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関連審決 異議1999-72779
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明の詳細な説明 /  遡及 /  特許出願日 /  数値限定 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 326号 特許取消決定取消請求事件
原告 船井電機株式会社
訴訟代理人弁理士 渡辺秀治
同 長谷川 洋
同 青木修
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 岡田 和加子
同 滝本静雄
同 大槻清壽
同 森田 ひとみ
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/09/10
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年異議第72779号事件について平成12年7月11日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「製パン器」とする特許第2850904号発明(以下、この特許を「本件特許」といい、この発明を「本件発明」という。)の特許権者である。なお、本件特許は、昭和62年2月20日にした特許出願(特願昭62-38812号、以下「原出願」という。)の一部を分割して平成8年7月18日にした新たな特許出願(特願平8-189803号)の一部を更に分割して平成9年9月12日にした特許出願(特願平9-248660号)に係り、平成10年11月13日に設定登録されたものである。
平成11年7月16日及び同月26日、本件特許につき特許異議の申立てがされた。特許庁は、同申立てを平成11年異議第72779号事件として審理した上、平成12年7月11日、「特許第2850904号の特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は同年8月3日原告に送達された。
2 本件発明の要旨 イースト菌と水との隔離手段を格別に持たず、パン材料の置き方によってイースト菌と水とを隔離させる製パン器において、発酵の前に材料容器内に設けられた回転羽根が所定時間回転しない状態を保つように制御できる制御部を備え、該制御部は前記回転羽根が回転を開始することにより、イースト菌と水とを触れさせて、発酵可能な状態にし、しかも、回転羽根が回転しない状態を保つ時間を可変に設定できるようにしたものであって、該設定時間が10時間を越えることを許可しないようになっている製パン器。
3 本件決定の理由 本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、本件発明の構成は原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「原出願明細書」という。)に記載されていないから、出願日の遡及は認められないところ、本件発明は、その現実の特許出願日(平成9年9月12日)前に頒布された刊行物である特開昭63-207344号公報記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものとして取り消されるべきものとした。
原告主張の本件決定取消事由
1 本件決定の理由中、本件発明の要旨の認定(決定謄本2頁8行目〜16行目)は認める。
本件決定は、本件特許出願に係る出願日の遡及の可否に関し、本件発明は原出願明細書に記載されていないとの誤った認定判断をした(取消事由)ため、出願日の遡及を認めず、現実の出願日に特許出願されたものとした上、上記刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(原出願明細書の記載についての認定判断の誤り) (1) 本件決定は、「該設定時間が10時間を越えることを許可しないようになっている」との本件発明の構成が原出願明細書に明文上も実質的にも記載されていない(決定謄本2頁25行目〜3頁19行目)と認定判断するが、誤りである。
(2) 原出願明細書(甲第7号証)の特許請求の範囲には、「所望時間にタイマーをセットして混ねつ、発酵、焼き入れ等の工程を自動化した家庭用小型製パン器」との記載(以下「記載A」という。)が、発明の詳細な説明には、「タイマーをセットし翌朝所望時刻にパンを焼き上げる場合は上記の状態で、例えば朝7時に欲しい時、パンは混ねつ後発酵、焼き上げまでに所要時間3-4時間位かかるので早朝3-4時頃から混ねつが始まる事になる」(4頁5行目〜10行目)との記載(以下「記載B」という。)及び「放置時間が10時間以内の場合は大きな影響を受けない事が実証されたので、パンの膨張に支障を来たさない」(5頁3行目〜6行目)との記載(以下「記載C」という。)がある。
記載Aと記載Bとから、パンを焼き上げる所望時刻に合わせて使用者が任意にセットできるタイマーが製パン開始の時刻を制御していること、タイマーをセットしてから混ねつが始まるまでは、パン材料は放置されることが開示されていることは明らかである。そして、当業者であれば、これと記載Cとを考え併せれば、
10時間を越える放置を許可しないようなタイマー制御の構成が開示されていることは自明である。原出願当時において、混ねつの開始時刻などの各工程の時刻を制御する製パン用プログラムをマイクロコンピュータ等で実行させることは一般的に行われていたところ、上記の構成を実現するためには、当該制御プログラムに、放置時間が10時間を越えないようにするという条件を追加すればよく、これは、当業者にとっては設計開発段階で頻繁に行うプログラムの軽微な変更にすぎない程度のものであるから、上記のようなタイマー制御部の構成はあえて詳述する必要のないものであった。
(3) さらに、原出願明細書の効果の欄には、「10時間前後の放置期間であればイーストが、発酵して効力を失う事がなくパンの膨らみに支障がない事が実証されたのでタイマーをかけ予約をそのまま続行しても支障がないと言う特徴がある」(6頁17行目〜7頁1行目)との記載(以下「記載D」という。)があるところ、製パン器が「タイマーをかけ予約をそのまま続行しても支障がない」という特徴を有するためには、当然のこととして、設定時間が10時間を越えることを許可しないようになっている必要がある。すなわち、上記の記載Dは、その使用者がどのような操作をするかにかかわらず、当該製パン器自体によって得られる特有の効果を記載したものであるから、本件発明の「該設定時間が10時間を越えることを許可しないようになっている」との構成が示されていると解すべきである。
(4) 被告は、原出願明細書記載の製パン器のタイマーは製パン開始時刻をセットするものであることを前提に、記載C、Dの解釈においても、使用者が製パンを行うに際して放置時間が10時間以内となるようにタイマーをセットした場合のことについて記載されているとの趣旨の主張をするが、そうだとすると、使用者は、
放置時間を必ず10時間前後より短くしなければならないこと及び混ねつが開始されてから焼き上がりまでの所要時間をあらかじめ知っている必要があり、製パンの都度、この所要時間と焼き上がり時刻とから放置時間を計算し、そのようにして計算した放置時間が10時間前後より短い時間であるか否かを判断する必要があることとなる。しかも、パンの種類に応じた複数の製パンコースがあること、製パン器の周辺温度に応じた混ねつ後の発酵時間も異なることを考えれば、上記のような計算を使用者に課することになる被告の主張は現実的でない。
被告の反論
1 本件決定の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(原出願明細書の記載についての認定判断の誤り)について (1) 原出願明細書に原告の引用する記載A〜Dがあることは認める。
しかし、記載Cは、使用者が、任意にセットできるタイマーにより製パン開始の時刻を制御している製パン器を用いて製パンを行うに際し、放置時間が10時間以内となるようにタイマーをセットした場合には、パンの膨張に支障を来さないことをいうにすぎない。他方、本件発明の「該設定時間が10時間を越えることを許可しないようになっている」構成は、製パン器におけるタイマーを備えた制御部の構成を特定するものであるところ、原出願明細書には、図面も含め、当該制御部のタイマーについて、その構造、作動等について何ら具体的記載は見いだせない。例えば、放置時間が10時間を越える場合に、自動的にタイマーのセットをキャンセルする態様、警報を発する態様、10時間以下となる時間に自動的に変更する態様等の様々な態様が想定されるのに、これを具体的に記述していないから、上記の構成を得るためには、原告の主張するような軽微なプログラムの変更で足りるともいえない。さらに、「設定時間が10時間を越えることを許可しない」という機能を制御部に組み込む技術思想自体が原出願明細書に存在しないのであるから、
そもそも当該プログラムの変更が軽微であるか否かにかかわらず、上記構成を備えることが当業者にとって自明な事項であるとは到底いえない。
また、記載Dについても、原出願明細書記載の製パン器のタイマーは使用者が任意にセットし得るものであるから、使用者が、パンの膨らみに支障のない10時間前後より短い放置時間になるようにタイマーをセットすれば、タイマーをかけ予約をそのまま続行しても支障がないこととなるとの趣旨をいうにすぎず、原告の主張は失当である。
(2) 原告は、原出願明細書記載の製パン器のタイマーはパンを焼き上げる所望時刻に合わせてセットされるものであって、製パン開始時刻をセットすると考えるのは現実的でない旨主張するが、本件特許の明細書(甲第2号証)記載の製パン器が、使用者において製パン開始時刻を設定するタイマーを備えるものであることは、段落【0011】、【0013】の記載に示されているとおりであり、上記明細書は出願日が遡及することを前提に原告が作成したものであることからすれば、
原出願明細書記載の製パン器のタイマーも同様のものというべきである。また、製パン器の使用者に対し、取扱説明書、カタログ等を通じて、製パンの所要時間について情報を与えることは一般に行われているから、製パン開始時刻をセットすると考えることが現実的でないとはいえない。
当裁判所の判断
1 取消事由(原出願明細書の記載についての認定判断の誤り)について (1) 原出願明細書(甲第7号証)の特許請求の範囲には「所望時間にタイマーをセットして混ねつ、発酵、焼き入れ等の工程を自動化した家庭用小型製パン器」との記載Aが、発明の詳細な説明の「従来の技術」欄には、@「全自動化を用いて所望時間にパンを焼き上げる為に、例えば翌朝7時にパンの焼き上がりを所望する場合は前日の夕方頃に、その材料である小麦粉、イースト、適量のバター或はショートニング等の油脂、砂糖、塩、粉ミルク等を容器内に水と共に入れる。斯くして材料の仕込後、パンの製造工程、即ち、混ねつ、発酵、ベンチタイム、焼き上げ等に3時間半から4時間位の所要時間を必要とするので朝7時に焼き上げる為には早朝3時頃からスタートする事になる。そのため特に真冬の場合は上記の材料と水が寒冷のため冷えているので、これ等を同時に注加すると前日の夕方から翌朝午前3時までの間の長い時間にイーストの細胞の網目が開いたままとなって内容物(グルタチオン等)が流出して復元力がなくなり、肝心の翌朝3時半頃のスタート後の発酵の時に効力を失ってしまうので水の注加はスタートの時、混ねつの開始と同時に製パン器に取付けてある水タンクから注水される事になる手段が通常とられている」(1頁18行目〜2頁19行目)との記載が、「発明が解決しようとしている問題点」欄には、A「家庭でパンを全自動化で作る場合、水又はイーストを上記の材料から分離して水タンクを使用するか、イースト収納箱を別装して所望の時刻、
製パン工程のスタート後に注加する方法がとられている為、構造が複雑となり、其の制御回路も増え、故障の原因が増加し、又コストアップになる等各種不都合が発生する」(3頁1行目〜8行目)、「問題を解決する為の手段」欄には、B「本発明は上記の問題点を解決する為に、水タンク或はイースト収納箱を特設する事なく、パンの材料である小麦粉・・・そしてイースト、及び水を同時に注加しても即座には効力を失わない様、水を摂氏35度位に温め、パン容器底面にイーストを散布しその上に小麦粉を入れてから、温水を注加する様に配置して上記の不都合をなくす様に構成したものである」(3頁10行目〜18行目)、「作用」欄には、C「パン材料である小麦粉・・・を入れるパン容器の底面近くに規定量のイーストを散布投入し、その上に上記パン材料を入れ、更に摂氏35度位の温水を注加する。
斯かる状態で即混ねつを始めても良く」(3頁末行〜4頁5行目)、D「タイマーをセットし翌朝所望時刻にパンを焼き上げる場合は上記の状態で、例えば朝7時に欲しい時、パンは混ねつ後発酵、焼き上げまでに所要時間3-4時間位かかるので早朝3-4時頃から混ねつが始まる事になる」(記載B)、E「その場合上記のパン材料と温水は前夜にパン容器内に仕込まれる為、短くても8-9時間の間放置された状態に置かれるが、パン材料上面に注加された温水はパン材料内に徐々に浸透するが、その速度は遅く一夜で5o程度の深さにしか侵入されないので下部に置かれたイーストは最初の状態を維持しているので侵されない」(4頁11行目〜18行目)、F「パン材料と共にイーストを混入した場合でも、その時一部のイーストが温水に触れても、イーストの細胞の網目が温水によって閉ざされている為、元の生きたイーストになって発酵を開始する事があっても放置時間が10時間以内の場合は大きな影響を受けないことが実証されたので、パンの膨張に支障を来たさない」(4頁19行目〜5頁6行目、なお、原告の指摘する記載Cはこの記載の一部である。)との記載が、「効果」欄には、G「パン材料をパン容器に仕込む際、過ってイーストが温水に全部触れたとしても10時間前後の放置期間であればイーストが、発酵して効力を失う事がなくパンの膨らみに支障がない事が実証されたのでタイマーをかけ予約をそのまま続行しても支障がないと言う特徴がある」(6頁15行目〜7頁1行目、なお、原告の指摘する記載Dはこの記載の一部である。)との記載があることが認められる。
(2) 上記認定に基づいて判断するに、原出願明細書の記載中、イーストと水の放置時間について直接触れているのは、上記Eの「短くても8-9時間の間放置された状態に置かれるが・・・イーストは最初の状態を維持しているので侵されない」、上記Fの「放置時間が10時間以内の場合は大きな影響を受けないことが実証された」、上記Gの「10時間前後の放置期間であればイーストが・・・効力を失う事がなくパンの膨らみに支障がない事が実証された」というものである。しかし、「短くても8-9時間」、「10時間前後」との記載にあるように、これらの記載を総合しても、イーストと水をパン容器内で放置し得る時間としては、「8時間ないし10時間前後」という幅のある時間が示されているにとどまるというべきであって、本件発明の要旨が明確に規定する「設定時間が10時間を越えることを許可しない」という要件における10時間の数値限定が技術思想として開示されているとはいえない。なお、上記Fには「10時間以内」との文言もあるが、これは「大きな影響を受けない」時間であって、多少の影響のあることは否定されておらず、10時間の数値限定が臨界的意義を有するとの記載はなく、タイマーによって放置時間を制御する場合に「大きな影響を受けない時間」を基準とするのか、多少とも影響を受けるような放置時間でも許さないこととするのかといった点について、原出願明細書からは何らの示唆も読み取ることはできない。
しかも、原出願明細書の「従来の技術」、「発明が解決しようとしている問題点」及び「問題を解決する為の手段」の各欄の上記@〜Bの記載によれば、原出願明細書記載の発明は、特に低温時にイーストと水を分離することなく長時間放置した場合に、発酵時に必要となるイーストの効力が失われてしまうことから、従来はイーストと水を別装する方法がとられていたところ、イーストとパン材料を一定の方法で配置するとともに、水を摂氏35度位に温めて注加するという方法を採用することにより、水とイーストを分離しておくことなくイーストの効力を保持することを可能としたものと認めることができる。そして、上記Fの「放置時間が10時間以内の場合は大きな影響を受けないことが実証された」との記載は、上記のような発明の成立性を基礎付ける実証的な知見を述べたものであり、上記Gの「10時間前後の放置期間であればイーストが・・・効力を失う事がなくパンの膨らみに支障がない事が実証された」との記載は、上記のような発明の効果を実証的に述べたものと解するのが相当である。そうすると、放置時間が10時間前後でもイーストの効力が保持されるとの上記記載は、「問題を解決する為の手段」欄に記載されている「温水を注加する」という特定の手段を用いることによって初めて得られるものとして記載されていることは明らかである。これに対し、本件発明は、前示の本件発明の要旨にあるとおり、水が「温水」かどうかについて何ら規定するものではなく、したがって、冷水の場合をも含むと解さざるを得ないところ、冷水を用いた場合に、放置時間が10時間(前後)まで許容され、それ以上の場合に不都合が生ずるといった技術思想は、原出願明細書に全く示されていない。
なお、本件発明は、イーストの配置に関して、特許請求の範囲において「イースト菌と水との隔離手段を格別に持たず、パン材料の置き方によってイースト菌と水とを隔離させる製パン器」と規定するところ、原出願明細書における上記Eは、パン容器の底面近くにイーストを散布投入し、その上にパン材料を入れた上で温水を注加するという方法(甲第7号証第1図参照)を採用した場合のもの、上記Fは、パン材料とともにイーストを混入するという方法(同第2図イ参照)を採用した場合のもの、上記Gは、「過ってイーストが温水に全部触れた」場合のものであって、このいずれの場合が本件発明に対応するものか明確でないが、少なくとも、上記Gの記載は、本件発明の前提とする構成によっていないものであるから、
当該記載を根拠として、本件発明の「該設定時間が10時間を越えることを許可しないようになっている」との構成が記載されているということはできない。
(3) 仮に、原告の主張するように、記載C、Dが、放置時間の上限として10時間を示すものと解し得るとしても、記載C、Dは、それ自体、実証的な知見を記載したにとどまるものであって、そこから進んで、放置時間の上限をタイマーで制御するという本件発明が有する技術思想まで示す記載ということはできない。このことは、原出願明細書記載の製パン器において、水とイーストを分離させることなく放置してもイーストの効力を保持するという課題を実現するための手段としては、温水を注加すること及びイーストとパン材料との配置方法を示すにすぎないことからも明らかである。
なお、原告は、本件発明の「該設定時間が10時間を越えることを許可しないようになっている」との構成を得るためには、製パン用プログラムの軽微な変更が必要となるにすぎず、あえて詳述する必要のない自明の事項である旨主張するが、放置時間が一定時間を越えないようにするための何らかの制御手段の必要性が示されているのであればともかく、そもそも原出願明細書には、典型的な使用態様として10時間前後までの放置時間を想定した上で、発明の作用及び効果を記載しているにすぎないことは上記@、D、Eの記載から明らかであって、放置時間が一定時間を越えないようにタイマーを制御するという技術思想が示されているものではないから、原告の主張するプログラムの変更が当業者の容易にし得る程度なものであるとしても、本件発明の上記構成が当業者にとって自明な事項であって原出願明細書に実質的に記載されているということはできない。
(4) したがって、原告の主張は採用することができず、原出願明細書には本件発明の「該設定時間が10時間を越えることを許可しないようになっている」との構成が明文上も実質的にも記載されていないから、本件特許出願に係る出願日の遡及は認められないとした本件決定の認定判断に誤りはない。
2 以上のとおり、原告主張の本件決定取消事由は理由がなく、他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利