入先の製造又は販売の各行為につき特許権の効力が及ぶか否かは当該実施契約の解釈の問題である。特許権侵害の違法行為があった後に特許製品の一流通業者との交渉に基づいて,過去の販売行為及び在庫品の処分につき特許権者に金銭を支払う旨の和解がされた場合は,当該違法行為の金銭的清算を目的とするものであるので,製造元の違法行為を宥恕する旨の特別の意思表示がない限り,仕入先の特許権侵害に関する責任が消滅することはない。 原告らがアマノとの間で本件特許実施契約を締結したことは認めるが,この契約はアマノの実施行為(販売行為)のみを対象とするものであること,契約当事者は原告らとアマノであること,その実施料は低額であること,この契約締結に当たって,アマノは,製造元を開示したことはないこと,この契約の内容等からすると,この契約によって,原告らが被告タムラの特許権侵害の責任を免除したものではない。 (2) 仮に被告タムラが本件特許実施契約に基づく実施料を負担していたとしても,それは,被告タムラが,アマノとの売買契約に基づき瑕疵担保責任を履行したにすぎず,当該支払は,原告らとの関係で何ら法的な影響を与えるものではない。 3 争点(3)について 【原告らの主張】 (1) 被告タムラに対する損害賠償請求及び差止請求 ア 損害賠償請求について (ア) 被告タムラは,本件特許権の登録日の後である平成8年10月18日から平成12年6月29日までの間に被告製品を458台販売し,その販売額総額は1776万1000円である。 (イ) また,平成12年7月以降については,被告タムラが平成12年11月17日付け文書提出命令に違反して被告製品の製造販売数量等が記載された帳簿を提出しないから,原告らの主張が真実であると認められるべきである。そうすると,被告タムラは,50か月(平成8年9月から平成12年11月まで)に被告製品を少なくとも1億円販売したのであるから,平成12年7月1日から同年11月までの5か月間の販売金額は,1000万円ということになる。 (ウ) 以上によると,被告タムラは,被告製品を2776万1000円販売したこととなる。 (エ) 被告タムラが,平成8年10月18日から平成12年6月29日までの間に販売した被告製品の粗利益は,合計851万5513円であるから,その利益率は,47.9パーセントである。 (オ) したがって,被告タムラが被告製品の販売により得た利益額は,販売総額に利益率を乗じた1329万7519円となり,原告らは,同額の損害を被った。 イ 差止請求について 被告タムラは,侵害論,損害論のいずれについても原告らの主張を争っており,上記のとおり文書提出命令に従って文書を提出していないのであり,被告製品についての金型廃棄の事実も明らかでないから,なお被告製品を製造販売するおそれがある。 (2) 被告アイティーオーに対する損害賠償請求及び差止請求 ア 損害賠償請求について (ア) 被告アイティーオーは,被告製品をアマノタイムサービス及び被告タムラから仕入れて,平成11年5月から平成12年10月までの間に合計248台販売した。 (イ) 被告アイティーオーは,アマノタイムサービス及び被告タムラから1台3万9000円で仕入れた。被告アイティーオーの1台当たりの平均販売価格は4万3681円である。 (ウ) そうすると,被告アイティーオーが得た利益額は,116万0888円(4681円×248台)であり,原告らは,同額の損害を被った。 イ 差止請求について 被告アイティーオーは,侵害論について原告らの主張を争っており,在庫を8台有するから,なお被告製品を販売するおそれがある。 (3) 原告らの被告らに対する損害賠償請求権の帰属関係 原告村春製作所(以下「原告村春」という。)は,平成12年4月3日,原告新倉に対し,被告らに対する本件特許権侵害行為による過去の損害賠償請求権及び将来の本件訴訟終了までの損害賠償請求権のうち,原告村春が有する損害賠償請求権を譲渡し,被告タムラに対して平成12年4月28日に,被告アイティーオーに対して平成12年4月27日に,それぞれ本件訴状をもって通知した。 【被告タムラの主張】 (1) 損害賠償請求について ア 原告新倉の主張は,すべて争う。 イ 被告タムラは,被告製品を合計1139台製造販売した。そのうち,362台は,平成7年10月4日より前の製造販売分であり,631台については,前述のとおり,アマノを通じて原告らに対し,特許権実施料を支払っている。 ウ 被告タムラがアマノを介さないで販売した被告製品は,被告アイティーオーに対して40台,アマノタイムサービスに対して106台のみである。 エ 加工労賃として1個当たり1万円程度が必要であるので,損害額算定に当たって,その点が考慮されるべきである。 (2) 差止請求について ア 被告タムラは,被告製品の金型を廃棄した。 イ 被告タムラが平成12年4月以降に製造販売している製品は,別紙物件目録(2)記載の製品(以下「被告新製品」という。)であり,被告製品とは別個の物である。被告新製品は,原告らの本件特許権に抵触するものではない。 ウ したがって,原告らの被告タムラに対する差止請求は理由がない。 【被告アイティーオーの主張】 (1) 損害賠償請求について ア 被告アイティーオーが,被告製品をアマノタイムサービス及び被告タムラから仕入れて,平成11年5月から平成12年10月までの間に合計248台を販売した事実は,認める。 イ 被告アイティーオーが,アマノタイムサービス及び被告タムラから1台3万9000円で仕入れた事実及び被告アイティーオーの1台当たりの平均販売価格が4万3681円である事実は,認める。 ウ 原告らが被った損害額は,販売額と仕入額の差額から販売のための経費等を差し引いたものである。 (2) 差止請求について 被告アイティーオーには,アマノタイムサービス及び被告タムラから仕入れた被告製品の在庫が合計8台存在したが,これらは,すべて廃棄した。したがって,原告らの被告アイティーオーに対する差止請求は理由がない。 |
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当裁判所の判断
1 争点(1)について (1) 被告製品は,本件発明の構成要件をすべて充足していることが認められる。その理由は,前記第3の1【原告らの主張】(1)記載の原告らの主張のとおりであると認められる。 (2) 被告アイティーオーは,本件発明における「開放操作部材」とは,@先端部は平面略三角形状に,かつ下向きに屈曲形成され,A中央部は凹部状で,B先端部の反対側の両側部には内向きコ字形の屈曲部が形成されている,C1枚の板状のものを意味すると主張する。 証拠(甲2)によると,本件特許に係る明細書中には,実施例として,被告アイティーオー主張に係る「開放操作部材」が記載されていることが認められる。しかしながら,これは,一実施例の記載にすぎない。 証拠(甲2)によると,本件特許に係る明細書には,本件特許請求の範囲【請求項1】「装置本体の傘の収納袋を装填し,その収納袋の挿入口を開放する開放操作部材」,【発明が解決しようとする課題】「従来のものは収納袋の挿入口を開放する手段として,負圧で吸引する手段や,多数のリンクやカム機構等を用いるものであるから,構成が複雑であると共に,真空吸引ポンプやモータ等を用いなければならないので,制作コストが増大すると共に,近くに電源のないところでは使用できない,しかも電源コードが邪魔になったり,雨天に使用するものであるから,漏電のおそれもある等の問題があった。」,【0004】「本発明は,上記の問題点に鑑みて提案されたもので,上記のような電源が不要で,しかも構造簡単かつ確実に袋内に傘を収納することのできる装置およびそれに適する傘収納袋を提供することを目的とする。」,【課題を解決するための手段】「装置本体に傘の収納袋を装填し,その収納袋の挿入口を開放する開放操作部材を装置本体に回動可能に設け,その開放操作部材に傘の先端を当接させて回動させることによって上記収納袋の挿入口を開放すると共に,上記開放操作部材に当接させた傘の先端を該開放操作部材の表面を滑らせながら上記挿入口から収納袋内に押し込んで収納するように構成したことを特徴とする。」,【0006】【作用】「上記のように装置本体に装填した収納袋の挿入口を開放する開放操作部材を装置本体内に回動可能に設け,その開放操作部材を傘の先端で回動させることによって収納袋の挿入口が開放されるように構成したことによって,収納袋が簡単・確実に開放され,傘をワンタッチで袋内に収納することが可能となる。」とそれぞれ記載されていることが認められる。以上の記載からすると,本件発明における「開放操作部材」は,電源を要することなく,収納袋の挿入口を開放する操作を行う部材を意味すると認められ,そのような意味を有するものとして一義的に明確であるということができる。 そうすると,「開放操作部材」を,上記の意味よりも限定して,一実施例に限定して解釈すべき理由は見い出し難い。 したがって,被告アイティーオーの上記主張は採用することができない。 (3) また,被告タムラは,被告タムラ特許権と本件特許権とは先後願の関係にあり,後願の被告タムラ特許権の出願が先願の本件発明の技術的範囲内に属するとすれば,審査過程で拒絶理由通知が発せられるところ,被告タムラ特許権の出願過程においては,このような通知はされていないことを理由して,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属さないと主張する。しかしながら,仮に被告製品が被告タムラ特許権の実施品であるとしても,後願たる被告タムラ特許権が先願たる本件特許権によって拒絶されるかどうかということと被告製品が本件発明の技術的範囲に属するかどうかということとは別問題であり,被告タムラ特許権が拒絶されなかったからといって,被告製品が本件発明の技術的範囲に属さないということにはならないから,被告タムラの上記主張は採用できない。 (4) 以上によると,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するというべきであるから,被告製品の製造販売行為は,本件特許権を侵害するものである。 2 争点(2)について (1) 争いのない事実並びに証拠(甲13,15,甲27の1,2,甲29,乙1の3)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 ア 平成9年1月30日,原告らとアマノとの間で,アマノが販売する被告製品に関し,アマノの本件特許権侵害事件を解決するために,以下の内容の契約(本件特許実施契約)が締結された。本件特許実施契約の当事者は,原告両名とアマノである。 第1条 アマノは,今後被告製品の製造を行わない。 第2条 1 原告らは,アマノの被告製品の製造済在庫品456台に対し,契約日より1年を期間として,日本国内における販売を許諾する。 2 アマノは,上記第2条第1項における1年を期間として在庫品の完売に努力するが,完売できなかった場合には,原告ら及びアマノ協議事項とする。 第3条 1 アマノは,原告新倉に対して,平成7年10月4日以降の被告製品の販売品(工場出荷品)に対して,1台当たり3000円の特許実施料を支払うものとする。 2 アマノは,原告新倉に対して,本契約時において,平成7年10月4日以降契約時までの販売台数(工場出荷台数)の報告と,上記第3条第1項に従い,期限平成9年2月28日限り,特許実施料を支払うものとする。 3 アマノは,原告新倉に対して,本契約後の販売台数(工場出荷台数)を3か月毎に報告するとともに,上記第3条第1項に従い,特許実施料を支払うものとする。 第4条 この契約は,この契約の締結日から本件特許が存続する期間中有効とする。 第5条 この契約に規定のない事項及びこの契約の条項の解釈に疑義を生じた時は,原告ら及びアマノ協議の上解決する。 イ 平成9年12月16日,原告らとアマノは,本件特許実施契約2条2項に基づいて協議した結果,本件特許実施契約を平成10年7月31日まで継続する旨合意し,特許実施継続契約書を作成した。同契約書の当事者も原告両名とアマノである。 ウ 本件特許実施契約締結に当たって,アマノは,製造元が被告タムラである旨の開示を行っていない。 エ 平成12年5月30日,原告新倉とアマノは,アマノの新潟支店が平成10年9月10日から平成12年2月29日までの間に販売(販売台数合計90台)した被告製品に関して,以下のとおり合意し,覚書を交わした(以下「本件覚書」という。)。本件覚書の当事者は,原告両名とアマノである。 1.本件覚書の対象製品は,原告新倉とアマノ間の平成9年1月30日付特許実施契約書に記載の対象物と同一であること,同契約書第1条はなお効力を有することを相互に確認する。 2.アマノは原告新倉に対し,特許権侵害に基づく損害賠償額金360万円の支払義務あることを認め,そのうち金100万円を平成12年6月30日限り,原告新倉指定の銀行口座に振り込んで支払う。アマノが同金額を原告新倉に支払った場合は,原告新倉は残金の請求権を放棄する。 3.略 4.アマノの新潟支店において今後傘袋収納機の販売を行う場合は,アマノは原告新倉に対して原告新倉の製品の供給依頼書を送付のうえ,原告新倉は同支店と直接取引を行うものとする。 (2)ア 以上認定した事実に上記1で述べたところを総合すると,本件特許実施契約は,原告らとアマノとの間において,アマノが本件特許権を侵害して被告製品を販売したことに関して金員の支払を定めるとともに,原告らは,アマノに対して,1年間に限って在庫品の販売を認めたものであること,本件覚書は,原告らとアマノとの間において,アマノが本件特許権を侵害して被告製品を販売したことに関する損害賠償について定めたものであること,以上の事実が認められ,本件特許実施契約及び本件覚書締結に至る交渉において,被告タムラの名が出されたことや同被告に関する事項が交渉されたことを認めるに足りる証拠はない。 イ 証拠(乙1の2,3,乙5の1ないし5,乙18,乙19の1)によると,被告タムラは,平成8年8月28日,アマノの代表取締役に対し,被告製品に関し,原告らの有する特許権について,使用許諾並びに特許使用料,今後の使用条件,在庫品等の今後の処置につき,交渉する件に関して,委任状を交付し,交渉を委任したこと,アマノは,平成8年10月から11月にかけて,被告タムラに対し,原告らとの本件特許実施契約締結に関する交渉経過を報告し,その議事録を送付したこと,アマノは,平成9年2月12日,被告タムラに対し,本件特許実施契約書を送付したこと,以上の事実が認められる。また,証拠(乙4の1ないし13,乙7,9,18,乙19の1)によると,被告タムラは,アマノに対し,アマノが原告新倉に本件特許実施契約に基づいて支払った金員を,支払ったことが認められる。 ウ 以上の事実によると,本件特許実施契約及び本件覚書は,原告らとアマノの間において締結されたもので,当事者に被告タムラは含まれていないこと,いずれの契約も,アマノが既に行った製品の販売又はアマノによる既に製造済みの在庫品の販売について定めているのみで,それらの製品の製造やそのアマノに対する販売といった被告タムラにかかわる部分については,何ら規定していないこと,本件特許実施契約及び本件覚書締結に至る交渉において,被告タムラの名が出されたことや同被告に関する事項が交渉されたことは認められないこと,以上のとおり認められ,これらの事実からすると,本件特許実施契約及び本件覚書の締結によって,被告タムラが原告らに対して本件特許権侵害行為の責任を免れることはないものというべきである。 上記イ認定のとおり,被告タムラがアマノに対して,アマノが原告新倉に本件特許実施契約に基づいて支払った金員を支払ったことは,被告タムラがアマノに対して売主としての責任を履行したものと認められ,それ以前に,上記イ認定のとおり,被告タムラがアマノに対して委任状を交付したり,アマノが被告タムラに対して交渉経過を報告したりしているのも,被告タムラがアマノに対して,アマノが原告新倉に本件特許実施契約に基づいて支払った金員を支払う関係にあったためにされたものと認められるから,被告タムラが原告らに対して本件特許権侵害行為の責任を免れることの根拠となるものではない。 (3) したがって,被告タムラが被告製品を製造販売した行為は,本件特許権を侵害する行為であり,被告タムラはその責任を負うものというべきである。 3 争点(3)について (1) 損害賠償請求について ア 被告タムラに対する損害賠償請求 (ア) 被告タムラの販売台数,売上額及び利益額 被告タムラ作成の商品別売上推移表(甲18の1ないし5,甲19の1ないし5)には,被告タムラは,平成8年10月から平成12年6月までの間に,商品名「PAO-PAOスタンドタイプ」を,合計458台販売し,売上額は1776万1000円(千円の位まで表示)であったことが記載されている。 被告タムラ作成の商品売上明細書(甲28の1,2)には,被告タムラは,平成8年10月から平成12年6月までの間に,商品名「PAO-PAOスタンドタイプ」,「PAO-PAOスタンドタイプU」,「A-88S-Uかさしづく」を,合計458台販売し,売上額は1776万0400円であったことが記載されている。 以上の表を対比すると,商品売上明細書(甲28の1,2)は,商品別売上推移表(甲18の1ないし5,甲19の1ないし5)と同一の事項について,より詳しく記載したものと認められるから,商品売上明細書(甲28の1,2)によって,被告タムラの販売台数等を認定することとする。 弁論の全趣旨によると,商品売上明細書(甲28の1,2)記載の製品のうち「PAO-PAOスタンドタイプ」及び「A-88S-Uかさしづく」は,被告製品に当たるものと認められる。しかし,証拠(乙13の1,2,乙16の1,2)及び弁論の全趣旨によると,「PAO-PAOスタンドタイプU」は,被告製品とは構造が異なるもので,被告製品には当たらないものと認められる。 商品売上明細書(甲28の1,2)によると,「PAO-PAOスタンドタイプU」は,上記458台のうち68台あり,これを除いた「PAO-PAOスタンドタイプ」及び「A-88S-Uかさしづく」の販売台数は390台,売上額は1444万1400円,利益額合計は682万4519円であると認められる。 原告新倉は,被告タムラは,平成12年7月以降も被告製品を製造販売していた旨主張するが,証拠(乙15)及び弁論の全趣旨によると,被告タムラは,平成12年7月以降は,「PAO-PAOスタンドタイプU」のみを販売していたものと認められるから,原告新倉の上記主張は採用することができない。したがって,被告に,文書提出命令の違反があったとすることもできない。 (イ) 被告タムラは,加工労賃として1個当たり1万円程度が必要である旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。また,この他に被告製品の製造販売に関して上記利益額から控除すべき経費に関する具体的な主張立証はない。さらに,証拠(乙14の1ないし4)によると,被告タムラの平成8年7月1日から平成12年6月30日までの間における売上総額は,8億0667万5624円であると認められるところ,上記売上額1444万1400円は,その2パーセントに満たないのであるから,他の売上げに加えて上記売上げを得るために更に経費を要したとは直ちに認められない。そうすると,上記利益額をもって被告タムラが得た利益額と認めるのが相当である。 (ウ) アマノは,原告新倉に対して,原告らとアマノとの間の本件特許実施契約に基づいて,1台当たり3000円を支払い,本件覚書に基づいて,100万円を支払ったことが認められるが,前記2(2)認定の事実によると,本件特許実施契約及び本件覚書は,原告らとアマノとの間で締結されたもので,アマノの行為のみを対象とするものであったのであり,被告タムラがアマノに対して本件特許実施契約に基づいてアマノが原告新倉に対して支払った金員を支払ったのは,被告タムラが売主としての責任を履行したものにすぎないと認められるから,アマノから原告新倉に対して本件特許実施契約及び本件覚書に基づいて支払われた金員を,原告の上記損害額から差し引くことはできないものというべきである。 (エ) 以上によると,原告らが被告タムラに対して請求できる損害額は,682万4519円となる。 イ 被告アイティーオーに対する損害賠償請求 (ア) 被告アイティーオーが,被告製品をアマノタイムサービス及び被告タムラから仕入れて,平成11年5月から平成12年10月4日までの間に,合計248台販売した事実,被告アイティーオーが,アマノタイムサービス及び被告タムラから1台3万9000円で仕入れた事実並びに被告アイティーオーの1台当たりの平均販売価格が4万3681円である事実は,当事者間に争いがない。 以上の事実によると,被告アイティーオーが得た利益額は,116万0888円【(4万3681円-3万9000円)×248台】となる。 (イ) 被告アイティーオーは,原告の損害額は,上記利益額から販売のための経費等を差し引いた額であると主張するが,他の売上げに加えて上記売上げを得るために必要な販売経費等についての具体的な主張立証はないから,上記利益額をもって,原告らの損害額であると認める。 ウ 本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権の帰属主体 証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によると,原告村春は,平成12年4月3日,原告新倉に対し,被告らに対する本件特許権侵害行為による過去の損害賠償請求権及び将来の本件訴訟終了までの損害賠償請求権のうち,原告村春が有する損害賠償請求権を譲渡し,被告タムラに対して平成12年4月28日に,被告アイティーオーに対して平成12年4月27日に,それぞれ本件訴状をもって通知したものと認められるから,原告新倉は,被告らに対し,上記金額の損害賠償請求権を有しているものである。 (2) 差止請求について ア 被告タムラに対する差止請求 被告タムラは,被告製品に係る金型を廃棄した旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。そして,被告タムラが被告製品の製造販売による本件特許権侵害を争っていることをも考え併せると,被告タムラは,被告製品を製造販売するおそれがあるものと認められる。したがって,原告らの被告タムラに対する被告製品の製造販売の差止め並びに同製品及び同製品を製造するための金型の廃棄を求める請求は理由がある。 イ 被告アイティーオーに対する差止請求 被告アイティーオーは,被告製品の在庫品8台をすべて廃棄した旨主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はないから,被告アイティーオーは,被告製品を販売するおそれがあるものと認められる。 なお,丙8号証(陳述書)には,被告アイティーオーは,被告製品の在庫8台,部材及び部品関係商品をすべて廃棄したと記載されているが,同陳述書の内容は,単に廃棄処分したと抽象的に述べるのみであって,陳述内容を具体的に裏付ける証拠は提出されていないことからすると,同書面によって上記在庫品8台等を廃棄したとまで認めることはできない。 したがって,原告らの被告アイティーオーに対する被告製品の販売の差止めを求める請求及び同製品の廃棄を求める請求は理由がある。 4 結論 以上の次第で,原告らの請求は主文掲記の範囲で理由があるから,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 内藤裕之 |
裁判官 | 上田洋幸 |