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事件 平成 12年 (ワ) 11471号 特許権侵害差止等請求事件
原告 スカイライトコーポレーション株式会社
訴訟代理人弁護士 齋藤安彦
同 後藤昌弘
訴訟復代理人弁護士 川岸弘樹
補佐人弁理士 広江武典
被告 株式会社アテックス大阪
訴訟代理人弁護士 鶴田啓三
補佐人弁理士 苗村正
同 住友慎太郎
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/09/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙被告製品目録記載の製品を、製造し、輸入し又は販売してはならない。
2 被告は、原告に対し、金500万円及びこれに対する平成12年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 本件は、下記の特許権(以下「本件特許権」という。)をスカイライト工業株式会社と共有する原告が、被告に対し、別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)の製造、輸入又は販売が本件特許権を侵害するとして、本件特許権に基づき、被告製品の製造、輸入及び販売の差止めを求めるとともに、本件特許権侵害不法行為による損害賠償の一部請求として500万円を請求する事案である。
記 特許番号 第2897181号 発明の名称 腹部揺動器具 出願年月日 昭和63年9月16日(特願昭63-231830) 登録年月日 平成11年3月12日 2 争いのない事実 (1) 原告は、スカイライト工業株式会社と本件特許権を共有している。
(2) 本件特許権についての特許出願の願書に添付された補正された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
請求項1 床に仰臥した人の足首を足載台に載せてこれを左右に往復動させることにより、その腹部を揺動させるものであって、足載台と、この足載台を左右に往復動させるための駆動機構とからなり、足載台は床面より100〜200mm程度の位置に設けられ、10〜30mm程度の振幅で、毎分100〜200回程度の速度で左右に往復動するものであることを特徴とする腹部揺動器具。
請求項2 駆動機構は足載台の往復動方向に平行に設けられたレールと、このレールに摺動自在に取り付けられていてレールに沿って左右に往復動する摺動駒、及び駆動モータと、この駆動モータに取り付けられた減速機と、この減速機の出力軸に取り付けられたエキセントリックプーリとからなり、摺動駒にはエキセントリックプーリの外径とほぼ同一の幅の竪溝が形成されており、これにエキセントリックプーリが嵌められていてエキセントリックプーリを回転させることにより摺動駒が10〜30mmの振幅で、毎分100〜200回の速度で左右に往復動するようになっており、その上端部が本体ケースより突出していて、これに足載台が取り付けられて、摺動駒の左右動するに従って左右に往復動するように形成されていることを特徴とする特許請求の範囲第1項の腹部揺動器具。
(3) 請求項2の発明の構成要件は、次のとおり分説することができる(以下、請求項2に記載された発明を「本件発明」といい、その構成要件は、例えば「構成要件@」のように、番号をもって示す。)。
@ 床に仰臥した人の足首を足載台に載せてこれを左右に往復動させることにより、その腹部を揺動させるものであって、
A 足載台と、この足載台を左右に往復動させるための駆動機構とからなり、
B 足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ、10〜30mm程度の振幅で、毎分100〜200回程度の速度で左右に往復動するものであり、
C 駆動機構は足載台の往復動方向に平行に設けられたレールと、このレールに摺動自在に取り付けられていてレールに沿って左右に往復動する摺動駒、及び駆動モータと、この駆動モータに取り付けられた減速機と、この減速機の出力軸に取り付けられたエキセントリックプーリとからなり、摺動駒にはエキセントリックプーリの外径とほぼ同一の幅の竪溝が形成されており、これにエキセントリックプーリが嵌められていてエキセントリックプーリを回転させることにより摺動駒が10〜30mmの振幅で、毎分100〜200回の速度で左右に往復動するようになっており、その上端部が本体ケースより突出していて、これに足載台が取り付けられて、摺動駒の左右動するに従って左右に往復動するように形成されていることを特徴とする D 腹部揺動器具。
(4) 被告は、業として被告製品を販売している。
(5) 被告製品の構成は、次のとおり分説することができる(分説中に記載された番号は、別紙被告製品目録添付の図面記載の番号である。以下、被告製品の構成は、例えば「構成A」のように、記号をもって示す。)。
A 床に仰臥した人の足首を足載台1に載せて、これを左右に往復動させることにより、その腹部を揺動させるものであって、
B 足載台1とこの足載台1を左右に往復動させるための駆動機構とからなり、
C 足載台1の凹部の最下部は、床面からは約231mm、同時に販売される回転盤の上面からは171mmないし200mmの高さに設けられ、中心点から左右方向にそれぞれ17.5mmの幅で、毎分平均146回ないし149回程度の速度で左右に往復動するものであり、
D 駆動機構は足載台1の往復動方向に平行に設けられたレール71と、このレール71に摺動自在に取り付けられていてレール71に沿って左右に往復動する摺動駒72、及び駆動モータ3と、この駆動モータ3に取り付けられた減速機31と、この減速機31の出力軸に取り付けられたアーム体32aとこのアーム体32aに出力軸中心から位置ずれさせて設けたカム32bとからなる回転伝達部材32とからなり、摺動駒72にはカム32bの外径とほぼ同一の幅の竪溝73が形成されており、これにカム32bが嵌められていて前記回転伝達部材32を回転させることにより摺動駒72が、中心点から左右方向にそれぞれ17.5mmの幅で、
毎分146回ないし149回程度の速度で左右に往復動するようになっており、その上端部が本体ケース2より突出していて、これに足載台1が取り付けられていて、摺動駒72の左右動するに従って左右に往復動するように形成されていることを特徴とする E 腹部揺動器具。
(6) 構成A、B、Eは、それぞれ構成要件@、A、Dを充足する。
3 争点 (1) 被告は、業として、被告製品を販売するほか、製造、輸入しているか。
(2) 構成Cの「足載台1の凹部の最下部は、床面からは約231mm、同時に販売される回転盤の上面からは171mmないし200mmの高さに設けられ」という部分は、構成要件Bの「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ」という構成を文言上充足するか。
(3) 被告製品は、構成要件Bの「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ」という部分を、構成Cの「足載台1の凹部の最下部は、床面からは約231mm、同時に販売される回転盤の上面からは171mmないし200mmの高さに設けられ」という部分に置換した点において、本件発明と均等か。
(4) 構成Dの「この減速機31の出力軸に取り付けられたアーム体32aとこのアーム体32aに出力軸中心から位置ずれさせて設けたカム32bとからなる回転伝達部材32とからなり、摺動駒72にはカム32bの外径とほぼ同一の幅の竪溝73が形成されており、これにカム32bが嵌められていて前記回転伝達部材32を回転させることにより摺動駒72が・・・左右に往復動するようになっており」という部分は、構成要件Cの「この減速機の出力軸に取り付けられたエキセントリックプーリとからなり、摺動駒にはエキセントリックプーリの外径とほぼ同一の幅の竪溝が形成されており、これにエキセントリックプーリが嵌められていてエキセントリックプーリを回転させることにより摺動駒が・・・左右に往復動するようになっており」という構成を文言上充足するか。
(5) 被告製品は、構成要件Cの「この減速機の出力軸に取り付けられたエキセントリックプーリとからなり、摺動駒にはエキセントリックプーリの外径とほぼ同一の幅の竪溝が形成されており、これにエキセントリックプーリが嵌められていてエキセントリックプーリを回転させることにより摺動駒が・・・左右に往復動するようになっており」という部分を、構成Dの「この減速機31の出力軸に取り付けられたアーム体32aとこのアーム体32aに出力軸中心から位置ずれさせて設けたカム32bとからなる回転伝達部材32とからなり、摺動駒72にはカム32bの外径とほぼ同一の幅の竪溝73が形成されており、これにカム32bが嵌められていて前記回転伝達部材32を回転させることにより摺動駒72が・・・左右に往復動するようになっており」という部分に置換した点において、本件発明と均等か。
(6) 本件特許権の侵害があるとした場合、損害額はいくらか。
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告製品の製造、輸入)について (1) 原告の主張 被告は、業として、被告製品を販売するほか、製造、輸入している。
(2) 被告の主張 被告は、業として、被告製品を販売しているが、製造、輸入はしていない。
2 争点(2)(構成要件Bの文言上の充足性)について (1) 原告の主張 ア(ア) 本件発明は、使用者が床面に臀部を直接載置することを前提として足載台の臀部に対する相対的な高さを100〜200mmとするものである。また、本件明細書に「また、足載台1の高さを200mm以上にしたときは、脚を伸ばした状態にするのが難しくなり、脚は上向きに屈折した状態となって、これを往復動させると腹部は左右に捻られる運動をされることとなる。」(別添特許公報(以下「特許公報」という。)4欄13行ないし16行)と、足載台の高さが200mm以上では好ましくないことも明記されているが、この記載を前提に考えれば、脚が屈折しない高さである点に意味があり、臀部の位置と足載台との相対的な高さが重要な意味をもつことは明らかであり、足載台の高さが床面からの絶対的な高さを意味するということは、誤りである。そこで、構成要件Bの「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ」という部分は、使用者の臀部から足載台までの高さが100mmないし200mmであることを意味する。
(イ) 他方、被告製品には、販売に際して必ず高さ約60mmの回転盤が付属品としてセットされ、被告製品は、使用者が回転盤を臀部に当てて使用するものとされており、使用者の臀部は、回転盤の上面に位置することとなる。構成Cによれば、足載台1の凹部の最下部は、回転盤の上面から171mmないし200mmの高さに設けられるから、使用者の臀部から足載台1の凹部の最下部までの高さは、171mmないし200mmであり、構成要件Bに示された100mmないし200mmの範囲内にある。
(ウ) 被告製品は、回転盤を同時に併用しない場合は、小柄な者が使用したとしても、腰の位置に比べて足載台の高さが高いため、使用者の下肢のふくらはぎの部分が機械本体と擦れ合ってしまい、事実上使用が不可能である。意図的に膝を曲げ、又は特に足の細い者が使用した場合にはふくらはぎが擦れ合わないこともあり得るかもしれないが、一般通常人や肥満気味の者が使用した場合には擦れ合う可能性があり、これを避けるために、被告製品は回転盤がセットで販売されているものである。すなわち、被告製品は、当初から、足載台が腰に比べて相対的に100mmないし200mm高い状態で使用するように作られており、回転盤は、足載台が腰に比べて相対的に100mmないし200mm高くなるようにするために使用されるものである。被告製品は必ず回転盤がセットで販売されており、テレビショッピングのビデオや広告においても常に回転盤を併用した状態で宣伝がされており、使用者が座布団等を任意に併用しているというものではなく、このような被告の販売形態からみれば、回転盤が足載台と臀部との相対的な高さを調節する機能を果たしていることは明らかである。
(エ) したがって、構成Cの「足載台1の凹部の最下部は、床面からは約231mm、同時に販売される回転盤の上面からは171mmないし200mmの高さに設けられ」という部分は、構成要件Bの「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ」という構成を文言上充足する。
イ 被告は、構成要件Bの「床面」とは、実際の床面を指すと主張する。しかし、実際の床面に複数の回転盤を敷いてその厚さの分だけかさ上げし、その上面に使用者が仰臥した場合を仮定してみると、この場合においても、実際の床面に使用者が仰臥した場合と同様に、足載台が低すぎれば、脚を左右に往復動させようとしても、脚の後ろのふくらはぎの部分が床面に擦れて運動が阻害され、高すぎれば、脚を伸ばした状態にするのが難しくなり、脚は上向きに屈折した状態となって、これを往復動させると腹部は左右に捻られる運動をされることとなるから、構成要件Bの「床面」を実際の床面と解さなければならない理由はない。
(2) 被告の主張 ア(ア) 構成要件Bには、「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ」と記載されているが、そのようにする理由について、本件明細書には、「従って足載台1は、なるべく低い位置に設けるのが望ましいのであるが、
この高さを床面より100mm以下にすると、脚の後ろ側の部分(脹脛)が床面に接するため、脚を左右に往復動させようとすると、これが床面と擦れてその運動を阻害する。また、足載台1の高さを200mm以上にしたときは、脚を伸ばした状態にするのが難しくなり、脚は上向きに屈折した状態となって、これを往復動させると腹部は左右に捻られる運動をされることとなる。」(特許公報4欄8行ないし16行)と記載されている。しかし、出願当初の明細書にはこのような理由の記載はなく、平成8年1月23日付けの拒絶理由通知の後に提出された同年4月12日付けの手続補正書により補正された明細書に、ほぼ同趣旨の記載がされ、同年5月27日付けの拒絶査定に対する審判請求に際して提出された手続補正書によって補正された明細書に、更に言葉を補って、本件明細書の前記理由と同じ記載がされるに至った。
本件発明の特許出願前に発行された特許第90759号明細書(乙第2号証)、実公昭44-26505号実用新案公報(乙第3号証)及び実公昭52-22151号実用新案公報(乙第4号証)の記載によれば、床に仰臥した人の足首を足載台に載せてこれを左右に往復動させることにより、その腹部を揺動させるものであること(構成要件@)、足載台と、この足載台を左右に往復動させるための駆動機構とからなること(構成要件A)は周知の技術事項である。また、本件明細書の(作用)の項には、「本発明に係る腹部揺動器具は、足載台を床面から100〜200mm程度の位置に設け、且つ、この足載台を10〜30mmの振幅で、
毎分100〜200回の速度で左右に往復動させることにより、脚が臀を中心にしてあたかも魚が泳ぐように左右に往復動し、腹部がそれに共振して左右にくねるように揺動する。これによって腹部の内蔵機能が活発化し、併せて、体内への酸素の吸収量が多くなって健康が増進する。」(特許公報3欄35行ないし42行)と記載されているが、このうち「脚が臀を中心として・・・」以降に記載された作用効果は、乙第2号証ないし第4号証に記載された作用効果の域を出るものではない。
このような本件発明の出願経過や出願前に発行された文献との比較からすると、本件発明は、足載台が、床面より100mmないし200mm程度の位置に設けられ、10mmないし30mm程度の振幅で、毎分100回ないし200回程度の速度で左右に往復動するものであること(構成要件B)により特許として登録されたものであって、足載台が床面より100mmないし200mm程度の位置に設けられていることは、本件発明のうちで必要不可欠な構成要件である。
(イ) 前記(ア)に記載された足載台を床面より100mmないし200mm程度の位置に設けることについての理由(特許公報2頁4欄8行ないし16行)は、臀部を、床面ではなく、床面上に配置される何らかの盤上に載置するときには、成り立たないから、構成要件Bの「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ」とは、文字どおり、床面からの高さを意味すると解すべきである。このように解しないときは、腹部揺動器具の足載台の高さが一定であるにもかかわらず、臀部を載置する盤の高低によって本件特許権の侵害又は非侵害が左右されることになるが、このような不安定な解釈はなし得ない。
また、被告製品においては、回転盤が腰部に当てられるため、腰部が床面から浮上し、腰部の運動がスムーズになるのに対し、本件発明では、「胸部と腰部が床に接し」(特許公報5欄9行)て運動を制約することを前提としており,被告製品と本件発明とでは、作用効果が異なる。
構成要件Bの「床面」を実際の床面と解釈することは、構成要件@の「床に仰臥した人」という記載及び本件明細書の「床に仰臥して脚を伸ばした状態で足首を足載台1に載せると、人体は胸部と腰部が床面に接し、腹部と脚部が床面より若干浮き上がる。」(特許公報5欄8行ないし10行)という記載とも整合する。
(ウ) 以上から、構成要件Bの「床面」は、実際の床面を意味すると解すべきである。
構成要件Bには、「程度」という文言が用いられているが、この文言は、平成8年4月12日付けの手続補正書によって補正された明細書において付加されたものである。構成要件数値限定に「程度」という文言が用いられていたとしても、有効数字の下一桁を四捨五入して得られる範囲までが権利範囲とされるにすぎないと解すべきであり、構成要件Bの「床面より100〜200mm程度の位置」とは、床面より95mm以上205mm未満の範囲の位置と解すべきである。
ウ 構成Cによれば、足載台1の凹部の最下部は、床面から約231mmの高さに設けられているが、これは、床面から95mm以上205mm未満の範囲には入っておらず、構成Cは、構成要件Bを充足しない。
3 争点(3)(構成要件B部分についての均等の成否)について (1) 原告の主張 ア 本件発明は、人の身体を必須の適用対象とするものであるから、床面からの高さを解釈するに当たっては、実質的には、足載台と臀部の載置面との相対的な高さを重視すべきであり、臀部の載置面を基準とする高さと解すべきである。そして、回転盤を用いたときには、臀部が載置される回転盤の上面から足載台までの相対的な高さが重要である。そこで、足載台までの高さの基準を、実際の床面とするか回転盤の上面とするかは、本件発明の本質的部分ではない。
イ 足載台までの高さの基準につき、「床面」を「回転盤の上面」に置換しても、駆動モータの回転運動を水平往復運動に変換する特定の駆動機構を備えることによって、適度の運動量で不必要な刺激、過度の負担を受けることなく安定して安全に運動でき、体力のない人でも安楽に運動できるとともに、この運動を家庭で簡単かつ手軽に行うことができるという、本件発明の目的を達成することができ、
同一の作用効果を奏することができる。
被告は、被告製品の回転盤が、腰揺れを容易とし、床面から浮上させて揺動する作用効果をも生じるものであることを根拠に置換可能性を否定するが、被告製品の回転盤がそのような作用効果をも生じるものであるとしても、その厚さ分の高さによって足載台と臀部の載置面との相対的な高さを調整し、それにより、脚が上向きに屈折した状態となりこれを往復動させることによって腹部が左右に捻られる運動をされることとなるのを防止するという点において、本件発明と何ら変わりはなく、同一の目的を達成し、同一の作用効果を奏するといえる。
ウ 床面から足載台までが高すぎて腹部揺動に支障を来す場合に、回転盤や座布団等を臀部の下に敷いて高さを調整することは、何人も直ちに思い付くことであるから、回転盤を用いて、足載台の高さの基準を「床面」から「回転盤の上面」に置換することは、当業者が被告製品の製造販売の時点において容易に想到することができたものである。
エ 被告製品は、本件発明を模倣したものであり、本件発明の出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考することができたものではない。
オ 本件発明の出願手続において、特許請求の範囲から被告製品のような構造のものを意識的に除外したなどの特段の事情は存在しない。
(2) 被告の主張 ア 前記2(2)ア(ア)に記載された本件発明の出願経過や出願前に発行された文献との比較からすると、構成要件Bのうち、足載台が実際の床面より100mmないし200mm程度の位置に設けられることは、本件発明の本質的部分であり、
構成Cは、足載台1の凹部の最下部を実際の床面から約231mmとするものであって、本件発明とは本質的部分の構成を異にするから、均等は成立しない。
イ 前記2(2)ア(イ)に記載されたとおり、被告製品においては、回転盤を用いることにより、腰部が床面から浮上し、腰部の運動がスムーズになるのに対し、
本件発明では、胸部と腰部が床に接して運動を制約し,被告製品と本件発明とでは作用効果が異なるから、被告製品は本件発明と置換可能であるとはいえない。
ウ 本件発明を回転盤を用いたものに置き換えることに、当業者が被告製品の製造販売時に容易に想到することができたとはいえないから、置換容易性はない。
4 争点(4)(構成要件Cの文言上の充足性)について (1) 原告の主張 構成要件Cの「エキセントリックプーリ」にいう「エキセントリック」とは、「偏心的な」の意味であり、「プーリ」とは「巻掛伝動機構でベルトまたはロープを巻き付ける車」(丸善「科学大辞典」)をいう。構成Dの「アーム体32a」及び「カム32b」と構成要件Cの「エキセントリックプーリ」を対比すると、プーリであるかカムであるかの点において異なる。しかし、「カム32b」と「エキセントリックプーリ」は、いずれも円形部材で外見上共通している上、「カム32b」は、「アーム体32a」により出力軸から偏心した位置に設けられており、出力軸の軸心から偏心している点で、「エキセントリックプーリ」が偏心しているのと共通しているし、「カム32b」は、摺動駒の竪溝とほぼ同一の外径を有し、竪溝に嵌められている点において、「エキセントリックプーリ」と共通している。さらに、機能においても、摺動駒の竪溝にその幅とほぼ同一の外径を有する円形のプーリ又はカムが取り付けられ、駆動モータ、減速機の回転出力を偏心動作することによって、摺動駒を、上下に併設された2本のレールを案内として左右に往復動させるもの、すなわち、駆動モータの回転力を水平往復動に変換するものである点で共通する。そして、本件明細書には、「エキセントリックプーリ」につきカム状部材を除くとする記載もない。
したがって、構成Dの「アーム体32aとこのアーム体32aに出力軸中心から位置ずれさせて設けたカム32bとからなる回転伝達部材32」は、構成要件Cの「エキセントリックプーリ」に該当し、構成Dは構成要件Cを充足する。
(2) 被告の主張 被告製品は、構成要件Cの「エキセントリックプーリ」を備えない。構成要件Cの駆動機構は、出力軸に取り付けられたエキセントリックプーリを自転回転させることにより摺動駒に往復動を生じさせることを必須の要件としており、そのために竪溝の幅をエキセントリックプーリの外径とほぼ同一としている。これに対し、被告製品の駆動機構は、カムはアーム体に取り付けられ、このカムが竪溝内に嵌まりつつ減速機の出力軸の回りを公転回転することにより摺動駒を往復動させるものであり、カムの自転回転は機構的に不要であり、両者の駆動機構は異なる。
構成要件Cは、請求項1の「駆動機構」の内容を特定する部分であるところ、構成要件Cの駆動機構と被告製品の駆動機構は、当業者が当然に区別し得るものであるから、本件発明は、両方の駆動機構を共に認識した上で、前者を選択したものといえる。
構成要件Cにいう「エキセントリックプーリ」を、偏心したプーリ又は円板と理解するとしても、それは、JIS等により規定され又は当該技術分野において通常用いられる用語ではないのであるから、それが構成Dにいう「出力軸に取り付けられたアーム体32aとこのアーム体32aに出力軸中心から位置ずれさせて設けたカム32bとからなる回転伝達部材32」を含むとする場合には、明細書に、その旨の説明の記載が必要であるが、本件明細書にはそのような記載はないから、構成要件Cにいう「エキセントリックプーリ」とは、実施例として記載されたとおりのものとしか理解することができない。
構成要件Cは、「摺動駒にはエキセントリックプーリの外径とほぼ同一の幅の竪溝が形成されて」いることを要件とするが、構成Dの「アーム体32aとこのアーム体32aに出力軸中心から位置ずれさせて設けたカム32bとからなる回転伝達部材32」は「エキセントリックプーリ」ではないし、仮に「エキセントリックプーリ」であると解しても、摺動駒72にはカム32bの外径とほぼ同一の幅の竪溝73が形成されているにすぎず、「回転部材32」の外径と同一の幅の竪溝が形成されているわけではないから、この点でも、構成Dは構成要件Cを充足しない。
以上によれば、構成Dは構成要件Cを充足しない。
5 争点(5)(構成要件C部分についての均等の成否)について (1) 原告の主張 ア 本件発明と被告製品を対比すると、回転伝達部材が「エキセントリックプーリ」であるか「アーム体32aとこのアーム体32aに出力軸中心から位置ずれさせて設けたカム32bとからなる回転伝達部材32」であるかにかかわらず、
いずれの場合においても、駆動モータの回転運動を水平往復運動に変換し、足載台を安全に往復動させることができるから、回転伝達部材の相違は本件発明の本質的部分ではない。
構成要件Cの「エキセントリックプーリ」を構成Dの「アーム体32aとこのアーム体32aに出力軸中心から位置ずれさせて設けたカム32bとからなる回転伝達部材32」に置換しても、駆動モータの回転運動を水平往復運動に変換する特定の駆動機構を備え、床面からの高さ、振幅及び振動速度の数値範囲を適宜調節することにより、適度の運動を安定して安全に行うことができ、体力のない人でも安楽に運動できるとともに、この運動を家庭で簡単かつ手軽に行うことができるという、本件発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を得ることができる。
被告は、本件発明の作用効果として、オーバーハングロードを出力軸の内方で作用させることができ、かつ駆動機構の部品点数を少なくし得ることを主張し、被告製品にそのような作用効果がないとして置換可能性を否定するが、本件発明は、本件明細書に記載のないそのような作用効果まで期待していたものではなく、そのような作用効果は、回転運動を往復運動に変換するという本質的な作用効果に付随して生ずるものにすぎない。
ウ 被告は、構成Dの「アーム体32aとこのアーム体32aに出力軸中心から位置ずれさせて設けたカム32bとからなる回転伝達部材32」は本件発明の特許出願前に公知であったと主張するが、そうであるとすれば、構成要要件Cの「エキセントリックプーリ」をその公知技術置き換えることは、当業者が被告製品の製造販売時点において容易に想到することができたものである。
エ 被告製品は、本件発明を模倣したものであり、本件発明の出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考することができたものではない。
オ 本件発明の出願手続において、特許請求の範囲から被告製品のような構造のものを意識的に除外したなどの特段の事情はない。
(2) 被告の主張 ア 本件発明は、回転運動を往復運動に変換する多種の駆動機構のうちで、
請求項1の「駆動機構」として、構成要件Cの駆動機構を選択したものであるから、構成要件Cは、本件発明の本質的部分をなし、構成Dは、これと異なるから、
均等は成立しない。
イ 回転運動を往復運動に変換する周知の駆動機構であるクランク機構や、
構成Dの駆動機構では、往復動のための負荷が、クランク又はアーム体とは別個の、それよりも出力軸先端側に離れたクランクアーム又はカムに作用し、出力軸の先端側で作用する負荷(オーバーハングロード)が出力軸を折り曲げようとする曲げモーメントを大とするのに対し、本件発明の出力軸に固定されるエキセントリックプーリでは、その外周面に直接に往復駆動のための負荷が作用するため、クランク機構や構成Dの駆動機構に比べて、オーバーハングロードを出力軸の内方で作用させることができ、かつ駆動機構の部品点数を少なくし得るという作用効果を奏することができるから、置換可能性はない。
6 争点(6)(損害額)について (1) 原告の主張 被告は、本件特許権の登録日である平成11年3月12日以降、被告製品を少なくとも2万台販売した。被告製品の販売価格は、1台当たり9800円であり、被告の得た利益は、1台当たり500円を下らない。したがって、被告が被告製品の販売等により得た利益は、1000万円(500円×2万台=1000万円)を下らず、これは、特許法102条2項により、原告の受けた損害の額と推定される。そこで、原告は、被告に対し、本件特許権侵害不法行為による損害賠償の一部請求として500万円及びこれに対する不法行為の後である平成12年5月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告の主張 原告主張の事実は否認し、主張は争う。
争点に対する判断
1 争点(2)(構成要件Bの文言上の充足性)について検討する。
(1)ア 構成要件Bには、「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ」とあるが、このような数値限定を行う理由について、本件明細書の【発明の詳細な説明】の(産業上の利用分野)、(従来の技術と問題点)、(発明の目的)、(問題点を解決するための手段)、(作用)、(効果)の項には特段の記載がない。(実施例)の項には、「足載台1は、・・・殊に、床面より100〜200mm、好ましくは160mmの位置に設けられていて、脚を伸ばした状態でこれに足首を載せると、脚の脹脛が床面より若干浮き上がった状態となって、往復動をする際に脹脛が床面と擦れることが無く、しかも脚は床面に沿って、腰を中心にして左右方向に往復動をする。従って足載台1は、なるべく低い位置に設けるのが望ましいのであるが、この高さを床面より100mm以下にすると、脚の後ろ側の部分(脹脛)が床面に接するため、脚を左右に往復動させようとすると、これが床面と擦れてその運動を阻害する。また、足載台1の高さを200mm以上にしたときは、脚を伸ばした状態にするのが難しくなり、脚は上向きに屈折した状態となって、これを往復動させると腹部は左右に捻られる運動をされることとなる。」(特許公報3欄49行ないし4欄16行)と記載されており(甲第1号証)、これが、前記のような数値限定を設定した理由の記載に当たると解される。それによれば、床に仰臥し、足首を足載台に載せた状態を前提として、脹脛が床面に接するのを避けるために、足載台の高さを100mm以上とし、脚を伸ばした状態にするために、足載台の高さを200mm以下とするものである。
イ 本件明細書の記載をみると、構成要件@に「床に仰臥した人の足首・・・」とあり、前記アの(実施例)の項の記載があるほか、「床面から100〜200mm程度の位置に設けられた足載台と、この足載台を左右に往復動させるための駆動機構からなり、床に仰臥し・・・」(特許公報3欄27行ないし29行)、「足載台を床面から100〜200mm程度の位置に設け・・・」(特許公報3欄35行ないし36行)、「床に仰臥して脚を伸ばした状態で・・・」(特許公報5欄8行)という記載があり(甲第1号証)、いずれも、使用者が床面に仰臥し、足載台の高さが床面から100mmないし200mmであることを前提としている。そして、本件明細書には、足載台の高さと使用者の臀部との相対的な高低差に技術的意義が存在することを示唆する記載はない。
ウ 甲第1号証、乙第1号証の1ないし5によれば、本件発明の特許出願の経過について、次のとおり認められる。
出願当初の明細書においては、特許請求の範囲には請求項1に相当する記載しかなく、足載台の高さについての数値限定は、「床面より100〜200mmの位置」(出願当初の明細書1頁9行)とされていた。この数値限定の根拠については、「床面より100〜200mm、好ましくは160mmの位置に設けられていて脚が床面と擦れることの無いようになっている」(出願当初の明細書4頁15行ないし17行)としか記載されていなかった。これに対し、平成8年1月23日付けで、特許庁審査官より、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない旨の理由を示して拒絶理由通知がされた。原告は、同年4月12日付けの手続補正書によって明細書全文を補正し、補正された明細書においては、足載台の高さについての数値限定を「床面より100〜200mm程度の位置」(同日付けの手続補正書によって補正された明細書1頁7行)とし、特許請求の範囲に第2の2(2)記載の請求項2に相当する記載を付加し、足載台の高さの数値限定の根拠に関し、「足載台1は、・・・殊に、床面より100〜200mm、好ましくは160mmの位置に設けられていて、これに足首を載せると、脚が床面より若干浮き上がった状態となって、往復動をする際に脚が床面と擦れることが無く、しかも脚は床面に沿って、腰を中心にして左右方向に往復動をする。従って足載台1は、なるべく低い位置に設けるのが望ましいのであるが、この高さを床面より100mm以下にすると、脚の後ろ側の部分が床面に接するため、脚を左右に往復動させようとすると、脚の後ろ側の部分が床面と擦れてその運動を阻害する。また、足載台1の高さを200mm以上にしたときは、脚は上向きに屈折した状態となり、これを往復動させると腹部は左右に捻られる運動をされることとなる。」(同日付けの手続補正書によって補正された明細書3頁7行ないし18行)という記載を付加するなどした。これに対し、同年5月27日付けで、同年1月23日付け拒絶理由通知書に記載された理由による拒絶査定がされ、拒絶査定書の備考欄には、足を往復振動させて腹部を揺動させることは周知であって、出願の2つの請求項に記載された数値限定は発明の実施に当たって適宜決定された事項にすぎない旨の記載があった。原告は、拒絶査定不服審判を請求するとともに、同年7月10日付けの手続補正書を提出し、同補正書によって明細書全文を補正した。補正された明細書(明らかな誤記等を除き、本件明細書と同様の記載である。)においては、足載台の高さの数値限定の根拠について、「脚を伸ばした状態で」、「脹脛」、「脚を伸ばした状態にするのが難しくなり」などの文言が補われ、脹脛が床面と接するのを避けかつ脚を伸ばした状態にする趣旨が一層明確にされ、前記アの(実施例)の項の記載のとおりとされた。そして、拒絶査定が取り消され、特許が登録されるに至った。
このような出願経過からすると、補正によって、足載台の高さの数値限定の根拠が、使用者が床に仰臥したことを前提として脹脛が床面と接するのを避けかつ脚を伸ばした状態にすることにある旨明らかにされ、そのことが本件発明の進歩性を肯定するための一要素となったと推認される。
エ(ア) 甲第4号証の1、2、第5号証、乙第14号証及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、使用者が、被告製品と同時に販売される回転盤に臀部を載置して使用されるものと認められるところ、原告は、構成要件Bの「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ」とは、回転盤に載置された臀部を基準とした場合の足載台の相対的な高さが100mmないし200mmであることを意味すると主張する。
しかし、臀部が、一定の高さを有する回転盤に載っていることを前提とするならば、既に臀部は回転盤によって床面から一定の高さの位置に載置されているのであり、脹脛が床面に接するのを避けるためには、足載台の高さを必ずしも臀部から100mm以上にする必要はないはずである。使用者が床面に仰臥して臀部が床面に載置されている場合に、脹脛が床面に接するのを避けるために足載台の高さを床面から100mmにする必要があるとすれば、例えば、回転盤が60mmの高さであれば、足載台の高さが回転盤に載置された臀部から40mmあれば、床面からの高さは、臀部において60mm、足載台において100mmあることになり、脹脛が床面に接するのを避けることができると考えられる。また、例えば、回転盤の高さが100mmであるとすれば、足載台の高さが回転盤に載置された臀部と同じ高さであるとしても、臀部及び足載台の高さは床面から100mmあることになり、脹脛が床面に接するのを避けることができると考えられる。したがって、
回転盤を使用することを前提とするならば、足載台の高さは、回転盤に載置された臀部から、必ずしも100mm以上である必要はないのであり、足載台を100mm以上の位置に設けるとする構成要件Bは意味をもたないことになってしまう。本件明細書において、脹脛が床面に接するのを防ぐために足載台の高さを床面から100mm以上とするとした趣旨は、使用者が床面に仰臥し、臀部が床面に載置されていることを前提としているというべきであり、構成要件Bの「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ」とは、回転盤ではなく、実際の床面から100mmないし200mm程度の位置に設けられていることを意味すると解すべきである。
(イ) 原告は、本件明細書の「また、足載台1の高さを200mm以上にしたときは、脚を伸ばした状態にするのが難しくなり、脚は上向きに屈折した状態となって、これを往復動させると腹部は左右に捻られる運動をされることとなる。」(特許公報4欄13行ないし16行)という記載を前提に考えれば、脚が屈折しない高さである点に意味があり、臀部の位置と足載台との相対的な高さが重要な意味をもつことは明らかであり、構成要件Bの「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ」という部分は、使用者の臀部から足載台までの高さが100mmないし200mmであることを意味する旨主張する。
確かに、前記ア記載のとおり、本件発明は、脚を伸ばした状態にするために、足載台の高さを200mm以下とするものであり、そのことを前提とすれば、使用者が床に仰臥した場合に、足載台の高さを床から200mm以下とする必要があるのはもちろんのこと、回転盤を用いた場合でも、脚を伸ばした状態にするためには、回転盤に載置された臀部から足載台までの高さを200mm以下とする必要があるとも考えられる。しかし、前記ア記載のとおり、足載台の高さを床面から100mm以上とする趣旨は、使用者が床面に仰臥し、臀部が床面に載置されていることを前提としているというべきであり、構成要件Bに、「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置」と、100mm及び200mmの位置が、いずれも床面を基準として記載されていることからすると、200mmについても、実際の床面を基準として考えるべきものと解される。構成要件Bに、「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置」と記載されているにもかかわらず、100mmが床面からの高さを意味し、200mmが臀部からの相対的な高さを意味するというように、それぞれの高さの基準を異なって解することはできないというべきである。
(ウ) 原告は、被告製品は回転盤を併用しない場合には事実上使用が不可能であること、被告製品の販売形態からみれば、回転盤が足載台と臀部との相対的な高さを調節する機能を果たしていることなどを主張する。
しかし、これまで述べたとおり、本件明細書の記載等から、構成要件Bの「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ」とは、回転盤ではなく、実際の床面から100mmないし200mm程度の位置に設けられることを意味すると解するべきであり、仮に、原告主張のとおり、被告製品が回転盤を併用しない場合に事実上使用が不可能であり、被告製品の販売形態からして、回転盤が足載台と臀部との相対的な高さを調節する機能を果たしているとしても、そのことによって、上記の解釈が否定されるわけではない。
(エ) また、原告は、実際の床面に複数の回転盤を敷いてその厚さの分だけかさ上げし、この上面に使用者が仰臥した場合を仮定した上で、構成要件Bの「床面」を実際の床面と解さなければならない理由はない旨主張する。しかし、本件明細書の記載等に照らし、このような仮定に立った解釈をすべき根拠はなく、この点に関する原告の主張は採用することができない。
オ 以上によれば、構成要件Bの「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ」の「床面」とは、実際の床面を意味し、回転盤の上面を意味するものではないと解される。
(2) 構成要件Bには、「床面より100〜200mm程度」と、「程度」という文言が用いられており、このことからすると、100mmより低い場合や200mmより高い場合が含まれるとも解される。構成Cにおいては、「足載台1の凹部の最下部は、床面からは約231mm・・・の高さに設けられ」とされているから、構成Cの「約231mm」が、構成要件Bの「100〜200mm程度」に含まれるか検討する。
被告は、構成要件数値限定に「程度」という文言が用いられていたとしても、有効数字の下一桁を四捨五入して得られる範囲までが権利範囲とされるにすぎないと解すべきであると主張する。しかし、そのような基準は、一応の目安になる場合もあるが、絶対的な基準とまではいえず、構成要件に示された数値の意味や大きさ、数値限定がされた趣旨等によって、「程度」という文言の幅は、異なるものと解される。そして、「程度」という文言自体が曖昧なものであるから、それがいかなる範囲を意味するか一義的に定めることができないけれども、構成要件に示された数値の意味や大きさ、数値限定がされた趣旨等を参照しつつ、具体的に示された数値との対比によって、「程度」の範囲内にあるかどうか判断することができる場合もあると考えられる。
構成要件Bにいう「100〜200mm」という数値限定は、前記(1)ア記載のとおり、脹脛が床面に接するのを避けるために、足載台の高さを100mm以上とし、脚を伸ばした状態にするために、足載台の高さを200mm以下とするものである。そして、本件明細書には、足載台は、「好ましくは160mmの位置に設けられてい」ると記載されている(特許公報4欄2行ないし3行)。好ましい位置が160mmであり、下限がそこから60mm低い100mm、上限が40mm高い200mmとされており、この40mm、60mmという差は、下限の100mm、上限の200mm及びその差である100mmという数字との比較で大きな割合を占めているものと認められ、このことからすると、「100〜200mm」という数値範囲は、許容し得る範囲を上下いっぱいまでかなり広く示しているものと解され、「100〜200mm程度」にいう「程度」という文言には、それほど広い数値範囲を含ませるべきではないものと解される。ところで、構成Cには、
「約231mm」とあり、これと構成要件Bに示された上限200mmとの差は、
31mmである。この31mmという数字は、下限の100mm、上限の200mm及びその差である100mmという数字、並びに好ましい位置であるとされた160mmと下限100mm、上限200mmの差である40mm、60mmという数字と比較した場合に、かなり大きな割合を占めており、前記のとおり、「程度」という文言に、それほど広い数値範囲を含ませるべきではないから、この31mmという数字は、「程度」という文言には含まれないと解される。
(3) 以上によれば、構成Cの「足載台1の凹部の最下部は、床面からは約231mm、同時に販売される回転盤の上面からは171mmないし200mmの高さに設けられ」という部分は、構成要件Bの「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ」という構成と相違し、構成要件Bを充足しないものというべきである。
2 争点(3)(構成要件B部分についての均等の成否)について検討する。
(1) 均等が成立するためには、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品と異なる部分が特許発明の本質的部分ではないことを要するが、ここにいう特許発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付け、当該特許発明特有の作用効果を生じさせる技術的思想の中核をなす特徴的な部分をいうと解される。
(2)ア ところで、本件発明の特許出願前に発行された文献を検討すると、考案の名称「肢の運動装置」に関する実公昭44-26505号実用新案公報(乙第3号証)には、「この考案は上肢又は下肢を左右又は前後に揺動させることにより、
四肢の筋肉、関節、神経、血管等に刺戟を与えることにより、疲労を除き、発達をうながし、患部を癒し、或は快感を得る装置であって、即ち上向凸弧の軌跡を描いて往復動する肢載板1と、上向凹弧の軌跡を描いて往復動する肢載板2と・・・を備えたものである。」(同実用新案公報1欄15行ないし22行)、「肢載板1、
2、3を床から略30cmの高さの位置に置き、身体を装置の左側に仰臥し、上腿を垂直に立て、膝を直角に曲げ、踵を肢載板1に載せモーター4を回せば・・・肢載板1は、上向凸弧を描いて往復運動するので、下肢全体は左右に揺れ下半身は左右にねじられ、全身は強制的に運動させられる。この場合は踵は上向凸弧運動を行う。」(同実用新案公報1欄24行ないし2欄3行)、「次に身体を装置の右側に仰臥し、上述と同じ姿勢をとり、踵を肢載板2に載せモーター4を回せば・・・肢載板2は上述のような運動を行うが、その場合は踵は上向凹弧運動を行う。」(同実用新案公報2欄4行ないし8行)、「この考案装置は肢載板は上向凸弧、上向凹弧・・・の軌跡を描いて左右・・・に往復動するから、これへ上肢又は下肢を載せれば、肢は弧を描いて左右に・・・往復するので肢は勿論のこと下半身、上半身等全身が揺り動かされ、屈伸し、ねじられる結果、筋肉、関節、神経、血管等人体の組織に運動が与えられる結果、疲労は除かれ、発達はうながされ、血行は良くなり、新陳代謝は良好となるので、健康を保ち、患部は治癒し、しかもマッサージを受けているような快感を感じるものである。」(同実用新案公報2欄16行ないし26行)と記載されている。また、考案の名称「保健装置」に関する実公昭52-22151号実用新案公報(乙第4号証)には、「可動枠1へ・・・水平動足載板4を設け、・・・往復動機構・・・6を介してモーター7に連結し」(同実用新案公報1欄13行ないし16行)、「この考案の保健装置は、本体の足載板に足を載せて左右に振動させ・・・保健上効果があるもので」(同実用新案公報1欄21行ないし25行)、「両足首を足載板4上に載せ、モーター7に通電して回転させれば、軸の回転は往復動機構6を介して足載板4に伝わり、水平往復運動を行うので、両下肢は左右動し、疲労が除かれる。」(同実用新案公報2欄2行ないし5行)、「この考案の保健装置は、床に仰臥して足首を足載板に載せ、モーターをもって足載板を・・・往復水平動させることにより、下肢は・・・左右に揺し、快感が得られるとともに全身がマッサージされ血液の循環を促進し、疲労を除く結果、
保健上効果がある。」(同実用新案公報2欄28行ないし33行)と記載されている。
これらの記載によれば、構成要件@(床に仰臥した人の足首を足載台に載せてこれを左右に往復動させることにより、その腹部を揺動させるものであって)、A(足載台と、この足載台を左右に往復動させるための駆動機構とからなり)、及びD(腹部揺動器具)は、本件発明の特許出願前に公知であったものと認められる。
イ これに対し、構成要件Bにおいて示された足載台の高さの数値限定は、
以下のとおり、特許出願前に公知であったとは認められない。
乙第7号証は、「証明願」と題する書面であり、冒頭に、「古守工業株式会社代表者a殿」という宛名書きと、「株式会社アテックス代表者b」という作成者の記名押印があり、その下に「下記の事項につきましてご証明を賜りたくお願い申しあげます。」という記載があり、「記」として内容の記載があり、末尾に、
「上記事実に相違ないことを証明します。」という文言が記載され、年月日の記載欄があるが、平成12年という年だけが記載され、月日の欄は空欄であり、「証明者」として「古守工業株式会社代表者a」の記名押印がある。そして、文書の内容、体裁や文字等からして、同号証は、bがすべての文字部分を記載し、aが行ったのは、その名下に押印するだけであったと推認される。
乙第7号証の「記」の部分には、本件発明の特許出願前から古守工業株式会社によって製造販売され、足載台を左右に振動させる機能を有していた「KV健康器」につき、「足載せ台1aを取り付けた場合の本体ケース2a下端から足載せ台1aの凹部の最低部までの高さh1、期間、構造などは添付の表2(足載せ台の変遷)に記載する通りである」(乙第7号証2ページ11行ないし13行)との記載があり、添付の「表2 足載せ台の変遷」のNo.1の項には、形状「資料9(A)に示す。(資料2,5)」、床面から凹部の最低部までの高さ(h1)mm「195(使用時)」、期間「昭和41年10月頃〜」との記載があり、No.2の項には、形状「資料9(B)に示す。(資料6,7)」、床面から凹部の最低部までの高さ(h1)mm「195(使用時)」、期間「昭和50年頃〜」との記載があり、これらの記載のとおりであったとすると、足載台が床面より195mmの高さにあることは、本件発明の特許出願前に公知であったことになる。
しかし、乙第7号証に添付された資料9には、足載台の形状が記載されているが、寸法は記載されておらず、床面との高さをどの点から計測したかの記載もない。また、資料2(意匠公報)、資料7(雑誌「西医学」に掲載されたKV健康器の広告)には、KV健康器の各部の寸法は記載されておらず、資料5(KV健康器の英語版のパンフレット)には「Dimensions:length500×wide350×height625mm」と記載され、資料6(KV健康器のパンフレット)には「外型寸法 縦500mm×横350mm×高さ560mm」と記載されているが、床面から足載せ台までの寸法などその他の寸法は記載されていない。乙第7号証に添付されたその他の資料をみても、資料1(KV健康器のパンフレット)に「外型寸法 縦500mm×横350mm×高さ560mm」と記載されているのみで、それ以外に、寸法を記載したものはない。このように、乙第7号証には、添付資料中に、床面から足載台までの高さを客観的に示した資料がなく、また、同号証自体、前記のとおり、一方の者が内容を記載して、KV健康器の製造販売を行っていた証明者の押印のみを得るという形式の文書であることをも考えると、同号証から、足載台が床面より195mmの高さにあることが本件発明の特許出願前に公知であったと、直ちに認めることはできない。
乙第9号証には、本件発明の特許出願前に製造販売されたKV健康器において足載台の高さが床面から195mmであったことを示すために撮影されたと考えられる写真がある(No.4)。その写真は、足載台の凹部に金具を当て、床面に金属製の巻き尺を立て、床面から金具までの高さを計測しているところを撮影したものと認められる。しかし、金具自体が、横長に湾曲した何らかの機械の部品らしき物であり、その一端が本当に直線をなしているか、足載台のどの位置にどのような角度で金具を当てているのか明らかでない上に、巻き尺も、床面から垂直を確保する特段の措置等を伴わず、上方だけを所持して床面に立てるという扱い方をされており、同写真に撮影された計測方法は、正確性に欠けるものであって、200mm以上か、それとも200mmに5mm足りない195mmであるかという微妙な寸法の差を明らかにするに足りるものではないと認められ、このことからすると、乙第9号証からも、足載台が床面から195mmの高さにあったと、直ちに認めることはできない。そして、乙第7号証及び第9号証の内容等を考慮すると、これらを合わせても、足載台が床面より195mmの高さにあることが本件発明の特許出願前に公知であったと認めることはできず、他に本件発明の足載台の高さの数値限定が、特許出願前に公知であったと認めるに足りる証拠はない。
ウ 前記1(1)ア記載のとおり、本件発明は、構成要件Bにおいて、脹脛が床面に接するのを避けかつ脚を伸ばした状態にするために足載台の高さを数値限定したものと認められ、かつ前記(2)イ記載のとおり、この数値限定は本件発明の特許出願前に公知ではなかったものである。また、前記1(1)ウ記載のとおり、本件発明の出願経過からも、足載台の高さの数値限定の根拠が明らかにされたことが、本件発明の進歩性を肯定するための一要素となったものと認められる。
エ そうすると、本件発明は、構成要件Bにおいて足載台の高さを数値限定したことにより、特有の作用効果を発揮するために最適な腹部揺動器具を作成するための、従来技術にない解決手段を明らかにしたものと認められ、そこに進歩性の一要素が認められ、特許として登録されたものと認められる。したがって、少なくとも、構成要件Bにおいて示された足載台の高さの数値限定は、本件発明特有の解決手段を基礎付け、特有の作用効果を生じさせる技術的思想の中核をなす特徴的部分に当たり、本件発明の本質的部分に当たると解される。
(3) 前記1(1)ないし(3)のとおり、構成Cの「足載台1の凹部の最下部は、床面からは約231mm、同時に販売される回転盤の上面からは171mmないし200mmの高さに設けられ」という部分は、構成要件Bの「足載台は、床面より100〜200mm程度の位置に設けられ」という数値限定に当てはまらないものであり、本件発明の本質的部分において相違するというべきであるから、均等の成立を認めることはできない。
3 以上によれば、被告製品は本件発明の技術的範囲に属さない。
よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 田中秀幸