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関連審決 審判1998-35558
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  択一的 /  発明の要旨認定 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 496号 審決取消請求事件
原告 ヤマモトロックマシン株式会社
訴訟代理人弁理士 菅原弘志
被告 マツダアステック株式会社
訴訟代理人弁理士 小谷悦司
同 樋口次郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/10/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第35558号事件について平成12年11月1日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は、名称を「さく岩機」とする特許第2613538号発明(平成5年5月10日出願、平成9年2月27日登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。被告は、平成10年11月11日、本件特許の無効審判の請求をし、
平成10年審判第35558号事件として特許庁に係属したところ、原告は、平成11年2月22日、本件特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載等の訂正(平成11年法律第41号附則2条13項により、無効審判における明細書の訂正については、なお従前の例によるとされる。以下「本件訂正」という。)を請求した。
(2) 特許庁は、上記事件につき審理した結果、平成12年11月1日、「特許第2613538号発明の特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同月27日、原告に送達された。
2 本件明細書の特許請求の範囲の記載 (1) 登録時のもの 【請求項1】 前後に移動する打撃用のピストンと、該ピストンを摺動自在に保持するシリンダと、該シリンダに供給される油圧を切り替えるバルブと、前記シリンダの前部に設けられたシャンクロッド保持用のスリーブとを備え、シリンダに供給される油圧によってピストンを前進させてシャンクロッド後端部を前向きに打撃し、該打撃力により穿孔を行うさく岩機において、前記穿孔用の油圧が供給される第2のシリンダと、該第2のシリンダに供給される油圧を切り替えるバルブと、
前記第2のシリンダの内部に設けられ前記シャンクロッドのカラー前面を後ろ向きに打撃する中空の逆打ピストンとを有する逆向き打撃装置を設けたことを特徴とするさく岩機。
(2) 本件訂正に係るもの(訂正部分に下線を付す。以下、この発明を「訂正発明」という。) 【請求項1】 前後に移動する打撃用のピストンと、該ピストンを摺動自在に保持するシリンダと、該シリンダに供給される油圧を切り替えるバルブと、前記シリンダの前部に設けられたシャンクロッド保持用のスリーブとを備え、シリンダに供給される油圧によってピストンを前進させてシャンクロッド後端部を前向きに打撃し、該打撃力により穿孔を行うさく岩機において、前記穿孔用の油圧が供給される第2のシリンダと、該第2のシリンダ の外周部 に設けられ 該第2のシリンダに供給される油圧を切り替えるバルブと、前記第2のシリンダの内部に設けられ前記シャンクロッドのカラー前面を後ろ向きに打撃する中空の逆打ピストンとを有する逆向き打撃装置を設けたことを特徴とするさく岩機。
3 審決の理由 審決の理由は、別添審決謄本記載のとおり、訂正発明は、いずれも本件特許出願前に頒布された、米国特許第3516651号明細書(審判甲第1号証、本訴甲第3号証、以下「刊行物1」という。)、実願平3-75025号(実開平5-26277号)のCD-ROM(審判甲第4号証、本訴甲第5号証、以下「刊行物2」という。)及び特開昭61-270085号(審判甲第14号証、本訴甲第9号証、以下「刊行物3」という。)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項により特許出願の際独立して特許を受けること(以下「独立特許要件」という。)ができないから、本件訂正は、特許法134条5項において準用する同法126条3項(注、平成11年法律第41号附則2条13項により、なお従前の例によるとされる、同法による改正前の特許法126条4項の趣旨と解される。)の規定に適合しないので認められないとして、
本件発明の要旨を登録時における本件明細書の特許請求の範囲記載のとおり認定した上、本件発明は刊行物1及び2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項により特許を受けることができないから、本件発明の特許は、同法123条1項2号に該当するものとして、無効とされるべきであるというものである。
原告主張の審決取消事由
審決中、1(手続の経緯)、2(請求人の主張及び提出した証拠方法)及び3(被請求人の主張及び訂正請求の内容)は認め、4(訂正の適否)及び5(無効理由の検討)は争う。
審決は、訂正発明と刊行物1記載の発明(以下「刊行物発明1」という。)との一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点3の判断を誤った結果(取消事由2)、訂正発明が独立特許要件を欠くとの誤った判断をして本件訂正を認めず、本件発明の要旨認定を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 審決は、「刊行物1には、『前後に移動する打撃用のピストン158と、・・・ピストン158を前進させてシャンクロッド後端部を前向きに打撃し、
該打撃力により穿孔を行うさく岩機において、・・・前記シャンクロッド136のカラー137前面を後ろ向きに打撃する環状ピストン131とを有する逆転衝撃装置27を設けたさく岩機』が記載されている」(審決謄本6頁27行目〜38行目)と認定し、訂正発明と刊行物発明1とが「逆向き打撃装置を設けたさく岩機」である点で一致すると認定したが(同9頁10行目〜11行目)、誤りである。
(2) 油圧式さく岩機に使用される油圧は、空気圧の30倍程度と極めて高圧であるため、ピストンの打撃面とシャンクロッドの被打撃面とは厳密に芯が合っていなければならない。したがって、前向きの打撃を与える正打撃装置と逆向き打撃装置とを備えた油圧式さく岩機では、ガイドセルとキャリッジプレート(さく岩機を支持する支持部材)との間のがたつきがあっても、正打撃装置と逆向き打撃装置との芯がぶれないようにしなければならない。そのため、訂正発明は、正打撃装置及び逆向き打撃装置を一つの油圧式さく岩機として構成し、剛的に一つのキャリッジプレートに組み付けたものである。このことは、特許請求の範囲の「逆向き打撃装置を設けたことを特徴とするさく岩機」との記載から明らかであり、願書に添付された図1(以下、単に「図1」などという。)及び図4においても、逆向き打撃装置と正打撃装置とが剛的に結合されている。この構造によると、正打撃装置と逆向き打撃装置とが共通のキャリッジプレートに組み付けられているため、キャリッジプレートとガイドセルとの間にがたつきがあっても、正打撃装置と逆向き打撃装置との間に相対的な芯ぶれは生じない。
(3) これに対し、刊行物発明1は、空気式さく岩機と空気式逆転衝撃装置とを共通のガイドセル上に別々の支持部材で搭載した高炉のタップ穴用のボール盤であり、逆向き打撃装置と正打撃装置とを剛的に結合して一つのさく岩機として構成したものではないから、訂正発明の構成とは異なるものであって、「刊行物1記載の逆転衝撃装置27とドリル26は、・・・支持部材117、接続ロッド123,124及びコネクター125を介して一体に接続されていることが認められる」(審決謄本7頁22行目〜24行目)との審決の認定は誤りである。
2 取消事由2(相違点3の判断の誤り) (1) 審決は、「刊行物3には、ピストンをシリンダ内に摺嵌して、切換弁で液圧を切り換えてピストンを往復動させる液圧式さく岩機において、切換弁をシリンダの外周部に設けるという技術事項が記載されている。」(審決謄本10頁17行目〜20行目)と認定した上で、「刊行物1記載の空気圧を利用するさく岩機と刊行物3記載の液圧を利用するさく岩機は、流体圧を利用するさく岩機である点で共通しており、しかも刊行物1記載の発明に刊行物3記載の上記技術事項を適用することを阻害する要因があるとも認められないから、刊行物1記載の発明に刊行物3記載の、切換弁をシリンダの外周部に設けるという技術事項を適用し、特に第2のシリンダに設けられるバルブを、第2のシリンダの外周に設けられるようにすることは、当業者が容易になし得たことと認める。」(同10頁20行目〜27行目)と判断したが、誤りである。
(2) すなわち、この判断は、油圧と空気圧との性質の差を無視するものである。空気圧は被圧縮性を有するため、バルブからピストン背面に至る経路が屈曲していると、そこで大きなエネルギーロスが生じ、所望の強力な打撃は得られなくなるところから、従来の空気圧式打撃装置の大半は、バルブがシリンダと同軸上に設けられ、刊行物発明1のバルブをシリンダ外周部に移設することには阻害要因がある。ところが、訂正発明は、油圧式であるため、バルブからピストン背面に至る経路が屈曲していても、そのままの圧力を伝えることができ、相違点3に係る構成を採用することができる。しかも、そのような構成を採用することにより、訂正発明は、逆向き打撃装置の全長を短くすることができるという利点がある。逆向き打撃装置は、シャンクロッドのカラーよりも前側に位置していて、さく孔対象物に臨んでいるので、逆向き打撃装置の長さを極力短くするのが望ましい。訂正発明は、この要請から、逆向き打撃装置のバルブをシリンダの外周部に設ける構造を採用したのである。以上のとおり、逆向き打撃装置を備えた油圧式さく岩機において、逆向き打撃装置のバルブをシリンダの外周部に設けるという事項は、特別の目的と効果を有するのであり、バルブをピストンと同軸に設ける技術と二者択一的に選択されるものではない。
(3) 被告は、昭和59年9月1日発行の日本トンネル技術協会誌「トンネルと地下」第15巻第9号57〜63頁(審判甲第2号証、本訴甲第4号証、以下「協会誌」という。)に、バルブがシリンダ外周に設けられた液圧式の打撃装置が示されているとし、仮に、バルブをシリンダ外周に設けることが特に油圧式の打撃装置において効果的であるとしても、このことが刊行物発明1に協会誌記載の事項を適用することを阻害する要因となるものではないと主張する。しかしながら、刊行物1及び協会誌には、その記載事項を効果的に結合して訂正発明の目的を達成するための動機付けがないのであるから、これらの記載内容から訂正発明が容易に想起し得るものではない。
被告の反論
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 刊行物発明1も、正打撃用のシリンダ、ピストン及びバルブを有する本来のさく岩機に加えて、逆向き打撃用のシリンダ、ピストン及びバルブが設けられている点で、訂正発明と同一である。したがって、刊行物1記載の、正打撃用のさく岩機と逆転衝撃装置とが結合、一体化した構成及びその機能は、訂正発明の「逆向き打撃装置を設けたさく岩機」と本質的に何ら変わるところがない。「刊行物1記載の逆転衝撃装置27とドリル26は、・・・支持部材117、接続ロッド123,124及びコネクター125を介して一体に接続されていることが認められる。」(審決謄本7頁22行目〜24行目)との審決の認定に誤りはない。
(2) 原告は、訂正発明では、さく岩機が油圧式であることに関連して、正打撃装置と逆向き打撃装置との間に相対的な芯ぶれが生じないような構造が採用されている旨主張するが、本件訂正に係る本件明細書(以下「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲には、「正打撃装置と逆向き打撃装置とが剛的に一つのさく岩機としてキャリッジプレートに組み付けられる」という構成は記載されておらず、この点をもって訂正発明の進歩性を基礎付けることはできない。しかも、訂正明細書及びその図面には、さく岩機を組み付けたさく孔装置の側面図である図4に、キャリッジプレートがごく簡単に小さく示されているだけであって、正打撃装置と逆向き打撃装置とをキャリッジプレートに組み付ける構成が明確に示されているわけではない。また、この構成の意義や、上記のような芯ぶれが生ずる場合の問題点、この芯ぶれを防止するという課題及びその効果は、訂正明細書中に全く記載されていない。
2 取消事由2(相違点3の判断の誤り)について (1) 協会誌(甲第4号証)には、バルブがシリンダ外周に設けられた液圧式の打撃装置が示され、特開昭60-156897号公報(審判甲第15号証、本訴乙第1号証)には、バルブがシリンダと同軸上に設けられた液圧式の打撃装置が示され、1932年5月27日付け特許公報によるドイツ国(ライヒ)特許第551138号明細書(審判甲第16号証、本訴乙第2号証、以下「ドイツ特許明細書」という。)には、バルブがシリンダ外周に設けられた空気圧式の打撃装置が示されている。したがって、この種のさく岩機において、空気圧式と液圧式を問わず、バルブをシリンダ同軸上とシリンダ外周のいずれに設けるかは、従来から当業者が適宜選択する設計的事項にすぎない。
(2) また、仮に、バルブをシリンダ外周に設けることが特に油圧式の打撃装置において効果的であるとしても、このことは、刊行物発明1に協会誌記載の事項を適用することの阻害要因となるものではない。すなわち、刊行物発明1において空気圧を油圧とすることは、当業者が容易に想到し得る事項であり、協会誌には、液圧式の打撃装置において、バルブをシリンダ外周に設けることが記載されているのであるから、これらの事項を刊行物発明1に適用して、この装置を油圧式とするとともにバルブをシリンダ外周に設けることに格別の困難はない。
(3) 原告は、訂正発明は逆向き打撃装置の全長を短くすることができるという利点がある旨主張するが、この点は訂正明細書に全く記載されておらず、訂正明細書及びその図面の記載を見る限り、従来技術から予測し得ない特別の目的をもってバルブの配置を設定したとは認められない。また、仮に、原告主張のような目的、
効果が当業者にとって当然に想到し得る程度のことであるならば、刊行物発明1を油圧式に変更するに当たっても、このような目的、効果を満足すべくバルブをシリンダ外周に配置することは、当然に想到し得ることとなる。したがって、このような点で訂正発明が進歩性を有するということはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 原告は、訂正発明が、正打撃装置及び逆向き打撃装置を一つの油圧式さく岩機として構成し、剛的に一つのキャリッジプレートに組み付けたものであるのに対し、刊行物発明1は、逆向き打撃装置と正打撃装置とを剛的に結合したものではないと主張するので、この点について判断する。
(2) 訂正明細書(甲第8号証)の特許請求の範囲には、原告主張の正打撃装置に当たる「シャンクロッド後端部を前向きに打撃」する構成が記載されているが、
この正打撃装置と逆向き打撃装置が剛的に結合されているという構成は、特許請求の範囲に記載がない。
また、訂正明細書(甲第8号証)の実施例には、以下の記載がある。
ア 「【0009】・・・さく岩機1の本体11は複数の筒体を継ぎ合わせて構成されている。第1の筒体11aは正打装置10のシリンダを構成するもので、そのシリンダ空所内にシリンダライナ-14が嵌装され、その内部に正打用ピストン15が前後に摺動自在に保持されている。この部分の構造は公知のものである。」(3頁16行目〜21行目) イ 「【0019】さく岩機1の前部には、シャンクロッド32に後ろ向きの打撃を与える逆向き打撃装置60が設けられている。・・・シリンダ61の内部には、中空の逆打用ピストン65が設けられている。シャンクロッド32は、この逆打用ピストン65の内部に嵌合している。」(5頁24行目〜6頁2行目) これらの記載によれば、訂正発明のさく岩機は、複数の筒体を継ぎ合わせて構成し、前部に逆向き打撃装置、後部に正打撃装置が配されているものの、これらの結合が剛的であるとは認められない。
(3) 一方、刊行物1(甲第3号証)には、以下の記載がある。
ア 「本発明の第五の目的はタップ穴の穴あけが完了した後で上記のドリル・スチール上に逆転の衝撃力を分与することによって出来る限り迅速にドリル・スチールを引き抜くことである。」(2欄4行目〜7行目、訳文2頁18行目〜20行目) イ 「逆転衝撃装置27を備えた削岩機26は同じ軸上に位置決めされる。」(2欄52行目〜53行目、訳文3頁16行目〜17行目) ウ 「逆転衝撃装置27とドリル26のための両方の支持する部材117は、コネクター125の手段によって上記の支持する部材117の側面上に固定されている接続ロッド123と124に取り付けることによって一体で、或いは、個別的に接続できるよう構成されている。」(4欄52行目〜56行目、訳文6頁17行目〜19行目) エ 「ピストン131の後部側端部はヘッド132のところでベアリング138によってスライド可能に支持されているシャンクロッド136のカラー137にぶつかるように構成されている。」(5欄7行目〜10行目、訳文7頁5行目〜7行目) オ 「シャンクロッド136の後部側端部はピストン158によって打たれる。」(5欄35行目〜36行目、訳文7頁23行目〜24行目) (4) これらの記載によれば、刊行物発明1の「ピストン158」及び「ピストン131」がそれぞれ訂正発明の「打撃用のピストン」及び「逆打ピストン」に、
刊行物発明1の「逆転衝撃装置27」が訂正発明の「逆向き打撃装置」に、刊行物発明1の「削岩機26」又は「ドリル26」が原告主張の「正打撃装置」にそれぞれ相当すると認められる。そして、刊行物発明1においては、「削岩機26」と「逆転衝撃装置27」は、別物ではあるが、同軸上に位置決めされた上、「コネクター125」によって相互に取り付けられるのであって、その取り付けられた状態では、前部に逆向き打撃装置、後部に正打撃装置を配した訂正発明のさく岩機と異なるところはないから、「刊行物1に『前後に移動する打撃用のピストン158と、・・・ピストン158を前進させてシャンクロッド後端部を前向きに打撃し、
該打撃力により穿孔を行うさく岩機において、・・・前記シャンクロッド136のカラー137前面を後ろ向きに打撃する環状ピストン131とを有する逆転衝撃装置27を設けたさく岩機』が記載されていると認める。」(審決謄本6頁28行目〜37行目)とし、訂正発明と刊行物発明1とが「逆向き打撃装置を設けたさく岩機」である点で一致すると認定した審決の認定(同9頁10行目〜11行目)に誤りはない。
(5) 原告は、訂正発明のような、前向きの打撃を与える正打撃装置と逆向き打撃装置とを備えた油圧式さく岩機では、ガイドセルとキャリッジプレートとの間のがたつきがあっても、正打撃装置と逆向き打撃装置との芯がぶれないようにしなければならないため、訂正発明は、正打撃装置及び逆向き打撃装置を一つの油圧式さく岩機として構成し、剛的に一つのキャリッジプレートに組み付けたものであると主張するが、訂正明細書(甲第8号証)には、「【0008】・・・さく岩機1はこのチェ-ンに取り付けたキャリッジプレ-ト8に取り付けられている。」(3頁9行目〜15行目)との記載があり、この記載によれば、キャリッジプレ-トは、
さく岩機の構成部分ではなく、一つのキャリッジプレ-トに組み付けることは、訂正発明の構成とは関係がない。原告の上記主張は、さく岩機をキャリッジプレートに組み付けた「さく孔装置」の構成についてのものであって、さく岩機である訂正発明には妥当しない。
(6) 以上のとおり、取消事由1に係る原告の主張は、理由がない。
2 取消事由2(相違点3の判断の誤り)について (1) 原告は、刊行物発明1は空気圧式のものであって、エネルギーロスを小さくするためバルブがシリンダと同軸上に設けられおり、このような空気圧式のさく岩機において、バルブをシリンダの外周部に設けることは困難である旨主張する。
しかしながら、ドイツ特許明細書(乙第2号証)には、「この発明は、空気圧式打撃装置の制御に関するものである。」(1頁左欄1行目〜2行目、訳文2行目)、「シリンダー3には制御ケースが備えられており、その制御ケースには・・・制御体13が配置されている。・・・制御体13は・・・ピストン室に密接にそして平行に隣接して設けられている。」(2頁左欄12行目〜20行目、訳文4行目〜8行目)との記載があり、図1及び図2には、制御体13がシリンダの外周部に設けられたものが図示されている。ドイツ特許明細書(乙第2号証)記載の「空気圧式打撃装置」及び「制御体13」は、それぞれ「空気圧式さく岩機」及び「バルブ」と称し得るものであるから、同明細書には、空気圧式のさく岩機において、バルブをシリンダの外周部に設ける構成が記載されていることが明らかである。
他方、刊行物3(甲第9号証)には、「シリンダ外に中空のバルブフランジを設け、該バルブフランジ内にバルブプラグを嵌着してバルブプラグ外周とバルブフランジ内周との間に円筒状の切換弁を摺嵌する弁室を形成し」(1頁左下欄9行目〜12行目)、「この発明は、さく岩機やブレーカ等の液圧式打撃装置の切換弁機構に関し」(1頁右下欄2行目〜3行目)との記載があり、これらの記載及び第1図(4頁)によれば、液圧式さく岩機において、「切換弁」すなわち「バルブ」がシリンダの外周部に設けられているものと認められる。
ドイツ特許明細書(乙第2号証)及び刊行物3(甲第9号証)の上記記載を総合すれば、これらのバルブは、いずれも逆向き打撃装置用のバルブではないが、バルブが正打撃装置用か逆向き打撃装置用かによって、その配置位置に何らかの制約が加わる理由もうかがわれない以上、バルブをシリンダの外周部に設ける技術は、さく岩機が空気圧式と液圧式のいずれであっても適用可能な周知の技術であると認められる。
(2) そうすると、「刊行物3には、ピストンをシリンダ内に摺嵌して、切換弁で液圧を切り換えてピストンを往復動させる液圧式さく岩機において、切換弁をシリンダの外周部に設けるという技術事項が記載されている。」(審決謄本10頁17行目〜20行目)、「刊行物1記載の空気圧を利用するさく岩機と刊行物3記載の液圧を利用するさく岩機は、流体圧を利用するさく岩機である点で共通しており、しかも刊行物1記載の発明に刊行物3記載の上記技術事項を適用することを阻害する要因があるとも認められないから、刊行物1記載の発明に刊行物3記載の、
切換弁をシリンダの外周部に設けるという技術事項を適用し、特に第2のシリンダに設けられるバルブを、第2のシリンダの外周に設けられるようにすることは、当業者が容易になし得たことと認める。」(同10頁20行目〜27行目)との認定に基づいて、「刊行物1記載の発明に刊行物3記載の、切換弁をシリンダの外周部に設けるという技術事項を適用し、特に第2のシリンダに設けられるバルブを、第2のシリンダの外周に設けられるようにすることは、当業者が容易になし得たことと認める。」(同10頁23行目〜27行目)とする審決の判断に誤りはない。
(3) また、審決は、「シリンダと第2のシリンダに供給される流体圧が、訂正発明では、油圧であるのに対し、刊行物1記載の発明では、空気圧である点。」(審決謄本9頁13行目〜14行目)を両発明の相違点1とし、「刊行物1記載の発明に・・・油圧によりさく岩機のピストンを作動させるという技術事項を適用し、訂正発明のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。」(同9頁35行目〜38行目)と判断しており、これらの認定判断が誤りであることをうかがわせる証拠もない。そうすると、原告主張のように、空気圧式のさく岩機において、バルブをシリンダの外周部に設けることが困難であるとしても、空気圧式のさく岩機に油圧式に係る技術事項を適用することが当業者にとって容易に想到し得るものである以上、油圧式に係る技術事項を適用する際に、バルブ位置として油圧式に多く採用されているシリンダ外周部を採用することも、当業者にとって容易に想到し得る事項ということができる。刊行物発明1に刊行物3記載のバルブ位置を採用することは、この点からみても容易というべきである。
(4) さらに、原告は、逆向き打撃装置の全長をその分だけ短くすることができる旨主張するが、このような作用効果は、訂正明細書に記載がないから、訂正発明の作用効果と認めることはできず、また、このような作用効果は、当業者にとって、相違点3に係る訂正発明の構成を採用することにより容易に予測し得る効果にすぎない。
3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 長沢幸男