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関連審決 無効2002-35497
関連ワード 発明者 /  確実性 /  使用方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  技術常識 /  翻訳文 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10090号 審決取消(特許)請求事件

原告 旭化成メディカル株式会社(旧商号 旭メディカル株式会社) 代表者代表取締役
訴訟代理人弁理士 酒井正己
被告 ニプロ株式会社代表者代表取締役
被告 渋谷工業株式会社(審決書上の表示 澁谷工業株式会社) 代表者代表取締役
両名訴訟代理人弁理士 神崎 真一郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/08/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2002-35497号事件について平成16年7月6日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,被告らが,原告の有する本件特許について平成14年11月21日付けで特許無効審判を請求したところ,特許庁が平成16年7月6日に本件特許を無効とする審決をしたことから,原告がその取消しを求めて提起した訴訟である。
当事者の主張
1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「血液透析装置」とする特許第2979234号発明(平成2年3月5日特許出願〔以下「本件特許出願」という。〕,平成11年9月17日設定登録。以下,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許は,請求項1ないし4(以下「旧請求項」という。)から成るが,被告らは,平成14年11月21日付けで本件特許のうち旧請求項1,2及び4に係る発明について,特許無効審判請求をした。
同請求は,無効2002-35497号事件として特許庁に係属したところ,原告は,平成16年1月23日,特許請求の範囲等の訂正を内容とする訂正請求をした。
上記訂正請求の内容(以下,訂正後の請求項を「新請求項」という。)は,旧請求項1の内容を変更し,旧請求項2を削除し,旧請求項3を新請求項2とし,旧請求項4を新請求項3とするものであった(したがって,被告らから特許無効審判請求を受けているのは,訂正請求が認められるとすれば,新請求項1と3のみであり,新請求項2については同請求がなされていない。)が,特許庁は,訂正請求も含めて同事件について審理し,平成16年7月6日,「訂正を認める。特許第2979234号の(新)請求項1,3に記載された発明についての特許を無効とする。」旨の審決(甲1,以下「審決」という。)をし,その審決謄本は同年7月16日原告に送達された。
(2) 発明の内容 上記訂正に係る明細書(甲3,以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲請求項1及び3記載の発明の要旨は,下記のとおりである。
記 「【請求項1】中空糸膜型血液透析器と,前記透析器の血液入口及び血液出口に中空糸膜内側に連通する様に接続された血液循環用チューブと,前記透析器の透析液入口及び透析液出口に透析液を流通させる様に接続された透析液供給チューブ及び透析液廃液チューブと,前記透析液供給チューブ中に介在させたエンドトキシン除去手段と,治療開始前にプライミング するために 前記 エンドトキシン 除去手段を通過 した 透析液 をプライミング 用水溶液 として 前記透析器 の中空糸膜外側 から 中空糸膜壁 を通過 させ 中空糸膜内側 へ移動 させる 供給手段 とを 有し,プライミング 水溶液 の通液開始 から プライミング 終了 までの 操作 が自動化 されている ことを特徴とする血液透析装置。(以下「本件発明1」という。下線部は訂正請求による訂正箇所。) 【請求項2】前記供給手段が,前記透析廃液チューブの一部に設けた中空糸外側の圧をより高めるような絞り機構よって,前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液を中空糸内側に移動させる機構からなる,請求項1に記載の血液透析装置。
【請求項3】前記エンドトキシン除去手段が,中空糸膜等に依る濾過方式又は/及び吸着剤による吸着方式である,請求項1に記載の血液透析装置。」 (以下「本件発明3」という。) (3) 審決の内容 ア 審決の詳細は,別添審決謄本写し記載のとおりである。その要旨とするところは,前記訂正請求は適法であるとした上,本件発明1,3は,下記従来発明,引用発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである等とするものである。
記 ・従来発明 「中空糸膜型血液透析器と,前記透析器の血液入口及び血液出口に中空糸膜内側に連通する様に接続された血液循環用チューブと,前記透析器の透析液入口及び透析液出口に透析液を流通させる様に接続された透析液供給チューブ及び透析液廃液チューブと,透析液を透析器の中空糸膜外側へ供給する供給手段とを備えた血液透析装置。」(平成15年10月8日第1回口頭審理調書。甲4,5。) ・引用発明 特開平1-113064号公報(審判刊行物1・本訴甲6,以下「刊行物1」という。)記載の発明 イ 本件発明1と従来発明との一致点及び相違点 審決は,本件発明1(前者)と従来発明(後者)とを対比し,その一致点と相違点を,下記のように摘示している。
記 <一致点> 「中空糸膜型血液透析器と,前記透析器の血液入口及び血液出口に中空糸膜内側に連通する様に接続された血液循環用チューブと,前記透析器の透析液入口及び透析液出口に透析液を流通させる様に接続された透析液供給チューブ及び透析液廃液チューブと,透析液を透析器の中空糸膜外側へ供給する供給手段とを備えた透析装置。」である点 <相違点A> 「前者が,透析液供給チューブ中に介在させたエンドトキシン除去手段を備えているのに対して,後者が,このような構成を備えていない点」 <相違点B> 「前者が,プライミング用水溶液として透析液を用いるのに対して,後者が,生理食塩水等のプライミング用の液体を用いる点」 <相違点C> 「前者が,「治療開始前にプライミングするために」プライミング用水溶液としての透析液を「前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段」を備えているのに対して,後者が,このような構成を備えていない点」 <相違点D> 「前者が,「プライミング水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されている」構成を備えているのに対して,後者が,このような構成を備えていない点」 ウ 本件発明3と従来発明との一致点及び相違点 審決は,本件発明3(前者)と従来発明(後者)とを対比し,その一致点及び相違点AないしDは前記イと同一であるとした上,更に相違点Eとして次のものがあると摘示した。
<相違点E> 「前者が,エンドトキシン除去手段として,中空糸膜等に依る濾過方式又は/及び吸着剤による吸着方式を用いるものであるのに対して,後者が,このような構成を備えていない点」 (4) 審決の取消事由 審決は,引用発明の認定を誤り(取消事由1),本件発明1と従来発明との相違点についての認定判断を誤り(取消事由2,3),また,本件発明3の進歩性の判断を誤った(取消事由4)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(引用発明の認定の誤り) (ア) 審決は,刊行物1(甲6)の記載に基づいて,引用発明を,「人工腎臓,血漿交換器等を使用する際のプライミング操作において,人工腎臓,血漿交換器等に使用されるモジュール内の多孔質中空糸の外側よりプライミング用の液体を導入し,次いで中空糸外側より中空糸内側ヘプライミング用の液体を浸透させることによりプライミングを行うことを特徴とするプライミング方法」と認定したが,刊行物1には,「人工腎臓」のプライミングのために,「プライミング用の液体をモジュール内の中空糸外側に導入し,次いで中空糸外側より中空糸内側へプライミング用の液体を浸透させ」ることは記載されていないから,審決の上記認定は誤りであり,正しくは,「血漿交換器を使用する際に,血液回路,中空糸膜内部,及び中空糸膜外側をプライミングする方法において,生理食塩水を用い,中空糸外側より生理食塩水を導入し,中空糸内側へ生理食塩水を浸透させることによりプライミングを行うことを特徴とする血漿交換器のプライミング方法」と認定すべきである。
(イ) 審決が引用発明の認定に当たって摘示した刊行物1(甲6)の記載は,@「人工腎臓,血漿交換器等を使用する際,血漿交換器等モジュール内の中空糸中への血液導入をスムースに行い,且つ中空糸内の気泡を取り除くことを目的として,使用前に生理食塩液等で中空糸内部を充填する操作,いわゆるプライミング操作が行なわれている。このプライミング操作のやり方としては,従来より,血液の流れる側,すなわち中空糸内側に,この中空糸束の一方から生理食塩液を導入することが行なわれている」(1頁左下欄〜右下欄[従来の技術]の項),A「しかしながら,上記従来方法にあっては,生理食塩液の回路に空気が存在しているため,中空糸内部に空気が残存したり,新たに外部より空気が入る恐れがあった。さらには中空糸内の気泡除去に時間を要する,という問題もあった」(1頁右下欄[発明が解決しようとする問題点]の項),B「そこで,本発明者は,上記従来の問題点に鑑み,種々検討を行なった結果,多孔質中空糸の外側より生理食塩液を導入し,中空糸外側より内側へ生理食塩液を導くことにより,前記従来の問題点を解決できることを見出し,本発明に至った。即ち,本発明によれば,中空糸型血漿交換器へ生理食塩液をプライミングするに際し,該生理食塩液を該血漿交換器内の中空糸外側に導入し,次いで中空糸外側より中空糸内側へ生理食塩液を浸透させプライミングを行うことを特徴とする,血漿交換器のプライミング方法,が提供される」(1頁右下欄〜2頁左上欄[問題点を解決するための手段]の項),C「以上説明したように,本発明のプライミング方法によれば,中空糸外側より内側へ生理食塩液を導いているため,中空糸内部に気泡が残ることなく,プライミング時間を短縮することができるという効果を奏する」(3頁左下欄〜右下欄[発明の効果]の項)である。しかし,上記@,A及びCは,人工腎臓のプライミング操作において,「モジュール内の多孔質中空糸の外側よりプライミング用の液体を導入し,次いで中空糸外側より中空糸内側ヘプライミング用の液体を浸透させる」ことを示すものではなく,上記Bは,「血漿交換器」のプライミングにおいて,「生理食塩液を該血漿交換器内の中空糸外側に導入し,次いで中空糸外側より中空糸内側へ生理食塩液を浸透させプライミングを行う」というものであって,「人工腎臓」のプライミングのために「生理食塩液をモジュール内の中空糸外側に導入し,次いで中空糸外側より中空糸内側へ生理食塩液を浸透させ」ることを記載したものではない。刊行物1には,「人工腎臓」に関しては,[従来の技術]の項(上記@)以外に記載はないのであって,刊行物1に記載されている血漿交換器のプライミング方法(上記B)が人工腎臓に応用できる旨の記載はないから,同方法は,人工腎臓のためのものではない。
(ウ) 刊行物1(甲6)のプライミング方法は,血液処理装置一般に適用できるものとは限らない。審決は,「なお,被請求人(判決注;原告)は,平成16年1月23日付け意見書において,刊行物1は,血液回路,中空糸膜内部のみならず,中空糸膜外側等もプライミングをする必要があるところの血漿交換器に関するプライミング方法を開示したものであって,中空糸膜内部のみをプライミングすればよいところの血液透析器のプライミング方法を開示したものではなく,両者のプライミング操作は大きく異なる旨を主張している。しかしながら,血漿交換器に関するプライミング方法と血液透析器のプライミング方法とは,共に中空糸膜内部をプライミングする必要性がある点で共通するものであることが当業者にとって自明な事項であるといえるから,刊行物1における上記した「発明が解決しようとする問題点」,「問題点を解決するための手段」及び「発明の効果」の各項における一連の記載事項の文脈を通じて,刊行物1に記載されたプライミング方法は,上述した血漿交換器のみならず,人工腎臓(血液透析器)にも適用できることが,当業者にとって自明な事項として把握できるといえるので,上記のように認定した」(審決11頁最終段落〜12頁第2段落,以下,「なお書き」という。)と説示する。
しかし,「血漿交換器に関するプライミング方法と血液透析器のプライミング方法とは,共に中空糸膜内部をプライミングする必要性がある点で共通するものであることが当業者にとって自明な事項である」ことは認めるが,このことは,「血漿交換器も血液透析器も使用に際してはプライミングをする必要がある」ことが自明であるというにすぎないから,「刊行物1に記載されたプライミング方法は,上述した血漿交換器のみならず,人工腎臓(血液透析器)にも適用できることが,当業者にとって自明な事項として把握できる」という結論は導き出せない。
プライミング操作は,各種の血液処理装置において共通して行われるが,各装置によってプライミング箇所,手順は様々であり,単に,血液処理分野に属するから,あるいは中空糸膜から成る血液処理器を使用しているからというだけで,他の血液処理装置において行われるプライミング操作がそのまま別の血液処理装置に適用できるというものではない。血漿交換器のプライミング方法と血液透析器のプライミング方法とでは,通常はその具体的な方法が異なっているのであるから,刊行物1のプライミング方法が人工腎臓(血液透析器)にも適用できるとはいえない。人工腎臓(血液透析器)では,中空糸膜の外部空間をプライミングする必要がないから,刊行物1のプライミング方法(外部空間及び内部空間を共にプライミングするプライミング方法)を適用する必要もなければ,必然性もない。プライミングする必要のない外部空間へわざわざ生理食塩水を流すような操作をすること,及びそのために生理食塩水を用いることは,無駄以外の何物でもないと考えるのが普通である。また,血液透析器に刊行物1のプライミング方法を適用した場合,中空糸膜外側に充填された生理食塩水を,治療開始前に透析液に置換する必要があるところ,通常は治療開始前に透析液を外側空間に充填するだけで足りるのであるから,外部空間のプライミング操作を行おうとは考えないのが普通である。
(エ) 審決は,引用発明は,「プライミング用の液体」を導入するものと認定したが,刊行物1(甲6)のプライミング方法は,生理食塩水を用いるものであって,「プライミング用の液体」を用いるものではない。刊行物1には,「プライミング用の液体」という用語の記載はなく,また,血漿交換器のプライミング液としていくつかの種類があり,いずれもが適宜選択して使用できることも記載されていない。したがって,刊行物1に,「プライミング用の液体」を導入することが記載されているということはできない。
イ 取消事由2(相違点Bについての認定判断の誤り) (ア) 審決は,相違点Bを,「前者(判決注;本件発明1)がプライミング用水溶液として透析液を用いるのに対して,後者(判決注;従来発明)が生理食塩水等のプライミング用の液体を用いる点」と認定したが誤りであり,正しくは,「前者がプライミング用水溶液としてエンドトキシン除去手段を通過した透析液を用いるのに対して,後者が生理食塩水を用いる点」と認定すべきである。
(イ) すなわち,審決は,従来発明のプライミング操作については何らの認定もしておらず,また,プライミング用の液体としてどのようなものが用いられるかも認定していないのであるから,「後者(従来発明)が生理食塩水等のプライミング用の液体を用いる」と認定することはできない。血液透析装置のプライミングには,従来から「生理的食塩水」が用いられていたことは認めるが,従来発明が「生理食塩水等のプライミング用の液体」を用いるとの認定は,従来発明が生理食塩水以外の液体をプライミングに用いる場合があることを前提としている。しかし,血液透析装置のプライミングには,従来から「生理的食塩水」が用いられていたのであり,これ以外の液体をプライミングに用いることが周知であったという事実はないから,従来発明が,血液透析装置のプライミングのために「生理食塩水等のプライミング用の液体」を用いると認定することはできない。また,本件発明1のプライミング用の液体は,単なる透析液ではなく,「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」である。エンドトキシン除去手段は血液透析装置において必ず設ける必要があるというものではなく,また,実際,従来発明は「エンドトキシン除去手段」を設ける点を構成要件としていないから,本件発明1が,「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」をプライミング用水溶液とする点を,相違点Bとして認定すべきである。
(ウ) 上記のとおり,審決は相違点Bを正しく認定しなかったため,その判断にも誤りがある。すなわち,審決は,「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」をプライミングに用いるという構成について,その想到容易性を判断していない。また,従来発明におけるプライミング用水溶液を,「生理食塩水等」であると誤って認定しているため,従来発明におけるプライミング用水溶液が生理食塩水であるとした場合の想到容易性についても判断していない。そして,上記判断遺脱が,審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。本件発明1は,エンドトキシン除去手段を通過させた透析液を中空糸膜の外側から内側へ移動させることを可能にしたことで,本件明細書(甲3)に記載されたように,「本発明の血液透析装置では,プライミング用水溶液を中空糸膜型血液透析器の中空糸膜外側から供給するので,プライミング用水溶液にエアーが混入していてもエアーは全て中空糸膜壁でシャットアウトされ,中空糸膜内側には常にエアーの混入しないプライミング用水溶液が供給される。本発明の血液透析装置は従来,回路の接続の点で特に熟練が要求されたウェットタイプの血液透析器を接続する体外循環回路に適用する時に操作の簡便性,プライミングの確実性の両面で効果が顕著である」(6頁第2段落)という効果を奏する。上記効果は,エンドトキシン除去手段を通過させた透析液を中空糸膜の外側から内側へ移動させることを可能にしたことで奏されるにもかかわらず,審決は,本件発明1の特徴となる構成を,エンドトキシン除去手段を設ける点,透析液をプライミング用液体として用いる点及びプライミング用液体を中空糸の外側から内側に移動させる点のそれぞれに分断して,それぞれの点の容易性を判断しており,この判断手法は誤っている。
(エ) 審決は,相違点Bについて,@「血液透析装置のプライミング用の液体として何を用いるかを想定する場合,それが明らかに使用不可能な液体であると認識されない限り,当該技術分野において良く知られている液体を,プライミング用液の一つとして選択しようと試みることは,当業者が容易に想起し得る選択的事項であるということができる」(審決13頁第5段落),A「そして,当業者において「透析液」がプライミング用の液体の一つとして従来より想定し難いものであったと解されるような特別の事情を見出すことができない(ちなみに,本件発明の出願当初の明細書(判決注;甲15,以下「本件当初明細書」という。)(第8頁の13〜17行参照)には,無菌化されたプライミング用液の幾つかの例とともに無菌化された「透析液」がこれらの例と等価的なものとして提示されており,さらに,審判請求人が提出したところの平成15年10月1日付け口頭審理陳述要領書に添付された資料1である「The International Journal of Artificial Organs/Vol 6」(1968年発行)(判決注;甲7,以下「資料1」という。)に,清浄な透析液をプライミングに使用できる旨が示されていることを考慮すると,従来より「透析液」がプライミング用液の対象として当業者により想定し難いものであったと解することもできない)」(同第6段落),B「してみると,プライミング用の液体として,無菌化され,使用可能である「透析液」を選択することは,当業者が容易に想起し得た選択的事項であるといわざるを得ない」(同最終段落)と説示して,相違点Bを容易想到と判断したが,誤りである。
(オ) 審決は,従来発明の血液透析装置において,プライミングのために用いられている生理食塩液を他の液に置き換えようとする動機付けがあったとする根拠を何も挙げていない。また,血液透析装置のプライミングのために,従来から生理食塩水以外の液が用いられていたという事実についても何の証拠も挙げておらず,さらに,透析液をプライミング液として用いることが公知又は周知の事実であることが証拠をもって示していない。上記説示@において,「血液透析装置のプライミング用の液体として何を用いるかを想定する場合」としているが,そもそもこのような想定は,本件発明1に接した後でしか生じ得ないものであって,いわゆる後知恵でしかない。従来より血液透析装置のプライミング操作は生理食塩水によって行われていたのであり,審決は,従来技術において生理食塩水以外の液体の使用を想定する根拠も必然性も全く示していない。したがって,「当該技術分野において良く知られている液体を,プライミング用液の一つとして選択しようと試みることは,当業者が容易に想起し得る選択的事項である」とはいえない。
また,上記説示Aにおいて,「(ちなみに,本件発明の出願当初の明細書・・・には,無菌化されたプライミング用液の幾つかの例とともに無菌化された「透析液」がこれらの例と等価的なものとして提示されており,・・・資料1・・・に,清浄な透析液をプライミングに使用できる旨が示されていることを考慮すると,従来より「透析液」がプライミング用液の対象として当業者により想定し難いものであったと解することもできない)」としたが,資料1は,無効理由を構成する証拠として提示されているものとはいえない。仮に,審決が,従来発明に資料1記載の発明を適用することにより当業者が容易に想到し得たとの判断をしているとしても,資料1は,それまで滅菌W液という液で行っていたプライミング,透析装置のすすぎ洗い及び透析終了時の返血操作を,「清浄な」透析液で代替したという事実を報告しているにすぎず,プライミングは生理食塩水で行われることが技術常識であった本件特許出願当時に,透析液がプライミング用の液体の一つとして想定し難いものではないことを裏付けるものではない。さらに,本件当初明細書には,「本発明で使用されるプライミング用水溶液としては,従来より使用されている生理食塩水の他,上記の如く,エンドトキシンフリーの透析液や,予め血液浄化器に充填されている滅菌水,及びこれらの混合液が挙げられる」(8頁第2段落)と記載されているが,この記載は,従来プライミングに使用されているのは「生理食塩水」であること,及び「本発明」によれば「エンドトキシンフリーの透析液や,予め血液浄化器に充填されている滅菌水,及びこれらの混合液」も使用できることをそれぞれ述べたものであり,従来から「エンドトキシンフリーの透析液や,予め血液浄化器に充填されている滅菌水,及びこれらの混合液」がプライミングに使用されていることを述べたものではない。透析液を,プライミング用の液体の一つとして想定し得たとしても,せいぜい「プライミングのために透析液を用いて血液透析装置の内部空間を洗浄する」というものでしかなく,@エンドトキシン除去手段を設ける点,A透析液をプライミング用水溶液とする点,及びB透析液を中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる点の結合まで想到できるものではない。
ウ 取消事由3(相違点Cについての認定判断の誤り) (ア) 審決は,相違点Cを,「前者(判決注;本件発明1)が,「治療開始前にプライミングするために」プライミング用水溶液としての透析液を「前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段」を備えているのに対して,後者(判決注;従来発明)が,このような構成を備えていない点」と認定したが誤りであり,正しくは,「前者が,「治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段」を備えているのに対して,後者が,このような構成を備えていない点」と認定すべきである。
(イ) 本件発明1は,「治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段」を有することを構成要件としているところ,審決の上記認定は,本件発明1が,従来発明との相違点として,「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」をプライミング水溶液とする点をも有することを看過している。
(ウ) 血漿交換器のプライミング方法をそのまま血液透析装置のプライミング方法として適用することは当業者には容易に想到し得ない。また,刊行物1(甲6)は,そもそも透析液を用いるものではなく,エンドトキシン除去手段を通過させた透析液をプライミングに用いるものでもない。仮に,刊行物1を従来技術に適用したとしても,透析液をプライミング溶液とする構成は生じないし,ましてや,エンドトキシン除去手段を通過させた透析液でプライミングするという構成も生じない。また,本件発明1の「治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段とを有し」という構成は,単に血液透析装置にエンドトキシン除去手段が備わっていればよいというものではなく,プライミング時に,エンドトキシン除去手段を通過した透析液がプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過して中空糸膜内側に移動するように装置が構成されていることを限定しているものである。すなわち,プライミング時に,エンドトキシン除去手段を通過した透析液がプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過して中空糸膜内側に移動するようにするには,そのような透析液の流れが生じるように,適宜バルブが切り替えられ,適宜ポンプが作動しなければならないが,本件発明1の血液透析装置は,これらの動作が可能なように構成されていることを,「治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段とを有しプライミング用水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されている」という構成によって表現しているのである。
(エ) 審決は,相違点Cについて,「(仮に,刊行物1が血漿交換器のためのプライミング方法のみを開示したものとしても,上記・・・なお書きで説示したように,血漿交換器に関するプライミング方法と血液透析器のプライミング方法とは,共に中空糸膜内部をプライミングする必要性がある点で共通するものであることが当業者にとって自明な事項であるといえるから,刊行物1に記載されたプライミング方法を従来発明の血液透析器に適用することに格別の困難性があったものということはできない。)」(審決14頁第5段落)と判断した。しかし,なお書きの説示が何らの説明にもなっていないことは,前記のとおりである。
審決は,「また,当該設計上の変更をする際に,従来発明が備えるプライミング操作のための構成であるところの透析装置における生理食塩水を中空糸内側に導入するために採用されていた構成(例えば,このためのプライミング用水溶液用の専用回路や生理食塩水入りバッグの懸架治具等)を単に省略することは,同上引用発明のプライミング方法(中空糸の外側から入れて内側へ移動させる方法)を適用する際に,中空糸内側に導入するための上記構成が不要となることは明らかであるから,当業者が当然配慮して採用する設計的事項であるといえる」(審決14頁第6段落)と判断した。しかし,プライミング用水溶液用の専用回路や生理食塩水入りバッグの懸架治具等を設けるか否かは,本件発明1と従来発明との相違点としては挙げられていないから,上記のように認定することはできない。さらに,単に引用発明を従来発明のプライミング方法に適用したからといって,プライミング用液としては依然として生理食塩水を用いるのであるから,従来発明における生理食塩水用の専用回路や生理食塩水入りバッグの懸架治具等が省略できないことは明らかである。
(オ) 血液透析器とは使用目的も使用方法も全く違う血漿分離器にとって好適な,引用発明のプライミング方法を,あえて従来発明の血液透析装置に組み合わせるとしても,結果として得られる事項は,「プライミングのために生理食塩水を血液透析装置の外部空間から内部空間に通過させる」というものでしかない。従来発明に,資料1を組み合わせて得られるのは,「プライミングのために透析液を用いて血液透析装置の内部空間を洗浄する」というものである。したがって,従来発明に,資料1記載の発明及び引用発明を適用しても,本件発明1の「エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸内側へ移動させる」という構成には,当業者が容易に想到し得るものではない。
(カ) また,本件明細書(甲3)に,「本発明の血液透析装置では,プライミング用水溶液を中空糸膜型血液透析器の中空糸膜外側から供給するので,プライミング用水溶液にエアーが混入していてもエアーは全て中空糸膜壁でシャットアウトされ,中空糸膜内側には常にエアーの混入しないプライミング用水溶液が供給される。・・・従来,回路の接続の点で特に熟練が要求されたウェットタイプの血液透析器を接続する体外循環回路に適用する時に操作の簡便性,プライミングの確実性の両面で効果が顕著である」(6頁第2段落),「特に,ウェットタイプの血液透析器の場合は,・・・治療用の体外循環回路を組み立ててしまい,透析液供給源と血液透析器の透析液入口とをつなぐ回路に透析液中のエンドトキシンを除去する手段を介在させて治療時と同様に透析液を血液透析器へ供給する操作を行えば,血液透析器の透析液入口にはエンドトキシンフリーの透析液が供給され,これが中空糸膜を介して中空糸膜内側へ流れ込み,エンドトキシンフリーの透析液によるプライミング操作が実現できる」(4頁第3段落)と記載されているとおり,本件発明1は,プライミング用液体として透析液を用いる点(構成ア),透析液をエンドトキシン除去手段(エンドトキシンカットフィルター)に通す点(構成イ),及び中空糸膜の外側から内側へプライミング液(透析液)を通過させる点(構成ウ),を採用することにより,@プライミング用水溶液からエアーが混入する危険性を回避することができ,ドライタイプにおいては,気泡の追い出しを簡便化でき,ウェットタイプでは,透析器と血液循環チューブの接続に熟練が不要となる,A治療時と同様に透析液を血液透析器へ供給する操作でエンドトキシンフリーの透析液によるプライミング操作が実現できる,という顕著な作用効果を奏する。
上記Aの効果は,刊行物1(甲6)が開示する「逆プライミング」という方法のみによっては奏し得ない。仮に,引用発明のプライミング方法を,「従来発明」に適用したとしても,生理食塩水をプライミング用水溶液として用いることになるから,透析液の流路をプライミング時に一旦閉鎖して生理食塩水バッグと接続するように切り替え,プライミング終了時(治療開始時)に再び透析液と接続するように切り替える必要があり,従来のプライミング操作よりもはるかに操作が複雑になる。また,生理食塩水バッグ,それを懸架する治具等は依然として必要であり,さらに,透析液の流路を一旦閉鎖して生理食塩水バッグと接続できるように切り替える機構も必要となる。すなわち,本件発明1においては,「逆プライミング」という構成に,更に上記構成アを採用することによって生理食塩水の安価な代替品とすることができ,上記構成イを採用することによって透析液をエンドトキシンフリー化することができるのであり,上記構成ア,イのいずれか一方を欠いても本件発明1の効果は奏し得ないのである。
加えて,本件発明1においては,生理食塩水の接続などの人間の操作が不要で,プライミング操作の自動化が容易になる,能力の高い透析液ポンプを使用するから短時間でより高いプライミング効果が得られ,プライミング水溶液を中空糸の側壁の膜孔を通過(透析液側から血液側へ)させることから,膜孔にトラップされているかもしれない異物も洗浄できる効果が期待できる,プライミング後,透析時(治療時)にもエンドトキシンフリー化された透析液をそのまま利用することになるので安全性が高まる,操作が簡便化されることにより,手技のミスによる感染の危険性が低くなる,という顕著な作用効果が奏されるものである。
エ 取消事由4(本件発明3の進歩性の判断の誤り) 審決は,本件発明3と従来発明とを対比して,相違点AないしEを挙げ,相違点AないしDについて,「(相違点A〜Dについて)本件発明1を引用する部分の相違点A〜Dについては,上記(5-4)で説示したとおりである」(審決15頁第6段落)と説示した上で,本件発明3の進歩性を否定する判断をした。
しかし,審決が,引用発明の認定を誤っていること,相違点B,Cの認定判断を誤っていることは,上記アないしウのとおりであるから,本件発明3の進歩性を否定した上記判断も誤りである。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,(4)は争う。
3 被告らの反論 審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1について プライミングは,血液透析器(人工腎臓)や血漿分離器などを含む血液処理器において共通した技術であり,当業者にとって,例えば血漿分離器で実行できるプライミングは,血液透析器(人工腎臓)においても使用できると考えられている技術的事項である。また,プライミング液として,生理食塩水のほかに透析液が使用できることが従来既に公知であり,この透析液は,プライミング液として使用する場合には,当然に「清浄」でなければならないものである。さらに,プライミングに当たって,プライミング液を中空糸膜の外側から内側へ流通させてプライミングを行なうことは,従来既に周知である。すなわち,被告が審判において提出した平成15年10月30日付け上申書(乙1)添付の資料C(特開平2-5967号公報),資料D(特開昭58-17766号公報)及び資料E(特開平2-17074号公報)(以下「資料C」などという。)には,「血漿分離器」と「人工腎臓(血液透析器)」とで共通のプライミングが行なえることが開示されており,当業者にとって,血漿分離器で実行できるプライミングは,血液透析器(人工腎臓)においても使用できると考えることは当然のことである。また,「プライミング液を中空糸膜の外側から内側へ流通させてプライミングを行なうこと」は,刊行物1(甲6),資料C及び資料Eに記載されていて,従来既に周知の技術であり,このうち特に資料Cと資料Dについては,「血漿分離器」と「人工腎臓(血液透析器)」とについて共通に,「プライミング液を中空糸膜の外側から内側へ流通させてプライミングを行なうこと」が開示されている。さらに,前記資料1(甲7)からは,「清浄な」血液透析液は,生理食塩水のような滅菌W液の代わりに用いられて,プライミングや,透析装置のすすぎ洗いや,返血に用いられることが理解されるから,プライミング液として,生理食塩水の他に,「清浄」な透析液が使用されていることは従来既に公知である。
(2) 取消事由2について ア 従来発明においてもプライミングは必須の作業であり,血液透析装置であればプライミング作業に「プライミング用の液体」を用いざるを得ないから,審決の「後者(判決注;従来発明)が生理食塩水等のプライミング用の液体を用いる」との認定に誤りはない。また,「清浄な」血液透析液がプライミングに用いられていることが資料1に開示されている以上,従来のプライミングには「生理的食塩水」のみが用いられていたということはできず,審決が,従来発明の血液透析装置のプライミングのために「生理食塩水等のプライミング用の液体」を用いるとした認定にも誤りはない。さらに,原告は,審決の相違点Bの認定は,本件発明1が「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」をプライミング用水溶液とする点を看過している旨主張するが,審決は,「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」を「無菌化され,使用可能である「透析液」」と認定して,この「透析液」の選択が容易に想起し得たと説示しているから,原告の主張は失当である。
イ 原告は,資料1は,プライミングは生理食塩水で行われることが技術常識であった出願当時に,透析液がプライミング用の液体の一つとして想定し難いものではないことを裏付けるものではない旨主張するが,資料1は滅菌W液でプライミングを行なっており,これを「清浄な」透析液で代替すれば,「清浄な」透析液は,プライミング用の液体であるということになるから,原告の主張は失当である。また,原告は,審決では,従来発明において生理食塩液を他の液に置き換えようとする動機付けがあったとする根拠は何も挙げられていない旨主張するが,従来からプライミング用液体として,生理食塩液と「清浄な」透析液とが使用されており,どちらを選択使用するかは,当業者にとって必要に応じて選択し得るものであり,「清浄な」透析液を使用するのに,「生理食塩水を用いると不都合がある等の何らかの動機」は不必要である。さらに,原告は,審決は,血液透析装置のプライミングのために,従来から生理食塩水以外の液が用いられていたという事実についても何の証拠も挙げていないと主張するが,資料1には従来から生理食塩水以外の液が用いられていたという事実が記載されているから,原告の主張は失当である。
ウ 従来発明が「エンドトキシン除去手段」を設ける点を構成要件としていないからといって,「エンドトキシン除去手段」が従来用いられていなかったということではない。特開昭63-154181号公報(甲8,以下「甲8公報」という。)及び特開平1-232969号公報(甲10,以下「甲10公報」という。)に記載されているように,一般の透析時であっても,エンドトキシン除去手段を通過した「清浄な透析液」を用いることは,本件特許出願前から既に周知であり,特に,透析液をプライミング用液体として使用するなら,エンドトキシン除去手段は必須のものとなる。資料1には,「清浄な」血液透析液がプライミングに使用できることが開示されており,この「清浄な」血液透析液とは,「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」でなければならないことは,当業者にとって容易に想到し得ることである。審決の「してみると,プライミング用の液体として,無菌化され,使用可能である「透析液」を選択することは,当業者が容易に想起し得た選択的事項であるといわざるを得ない」(審決13頁最終段落)との判断に誤りはない。
(3) 取消事由3について ア 従来から,プライミング用水溶液には「生理的食塩水」だけではなく「清浄な」血液透析液が用いられていることは,上記のとおりであり,審決の相違点Cの認定に誤りはない。
イ 原告は,血漿交換器のプライミング方法をそのまま血液透析装置のプライミング方法として適用することは当業者には容易に想到し得ない旨主張する。しかし,資料C,資料D及び資料Eには,「血漿分離器」と「人工腎臓(血液透析器)」とで共通のプライミングが行なえることが開示されているので,当業者にとって,血漿分離器で実行できるプライミングは,血液透析器(人工腎臓)においても使用できると考えることは当然のことである。また,従来からプライミング用水溶液には「生理的食塩水」だけではなく「清浄な」血液透析液が用いられていることは,当業者に周知である。
ウ 原告は,本件発明1が従来発明との相違点として「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」をプライミング水溶液とする点を有することを審決は看過している旨主張する。しかし,「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」は,「清浄な血液透析液」として従来既に周知であるから,これを相違点として挙げる必要はない。
(4) 取消事由4について 取消事由1ないし3についての原告の主張はいずれも失当であり,本件発明3の進歩性を否定した審決の判断に原告主張の誤りはない。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下においては,審決の適否につき,原告主張の取消事由ごとに判断する。
2 取消事由1について (1) 原告は,刊行物1(甲6)には,「人工腎臓」のプライミングのために,「プライミング用の液体をモジュール内の中空糸外側に導入し,次いで中空糸外側より中空糸内側へプライミング用の液体を浸透させ」ること(以下「人工腎臓プライミング方法」という。)は記載されていないから,審決が引用発明を「人工腎臓,血漿交換器等を使用する際のプライミング操作において,人工腎臓,血漿交換器等に使用されるモジュール内の多孔質中空糸の外側よりプライミング用の液体を導入し,次いで中空糸外側より中空糸内側ヘプライミング用の液体を浸透させることによりプライミングを行なうことを特徴とするプライミング方法」と認定したことは誤りであり,正しくは,「血漿交換器を使用する際に,血液回路,中空糸膜内部,及び中空糸膜外側をプライミングする方法において,生理食塩水を用い,中空糸外側より生理食塩水を導入し,中空糸内側へ生理食塩水を浸透させることによりプライミングを行うことを特徴とする血漿交換器のプライミング方法」と認定すべきであると主張する。原告が,刊行物1に人工腎臓プライミング方法は記載されていないとする理由は,@「人工腎臓」に関しては,刊行物1の[従来の技術]の項に記載があるだけで,刊行物1に記載されたプライミング方法が,人工腎臓に応用できる旨の記載はない,A刊行物1に記載されたプライミング方法は,血液処理装置一般に適用できるわけではなく,中空糸膜の外部空間をプライミングする必要がない人工腎臓(血液透析器)への適用を,当業者は想到しないというものである。
(2) そこで,検討すると,昭和59年(1984年)12月15日医学書院発行「二重濾過血漿分離交換法」(甲12,以下「甲12刊行物」という。)には,「血漿分離器・・・は,中空糸型血液透析器と同じ形をしていて」(26頁「a.膜濾過型血漿分離器」の項),「膜濾過分離法は血液透析の技術をそのまま流用でき,他の血液浄化法との連結が容易におこなえ便利である」(35頁「e.膜濾過型分離法の問題点」の項)と記載され,これら記載によれば,「血漿交換器(血漿分離器)」と「人工腎臓(血液透析器)」とは,「同じ形」をしていることから,血漿交換器の膜濾過分離法は,血液透析の技術をそのまま流用できることが認められる。また,甲12刊行物には,「血漿分離器の血液側の中空糸内部を生理的食塩水1,000mlで洗浄する」(32頁「d.血漿分離操作手順」の項)と記載され,また,資料A(乙1添付。日本メディカルセンター発行「透析療法マニュアル」。)には,「透析療法の実際」として,「プライミング時の確認事項と対策」の項に,「プライミング」には,「原則として生食(判決注;生理食塩水)1,000mlを使用」(81頁)することが記載されており,これらの記載によれば,「血漿交換器」においても,「人工腎臓(血液透析器)」においても,プライミング液として生理食塩水が使用されていたことが認められる。そうすると,「同じ形」をしていることから,血漿交換器の膜濾過分離法は,血液透析の技術をそのまま流用できるものであり,プライミング液も共通のものが用いられているのであるから,一般的に,生理食塩水を用いた血漿交換器におけるプライミング方法は,人工腎臓(血液透析器)においてもそのまま適用できものと理解することができる。
また,資料D(乙1添付。特開昭58-177660号公報。)には,「一般にプライミング処理とは,・・・分離膜の内面,外面及び壁厚内に存在する空気,充填物及び付着物を,プライミング液で完全に置換すると共に,該部分をきれいに洗浄し,該分離膜及び容器に付着している物質や異物が血液中に侵入しないようにする事である。・・・ここでは中空糸を内蔵した体液分離器を例として詳述する。従来このプライミング処理方法には二通りあり,第一の方法は第1図に示す様に従来から人工腎臓で行なわれている方法で,プライミング液1及び1A-一般には生理食塩水やヘパリン入り生理食塩水-を,体液分離器2の一方の側-一般的には下方側-の血液側ノズル3及び濾液側ノズル5から導入し,それぞれの反対側ノズル4及び6から排出することによって体液分離器のプライミング処理を行なう方法である。第二の方法は第2図に示すようにプライミング液1を体液分離器2の一方の側-一般的には下方側-の血液側ノズル3側の濾液側ノズル5を閉止し,該血漿分離器内全体にプライミング液が完全に充満されたのを確認した後,他端にある濾液側ノズル6を・・・閉止し,その後濾液側ノズル5を開放し,該体液分離器に導入されたプライミング液を,血液側ノズル4及び濾液側ノズル5より排出することによって,体液分離器のプライミング処理を行なう方法」(2頁左上欄最終段落〜左下欄第1段落)と記載されており,また,第1図及び第2図のいずれにも,血液側ノズル3,4及び濾液側ノズル5,6を有する,同一の体液分離器2が示されている。上記資料Dの記載及び図示によれば,「血漿交換器」と「人工腎臓(血液透析器)」とは,中空糸を内蔵した同じ形のものであって,いずれのものにおいても,中空糸の内外,すなわち,血液側,濾液側のいずれもが,血液の処理に先立って,プライミング処理を施されるものと認められるから,一般に,生理食塩水を用いた血漿交換器におけるプライミング方法は,人工腎臓(血液透析器)においても,そのまま適用できるものと理解することができる。
なお,原告は,人工腎臓(血液透析器)においては,中空糸膜の外部空間をプライミングする必要がない旨主張する。しかし,プライミングの目的は,分離膜の内面,外面及び壁厚内に存在する空気,充填物及び付着物を,プライミング液で完全に置換するとともに,当該部分をきれいに洗浄し,分離膜及び容器に付着している物質や異物が血液中に侵入しないようにすることにあり(資料Dの上記記載),甲8公報に「流体抵抗のためにその際に透析器の中に,透析液内の圧力が血液側の圧力より大きい領域が発生する。・・・この現象は長年にわたり知られておりすでに数十万の治療が問題なしに行われているにもかかわらず,透析液の薄膜の破裂や逆濾過が発生した場合に血液が汚染されるおそれがある。何故ならば透析液は通常は完全に無菌ではないからである」(3頁右上欄第3段落〜第4段落)と記載されているように,透析液側から血液側に透析液が流入する可能性があるから,人工腎臓(血液透析器)においては中空糸膜の外側をプライミングする必要がないということはできず,原告の上記主張は採用することができない。
原告が主張するとおり,確かに,刊行物1(甲6)には,「本発明によれば,中空糸型血漿交換器へ生理食塩液をプライミングするに際し,該生理食塩液を該血漿交換器内の中空糸外側に導入し,次いで中空糸外側より中空糸内側へ生理食塩液を浸透させプライミングを行うことを特徴とする,血漿交換器のプライミング方法,が提供される」(1頁右下欄〜2頁左上欄[問題点を解決するための手段]の項)と記載されており,この記載によれば,刊行物1には「生理食塩液を該血漿交換器内の中空糸外側に導入し,次いで中空糸外側より中空糸内側へ生理食塩液を浸透させる」プライミング方法(以下「甲6プライミング方法」という。)が,血漿交換器に適用される方法として説明されていることが認められる。しかし,刊行物1には,「人工腎臓,血漿交換器等を使用する際,血漿交換器等モジュール内の中空糸中への血液導入をスムースに行い,且つ中空糸内の気泡を取り除くことを目的として,使用前に生理食塩液等で中空糸内部を充填する操作,いわゆるプライミング操作が行なわれている。このプライミング操作のやり方としては,従来より,血液の流れる側,すなわち中空糸内側に,この中空糸束の一方から生理食塩液を導入することが行なわれている」(1頁左下欄〜右下欄[従来の技術]の項),「しかしながら,上記従来方法にあっては,生理食塩液の回路に空気が存在しているため,中空糸内部に空気が残存したり,新たに外部より空気が入る恐れがあった。さらには中空糸内の気泡除去に時間を要する,という問題もあった」(1頁右下欄[発明が解決しようとする問題点]の項),「そこで,本発明者は,上記従来の問題点に鑑み,種々検討を行なった結果,多孔質中空糸の外側より生理食塩液を導入し,中空糸外側より内側へ生理食塩液を導くことにより,前記従来の問題点を解決できることを見出し,本発明に至った」(同[問題点を解決するための手段]の項)と記載されており,これらの記載によれば,従来の「血液の流れる側,すなわち中空糸内側に,この中空糸束の一方から生理食塩液を導入する」プライミング方法は,血漿交換器に特有のものではなく,人工腎臓,血漿交換器等に共通するものであると認められるから,従来のプライミング方法の問題を解決するための甲6プライミング方法も,人工腎臓,血漿交換器等に共通するものと理解することができる。しかも,上記したとおり,「血漿交換器」と「人工腎臓(血液透析器)」とは,中空糸を内蔵した同じ形のものであって,いずれのものにおいても,中空糸の内外,すなわち,血液側,濾液側のいずれもが,血液の処理に先立って,プライミング処理を施されるものであるから,一般的には,「血漿交換器」において採用されているプライミング方法は,「人工腎臓(血液透析器)」においても適用できるものである。そうすると,刊行物1の[問題点を解決するための手段]の項の記載が,「血漿交換器」にしか触れていないとしても,刊行物1には,甲6プライミング方法が,「人工腎臓(血液透析器)」にも適用できるものとして記載されているものと認められる。
(3) 次に,原告は,刊行物1(甲6)のプライミング方法は,生理食塩水を用いるものであって,「プライミング用の液体」を用いるものではなく,刊行物1には,「プライミング用の液体」という用語の記載はなく,また,血漿交換器のプライミング液としていくつかの種類があり,いずれもが適宜選択して使用できることも記載されていないから,刊行物1に,「プライミング用の液体」を導入することが記載されているということはできないと主張する。
確かに,刊行物1記載の甲6プライミング方法は,生理食塩液を用いるものであり,また,刊行物1の[従来の技術]の項には,「使用前に生理食塩液等で中空糸内部を充填する操作,いわゆるプライミング操作が行なわれている」と記載されているものの,生理食塩液以外のプライミング用液体の具体名が記載されているわけではない。しかし,生理食塩液が,「プライミング用の液体」であることは上記(2)記載のとおりである。しかも,審決は,本願発明と従来発明との相違点Bを,「前者(判決注;本件発明1)が,プライミング用水溶液として透析液を用いるのに対して,後者(判決注;従来発明)が,生理食塩水等のプライミング用の液体を用いる点」と認定した上で,相違点Bを容易想到と判断しているが,この容易想到性の根拠としては,「当該技術分野において良く知られている液体を,プライミング用液の一つとして選択しようと試みることは,当業者が容易に想起し得る選択的事項である」(審決13頁第5段落)ことを挙げているのであって,刊行物1の「プライミング用の液体」の中に,「透析液」が含まれている点を挙げたのではない。したがって,仮に,審決が,引用発明を「プライミング用の液体」を導入するものと認定したことに誤りがあるとしても,審決は,透析液を用いる点は相違点Bとして認定し,相違点Bについて,引用発明から容易想到と判断したものではないから,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(4) 以上のとおりであるから,原告の取消事由1の主張は理由がない。
3 取消事由2について (1) 原告は,審決は,従来発明のプライミングについて何の認定もしておらず,プライミング用の液体としてどのようなものが用いられるかも認定していないのであるから,相違点Bについて,「後者(判決注;従来発明)が生理食塩水等のプライミング用の液体を用いる」と認定することはできず,正しくは,「前者(判決注;本件発明1)がプライミング用水溶液としてエンドトキシン除去手段を通過した透析液を用いるのに対して,後者(判決注;従来発明)が生理食塩水を用いる点」と認定すべきであり,審決は,「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」をプライミングに用いるという構成について,その想到容易性を判断していないと主張する。
(2) 確かに,審決は,従来発明を,「中空糸膜型血液透析器と,前記透析器の血液入口及び血液出口に中空糸膜内側に連通する様に接続された血液循環用チューブと,前記透析器の透析液入口及び透析液出口に透析液を流通させる様に接続された透析液供給チューブ及び透析液廃液チューブと,透析液を透析器の中空糸膜外側へ供給する供給手段とを備えた血液透析装置」(審決10頁下第2段落)と認定し,プライミング操作については認定していないから,審決が,相違点Bを「後者(判決注;従来発明)が生理食塩水等のプライミング用の液体を用いる」と認定したことは適切であるとはいえない。しかし,本件明細書(甲3)にも「中空糸膜型血液透析器を用いた血液浄化療法においては,治療開始前に必ず血液が接触する部分,つまり中空糸膜内側及び血液循環用チューブ内を洗浄し且つエアー抜きをする為にプライミングと呼ばれる操作を行なわなければならない」(1頁最終段落)と記載されているとおり,血液透析装置において,プライミング操作を必要とすることは周知のことである。また,資料A(乙1添付)には,「透析療法の実際,プライミング時の確認事項と対策」として,「原則として生食1,000mlを使用」(81頁)と記載され,この記載によれば,血液透析装置においては,プライミング液として必ず生理食塩水を用いるというわけではなく,生理食塩水以外のプライミング用の液体が用いられることも周知のことであると認められる。そうすると,従来発明は,生理食塩水等のプライミング用の液体を用いてプライミング処理を行うものと認めることができるから,審決は,従来発明が,生理食塩水等のプライミング用の液体を用いてプライミング処理を行うことを当然の前提として相違点Bを認定したものであり,誤りであるとまではいえない。
また,原告は,審決が「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」をプライミングに用いるという構成について,その想到容易性を判断していないとも主張する。しかし,審決は,プライミング用水溶液として何を用いるかの点について相違点Bとして認定したものであり,「エンドトキシン除去手段」の点は,相違点Aとして認定しているのであるから,審決が,本件発明1における,「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」をプライミング用に用いる構成について,その想到容易性を判断していないとはいえない。原告は,エンドトキシン除去手段は血液透析装置において必ず設ける必要があるというものではなく,また,実際,従来発明は「エンドトキシン除去手段」を設ける点を構成要件としていないから,本件発明1が,「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」をプライミング用水溶液とする点を,相違点Bとして認定すべきである旨主張する。しかし,本件明細書にも,「プライミングは中空糸膜内側及び血液循環用チューブ内に残存している滅菌剤や異物を洗い流すと同時にエアーを追い出して,体外循環治療中に血液中に異物や空気が混入したり溶血が起こるのを防ぐことを目的としている」(1頁最終段落〜2頁第1段落)と記載されているとおり,プライミング処理を行うに当たり,プライミング液から異物が排除される必要のあることは周知である。本件発明1において,透析液にエンドトキシン除去手段を通過させるのは,透析液から異物に当たるエンドトキシンを除去するためであると認められるところ,上記したとおり,プライミング液からは異物が排除される必要があるから,透析液にエンドトキシン除去手段を通過させるかどうかは,あらかじめ異物(エンドトキシン)を除去しておいたプライミング液を回路に流すか,回路の途中でエンドトキシン除去手段を通過させて異物(エンドトキシン)を除去するかの,異物除去のタイミングの問題としてとらえるべきであって,プライミング液として透析液を用いることとは別に検討すべきものである。したがって,「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」をプライミング用水溶液とする点を,相違点Bとして認定しなければならないということはできない。
以上のとおり,審決が,本件発明と従来発明の相違点Bを,「前者(判決注;本件発明1)が,プライミング用水溶液として透析液を用いるのに対して,後者(判決注;従来発明)が,生理食塩水等のプライミング用の液体を用いる点」であると認定したことに誤りはない。
(3) 原告は,審決が,従来発明の血液透析装置において,プライミングのために用いられている生理食塩液を他の液に置き換えようとする動機付けがあったとする根拠を何も挙げていないし,血液透析装置のプライミングのために,従来から生理食塩水以外の液が用いられていたという事実についても何の証拠も挙げておらず,さらに,透析液をプライミング液として用いることが公知又は周知の事実であることが証拠をもって示されていないから,審決が,相違点Bについて,「プライミング用の液体として,無菌化され,使用可能である「透析液」を選択することは,当業者が容易に想起し得た選択的事項であるといわざるを得ない」(審決13頁最終段落)とした判断は誤りである旨主張する。
しかし,上記のとおり,資料A(乙1添付)には,「プライミング」には,「原則として生食(判決注;生理食塩水)1,000mlを使用」すると記載され(81頁),この記載によれば,血液透析装置のプライミング操作は必ず生理食塩水によって行われていたものではない。また,そもそもプライミング処理は,本件明細書(甲3)にも,「中空糸膜型血液透析器を用いた血液浄化療法においては,治療開始前に必ず血液が接触する部分,つまり中空糸膜内側及び血液循環用チューブ内を洗浄し且つエアー抜きをする為にプライミングと呼ばれる操作を行なわなければならない」(1頁最終段落)と記載されているとおり,回路の洗浄,エアー抜きを目的として行われるものであるから,プライミング液としては,必ずしも生理的食塩水を用いる必要はなく,生理的食塩水が一般的に使用されるのは,血液と共に血管内に還流される可能性を考慮してのことであると認められる。資料1(甲7)には,「血液透析液分配システムで配合した「清浄な」水と濃縮液から生成した血液透析液を使用することによって,プライミングや透析装置のすすぎ洗い,透析の最後に行う返血に滅菌W液を使用する必要がなくなった。「清浄な」血液透析液は上記機械から引出されて,FH202フィルターを通過して血液回路に入る」(翻訳文4頁)と記載され,また,資料I(乙1添付。特開昭63-260570号公報。)には,「透析器10内の透析液が,半透膜を介して血液側に移行せしめられて,かかる透析器10および返血側血液流路14内に存在する血液が,透析液に置換され,該返血側血液流路14を通じて患者の体内に返戻せしめられることとなる」(4頁右下欄末行〜5頁左上欄第1段落)と記載され,これらの記載によれば,透析液も,血管内に還流されることを想定して調製されるものであることは明らかである。しかも,資料1(甲7)には,透析液をプライミング液として用いることも明記されているのであるから,透析液が,プライミング液としても使用できることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識に属するものというべきであり,従来発明において,プライミング液として透析液を用いることは,当業者が容易に想到できることというべきである。原告は,審決は,透析液をプライミング液として用いることが公知又は周知であることの証拠を挙げず,また,プライミングのために用いられている生理食塩液を他の液に置き換えようとする動機付けがあったとする根拠を示していない旨主張するが,上記のとおり,透析液がプライミング液としても使用できることは,当業者の技術常識に属するものというべきであるから,公知又は周知の証拠を挙げるまでもないことは明らかであり,また,そうである以上,プライミング液として,生理食塩水を用いるか透析液を用いるかは,必要により適宜選択できるものというべきであるから,根拠を示すまでもなく透析液を用いることの動機付けはあるというべきである。
(4) 原告は,審決の「(ちなみに,本件発明の出願当初の明細書(判決注;甲15,本件当初明細書)・・・には,無菌化されたプライミング用液の幾つかの例とともに無菌化された「透析液」がこれらの例と等価的なものとして提示されており,・・・資料1(判決注;甲7)・・・に,清浄な透析液をプライミングに使用できる旨が示されていることを考慮すると,従来より「透析液」がプライミング用液の対象として当業者により想定し難いものであったと解することもできない)」(審決13頁第6段落)との説示について,資料1は,無効理由を構成する証拠として提示されているものとはいえず,また,資料1は,プライミングは生理食塩水で行われることが技術常識であった本件特許出願当時に,透析液がプライミング用の液体の一つとして想定し難いものではないことを裏付けるものではない旨主張する。
しかし,審決は,上記説示に先立って,「それが明らかに使用不可能な液体であると認識されない限り,当該技術分野において良く知られている液体を,プライミング用液の一つとして選択しようと試みることは,当業者が容易に想起し得る選択的事項であるということができる」(同頁第5段落),「当業者において「透析液」がプライミング用の液体の一つとして従来より想定し難いものであったと解されるような特別の事情を見出すことができない」(同頁第6段落)とも説示し,この説示内容の妥当性を裏付ける根拠として,資料1の記載を引用していることは明らかである。すなわち,審決は,プライミング液としての「透析液」の使用は,プライミング処理の目的からして,従来発明においても,常識的に想定されることを説示したものと解されるところ,この説示内容に誤りがないことは上記したところから明らかであるから,資料1が,本件発明1の進歩性を否定する根拠として引用されていなくても,相違点Bに関する判断に何ら影響を及ぼすものではない。
また,原告は,審決は,上記「ちなみに」とする記載において,本件当初明細書(甲15)の,「本発明で使用されるプライミング用水溶液としては,従来より使用されている生理食塩水の他,上記の如く,エンドトキシンフリーの透析液や,予め血液浄化器に充填されている滅菌水,及びこれらの混合液が挙げられる」(8頁第2段落)との記載は,従来から「エンドトキシンフリーの透析液や,予め血液浄化器に充填されている滅菌水,及びこれらの混合液」がプライミングに使用されていることを述べたものではないから,上記審決の説示は誤りであると主張する。しかし,仮に,この説示が誤りであるとしても,プライミング液としての「透析液」の使用が,プライミング処理の目的からして,従来発明においても常識的に想定される以上,相違点Bについての判断に何ら影響するものではない。
原告は,透析液を,プライミング用の液体の一つとして想定し得たとしても,せいぜい「プライミングのために透析液を用いて血液透析装置の内部空間を洗浄する」というものでしかなく,@エンドトキシン除去手段を設ける点,A透析液をプライミング用水溶液とする点,及び,B透析液を中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる点の結合まで想到できるものではない旨主張する。しかし,本件発明1において,上記@とAの構成は,それぞれ,各別にその容易想到性を検討すべきものであることは上記のとおりである。また,透析液ないしはエンドトキシン除去手段を通過した透析液の使用が,血液透析装置の外部空間から内部空間への通過を可能としているのではないから,使用するプライミング液と,プライミング液の移動方向とは,各別に検討すべき問題といえる。そうであれば,上記構成を結合させて容易想到性を検討すべきであるとはいえないから,上記原告の主張は採用できない。
(5) 以上のとおりであるから,原告の取消事由2の主張には理由がない。
4 取消事由3について (1) 原告は,本件発明1は,「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」をプライミング水溶液としているから,審決の相違点Cの認定は誤りであり,正しくは,「前者(判決注;本件発明1)が,「治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段」を備えているのに対して,後者(判決注;従来発明)が,このような構成を備えていない点」と認定すべきであると主張する。
しかし,プライミング液にエンドトキシン除去手段を通過させること,プライミング液として透析液を用いることの容易想到性は,それぞれ格別に検討すべきものであり,審決は「エンドトキシン除去手段」の点は,相違点Aとして認定しているのであり,また,透析液にエンドトキシン除去手段を通過させるかどうかは,あらかじめ異物(エンドトキシン)を除去しておいたプライミング液を回路に流すか,回路の途中でエンドトキシン除去手段を通過させて異物(エンドトキシン)を除去するかの,異物除去のタイミングの問題としてとらえるべきであることは上記のとおりであるから,原告の上記主張は採用することができない。
原告は,本件発明1の「治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段とを有し」という構成は,単に血液透析装置にエンドトキシン除去手段が備わっていればよいというものではなく,プライミング時に,エンドトキシン除去手段を通過した透析液がプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過して中空糸膜内側に移動するようにするには,そのような透析液の流れが生じるように,適宜バルブが切り替えられ,適宜ポンプが作動しなければならないが,本件発明1の血液透析装置は,これらの動作が可能なように構成されていることを,「治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段とを有しプライミング用水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されている」という構成によって表現しているのである旨主張する。
しかし,「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」を,「透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる」のであれば,その動作が可能なように装置を構成することは,当業者が当然配慮することであるから,上記の動作が可能とされているからといって,血液透析装置において治療開始前にプライミングするために,エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液とすること,また,透析液を,中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段を設けることが想到困難であるということはできない。
したがって,本件発明1は「透析液」ではなく「エンドトキシン除去手段を通過した透析液」をプライミング水溶液としていることを理由として,審決の相違点Cの認定は誤りであるということはできない。
(2) 原告は,審決の「(仮に,刊行物1が血漿交換器のためのプライミング方法のみを開示したものとしても,上記・・・なお書きで説示したように,血漿交換器に関するプライミング方法と血液透析器のプライミング方法とは,共に中空糸膜内部をプライミングする必要性がある点で共通するものであることが当業者にとって自明な事項であるといえるから,刊行物1に記載されたプライミング方法を従来発明の血液透析器に適用することに格別の困難性があったものということはできない。)」(審決14頁第5段落)との判断について,なお書きの説示が何らの説明にもなっていないと主張する。
しかし,審決の引用発明の認定に誤りはないことは上記のとおりであるから,審決の上記説示部分のみを取り上げてその誤りを主張しても意味がない。なお,「血漿交換器」と「人工腎臓(血液透析器)」とは,中空糸を内蔵した同じ形のものであって,いずれのものにおいても,中空糸の内外,すなわち,血液側,濾液側のいずれもが,血液の処理に先立って,プライミング処理を施されるものであるから,一般的には,「血漿交換器」において採用されているプライミング方法は,「人工腎臓(血液透析器)」においても適用できるものであることは上記のとおりである。したがって,仮に,刊行物1が血漿交換器のためのプライミング方法のみを開示したものであるとしても,これを「人工腎臓(血液透析器)」に適用することは容易想到というべきであり,上記説示自体にも誤りはない。
(3) 原告は,プライミング用水溶液用の専用回路や生理食塩水入りバッグの懸架治具等を設けるか否かは,本件発明1と従来発明との相違点としては挙げられていないから,「また,当該設計上の変更をする際に,従来発明が備えるプライミング操作のための構成であるところの透析装置における生理食塩水を中空糸内側に導入するために採用されていた構成(例えば,このためのプライミング用水溶液用の専用回路や生理食塩水入りバッグの懸架治具等)を単に省略することは,同上引用発明のプライミング方法(中空糸の外側から入れて内側へ移動させる方法)を適用する際に,中空糸内側に導入するための上記構成が不要となることは明らかであるから,当業者が当然配慮して採用する設計的事項であるといえる」(審決14頁第6段落)との審決の説示は誤りであり,さらに,単に引用発明を従来発明のプライミング方法に適用したからといって,プライミング用液としては依然として生理食塩水を用いるのであるから,従来発明における生理食塩水用の専用回路や生理食塩水入りバッグの懸架治具等が省略できないことは明らかであると主張する。
しかし,審決は,「プライミング用の液体として,無菌化され,使用可能である「透析液」を選択することは,当業者が容易に想起し得た選択的事項であるといわざるを得ない」(審決13頁最終段落)と判断しており,この判断に誤りのないことは,上記のとおりであるから,原告の指摘する上記説示は上記判断を前提として付言されたにすぎないものであることは明らかであり,上記原告の主張は当たらない。
(4) 原告は,血液透析器とは使用目的も使用方法も全く違う血漿分離器にとって好適な,引用発明のプライミング方法を,あえて従来発明の血液透析装置に組み合わせるとしても,結果として得られる事項は,「プライミングのために生理食塩水を血液透析装置の外部空間から内部空間に通過させる」というものでしかなく,従来発明に,資料1(甲7)を組み合わせて得られるのは,「プライミングのために透析液を用いて血液透析装置の内部空間を洗浄する」というものであるから,従来発明に,資料1記載の発明及び引用発明を適用しても,本件発明1の「エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸内側へ移動させる」という構成には,当業者が容易に想到し得るものではない旨主張する。
しかし,そもそも,審決は,従来発明に,技術常識(当該技術分野において良く知られている液体を,プライミング用液の一つとして選択すること)及び引用発明を適用することによって本件発明の進歩性を否定したのであり,従来発明に,資料1及び「引用発明」を適用したのではないから,上記原告の主張は前提において誤りであり,採用できない。また,刊行物1(甲6)には,「このプライミング操作のやり方としては,従来より,血液の流れる側,すなわち中空糸内側に,この中空糸束の一方から生理食塩液を導入することが行なわれている」(1頁[従来の技術]の項),「しかしながら,上記従来方法にあっては,生理食塩液の回路に空気が存在しているため,中空糸内部に空気が残存したり,新たに外部より空気が入る恐れがあった。さらには中空糸内の気泡除去に時間を要する,という問題もあった」(同[発明が解決しようとする問題点]の項),「そこで,本発明者は,上記従来の問題点に鑑み,種々検討を行なった結果,多孔質中空糸の外側より生理食塩液を導入し,中空糸外側より内側へ生理食塩液を導くことにより,前記従来の問題点を解決できることを見出し,本発明に至った」(同[問題点を解決するための手段]の項)と記載され,これらの記載によれば,気泡を完全にかつ短時間で除去できるのは,生理食塩液を用いたからではなく,生理食塩水を多孔質中空糸の外側より導入するからであることは明らかである。仮に,刊行物1から,引用発明しか認定できないとしても,引用発明を「人工腎臓」に用いることは容易に想到できることであるし,「人工腎臓」のプライミング液として「透析液」を用いることは,当業者が適宜選択し得ることであるから,引用発明を「人工腎臓」に適用し,「透析液」をプライミング液として用いれば,「生理食塩水」を用いる「血漿交換器」同様の作用効果が奏されることは,当業者が容易に予測できるものである。したがって,引用発明を従来発明に組み合わせて得られる知見が,「プライミングのために生理食塩水を血液透析装置の外部空間から内部空間に通過させる」というものに止まらず,「プライミングのために透析液を血液透析装置の外部空間から内部空間に通過させる」というものとなることは明らかである。そうすると,引用発明を,従来発明の血液透析装置に組み合わせることには,何ら困難性はないというべきであるから,上記原告の主張は採用できない。
(5) 原告は,本件発明1は,プライミング用液体として透析液を用いる点,透析液をエンドトキシン除去手段(エンドトキシンカットフィルター)に通す点,及び中空糸膜の外側から内側へプライミング液(透析液)を通過させる点,を採用することにより,@プライミング用水溶液からエアーが混入する危険性を回避することができ,ドライタイプにおいては,気泡の追い出しを簡便化でき,ウェットタイプでは,透析器と血液循環チューブの接続に熟練が不要となる,A治療時と同様に透析液を血液透析器へ供給する操作でエンドトキシンフリーの透析液によるプライミング操作が実現できる,という顕著な作用効果を奏し,また,生理食塩水の接続などの人間の操作が不要で,プライミング操作の自動化が容易になる,能力の高い透析液ポンプを使用するから短時間でより高いプライミング効果が得られ,プライミング水溶液を中空糸の側壁の膜孔を通過(透析液側から血液側へ)させることから,膜孔にトラップされているかもしれない異物も洗浄できる,効果が期待できる,プライミング後,透析時(治療時)にもエンドトキシンフリー化された透析液をそのまま利用することになるので安全性が高まる,操作が簡便化されることにより,手技のミスによる感染の危険性が低くなるという顕著な作用効果が奏されるものであると主張する。
しかし,安全性が高まるのは,透析液をエンドトキシン除去手段に通すことによる自明の効果にすぎない。また,プライミング液として,透析液を用いれば,生理食塩水によるプライミング操作が不要となり,そのための設備も不要となることは明らかであり,プライミング操作の簡便性,透析装置の簡素化という効果は,透析液を用いることから当業者が容易に予測できるものであり,本件発明が,血液透析器のタイプ(ウェット,ドライ)を選ばないという効果は,両タイプがそもそも同じ構造のものであることから当然に予測できる効果である。原告主張に係るその他の効果も,透析液を用いること,及び中空糸膜の外側から内側へプライミング液(透析液)を通過させることによって奏されるものであり,当業者が容易に予測できるものである。
そうすると,本件発明1において,プライミング用液体として透析液を用いる点,透析液をエンドトキシン除去手段(エンドトキシンカットフィルター)に通す点,中空糸膜の外側から内側へプライミング液(透析液)を通過させる点の全てを組み合わせることにより格別顕著な作用効果が奏されるものとはいえないから,原告の上記主張も採用できない。
(6) 以上のとおりであるから,原告の取消事由3の主張は理由がない。
5 取消事由4について 原告は,上記取消事由1ないし3により,本件発明3の進歩性判断も誤りであると主張するが,取消事由1ないし3についての原告の主張はいずれも理由がないことは上記のとおりであるから,本件発明3の進歩性を否定した審決の判断に原告主張の誤りはない。
したがって,原告の取消事由4の主張も理由がない。
6 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉
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