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関連審決 異議2000-73691
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  出願公開 /  優先権 /  国内優先権 /  設定登録 /  請求の範囲 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 210号 特許取消決定取消請求事件
原告 ダイセル化学工業株式会社
訴訟代理人弁理士 古谷馨
同 溝部孝彦
同 古谷聡
同 持田信二
同 義経和昌
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 祖山忠彦
同 吉國信雄
同 森田 ひとみ
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/09/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が異議2000−73691号事件について平成13年3月26日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「合成樹脂製食品容器」とする特許第3029612号発明(平成11年2月4日特許出願(国内優先権主張・平成10年9月22日)、平成12年2月4日設定登録)の特許権者である。
上記特許につき特許異議の申立てがされ、異議2000-73691号事件として特許庁に係属したところ、原告は、平成13年2月23日に願書に添付した明細書の記載を訂正する旨の訂正請求をした。
特許庁は、同特許異議の申立てにつき審理した上、同年3月26日、「訂正を認める。特許第3029612号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年4月11日、原告に送達された。
2 訂正請求に係る明細書(以下「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の記載(以下、請求項1〜8に記載された各発明を、それぞれその請求項の番号に従い、「本件発明1」、「本件発明2」のようにいう。) 【請求項1】 (A)スチレン系樹脂40〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂60〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシートを成形してなる、底部の厚みが0.3〜3mmで、かつ絞り比が2以下の開口部を有する容器であり、座屈強度が1〜50kgである合成樹脂製食品容器。
【請求項2】 熱可塑性樹脂がポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートである請求項1記載の合成樹脂製食品容器。
【請求項3】 さらに、樹脂組成物中に、下記から選ばれる1種以上の相溶化剤を含有する請求項1又は2記載の合成樹脂製食品容器。
(C-1) ビニル芳香族化合物と、共役ジエン化合物とからなる共重合体又はその水素添加物。
(C-2) ビニル芳香族化合物と、共役ジエン化合物とからなる共重合体のエポキシ化物又はその水素添加物。
(C-3) (A)成分の構成単位となるスチレン系モノマーと、(B)成分の構成単位となるモノマーとの共重合体。
(C-4) ビニル芳香族化合物と、カルボキシル基を有する化合物又は酸無水物との共重合体。
【請求項4】 JIS K5400記載の光沢度(入射角60°)が10%以上で真珠様光沢を有している請求項1〜3のいずれか1記載の合成樹脂製食品容器。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれか1記載の容器が発泡構造である合成樹脂製食品容器。
【請求項6】 発泡倍率が1.1〜3倍、単位厚さ当たりの平均気泡膜数が1〜50個/mm及び厚みが0.1〜3mmから選ばれる1以上の要件を具備する請求項5記載の合成樹脂製食品容器。
【請求項7】 請求項1〜6のいずれか1記載の容器を容器本体部とし、前記容器本体と嵌合できる蓋部とを備えた合成樹脂製食品容器。 【請求項8】 蓋部が、ヘーズが10以下で、かつJIS K7105に準拠して測定される写像鮮明度が30%以上のものである請求項7記載の合成樹脂製容器。
3 本件決定の理由 本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、@訂正請求に係る訂正は、特許法120条の4第2項、同条3項で準用する同法126条2項、3項の規定に適合するので、当該訂正を認めるとし、A本件発明1〜8の要旨を訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜8記載のとおり認定した上、本件発明1〜8は、特公平5-75012号公報(以下「引用例1」といい、そこに記載された発明を「引用例発明」という。)、平成10年3月24日出願公開に係る特開平10-76565号公報(以下「引用例2」という。)、特開昭55-161837号公報(以下「引用例3」という。)、特公平4-11582号公報(以下「引用例4」という。)及び特開平9-249242号公報(以下「引用例5」という。)にそれぞれ記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、同法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものであるとした。
当事者の主張
1 原告 (1) 本件決定の理由中、訂正請求の許否についての判断、本件発明1〜8の要旨の認定、引用例1〜5の各記載事項の認定は認める。
本件決定は、本件発明1〜8と引用例発明との一致点の認定を誤った結果、本件発明1〜8が引用例1〜5に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
(2) 本件決定取消事由(一致点の認定の誤り) 本件決定は、本件発明1と引用例発明との対比に当たり、訂正明細書(甲第10号証)の「原料となる樹脂組成物に含有される(A)成分のスチレン系樹脂と(B)成分の熱可塑性樹脂が両連続相を形成していること。ここで『シートにおいて(A)成分と(B)成分が両連続相を形成している』とは、シートのMD方向及びTD方向のいずれの方向においても、(A)成分の樹脂相と(B)成分の樹脂相が、粒子や繊維状のような互いに独立した状態で存在しているのではなく、両相が網目状に互いに連なった状態で混在した相構造を形成していることを意味するものである」(【0024】項)との記載を引用した(決定謄本7頁35行目〜8頁4行目)上、
「この両連続相が形成された状態とは、単にブレンドした状態ではなく、両相の界面張力が減少し微細分散した状態、すなわちポリマーが相溶化した状態を指すものと理解できる・・・そうすると、引用例1記載の混合物も相分離を起こさず二種の樹脂が良く混じりあった状態であると解される・・・から、両者における二種の樹脂の混合状態は同様の状態にあるということができる」(同8頁4行目〜9行目)と認定し、この認定を前提として、本件発明1と引用例発明とが「スチレン系樹脂及び融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシートを成形してなる合成樹脂製食品容器」(同頁21行目〜23行目)である点で一致すると認定した。
また、本件発明2に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2は本件発明1に係る同請求項1の記載を、本件発明3に係る同請求項3は同請求項1又は2を、本件発明4に係る同請求項4は同請求項1〜3のいずれか一つを、本件発明5に係る同請求項5は同請求項1〜4のいずれか一つを、本件発明6に係る同請求項6は同請求項5を、本件発明7に係る同請求項7は同請求項1〜6のいずれか一つを、本件発明8に係る同請求項8は同請求項7を、それぞれ引用するところ、本件決定は、本件発明2〜8と引用例発明とが、それぞれ、上記本件発明1と引用例発明との一致点と同一の点において一致すると認定した。
しかしながら、本件決定が、引用例発明における二種の樹脂の混合状態は本件発明1における二種の樹脂の混合状態と同様の状態であると認定したことは誤りであり、この認定を前提とする上記本件発明1と引用例発明との一致点の認定も誤りである。さらに、本件決定がした本件発明2〜8と引用例発明との各一致点の認定についても、これと同様の誤りがある。
上記のとおり本件発明1〜8と引用例発明との各一致点の認定を誤った瑕疵が、本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2 被告 本件決定が、引用例発明における二種の樹脂の混合状態は本件発明1における二種の樹脂の混合状態と同様の状態であると認定したことが誤りであり、この事実誤認の結果、本件発明1と引用例発明との上記一致点の認定を誤ったこと、本件決定の本件発明2〜8と引用例発明との各一致点の認定についても同様の誤りがあることは認める。
当裁判所の判断
1 本件決定取消事由(一致点の認定の誤り)について 引用例発明における二種の樹脂の混合状態が本件発明1における二種の樹脂の混合状態と同様の状態であるとした本件決定の認定が誤りであって、その結果、
本件決定がした、本件発明1と引用例発明とが「スチレン系樹脂及び融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシートを成形してなる合成樹脂製食品容器」(決定謄本8頁21行目〜23行目)である点で一致するとした認定も誤りであること、また、本件発明2〜8と引用例発明との各一致点の認定についても同様の誤りがあることは当事者間に争いがない。
そして、この誤りが、本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件決定は、瑕疵があるものとして、取消しを免れない。
2 よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利