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関連審決 審判1999-6736
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  技術的意義 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 299号 審決取消請求事件
原告 株式会社資生堂
訴訟代理人弁護士 安田有三
訴訟代理人弁理士 竹内裕
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 熊倉強
同 青山紘一
同 山口由木
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/09/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第6736号事件について平成12年5月30日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成3年2月27日出願の特願平3-55787号の分割として,平成8年7月19日,発明の名称を「足裏のつぼに刺激を付与する歩道」とする発明について,特許出願(特願平8-209128号,以下「本件出願」という。)をしたが,平成11年3月10日に拒絶査定を受けたため,同年4月22日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は,これを平成11年審判第6736号事件として審理した結果,平成12年5月30日「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年7月12日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲 本件出願に係る発明の特許請求の範囲第1項ないし第18項は,別紙審決書の理由の写しの1に記載されたとおりである。このうち,第1項(以下,これを「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「歩行者の足裏に刺激を与える複数の突起を形成した複数の歩行ゾーンからなり,該複数の歩行ゾーンは足裏にゆるい刺激を与えるゾーンと,強い刺激を与えるゾーンの少なくとも2種類のゾーンの組合せからなり,足裏にゆるい刺激を与える歩行ゾーンと強い刺激を与える歩行ゾーンはこの順序で配列され,各歩行ゾーンは無端のリング状に連続して配置されて循環する歩道に構成されていることを特徴とする足裏のつぼに刺激を付与する歩道。」 3 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,本願発明は,実願昭61-195055号公報(実開昭62-125105号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。),実願昭57-57498号(実開昭58-160907号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。),丸子町役場編集・昭和55年5月30日発行の「広報まるこ縮刷版」899頁(以下「引用例3」という。)及び特開平3- 261488号公報(以下「引用例4」という。)記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,1本願発明の認定(審決書1頁12行〜3頁21行)は認める。2のうち,引用例1の記載事項の認定(3頁23行〜25行)は否認し,引用例2ないし4の記載事項の認定(3頁26行〜32行)は認める。3のうち,一致点の認定(3頁33行〜36行)は否認し,相違点の認定(4頁1行〜6行)は認める。4(相違点についての検討)は争う。
審決は,引用例2及び引用例3に記載された事実を誤認し(取消事由1),また,引用例4に記載された発明の技術分野と本願発明の技術分野とが同一であると誤認し(取消事由2),その結果,本願発明と引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)との相違点についての判断を誤ったものであり,違法であるから取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用例2及び3の認定の誤り) 審決は,「引用例1には循環する歩道に構成する旨の直接的な記載はないが,歩道を循環状にすることは,引用例3に記載された『遊歩道』,引用例2(に)記載されたランニング用の『歩道板』の類において広く行われていることであり,」(審決書4頁8〜10行)として,歩道を循環状にすることは,引用例2,3に示唆されていると認定した。
しかしながら,引用例3には,「鹿教場温泉に作られた歩行訓練等を目的とした全国的に新しい試みの医療遊歩道でカラー舗装も色鮮やかに完成した遊歩道」の記載とともに「直線状の歩道を示す写真」が掲載されているにすぎず,原告の現地調査によると,上記遊歩道は断続した直線状の6種類の材料(小挽ヌカ,砂,川砂利,小石,石及び青竹)による6個の歩道からなっている(甲第9,第10号証)。また,引用例2に記載された歩道も,直線状であり,同引用例には,循環する歩道の記載はない。
したがって,審決の上記認定は誤りである。
2 取消事由2(引用例4の認定の誤り) 審決は,引用例4について,次のとおり認定判断した。
(1)「引用例4には大中小径からなるマグネットを適宜連続して配置して足の裏のつぼを刺激するようにしたウォーカーが記載されており,無端のリング状に連続して配置されて循環する歩道と同様の機能・作用を奏する歩道(ウォーカー)が本願出願前公知である。」(審決書4頁14行〜18行) (2)「これらからみて,引用例1の足裏の指圧を目的とした歩道を無端のリング状に構成することは当業者が容易になし得ることというべきである。」(同4頁19行,20行) (3)「また,引用例4には大中小径からなるマグネットを適宜連続して配置して足の裏のつぼを刺激するようにしたウォーカーが記載され,足裏に強弱変化した刺激を与えるようにした歩道(ウォーカー)が本願の出願前すでに公知であるから,引用例1の歩道に,足裏にゆるい刺激を与えるゾーンと,強い刺激を与えるゾーンの少なくとも2種類のゾーンを設けることも,当業者が容易になし得ることというべきである。」(同4頁21行〜26行) (4)「本願発明は,足裏にゆるい刺激を与えるゾーンと強い刺激を与えるゾーンを設けるとともに,両ゾーンをこの順序に配列したものであるが,無端のリング状に連続して配置されて循環する歩道においては,両ゾーンの順序を特定したことに格別な意味があるものとは認められないが,仮にあったとしても,強い刺激を与える前にゆるい刺激を与えるということは常識的なことであるから,この点も当業者が容易になし得ることというべきである。」(同4頁27行〜32行) 審決の上記記載は,本願発明の「歩道」と引用例4記載の「健康器具の無端ベルト」とは,同一の技術分野に属するものであると認定したことによるものである。
しかし,本願発明における「歩道」は,大地,建造物の床などに固定され,所定の距離を歩行することができる構造物であり,その構造自体から歩道と認識されるものであるから,本願発明の「歩道」に,健康器具の部品が含まれる余地はない。
引用例4の健康器具装置の無端ベルト2は,駆動輪4によって鉛直面内で回転し,また,ひと一人がその上の一定個所で走り,または歩くものであるから,本願発明の「歩道」には含まれない。
両者の技術分野が同一であるとの審決の認定は誤りである。
被告の反論の要点
審決の認定判断は,正当であり,これを取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(引用例2及び3の認定の誤り)について 審決は,「歩道を循環状にすることは,引用例3に記載された「遊歩道」,引用例2に記載されたランニング用の「歩道板」の類において広く行われている」(審決書4頁8〜10行)と述べているにすぎず,引用例2,3に,歩道を循環状にすることが記載されているとも,示唆されているとも,認定してはいない。
審決は,「引用例1には循環する歩道に構成する旨の直接的な記載はないが,歩道を循環状にすることは,引用例3に記載された「遊歩道」,引用例2(に)記載されたランニング用の「歩道板」の類において広く行われている」(審決書4頁8行〜10行)こと,「引用例1にも「本考案は歩道,庭,広場などに使用する・・・特に歩行する機会の少なくなった現在の人々が本考案によるブロックの突起部を歩行することにより・・・脚力の強化に役立つ・・・」・・・といった記載がある」(同4頁11行〜14行)こと,及び「引用例4には大中小径からなるマグネットを適宜連続して配置して足の裏のつぼを刺激するようにしたウォーカーが記載されており,無端のリング状に連続して配置されて循環する歩道と同様の機能・作用を奏する歩道(ウォーカー)が本願出願前公知である」(同4頁14行〜18行)ことを考慮して,「引用例1の足裏の指圧を目的とした歩道を無端のリング状に構成することは当業者が容易になし得ること」(同頁19〜20行)と判断したものである。
循環する「遊歩道」や「ランニング用の歩道板」の類は,庭園の回遊路や競技場のグランドなど,あらためて証拠を示すまでもない顕著な事実であるから,審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(引用例4の認定の誤り)について 審決が「歩道(ウォーカー)」と記載したのは,「ウォーカー」は,その上を歩くものであり,歩道と同様な機能・作用を奏するものであることを示したにすぎず,「ウォーカー」を「歩道」であると認定したものではない。審決は,本願発明の「歩道」と引用例4記載の「健康器具の無端ベルト」の,技術分野が同一であると認定したものではない。
審決は,前記1で述べた理由により,「引用例1の足裏の指圧を目的とした歩道を無端のリング状に構成することは当業者が容易になし得ること」(審決書4頁19行〜20行)と判断するとともに,引用例4には大中小径からなるマグネットを適宜連続して配置して足の裏のつぼを刺激するようにしたウォーカーが記載され,足裏に強弱変化した刺激を与えるようにした歩道(ウォーカー)が本願の出願前すでに公知であることを根拠として,引用例1の歩道に,足裏にゆるい刺激を与えるゾーンと,強い刺激を与えるゾーンの少なくとも2種類のゾーンを設けることも当業者が容易になし得ることと判断し,本願発明の足裏にゆるい刺激を与えるゾーンと強い刺激を与えるゾーンを設けるとともに両ゾーンをこの順序に配列した点については,格別な意味があるものとは認められない,仮にあったとしても強い刺激を与える前にゆるい刺激を与えるということは常識的なことであるから,この点も当業者が容易になし得ることである,と判断したものであって,この判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用例2及び3の認定の誤り)について (1) 審決は,相違点の判断に当たり,「歩道を循環状にすることは,引用例3に記載された「遊歩道」,引用例2(に)記載されたランニング用の「歩道板」の類において広く行われていることであり,」(審決書4頁8行〜10行。)と認定しており,この審決書の記載文言だけからみると,同記載を,引用例3記載の「遊歩道」及び引用例2記載の「歩道板」が循環状であるとの意味に解する余地があるものと認められる。
(2) しかし,審決は,引用例2及び3の記載事項について,「引用例2:実願昭57-57498号(実開昭58-160907号)のマイクロフィルムにも,足の裏を刺激する凹凸を設けた歩道板が記載されており,引用例3:『広報まるこ縮刷版』丸子町役場,昭和55年5月30日発行,第899頁には,歩行訓練等を目的とした『医療遊歩道』が紹介されている。」(審決書3頁26行〜29行)と認定しており,ここには,引用例3記載の「遊歩道」及び引用例2記載の「歩道板」が循環状であることを窺わせる記載は一切ない。しかも,引用例2及び3に,「遊歩道」または「歩道板」が循環状であることの記載がないことは,甲第4,第5号証の記載自体から明らかである。このことを踏まえて,審決の前記(1)の記載を検討するならば,「・・・『遊歩道』,・・・『歩道板』の類において広く行われている」とは,引用例3記載の「遊歩道」及び引用例2記載の「歩道板」が循環状であるとの意味ではなく,「遊歩道」及び「歩道板」の類において,これを循環状とすることが広く行われているとの趣旨であることが明らかである。
(3) 実際にも,「遊歩道」など特定の目的を有する道の類を循環状とすることは,庭園の回遊路や競技場のグランドなどにみられるように,例を示すまでもなく周知といい得るものであることは,当裁判所に顕著である。したがって,前記(1)記載の審決の認定に誤りはない。加えて,本願明細書には「図示の実施例にあっては,A〜Gの歩行ゾーンは,無端のリング状に連結して循環する歩道に構成してあるが,これに限られるものではなく循環しないワンウェイの歩道としても良いことは勿論である。」(甲第7号証,段落【0013】)との記載があることからみて,本願発明の「足裏のつぼに刺激を付与する歩道」を,循環状とすることに,遊歩道など特定の目的を有する道の類において循環状としていることと異なる格別の技術的意義を見いだすことはできない。そうすると,「遊歩道」など特定の目的を有する道の類において,循環状とすることが広く行われていることを理由として,「引用例1の足裏の指圧を目的とした歩道を無端のリング状に構成することは当業者が容易になし得ることというべきである。」(審決書4頁19行〜20行)とした審決の判断には,誤りがないというべきである。
原告の主張は、採用することができない。
2 取消事由2(引用例4の認定の誤り)について (1) 引用例4に,大中小径からなるマグネットを適宜連続して配置し,足の裏のつぼを刺激するようにしたウォーカーが記載されていることは,当事者間に争いがない。ここにいう「ウォーカー」とは,駆動輪4によって鉛直面内で回転し,また,ひと一人がその上の一定個所で走り,または歩く無端ベルトであることは,甲第6号証の記載から明らかである。
そうすると,引用例4記載のウォーカーは,その上を人間が歩く点においては本願発明及び引用例1記載の発明と共通するものであり,また引用例4におけるマグネットは,足の裏のつぼを刺激する点においては本願発明及び引用例1記載の突起と共通するものであるということができる。これを前提にしてみるときは,審決が,「歩道(ウォーカー)」(審決書4頁17行〜18行,同頁23行)と記載したのは,その上を人間が歩く点,及び表面に足の裏のつぼを刺激する部材を配することがある点において,歩道とウォーカーが共通するとの意味合い程度のものと解すべきであり,この意味を超えて,同記載をウォーカーと歩道とが同一であると認定したものと解することはできない。審決の「歩道(ウォーカー)」との表現には不正確な要素があるとはいえ,この点についての審決の認定判断に誤りがあるということはできない。
(2) 前記のとおり,引用例4におけるマグネットは,足の裏のつぼを刺激する点においては本願発明及び引用発明の突起と共通するものである。マグネット及び突起の大きさや配置をいかにするかについて考慮すべきことの中心は,足の裏のつぼを刺激するに当たって最適となる大きさや配置とすることにほかならず,その点において,ウォーカーと歩道との間に相違があるとは認められない。そうだとすれば,足の裏のつぼを刺激することを目的とする歩道の構成を検討するに当たり,足の裏のつぼを刺激するウォーカーである引用例4記載のウォーカーを,つぼを刺激する方法の限度で参考にすることに,何ら妨げとなるものはないものというべきである。「また,引用例4には大中小径からなるマグネットを適宜連続して配置して足の裏のつぼを刺激するようにしたウォーカーが記載され,足裏に強弱変化した刺激を与えるようにした歩道(ウォーカー)が本願の出願前すでに公知であるから,引用例1の歩道に,足裏にゆるい刺激を与えるゾーンと,強い刺激を与えるゾーンの少なくとも2種類のゾーンを設けることも,当業者が容易になし得ることというべきである。」(審決書4頁21行〜26行)との審決の判断も,引用例4のマグネットと引用例1の歩道の突起とが,機能・作用面において,前記のとおり共通していることに基く判断であって,ウォーカーと歩道との間に上記以上の共通性があると認定したことに基く判断でないことは明らかである。この点についての審決の認定判断に誤りがあるということはできない。
(3) 審決の,「本願発明は,足裏にゆるい刺激を与えるゾーンと強い刺激を与えるゾーンを設けるとともに,両ゾーンをこの順序に配列したものであるが,無端のリング状に連続して配置されて循環する歩道においては,両ゾーンの順序を特定したことに格別な意味があるものとは認められないが,仮にあったとしても,強い刺激を与える前にゆるい刺激を与えるということは常識的なことであるから,この点も当業者が容易になし得ることというべきである。」(同4頁27行〜32行)との判断は,強い刺激を与えるものとゆるい刺激を与えるものを,循環する歩道に配するに当たっての配置順序を述べたにすぎない。この点についての審決の認定判断に誤りがあるということはできない。
(4) 審決は,引用発明の歩道を循環状にする点について,「引用例4には大中小径からなるマグネットを適宜連続して配置して足の裏のつぼを刺激するようにしたウォーカーが記載されており,無端のリング状に連続して配置されて循環する歩道と同様の機能・作用を奏する歩道(ウォーカー)が本願出願前公知である」(同4頁14行〜18行)ことを,「引用例1の足裏の指圧を目的とした歩道を無端のリング状に構成することは当業者が容易になし得ることというべきである。」(同19行〜20行)との判断の理由の1つにあげている。引用例4記載のウォーカーは「ひと一人がその上の一定個所で走り,または歩く」という制約があるため,直線状とすることは不可能であり,無端のリング状とせざるを得ないのであるのに対し,歩道の場合は,ウォーカーにみられる制約はないのであるから,循環状にする点において,歩道とウォーカーを同列に扱うことは適切とはいえない。しかしながら,前記1で述べたように,引用例1の歩道を無端のリング状に構成することは当業者が容易になし得ることであるとの判断には誤りがないのであるから,上記の点は,審決の結論に影響を及ぼすものではないというべきである。
(5) 以上述べたところによれば,取消事由2についての原告の主張は,いずれも採用することができないことが明らかである。
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決に
はこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸