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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ワ14169損害賠償請求事件 判例 特許
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平成14ワ8940損害賠償請求事件 判例 特許
関連ワード 製造方法 /  使用方法 /  公知技術 /  技術的範囲 /  共有 /  均等 /  置き換え /  置換 /  置換可能性 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  譲渡数量 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 4158号 損害賠償等請求事件
原告 四國団扇株式会社
訴訟代理人弁護士 谷口達吉
同 向井理佳
補佐人弁理士 坂上好博
同 葛西泰二
被告 クリエート工業株式会社
訴訟代理人弁護士 亀井正貴
同 豊島秀郎
補佐人弁理士 大浜博
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2001/09/20
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、別紙被告製品目録2記載の物件を製造し、販売し又は譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。
2 被告は、その本店、営業所又は工場に存する別紙被告製品目録2記載の物件及びその半製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金175万1338円及びこれに対する平成12年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨 (1) 被告は、別紙ロ号物件目録記載の物件を製造し、販売し又は譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。
(2) 被告は、その本店、営業所又は工場に存する別紙ロ号物件目録記載の物件及びその半製品を廃棄せよ。
(3) 被告は、原告に対し、金500万円及びこれに対する平成12年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は被告の負担とする。
(5) (3)項につき仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁 (1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
1 請求原因 (1) 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を、三井化学株式会社、株式会社上岡と共有している。
登録番号 第2656419号 発明の名称 多機能レジャーシート 出願年月日 平成4年3月12日 出願番号 04-053167 登録年月日 平成9年5月30日 (2) 本件特許権についての特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(以下、請求項1記載の発明を「本件発明」という。)。
熱可塑性樹脂のチューブ状インフレーションフィルムの片面に、不織布を、熱接着性樹脂の押出層を介してサンドイッチラミネーションし且つその一端部をヒートシールした袋からなることを特徴とする多機能レジャーシート。
(3) 上記請求項1の記載を分説すると、次のとおりである。
A 熱可塑性樹脂のチューブ状インフレーションフィルムの片面に B 不織布を、熱接着性樹脂の押出層を介してサンドイッチラミネーションし C 且つその一端部をヒートシールした袋からなる D ことを特徴とする多機能レジャーシート (4)ア 被告は、別紙被告製品目録1記載の物件(以下「被告製品」という。)を製造販売している。
イ 被告製品の構造は、別紙ロ号物件目録記載のとおりであり、その構成を分説すると、次のとおりである(以下、同目録によって構造を特定した物件を「ロ号物件」という。)。
1-@ 基材が熱可塑性樹脂のチューブ状インフレーションフィルムからなり、その片面に、
1-A 繊維を相互に織ることなく、繊維をからめたシートが熱接着性樹脂の押出層を介してサンドイッチラミネーションにより添着されており、
1-B 且つ、所定の寸法に裁断されたチューブ状インフレーションフィルムの一端部をヒートシールして袋になっている 1-C 多機能レジャーシート (5) 本件発明とロ号物件の構成を対比すると、次のとおりである。
ロ号物件の構成1-@は本件発明の構成要件Aを、構成1-Aは構成要件Bを、構成1-Bは構成要件Cを、構成1-Cは構成要件Dを、それぞれ充足する。
被告は、被告製品の構成が、ロ号物件と異なるとし、構成1-Aのうち「繊維を相互に織ることなく、繊維をからめたシート」という部分が、「ケナフパルプを使用した和紙」であると主張する。しかし、仮に被告製品におけるシートがケナフ繊維からなるものであるとしても、そのようなシートは、「不織布」に該当するから、構成要件Bを充足する。
(6) 被告製品の構成が、ロ号物件と異なり、構成1-Aのうち「繊維を相互に織ることなく、繊維をからめたシート」という部分が、ケナフ繊維からなるシートであり、それが本件発明の構成要件Bの「不織布」に文言上当たらないとしても、
被告製品は、次の要件を満たすから、本件発明と均等であり、その技術的範囲に属する。
ア 本件発明においては、チューブ状インフレーションフィルムの袋の片面に、サンドイッチラミネーションにより、繊維質で多孔質のシートを添着させたことが発明の中核であり、その繊維シートが不織布であるかどうかは発明の本質的要素ではない。
イ 本件発明において不織布を熱可塑性樹脂のチューブ状インフレーションフィルムの片面に添着したことによる作用効果は、風合い、肌触り、吸水性に優れる点にあるが、ケナフ繊維を用いても同様な作用効果を奏するので、置換可能性がある。
ウ ケナフは古くから使用されてきた素材であり、ケナフを原料として製造されたシートが肌触りや吸水性に優れることは当業者にとって自明の事実であるから、不織布をケナフ繊維からなるシートに置換することは、容易に想到することができた。
エ ケナフ繊維からなるシートは、本件発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではない。
オ 本件発明の構成要件Bの「不織布」から、ケナフ繊維からなるシートが意識的に除外されたという特段の事情はない。
(7)ア(ア) 被告は、被告製品を、平成9年10月16日から平成12年12月27日までに79万0319枚製造販売し、その販売額は3115万2735円であった。
(イ) 被告による本件特許権の侵害がなければ原告が販売することができた本件発明の実施品の利益の額は、1枚当たり15円である。
原告は、本件発明の実施品を製造販売するについて、被告が被告製品を製造販売するのと同程度以上の能力を有していた。
原告の本件共有持分権の持分割合は3分の1である。
したがって、特許法102条1項により、395万1595円(15円×79万0319枚×1/3=395万1595円)が原告の損害額とされる。
(ウ) 被告が被告製品の製造販売により得た利益は、1枚当たり4.75円であるから、被告は、平成9年10月16日から平成12年12月27日までの間に、ロ号物件の製造販売により375万4015円(4.75円×79万0319枚=375万4015円)の利益を得た。
原告の本件特許権についての共有持分の持分割合は3分の1であるから、特許法102条2項により、125万1338円(375万4015円×1/3=125万1338円)が原告の損害額と推定される。
(エ) 原告は、本件訴訟の提起に当たり、訴訟代理人及び補佐人に対し、
弁護士費用及び弁理士費用(以下「弁護士等費用」という。)として105万円を支払うことを約した。
イ 原告は、損害賠償として、特許法102条1項により損害額とされる395万1595円及び弁護士等費用105万円の合計額の内金500万円、又は特許法102条2項により損害額と推定される125万1338円及び弁護士等費用105万円の合計230万1338円の支払を求める。
(8) よって、原告は、被告に対し、本件特許権に基づき、ロ号物件の製造、販売又は譲渡若しくは貸渡しのための展示の差止め、並びに被告の本店、営業所又は工場に存するロ号物件及びその半製品の廃棄を求め、本件特許権侵害不法行為に基づく損害賠償として500万円及びこれに対する不法行為の後である平成12年12月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)ないし(3)は認める。
(2)ア 請求原因(4)アの事実は認める。
イ 被告製品の構造が別紙ロ号物件目録記載のとおりであることは否認する。
被告製品が、構成1-@及び構成1-Bを備えること、構成1-Aのうち「熱接着性樹脂の押出層を介してサンドイッチラミネーションにより添着されており」という部分を備えることは認めるが、「繊維を相互に織ることなく、繊維をからめたシート」という部分は備えず、この部分は、被告製品においては、「ケナフパルプを使用した和紙」である。
被告製品は、構成1-Cを備えない。
(3) 請求原因(5)は争う。
被告製品を本件発明と対比すると、被告製品において、熱可塑性樹脂のチューブ状インフレーションフィルムの片面に、熱接着性樹脂の押出層を介してサンドイッチラミネーションにより添着されているのは、ケナフパルプを使用した和紙(ケナフ紙)であり、これは紙であって構成要件Bの「不織布」に当たらないから、被告製品は、構成要件Bを充足しない。
(4) 請求原因(6)の主張は争う。
ア 本件発明は、積層材料のうちで、敷物としたとき、地面へのフィット性や風合い、肌触り等に顕著に優れていること、安価な素材を使用して、少ない工程で、生産性よく多機能レジャーシートが提供されることという効果に最もよく適合するものとして不織布を選択したものであるから、熱可塑性樹脂のチューブ状インフレーションフィルムの片面に不織布を添着させた点に、本件発明の本質的部分がある。
イ 被告製品は、地面へのフィット性や風合い、肌触り等について、顕著に優れているとまではいえないし、木材資源の愛護という本件発明にない作用効果を有しているから、置換可能性がない。
ウ 不織布をケナフパルプを使用した和紙に置換することは、当業者が、被告製品の製造の時点において容易に想到することができなかった。
エ 本件発明の出願に当たっては、「不織布」を意識的に採用し、それ以外の材料を意識的に除外したものと考えられる。
(5)ア(ア) 請求原因(7)ア(ア)の事実は認める。
(イ) 同(7)ア(イ)の事実は否認し、主張は争う。
被告は、被告製品の大部分を株式会社クリエートに販売した。被告は株式会社クリエートの下請であり、株式会社クリエートは被告以外にも下請を有しているから、被告が被告製品を株式会社クリエートに販売していなくても、原告は株式会社クリエートに本件発明の実施品を販売できなかった。したがって、原告には、被告の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を販売することができない事情がある。
(ウ) 同(7)ア(ウ)の事実のち、被告が被告製品の製造販売により得た利益が1枚当たり4.75円であったことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。
被告製品が多数販売されたのは、被告製品が、環境保護の観点で優れたケナフを使用し、その点が企業の広報に用いられ、「原料から地球にやさしいエコロシート」というキャッチコピーが付されたことによるものであるから、本件について特許法102条2項の推定は覆滅される。
(エ) 同(7)ア(エ)の事実は不知。
イ 同(7)イの主張は争う。
理 由1 請求原因(1)ないし(3)は、当事者間に争いがない。
2(1) 被告が別紙被告製品目録1記載(名称と外観)の被告製品を製造販売していることは、当事者間に争いがない。この事実と、検甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、被告製品の構造が、構成1-@、構成1-B及び構成1-Aのうち「熱接着性樹脂の押出層を介してサンドイッチラミネーションにより添着されており」という部分を備えることが認められる。
甲第5号証、第8号証、第11ないし第13号証、乙第5号証、検甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、被告製品において、熱可塑性樹脂のチューブ状インフレーションフィルムの片面に熱接着性樹脂の押出層を介してサンドイッチラミネーションにより添着されているものは、長さが5ミリメートル及び8ミリメートル程度の短繊維を、相互に織ることなく、抄紙機を用いて結合させたシート状のものであり、その繊維の構成は、ポリエステル40ないし63パーセント、ビニロン13ないし23パーセント、木材パルプ又はケナフパルプ23ないし38パーセントであることが認められる。また、検甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、レジャーシートであると同時に、袋の形状をなし、敷物のほか、衣類やゴミの収納容器など多くの用途に利用し得ることが認められる (2) 上記(1)の認定事実によれば、被告製品の構造は、被告製品目録2のとおり特定され、その構成は、次のとおりであると認められる。
2-@ 基材が熱可塑性樹脂のチューブ状インフレーションフィルムからなり、その片面に、
2-A 長さが5ミリメートル及び8ミリメートル程度の短繊維を、相互に織ることなく、抄紙機を用いて結合させたシート状のものであり、その繊維の構成が、ポリエステル40ないし63パーセント、ビニロン13ないし23パーセント、木材パルプ又はケナフパルプ23ないし38パーセントであるものが熱接着性樹脂の押出層を介してサンドイッチラミネーションにより添着されており、
2-B 且つ、所定の寸法に裁断されたチューブ状インフレーションフィルムの一端部をヒートシールして袋になっている 2-C 多機能レジャーシート3 本件発明と被告製品の構成を対比すると、被告製品の構成2-@は構成要件Aを充足し、構成2-Bは構成要件Cを充足し、構成2-Cは構成要件Dを充足し、
構成2-Aのうち「熱接着性樹脂の押出層を介してサンドイッチラミネーションにより添着されており」という部分は、構成要件Bの「熱接着性樹脂の押出層を介してサンドイッチラミネーションし」という部分を充足する。そこで、構成2-Aの「長さが5ミリメートル及び8ミリメートル程度の短繊維を、相互に織ることなく、抄紙機を用いて結合させたシート状のものであり、その繊維の構成が、ポリエステル40ないし63パーセント、ビニロン13ないし23パーセント、木材パルプ又はケナフパルプ23ないし38パーセントであるもの」(以下「被告シート」という。)が構成要件Bの「不織布」に当たるかという点について検討する。
甲第4号証、第14号証、乙第1号証、第6号証、第7号証、第9号証、第10号証の1、2によれば、「不織布」、「紙」の意義については、文献によって定義や説明が少しずつ異なり、不織布又は紙として典型的に想定するものはほぼ一致するものの、不織布か否か、紙か否かの区別の限界をいずれに置くかは、必ずしも一義的に明確ではない。そこで、各文献ごとに、被告シートが不織布に該当するか、紙に該当するとされる場合、それによって不織布であることが否定されるかという点について検討する。
(1)ア 甲第4号証(水野淳著、社団法人日本技術士会監修「不織布および合成皮革」昭和45年地人書館発行)の3頁には、「現代の不織布とは紡編織用繊維を用いて繊維集合体をつくり、紡編織工程を経ずに、何らかの方法で繊維を結合させて布状にしたものであるが、昔からあるフェルトや紙は不織布から除外されている。」(2行ないし4行)と記載され、7頁では、不織布が湿式不織布と乾式不織布に分類され、8頁には「湿式不織布には製紙機が使用され」(3行)るとしており、9頁では、「製造法による不織布の特徴」という題名の表(表2.1)において、湿式と乾式を区別し、湿式の区分のものの型式は「抄紙型」とし、その繊維長は10ミリメートル以下とされ、その製品例として「紙」と記載されている。10頁には「わが国の不織布の中で現在最も多く使用されているのは、湿式抄紙型不織布と乾式接着剤型不織布である。」(2行ないし3行)と記載され、13頁の「湿式不織布」の項では、「湿式不織布は使い捨て用として製造されることが多く、製紙機を使用するので紙の分野に入る。」(3行ないし4行)、「現在のいわゆる化合繊紙はまだ生れたばかりの状態である」(13行)、「製紙の原料を化合繊に置き換えたものであるため、その製造には抄紙機が使用されることが多」(18行ないし19行)いと記載されている。15頁以下では、湿式不織布の原料繊維の項目として、レーヨン(15頁9行)、ビニロン(16頁7行)、ナイロン(18頁3行)、アクリル(19頁7行)、ポリエステル(19頁13行)が挙げられ、21頁には、「そのほか、燃え難いポリ塩化ビニル、軽いポリプロピレン、ポリエチレン繊維などが利用されることもあるが、まだこれから開発されるものと考えられる」(6行ないし8行)と記載されている。また、27頁では、「合繊紙の長所と用途」という題名の表(表4.12)において、合繊紙の種類として、ナイロン紙、ビニロン紙、テトロン紙、アクリル紙、レーヨン紙が列挙され、「産業資材用としての紙に使用することが多いが、使い捨て衣料としても考えられている」(2行ないし3行)という記載がある。
イ ところで、上記アの甲第4号証の3頁の定義にいう「紡編織用繊維」の意味については、直接の定義はなく、その後の記載からすると、レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリエステルなどの合成繊維がその典型とされていることが認められる。しかし、紡編織用繊維から植物繊維が一切排除されるということを示す記載はなく、むしろ、植物繊維は、旧来から紡編織に用いられてきたことからすると、植物繊維もこれに含まれるとするのが、用語の意味に合致すると解される。また、同定義において、「昔からある・・・紙は不織布から除外されている。」と記載されていることからすると、植物繊維であるパルプのみを原料とする昔からある紙は不織布から除外されると解されるものの、原料中に植物繊維も含むが合成繊維も相当程度含むようなものについて、不織布から除く趣旨とまでは解されず、むしろ、そのようなものであっても、紡編織用繊維を用いて繊維集合体をつくり、紡編織工程を経ずに、何らかの方法で繊維を結合させて布状にしたものであれば、不織布に該当するとするのが、同定義にそうものと解される。そうすると、
被告シートは、同定義に該当すると解される。
紙との関係については、上記アの甲第4号証の記載からすると、合成繊維を原料に抄紙機を用いて製造した布状のものは、たとえ紙として使用されていても、不織布に該当するものと扱われていると解される。そこで、それによれば、被告シートが、その製造方法使用方法から紙と評価されたとしても、不織布であることが否定されるものではないと解される。
(2)ア 甲第14号証(西川文子良著「不織布の基礎知識(一部改訂)」1999年日本不織布協会発行)の7頁では、不織布の定義について、「米国のASTM D 1117-80では、繊維状構造物で、機械的に、化学的にまたは溶剤を用いたりまたそれらの組み合わせで、繊維間を接着したりまたは絡ませたり、あるいは両方で生産されたものとしている。欧州のISO 9092-1988では、繊維シート、ウェブまたはバットで、一方向またはランダムに配列され、摩擦、及び/または結合、及び/または粘着によって繊維間を接着されたもの。紙や紡績糸やフィラメントにより結合された織物、編物、タフト、ステッチボンド製品で、追加的なニードルパンチ工程の有無に限らず上記製品は除かれる。繊維は天然または人工繊維でもよく、短繊維でもフィラメントでもよい。」(3行ないし10行)と記載されており、上記ISOの定義にいう「紙」について、注(1)で、「紙と湿式不織布の区別には、長さ対直径比(アスペクト比)で300以上ある繊維を50%以上含む不織布か、長さ対直径比300以上の繊維が30%含み、その密度が0.40g/m3以下の不織布をいう。いずれの場合でも、化学的に分解された植物繊維は除かれている。」(注(1)1行ないし4行)と記載されている。さらに、注の下には、
「最近ISO 9092-1988の見直しを検討する動きはある。今後の新規開発により、益々その境界線は複雑になる。端的にいって、不織布とは繊維をなんらかの手段で絡ませたり、くっつけたりした繊維状シートと考えてよい。フィルム・皮革・紙・織編物や羊毛フェルトの間に介在して相互に共存している業界と見ていい。」(注を除き11行ないし15行)と記載され、その下に、不織布の領域を表す円が、紙の領域を表す円及び織物・編物の領域を示す円のそれぞれの一部と重なった図形が描かれている。34頁では、「5.2 各ウェブ製造方式による分類」の「5.2.1 湿式」の項に、「抄紙工程での製紙方式と原則的には同じであり、繊維を0.001〜0.005重量%といった希釈濃度で水中に分散させて抄紙工程で製造されたものである。」(3行ないし4行)、「原則として、パルプに適した方式である為に、不織布に用いる繊維長は大体6o以下である。これ以上長い繊維では、繊維の分散がうまく行かず、かたまりになってしまう。繊維はレーヨンや合繊の極短繊維が使用されている。繊維配列はランダムにすべく工夫がされているが、使用製品の風合いが紙の様になり、湿潤強力や引裂強さも弱く、使用範囲が限定されている。」(5行ないし9行)と記載されている。
イ 被告シートは、上記アのASTMの不織布の定義に該当する。
上記アのISOの定義のうち、「繊維シート、ウェヴまたはバットで、一方向またはランダムに配列され、摩擦、及び/または結合、及び/または粘着によって繊維間を接着されたもの。」及び「繊維は天然または人工繊維でもよく、短繊維でもフィラメントでもよい。」という部分について、被告シートは、これに該当すると解されるが、ISOの定義は、「紙は・・・・除かれる。」と記載されているところ、紙と不織布の区別に関する上記アの注(1)の記述は、その趣旨が不明であり、その記述によった場合に被告シートが紙に該当するかどうかの点について判断するのは困難である。
上記アの甲第14号証7頁の注の下に記載された「不織布とは繊維をなんらかの手段で絡ませたり、くっつけたりした繊維状シートと考えてよい」という定義に、被告シートは該当する。上記アのとおり、甲第14号証の34頁には、抄紙工程における水中での繊維の希釈濃度が記載されており、被告シートについては、
その数値は不明であるが、抄紙機を用いて製造されることから、水中での希釈濃度も、抄紙を可能とする程度であると解される。また、34頁の「繊維長は大体6o以下である」という記載は、「大体」という文言があることからも、すべての繊維が厳密に6ミリメートル以下であることを要求するものではないと解されるところ、被告シートを構成する繊維は、長さが5ミリメートル及び8ミリメートル程度の短繊維であり、この記載に必ずしも反するものではないと解される。
上記アのとおり、甲第14号証の7頁の注の下に不織布について、「フィルム・皮革・紙・織編物や羊毛フェルトの間に介在して相互に共存している業界と見ていい。」と記載されており、不織布の領域を表す円が、紙の領域を表す円及び織物・編物の領域を示す円のそれぞれの一部と重なった図形が描かれており、34頁で、「5.2 各ウェブ製造方法による分類」の「5.2.1湿式」の項に、
「使用製品の風合いが紙の様になり、湿潤強力や引裂強さも弱く、使用範囲が限定されている。」と記載されていることから、甲第14号証においては、抄紙機を用いて湿式の方法により製造された不織布が、紙と評価されるものであっても、これを不織布に含めて考える趣旨と解される。
したがって、ISOの定義によった場合に被告シートが不織布に該当するかどうかという点について明確でないが、その点を除けば、甲第14号証の記載によれば、被告シートは不織布に該当し、それが紙と評価されても、不織布に含めて考えてよいとするものと解される。
(3)ア 乙第1号証(紙パルプ技術協会編「紙パルプ事典」〈改訂第5版〉金原出版株式会社発行)の「不織布(non-woven fabrics)」の項には、「織機を使わずに天然、再生、合成繊維など各種の繊維のウェブを機械的、化学的、熱的あるいはそれらの組合わせによって処理し、接着剤あるいは繊維自身の融着力によって構成繊維を互いに接合して作った布。・・・乾式不織布と、抄紙とほぼ同じの湿式不織布があり、乾式法の製品が圧倒的に多い。用途:衣類,衛生医療材料,土木用,包装,特殊紙用途など。」(248頁右欄23行ないし33行)と記載されている。
イ 被告シートは、上記アの不織布の定義に該当し、湿式不織布に分類されると解される。上記アの定義では、不織布の用途に、包装、特殊紙用途など紙の用途と重なる用途が含まれていることから、紙と同様の用途に用いられたとしても、不織布であることを否定する趣旨ではないと解される。
(4)ア 乙第9号証(機能紙研究会編集「機能紙総覧′93」加工技術研究会発行)の「第1章 機能紙の定義と範疇」、「1.1 機能紙とは何か」、「1.1.1 紙の定義」(10頁)の項に、次のような記載がある。すなわち、「紙とは何かと言われると、意外に定義するのが難しい。最新版の『広辞苑』では、「主に植物性の繊維を材料とし、アルカリ液を加えて煮沸し、更につき砕いて軟塊とし、樹脂または糊などを加えて漉いて製した薄片」とかなり誤解を招く定義を与えている。『大辞林』はこれよりましで、「植物の繊維を水中で密に絡み合わせ、薄く平面状にのばして乾燥したもの。中国、後漢の蔡倫がその製法を発明したといわれる。絵や文字を書いたり、物を包んだり、障子や襖に貼ったりするのに用いる。
中略。最近は合成繊維からも作られるようになった」とある。要点は、植物繊維、
合成繊維からなること、水中で絡み合わせること、薄い平面状物であることである。改訂版の『紙パルプ事典』では「植物繊維その他の繊維を絡み合わせ、膠着させて作ったもの。なお、広義には素材として合成高分子物質を使用して作った合成紙、合成繊維紙、合成パルプ紙のほか、繊維状無機材料を配合した紙を含む」としている。この定義は、フィルムベースのいわゆる「合成紙」が出現した昭和44年頃のJISの紙の定義に基づくものであるが、植物繊維、その他の繊維を絡み合わせたもので、水を使用することは規定されていず、不織布などとも完全にオーバーラップしているし、紙の概念をフィルム分野までに意図的に拡大しようとした不自然な表現である。紙を定義するには、上記と同じように原料、製法、あるいは用途の面から明らかにする方がよいと筆者も考える。ただ、用途は紙の機能と密接な関係にあるので、筆者はここでは原料と製法から定義するのがよいと考え、次の構成要件を満足するものとしている。@短繊維からなり、A水を媒介として繊維を分散させ、B濾過により脱水して繊維を配列させてウェブを形成させ、C乾燥後に繊維間結合を形成させた、D平面状のもの。この定義によれば、繊維は植物繊維以外に合成繊維、無機繊維など、その化学構成を問わない。ただ、「短繊維」と規定することで、フィラメント状の長繊維は排除し、長繊維を絡み合わせた不織布の領域と区別し、同時に水で懸濁させて分散するものであることを明確にしている。更に、
水を濾過した後、乾燥工程で水分を除去するのであるが、繊維は単に物理的な絡み合いだけではなく、化学的な繊維間結合を形成する必要がある。この点織物などとは構成が異なる。これで形成される形態は平面状でない、三次元状のものも考えられるが、特殊な例外を除き一般的には面状体と考えればよいと思う。しかし、近年この紙の周辺技術が拡大されてきて、他の分野ともオーバーラップすることも多くなった。一つには「不織布」あるいは「人工皮革」との領域の不明確さである。」(10頁左欄4行目ないし右欄5行目)、「不織布とは『紙パルプ事典』によれば「繊維のウェブを機械的、化学的、熱的、あるいはこの組合せ処理し、接着剤あるいは繊維自身の融着力により構成繊維をお互いに接合して作った布」である。ウェブとは繊維を平面状に配列したものと考えれば、当然水を使うことも含むわけであり、また、接合法も化学的、熱的接着は繊維間結合の方法である。従って、不織布の一部とは水を使用する配列法をとる湿式法とかなりの確率で重畳する。また、乾式の場合でも用途別には競合するものもかなりある。布の分野と見るか、紙の分野と見るかは用途からの区別である。」(10頁右欄9行ないし18行)と記載されている。また、「1.2 不織布、特殊紙、合成紙など周辺用語との差異」(13頁左欄19行)という項において、「「機能紙」に関連する周辺の用語として、紙関連では「加工紙」、「特殊紙」、織布関連では「不織布」、「人工皮革」、フィルム関連では「合成紙」などの言葉があることを明らかにした。」(13頁左欄20行ないし23行)、「「不織布」とは「繊維を均一な厚みとなるように分散、堆積させたシート状物(これをウェブという)を、繊維が脱落しないように何らかの方法で結合させ、形態安定性を持たせたシートあるいはマット状構造物」である。
この結合に機械的、化学的、あるいは熱的な方法がある。ウェブ形成に水を使うのが湿式で、空気を使うのが乾式である。従って、水を使って配向出来るような短繊維で、化学的、熱的に繊維を融合させたもの、つまり、短繊維湿式不織布は機能紙の分野と重複する。これは製法面からのオーバーラップであるが、用途面では更に競合は大きい。消費者の選択は製法ではなく、機能であるからである。」(13頁右欄11行ないし21行)と記載されている。
イ 被告シートを、上記アの乙第9号証の10頁に記載された「広辞苑」の紙の定義と対比すると、被告シートの繊維の構成は、木材パルプ又はケナフパルプを23ないし38パーセント含むが、それ以外はポリエステル又はビニロンであり、
これをもって、「主に植物性の繊維を材料とし」とはいえないと解され、被告シートは同定義には該当しないと解される。被告シートは、乙第9号証の10頁に記載された『大辞林』、『紙パルプ事典』の紙の定義に該当し、また、「@短繊維からなり、A水を媒介として繊維を分散させ、B濾過により脱水して繊維を配列させてウェブを形成させ、C乾燥後に繊維間結合を形成させた、D平面状のもの」という乙第9号証自体の紙の定義にも該当する。他方、被告シートは、上記アの乙第9号証の10頁右欄に記載された『紙パルプ事典』の不織布の定義に該当するし、13頁に記載された「繊維を均一な厚みとなるように分散、堆積させたシート状物(これをウェブという)を、繊維が脱落しないように何らかの方法で結合させ、形態安定性を持たせたシートあるいはマット状構造物」という不織布の定義にも該当する。
上記アのとおり、乙第9号証の10頁右欄には「不織布の一部とは水を使用する配列法をとる湿式法とかなりの確率で重畳する。・・・・布の分野と見るか、紙の分野と見るかは用途からの区別である。」と記載され、13頁に、「水を使って配向出来るような短繊維で、化学的、熱的に繊維を融合させたもの、つまり、短繊維湿式不織布は機能紙の分野と重複する。これは製法面からのオーバーラップであるが、用途面では更に競合は大きい。」と記載されていることからすると、紙と不織布は重複する場合が認められており、そのような場合には、紙に該当したとしても、不織布への該当性が否定されるものではないと解される。そして、
被告製品は、その構成や製造方法からすると、乙第9号証にいう短繊維湿式不織布に該当するものと解され、紙と不織布が重複する分野に属し、それを紙と評価する余地があったとしても、不織布であることが否定されるものではないと解される。
(5)ア 乙第10号証の2(「JIS 繊維用語(織物部門)」)には、「不織布」の項(17頁番号1331)の定義に「製織しないで各種の方法によって、繊維をシート状にした布」と記載されている。他方、乙第10号証の1(「JIS 紙・板紙及びパルプ用語」)には、「紙」の項(12頁番号4004)の定義に「1.1)植物繊維その他の繊維をこう(膠)着させて製造したもの。なお、広義には、素材として合成高分子物質を用いて製造した合成紙のほか、繊維状無機材料を配合した紙も含む。」、「1.2)板紙に対応する語。」、「2)平判又は紙匹の状態の素材に対する一般的な用語-製紙用パルプ又は溶解パルプのシート及びラップ並びに不織布は除外-植物、鉱物、動物又は合成繊維若しくはそれらの混合物に他物質を添加(又は無添加)して、適当な地合形成装置上に懸濁液を堆積させて作ったもの。」と記載され、その「参考」の欄には、「4.“不織布”には、別の定義がある。」と記載され、「合成繊維紙」の項(33頁番号6058)には、
「合成繊維を主原料として製造した紙。」と記載され、その「参考」の欄には、
「普通、液状、粉状又は繊維状の接着剤を加えてシートにする。主にビニロン紙、
ナイロン紙などをいう。」と記載されている。
イ 被告シートは、上記アの各定義の文言に照らせば、乙第10号証の2の「不織布」の定義、乙第10号証の1の「紙」の項の「1.1)」の定義及び同書証の「合成繊維紙」の定義に該当するものと解される。もっとも、上記のとおり、
乙第10号証の1の「紙」の項の「2)」には、「不織布は除外」と記載され、その「参考」の欄には、「4.“不織布”には、別の定義がある。」と記載されており、このような記載からすると、「不織布」と「紙」は相互に排他的なものとして定義されているとも解される。しかし、「不織布」と「紙」を区別する基準については、乙第10号証の1及び2からは明らかでないから、「不織布」と「紙」が相互に排他的なものとして定義されているとしても、乙第10号証の1及び2からは、被告シートが「不織布」と「紙」のいずれに属するか判断することはできない。
(6)ア 乙第6号証(「世界大百科事典第17巻」1981年平凡社発行)の「紙」の項(267頁左欄43行)には、「植物の繊維を水に懸濁させた後、水ごしをし、これを薄く平らにからみ合わせてつくったものである。・・・・俗に〈第二の紙〉や〈第三の紙〉と呼ばれる新製品が出現した。これは植物の繊維を原料としたものではなく、レーヨンや合成繊維などを原料にして紙状につくったものである。これを紙というかどうかについて紙関係の国際会議でもいろいろ論議された結果、これを紙として取り扱うけれども、紙の定義としては従前どおりに冒頭に掲げたものを採用することに申し合わされたのである。」(267頁左欄43行ないし59行)と記載されている。「紙」の項の中の「合成紙」の項(267頁右欄61行)には、「いままでの紙はすべて植物体を構成しているセルロース繊維を原料としてつくられたものであるが、合成紙は各種の化学繊維を原料に使ったものや、プラスチックを紙様にしたいわゆるポリスチレン紙などがある。これらは従来のセルロース繊維を原料とした紙のような薄葉性、不透明性、筆記性、印刷性などを付与する加工を施したもので、製造法を大別すると次の二つがある。」(267頁左欄61行ないし70行)と記載され、フィルム紙化法と合成パルプ法が挙げられ、
「(1)フィルム紙化法」の項(267頁右欄71行)には、「この方法でつくられた紙が一般にスチレンぺーパーと呼ばれ、俗に〈第三の紙〉と称された。」(268頁左欄11行ないし13行)と記載され、「(2)合成パルプ法」の項(268頁左欄19行)には、「ポリプロピレン、ナイロン、塩化ビニル樹脂などを用いて短繊維状合成繊維をつくり、これに粘着剤を添加した後、一般の紙すき機を使って製造する。この方法でつくられた紙は俗に〈第二の紙〉と呼ばれた。」(268頁左欄19行ないし24行)と記載されている。
イ 上記アの乙第6号証の記載によれば、被告シートは、紙に当たるものと解され、そのうちでも、合成紙のうちの合成パルプ法により製造された紙に該当すると解される。しかし、紙に該当することにより不織布であることが否定されるという趣旨は、上記アの乙第6号証の記載から読み取ることはできないから、同号証の記載により紙に該当するとしても、不織布であることは否定されないと解される。
(7)ア 乙第7号証(前掲「紙パルプ事典」〈改訂第5版〉)の「紙(paper)」の項(260頁左欄20行)には、「植物繊維その他の繊維を絡み合わせ、こう着させて作ったもの。なお、広義には素材として合成高分子物質を使用して作った合成紙、合成繊維紙、合成パルプ紙のほか、繊維状無機材料を配合した紙も含む。」(260頁左欄20行ないし25行)と記載され、「合成紙(synthetic paper)」(358頁左欄16行)の項には、「合成樹脂素材から作られたシート状のもののうち外観が紙に似ており、紙の特性(印刷性、筆記性、不透明性)を備えたものをいう。大きく分けてフィルム法とフィラメント法があり、・・・フィラメント法は紡糸したフィラメントを乾式または湿式法でシート化したものをバインダーまたは熱で結合させる。狭義にはフィルム法のものを合成紙とし、フィラメント法のものは不織布とするが、広義には合成パルプ紙も合成紙とすることがある。」(358頁左欄16行ないし28行)と記載され、「合成パルプ紙(synthetic pulp paper)」の項(358頁右欄7行)には、「高分子材料(ポリオレフィン、アクリル、ポリエステル、PVA)を天然パルプに似た形状にした合成パルプを用いて湿式抄紙した紙をいう。」(358頁左欄8行ないし11行)と記載されている。
イ 被告シートは、上記アの乙第7号証の260頁の「紙」の項の説明に該当すると解される。しかし、紙に該当することにより不織布であることが否定されるという趣旨は、上記アの乙第7号証の記載から読み取ることはできないから、同号証の記載により紙に該当するとしても、不織布であることは否定されないと解される。
(8) 以上によれば、各文献に照らし、被告シートは不織布に当たると解され、被告シートが紙に当たるとしても、そのことによって、不織布であることが否定されるわけではないと解される。
4 次に、被告シートが、本件明細書の記載との関係で、不織布に該当すると認められるかという点について検討する。
本件明細書の作用の項には、「本発明では、このチューブ状基材の一方の表面に、不織布を積層する。基材の表面に不織布を積層したことにより、人が触れる表面が、繊維質、多孔質となり、風合い、肌ざわりが顕著に向上する。また表面が吸水性、保水性となるので、液体類をこぼした場合にも、フィルムの場合のように急に広がったり或いは移動したりすることがないという利点もある。」(特許公報3欄40行ないし46行)と記載され、発明の効果の項には、「敷物としたとき、地面へのフィット性や風合い、肌触り等に顕著に優れている」(特許公報8欄8行ないし9行)と記載されている。甲第5号証及び検甲第1号証によれば、被告シートは、薄手で、凹凸のある地面への適合性に富み、表面が繊維質、多孔質であり、インフレーションフィルムの表面に比べ、風合い、肌触りが大幅に向上していることが認められ、また、表面が繊維質、多孔質であることにより、吸水性、保水性を有し、液体類をこぼした場合にもフィルムの場合のように急に広がったり或いは移動したりすることがないものと推認される。したがって、被告シートは、本件明細書の上記記載に当てはまるものと解される。本件明細書の実施例の項には、「(不織布)」という項目(特許公報5欄47行)が設けられており、そこには、「本発明に用いる不織布は、天然繊維、再生繊維、合成繊維或いはこれらの二種以上の混合繊維から形成されていることができる。適当な繊維の例は、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂繊維:ポリエチレンテレフタレート、エチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等のポリエステル繊維:ナイロン6、ナイロン6.6等のポリアミド繊維:アクリル繊維:ポリ塩化ビニル繊維:ポリ塩化ビニリデン繊維:ビニロン繊維:レーヨン繊維:木綿繊維等である。」(特許公報5欄47行ないし6欄5行)、「本発明に用いる不織布は、フィラメントから構成されていても、或いはステーブルから構成されていてもよい。また、これらの繊維は、未巻縮の状態でも巻縮された状態でもよい。この不織布は、単繊維相互が絡み合いや融着等により固定されているという範囲内で、任意の不織布構造及び製法によるものであってよい。例えば、乾式法或いは湿式法による不織布が使用され、一層具体的には、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、サーマルボンド不織布等が使用される。」(特許公報6欄6行ないし14行)と記載されている。被告シートは、これらの記載にも当てはまるものと解される。なお、「(不織布)」の項目中には、
「この不織布は、5乃至300g/u、特に10乃至150g/uの目付け量を有するのが好ましい。不織布の目付け量が、上記範囲よりも小さくなると、風合いや肌触りが悪くなる傾向があり、一方上記範囲よりも大きくなると、シートがかさばり、袋としての機能も低下する傾向がある。また、風合いや強度の点で、この不織布は、一般に0.05乃至50デニール、特に0.1乃至10デニールの単繊維繊度を有するのが望ましい。」(特許公報6欄28行ないし36行)という記載があり、被告シートがここで示された数値範囲に入るか否かは不明であるが、この数値範囲は、実施例として好ましいところを示したものにとどまるから、この点が不明であっても、被告シートが本件発明にいう「不織布」に該当することは否定されないと解される。
以上によれば、被告シートは、本件明細書の記載との関係でも、不織布に該当すると認められる。
5 被告シートは、各文献に照らしても、本件明細書の記載との関係でも、不織布に該当すると認められるから、被告シートは、構成要件Bの「不織布」に該当するものというべきである。そうすると、被告製品は、本件発明の構成要件をすべて充足し、その製造販売は本件特許権を侵害するものと認められる。
6 上記のとおり、被告製品の製造販売は、本件特許権を侵害するものと認められるから、原告は、本件特許権に基づき、被告製品の製造、販売又は譲渡若しくは貸渡しのための展示の差止め、被告の本店、営業所又は工場に存する被告製品及びその半製品の廃棄を求めることができる(製造、販売以外の被告の侵害態様についても、そのおそれがあるものと認められる。)。
原告は、被告製品の構造を別紙ロ号物件目録記載のとおり特定し、ロ号物件の製造、販売等の差止め並びにロ号物件及びその半製品の廃棄を求めているところ、
ロ号物件は、被告製品における被告シートの部分が、「繊維を相互に織ることなく、繊維をからめたシート」(構成1-Aの一部)と特定されており、被告製品目録2記載の構造の被告製品を含んだ上で、更に被告製品より広範なものに該当する。しかし、被告が、被告製品目録2により特定される構造の被告製品以外に、ロ号物件に該当しかつ本件特許権を侵害するレジャーシートを製造販売し又はそのおそれがあることを認めるに足りる証拠はないから、被告製品より広範なロ号物件について、製造、販売等の差止め及び廃棄を命じる必要性は認められない。なお、被告製品が別紙被告製品目録1記載のとおりであることは当事者間に争いがないが、
これは商品の名称と外観で被告製品を特定するものであるところ、原告は、差止めの対象を商品の構造によって特定するものであるから、差止めを認容する範囲も、
これに対応して構造によって特定するのが相当である。
7 原告が被告製品の製造販売により被った損害について検討する。
(1)ア 被告による本件特許権の侵害がなければ原告が販売することができた本件発明の実施品の利益の額が1枚当たり15円であることを認めるに足りる証拠はない。
イ 被告が、被告製品を、平成9年10月16日から平成12年12月27日までに79万0319枚製造販売したこと、被告製品の製造販売により、1枚当たり4.75円の利益を得たことは、当事者間に争いがない。したがって、被告は、
平成9年10月16日から平成12年12月27日までの間に、被告製品の製造販売により375万4015円(4.75円×79万0319枚=375万4015円)の利益を得たことが認められる。
本件特許権の共有者は原告を含め3名であり、その共有持分の持分割合については特に定められていないので、原告の共有持分の持分割合は3分の1と推定される。そこで、特許法102条2項により、被告の得た上記利益の3分の1である125万1338円(375万4015円×1/3=125万1338円)が原告の損害額と推定される。
ウ 被告は、特許法102条2項の推定の覆滅を主張する。しかし、被告製品は、前記2のとおり、敷物のほか、衣類やゴミの収納容器など多くの用途に利用することができ、前記4のとおり、敷物としたときに地面へのフィット性や風合い、
肌触り等に優れるなど、本件発明の作用効果を有しており、弁論の全趣旨によれば、そのことが販売に少なからず寄与していると推認される上、被告製品が、ケナフを使用していることや「原料から地球にやさしいエコロシート」というキャッチコピーが付されたことによって特に多数販売されたと認めるに足りる証拠はないから、同項の推定の覆滅は認められないものというべきである。
(2) 事案の内容、審理の経過、認容額等に鑑みれば、本件における弁護士等費用は、50万円とするのが相当である。
(3) したがって、原告の被った損害の額は、175万1338円(125万1338円+50万円=175万1338円)と認められる。
8 よって、原告の本訴請求は、本件特許権に基づき、被告製品(別紙被告製品目録2で特定したもの)の製造、販売又は譲渡若しくは貸渡しのための展示の差止め、並びに被告の本店、営業所又は工場に存する被告製品及びその半製品の廃棄を求め、本件特許権侵害に基づく損害賠償として175万1338円及びこれに対する不法行為の後である平成12年12月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条64条本文を、仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 田中秀幸