関連審決 | 審判1998-3091 |
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関連ワード | 使用方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 慣用技術 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / 公知事実 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
296号
審決取消請求事件
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原告 ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社 訴訟代理人弁理士 千田稔 同 辻永和徳 同 橋本幸治 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 山口由木 同 嶋矢督 同 大橋良三 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/10/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第3091号事件について平成11年7月9日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,昭和63年7月14日,発明の名称を「土壌有害生物の防除方法」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(特願昭63-175663号)をしたが,平成10年2月3日に拒絶査定を受けたので,同年3月4日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は,同請求を平成10年審判第3091号事件として審理した結果,平成11年7月9日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年8月18日に原告に送達された。 2 本願発明の特許請求の範囲 「有用植物体を栽培する土壌中の有害生物を防除する方法において,有用植物体を栽培する土壌地表層に配置してあり,任意に設けた多数の噴出口又は吐出口を有する灌水装置よりモノメチルジチオカルバミン酸の可溶性塩を土壌中に適用することを特徴とする土壌有害生物の防除方法。」 3 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,本願発明は,その出願前に頒布された特公昭53-23378号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができない,としたものである。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,「1.手続きの経緯,本願発明」(2頁1行〜12行),「2.引用例の記載事項」(2頁13行〜3頁末行)は認める(ただし,2頁9行の「表面」は「表層」の誤りである。)。「3.対比」(4頁1行〜5頁2行)のうち,4頁10行ないし14行,19行ないし20行は否認し,その余は認める(ただし,4頁17行の「表面」は「表層」の誤りである。)。「4.当審の判断」(5頁3行〜8頁2行)のうち,5頁4行ないし11行,5頁14行ないし18行,6頁6行ないし8行,16行ないし18行,7頁2行ないし14行は認め(ただし,6頁6行の「表面」は「表層」の誤りである。),その余は争う。 審決は,本願発明と引用発明との相違点を看過し(取消事由1),進歩性の判断を誤り(取消事由2),本願発明の顕著な効果を看過した(取消事由3),ものであり,これらの誤りは,それぞれ,審決の結論に影響することが明らかであるから,審決は,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(相違点の看過) 審決は,引用発明と本願発明との相違点として,「請求項1に係る発明は,「有用植物体を栽培する土壌地表面(判決注・表層の誤り)に配置してあり,任意に設けた多数の噴出口又は吐出口を有する灌水装置」を用いているのに対し,引用例は,如露により土壌地表面に散布することは記載されているが,このような灌水装置を用いることは記載されていない点」(審決書4頁16行〜5頁1行)を挙げるだけである。しかし,上記両発明には,審決の認定したもの以外にも相違点があるのであり,審決はこれを看過している。 引用発明は,その特許請求の範囲に記載された一般式を有するN-モノアルキルジチオカルバミン酸の第4級アンモニウム塩(引用例では,「カルバミン酸」の表記ではなく,その異表記である「カーバミン酸」が用いられているが,以下,本願発明におけると同じく,「カルバミン酸」の表記を用いる。) を有効成分とすることを特徴とする殺菌殺線虫剤に関するものであるのに対し,本願発明は,灌水装置によりモノメチルジチオカルバミン酸の可溶性塩(上記N-モノアルキルジチオカルバミン酸の第4級アンモニウム塩を包含するものの,これ以外のものも包含する。)を土壌中に適用することを特徴とする土壌有害生物の防除方法に関するものである。すなわち,引用発明と本願発明との間には,それを構成する殺虫剤において相違するところがある。 引用発明を構成するN-モノアルキルジチオカルバミン酸の第4級アンモニウム塩は,化合物それ自体が土壌の深部まで浸透して薬効を及ぼす性質(深達性)を有する。これに対し,本願発明は,薬剤の施用方法に特徴を有するものであり,化合物それ自体の有する深達性によってではなく,施用方法によって深達性を実現するものであるから,それ自体深達性を有さない薬剤についても深達性を実現することができる。 例えば,引用例で深達性がない化合物であると記載されているモノメチルジチオカルバミン酸アンモニウム(以下「NCS」という。)であっても,本願発明の施用方法によって土壌に適用すれば,土壌の深部にまでその薬効を及ぼすことができることは,本願明細書の実施例に記載されているとおりである。 本願発明と引用発明とは,上記のとおり,構成要素となる薬剤の範囲において,明確な相違点を有するにもかかわらず,審決は,この相違点を看過し,引用発明と本願発明とは,「有用植物体を栽培する土壌中の有害生物を防除する方法において,モノメチルジチオカルバミン酸の可溶性塩を,土壌中に適用する土壌有害生物の防除方法」(審決書4頁11行〜14行)である点で一致する,と認定しただけで,上記相違点について何らの判断をしないまま,その結論に至っている。審決のこの誤りが,その結論に影響することは明らかである。 2 取消事由2(進歩性判断の誤り) 審決は,本願発明は「引用例に記載された発明並びに周知及び慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」(審決書8頁5行〜7行)とするが,誤りである。 (1) モノメチルジチオカルバミン酸アンモニウム塩は,散布により容易にガス化する薬剤である。そのため,これを,じょうろで散布しようとすれば,散布者は,ガス化した薬剤との接触を避けるために,厳重な防護着を着用する必要がある。このように,モノメチルジチオカルバミン酸アンモニウム塩については,作業者の安全確保と労力軽減を図りつつ,薬剤としての効果を安定的に発現させる使用方法が必要とされていたにもかかわらず,約40年前に薬剤として開発されて以来,本願発明に至るまで,そのような使用方法に関する発明は全くなされていなかった。 本願発明は,上記の問題を解決することを課題として認識した結果,なされたものである。従来技術のいずれにも,この点に言及したものはなく,本願発明は,新たな課題の発見に基づいてなされたものであるから,進歩性を有するものというべきである。 (2) 審決は,引用例の実施例3に記載された「じょうろ」を用いる散布に替えて灌水装置を使用することは容易であるとする。しかし,上記引用例におけるじょうろでの散布は,小スケ-ルでの実験の必要上行われたことであり,実際にじょうろを使用して圃場に散布することを意図したものではない。このことは,従来の技術資料に記載された散布方法において,地表面に薬剤を散布する場合の散布量が10アール当たり数10リットルと非常に少ないことからも明らかである。すなわち,モノメチルジチオカルバミン酸アンモニウム塩の開発後約40年にわたり,10アールあたり数千リットルも散布されるような灌水装置を使用して,これを散布することは,これまで誰も考えなかったのである。 本願明細書に記載されているような灌水装置を通常の使用条件で使用すると,その散布量および散布速度は,じょうろで散布する場合と比較して非常に大きくなり,それにより本願発明に特有の効果が得られる。引用発明には,水溶液の散布量および散布速度により処理効果が変化するとの認識は全くない。したがって,じょうろに替えて灌水装置を用いることは,当業者が容易になし得るものではない。 (3) 本願発明の防除方法は,植物がない時期に土壌消毒のみを目的として行われる。植物がないのであるから,本来的に灌水チューブが必要ではない時期に,あえて灌水チューブを使用して土壌消毒剤を施用するものである。したがって,本願発明においては,薬液の散布を,灌水とともに行うのではなく,消毒のみを目的として,灌水チューブを設置しておく必要のない時期にあえて灌水チューブを使用して行うのである。したがって,灌水の必要がある時期に,灌水チューブを使用して肥料などの薬剤を散布することとは異なる発想に基づくものである。 (4) 灌水装置をある種の薬剤の散布に用いることは公知である。しかし,薬剤として殺菌殺線虫剤を散布することは新規な事項である。従来灌水装置を利用して散布されていたのは肥料や除草剤であり,これらは散布量や散布速度により効果が影響を受けるものではないので,灌水装置を使用することによる特有の効果は得られない。したがって,このような公知事実に基づいては,本願発明をなし得ないことが明らかである。 (5) 以上によれば,「散布手段として慣用の灌水装置を使用し,薬液を土壌中に適用するようにすることは当業者が容易になし得ることである」とした審決の判断は,誤りであることが明らかである。 3 取消事由3(本願発明の顕著な効果の看過) 審決は,本願発明の効果は,「前記引用例及び周知事実から当業者が予測しうる程度のものであり,格別のものとはいえない。」(審決書6頁18行〜7頁1行)と認定するが,誤りである。本願発明の方法は,以下のとおり,引用例や周知事実から当業者が予測できない,格別顕著な効果を奏する。 (1) 引用例には,モノアルキルジチオカルバミン酸の第4級アンモニウム塩は深達性を有し,土壌の深部にまで殺菌殺線虫作用が及ぶことが記載されている。しかし,引用例には,同時に,NCSが土壌の深い部分まで作用を及ぼすことが困難な,深達性のない化合物である旨が記載され(甲第2号証・3欄12行〜21行),実施例4では,NCSの高度希釈水溶液を灌注した際に,20ないし30cmの深さまでしか,完全な殺菌をすることができないことが明確に記載されている(同号証・6欄9行〜20行及び5,6欄にまたがって記載された表)。 これに対し,本願発明の方法に従ってNCSを施用すれば,NCSは土壌中深くまで到達し,薬効を発揮させることができる。 本願発明では,「土壌地表層に配置してあり,任意に設けた多数の噴出口または吐出口を有する灌水装置」が使用され,この灌水装置としては,本願明細書に記載のとおり,「植物栽培のために,植物栽培土壌に地表に配置したパイプ又はチューブ等によって灌水するための装置体であって,例えば,直径20ないし25cmの硬質塩化ビニール製のパイプに直径12ないし20cm間隔に直径0.6ないし1mmの噴出孔を設けたものや,ポリエチレン製の直径50mmのチューブに径0.6mmないし1mmの孔を8ないし20cm間隔に噴出孔を設けたもの等」(乙第1号証・5頁12行〜20行)が用いられる。このような本願発明の灌水装置を一般的な条件(甲第14号証参照)で使用すると,短時間に多量の水が散布され,その結果短時間に地中深くまで水が供給される。すなわち,任意に設けた多数の噴出口又は吐出口を有する灌水装置を通常の態様で使用すると,必然的に大量の処理水を迅速に散布することとなり,これにより本来深達性を有さない薬剤をも効率よく地中深くまで到達させ,薬効を発揮させることができるという,本願発明特有の効果が達成される。 このことは,本願明細書の実施例1において,本来深達性がない化合物であるNCSを,本願発明の方法に従って施用すると,「キュウリつる割れ病」の病原である「フザリウム菌」(甲第13号証によれば,この病原菌は,40ないし50cmの土壌深部までを生息域とすることが明らかである。)を,ほぼ完全に防除していることからも,明らかである。 この顕著な効果は本願発明に特有のものであり,NCSに深達性がないことを明記した引用例の記載から当業者が予測できるものではない。 もちろん,本願発明の方法により,本来深達性を有する引用例記載の化合物を施用した場合には,土壌のより深い部分まで処理効果が得られることが予測されるので,この場合にも顕著な効果が得られるものである。 引用例の実施例4では,土壌の深さ60ないし70cmまでの土壌深達性試験が行われている。 しかしながら,引用例には記載されていないものの,実施例4の実験は,パイプ状のカラムに土を詰めて行ったものである(判決注・引用例の出願人と,本願の出願人は同一である。)。土壌消毒剤による処理に際して薬剤の量は,実施例5と同じ1穴当たり3ミリリットルの注入を基準としていた。これを10アールあたりの薬剤量に換算すると約33リットルとなる。実施例4ではNCSを3000倍の液として施用しているので,10アール当たりの薬剤量は約10万リットルとなる。実施例4では散布量は200ミリリットルであるので,これに対応する面積Xを10万リットル:200ミリリットル=10アール:Xの式から計算すると,X=20cm2となる。すなわち,実施例5と同じ量の薬液を散布しようとすると,実施例4では200ミリリットルを20cm2の土壌に散布しなければならない。面積20cm2の土壌とは直径約5cmの円形の土壌であり,これに200ミリリットルの薬液を灌注すると高さ10cmの液層ができることとなる。つまり実施例4では直径約5cmのカラムに土を充填し,その上に薬液を高さ約10cmに一挙に注ぎ,浸透させたものである。 これに対し本願発明では,灌水装置により連続的に薬液が散布されるので,畑が冠水するかのような状態は生まれない。さらに,本願発明の各実施例に記載されている灌水量は10アールあたり2500ないし3000リットルであり,引用例の実施例4の約33分の1ないし40分の1程度の量にすぎない。本願発明では,灌水量は,限定されていないとはいえ,当然のこととして,本願発明で使用される灌水装置を通常の状態で使用した場合の灌水量とするものである。本願発明の実施例に記載された散布量は約20分程度で散布が終了するような量であるから,散布量が33-40倍になるとすると,散布時間は11時間ないし13.3時間という到底常識では考えられない散布量となる。このような使用態様が一般的でないことは明らかであり,引用例の実施例4の方法が,本願発明の防除方法にかかる方法とは全く異なるものであることは明らかである。また,引用例の上記実施例に示されているのは,カラム法であるので,横方向への薬剤の広がりがなく,そのため深さ方向へのみ浸透が進むことになるため,通常の圃場に散布した場合とはその挙動が異なることが明らかである。 さらに,引用例は,実際の施用においては,実施例5に記載されているように,灌注が採用されているのであり,また,その作用は,キュウリつる割れ病の防除について,その発生率が3ないし5%に抑制されたとある。 キュウリつる割れ病の病原菌は地中約40ないし50cm程度まで存在するので,引用例にかかる薬剤も灌注で施用した場合にはそのような深度までは十分に到達していないことが示されているということができる。 したがって,引用例の実施例4は,上記顕著な効果を開示したり示唆したりするものではない。 (2) 本願発明の方法は,このほかに,@灌水装置を使用することにより,じょうろや灌注等で散布するときのように厳重な防護着を着用する必要がなく,安全に土壌処理することを可能とする,A本願発明で使用される薬剤であるモノメチルジチオカルバミン酸の可溶性塩は短時間の内にガス化する性質を有するものであるにもかかわらず,灌水装置により大量の処理水を迅速に散布することにより,薬剤のガス化速度が遅くなるとともに,ガス化した薬剤のロスが少なくなり,その結果処理の効率が向上する,Bモノメチルジチオカルバミン酸の水溶性塩は水溶液として施用することができ,一般的に用いられている注入法などと比較して,安定した薬効が得られ,かつ薬害の防止を図ることができる,との格別の効果を奏する。 (3) 審決は,上記の本願発明の顕著な効果を看過したものであり,これが,その進歩性の判断に影響を及ぼし,これを通してその結論に影響を及ぼすことは明らかである。 |
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被告の反論の要点
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(相違点の看過)について N-モノアルキルジチオカルバミン酸第4級アンモニウム塩は,モノメチルジオカルバミン酸の塩の一つである。そして,引用例には,具体的に,N-モノメチルジチオカルバミン酸第4級アンモニウム塩が記載され,この化合物は水溶性の塩であることも記載されている。 したがって,本願発明と引用発明は,適用化合物が「モノメチルジチオカルバミン酸の可溶性塩」である点において差異はなく,両発明の一致点・相違点についての審決認定に,原告主張の誤りはない。 2 取消事由2(進歩性の判断の誤り)について (1) 原告は,モノメチルジチオカルバミン酸アンモニウム塩の開発後約40年にわたり,10アールあたり数千リットルも散布されるような灌水装置を使用して薬剤を散布することは誰も考えなかった旨,主張する。しかし,本願発明においては,使用する灌水装置が,「モノメチルジチオカルバミン酸アンモニウム塩」を「10アールあたり数千リットル」も散布されるものであるという点は,本願発明の必須の構成要件ではなく,原告の主張は本願発明の構成に基づかない主張であるから,失当である。 (2) 原告は,通常の使用条件で本願明細書に記載されているような灌水装置を使用すると,その散布量および散布速度はじょうろで散布する場合と比較して非常に大きくなるとし,じょうろに代わって灌水装置を用いることは当業者が容易になし得るものではないと主張する。 しかし,水溶液として土壌表面に散布する実験を行い,効果が確認された薬剤を,広範囲の土壌に散布することはごく普通に考えられることである。また,引用例の実施例3におけるじょうろによる散布は,小面積の場合の土壌表面への散布の一例として記載されたものであって,引用例にじょうろによる散布について記載されているからといって,引用発明を構成する薬液の散布手段がじょうろに限定されるというものではない。しかも,引用例には,「モノアルキルジチオカルバミン酸の可溶性塩」の稀釈水溶液を,実際に植物を栽培するための土壌に適用することが十分に明記され(甲第2号証・3欄34行〜38行),その効果も土壌地表層に散布する実験で確認されている。 そして,水溶液を植物を栽培するための土壌に散布する場合に,作業効率よく散布を行うことのできる,多数の噴出口又は吐出口を有する灌水装置を用いることは当該技術分野においては慣用技術であり,土壌地表層に配置された多数の噴出口又は吐出口を有する灌水装置を,肥料や薬液の散布に用いることも本願出願前周知慣用の技術であるから(甲第4,第5号証,乙第5,第6号証),実験により効果が確認された水溶性の薬剤を,広範囲の植物栽培のための土壌に効率よく散布しようとする場合に,土壌地表層に配置される多数の噴出口又は吐出口を有する灌水装置を用いることは,当業者が容易に想到しうることである。審決が,「散布手段として慣用の灌水装置を使用し,薬液を土壌中に適用するようにすることは当業者が容易になしうることである。」と判断した点に誤りはない。 (3) 本願発明は,その特許請求の範囲の記載から明らかなように,灌水装置の設置時期に関しては何の限定もしていない。本願発明の防除方法を植付け前の作物のない時期,又は栽培終了後に適用することが可能であるとしても,この点は本願発明の必須の構成ではない。灌水装置の設置時期に関する原告の主張は,本願発明の構成に基づかない主張である。 (4) 原告は,灌水装置で殺菌殺線虫剤を散布することは新規な事項である旨主張する。しかし,灌水装置は,従来から,肥料や除草剤の散布に限定されず,殺菌剤等の散布にも用いられている。例えば,甲第5号証には,土壌地表層に設置された灌水装置に関し,「さらに水だけでなく,液状肥料,水溶性殺虫,殺ダニ剤,水溶性殺カビ,殺ヴィルス剤,水溶性除草剤,防塵剤,その他の薬剤を含有する撒水もしくは灌水を行うことができ」(1頁右下欄17行〜2頁左上欄3行)と記載され,灌水装置で水溶性の殺菌剤等を散布することが示されている。原告の主張は前提において既に誤っている。 3 取消事由3(本願発明の顕著な効果の看過)について (1) 原告は,本願発明は,灌水装置を使用して大量の処理水を迅速に散布して,薬剤を速やかに土壌深部に移行させることによって,NCSのような土壌の深い部分まで作用を及ぼすことが困難な化合物であっても,40ないし50cmの土壌深部で薬効を奏することを可能としたものである旨主張する。 しかし,「大量の処理水を迅速に散布する」ことは本願発明の構成要件ではない。また,本願発明の有効成分である「モノメチルジチオカルバミン酸の可溶性塩」は,NCSのみに限定されない。原告の主張する効果は,本願発明の一実施例の効果であって,これを本願発明そのものの効果ということはできない。 引用例には,N-モノアルキルジチオカルバミン酸第4級アンモニウム塩について,「高度稀釈水溶液として土壌に施用した際の深達性である。・・・或る場合は,土壌表面に稀釈水溶液として散布された場合,70pに達する深部にその作用が及ぶものである」(甲第2号証・3欄11行〜21行),「稀釈水溶液を土壌表面に又は穴の中に入れて,深部に達せしめ」(同欄36行〜37行)と記載され,実施例4として,灌注の方法によった場合の深達の程度も具体的に示されており,本願発明のモノメチルジチオカルバミン酸の塩に属するN-モノアルキルジチオカルバミン酸第4級アンモニウム塩を稀釈水溶液として土壌表面に適用したときには深部に作用が及ぶことが開示されている。 (2) 原告は,本願発明は,灌水装置を使用して大量の処理水を迅速に散布することにより,効率よくかつ安全に土壌処理をすること,及び,薬剤と接触することなく安全に散布することを可能とするとともに,注入法に比較して安定した薬効が得られ,かつ薬害が防止されるという顕著な効果を奏する旨主張する。 しかし,土壌地表層に配置してある多数の噴出口又は吐出口を有する灌水装置を使用して薬液を散布すれば,作業を省力化し効率よく散布でき,作業者が直接関与する必要がないから,薬液と接触することなく安全に散布できる効果がもたらされることは当然のことである。 原告は,灌水装置により大量の処理水を迅速に散布することにより,薬剤のガス化速度が遅くなるとともに,ガス化した薬剤のロスが少なくなり,その結果処理の効率が向上する旨主張する。しかし,「大量の処理水を迅速に散布する」ことは本件発明の構成要件ではなく,また「薬剤のガス化速度が遅くなるとともにガス化した薬剤のロスが少なくなり,その結果処理の効率が向上する」という効果も明細書に開示されていないから,原告の主張は明細書の記載に基づかないものであり,失当である。 原告は,本願発明の効果として,モノメチルジチオカルバミン酸の水溶性塩は水溶液として施用することができるので,薬剤の安定的な効果と薬害の防止を図ることができる旨主張する。しかしながら,引用例に,モノメチルジチオカルバミン酸の可溶性塩を水溶液として施用することが記載され,モノメチルジチオカルバミン酸の可溶性塩は,薬剤として毒性が低いことが知られているのであるから(引用例3欄第43行〜44行),そのような効果は,引用例の記載から当業者が容易に予測し得ることである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について (1) 本願発明が,「有用植物体を栽培する土壌中の有害生物を防除する方法において、有用植物体を栽培する土壌地表層に配置してあり、任意に設けた多数の噴出口又は吐出口を有する灌水装置よりモノメチルジチオカルバミン酸の可溶性塩を土壌中に適用することを特徴とする土壌有害生物の防除方法」(特許請求の範囲)であることは,当事者間に争いがない。 甲第2号証によれば,引用例には,特定の一般式で表される,「N-モノアルキルジチオカーバミン酸第4級アンモニウム塩を有効成分として含有することを特徴とする殺菌殺線虫剤」(特許請求の範囲)に関する発明が開示され,有効成分の具体例として,11種の具体的な化合物が示され(2欄の化合物(1)〜(11)),これらの「有効成分は水溶性」(3欄24行)であり,「農園芸」(3欄31行)等に使用され,「高度稀釈水溶液として土壌に施用」(3欄17行)することにより,「広範囲の有害生物を殺滅する」(1欄25行〜26行)ものであり,具体的には,例えば,キュウリを栽培する土壌に適用すると有効である(5欄の実施例5)ことが記載されていることが認められる。 引用発明を構成するN-モノアルキルジチオカルバミン酸第4級アンモニウム塩が,本願発明を構成するモノメチルジチオカルバミン酸の塩に属することは,当事者間に争いがない。 そうすると,本願発明と引用発明とは,いずれも,モノメチルジチオカルバミン酸の水溶性(すなわち,「可溶性」)の塩を,有用植物体を栽培する土壌に適用することにより,有害な生物を殺滅ないし防除するものである点で一致することは明らかであるから,両者が「有用植物体を栽培する土壌中の有害生物を防除する方法において,モノメチルジチオカルバミン酸の可溶性塩を,土壌中に適用する土壌有害生物の防除方法」である点で一致すると認定した審決に誤りはない。 (2) 原告は,引用発明は,それ自体が深達性を有するモノアルキルジチオカルバミン酸の第4級アンモニウム塩を有効成分とする薬剤に関する発明であるのに対し,本願発明は,薬剤の施用方法によって深達性を実現しようとするものであって,引用例記載の第4級アンモニウム塩のみならず,それ自体に深達性のないモノメチルジチオカルバミン酸のその他の可溶性塩,例えば,NCSにも適用可能である点で,引用発明と相違する旨,主張する。 本願発明で使用される有効成分には,引用発明で使用されるモノアルキルジチオカルバミン酸の第4級アンモニウム塩のほかに,そこでは使用されないものも含まれるのは事実である。しかし,審決は,本願発明において,引用発明におけるのと同じモノメチルジチオカルバミン酸第4級アンモニウム塩を有効成分として選択,使用する場合だけを取り出し,これらと引用発明とを対比しているのであり,引用発明を構成するのではない薬剤を選択,使用する場合については,何も述べるものではないことは,審決の説示自体で明らかというべきである。他方,出願発明中に一部でも進歩性の否定されるものがあれば,出願は,その部分についてだけではなく,全体として拒絶されるべきものとされているから,審決の採用した上記対比方法には,何ら問題はない。以上を前提とすると,引用発明と本願発明とは,同一の薬剤を有効成分とする薬液を土壌中に適用するものである点で何ら異なるところはないことが明らかである。 原告の主張は,結局のところ,審決の採用した上記対比方法自体をとらえて,これを誤りとするものであり,採用することができない。また,原告のその余の主張中,本願発明において引用発明で使用されない薬剤が使用されることを前提とするものは,いずれも,本件において検討する必要がないことが,明らかである。 2 取消事由2(進歩性の判断の誤り)について (1) 原告は,本願発明は,モノメチルジチオカルバミン酸塩を作業者の安全確保と労力軽減を図りつつ,薬剤の効果を安定的に発現させるという,新たな課題の発見に基づいてなされたものである旨主張する。 しかしながら,薬剤を散布するに際し,作業者の安全を確保し,作業者の労力を軽減し,薬剤の効果を安定的に発現させることは,モノメチルジチオカルバミン酸塩に限らず,すべての薬剤に共通する自明の課題にすぎないというべきであるから,このような課題を認識したことは,何ら本願発明の進歩性の根拠となるものではない。 (2) 原告は,引用例の実施例3において,じょうろを用いて薬剤を散布した例が記載されているのは,単なる試験のために小面積に散布したものにすぎず,実際にじょうろを使用して圃場に散布することを意図したものではない,じょうろに代わって灌水装置を用いることは当業者が容易になし得るものではない旨主張する。 しかしながら,前記認定事実及び甲第2号証によれば,引用例には,「本願発明薬剤の有効成分は,・・・モノメチルジチオカルバミン酸のナトリウム塩,アンモニウム塩・・・に比較して高い殺菌,殺線虫等の作用を持ち・・・特に顕著なる差異は高度稀釈水溶液として,土壌に施用した際の深達性である。本願発明薬剤は,著しく改良された深達性を持つ。」(甲第2号証・3欄11行〜19行)として,引用例の有効成分(モノアルキルジチオカルバミン酸の第4級アンモニウム塩)が,高度希釈水溶液として施用された場合に優れた深達性を示すことが記載されていること,実施例3として,300倍の高度希釈水溶液を,「じょうろ」を使用して,2.2m2の1試験区当たり10リットル(10アール(1000m2)当たりに換算すると,10x(1000/2.2) =4545リットル)の量で散布した例が示されていることが認められる。 甲第9号証によれば,従来より広く使用されている代表的なモノメチルジチオカルバミン酸塩であるNCSは,通常,通常5ないし10倍の希釈水溶液として,10アール当たり200リットルの散水量で使用されることが認められる。そして,この通常の希釈倍率及び散布量と上記実施例3における希釈倍率(300倍)及び散布量(10アール(1000m2)当たり4545リットル)を比較すると,実施例3は,モノメチルジチオカルバミン酸塩を高度希釈水溶液として大量に散布するものであることは明らかである。そうすると,引用例は,引用例有効成分(モノアルキルジチオカルバミン酸の第4級アンモニウム塩)が,高度希釈水溶液として施用された場合に優れた深達性を示すことを明記した上で,当該薬剤を高度希釈水溶液として大量に散布する実施例を示していることは明白であるから,引用例の記載に接した当業者は,引用例の実施例3は,単なる試験のための例として示されたものではなく,当該薬剤を実施例3記載のような希釈率及び量で散布することを教示するものと理解するのが自然である。 そして,実施例3のような,わずか2.2m2の狭い試験区に散布するような場合はともかく,広い圃場に散布する場合にじょうろを使用することが非現実的であることは当業者に自明であること,証拠(甲第4,第5,第14号証,乙第3ないし第6号証)によれば,灌水装置は,大量の水あるいは薬液を圃場に散布する周知慣用の手段であることが認められることに鑑みると,引用例のものにおいて,じょうろに代えて,周知の灌水装置を使用することに想到するのに,当業者が格別の創意を要したものと認めることはできない。 (3) 原告は,本願発明は,植物がない時期に土壌消毒のみを目的として,本来的に灌水チューブが必要ではない時期に,あえて灌水チューブを使用して土壌消毒剤を施用するものであって,灌水の必要がある時期に,灌水チューブを使用して肥料などの薬剤を散布することとは異なる発想に基づくものである旨主張する。 しかしながら,そもそも,施用の時期は,本願発明の構成要件とはされていない。仮に,本願発明における薬剤の施用時期が原告主張のとおりであるとしても,証拠(甲第2,第8号証(163頁の表の使用時期の欄),第9号証)によれば,植物がない時期にモノメチルジチオカルバミン酸塩を施用することは周知であること,引用例の実施例5には,キュウリ植物体のない時期に薬剤を施用し,その後キュウリ苗を定植することが明示されていることが認められるから,薬剤の施用時期につき,原告主張のような構成を採用することは,当業者であれば容易に想到し得るものであるというべきである。 (4) 原告は,従来灌水装置を利用して散布されていたのは,肥料や除草剤であり,灌水装置を利用して殺菌殺線虫剤を散布することは新規であって,これにより,他の薬剤の場合には見られない顕著な効果が達成されるから,本願発明は進歩性がある旨主張する。 しかしながら,灌水装置を利用して殺菌殺線虫剤を散布することが新規であるとしても,当業者が殺菌殺線虫剤を広範囲に散布しようとする場合に,周知慣用手段である灌水装置を使用することに想到することは容易である。 原告の主張は採用することができない。 3 取消事由3(本願発明の顕著な効果の看過)について (1) 原告は,本願発明が灌水装置により大量の処理水を迅速に散布するものであることを前提に,本願発明は,本来深達性を有しない薬剤(例えば,NCS)をも地中深くまで到達させ,薬効を発揮させることができ,本来深達性を有する引用例記載の化合物を使用した場合にも,土壌のより深い部分まで処理効果が得られるという,当業者が予測できない格別顕著な効果を奏する旨主張する。しかしながら,同主張のうち,本願発明において,NCSを始めとする引用例で使用されない薬剤が使用されることを前提とする主張が失当であることは,前記説示のとおりである。 原告は,本願明細書には,本願発明で使用する灌水装置が,「直径20ないし25cmの硬質塩化ビニール製のパイプに直径12ないし20cm間隔に直径0.6ないし1mmの噴出孔を設けたものや,ポリエチレン製の直径50mmのチューブに径0.6mmないし1mmの孔を8ないし20cm間隔に噴出孔を設けたもの(乙第1号証・5頁12行〜20行)」である旨が記載されており,このような本願発明の灌水装置を一般的な条件(甲第14号証参照)で使用すると,必然的に大量の処理水を迅速に散布することになると主張する。 しかしながら,本願発明の特許請求の範囲には,「土壌地表層に配置してあり,任意に設けた多数の噴出口又は吐出口を有する灌水装置」を使用することが記載されているだけであり,上記の灌水装置は,本願明細書中において,本願発明で使用できる灌水装置の例として記載されていているにすぎない。また,本願発明において,上記灌水装置が,甲第14号証に記載されているような一般的な条件で使用されるとしても,散水量は,散水時間により任意に変更し得ることは自明であるから,上記装置を使用すれば,必然的に大量の処理水を迅速に散布することになるということはできない。 したがって,この点に関する原告の主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。 仮に,原告主張のとおり,本願発明が灌水装置を使用して大量の処理水を迅速に散布するものであるとしても,本願発明を,当業者が予測できない顕著な効果を奏するものということはできない。 甲第2号証によれば,引用例には,「本願発明薬剤の有効成分は,・・・モノメチルジチオカーバミン酸の・・・アンモニウム塩・・・に比較して高い殺菌,殺線虫等の作用を持ち・・・特に顕著なる差異は高度稀釈水溶液として,土壌に施用した際の深達性である。本願発明薬剤は,著しく改良された深達性を持つ。」(3欄11行〜19行)と記載されていること,その実施例4には,本願発明の特許請求の範囲に含まれる化合物であるモノメチルジチオカルバミン酸トリエタノールベンジルアンモニウム(化合物(1))を含む4種の薬剤の3000ないし4500倍の高度希釈水溶液を土壌に適用することにより,深さ70cmに達する深達性が達成されることが示されていることが認められる。上記実施例4には,単位面積当たりの施用量,散布に要した時間については明示的な記載がないものの,甲第2号証によれば実施例4では,薬液を灌注して3時間後に薬剤の効果を判定したとの記載があることが認められるから,短時間で施用したことは明らかである。また,有効な量の薬剤を高度に希釈して散布しようとすれば,必要な処理液の量は,通常の希釈度の場合と比較して大量になることは自明である。 そうすると,引用例には,その有効成分の高度希釈水溶液を大量かつ迅速に施用すると深達性を示すことが記載されているということができるから,本願発明において,灌注方法として「灌水装置」を使用したところ,同様の効果が達せられることを見いだしたとしても,これが当業者に予測できない格別の効果であるということはできないというべきである。 原告は,引用例の実施例4に記載されている土壌の深さ70cmまでの土壌深達性試験は,実際には畑が冠水するような条件で行われたものであり,灌水装置を使用する本願発明とは条件が異なる旨,主張する。しかしながら,引用例には,そのような記載はない。また,仮に,原告主張のとおりであるとしても,本願発明が,畑が冠水するような条件で灌水装置を使用することを排除していることを認めるに足りる資料はない。 原告の主張は,失当である。 (2) 原告は,本願発明は,灌水装置を使用することにより,安全に土壌処理することを可能とするものであり,じょうろや灌注等での散布の際のように厳重な防護服を着用する必要がなくなるという顕著な効果がある旨主張する。しかしながら,灌水装置を用いて薬剤を施用すれば防護服を着用する必要がないことは自明であるというべきであるから,このことが,当業者に予測できない格別の効果であるということはできない。 原告は,本願発明で使用されるモノメチルジチオカルバミン酸の可溶性塩は短時間の内にガス化するものであるにもかかわらず,灌水装置によりこれを含む大量の処理水を迅速に散布することにより,薬剤のガス化速度が遅くなるとともに,ガス化した薬剤のロスが少なくなり,その結果処理の効率が向上するという効果が得られる,と主張する。しかし,この主張は,本願発明は,灌水装置により大量の処理水を迅速に散布するものであることを前提とするものであり,この前提が誤りであることは,前記説示のとおりである。仮に,本願発明が大量の処理水を迅速に散布するものであるとしても,ガス化しやすい薬剤を含む大量の処理水を迅速に散布すれば,薬剤のガス化速度が遅くなるとともに,ガス化した薬剤のロスが少なくなるであろうということは,容易に予測し得る範囲の事柄であり,むしろ自明の効果であるというべきである。したがって,これを本願発明の進歩性を根拠付ける顕著な効果と認めることはできない。 原告は,モノメチルジチオカルバミン酸の水溶性塩は水溶液として施用することができるので,安定した薬効が得られ,かつ薬害の防止を図ることができる,との顕著な効果を奏するものであると主張する。しかしながら,引用例においても,モノメチルジチオカルバミン酸の可溶性塩が水溶液として施用されていることは前記のとおりであるから,本願発明と引用発明の効果がこの点において異なるものということはできない。 原告の主張は,いずれも採用することができない。 |
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以上によれば,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他,審
決の認定判断にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 宍戸充 |
裁判官 | 阿部正幸 |