審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成13ネ2382損害賠償請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成12ネ3014特許権侵害差止等請求控訴事件 平成12ネ3015特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 製造方法 / 加工方法 / 公知技術 / 技術的範囲 / 対象製品 / 技術的意義 / 均等 / 均等侵害 / 置き換え / 置換 / 同一の作用効果 / 置換容易性 / 容易に想到(容易想到性) / 意識的除外(意識的に除外) / 不存在 / 特許発明 / 実施 / 先使用権(先使用) / 加工 / 構成要件 / 方法の使用 / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 実施権 / 通常実施権 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
12年
(ネ)
2290号
差止請求権不存在確認等差止請求等請求控訴,同附帯控訴事件
平成 12年 (ネ) 4067号 差止請求権不存在確認等差止請求等請求控訴,同附帯控訴事件 |
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控訴人・附帯被控訴人(被告・反訴原告) 近畿車輛株式会社 同訴訟代理人弁護士 三山峻司 同 室谷和彦 同補佐人弁理士 福島三雄 被控訴人・附帯控訴人(原告・反訴被告) 日本フネン株式会社 同訴訟代理人弁護士 田倉整 同 内藤義三 同補佐人弁理士 田村公總 |
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裁判所 | 大阪高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/10/02 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴,附帯控訴をいずれも棄却する。 2 附帯控訴人の当審追加請求を棄却する。 3 控訴費用,附帯控訴費用は,控訴提起にかかる手数料を控訴人の,附帯控訴提起にかかる手数料を附帯控訴人の各負担とし,その余の費用を2分し,その1を控訴人・附帯被控訴人の負担とし,その余を被控訴人・附帯控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨 (1) 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 (2) 被控訴人は,原判決添付別紙被告ロ号方法目録(以下「別紙被告ロ号方法目録」という。)記載の方法を使用してはならない。 (3) 被控訴人は,別紙被告ロ号方法目録記載の方法を使用した採光窓付き鋼製ドアを生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。 (4) 被控訴人は,控訴人に対して金1億7363万円及びこれに対する平成11年11月19日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 2 附帯控訴の趣旨 (1) 原判決中,附帯控訴人敗訴部分を取り消す。 (2) 附帯被控訴人は,附帯控訴人が原判決添付別紙原告ロ号方法目録(以下「別紙原告ロ号方法目録」という。)記載の方法で鋼製ドアを製造すること及び別紙原告ロ号物件目録記載の鋼製ドアを製造,販売することを妨害してはならない。 (3) 附帯被控訴人は,附帯控訴人に対して金100万円を支払え。 |
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事案の概要
(争いのない事実) 1 控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。 発明の名称 採光窓付き鋼製ドアの製造方法 出 願 昭和63年7月20日 (特願昭63-180682号) 公 開 平成2年2月1日 (特開平2-30877号) 公 告 平成5年6月30日 (特公平5-43037号) 登 録 平成6年8月8日 登録番号 特許第1861289号 2 本件特許権の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲中の請求項1の記載は,原判決添付の特許公報の該当欄記載のとおりである(以下,請求項1に記載された特許発明を「本件発明」という。)。 3 本件発明の特許請求の範囲は,次のとおり分説するのが相当である。 A 採光窓部の絞り線のコーナー半径が絞り加工によってほぼ20o以下に形成される両面フラッシュドアにおいて, B 前面と背面パネルの少なくともいずれか一方の採光窓部の絞り線より内側にパネル板厚のほぼ8倍以上のフランジ代を残した開口を設け, C 該開口の各コーナー部に前記絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となる隅フランジ代を,先端に丸味を備えた切れ目または切り欠きによって形成し, D 上記構成の両パネルを絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ, E フランジ代が折り曲げられた両パネルをドア枠体と採光窓とに接着剤その他の手段を用いて固着し, F 両パネルと一体化された採光窓枠に採光用窓ガラスを挿入して保持させたことを特徴とする G 採光窓付き鋼製ドアの製造方法。 4 被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)は,約0.6oの板厚の鋼板を用い,採光窓部のコーナー部の折曲線1のコーナー半径を約5.9oにした採光窓付き鋼製ドアを製造しているが,平成10年4月ころから,別紙原告ロ号方法目録記載の製造方法で,当該ドアを製造している(d4工程を控訴人が否認するほか,その内容が同目録記載のとおりであること,すなわち,別紙被告ロ号方法目録記載の方法のとおりであることについて,当事者間に争いがない。以下,その製造方法を「ロ号方法」という。)。 5 ロ号方法の構成aは本件発明の構成要件Aを,Bはbを,Eはeを,fはF及びGをそれぞれ充足する。 (当事者の請求) 1 被控訴人は,控訴人に対し,別紙原告ロ号方法目録記載のロ号方法を使用して鋼製ドアを製造し,販売することは,本件特許権を侵害するものではないことを理由に,不正競争防止法2条1項13号,3条1項等に基づき,虚偽陳述流布及び業務妨害行為の差止めを求めるとともに,損害賠償(当審追加)を求めている(本訴請求)。 2 控訴人は,被控訴人に対し,被控訴人が,別紙被告ロ号方法目録記載のロ号方法を使用して鋼製ドアを製造し,販売することは本件特許権を侵害するとして,その方法の使用及びその方法に基づく製品の生産,譲渡等の差止めを求めるとともに,損害賠償を求めている(反訴請求)。 |
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争点
(本訴,反訴共通) 1 ロ号方法の内容 d4工程の存否 2 ロ号方法は,構成要件Cを充足するか。 ロ号方法は,「先端に丸味を備えた切り欠き」を備えているか。 3 ロ号方法は,構成要件Dを充足するか。 ロ号方法は,「絞り加工」を行っているか。 4 ロ号方法は,本件発明と均等か。 5 被控訴人は先使用に基づく通常実施権を有するか。 (本訴) 6 控訴人は,不正競争防止法2条1項13号所定の行為をするおそれがあり,被控訴人の業務を妨害するおそれがあるか。 7 被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求の可否,損害額 (反訴) 8 控訴人の損害額 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点1(ロ号方法の内容)について 原判決別紙「事実及び理由」中の5頁14行目から同末行までに記載のとおりであるから,これを引用する。 2 争点2(構成要件C充足性)について 次に当事者の当審主張を付加するほか,原判決別紙「事実及び理由」中の8頁1行目から11頁14行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。 (控訴人の主張) (1) 本件鋼製ドアを製造,販売する多くの当業者(当事者双方を含む。)が加入している当業者団体である社団法人日本サッシ協会は,乙5において,統一用語として「切り欠き」を「材料に他材を取り付けるために材料の縁又は中間部に加工した欠損部。」と明確に定義しており,同定義は,当業者が通常使用する意味(特許法施行規則24条,様式29,備考7,8及び14イ参照)を判断する上において,最重要視すべきである。これによれば,ロ号方法の丸穴4は,「中間部に加工した欠損部」に当たり,「切り欠き」に相当する。 (2) ロ号方法の「丸穴4の周縁と開口のコーナー角6との間(ニ)」(以下「切り残し部」ということがある。)は,技術的な意味がなく,何ら優れた効果を奏するものではない。 被控訴人出願の平成10年特許願第092485号・特許第2857389号(以下「フネン特許」という。)の明細書に記載の効果は虚偽で,切り残し部を設けたことにより,ロ号方法の丸穴4の内側(W1の部分),すなわちロ号方法のコーナー折曲線1のコーナーの曲線部中央3から円形の丸穴4周縁までの最短距離(ホ)に相当する部分(以下「隅フランジ代」ということがある。)の破断を防止できたとの効果を発揮していない。 被控訴人は,従来の工法を,入り隅部の穴を2.3φに変更し窓開口部の角穴と連続させない(切り残し部を設けた)工法に変更して,試験した結果,従来,製品として問題なかったのに,隅部の割れが穴を越えて発生したのであり,フネン特許の出願前からこれを認識していたことになる(乙18の1〜3,33の1〜3,40)。 金型は,ロ号方法の丸穴4の外側にも内側にも同時に当接しながら,極めて大きな力で押し込まれるのであるから,切り残し部があっても隅フランジ代に作用する引張応力が少なくなるということはあり得ない。したがって,これによって隅フランジ代の破断を防止するということもない。 むしろ,丈夫な切り残し部があると,破断したときに衝撃応力が発生し,それによって隅フランジ代に割れが発生し易くなる。 控訴人の行った確認試験の結果,破断を阻止できるとの効果の全くないことが明らかとなった(乙64)。 (3) 本件明細書の記載(甲2の特許公報の記載による。以下同じ。)によると,「切れ目12の先端部には,背面パネル2を絞り線8に沿って絞ったときに,切れ目12の延長線上の隅フランジ代11に板割れが発生しないようにするため,小径の丸穴13が設けられている」(5欄36〜40行)のであり,「この絞り加工を受けた背面パネル2では,各フランジ代10に設けられた切れ目12は内側に向かって広がるV字状となるから,採光窓部7は各コーナー部への応力集中が緩和され,歪が発生しないきれいな美感を呈する。」(6欄4〜9行),「また切れ目12の先端に設けた丸穴13は,絞り加工によって切れ目12がV字状に拡げられたときに,切れ目12の延長線上の隅フランジ代11に板割れが発生するのを効果的に防止するから,採光窓部7は,背面パネル2側だけでなく,各フランジ代10側の美感をも良くする」(6欄9〜15行)のであって,本件発明は,絞り加工時に隅フランジ代が板厚のほぼ8倍以下であることを確保するために「切れ目または切り欠き」を形成し,その先端に丸みを形成しているところ,「切れ目または切り欠き」は,絞り加工時にV字状に広がる部分を,絞り加工,つまりパネルが直角に曲げられるのに先立って切り離していることに意義を有しているにすぎず,「切れ目または切り欠き」は隅フランジ代を形成するための手段にすぎない。 そして,本件発明において「絞り加工」というのは,「絞り加工されるパネルの開口部コーナーに歪や板割れが発生」(2欄9〜10行)するほどの加工であり,「絞り加工によって…絞り線4の内側の…フランジ代5を前面パネル1と直角をなす方向に折り曲げる」(5欄12〜15行)と説明されているとおり,コーナーを含むフランジ代をパネルと直角をなす方向に折り曲げることを意味する。 したがって,「切れ目または切り欠き」は,コーナーを含むフランジ代をパネルと直角をなす方向に折り曲げる「絞り加工」の際にV字状に広がり得るように形成されておれば足りる。 さらに,本件発明において「絞り加工」は,コーナーを含むフランジ代をパネルと直角に折り曲げる段階を意味しているのであるから,直角になる以前の折り曲げの初期の段階は,未だ「絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ」ている加工に該当しない。 このことは,各証拠において絞り加工を説明する図がいずれも直角にまで深く折り曲げた状態を「絞り加工」の状態として説明していること,本件明細書に,「絞り加工されるパネルの開口部コーナーに歪や板割れが発生」(2欄9〜10行目)と説明されていること,「絞り加工によって…内側に絞り」(5欄12〜13行目)と記載され,「絞り加工を施し,…内側に直角に折り曲げる」(6欄2〜4行)と記載されていることとも合致するものである。 ロ号方法における「折り曲げ」は,「絞り加工」を含む工程ではあるが,「折り曲げ」る工程全部が「絞り加工」ではない。 また,ロ号方法においては,「切り残し部」は,わざわざ容易に切れるように製作されているのであり,「絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ」る前のごく初期の段階に破断している。 したがって,ロ号方法は,「パネル板厚のほぼ8倍以下となる隅フランジ代を,先端に丸味を備えた切れ目によって形成し」た後に,「絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ」ているのであり,本件発明の構成をそのまま具備している。 (被控訴人の主張) (1) 先端に丸みを備えた「切れ目または切り欠き」を設けたのは,歪みが少なく,かつ簡単に絞り加工できるためであり,先端に丸みを帯びさせたのは,この部分が尖っていると,そこから更にひび割れするおそれがあるからである。 (2) ロ号方法は,コーナー折曲線1のコーナーから約7.6o幅のフランジ代(ロ)を設けており,その幅が板厚約0.6oの約12.7倍であるから,「板厚のほぼ8倍以下となる隅フランジ代」の要件を充足しない。 ロ号方法は,「切り欠き」を設けていないので,四隅の折り曲げによって大きな歪みが発生し,その歪みにより切り残し部は破断する。 (3) タレットパンチプレス機は,設置する金型等の制約により小型の加工に適するもので,大きく加工することは不得手である。 甲95の「NCTパンチングテクニカルガイド」図1に示された形状の場合,直角近くに曲げるには「ロング金型」でも最大5oとされている。 乙55では,ロ号に相当する図7の場合,直線部分のフランジ代は7.9oであるから,板厚0.6oを加えれば8.5oとなり,これをはるかに超過している。さらにコーナ部分では,コーナから角の所まで8.8oであるから,前同様9.4oとなる。 図8,図9,図11,図12に至っては,直線部分だけでもフランジ代は,9o,9.7o,8.7o,9.4oであって,板厚を考えれば10oを超えるものがほとんどである。コーナ部分は更にそれより長い。 このようなものをタレットパンチプレス機で無理にプレスして直角近くまで折り曲げようとすれば,切り残し部の有無にかかわらず,同じように悪いという結果が出るのはむしろ当然である。 乙64は,「切り欠き」について,隅の奥に発生する歪み(割れ目)の点では有利な条件で実験しているので,切り残し部の有無にかかわらず,そのような歪みの出ないことが当然なのである。 したがって,いずれも「丸穴」と「切り欠き」に差があるか否かの参考にならない。 3 争点3(構成要件D充足性)について 次に当事者の当審主張を付加するほか,原判決別紙「事実及び理由」中の6頁2行目から7頁21行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。 (控訴人の主張) (1) 本件発明は,「絞り加工」を行う機械の種類を何ら限定していない。油圧プレス機であろうとメガプレス機であろうと,採光窓部コーナーの絞り加工ができるからである。 また,本件発明は,加工時間を何ら限定していない。ゆっくり加工しても高速で加工しても,採光窓部コーナーの絞り加工ができるからである。 本件発明は,採光窓部の加工を一体型で加工するのか分割型で加工するのか何ら限定していない。いずれの種類の金型でも採光窓部コーナーの絞り加工ができるからである。 本件発明は,パネルを成型するに際し,隅フランジ代コーナーの絞り線の部分を中心に隅フランジ代部分において,三面直交曲げの状態になり,材料の表裏面に伸び縮みが発生する。このような表面材の弾力性(伸び・縮み)が生じる状況がまさに絞りなのである。 (被控訴人の主張) (1) 本件明細書には「絞り加工」の手段,概念について具体的な説明がないので,学術用語として説明されているところと解すべきであり,「曲げ加工が単純な加工様式であるのに対して,素板の周辺を押さえて中央部に工具を押しつけ,材料を下部工具孔に引き込み,立体的な形状に形作る加工法」であって,「部分的には,伸び,縮み,曲げ,せん断などの変形に移動が加わるためきわめて複雑な加工法」であり,「これは一般に立体形状部の肉厚低減を防ぐため周辺部から材料流入を計ることと加工様式の直観性から,絞り加工と呼ばれている。」もの(甲9)と解する他はない。 本件発明は,「絞り加工によって形成される採光窓部の各コーナー部に応力の集中による歪みや板割れの発生するのを防止して,美感の優れた採光窓付きドアをきわめて容易に作る」(8欄16〜20行)のであるから,せっかく切り欠きによって歪みをある程度低下させても,肝腎の折り曲げ手段が歪みの多い手段であってはその意味がなくなるため,折り曲げ手段も絞り加工に限定したものである。 その趣旨からすれば,ここでいう「絞り加工」は,歪みの発生の少ない,すなわち材料の流入を計ることによって歪みの発生を押さえた手段であるというべきである。 そして,「絞り加工」によって折り曲げるのは四隅のコーナー部だけではなく,絞り線すなわち全周にわたってであり,四隅と直線部分を全く区別していない。このことは,「絞り加工」が,余裕のある所から足りない所に材料を融通することによって歪みをなくそうという技術であるから,局部的に分割して曲げるのでは,材料の融通により歪みをなくすという目的を達成できないことと対応している。 (2) ロ号方法d1の「前記パネルを,開口長手方向に移動させつつタレットパンチプレス機で少しずつ数百回にわたってプレスして,長手折曲線2の部分で内側にほぼ直角になるまで折り曲げ」る工程は,純然たるプレスによる曲げ加工であり,「絞り加工」の要素はない。 次いで,d2の「前記パネルを,該プレス機でプレスして,コーナー折曲線1及び短手方向にある直線部分の折曲線5の部分で内側にほぼ直角になるまで折り曲げ」る工程があり,直線部とコーナー部を別々に曲げ加工で処理している。 このd2工程のみを分離して「絞り加工」ということはできない。 ロ号方法は,「切り欠き」がないために,d2工程で生じる歪みは大きく,そのため,d3工程で「円形の丸穴4の周縁と開口のコーナー角の間(ニ)は,同d2工程の過程で破断」するのであり,この破断は,この箇所の材料が薄くなり過ぎ,外側から材料の流入が得られないために起こる現象である。 歪みを出さないために「切り欠き」を設けるのと,歪みが大きく出たから破断箇所ができるのとでは,全く逆であり,本件発明が製造工程を対象とする発明であることを考慮すれば,到底同視できるような性質のものではない。 d4の「前記d1,d2工程で生じたコーナー折曲線1の近傍付近(図示)に生じた波打ち状歪みをハンマー(手加工)によって矯正」するのは,d2工程で生じた歪みであるが,それだけではなく,両パネルの表面側に出る緩やかな歪みをも指している。 以上のとおり,ロ号方法のタレットパンチプレス機による折り曲げ方法は,局所的に叩いて曲げることを繰り返して全体を加工するもので,その曲げの際に生じる材料の不足を外部から流入させる手段は一切講じられていない。 したがって,構成要件Dの「上記構成の両パネルを絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ,」の要件を充足しない。 4 争点4(均等)について 次に当事者の当審主張を付加するほか,原判決別紙「事実及び理由」中の11頁16行目から13頁末行までに記載のとおりであるから,これを引用する。 (控訴人の主張) (1) 本件発明は,両面フラッシュドアの採光窓であること及びコーナー半径が20o程度以下に形成されることを前提となる重要な構成要件とした点に第1の本質的特徴を有しており,その前提のもとに,さらに「コーナー部に絞り線のコーナーの曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となる隅フランジ代を形成する」との点に第2の本質的特徴がある。 コーナー半径がほぼ20o以下の採光窓付き鋼製ドアにおいて,隅フランジ代を板厚のほぼ8倍以下とすることによって,「折り曲げ代gの両端を切り欠いた部分が表面板eの外側から見えて採光窓付きドアの美感を著しく損なう」という問題(3欄16〜18行)がなくなり,しかも,「開口部cの各コーナー部を,表面板eから外側に突出する飾り縁兼用のガラス押え部材を用いて外側から見えないようにしなければならない」という問題(3欄21〜24行)を解決したのであり,「ほぼ8倍以下」という数値は,上記課題を解決するため,隅フランジ代を残しながら,しかも,コーナー半径がほぼ20o以下の採光窓付き鋼製ドアを製造することができる臨界的あるいは限界的意義を有するのである。 本件発明は,「開口の各コーナー部に形成した隅フランジ代が,絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離をパネル板厚のほぼ8倍以下となるように形成していることにより,絞り加工が容易であるとともに絞り加工によっても歪みが生じないようにすることができ,部材のすきまや板歪みの発生し易いコーナー部に合わせ目がなく歪みのない鋼製ドアを工程数少なく提供できた。しかも,隅フランジ代を形成していることにより,絞り加工したとき,折り曲げ代の両端に切欠部分が露出せず,防火戸として使用し得る鋼製ドアを提供できた」(8欄38行〜9欄5行)のであり,以上4つの効果を合わせて発揮し得る隅フランジ代の最大大きさが板厚のほぼ8倍であるという臨界的意義を有するのである。 本件発明において,隅フランジ代をできるだけ大きくしておきたいことは,従来技術の説明等から当業者に明らかなことであり,隅フランジ代の最大大きさが開示されたことにより,「採光窓部の絞り線のコーナー半径がほぼ20o以下に形成される両面フラッシュドア」に要求される明細書記載の前記効果を有するドアを安定して量産することができる技術を提供することができたのである。 (2) 仮に,ロ号方法が本件発明の文言上の侵害に該当しないとしても,ロ号方法においては,切り残し部をわざわざ切れ易いようにして残しておき,折り曲げ加工のごく初期の段階において切り離しているにすぎず,隅フランジ代よりはるかに内側に位置する切り残し部が折り曲げ加工の際に極めて容易に破断することは当業者が容易に想到し得ることであり,切り残し部を残したことに技術的意義はなく,本件発明の本質的特徴と同一の特徴を有するのであり,作用効果においても同一であるから,ロ号方法は本件発明と均等であり,均等侵害が成立する。 (被控訴人の主張) (1) 本件発明は,従来,ドア以外の分野で常用されていた,長方形形状のもののフランジ立てを絞り加工技術で製造する方法に関するものであり,その際,歪みを減少させるために「切り欠き」を予め設定しておくこと,かつ,その「切り欠き」の寸法を一定の範囲(常識的な範囲)に限定したものである。 甲16には4辺にフランジ代を立てたものが,予め切り欠きを設けることにより絞り加工で成型可能であることが図示され(第6図),甲17には自動車用の部品について同様の技術が開示され,甲20には自動車のルーフパネルについての同様の成型方法が開示され,甲94にはトースタの扉について同様の技術が開示され,板厚の「ほぼ8倍以下」についても,甲19の第4図,第6図に図示された切り欠きは,「ほぼ8倍以下」に含まれるものを示しており,同様に甲94のトースタの扉についても,トースタの扉として常識的な寸法を想定すれば,その第4図に図示されたものは,上記数値範囲に含まれている。 本件発明のような形状のものにつき,切り欠きを設け,絞り加工で加工することは,他の分野では常用されていた技術であるのに,ドアの分野であまり行われてこなかった理由は,窓付きフラッシュドアが,需要家の好みによって多様化されているので,寸法に応じて種々な大きさのプレス機を用意しておかねばならず,製造設備が膨大にならざるを得ないためであり,従来試みられていた方法こそ,目的寸法に合わせた大型金型を使用した絞り加工による成型方法に他ならない(甲110)。 主たる業務が鉄道車両用であり,2000tもの大型プレスを擁していた控訴人において,絞り加工の技術で美感に優れたフラッシュドアを製造する本件発明を開発したのに対し,地方の中規模,後進企業である被控訴人においては,巨大な製造設備を構える訳にはいかず,甲110と同様の発想に基づきタレットパンチプレス機による部分折り曲げの積み重ねという手段により,各種の寸法のものも1台のプレス機,2台(直線部と両端部)の金型ですべて成型可能な手段を新規開発したのである。 (2) 「ほぼ8倍以下」というのは,フランジ代全体の幅が板厚のほぼ8倍以上であるのに対して,四隅のコーナー部をそれより狭くほぼ8倍以下にすること,言い換えればコーナー部には「切り欠き」があるため,その分だけフランジ代の幅が短くなっていることを意味している。 「ほぼ8倍以下」について臨界的意義がある場合は,「ほぼ8倍以下」について,9倍程度では歪みが大きかったが,8・5倍ぐらいから急速に低下を開始し,8倍ぐらいから絶無に近づいたというような,変化点が必要であって,少なければ少ないほど歪みが少なく,大であれば大であるほど歪みが多くなる(当業者の常識である。)という単調増加,単調減少では足りない。 控訴人側試験データをプロットしたものを見ても,データ点自体は単調減少であり,どの点から急激に変化が表れたという傾向はうかがえない。 臨界的意義があるというのであれば,明細書にその旨の説明があって当然であるが,明細書には何らその点についての具体的な開示がない。 すなわち,「ほぼ8倍以上」について,7倍では駄目だが8倍ならよいという実験データ,「ほぼ8倍以下」について,9倍では駄目だが8倍ならよいという実験データが明細書に記載される等して,その上でその意義が説明されるのが当然であるが,そのような記載が全くないということは,当業者の常識に照らして適当と考えた数値が記載されたにすぎないということである。 (3) 甲94は,松下電器産業株式会社のトースターの扉に関する昭和63年公開の公開公報であり,本件ドア同様ガラス窓を装着するものであるが,その第4図に示された形状は,トースターの扉であることを考慮すれば,コーナー半径がほぼ20o以下と推定でき,「コーナー半径がほぼ20o以下」ということ自体は,条件としてそれほど過酷ではなく,臨界的意義を認めることはできない。 (4) 置換容易性の主張立証は全くされていない。 切り欠きに変えて丸穴を用いた公知例,周知例は,1件もないのであって,置換容易でない。 5 争点5(先使用)について 原判決別紙「事実及び理由」中の14頁2行目から同18行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。 6 争点6(不正競争,業務妨害)について 次に当事者の当審主張を付加するほか,原判決別紙「事実及び理由」中の14頁20行目から15頁10行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。 (被控訴人の主張) 控訴人は,ロ号方法以前のイ号方法で製造した物を対象とした仮処分決定(大阪地方裁判所平成9年(ヨ)第2741号)に基づく執行の際,その決定文の内容と異なるロ号方法で製造した物についても執行するよう執行官に指示し,当該物についても執行させ,現在でも,ロ号方法が本件特許権を侵害しているという態度を全く変えていない。 被控訴人は,ロ号方法による製造がこれ以上妨害されないように,製造販売妨害差止めの仮処分(大阪地方裁判所平成10年(ヨ)第1323号)を求め,ロ号方法,ロ号物件について本案判決がなされるまでの暫定処理として,取りあえず前記イ号の仮処分決定に基づいてロ号を更に執行することはしないこととしたらどうかという提案があり,双方それを受諾し、和解が成立したにすぎない。その和解条項第1条は,「債務者は別紙暫定物件目録(ロ号物件の主要部写真)記載の物件に対して,大阪地方裁判所平成9年(ヨ)第2741号仮処分申立事件の仮処分決定に基づく点検執行その他同決定に基づく執行手続を申立てない。」というだけのものであり,それ以外の態様による行動は一切規制されておらず,同第2条は,「債権者と債務者は,本件和解は暫定的なものであって,当事者双方の権利義務に何らの影響を与えるものではないことを相互に確認する。」と,その暫定性が極めて明瞭に強調されている。 控訴人は,ロ号方法によって製造されたロ号物件についても強制執行をなし,原判決で実質上控訴人敗訴の本案判決が出された後である現在でも,執行されたロ号物件は執行官の保管のままである。 被控訴人がロ号方法によりロ号物件を製造し,それを需要者に販売している状況下において,現にロ号物件が強制執行により執行官保管のまま保管されている(被控訴人会社内に執行官保管の公示を付したまま保管されている)という事実は,被控訴人の営業活動にとって大きなマイナスであり,被控訴人にとって不利益な状態が継続しており,執行された当該ロ号物件を適当に処分する機会を失ったという意味でも,明らかな損害である。 イ号方法の使用の差止めを求めた仮処分決定に基づいて,ロ号方法で製造した物件について執行することが許されないことは,手続上当然であり,手続上許されないことをしないという上記平成10年(ヨ)第1323号製造販売妨害差止仮処分事件における和解が成立しただけでロ号方法に対する妨害行為のおそれはなくならず,前記執行手続以外の方法での妨害行為が当然予想される。 7 争点7(被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求の可否,損害額)について (被控訴人の主張) 控訴人は,イ号方法で製造した物を対象とした仮処分決定(大阪地方裁判所平成9年(ヨ)第2741号)に基づく執行の際,その決定文の内容とは異なるロ号方法で製造した物についても執行するよう執行官に指示し,当該物についても執行させる等,ロ号方法による製造行為や,製造した物についての販売行為に対する妨害行為をしているところ,前記執行されたロ号物件の単価は4万円弱であり,同物件は経年劣化により,商品価値を失った。 さらに,ロ号が執行されたままの状態であることによる,従業員を含めた心理的マイナス面と労働への影響,和解による製造の手控え,この事態打開のための弁護士,弁理士への相談及び解決依頼等の費用,損失等々有形無形の損失は莫大である。 それらを金銭的に評価すれば,少なくとも金100万円以上となることは明らかである。 8 争点8(控訴人の損害額)について 原判決別紙「事実及び理由」中の15頁12行目から16頁1行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,15頁21行目の「原告」を「控訴人」と改める。 |
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争点に対する判断
1 争点1(ロ号方法の内容)について 前記のとおり,ロ号方法が別紙原告ロ号方法目録と別紙被告ロ号方法目録記載のとおりであることについては,d4工程を除き,当事者間に争いがなく,甲21の1,91によれば,d4工程のあることが認められる。 2 争点2(構成要件C充足性)について (1) 構成要件Cの「切り欠き」の意義について,本件明細書においてこれを一般的に定義した記載はなく,実施例として,「第1図ないし第6図において,・・(中略)・・背面パネル2の絞り線8の各コーナーの曲線部分中央から開口9の各コーナーに向かう隅フランジ代11の最短距離をパネル板厚のほぼ8倍以下となるようにする切れ目12が,開口9の各コーナーから絞り線8の各コーナーの曲線部分中央に向けて設けられている。切れ目12の先端部には,背面パネル2を絞り線8に沿って絞ったときに,切れ目12の延長線上の隅フランジ代11に板割れが発生しないようにするため,小径の丸穴13が設けられている。」(4欄44行〜5欄40行),「第9図はこの発明の他の実施例を示すもので,・・(中略)・・開口9のコーナーから採光窓部の絞り線8の各コーナーの曲線部分中央の方向に向けて垂直線より45度程度傾斜させた方向に一定幅,例えば,3o程度の切り欠き23を設け,隅フランジ代11がパネル板厚のほぼ8倍以下となるようにすればよい。第10図はこの発明のさらに他の実施例を示すもので,・・(中略)・・背面パネル2の開口9の各コーナー部に隅フランジ代11がパネル板厚のほぼ8倍以下となる先端に丸味を備えた直角三角形状の切り欠き23aを設ければよい。」(7欄24〜44行)として,背面パネル2に設けられた隅フランジ代11を形成する方法として開口9に連通した各コーナー部の一部の縁を切り取り形成した形状のものが記載されているにとどまる。 このような本件明細書の記載からすると,少なくとも,本件発明の「切り欠き」に材料の一部の縁を切り取った形状のものが含まれることは明らかであるが,その他にどのようなものが本件発明の「切り欠き」に含まれるか,特に「円形の丸穴4」、すなわち、材料の中間部に打ち抜かれた貫通孔(透孔)という形状のもの(ロ号方法の構成c参照)が本件発明の「切り欠き」に含まれるか否かは,本件明細書の記載からは直ちに明らかとはならない。 また,鋼製ドアの製造分野における当業者が「切り欠き」の用語をどのような意味で使用するのが一般的であるかを検討してみても,材料の縁を切り取った形状のものだけを「切り欠き」と呼び,したがって「円形の丸穴4」は含まれないかのように解される文献(甲6の1,10,17,19,24,25)がある一方で,特に機械や構造物の材料の強度に関連する分野等では,材料の縁でない部分を切り取った形状のものも「切り欠き」と呼び,したがって「円形の丸穴4」を含むかのように解し得る文献もあり(乙5,6,25ないし32),当業者が通常使用する意味(特許法施行規則24条,様式29,備考7,8及び14イ参照)からこれを判断することも困難である。 (2) 本件発明は,従来の技術として「採光窓部のコーナー半径が20o程度以下になると,絞り加工されるパネルの開口部コーナーに歪や板割れが発生し,ドアの美感を損なうことが知られている。このため,従来の採光窓付き鋼製ドアは,例えば,次の2通りの方法により製造されていた。第1の方法は,・・(中略)・・一方の表面板eの開口部cの各折り曲げ線fの内側に,開口部cの各コーナーから両端部がそれぞれ設定された寸法L,Mだけ切り欠かれた折り曲げ代gを形成し,この折り曲げ代gをL字状に折り曲げ,その各折り曲げ先端部g1を枠体aに貼着されている他方の表面板dの内面に当接して溶接により一体に形成し,採光窓付き鋼製ドアが製造されていた(例えば,実開昭57-77478号公報参照)。また,第2の方法は,・・(中略)・・表裏パネルAをそれぞれ採光窓開口部Bを形成する各辺に平行な線によって4つのパネル片A1〜A4に分割し,分割された各パネル片A1〜A4の上下,または左右を同じ方向に折り曲げ,折り曲げられた2つのパネル片A1,A2を開口部Bの幅寸法だけ隔てて図示しない枠体に接着その他の手段により固着し,残りのパネル片A3,A4を固着されたパネル片A1,A2の上下両端に挿入して枠体とパネル片A1,A2の両方に接着その他の手段で固着することにより,採光窓付き鋼製ドアの構造が行なわれていた」(2欄8行〜3欄10行)が,「従来の技術で述べたもののうち前者の方法においては,表面板eの開口部cの各折り曲げ代gを内側に折り曲げても,開口部cの各コーナーの表面板eに歪みや板割れは発生しないが,開口部cに採光用窓ガラスを装着する場合,各折り曲げ代gの両端を切り欠いた部分が表面板eの外観から見えて採光窓付きドアの美観を著しく損なうだけでなく,乙種防火戸に要求される要件をも満たすことができなくなるから,開口部cの周辺,少なくとも切り欠き部分が外側から見える開口部cの各コーナー部を,表面板eから外側に突出する飾り縁兼用のガラス押え部材を用いて外観から見えないようにしなければならない不都合があった。また,後者の方法においては,開口部Bの周辺は分割された各パネル片A1〜A4の折り曲げによって形成されるため,開口部Bの各コーナーの表裏パネルAに応力の集中する歪や板割れは発生しなくなるが,・・(中略)・・1枚ものの表裏パネルAを使って同じドアを作る場合に比べて,パネルの切断工数が増加するだけでなく,組み立て時においては,分割されたパネル片A1〜A4の位置決め,およびそれらの作業工数も加わるため,ドアの製造に要する費用が割高になる不都合があった。しかも,多くの工数をかけて出来上った各パネル片A1〜A4の接合面には,外部から見える接合線a〜dが発生するため,ドアの美感も損なわれる不都合があった。この発明は,従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,開口部コーナーに設けられる切り欠きや採光窓開口部に沿って区分される分割パネルの接合線が外側から見えないようにして美感を良くするとともに,乙種防火戸の要件を備え易いドアを作業工数の少ない状態で効率良く,かつ割安に作ることができる採光窓付き鋼製ドアの製造方法を提供しようとするものである」(3欄12行〜4欄7行)ところ,上記課題を解決するための手段が前記構成要件に係る特許請求の範囲記載の方法である。 上記特許請求の範囲記載の製造方法において,隅フランジ代については,「絞り加工によって歪が生じないパネル板厚のほぼ8倍以下にする」(4欄37〜38行)ものであり,「隅フランジ代を形成していることにより,絞り加工したとき,折り曲げ代の両端に切欠部分が露出せず,防火戸として使用し得る鋼製ドアを提供できた」(9欄2〜5行),「絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となるように形成していることにより,絞り加工が容易であるとともに絞り加工によっても歪みが生じないようにすることができ,部材のすきまや板歪みの発生し易いコーナー部に合わせ目がなく歪みのない鋼製ドアを工程数少なく提供できた」(8欄39行〜9欄1行)という効果があり,一方,「切れ目12の先端部には,背面パネル2を絞り線8に沿って絞ったときに,切れ目12の延長線上の隅フランジ代11に板割れが発生しないようにするため,小径の丸穴13が設けられている」(5欄36〜40行)のであり,「切れ目12の先端に設けた丸穴13は,絞り加工によって切れ目12がV字状に拡げられたときに,切れ目12の延長線上の隅フランジ代11に板割れが発生するのを効果的に防止する」(6欄9〜13行),「切れ目又は切り欠きの先端部に形成した丸味によって隅フランジ代に板割れを生じさせないから,表裏パネルの美感を損なわせなくなる」(4欄38〜41行)作用があり,次に,「絞り加工によって切れ目12がV字状に拡げられ」(6欄10〜11行)るところ,「切れ目12は内側に向かって広がるV字状となるから,採光窓部7は各コーナー部への応力集中が緩和され,歪が発生しないきれいな美感を呈する」(6欄5〜9行)のであって,以上により,「採光窓部の絞り線内側のフランジ代がパネル板厚のほぼ8倍以上となる場合に,そのフランジ代を備えたパネル開口の各コーナー部に隅フランジ代がパネル板厚のほぼ8倍以下となる先端に丸味を備えた切れ目又は切り欠きを設けているので,絞り加工によって形成される採光窓部の各コーナー部に応力の集中による歪や板割れの発生するのを防止して,美感の優れた採光窓付きドアをきわめて容易に作ることができる」(8欄11〜20行)効果があるとされている。 そうすると,「切れ目または切り欠き」は,第1に,これによって開口の各コーナーの絞り線曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となるように隅フランジ代を形成するという工程上の役割を有し,第2に,絞り加工によってV字状に広げられるから,採光窓部の各コーナー部への応力集中が緩和され,歪みが発生しないきれいな美感を呈するという作用を果たすということができる。 そして,隅フランジ代は,開口の各コーナーの絞り線の曲線部分中央から開口に向かう最短距離線上のフランジ代をいうのであるから,フランジ代がパネル板厚のほぼ8倍以上となる場合に,「切れ目または切り欠き」によって隅フランジ代をパネル板厚のほぼ8倍以下となる長さに形成するということは,必然的に,隅フランジ代が開口につながっていること,すなわち,「切れ目または切り欠き」が開口につながって存在していることを要し,また,絞り加工によって「切れ目または切り欠き」がV字状に広げられて採光窓部の各コーナー部への応力集中が緩和され歪みが発生しないきれいな美感を呈するという作用は,欠損部分が閉じた形状でなく開かれた形状,すなわち,「切れ目または切り欠き」が開口につながっているという形状において生じるものであるといえる。 したがって,構成要件C所定の「切り欠き」は,開口と連通していることを要するというべきであり,このことは,前記実施例に言及,開示されていることともよく符合する。 (3) ロ号方法においては,工程d1において折り曲げが行われる前の段階(工程c)では,0.6oの板厚の鋼板に対し,@コーナー折曲線1のコーナーの曲線部中央3から円形の丸穴4の周縁までの部分(ホ)約3.0oと,A円形の丸穴4の周縁と開口のコーナー角6との間の部分(ニ)約2.3o(ただし,同間隔は2o未満とはしない。)が存在しており,円形の丸穴4は,開口部と連通していないのであるから,円形の丸穴4は,構成要件C所定の「切り欠き」に該当しない。 (4) 乙18の1〜3,19の1・2,33の1〜3,34の1・2,40,41によると,被控訴人のした実験において,隅フランジ代の長さを3.6o,4.2o,4.8o,5.4oの4種類にてテストし,隅フランジ代に発生する板割れを防止できなかったが,隅フランジ代の長さを3o(ロ号方法と同じ長さ)にすると,歪みが少々出るものの,隅フランジ代に発生する板割れを防止できるとの結論に至ったことが認められる。同実験の結果は,それ自体,ロ号方法と同じ隅フランジ代の長さを3oとすることによって板割れを防止できることを示すにすぎず,歪みが少々出ること(構成要件C所定の「切り欠き」に該当する構成を採用していないことの結果と窺える。)は,むしろ,本件発明と同様の効果を完全には奏していないことを示しており,前記説示を左右しない。 また,上記乙18の1〜3,33の1〜3,40の実験の結果を前提にすれば,控訴人のした乙55の切り残し部がある場合とない場合との比較の実験結果の表1は,隅フランジ代の長さを3.5o(ロ号方法と違う長さ)にしたものであり,そもそも,隅フランジ代に発生する板割れを防止できない隅フランジ代の長さを3.6oに近似したケース(ロ号方法において,製造誤差又は仕様により1o前後の変化があり得るとされている。)において,板割れを防止できない点で効果の違いがないといっているにすぎず,乙64の切り残し部がある場合とない場合との比較の実験は,隅フランジ代の長さを3o(ロ号方法におけると同じ長さ)にしたものであり,そもそも,隅フランジ代に発生する板割れを防止できるケースにおいて,板割れを防止できる点で違いがないといっているにすぎず,いずれも,切り残し部がある場合とない場合との比較として意味のある実験ということはできず,前記説示を左右しない。 なお,乙55の表2によると,切り残し部がある場合は,ない場合に比較して,内倒れ及び腰折れ変形が多いという結果が出ており,むしろ,本件発明と同様の効果を完全には奏していないことを示すことになる。 (5) 控訴人は,本件発明において,「絞り加工」というのは,コーナーを含むフランジ代をパネルと直角をなす方向に折り曲げることを意味し,直角になる以前の折り曲げの初期の段階は,未だ「絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ」ている加工に該当せず,「切れ目または切り欠き」は,コーナーを含むフランジ代をパネルと直角をなす方向に折り曲げる「絞り加工」の際にV字状に広がり得るように形成されておれば足りるところ,ロ号方法においては,「切り残し部」は,わざわざ容易に切れるように製作されており,「絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ」る前のごく初期の「絞り加工」に至っていない段階で破断するから,破断した後においては,円形の丸穴4と破断箇所が一体となって本件発明と同様の効果を果たしている旨を主張する。 本件発明における「切れ目または切り欠き」は,前記のとおり,第1に,これによって開口の各コーナーの絞り線曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となるように隅フランジ代を形成するという工程上の役割を有し,第2に,絞り加工によってV字状に広げられるから,採光窓部の各コーナー部への応力集中が緩和され,歪みが発生しないきれいな美感を呈するという作用を果たすのであるから,絞り加工時にV字状に広がる部分を絞り加工に先立って切り離していることに意義を有しているにすぎないとか,隅フランジ代を形成するための手段にすぎないとかのものでなく,歪みが発生しないきれいな美感を呈するという作用を有するものであって,コーナーを含むフランジ代をパネルと直角をなす方向に折り曲げる「絞り加工」の際にV字状に広がり得るように形成されておれば足りるものでなく,控訴人の主張は,まずこの点で前提の一つを欠く。 そして,本件発明において「絞り加工」というのは,「採光窓部のコーナー半径が20o程度以下になると,絞り加工されるパネルの開口部コーナーに歪みや板割れが発生し,ドアの美感を損なうことが知られている。このため,従来の採光窓付き鋼製ドアは,例えば,次の2通りの方法により製造されていた」(2欄8〜13行)ところ,その製造法における問題点の解決を課題とした本件発明の方法における加工方法であり,「絞り加工によって…絞り線4の内側の…フランジ代5を前面パネル1と直角をなす方向に折り曲げる」(5欄12〜15行)と説明されているとおり,コーナーを含むフランジ代をパネルと直角をなす方向に折り曲げることを当然の内容とするものであるが,それ以上に,「絞り加工」が,コーナーを含むフランジ代をパネルと直角に折り曲げる段階を意味しているということはできず,最初に折り曲げる段階から直角に折り曲げる段階を含む全段階を意味していることは明らかであり,したがって,直角になる以前の折り曲げの初期の段階が「絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ」ている加工に該当しないということはできない。 甲9〜13,23,29,54,79,80,本件明細書の前記記載,「絞り加工を施し,…内側に直角に折り曲げる」(6欄2〜4行)との記載を考慮しても,控訴人主張のような意味を示唆する内容は確認できず,控訴人の主張は認められない。 また,乙65は,ロ号方法の「切り残し部」がわざわざ容易に切れるように製作されていることを認めさせるに足りず,他にこれを認めさせるに足りる証拠はない。 したがって,ロ号方法は,上記破断がd2工程の比較的早い段階(甲21の2参照)で生じているとしても,「絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ」る段階で生じていることに変わりがなく,「パネル板厚のほぼ8倍以下となる隅フランジ代を,先端に丸味を備えた切れ目によって形成し」た後に,「絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ」ているとは認められず,控訴人の主張は認められない。 すなわち,ロ号方法は,本件発明の構成要件Cと異なる構成により,また,同構成要件と異なる手順の構成により,本件発明と同様に板割れ等を防止していることを意味しているのであって,構成要件Cを充足しない。 3 争点3(構成要件D充足性)について (1) 本件明細書には「絞り加工」の手段,概念について具体的な説明はない。 甲11(乙5,6によると,旧版の刊行されたのは昭和59年と推認される。)において,絞り加工は,「平板を円筒形,角筒形,半球形などの底があって継目のない容器または形状に加工成形するプレス作業をいう。」と説明され,曲げ加工は,「平らな板を,その中立面にある直線軸のまわりに動かすことにより,材料に変形を与える加工であって,主として曲げ線が直線の場合を指して曲げ加工と称することが多い。種類としてはプレス曲げ,プレスブレーキ曲げ,ロール曲げなどがある。」と説明されている。 これと,甲9,10,弁論の全趣旨によれば,絞り加工は,材料に伸びや縮みを伴わせて立体的な形状に成形する加工方法ということができ,曲げ加工と区別された加工法であるといえるが,単純な折り曲げでも,折り曲げ部分の材料の両表面には伸びと縮みが生じていると認められるのであって,材料に伸びや縮みを伴わせることだけをメルクマールとして,絞り加工と曲げ加工とを截然と区別していると断定することはできない。現に,甲23の絞り加工品の事例の中には,材料に伸びや縮みを伴わせて立体的な形状に成形する加工方法を取ると同時に直線軸の周りに動かすことにより材料に変形を与える加工を伴うと考えられるものも挙げられており,甲29には,絞り加工,曲げ加工等のどれか単一の加工法で製品が完成することは少なく,たいてい2ないしはそれ以上の組み合わせで成形される旨が記載されている。 本件発明の構成要件Dは,「上記構成の両パネルを絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ」るのであるから,長手方向の直線部分を含めて「絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ」ることになるが,事柄の性質上,長手方向の直線部分に限れば,その折り曲げが上記曲げ加工の性格を有することは明らかであり,このような態様を含め,「絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ」るといっていると解するほかなく,上記甲23の絞り加工品の事例中の,材料に伸びや縮みを伴わせて立体的な形状に成形する加工方法を取ると同時に直線軸の周りに動かすことにより材料に変形を与える加工を伴うと考えられるものに準ずるものと理解できる。 ロ号方法は,d2工程において,開口隅部で材料の伸びと縮みが生じていることは明らかであり,d1工程において,上記曲げ加工の性格を有する折り曲げをしているといえることを含め,構成要件D所定の「絞り加工」に該当する加工をしているといえる。 甲114は上記説示を左右しない。 (2) d1,d2工程が構成要件D所定の「絞り加工」に該当する以上,d3,d4工程を経ることは,構成要件Dの充足を覆すこととならない。 けだし,d3工程は,d1,d2工程を経ることによって生じた結果にすぎず,構成要件Dの充足を否定する構成を成すものでなく,また,d4工程は,絞り加工に該当するd1,d2工程を経た後に付加された一工程にすぎず,構成要件Dの充足を否定する構成を成すものでない。 (3) したがって,ロ号方法の構成d1,d2は,構成要件Dを充足する。 4 争点4(均等)について (1) 特許権侵害訴訟において,明細書の特許請求の範囲に記載された構成中に,相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても,@ 同部分が特許発明の本質的部分ではなく,A 同部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,B そのように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,C 対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,D 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,同対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(前掲最高裁平成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁参照)。 (2) @の要件の特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の作用効果を生じさせ,課題解決手段を基礎付ける,技術的思想の中核をなす特徴的部分をいうものと解するのが相当である。 本件発明は,従来の技術の有する前記のような問題点にかんがみてなされたものであり,「その目的とするところは,開口部コーナーに設けられる切り欠きや採光窓開口部に沿って区分される分割パネルの接合線が外側から見えないようにして美感を良くするとともに,乙種防火戸の要件を備え易いドアを作業工数の少ない状態で能率良く,かつ割安に作ることができる採光窓付き鋼製ドアの製造方法を提供しようとするものである」(3欄44行〜4欄7行)ところ,上記課題を解決するための手段が前記構成要件に係る特許請求の範囲記載の方法であり,この構成により,「採光窓部の絞り線内側のフランジ代がパネル板厚のほぼ8倍以上となる場合に,そのフランジ代を備えたパネルの開口の各コーナー部に隅フランジ代がパネル板厚のほぼ8倍以下となる先端に丸味を備えた切れ目または切り欠きを設けているので,絞り加工によって形成される採光窓部の各コーナー部に応力の集中による歪や板割れの発生するのを防止して,美感の優れた採光窓付きドアをきわめて容易に作ることができる。そして,採光窓部を形成するのに前面パネルや背面パネルを2以上に分割する必要がないため,各パネルのシヤー,プレス加工,および組み立てなどの加工工数を著しく少なくして,採光窓付きドアをきわめて能率よく製造することができる。また,前面パネルと背面パネルと採光窓部のフランジ代は,ドアの組み立て前に内側に絞られているため,採光窓付きドアの組み立てにおいて,採光窓枠の位置決めを容易にすることができる。さらに,採光窓部の各コーナー部にパネル板厚のほぼ8倍以下の隅フランジ代を形成したため,開口部の内側にガラス押えを装着する場合にフランジ代との重合長さを長くできるだけでなく,ガラス押えの上面をパネル表面から突出しないようにも取り付けることができるから,採光窓付きドアに乙種防火性を付与したり,採光窓部のデザインにも変化が持たせ易くなる。さらに,開口の各コーナー部に形成した隅フランジ代が,絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離をパネル板厚のほぼ8倍以下となるように形成していることにより,絞り加工が容易であるとともに絞り加工によっても歪みが生じないようにすることができ,部材のすきまや板歪みの発生し易いコーナー部に合わせ目がなく歪みのない鋼製ドアを工程数少なく提供できた。しかも,隅フランジ代を形成していることにより,絞り加工したとき,折り曲げ代の両端に切欠部分が露出せず,防火戸として使用しうる鋼製ドアを提供できた」(8欄11行〜9欄5行)という作用効果が生じる。 したがって,従来技術とは異なり,一体形成されたパネルであって,フランジ代を備えたパネルの開口の各コーナー部に隅フランジ代がパネル板厚のほぼ8倍以下となる先端に丸みを備えた切れ目または切り欠きを設けているので,絞り加工によって形成される採光窓部の各コーナー部に応力の集中による歪みや板割れの発生するのを防止して,美感の優れた採光窓付きドアをきわめて容易に作ることができるとした点に特徴を有するものであると認められる。 そして,隅フランジ代をパネル板厚のほぼ8倍以下となるように形成したことは,「絞り加工が容易であるとともに絞り加工によっても歪みが生じないようにすることができ,部材のすきまや板歪みの発生し易いコーナー部に合わせ目がなく歪みのない鋼製ドアを工程数少なく提供できた」(8欄41行〜9欄1行)作用・効果をもたらし,切れ目又は切り欠きは,絞り加工をした場合に,「内側に向かって広がるV字状となるから,採光窓部7は各コーナー部への応力集中が緩和され,歪が発生しないきれいな美感を呈する」(6欄6〜9行)作用・効果をもたらし,切れ目又は切り欠きの先端部に形成した丸みは,「隅フランジ代に板割れを生じさせないから,表裏パネルの美感を損なわせなくなる」(4欄39〜41行)作用・効果をもたらしているものと分析できる。 しかるところ,切れ目または切り欠きが存在することにより,絞り加工をした場合に切れ目または切り欠きがV字状に広げられて採光窓部の各コーナー部への応力集中が緩和され歪みが発生しないきれいな美感を呈するという作用は,機械や構造物の材料の強度に関連する分野等の当業者に一般的な公知技術であり,少なくとも,本件発明が対象とする採光窓付き鋼製ドアの分野にも容易に応用し得るものといえる(甲16,17,20,94,乙15)。 また,切れ目または切り欠きの先端に丸みを備えるという点も,甲17に記載されている。 そして,本件発明が対象とする採光窓付き鋼製ドアを製造する際に,隅フランジ代を小さくすればするほど歪みが少なくなっていくことは自明であると考えられる上に,本件明細書に記載されている,隅フランジ代を板厚の「ほぼ8倍以下」とするその数値自体に,何らかの臨界的意義があることを説明したり示唆したりする記載はないから,「ほぼ8倍以下」とするその数値自体は,相対的に重要性が少ない。 控訴人は,隅フランジ代を板厚の「ほぼ8倍以下」とすることの意義を強調するが,乙55によると,隅フランジ代が板厚のほぼ8倍となる4.8oにおいては,隅フランジ代の長さから板割れの長さを控除した隅フランジ代の長さ1.0o以上(隅フランジ代の長さが1.0o以上であることに何らかの技術的意味があるかは,本件明細書に言及もなく,不明であるが,その点は一応おく。)になる確率は50%にしかすぎず,1.0o以下になる確率が50%もあることが認められるから,8倍という数値に臨界的意義があるとはいえない。 乙55によると,約6倍弱となる3.5o,約7倍弱となる4.0oにおいて,隅フランジ代の長さが1.0o以上である確率が高くなっていることが認められるから,仮に隅フランジ代の長さが1.0o以上であることに何らかの技術的意味があることを前提としても,8倍より小さな数値ー例えば,6倍ないしそれ以下の倍数に臨界的意義があるといいうるにすぎないといえ,検甲5〜8もこれを裏付けるのであって,控訴人の上記主張は認められない。 なお,構成要件Aは,「採光窓部の絞り線のコーナー半径が絞り加工によってほぼ20o以下に形成される両面フラッシュドアにおいて」というものであり,本件発明の前提にすぎないし,本件明細書に記載されている,絞り線のコーナー半径を絞り加工によって「ほぼ20o以下」とするその数値自体に,何らかの臨界的意義があることを説明したり示唆したりする記載はない。 そうすると,本件発明の特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の作用効果を生じさせ,課題解決手段を基礎づける,技術的思想の中核をなす特徴的部分をいう本質的部分は,いずれも,公知技術であるか,数値の限定自体に臨界的意義がないといえる前記各個々の構成にあるのでなく,構成要件A「採光窓部の絞り線のコーナー半径が絞り加工によってほぼ20o以下に形成される両面フラッシュドアにおいて」従来生じていた前記課題を解決する手段として,一体形成されてフランジ代を備えたパネルの開口の各コーナー部にパネル板厚のほぼ8倍以下となるように隅フランジ代を形成したこと,隅フランジ代を上記のように形成するために切れ目または切り欠きを設ける方法によったこと,切れ目または切り欠きの先端に丸みを設けたことをそれぞれ有機的に結びつけ,採光窓部の絞り線のコーナー半径が絞り加工によってほぼ20o以下に形成される両面フラッシュドアの製造方法に応用した点にあるというべきである。 ロ号方法は,開口コーナー部に,コーナー折曲線1のコーナーから約7.6o幅のフランジ代(ロ)を設けたこと,コーナー折曲線1のコーナーの曲線部中央3から@周縁までの最短距離(ホ)が約3.0oでA中心までの距離(ハ)が約4.15oである,直径約2.3oの円形の丸穴4(周縁と開口のコーナー角6との間(ニ)は約2.3o(ただし,同間隔は2o未満とはしない。))を形成したことを有機的に結びつけて,構成要件Aに該当する構成aの両面フラッシュドアの製造方法に応用したということができ,同結合は,本件発明の本質的部分である上記結合と異なる。 すなわち,ロ号方法の上記結合による方法と異なる本件発明の上記結合による方法は,特許発明の本質的部分であるから,均等が成立するとは認められない。 (3) Bの要件の、そのように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたとは,そのように置き換えることに,当業者であれば誰でもが,対象製品等の製造等の時点において特許請求の範囲に明記されているときに認識できるのと同程度の容易さで想到することができたことをいうものと解すべきである。 乙18の1〜3,19の1・2,33の1〜3,34の1・2,40,41,弁論の全趣旨によると,被控訴人は,ロ号方法の構成につき,単純に構成cの採用に至ったのでなく,専門家の意見を徴し,従来方法を変更するための実験を行った結果,コーナー折曲線1のコーナーから約7.6o幅という長さのフランジ代(ロ)を設けることにしたことはもとより,特に,コーナー折曲線1のコーナーの曲線部中央3から丸穴4周縁までの最短距離(ホ)の長さを約3.0oとし,丸穴4の直径を約2.3oとすること,したがって,中心までの距離(ハ)を約4.15oとし,丸穴4の周縁と開口のコーナー角6との間(ニ)の長さを約2.3o(ただし,同間隔は2o未満とはしない。)とすることとしたものであり,その他コーナー半径の形状等につき,実験結果に基づくデータを検討して,その構成を決定し,構成cを取ることにより,歪みが少々出るものの,隅フランジ代に発生する板割れを防止できるとの結論に至ったことが認められる。 そうすると,上記ロ号方法のような結合を採用することは,当業者であれば誰でもが特許請求の範囲に明記されているのと同じように認識できる程度の容易さで想到することができたものといえるか疑問であり,これを認めるに足りない。 すなわち,ロ号方法の上記結合による方法を本件発明の上記結合による方法に置換することが容易であるとは認められず,均等が成立するとは認められない。 5 争点6(不正競争,業務妨害)について 甲3,4,92,93,乙1〜3,弁論の全趣旨によれば,平成10年4月2日に大阪地方裁判所平成9年(ヨ)第2741号事件仮処分決定に基づく執行が行われた際,控訴人側が指示した執行の対象にロ号方法で製造した物があり,被控訴人側で執行官に対象が異なる旨を説明したが,対象物の商品名がエミカライン25と同じであり,執行官は,外形的に似ている以上,執行するしかないと言って,執行を完了し,被控訴人側の執行異議等の申立ても裁判所の容れるところとならなかったこと,ところが,被控訴人が営業妨害禁止を求めた本件本訴請求に係る大阪地方裁判所平成10年(ヨ)第1323号製造販売妨害差止仮処分事件において,同年7月24日控訴人と被控訴人との間で,控訴人は,本件特許権に基づきイ号方法の使用の差止めを求めた仮処分事件(大阪地方裁判所平成9年(ヨ)第2741号)の仮処分決定に基づいて,ロ号方法で製造した物件について執行することはしない旨,本和解が暫定的なものであって,当事者双方の権利義務に何らの影響を与えるものではない旨の和解が成立したことが認められる。しかし,控訴人が,執行の対象がロ号方法で製造した物であることを確定的に知って執行をさせたこと,外形の構造上,イ号方法を使用したものかロ号方法を使用したものかを区別し得るような特徴があること,第三者に対し,被控訴人がロ号方法を使用して本件特許権を侵害している旨陳述していることについては,いずれもこれを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,控訴人においてロ号方法が本件特許権を侵害しているという態度を全く変えておらず,被控訴人がロ号方法によりロ号物件を製造し,それを需要者に販売している状況下において,現にロ号物件が強制執行により執行官保管のまま保管されている(被控訴人会社内に執行官保管の公示を付したまま保管されている)としても,前記執行自体,執行官の権限と責任で行われたものであること及び本判決によりロ号方法の使用の差止め及びロ号方法を使用した採光窓付き鋼製ドアを生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出の差止めを求める反訴請求が棄却されることを考慮すると,控訴人において,被控訴人がロ号方法を使用して本件特許権を侵害している旨を第三者に対し陳述,流布したり,ロ号方法で採光窓付き鋼製ドアを製造すること及び別紙原告ロ号方法目録記載の鋼製ドアを製造,販売することを妨害するとまでは認められない。 したがって,控訴人が,不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争行為をしたこと,又はその行為をするおそれがあること,被控訴人主張に係る業務妨害行為をするおそれがあることは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。 6 争点7(被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求の可否,損害額)について 上記説示によれば,控訴人には故意,過失が認められず,責任原因が存しないというべきであり,他にこれを肯認すべき事実関係を認めるに足りる証拠もないから,被控訴人の主張は採用できない。 7 結論 よって,被控訴人の当審追加請求を含む本訴請求,控訴人の反訴請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却すべきであり,原判決は相当であるから,本件控訴,附帯控訴,当審追加請求をいずれも棄却し,主文のとおり判決する。 口頭弁論終結日 平成13年7月17日 |
裁判長裁判官 | 竹原俊一 |
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裁判官 | 若林諒 |
裁判官 | 西井和徒 |