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関連審決 審判1997-9183
関連ワード 特許を受ける権利 /  技術的思想 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  寄せ集め /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  名義変更 /  着想 /  技術的意義 /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 277号 審決取消請求事件
原告 株式会社日立国際電気
原告A
両名訴訟代理人弁理士 大塚学
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 橋本正弘
同 小林信雄
同 大橋良三
同 馬場清
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/10/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成9年審判第9183号事件について平成11年7月22日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 主文と同旨 2 被告 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告株式会社日立国際電気(平成12年10月2日に「国際電気株式会社」から商号変更した。)及びZは,昭和63年3月11日,発明の名称を「弾性表面波フィルタ」とする発明につき特許出願をした。Zは,平成3年12月13日に死亡したため,同人の相続人の一人である原告Aが,本願発明に係る特許を受ける権利のうちのZの持ち分の全部を相続し,平成4年10月21日付けで特許出願人名義変更届をし,そのころその登録がなされた。原告らは,平成9年3月7日に拒絶査定を受けたので,同年6月12日,拒絶査定不服の審判の請求をした。特許庁は,これを平成9年審判第9183号事件として審理した結果,平成11年7月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,平成11年8月4日にその謄本を原告らに送達した。
2 特許請求の範囲(請求項1) 「圧電基板と,該圧電基板の中央に配置された入力側IDTと,該入力側IDTの両側に配置され並列接続されたほぼ相等しい電極対数を有する出力側IDTと,該出力側IDTの両側に配置された格子状反射器とを備えて,弾性表面波の伝搬方向に励起され前記両側の反射器の間に生ずる縦0次共振モードを利用するエネルギー閉じ込め形2端子対弾性表面波フィルタにおいて,前記入力側IDTおよび2つの出力側IDTの全体の電極対数は縦2次共振モードが励起される対数に設定され,かつ,前記反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)は前記縦0次共振モードの共振周波数と前記縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差が0.0005より小さくなるように設定されていることを特徴とする2重モード2端子対弾性表面波フィルタ」(別紙図面(1)参照) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,上記特許請求の範囲請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は,特開昭54-60842公報(以下「引用刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び1986年11月東洋通信機株式会社発行「東洋通信機技報1986年第39号」(以下「引用刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法29条2項に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
原告ら主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,T(本願発明)は認める。U(刊行物記載の発明),1(刊行物1)のうち,「上記発明の「弾性波共振器装置」は本願発明の「弾性表面波フィルタ」と等価である」(審決書4頁16行〜17行)とした部分を争い,その余を認める。「等価である」でなく「類似の形状を有している」と記載すべきであり,したがって,審決が認定した,「圧電基板と,該圧電基板の中央に配置された入力側IDTと,該入力側IDTの両側に配置され並列接続されたほぼ相等しい電極対数を有する出力側IDTと,該出力側IDTの両側に配置された格子状反射器とを備えて,弾性表面波の伝搬方向に励起され前記両側の反射器の間に生ずる縦0次共振モードを利用するエネルギー閉じ込め形2端子対弾性表面波フィルタ」の「弾性表面波フィルタ」は,誤りであり,「弾性波共振器装置」と改められるべきである。2(刊行物2)のうち,引用発明2が「スプリアスを利用」(審決書6頁15行,16行)するものであるとする部分を争い,その余を認める。「スプリアス」でなく,「反対称モード(破線)」(本願発明の「2次モード」と同義である。)と記載すべきである。V(本願発明の創作可能性)は,本願発明と引用発明1(別紙図面(2)参照)との比較において, 「圧電基板と,該圧電基板の中央に配置された入力側IDTと,該入力側IDTの両側に配置され並列接続されたほぼ相等しい電極対数を有する出力側IDTと,該出力側IDTの両側に配置された格子状反射器とを備えて,弾性表面波の伝搬方向に励起され前記両側の反射器の間に生ずる縦0次共振モードを利用するエネルギー閉じ込め形2端子対弾性表面波フィルタ」 を構成要件としている点で一致し, @ 前者が,スプリアスを利用し2重モード弾性表面波フィルタとしているのに対して,後者が単一モード弾性表面波フィルタとしている点 A 前者が,@のようにするために,前記入力側IDTおよび2つの出力側IDTの全体の電極対数を縦2次共振モードが励起される対数に設定しているのに対して,後者が電極対数をどの様に設定しているか明記していない点 B 前者が,@のようにするために,前記反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)は前記縦0次共振モードの共振周波数と前記縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差が0.0005より小さくなるように設定しているのに対して,後者が2重モードとしていない点 で相違するとした認定のうち,一致点中の「弾性表面波フィルタ」の部分,相違点@中の本願発明が「スプリアスを利用」しているとする部分を争い,その余を認める。W(本願発明の創作容易性),X(出願人の主張の検討),Y(結び)を争う。ただし,一部認めるところがある。
審決は,引用発明1の認定を誤り,その結果,一致点を誤認し(取消事由1),また,相違点についての判断を誤り(取消事由2及び同3),その結果,本願発明に進歩性がないと誤った判断をしたものであるから,違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(引用発明1の認定の誤りに基づく一致点の誤認) 審決は,引用発明1に係る「弾性波共振器装置」について,本願発明の「弾性表面波フィルタ」と等価であると認定した。引用発明1に係る「弾性波共振器装置」が,本願発明の「弾性表面波フィルタ」と構成において類似していることは事実である。しかし,両者それぞれの周波数特性は,IDT(Interdigital Transducer)の電極対数,IDTの間隔などによって決まるものであり,構成によって決まるわけのものではないから,両者の構成の類似を前提に,両者を「等価」とすることはできない。
審決は,このように,引用発明1の認定を誤り,その結果,本願発明と引用発明1の一致点の認定において,一致点でないものを一致点と誤認した。審決のこの誤りがその結論に影響を及ぼすことは,明らかである。
2 取消事由2(相違点@及びAに係る認定判断の誤り) (1) 審決は,相違点@についての判断の前提として,「スプリアスを利用して2重モード弾性表面波フィルタとすること自体は刊行物2に第2の発明として記載されている」(審決書9頁12行〜14行)と,相違点Aについての判断の前提として,「スプリアスを利用し2重モード弾性表面波フィルタとするために,IDTの全体の電極対数を「反対称モード(破線)」(「2次モード」,本願発明の「縦1次共振モード」と同義である)が励起される対数に設定したエネルギー閉じ込め形2端子対弾性表面波フィルタは,刊行物2に第2の発明として記載されている」(同10頁4行〜10行)と,それぞれ認定しているが,これらの認定は,いずれも誤っている。
引用刊行物2には,単に,本願発明の「縦0次共振モード」と「縦1次共振モード」とを利用する従来の2重モード弾性表面波フィルタについて記載されているだけであり,「スプリアスを利用して2重モード弾性表面波フィルタとする」などという記載はない。要するに,引用発明2は,縦0次共振モードと縦1次共振モードとを利用する2重モード弾性表面波フィルタにすぎないのである。
(2) 審決は,相違点@について,「刊行物1に記載された第1の発明において,スプリアスを利用し2重モード弾性表面波フィルタとするという目的を設定して本願発明のようにすることは,当業者が容易になし得たことである。」(審決書9頁15行〜19行),相違点Aについて,「刊行物1に記載された第1の発明において,スプリアスを利用し2重モード弾性表面波フィルタとするために,前記入力側IDTおよび2つの出力側IDTの全体の電極対数を縦2次共振モードが励起される対数に設定して本願発明のようにすることは,当業者が容易になし得たことである。」(同10頁11行〜17行)と判断するが,これらの判断はいずれも誤っている。これらの判断の誤りは,いずれも,引用刊行物2の記載についての上記誤認に基づく認識を前提にしたために生じたものである。
引用発明1は,単一モード弾性表面波フィルタ(単一モード弾性表面波共振子を用いたフィルタ)であって,ここには,1個の共振子で2重モード弾性表面波フィルタを構成する技術的思想は存在しない。かえって,引用発明1においては,本願発明と同様に3個のIDTを用いる構成でありながら,縦0次共振モードのみを利用し,縦2次共振モードを含む他の共振モードがすべてスプリアスとして扱われ抑圧されていることが指摘されねばならない。
一方,上述したとおり,引用発明2においては,縦0次共振モードと縦1次共振モードとを利用しているのみであり,引用刊行物2には,「スプリアスを利用して2重モード弾性表面波フィルタとする」などという記載はなく,まして,本願発明のように縦0次共振モードと縦2次共振モードとを利用するようにすることは,全く記載されていない。したがって,当業者が,単一モード弾性表面波フィルタである引用発明1に,縦0次共振モードと縦1次共振モードとを利用する引用発明2を適用し,相違点@及びAに係る本願発明の構成に思い至ることが容易であるなどということは,あり得ない。
仮に,引用発明1に同2を適用しても,両発明のいずれにも,縦2次共振モードを利用する技術的思想が存在しないから,相違点@及びAに係る本願発明の構成を実現し得ないことが明らかである。
3 取消事由3(相違点Bに係る判断の誤り) 審決は,相違点Bについて,「2重モード弾性表面波フィルタとするために、一方モードの反共振周波数と他方モードの共振周波数を近づける(反共振周波数と共振周波数の差を小さくする)こと」(審決書10頁19行〜11頁2行)が,1974年1月社団法人電子通信学会発行「電子通信学会超音波研究会資料US73-38」(審決における甲第2号証,本訴における甲第16号証,以下「甲第16号証刊行物」という。)に,「共振周波数が,電極の対数、膜厚、間隔を変えることよって変化すること」(審決書11頁6行,7行)が,特開昭58-3307号公報(審決における甲第4号証,本訴における甲第17号証,以下「甲第17号証刊行物」という。)に,「電極の膜厚と間隔の比を変えることによっても共振周波数が変化すること」(審決書11頁10行,11行)が,引用刊行物2の図4とその説明に,それぞれ記載されているとして,それを根拠に,「刊行物1に記載された第1の発明において,スプリアスを利用し2重モード弾性表面波フィルタとするために,前記反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)は前記縦0次共振モードの共振周波数と前記縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差が0.0005より小さくなるように設定して本願発明のようにすることは,当業者が容易になし得たことである。」(審決書11頁15行〜12頁2行)と判断するが,この判断は誤っている。
(1) 「反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比であるH/Pを縦0次共振モードの共振周波数と縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差が0.0005より小さくなるように設定」するという本願発明の構成は,審決の引用する甲第16号証刊行物,甲第17号証刊行物,引用刊行物2のいずれにも全く記載されていない。
(2) 審決は,「2重モード弾性表面波フィルタとするために、一方モードの反共振周波数と他方モードの共振周波数を近づける(反共振周波数と共振周波数の差を小さくする)こと」(審決書10頁19行〜11頁2行)は,甲第16号証刊行物に記載されていると認定しているものの,同刊行物のいずれの記載からこのように認定しているのかは不明である。
同刊行物には,「従来,二重モード圧電フィルタを設計する場合には,一般に,対称モードの反共振周波数fSA と斜対称モードの共振周波数f AR を一致させるように,調整すべきものとされてきたが,本研究により,このような周波数合わせは必ずしも必要なものではなく,両モードの共振周波数の中央で終端整合をとれば,周波数合わせをした場合と殆ど変わらない特性が得られることが明らかになった。」(41頁左欄28行〜36行)との記載がある。
しかし,上記記載は,本願発明で取り扱う弾性表面波とは異なるバルク波(bulk wave) を取り扱い,その圧電板の厚みモードに対する分布定数等価回路を用いて,エネルギーとじ込め型2重モードフィルタを設計する方法について論じられているだけである。しかも,共振モード及びその次数についての特定もされておらず,また,「反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)」と上記記載にいう「周波数合わせ」との関係については,全く言及がなされていない。
(3) 甲第17号証刊行物に,共振周波数が,電極の対数,膜厚,間隔を変えることよって変化することが記載されていること,引用刊行物2に,電極の膜厚と間隔の比を変えることによって共振周波数が変化することが記載されていることは,審決が認定するとおりである。
しかしながら,本願発明では,「縦0次共振モードの共振周波数と縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差」によって決せられる「正規化周波数差」をパラメータとして,通過帯域特性を特定する手法を採用しており,「正規化周波数差」は,できるだけ小さい値をとるものとしているのである。
甲第17号証にいう「共振周波数差」とは,多対IDT電極のみからなる共振器の単一モードの共振周波数,及び,この共振器を2個その表面波伝搬方向に直列に配し音響的に結合した場合に生ずる2つのモード(対称モード,反対称モード)の共振周波数差Δf(このΔfはフィルタの帯域幅のほぼ半幅値を与えるもの)であり,本願発明の「正規化周波数差」とは全く異なるものである。
また,引用刊行物2に記載された「共振周波数の差」とは,縦結合DMS(Double Mode Surface Acoustic Wave)共振器の2つのモードの共振周波数の差Δf(このΔfはフィルタにおいて必ずある一定値以上の値をとる通過帯域幅を決定するパラメータである。)であり,本願発明の「正規化周波数差」とは全く異なるものである。
(4) 本願発明は,従来技術においては不要で抑圧すべきものであるとされていた縦2次共振モード(スプリアスモード)を利用して帯域幅を広くするという新規な着想に基づき,この技術思想による技術を実現させるためになされた開発研究の結果,「前記入力側IDTおよび2つの出力側IDTの全体の電極対数は縦2次共振モードが励起される対数に設定され,かつ,前記反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)は前記縦0次共振モードの共振周波数と前記縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差が0.0005より小さくなるように設定」するという構成を解明し,「従来の約1.5倍,約0.4%の広い通過帯域をもつフィルタが実現でき,しかも小形になるため実用上の効果は大きいことは明らかである。」と記載されているような,小型で広帯域特性を実現し,近時需要の伸びが著しい携帯電話機等の分野で広範囲に利用されるという特殊効果を達成することができたものである。
本願発明が,引用発明1と同2から,又は,これらと周知技術の単なる寄せ集めから想到し得たものでないことは,明らかである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(引用発明1の認定の誤りに基づく一致点の誤認)について 引用発明1に係る「弾性波共振器装置」が本願発明の「弾性表面波フィルタ」と等価であることは,審決に認定したとおりである。
2 取消事由2(相違点@及びAに係る認定判断の誤り)について (1) 原告の主張が,引用刊行物2には,「スプリアスを利用し」は明記されていない,「反対称モード(破線)」(2次モード)を利用し2重モード弾性表面波フィルタとすることが記載されている,という意味であれば,そのとおりである。
審決が,引用刊行物2に「スプリアスを利用し」た技術が記載されているとしたのは,そこに記載された技術に対する技術的評価をした結果をそのように表現したものである。
技術史的にみて,弾性表面波フィルタの技術分野においては,初めに「単一モード」が開発され,その後に「2重モード」が開発された経緯があり,そして「単一モード2端子対弾性表面波フィルタ」では,「対称モード(実線)」(1次モード)だけが使用され「反対称モード(破線)」(2次モード)は使用されないので,「反対称モード(破線)」(2次モード)は,従来「スプリアス」と呼ばれていた。引用刊行物2の「2重モード2端子対弾性表面波フィルタ」では,その従来「スプリアス」と呼ばれていた「反対称モード(破線)」(2次モード)を使用している。そうすると,当業者であれば,引用刊行物2の記載から「スプリアスを利用し」ていることを読み取ることができることが明らかである。
このように,引用刊行物2には,技術的評価として「スプリアスを利用し」といえる技術が記載されている,ということができるのである。
(2) 審決は,引用発明1に1個の共振子で2重モード弾性表面波フィルタを構成する技術思想が存在し,引用発明2に縦0次共振モードと縦2次共振モードとを利用する技術思想が存在することを前提として,本願発明を容易になし得たものと認定したのではない。
しかしながら,そうであるとしても,引用発明1に同2を適用しようと考えることは,当業者にとって容易なことであり,そのように適用すると,縦0次共振モードと,従来はスプリアスとされ利用されていなかった縦2次共振モードとを利用した2重モード弾性表面波フィルタが得られるのである。
3 取消事由3(相違点Bに係る判断の誤り)について 原告らの主張は争う。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明1の認定の誤りに基づく一致点の誤認)について (1) 甲第13号証によれば,引用刊行物1(特開昭54-60842号公報)には,「「圧電基板1」と,該「圧電基板1」の中央に配置された「入力トランスジューサITD1」と,該「入力トランスジューサITD1」の両側に配置され並列接続されたほぼ相等しい電極対数を有する「出力トランスデューサOTD11,OTD12」と,該「出力トランスジューサOTD11,OTD12」の両側に配置された格子状「反射器R1,R2」とを備えて,弾性表面波の伝搬方向に励起され前記両側」の「反射器R1,R2」の間に生ずる縦0次共振モードを利用するエネルギー閉じ込め形2端子対「弾性波共振器装置」」(審決書3頁18行〜4頁8行参照)の技術が記載されていることが認められ,原告らも特にこれを争っていない。
同号証によれば,引用刊行物1には,更に,「本発明共振器装置または電気フィルタ(判決注・「フイルタ」は「フィルタ」の誤記と認める。以下同じ。)では,基板が伝搬しうる弾性波を,トランスジューサおよび反射器が設けられている基板の表面内を伝搬する表面弾性波とすることができ,あるいは基板の表面に平行かつ密接して伝搬するバルク弾性波とすることができる。」(8頁左上欄4行〜9行),「第5図は,2つの共振空胴をトランスジューサ結合した本発明結合弾性波共振器電気フィルタの略平面図である。・・・2個の弾性波共振器装置は,第5図に示すように,第1装置の出力端子を第2装置の出力端子に接続することによって互いに結合され,結合共振器電気フィルタを形成する。」(12頁左上欄2行〜右上欄6行)との各記載があることが認められる。
以上認定の引用刊行物1の各記載の事実を併せ考えると,同刊行物には,「弾性波共振器電気フィルタ」は,弾性波共振器装置の利用形態の一つであること,2個の弾性波共振器装置を組み合わせることで結合共振器電気フィルタを形成することができることが示されていることが明らかである。したがって,審決は,もともと,引用発明1の「弾性波共振器装置」と本件発明の「弾性表面波フィルタ」との「等価」などという,必ずしも明瞭でない概念を介することなく,同刊行物の上記記載から,同刊行物に,「弾性表面波フィルタ」の技術が記載されていると認定することもできたものというべきである。
(2) 原告らは,引用発明1に係る「弾性波共振器装置」は,本願発明の「弾性表面波フィルタ」と構成において類似しているものの,IDTの電極対数,IDTの間隔などによって決まる周波数特性が等しくなるわけではないから,「等価」とはいえない旨主張する。
しかし,審決が,両発明の周波数特性が等しいと認定しているわけではないこと,すなわち,周波数特性を一致点としているわけではないことは,審決の説示自体で明らかである。原告らの上記主張は,審決の説示の誤解に基づくものであり,失当である。
2 取消事由2(相違点@及びAに係る認定判断の誤り)について (1) 相違点@及びAに係る引用発明2の認定の誤り,について 引用刊行物2に,「スプリアスを利用し」は明記されていないこと,同刊行物に,「反対称モード(破線)」(2次モード)を利用し2重モード弾性表面波フィルタとすることが記載されていることは,当事者間に争いがない。
被告は,審決が,引用刊行物2に「スプリアスを利用し」と記載されていると認定したのは,そこに記載されている技術に対する技術的評価をした結果をそのように表現したものである旨主張する。
審決が,引用発明2との関係で「スプリアスを利用」する技術について言及したのは,本願発明の願書に添付された明細書(以下「本願明細書」という。)に,本願発明が従来技術でスプリアスとして扱われていた縦2次モードを利用したものであると記載されていることに着目してのことであり,引用発明1に同2を組み合わせることの容易性について判断するための一つの判断要素として,引用刊行物2に「反対称モード(破線)」(「2次モード」,本願発明の「縦1次共振モード」と同義である。)を利用して2重モード弾性表面波フィルタとすることが記載されていることを認定し,これを,「対称モード(実線)」(「1次モード」,本願発明の「縦0次共振モード」と同義である。)との関連で「スプリアス」と表現したものであることは,審決書の説示自体から明らかである。
(2) 相違点@及びAについての判断の誤り,について (イ) 甲第15号証によれば,引用刊行物2(1986年11月東洋通信機株式会社発行「東洋通信機技報1986年第39号」)に,次の技術が記載されていることが認められる。
「圧電基板と,該圧電基板に配置された「IDT1」と「IDT2」と,これら「IDT」の両側に配置された格子状反射器とを備えて,弾性表面波の伝搬方向に励起され前記両側の反射器の間に生ずる「対称モード(実線)」(「1次モード」,本願発明の「縦0次共振モード」と同義である。)を利用するエネルギー閉じ込め形2端子対弾性表面波フィルタにおいて,前記「IDT」の全体の電極対数は「反対称モード(破線)」(「2次モード」,本願発明の「縦1次共振モード」と同義である。)が励起される対数に設定されている2重モード2端子対弾性表面波フィルタ,であって,通過帯域幅を広くすることができ」(審決書6頁1行〜15行参照)る,「反対称モード(破線)」(「2次モード」,本願発明の「縦1次共振モード」と同義である。)を利用した2重モード弾性表面波フィルタ (ロ) 甲第9号証(本願明細書中の発明の詳細な説明の欄中の従来技術についての記載),同第15号証(引用刊行物2)及び弁論の全趣旨によれば,弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)共振器において,IDTにより励振された弾性表面波は両側の反射器により反射され定在波となり,そのエネルギーは反射器間に閉じ込められ,このとき,伝搬方向(縦方向)にはキャビティが構成されて,0次,1次,2次及び更に高次の変位分布をもつ共振モードが励起され,また,伝搬方向と直角な方向(横方向)についても,同様に,0次,1次,2次及び更に高次の変位分布をもつ共振モードが励起されること,この事実は,本願出願当時,周知の事項であったことが認められる。
甲第13号証(引用刊行物1)と弁論の全趣旨とによれば,引用発明1は,本願発明と同様に3個のIDTを用いる構成でありながら,縦0次共振モードのみを利用し,縦2次共振モードを含む他の共振モードのすべてをスプリアスとして扱ってこれを抑圧した「(縦0次共振モードのみを利用する)エネルギー閉じ込め形2端子対弾性表面波フィルタ」であることが明らかである。
上記弾性表面波共振器の原理に照らせば,引用発明1は,3個のIDTにより励振される縦0次,1次,2次及び更に高次の変位分布をもつ共振モードのうち,縦0次共振モードを利用するために,その余の共振モードのすべてを抑圧するというものである。
甲第15号証によれば,引用刊行物2には,「図3(a)に示すように同一の電極周期,交叉幅をもつ対数の等しい2組のIDTをSAWの伝搬方向に直列に近接配置しその両側に十分な反射効率をもつ反射器を配したとき,反射器間がSAWの伝搬領域,その外側が減衰領域となり,IDTで励起されたSAWは反射器で反射されキャビティ内(反射器間)に閉込められる。このとき図3(b)に示したような対称モード(実線),反対称モード(波線)及び更に高次の共振モードが励起されるが,IDTが2分割されているため1次および2次のモードのみが電気的に励振できる。このようなSAW共振器を縦結合2重モード(縦結合DMS)共振器と称した。」(11頁左欄下から3行〜右欄9行),「又,DMS共振器を用いてフィルタを構成する場合,1次(対称)モード,2次(反対称)モードには高い共振器Qを持たせ,その他のインハーモニックモード(スプリアス)は抑圧する必要がある。・・・高次横モードを抑圧するためIDTにはCOS型の重み付を施すと共に入出力間のアイソレーションを確保するための2つのIDT間に幅10Lのシールド電極を設けた。」(13頁右欄12行〜21行)との各記載があること,及び,「図3」として「縦結合DMSフィルタの電極構成と2つのモードの変位分布」の図面(別紙図面(3)の図1,図3参照)が示されていることが認められる。
引用刊行物2の上記認定の記載によれば,引用発明2は,3個のIDTを使用し,本願発明にいう縦0次共振モード及び縦1次モードのみを励起し,その余の共振モードのすべてを抑圧するというものであること,引用発明1においてはスプリアスとして扱われ抑圧されていた縦1次共振モードを,積極的に利用しているものであることが明らかである。
そうすると,上記のとおり,一方において,引用発明1は,3個のIDTにより励振される縦0次,1次,2次及び更に高次の変位分布をもつ共振モードのうち,縦0次共振モードを利用するために,その余の共振モードのすべてを抑圧するというものであり,他方において,引用発明2は,3個のIDTを使用し,縦0次共振モード及び縦1次共振モードのみを励起し,その余の共振モードのすべてを抑圧するというものであるというのであるから,引用発明1と同2とを組み合わせたからといって,それだけで,縦2次共振モードを利用するという本願発明の構成になるわけではなく,本願発明の構成に至るためには,引用発明2で利用している縦1次共振モードを縦2次共振モードに代えなければならない。しかし,両引用発明のいずれにおいても,スプリアスとして扱われている縦2次共振モードをあえて利用しようとする発想が当業者に容易に生じ得るのかどうかを,具体的検討なしに明らかにすることはできないものというべきである。
被告は,技術史を根拠に,弾性表面波フィルタの技術分野において,当業者であれば,引用刊行物2の記載から「スプリアスを利用し」ていることを読み取ることができる旨主張する。
しかしながら,従来,スプリアスとされてきたものの中のあるものが利用されているとの情報から,当然に,スプリアスとされてきた他の特定のもの,あるいは,スプリアスとされてきたもののすべてを利用し得るとの認識が生まれるとすることはできない。そのような認識が生まれるか否かを明らかにするには,具体的検討を要するものというべきである。
以上によれば,上記のような検討をなさずに,一般論によって,引用刊行物2の記載から「スプリアスを利用し」ていることを読み取ることができるとの前提の下に,相違点@に係る本願発明の構成について,進歩性を否定したのは,早計というべきである。
3 取消事由3(相違点Bに係る判断の誤り)について (1) 相違点Bに係る本願発明の構成,すなわち,「前記反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)は前記縦0次共振モードの共振周波数と前記縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差が0.0005より小さくなるように設定」するという構成について,審決は,甲第16号証刊行物,同第17号証刊行物及び引用刊行物2の図4とその説明等から,「2重モード弾性表面波フィルタとするために,一方モードの反共振周波数と他方モードの共振周波数を近づける(反共振周波数と共振周波数の差を小さくする)こと」,「共振周波数が,電極の対数,膜厚,間隔を変えることよって変化すること」,「電極の膜厚と間隔の比を変えることによって共振周波数が変化すること」が認められるとして,そうである以上,上記構成は,当業者が容易になし得たことである,と説示するのみである。
仮に,審決の説示するとおり,甲第16号証刊行物,同第17号証刊行物及び引用刊行物2の図4とその説明等から,上記「2重モード弾性表面波フィルタとするために,一方モードの反共振周波数と他方モードの共振周波数を近づける(反共振周波数と共振周波数の差を小さくする)こと」,「共振周波数が,電極の対数,膜厚,間隔を変えることよって変化すること」,「電極の膜厚と間隔の比を変えることによって共振周波数が変化すること」が認められるとしても,当業者において,これらの事実から,直ちに,「前記反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)は前記縦0次共振モードの共振周波数と前記縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差が0.0005より小さくなるように設定」するという構成に想到し得たものとすることはできない。
なぜならば,上記構成は,「前記反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)」を,「前記縦0次共振モードの共振周波数と前記縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差が0.0005より小さくなる」ように設定するというものであって,審決が指摘する記載から,どのような根拠によって,上記「正規化周波数差が0.0005より小さくなる」という構成を導き出し得るのか不明であり,また,審決のいう各事実をどのように組み合わせても,上記設定を導き出すものとはならないからである。
(2) 念のため,本願明細書によって,相違点Bに係る本願発明の構成の技術的意義を検討する。
本願明細書(甲第9号証)の発明の詳細な説明には,次の記載があることが認められる。
(発明の属する技術分野)「本発明は,弾性表面波フィルタに関し,特にエネルギー閉じ込め形2端子対弾性表面波共振子の多重モード共振を利用した広い通過帯域特性を有する弾性表面波フィルタに関するものである。」(2頁3欄24行〜27行)(従来の技術)「圧電基板上のすだれ状変換器(Interdigital Transducer,以下IDTと略記する)の両側に,格子状反射器を有するエネルギー関じ込め形弾性表面波共振子およびフィルタは,摂動論とモード結合理論に基づいて設計される。」(2頁3欄29行〜32行)(発明の目的)「本発明の目的は,従来スプリアスとして扱われていた縦2次モードを利用し周波数合わせを行うことにより,通過帯域幅の広い2重モード弾性表面波フィルタ,および4重モード弾性表面波フィルタを提供することにある。」(3頁5欄32行〜35行)(発明の構成と作用)「本発明は,縦0次モードを利用する単一モード2端子対弾性表面波フィルタの両側の格子状反射器の相互間隔を広げてその間のIDT対数を多くし,ある対数以上になったとき新たに励起される縦2次モードを有効活用する手段を設定して通過帯域幅の広い2重モード2端子対弾性表面波フィルタを実現したものであり,圧電基板と,該圧電基板の中央に配置された入力側IDTと,該入力側IDTの両側に配置され並列接続された前記入力側IDTとほぼ等しい電極対数を有する出力側IDTと,該出力側IDTの両側に配置された格子状反射器とを備えて,弾性表面波の伝搬方向に励起される縦0次共振モードを利用するエネルギー閉じ込め形2端子対弾性表面波フィルタにおいて,前記入力側IDTおよび2つの出力側IDTの全体の電極対数を縦2次共振モードが励起される対数以上に設定し,かつ,前記反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)を前記縦0次共振モードの共振周波数と前記縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波致差が0.0005より小さくなるように設定したことを特徴とするものである。以下図面により本発明を詳細に説明する。第5図(a),(b)は,本発明による2重モード2端子対弾性表面波フィルタの実施例の電極の構成例と,縦0次モード(M0)4と縦2次モード(M2)6の変位分布を示す。」(3頁5欄37行〜6欄10行),「第6図は,第5図の実施例における2つのモードM0とM 2のそれぞれ共振周波数(f r)16,18と反共振周波数(fa)15,17の両反射器間の全体のlDT対数に対する関係を示す。」(3頁6欄33行〜35行),「第7図は,第5図の実施例における縦0次モードM0と縦2次モードM 2のそれぞれの共振周波数(f r)16,18と反共振周波数(fa)15,17の膜厚依存度を示したものでIDT対数は150対の場合である。第7図において,電極膜厚が厚くなる(H/Pが大きくなる)につれて,それぞれのモードM0,M 2の容量比が小さくなり,共振周波数f rと反共振周波数f aとの差が大きくなるとともに,それぞれの周波数は低くなる傾向を示す。本発明では,第6図と第7図の特性で示される縦2次モードM2の反共振周波数17と縦0次モードM0の共振周波数16の周波数差が小さくなることに着目し,例えば,正規化膜厚(H/P)を0.06に設定し,その値における両反射器間の全IDT対数を第6図に示したように240対に設定することにより,縦0次モードM0の共振周波数f rと縦2次モードM 2の反共振周波数f aを近づけて正規化周波数の周波数差が0.0005以下になるようにする。このように,IDT対数と膜厚を予め設定することによってスプリアスとして扱われていた縦2次モードM0を通過帯域幅を広げるために有効活用できることを発見したのである。lDT対数と膜厚の選定はいずれを先に設定してもよい。第7図でH/Pを0.07に設定すれば,第6図でのIDT対数が210程度となることが示されている。即ち,圧電基板の材質,種類にそれぞれ対応するlDT対数と電極膜厚を設定することにより,縦0次モードM0の共振周波数f rと縦2次モードM 2の反共振周波数faの周波数差を小さくし,通過帯域幅の広い2重モード2端子対弾性表面波フィルタを実現したのである。本実施例では圧電基板はXcut -112゜回転Y伝搬LiTaO3を用いた場合,比帯域幅が約0.40%得られた。」(3頁6欄48行〜4頁7欄26行)(発明の効果)「以上詳細に説明したように,スプリアスとなる縦2次モードのためにIDT対数が制限された単一モード共振子を2個縦続接続した従来の構成による2重モードフィルタでは,比帯域幅を広くとることができず,約0.26%程度が限界であったのに比べて,本発明によれば,1つの共振子を2重モードフィルタとし,またそれを2段縦続接続することによって4重モード弾性表面波フィルタとし,従来スプリアスとして扱われてきたモードを積極的に利用してこれらのモードの周波数合わせをすることにより,従来の約1.5倍,約0.4%の広い通過帯域をもつフィルタが実現でき,しかも小形になるため実用上の効果は大きいことは明らかである。」(6頁7行〜18行) 本願明細書の上記認定の各記載によれば,本願発明は,縦0次共振モードと縦2次共振モードのみを利用する2重モードの弾性表面波フィルタにおいて,「前記入力側IDTおよび2つの出力側IDTの全体の電極対数は縦2次共振モードが励起される対数に設定され,かつ,前記反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)は前記縦0次共振モードの共振周波数と前記縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差が0.0005より小さくなるように設定」するという条件を満たすことによって,通過帯域を,単一モード共振子を2個縦続接続した従来の構成による2重モードフィルタに比べ,比帯域幅を約1.5倍の約0.4%に広げることができたというものであることが認められる。
そうであるならば,本願発明は,「前記反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)」を,「前記縦0次共振モードの共振周波数と前記縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差が0.0005より小さくなる」ように設定するという構成に技術的意義があるのであって,審決の例示する刊行物が,これを全く開示していないことは明らかである。
審決の判断は,結局のところ,「前記入力側IDTおよび2つの出力側IDTの全体の電極対数は縦2次共振モードが励起される対数に設定され,かつ,前記反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)は前記縦0次共振モードの共振周波数と前記縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差が0.0005より小さくなるように設定」するという要件は,単なる設計事項にすぎない,としなければなし得ない立論であるということになる。しかしながら,本件全証拠を検討しても,上記要件が単なる設計事項にすぎないことを示唆する証拠を見いだすことができない。
そうすると,審決は,「前記入力側IDTおよび2つの出力側IDTの全体の電極対数は縦2次共振モードが励起される対数に設定され,かつ,前記反射器の格子ピッチPに対する電極膜厚Hの比(H/P)は前記縦0次共振モードの共振周波数と前記縦2次共振モードの反共振周波数の正規化周波数差が0.0005より小さくなる」という構成の技術的意義について問題意識をもって検討しないままに結論を導いたものというべきであり,これが審決の誤りとなることは,明らかである。
4 結論 以上のとおりであるから,審決には,上述した諸点について十分な検討をしないままに結論に至った点に誤りがあり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。本件においては,改めて,特許庁において,上述した諸点についての適切な審理判断がなされるべきである。
そうすると,審決の取消しを求める原告らの請求は,理由があることが明らかであるから,これを認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸