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関連審決 異議2000-72717
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  参酌 /  設定登録 /  請求の理由 /  請求の範囲 /  減縮 /  訂正明細書 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 180号 特許取消決定取消請求事件
原告 セイコーエプソン株式会社
訴訟代理人弁理士 白井博樹
同 阿部龍吉
同 蛭川昌信
同 内田亘彦
同 菅井英雄
同 青木健二
同 韮澤弘
同 米澤明
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 石川昇治
同 小林紀史
同 水垣親房
同 山口由木
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/09/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が異議2000−72717号事件について平成13年3月13日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「定着装置」とする特許第2998526号発明(平成5年11月17日特許出願、平成11年11月5日設定登録)の特許権者である。
平成12年7月11日、上記特許のうち特許請求の範囲の請求項1〜5に係る特許(以下、この特許に係る発明を「本件発明」という。)につき特許異議の申立てがされ、異議2000-72717号事件として特許庁に係属したところ、原告は、平成13年1月15日に明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載を訂正する旨の訂正請求をした(以下、この訂正を「本件訂正」という。)。
特許庁は、同特許異議の申立てにつき審理した上、平成13年3月13日、
「訂正を認める。特許第2998526号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。」と決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は同月31日原告に送達された。
2 特許請求の範囲の請求項1〜5の記載 (1) 本件訂正前の特許請求の範囲の記載 【請求項1】互いに押圧当接する一対の加熱部材と加圧部材との間を像支持体が、前記像支持体の送り方向に対して前記一対の部材より上流側に配置した前部紙案内部材と、前記一対の部材より下流側に配置した後部紙案内部材に案内されて搬送される定着装置において、
前記一対の部材のうち、より柔らかい部材を第1の部材とし、
像支持体幅の中央断面上で前記一対の部材が接触している領域をニップとし、前記ニップの像支持体搬送方向の上流端部の点と下流端部の点の中点を基準点とし、
前記上流端部の点と前記下流端部の点を結ぶ線を基準線とし、
前記前部紙案内部材の上流端部の点と前記基準点とを結ぶ線を第1の線とし、
前記後部紙案内部材の下流端部の点と前記基準点とを結ぶ線を第2の線とし、前記第1の線と前記第2の線がなす角で前記第1の部材を含む角をαとすると、αが次式を満たすことを特徴とする定着装置。
-1 【請求項3】互いに押圧当接する一対の加熱部材と加圧部材との間を像支持体が、前記像支持体の送り方向に対して前記一対の部材より上流側に配置した板状の前部紙案内部材と、前記一対の部材より下流側に配置したローラ状の後部紙案内部材に案内されて搬送される定着装置において、
前記一対の部材のうち、より柔らかい部材を第1の部材とし、
像支持体幅の中央断面上で前記一対の部材が接触している領域をニップとし、前記ニップの像支持体搬送方向の上流端部の点と下流端部の点の中点を基準点とし、
前記上流端部の点と前記下流端部の点を結ぶ線を基準線とし、
前記板状の前部紙案内部材の上流端部の点と前記基準点とを結ぶ線を第1の線とし、
前記ローラ状の後部紙案内部材のニップ部と前記基準点とを結ぶ線を第2の線とし、
前記第1の線と前記第2の線がなす角で前記第1の部材を含む角をαとすると、αが次式を満たすことを特徴とする定着装置。
-1 前記一対の部材のうち、より柔らかい部材を第1の部材とし、
像支持体幅の中央断面上で前記一対の部材が接触している領域をニップとし、前記ニップの像支持体搬送方向の上流端部の点と下流端部の点の中点を基準点とし、
前記上流端部の点と前記下流端部の点を結ぶ線を基準線とし、
前記転写部の下流端部の点と前記基準点とを結ぶ線を第1の線とし、
前記ローラ状の後部紙案内部材のニップ部と前記基準点とを結ぶ線を第2の線とし、
前記第1の線と前記第2の線がなす角で前記第1の部材を含む角をαとすると、αが次式を満たすことを特徴とする定着装置。
-1 前記一対の部材のうち、より柔らかい部材を第1の部材とし、
像支持体幅の中央断面上で前記一対の部材が接触している額域をニップとし、前記ニップの像支持体搬送方向の上流端部の点と下流端部の点の中点を基準点とし、
前記上流端部の点と前記下流端部の点を結ぶ線を基準線とし、
前記転写部の下流端部の点と前記基準点とを結ぶ線を第1の線とし、
前記板状の後部紙案内部材のニップ部と前記基準点とを結ぶ線を第2の線とし、
前記第1の線と前記第2の線がなす角で前記第1の部材を含む角をαとすると、αが次式を満たすことを特徴とする定着装置。
-1請求の範囲の記載(注、訂正部分を下線で示す。) 【請求項1】互いに押圧当接する一対の加熱部材と加圧部材との間を像支持体が、前記像支持体の送り方向に対して前記一対の部材より上流側に配置した前部紙案内部材と、前記一対の部材より下流側に配置した後部紙案内部材に案内されて搬送される定着装置において、
前記一対の部材のうち、より柔らかい部材を第1の部材とし、
像支持体幅の中央断面上で前記一対の部材が接触している領域をニップとし、前記ニップの像支持体搬送方向の上流端部の点と下流端部の点の中点を基準点とし、
前記上流端部の点と前記下流端部の点を結ぶ線を基準線とし、
前記前部紙案内部材の上流端部の点と前記基準点とを結ぶ線を第1の線とし、
前記後部紙案内部材の下流端部の点と前記基準点とを結ぶ線を第2の線とし、前記第1の線と前記第2の線がなす角で前記第1の部材を含む角をαとすると、αが次式を満たすとともに、前記像支持体 が前記一対 の部材 の前記 ニップ を通る最小 のニップ 幅をNmin とし 、最大 のニップ 幅をNmax としたとき 、N max /Nmin が1.5以下 である ことを特徴とする定着装置。
-1 【請求項3】互いに押圧当接する一対の加熱部材と加圧部材との間を像支持体が、前記像支持体の送り方向に対して前記一対の部材より上流側に配置した板状の前部紙案内部材と、前記一対の部材より下流側に配置したローラ状の後部紙案内部材に案内されて搬送される定着装置において、
前記一対の部材のうち、より柔らかい部材を第1の部材とし、
像支持体幅の中央断面上で前記一対の部材が接触している領域をニップとし、前記ニップの像支持体搬送方向の上流端部の点と下流端部の点の中点を基準点とし、
前記上流端部の点と前記下流端部の点を結ぶ線を基準線とし、
前記板状の前部紙案内部材の上流端部の点と前記基準点とを結ぶ線を第1の線とし、
前記ローラ状の後部紙案内部材のニップ部と前記基準点とを結ぶ線を第2の線とし、
前記第1の線と前記第2の線がなす角で前記第1の部材を含む角をαとすると、αが次式を満たすとともに、前記像支持体 が前記一対 の部材 の前記 ニップ を通る最小 のニップ 幅をNmin とし 、最大 のニップ 幅をNmax としたとき 、N max /Nmin が1.5以下 である ことを特徴とする定着装置。
-1 前記一対の部材のうち、より柔らかい部材を第1の部材とし、
像支持体幅の中央断面上で前記一対の部材が接触している領域をニップとし、前記ニップの像支持体搬送方向の上流端部の点と下流端部の点の中点を基準点とし、
前記上流端部の点と前記下流端部の点を結ぶ線を基準線とし、
前記転写部の下流端部の点と前記基準点とを結ぶ線を第1の線とし、
前記ローラ状の後部紙案内部材のニップ部と前記基準点とを結ぶ線を第2の線とし、
前記第1の線と前記第2の線がなす角で前記第1の部材を含む角をαとすると、αが次式を満たすとともに 、前記像支持体 が前記一対 の部材 の前記 ニップ を通る最小 のニップ 幅をNmin とし 、最大 のニップ 幅をNmax としたとき 、N max /Nmin が1.5以下 である ことを特徴とする定着装置。
-1 前記一対の部材のうち、より柔らかい部材を第1の部材とし、
像支持体幅の中央断面上で前記一対の部材が接触している額域をニップとし、前記ニップの像支持体搬送方向の上流端部の点と下流端部の点の中点を基準点とし、
前記上流端部の点と前記下流端部の点を結ぶ線を基準線とし、
前記転写部の下流端部の点と前記基準点とを結ぶ線を第1の線とし、
前記板状の後部紙案内部材のニップ部と前記基準点とを結ぶ線を第2の線とし、
前記第1の線と前記第2の線がなす角で前記第1の部材を含む角をαとすると、αが次式を満たすとともに、前記像支持体 が前記一対 の部材 の前記 ニップ を通る最小 のニップ 幅をNmin とし 、最大 のニップ 幅をNmax としたとき 、N max /Nmin が1.5以下 である ことを特徴とする定着装置。
-1120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の同法126条1項ただし書、2項及び3項の規定に適合するので、これを認めるとし、A本件発明の要旨を上記2(2)のとおり認定した上、本件発明は、いずれも特開昭62-206580号公報記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当するので、取り消されるべきものとした。
原告主張の本件決定取消事由
本件決定の理由中、訂正の適否についての判断(決定謄本2頁12行目〜5頁末行)は認める。
本件決定は、特許法120条2項の規定に違反して、特許異議の申立てがされていない請求項について審理及び判断し(取消事由1)、また、同法120条の4第1項の規定に違反して、取消しの理由を通知することなくされた(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(特許異議の申立ての対象外の請求項について審理した違法) 本件訂正前の特許請求の範囲には、特許異議の申立てがされた請求項1〜5のほか、請求項6として「像支持体がニップ内を通過する場合に、前記像支持体が通る位置の最小のニップ幅をNminとし、最大のニップ幅をNmaxとし、Nmax/Nminをニップ比とすると、前記ニップ比が1.5以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5記載の定着装置。」があり、その特許に対しては特許異議の申立てはされていない。
そのため、原告は、同請求項1〜5に「前記像支持体が前記一対の部材の前記ニップを通る最小のニップ幅をNminとし、最大のニップ幅をNmaxとしたとき、
Nmax/Nminが1.5以下である」との構成を加え、実質的に本件訂正前の請求項6と同一の請求項とするとともに、本件訂正前の請求項6を削除する本件訂正をしたものである。
そうすると、上記請求項6に係る特許に対しては特許異議の申立てはされていないにもかかわらず、これと実質的に同一の本件訂正後の請求項1〜5に係る特許について審理し、同特許を取り消すことは、特許法120条2項の規定に違反するというべきである。
2 取消事由2(取消理由を通知しなかった違法) 原告は、本件訂正前の請求項1〜5に係る特許は取り消すべきものと認められるとの内容の平成12年11月9日付け取消理由通知を受けて、本件訂正に係る訂正請求をしたところ、本件決定は、前述のとおり、本件訂正前の請求項6と実質的に同一である本件訂正後の請求項1〜5に係る特許を取り消したものであるから、原告としては意見書を提出する機会を与えられないまま本件訂正前の請求項6に係る特許を取り消されたことになる。したがって、本件決定は、特許法120条の4第1項に規定する手続に違反してされたものというべきである。
被告の反論
本件決定の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(特許異議の申立ての対象外の請求項について審理した違法)について (1) 原告は特許法120条2項違反をいうが、本件訂正に係る訂正請求書において、「訂正の事項」として、「特許請求の範囲の請求項1、請求項3、請求項4および請求項5中に記載の・・・を、特許請求の範囲減縮を目的として・・・と訂正する」と記載しており、本件訂正後の請求項1〜5が本件訂正前の請求項1〜5に対応していることは明らかである。そうすると、本件訂正後の請求項1〜5は特許異議の申立てがされている請求項にほかならならず、同請求項について審理することが同項に違反するものとはいえない。本件訂正前の請求項1〜5に係る特許が、特許請求の範囲減縮する本件訂正によってその特許を維持し得るものになったかどうかを審理、判断する必要があることは当然である。
(2) なお、特許庁における運用では、訂正により削除された請求項があり、請求項の番号が繰り上がった場合は、特許異議の申立てがされている訂正前の請求項に対応する訂正後の請求項について審理がされ、特許異議の申立てがされた請求項がすべて削除された場合は、特許異議の申立てがされた請求項が存在しなくなるから、その特許異議の申立ては不適法なものとして却下される。また、訂正を行わなかった場合、特許異議の申立てがされなかった請求項に係る特許が取り消されることはない。
しかし、本件においては、本件訂正後の請求項1〜5は訂正前の請求項6に対応するものではないから、本件の特許異議申立事件の審理の対象は、本件訂正後の請求項1〜5というべきであり、原告の主張は理由がない。
(3) 原告は、訂正後の請求項1〜5と訂正前の請求項6とは実質的に同一であると主張するが、ある請求項に係る発明と他の請求項に係る発明が実質的に同一であっても、その一方の請求項に係る特許のみが特許異議の申立ての対象となって取り消され、特許異議の申立てがされなかった他方の請求項に係る特許が審理の対象とならないという事態は法律上あり得ることであって、実質的に同一の請求項で特許異議の申立てがされていないものがあったからといって、特許異議の申立てがされた請求項について審理され、取り消されることはやむを得ないというべきである。また、特許異議の申立ての対象となっていない請求項の構成いかんによって審理の対象が変わるとすれば、安定した審理を行うことはできない。
2 取消事由2(取消理由を通知しなかった違法)について 原告は、特許法140条の4第1項違反について主張するが、本件訂正前の請求項6が本件異議申立事件の審理の対象となっていないことは前述のとおりであるから、取消理由を通知する必要がないことは当然である。また、同請求項6は原告が本件訂正によって削除したものであって、本件決定によってその特許が取り消されたものでもない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(特許異議の申立ての対象外の請求項について審理した違法)について (1) 本件の特許異議申立てが本件訂正前の請求項1〜5に係る特許に対してされたものであること、これに対し、特許庁は、同特許異議申立事件において、本件訂正後の請求項1〜5に係る特許について審理、判断したことは当事者間に争いがない。
そうすると、本件訂正後の請求項1〜5が特許異議の申立てのない請求項であるといえるかどうかは、これが本件訂正前の請求項1〜5に対応するものか否かの問題であり、その対応関係の有無は、本件訂正の趣旨をどのように理解するかに係るものである。
(2) このような観点から、本件訂正の趣旨を検討するに、本件訂正に係る訂正請求書(甲第3号証)には、「6.請求の趣旨」として「特許第2998526号の明細書を請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求める。」と記載されているほか、「7.請求の理由」として、「(3) 訂正の事項」欄には「a.特許請求の範囲の請求項1、請求項3、請求項4および請求項5中に記載の『αが次式を満たす』を、特許請求の範囲減縮を目的として『αが次式を満たすとともに、前記像支持体 が前記一対 の部材 の前記 ニップ を通る最小 のニップ 幅をNmin とし、最大 のニップ 幅をNmax としたとき 、N max /N min が1.5以下 である 』と訂正する。b.特許請求の範囲の請求項6および請求項10を削除し、請求項7〜請求項9を繰り上げる。」(1頁10行目〜16行目)との記載が、「(4) 請求の原因」欄には「@上記訂正事項aは、請求項1ないし請求項5に請求項6の内容を包含させる訂正・・・であります。」(1頁23行目〜27行目)、「A上記訂正事項bのうち、請求項6の削除は、請求項1、請求項3、請求項4および請求項5に請求項6の内容を包含させたための訂正・・・であります。」(2頁19行目〜21行目)との記載があり、前記第2の2(2)の記載を含む全文訂正明細書が添付されていることが認められる。
そして、本件訂正によって本件訂正前の請求項1、3〜5(同請求項2は同請求項1を引用するから、実質的には同請求項1〜5)に加えられた「前記像支持体が前記一対の部材の前記ニップを通る最小のニップ幅をNminとし、最大のニップ幅をNmaxとしたとき、Nmax/Nminが1.5以下である」との構成は、本件訂正前の請求項6、すなわち「像支持体がニップ内を通過する場合に、前記像支持体が通る位置の最小のニップ幅をNminとし、最大のニップ幅をNmaxとし、Nmax/Nminをニップ比とすると、前記ニップ比が1.5以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5記載の定着装置。」(特許第2998526号の特許公報〔甲第4号証〕)との対比から明らかなように、若干の表現上の相違はあるものの、本件訂正前の請求項6が同請求項1〜5を引用した上でこれに加えている構成と実質的には同一であるということができる。
(3) 上記認定に前記争いのない事実を総合して判断するに、訂正請求書の「7.請求の理由」の「(3) 訂正の事項」欄の形式的な記載上は、本件訂正前の請求項1、3〜5(実質的には1〜5)の記載を、特許請求の範囲減縮を目的として本件訂正後の請求項1、3〜5(実質的には1〜5)のとおりに訂正する、本件訂正前の請求項6を削除するとされているものの、本件訂正に係る訂正請求は、あくまでも「特許第2998526号の明細書を請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求める。」との一つの請求であって、本件訂正前の請求項1〜5を本件訂正後の請求項1〜5に訂正する訂正請求と、本件訂正前の請求項6の削除を内容とする訂正請求とが別個独立にされているものではない(なお、最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決・民集34巻3号431頁参照)。
そこで、本件訂正の前後を通じて、特許請求の範囲の記載を全体として実質的に見れば、本件訂正前の請求項6は本件訂正後の請求項1〜5になり、本件訂正前の請求項1〜5に相当する請求項は削除されたということができ、かつ、その趣旨は、訂正請求書の「(4) 請求の原因」欄の「@上記訂正事項aは、請求項1ないし請求項5に請求項6の内容を包含させる訂正・・・であります。」、「A請求項6の削除は、請求項1、請求項3、請求項4および請求項5に請求項6の内容を包含させたための訂正・・・であります」との上記記載によって明確に示されているということができる。
確かに、本件訂正後の請求項1〜5と特許異議の申立ての対象外の請求項である本件訂正前の請求項6との対応関係を明確にするためには、本件訂正前の請求項1〜5を削除した上で、本件訂正前の請求項6を五つの請求項に分けて本件訂正後の請求項1〜5のとおりに訂正する旨を訂正請求書の「請求の理由」中の「訂正の事項」欄にも明確に記載しておくことが望ましかったと考えられ、その意味で、訂正請求書の上記記載には表現上の適切さを欠くうらみがなかったとはいえない。しかしながら、本件訂正前の請求項6の削除との関連で見た場合に、同請求項6が同請求項1〜5を引用する引用形式請求項であったことから、便宜上、本件訂正前の請求項1〜5を訂正することによって、実質的に本件訂正前の請求項6を独立形式請求項として五つの請求項に表現し直したと解されるのであって、その趣旨が訂正請求書の「請求の原因」欄の記載から明らかに読み取ることのできる本件においては、上記「訂正の事項」欄に記載された訂正の形式のみから、訂正前後の各請求項の対応関係を判断するべきではないというべきである。なぜならば、上記のように訂正明細書のとおりの訂正を求める一つの請求としての訂正請求に係る訂正の適否は、請求の趣旨及び請求の理由を記載要件とする訂正請求書(特許法施行規則45条の3第2項、様式第61の4)に基づいて判断されるものである以上、請求の理由中の「訂正の事項」欄の形式的な記載だけでなく、「訂正の理由」欄及び「訂正の原因」欄の各記載も総合考慮し、全体として実質的に判断すべきものだからである。
また、このように解したとしても、本件訂正前の請求項1〜6に係る訂正を含む本件訂正は全体として特許請求の範囲減縮ということができるから、その趣旨をいう本件訂正に係る訂正請求書の記載及び本件訂正の適否に関する本件決定の判断と矛盾するものではない。
(4) なお、被告は、ある請求項に係る発明と他の請求項に係る発明が実質的に同一であっても、その一方の請求項に係る特許のみが特許異議の申立ての対象となって取り消され、特許異議の申立てがされなかった他方の請求項に係る特許が審理の対象とならないという事態は法律上あり得ることであって、特許異議の申立ての対象となっていない請求項の構成いかんによって審理の対象が変わるとすれば、安定した審理を行うことができない旨主張する。しかし、仮に、訂正請求書の記載から訂正前後の請求項の対応関係が明確でないような場合であれば、そもそも訂正請求の要件(特許法120条の4第2項ただし書各号等)を満たさないと考えられるのであって、そのような場合にまで特許異議の申立てがされなかった請求項の構成を参酌して訂正前後の請求項の同一性について検討する必要はないのであるから、
被告の上記主張は失当というべきである。
(5) 以上の認定判断によれば、本件訂正後の請求項1〜5に対応する本件訂正前の請求項は同請求項6であると解すべきであるから、本件決定が取り消した「特許第2998526号の請求項1ないし5に係る特許」は、特許異議の申立てがされていない請求項に係る特許ということになる。そうすると、これについて審理、
判断した特許庁の手続は、特許法120条2項に違反するものといわざるを得ず、
これが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2 以上のとおり、原告主張の本件決定取消事由1は理由があり、本件決定は違法として取消しを免れない。
よって、原告の請求は、その余の取消事由について判断するまでもなく、理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利