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関連審決 審判1999-35494
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  公知技術 /  特許出願日 /  優先日 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  非容易 /  実施 /  同意 /  設定登録 /  移転登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 452号 審決取消請求事件
原告 住倉鋼材株式会社
原告 アオイ化学工業株式会社
原告ら訴訟代理人弁理士 中前富士男
被告 秩父産業株式会社
訴訟代理人弁理士 小川信一
同 野口賢照
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/10/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 特許庁が平成11年審判第35494号事件について平成12年10月5日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等 被告は、特許第2588117号(発明の名称「コンクリート構造物を築造する方法」、平成5年7月30日出願〔国内優先日;平成4年8月19日〕、平成8年12月5日設定登録。以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に記載された各発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)について、平成11年9月13日、特許庁に対し、当時の特許権者であった原告住倉鋼材株式会社、原告アオイ化学工業株式会社(以下、両者をあわせて「原告ら」という。)及びケイコン株式会社を被請求人として、無効審判の請求をした。特許庁は、同請求を平成11年審判第35494号事件として審理し、平成12年10月5日に「特許第2588117号発明の明細書の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(以下、「審決」という。)をし、その謄本は平成12年10月30日原告ら及びケイコン株式会社の代理人に送達された。
なお、審判被請求人ケイコン株式会社は、審決が送達された後、本訴が提起される前の平成12年11月24日に本件特許の持分権を放棄し、これに基づき、
平成12年11月28日に原告らは本件特許権についてのケイコン株式会社の持分をケイコン株式会社から原告らに移転する持分移転登録手続きを申請し、同申請に基づき、平成12年12月13日に本件特許権の持分移転登録がなされている。
2 本件発明1及び本件発明2の各要旨(特許請求の範囲の記載) (1) 本件発明1(請求項1) 予め、鉄筋金網を所定形状に成形し、該鉄筋金網をコンクリート構造物の築造場所に固着し、次いで移動して前記コンクリート構造物を連続して形成する型枠を有した自動コンクリート連続成型施工装置を用い、前記型枠をその内側に前記鉄筋金網が位置するように配設し、更に低スランプのコンクリート材を前記型枠に連続的に流し込みながら、前記自動コンクリート連続成型施工装置を移動させ、前記コンクリート構造物を連続的に築造することを特徴とするコンクリート構造物を構築する方法。
(2) 本件発明2(請求項2) 鉄筋金網は、少なくとも厚み方向に2面有し、該2面の鉄筋金網の中間部には幅止め筋が設けられている請求項1のコンクリート構造物を築造する方法。
3 審決の理由の要点 審決は、別紙審決書の理由写しのとおり、本件発明1及び同2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、同法123条1項2号に該当すると判断した。その要点は、次のとおりである。
(1) 本件発明1は1992年2月28日日経BP社発行の「日経コンストラクション」44頁ないし47頁(甲第3号証、審判甲第1号証)及び昭和51年2月線材製品協会発行の「溶接金網設計施工マニュアル 建築用鉄筋コンクリート構造物」の11,12頁及び42頁ないし46頁(甲第5号証、審判甲第3号証)に記載されたものから当業者が容易に発明することができたものであって、特許法29条2項に該当する。
(2) 本件発明2は、本件発明1の鉄筋金網を「鉄筋金網は、少なくとも厚み方向に2面有し、該2面の鉄筋金網の中間部には幅止め筋が設けられている」と限定するものであるところ、上記の限定に係る構成は周知慣用手段にすぎず、本件発明は、上記甲第3号証、甲第5号証に記載された事項及び周知の技術的事項から当業者が容易に発明することができたものであって、同法29条2項に該当する。
原告ら主張の審決取消事由(顕著な作用効果の看過による進歩性判断の誤
り) 審決の理由中、出願の経緯、当事者の主張の概要、本件発明1及び2の認定、
甲第3号証(審判甲第1号証)及び甲第5号証(審判甲第3号証)に記載された事項の認定、本件発明1と甲第3号証に記載されたものとの一致点の認定(以上、審決書の2頁8行から5頁23行)、相違点の検討のうち甲第5号証(審判甲第3号証)の記載内容に係る部分(同5頁27行から6頁5行)及び鉄筋金網を用いた場合の利点についての原告ら(審判の被請求人)の主張を記載した部分(6頁13行から35行)は認めるが、@本件発明1と甲第3号証のものとの相違点について、
本件発明1は鉄筋として鉄筋金網を用いているのに対し、甲第3号証(審判甲第1号証)に記載されたものでは、鉄筋は予め所定形状に網目状に成型されているものの「鉄筋金網であるかどうか不明である点で相違する」とした認定(同5頁23行から26行)、A本件発明1と甲第3号証のものとの相違点についての判断(同6頁6行から7頁28行)、B本件発明2が甲第3、第5号証及び周知の技術的事項から想到容易とした判断(同7頁30行から8頁4行)は、争う。
審決は、本件発明1及び同2(以下、両者をあわせて「本件発明」ということがある。)が自動コンクリート連続成型施工装置を移動させてコンクリート構造物を連続的に築造する方法において、型枠の内側に配設する鉄筋として鉄筋金網を用いたことにより格別顕著な効果を奏することを看過し、その結果、本件各発明の進歩性を否定する判断をしたものであって、その判断及び審決の結論は誤りであるから、取り消されるべきである。
1 甲第3号証の技術と対比した本件発明の特徴 本件発明は、審決が認定したように、甲第3号証に記載されたスリップフォーム工法と、「予め、鉄筋を所定形状に成形し、該鉄筋をコンクリート構造物の築造場所に固着し、次いで移動して前記コンクリート構造物を連続して形成する型枠を有した自動コンクリート連続成型施工装置を用い、前記型枠をその内側に前記所定形状に成形された鉄筋が位置するように配設し、更に低スランプのコンクリート材を前記型枠に連続的に流し込みながら、前記自動コンクリート連続成型施工装置を移動させ、前記コンクリート構造物を連続的に築造することを特徴とするコンクリート構造物を築造する方法」であることにおいて一致する。 しかし、審決が、甲第3号証について「鉄筋は予め所定形状に網目状に成形されているものの鉄筋金網を用いているかどうか不明である」(審決書5頁24,25行)と述べていることは、誤りである。甲第3号証で用いられているのは、鉄筋を工場又は現場で組み立てて現場で施工する手組鉄筋ないし組立鉄筋である。甲第3号証においては、まだ鉄筋金網をスリップフォーム工法に使用するという技術的思想はなかったのである。
本件発明が甲第3号証のスリップフォーム工法と本質的に大きく相違するのは、鉄筋を組み立てた手組鉄筋ないし組立鉄筋を使用する代わりに、予め工場で製造された「鉄筋金網」を使用するという点である。すなわち、スリップフォーム工法は、@型枠が移動する、A型枠の進行方向が開放している、B低スランプの生コンを使用する、C施工中にバイブレータを通常の固定型枠の場合より効率的に使用するなどのことから、その施工において、通常の固定型枠を使用する場合とは異なる問題が生ずる。このようなスリップフォーム工法に特有の問題を、本件発明は、
組立鉄筋に代えて「鉄筋金網」を用いることによって解決するものなのである。
2 「鉄筋金網」をスリップフォーム工法に用いることによる顕著な作用効果 甲第5号証には、鉄線を予め格子状に溶接した溶接金網をコンクリート構造物の補強用に使用した場合の利点が記載されており、これを理由に、審決は、スリップフォーム工法において鉄筋の代わりに「鉄筋金網」を使用することは当業者が容易に想到し得ることであり、「鉄筋金網」を使用したときの効果(利点)も溶接金網や格子状に溶接した鉄筋を用いることによって当然生じる効果(利点)の範囲内にとどまると判断している。
しかし、甲第5号証に記載されているのは、溶接金網を一般的なコンクリート構造物(固定型枠を使用する)に用いた場合の利点にすぎず、「動的な型枠」(移動する型枠)を使用するスリップフォーム工法において鉄筋金網や溶接金網を用いた場合の利点等については、全く記載がない。勿論、静的な型枠に溶接金網を使用する場合の作用効果は、本件発明のように動的な型枠を使用するスリップフォーム工法においても発揮されるが、鉄筋金網をスリップフォーム工法に用いた場合には、静的な型枠について発揮される作用効果以上の効果を発揮するのである。
すなわち、スリップフォーム工法において鉄筋金網を用いると、次のような顕著な効果(利点)がある。
@施工された鉄筋金網が施工中に前方に倒壊することがない(利点1)。
A施工された鉄筋金網の上を、監督者や作業員が往復することができる(利点2)。
B施工された鉄筋金網が左右へ傾斜するのを防止することができる(利点3)。
C作業員の省力化ができる(利点4)。
D型枠の移動速度を増加することができ、これによってコンクリート構造物の構築速度が向上する(利点5)。
E型枠が通過直後のコンクリートの脱落がなく、外観のよいコンクリート構造物を構築することができる(利点6)。
これらのうち、利点3、4は、甲第5号証の記載から容易に推測し得るともいえるが、利点1、5、6は、動的な型枠を使用するスリップフォーム工法に鉄筋金網を使用した場合に特有の効果であって、甲第5号証から推測し得るものではない。 (利点1について) 鉄筋金網が前倒しになるのは、型枠が移動するというスリップフォーム工法に独特の作用によるものであるから、固定型枠を使用する場合を記載した甲第5号証から利点1が容易に推測し得るものではない。
(利点5について) スリップフォーム工法では鉄筋金網の結束点に大きな荷重がかかるというスリップフォーム工法に独特の作用が生ずるが、鉄筋金網を用いれば、大きな荷重に耐えられるという顕著な効果が奏される。また、鉄筋金網の各接点が溶接されているので、組立鉄筋に比べて接点強度を大きくすることができ、
その結果、型枠の移動速度を増加させることができるという顕著な効果も得られる。これらは鉄筋金網をスリップフォーム工法に使用した場合の特有の効果である。
(利点6について) 鉄筋金網は結束点の結束強度が高いので、コンクリートの脱落がなく外観のよいコンクリート構造物を構築することができるという顕著な効果が奏されるのであり、これらは鉄筋金網をスリップフォーム工法に使用した場合の独特の効果である。
このように、本件発明は、動的な型枠を使用するスリップフォーム工法においては、鉄筋が型枠の進行方向に対して静止型の型枠では予期し得ない大きな荷重を受けることを見出し、これに耐える鉄筋構造として鉄筋金網を用いている。本件発明における鉄筋金網は、甲第5号証記載の一般構造物の静止状態で配置される型枠内に使用する溶接金網とは全く使用状態が異なるのであって、甲第5号証の溶接金網についての記載から本件発明の利点1、5、6を予測することができるものではない。
3 本件発明の想到非容易 スリップフォーム工法は、1960年代に我が国に導入された。その後、甲第5号証の溶接金網設計施工マニュアルが昭和51年に刊行されているにもかかわらず、スリップフォーム工法の導入から本件特許出願日(優先日)までの15年の間に、スリップフォーム工法に鉄筋金網(場合によっては溶接金網)は使用されておらず、関連する特許又は実用新案の出願もなされていない。これらの事実は、鉄筋金網を使用するようなスリップフォーム工法が容易に想到し得なかったことを推測させるものである。また、本件発明の出願後に、本件特許に係るスリップフォーム工法(本件発明の鉄筋金網を使用するスリップフォーム工法)が広く実施されるようになった事実は、従来技術に比較して本件発明に格段の進歩性があったことを示すものである。
被告の主張
審決の認定判断は正当であり、原告ら主張の取消事由は理由がない。
1 本件発明の構成の想到容易性 (1) 甲第3号証には、動的な型枠を使用してコンクリート構造物を連続して構築していくスリップフォーム工法と呼ばれる技術が示されている。そして、原告らも認めているとおり、本件発明において公知でないのは、「鉄筋金網」を用いるという点だけである。
なお、原告らは、甲第3号証について、甲第3号証に示されたスリップフォーム工法で使用されているのは、鉄筋金網ではなく、工場又は現場で組み立てる手組鉄筋であると主張するが、例えば、同号証の47頁上右に示されている「コンクリート製剛性防護柵の基本形状」の図の下側に「構造物には鉄筋が入るが、配筋は未定」と記載されているから、審決が甲第3号証では鉄筋金網を用いているかどうか不明であると認定し、この認定に基づいて本件発明と甲第3号証の発明との対比・判断をしたことに誤りはない。
(2) 甲第5号証には、溶接金網についての説明と、溶接金網が土木関係でコンクリート舗装道路、溝渠等の補強筋として使用される旨の記載があり(甲第5号証の12頁)、溶接金網(「鉄筋金網」と技術的に同義)をコンクリート構造物の補強用の金網として使用することが明記されている。
(3) そうすると、公知のスリップフォーム工法において、格子状に形成した鉄筋(組立鉄筋、手組鉄筋)の代わりに、コンクリート構造物の補強用に使用される溶接金網(鉄筋金網)を用いることは、当業者が何らの困難なく想到し得ることである。
2 原告らは、鉄筋金網をスリップフォーム工法に使用した場合には、顕著な効果を奏すると主張し、甲第5号証に示された鉄筋金網の効果は、型枠が固定状態の静的な使用における効果に過ぎず、動的な型枠に使用した場合に発揮される作用効果は推測できないと主張する。しかし、原告らが特有の効果であると主張する利点1ないし6は、いずれも、鉄筋金網を使用した場合に当然得られる効果にすぎず、
鉄筋金網を特にスリップフォーム工法に使用したことによって初めて得られる特有の効果ではない。
(利点1について) 本件発明が本件特許明細書の【従来技術】の項に記載された公知技術と異なるのは、結束線を使用して組み立てた鉄筋(組立鉄筋)に代えて鉄筋金網を用いるという点だけであるところ、施工された鉄筋金網が施工中に前方に倒壊することがないという点(利点1)については、鉄筋金網を用いても公知の結束鉄筋(手組鉄筋)を用いても、結束が強固になされていれば相違するところはない。
また、甲第5号証の11頁16行から18行には、溶接金網の特徴として、
「(5) コンクリート打設時の配筋の乱れが少ない。全体ががっちりした網状になっているため、比較的細い線径の割りには大きな負荷荷重に耐えることができるので、コンクリート打設時に配筋を乱されることが少ない。」と記載されている。つまり、原告らが主張する効果(利点1)は、単なる鉄筋金網そのものの公知の効果であって、スリップフォーム工法に使用したときにのみ生じる特有の効果ではない。
(利点5、6について) 原告らは、鉄筋金網は結束点の結束強度が高いことを理由に、スリップフォーム工法に鉄筋金網を使うと、型枠の移動速度を増加することができ、また、コンクリートの脱落がなく外観のよいコンクリート構築物を構築することができると主張するが、鉄筋金網でなくても、結束を強固にした組立鉄筋(結束鉄筋)を用いれば同じ効果が得られるのであるから、これらは、鉄筋金網を一般のコンクリート構造物に用いた場合の一般効果にすぎず、スリップフォーム工法に用いたことによる特有の効果ではない。
3 前記2のとおり、スリップフォーム工法に鉄筋金網を使用したことによる特別の効果は全くないのであって、本件発明は、公知のスリップフォーム工法に、従来周知の鉄筋金網を使用し、単なる鉄筋金網の一般効果をねらって鉄筋金網を用いただけの効果しか奏しない発明である。
従来スリップフォーム工法に鉄筋金網を使用しなかったのは、鉄筋金網の製造費が高かった(甲第5号証の11頁下から2行〜1行)という単純な理由によるものであり、本件特許出願前に鉄筋金網が使用されなかったことを本件発明に進歩性があることの証左とみることはできない。
結局、本件発明の特徴は、「自動コンクリート連続成型施工装置を用いる場合に結束鉄筋に代えて鉄筋金網を用いた」というところだけにあり、その鉄筋金網の使用による利点は、鉄筋金網本来の性質であるところの現場での鉄筋の結束作業の省略という、コンクリート構造物における鉄筋金網の本来的な性質の利用の範囲を出ない。
したがって、本件発明は、甲第3号証及び甲第5号証に記載の発明から当業者が容易に想到し得たものというべきである。
当裁判所の判断
原告らが本件発明1及び本件発明2について審決取消事由として主張するところは共通であるから、以下では両発明を区別することなく「本件発明」と呼び、原告らの主張する取消事由の当否について検討する。
1 本件発明が甲第3号証に記載された公知のスリップフォーム工法と異なるのは、補強用に使用されるのが格子状に組み立てられた鉄筋ではなく「鉄筋金網」であるという点であり、これ以外の点に実質的な差異がないことは、当事者間に争いがない(なお、原告らは、甲第3号証で用いられている鉄筋は「組立鉄筋」(手組鉄筋)であると主張するのに対し、被告は審決認定のとおり「鉄筋金網を用いているかどうか不明である。」と主張するが、どちらに解しても後記2の判断は左右されない。)。
また、甲第5号証に記載された「溶接金網」と本件発明の「鉄筋金網」とが技術的に同意義のものであることは、原告らも争っておらず、当事者間に争いがない。
2 そこで、甲第3号証のスリップフォーム工法において、型枠内に配設される鉄筋を「鉄筋金網」とすることが当業者にとって想到容易か否かを検討するに、甲第5号証には、鉄線を予め格子状に溶接した「溶接金網」を土木関係でコンクリート舗装道路、溝渠等のコンクリート構造物の補強筋として使用すること、及び、溶接金網をコンクリート構造物の補強用に使用した場合の利点が記載されている。そして、甲第3号証のスリップフォーム工法に用いられる予め所定の形状に組み立てられた鉄筋(金網かどうかは不明)も、甲第5号証に記載された溶接した溶接金網も、ともにコンクリート構造物の補強に用いられるものであるから、甲第3号証に記載されているスリップフォーム工法において溶接金網(鉄筋金網)を使用することは、当業者が格別の困難なく想到し得たことと認められる。
なお、甲第5号証によれば、同号証は、原告らが主張するとおり、静的な状態すなわち固定型枠を使用して構築されるコンクリート構造物を念頭に置いて溶接金網の利点について記述したものと認められ、スリップフォーム工法のように型枠が移動する動的な状態での溶接金網の使用を想定した記述はないが、溶接金網をコンクリート構築物の補強に用いようとする場合に、補強という点からみて、型枠が固定されているか移動するかで違いがあるわけではなく、また、型枠が移動する場合には溶接金網を補強の目的で使用することができないと当業者が考える理由があるとも認められないから、甲第5号証が固定型枠を念頭に置いて溶接金網の利点を述べたものであるとしても、そのことは、何ら上記判断の妨げとなるものではない。
3 原告らは、本件発明は、スリップフォーム工法において「動的な型枠」(動く型枠)が使用されることから生ずる特有の問題を、鉄筋金網を用いることにより解決するものであって、鉄筋金網をスリップフォーム工法に用いた場合には格別の作用効果を奏すると主張する。そして、鉄筋金網を用いる事によって得られる効果として利点1ないし6を挙げ、そのうち利点3、4は、甲第5号証から容易に推測することができるともいえるが、他の利点、とりわけ利点1、5、6は、動的な型枠を使用するスリップフォーム工法に鉄筋金網を使用した場合の独特の効果であって、甲第5号証から推測することができるものではないと主張している。
しかし、スリップフォーム工法に鉄筋金網を使用することによって得られる効果(利点)は、溶接金網や格子状に溶接した鉄筋自体がもつ効果(利点)であって、以下に述べるとおり、特に「動的な型枠」の使用との組み合わせによって初めて発揮される特有の効果であるとも、顕著な効果であるとも認め難い(なお、利点1、5、6は本件特許明細書に記載されておらず、審判手続において初めて主張された事項である。)。
(1) 利点1について 原告らの主張する利点1は、鉄筋金網が施工中に前方に倒壊することがないというものであるが、この利点が「動的な型枠」を使用する施工において鉄筋金網を用いたことによる特有の効果とは認められない。すなわち、公知のスリップフォーム工法において用いられる格子状に組み立てられた鉄筋や本件発明の鉄筋金網は、共にコンクリート構造物の長手方向に向かって配設される点において差異がなく、組み立てられた鉄筋あるいは鉄筋金網に同じ一方向から荷重が作用した場合には、それが動荷重であろうと静荷重であろうと、それぞれ同じ挙動を示すものであると認めらる。したがって、スリップフォーム工法において補強用に鉄筋金網ないし溶接金網を用いた場合に、型枠が動くか(動的な型枠)、静止しているか(固定型枠)で、格別の差異が生ずるとはいえない。
(2) 利点5について 原告らの主張する利点5は、要するに、スリップフォーム工法ではコンクリート打設の際に鉄筋の結束点に大きな荷重がかかるが、鉄筋金網を用いればかかる荷重に耐えられるという顕著な効果があることから、型枠の移動速度を増加させることができるということと解される。
しかし、鉄筋の結束点に大きな荷重がかかることは、スリップフォーム工法に特有の現象ではなく、コンクリート構造物の構築において日常的に発生する現象ということができる。現に、甲第5号証によれば、同号証の11頁16行から18行には、「(5)コンクリート打設時の配筋の乱れがない全体ががっちりした網状になっているため、比較的細い線径の割には大きな負荷荷重に耐えることができるので、コンクリート打設時に配筋を乱されることが少ない」と記載され、コンクリートの打設時に大きな荷重がかかることを前提にして、溶接金網が大きな負荷荷重に耐え得ることが説明されていることが認められる。つまり、原告らが主張する利点5の前提となる効果は、「比較的細い線径の割には大きな負荷荷重に耐えることができる」という溶接金網の有する公知の効果の範囲を出ず、溶接金網をスリップフォーム工法のように型枠が移動するものに用いた場合にのみ生ずる特有の効果とは認められない。
原告らは、鉄筋金網は、「各接点が溶接されているので、組立鉄筋に比べて接点強度が大きい」ことが重要な理由で、型枠の移動速度を増加することができると主張するが、スリップフォーム工法で組立鉄筋(結束鉄筋)を使用する場合でも、結束を普通にしっかりと行えば、強度の点で鉄筋金網と何ら遜色がないことは明らかである。
そうすると、型枠の移動速度を上げることができるという原告ら主張の利点5に関しても、本件発明が格別の効果を有するとはいえない。
(3) 利点6について 原告らは、本件発明で鉄筋金網が用いられることにより奏される顕著な効果として、鉄筋金網は結束点の結束強度が高いので、型枠の移動直後のコンクリートの脱落がなく、外観のよいコンクリート構築物を構築できることを挙げる。
しかし、結束点の結束強度が高いことは、甲第5号証に示されるような溶接金網(鉄筋金網)の一般的に知られた性質であり、したがって、原告ら主張の効果は、溶接金網(鉄筋金網)の通常の性質を利用したという域を出ないものである。また、組立鉄筋であっても、鉄筋同士が強固に結束されていれば同じ結果が得られるのであって、この点からも、原告らが主張する効果が公知のスリップフォーム工法において組立鉄筋を鉄筋金網に置換することによって予測される範囲を超えた格別顕著な効果であるということはできない。
4 小括 以上によれば、甲第3号証のスリップフォーム工法に用いられる「予め組み立てられた鉄筋」に代えて鉄筋金網を用いることは、当業者にとって格別困難なことと認めることはできず、また、これによる作用効果も、甲第3号証のスリップフォーム工法に甲第5号証の溶接金網を用いる場合に当然に予測される範囲内のものといわねばならない。したがって、本件発明1は、審決が認定判断したとおり、甲第3号証及び甲第5号証に記載された事項から当業者が容易に発明し得たものというべきである。
また、本件発明2は、本件発明1の鉄筋金網を「鉄筋金網は、少なくとも厚み方向に2面有し、該2面の鉄筋金網の中間部には幅止め筋が設けられている」と限定するものであるところ、その限定に係る構成は周知慣用手段であると認められ、その点については原告らも特段争っていない。したがって、本件発明2は、審決が認定判断したとおり、甲第3号証、甲第5号証に記載された事項及び周知の技術的事項から当業者が容易に発明し得たものというべきである。
結論
以上のとおり、原告らの主張する審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告らの請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 橋本英史
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