運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1999-7079
関連ワード 発明者 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  技術常識 /  実施 /  混同 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (行ケ) 455号 審決取消請求事件
原告 三洋電機株式会社
訴訟代理人弁理士 芝野正雅
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 西川一
同 大森蔵人
同 大野克人
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/11/01
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成11年審判第7079号事件について平成12年10月17日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成3年4月15日,発明の名称を「地図表示方法」とする発明につき特許出願(平成3年特許願第82457号)(以下「本願」という。)をしたが,平成11年3月1日拒絶査定を受けたので,同年4月28日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを平成11年審判第7079号事件として審理した結果,平成12年10月17日「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年11月8日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲 請求項1(以下,この発明を「本願発明1」という。) 所定地域の地図を画面上に表示するとともにこの地図上の所定の道路区間に対して一方通行などの付加的な交通情報を重ね表示する地図表示方法において,前記道路区間の両端にその区間の交通情報の内容を表す記号を重ね表示することを特徴とする地図表示方法。
3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおり,本願発明1は,特開平2-248814号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明し得たものであり,特許法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができないものであるから,本願は,請求項2に係る発明については論じるまでもなく,拒絶されるべきである,と認定判断した。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,【1】(手続の経緯・本願発明)は認める。同【2】(引用例)については,審決書2頁18行ないし26行の「少なくとも・・・地図表示方法。」との部分は争い,その余は認める。同【3】(対比)については,同3頁13行ないし17行中の「次の点で相違する。・・・引用例のものでは・・・表示画面上に重ね表示されるのか否か,明記されていない点。」との部分のみを認め,その余はすべて争う。同【4】(当審の判断),【5】(むすび)については争う。
審決は,引用例の記載の意味を誤認して本願発明1と引用例記載の発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),また,本願発明1の顕著な作用効果を看過して(取消事由2),進歩性の判断を誤ったものであり,違法であるから取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用例の記載の意味の誤認に基づく一致点の誤認) (1) 引用例第1図(B)に表示される符号についての認定の誤り ア 審決は,引用例の記載につき,「これらの記載,及び第1図(B)に依れば,第1図(B)中の,新設道路の始端,及び終端に付記された記号(マルA,マルB)が,表示画面上において表示されているか否かは,引用例の公報の記載からでは必ずしも明らかではないが,少なくとも第1図(B)に示された地図表示においては,新設道路の始端,及び終端に記号(マルA,マルB)が付記されている。
そして,表示画面上には,少なくとも所定地域の地図と,新設道路(RN)が表示されているのであるから,結局,引用例には以下のものが記載されていると言える。
所定地域の地図を画面上に表示する一方,地図上の新設道路区間に対して始端及び終端を表す記号を付記する地図表示方法において,前記新設道路区間の両端にその区間が新設道路であることを表す記号を付記するようにした地図表示方法。」(審決書2頁15行〜26行)と認定している。
しかし,引用例の「この第1図(B)において,表示画面(81)上に表示されているものは,既存の道路(R1〜R3),鉄道線路(RR)および,始点Aから終点Bまで新設された道路(RN)である。」(3頁左下欄5行〜9行)との記載によれば,表示画面に表示されるのは,既存の道路(R1〜R3),鉄道線路(RR)及び新設道路(RN)の3つのみであり,その他は,これら表示対象を説明するための説明符号にすぎず,「」,「 」等の説明符号は,表示画面上には,表示されない。なお,引用例の「次いで,GPSナビゲーション機能または自立型ナビゲーション機能により,移動体の位置を始点Aに設定する(S21)。」(3頁左下欄16行〜18行)との記載に照らせば,表示画面に新設道路が表示される前の段階(新設道路の位置データを取り込む段階)の記載において「A」の記載が見られることからも,Aは始点の説明符号であることが明らかである。したがって,引用例第1図(B)における「」,「 」は,説明符号であり,表示画面上に表示される要素ではないから,「」,「 」が表示画面上において表示されているとした審決の認定は,誤っている。
なお,審決は,引用例の詳細な説明において,A,Bが()付きで記載されていないことを根拠に,「」,「 」は説明符号ではないという。しかし,A,Bに()を付けなかった意図を理解することなど本来的に不可能である。また,引用例には,「第1図(A),第1図(B)」のように,図番の引用に()を付した記載も見られるので,この図番の記載との混同を避けるために,A,B に()を付けなかったと解することもできる。()付きで記載されていないことを根拠に図面の記載を認定すること自体,根拠を欠くものである。また,被告は,引出線がないことを根拠に,第1図(B)における「」,「 」は説明符号ではないと主張する。しかし,引出線は,本来,図中の部位を指摘するためのものであるから,部位を指摘するために必要がなければ,省略されることがある。第1図(B)では指摘すべき部位である始点及び終点を「×」により指摘したために引出線を引く必要がなかっただけであると考えることが十分可能である。引出線がないことは,説明符号ではないことの根拠とはならない。
被告は,乙第1号証及び乙第2号証により,第1図(B)における「」,「 」が説明符号ではないことの立証を試みるが,引用例に記載された発明は引用例の記載によってのみ理解されなければならないから,このような立証の試みは失当である。
イ 被告は,審決は,引用例第1図(B)について,表示画面とは離れ,単なる図面としての一つの地図表示とみなし,そこに記号, が「付記」されている,と認定したものであり,表示画面において,記号, が「表示」されていると認定したものではないと主張する。
しかし,発明は,明細書添付の図面のみから認定されるのではなく,明細書の記載と同添付の図面と一体で認定されるべきものである。当業者においては,引用例における明細書の記載を読みながら,同添付の図面中の第1図(B)を見て,そこに開示された発明の内容を理解するものである。審決は,引用例における発明を認定する際に,その第1図(B)を「一つの地図表示」とみなすことにより,明細書の記載を無視した解釈をするものであり,その引用例についての上記認定には,重大な誤りがある。
(2) 引用例の第1図(B)における「」,「 」が表す内容についての認定の誤り 審決は,「引用例中,第1図(B)の地図表示において,道路の始端及び終端に付記された記号(マルA,マルB)によって,その区間の道路が新設道路であることと,その始点及び終点の所在位置という,運転者にとって道路を通行する上で有益な情報(交通情報)を与えるものであることは明らかであるから,引用例における「始端及び終端を表す記号」は付加的な交通情報を有するものであって,請求項1に係る発明における「一方通行などの付加的な交通情報」に相当すると言える。」(審決書2頁33行〜39行)とした上で,「」,「 」は本願発明1の「その区間の交通情報の内容を表す記号」であると認定する(審決書3頁3行〜7行及び11行)。しかし,これらの記号が伝える情報についての審決の上記認定は,誤りである。
ア 本願発明1の「交通情報の内容を表す記号」は,一方通行の交通標識などそれを見ただけで誰もが即座に交通情報の内容を理解できるものであるのに対し,引用例の「」,「 」は,単なる説明符号であり,それがそのまま交通情報の内容を表すようなものではない。したがって,引用例の「」,「 」は,本願発明1の「交通情報の内容を表す記号」には相当しない。
引用例第1図(B)を「一つの地図表示」とみなしても,図面のみから理解できるのは精々RRが鉄道でありR1〜R3が道路であることにとどまり,「点線(RN)」及び「」,「 」が意味するものを理解することはできない。したがって,第1図(B)を一つの地図情報とみなしたとしても,「」,「 」が「交通情報の内容を表す記号」であるとは言えない。また,審決は,RNが新設道路であること,A,Bが新設道路の始点と終点であることを,引用例の明細書の記載から理解している。これは,第1図(B)を明細書の記載から離れて,「一つの地図表示」とみなしながら,同図中のRNや「」,「 」を理解する際には明細書の記載を参照しており,矛盾しているものであって,失当である。
イ 引用例には「新設道路は点線で表示される」旨の記載はないこと,引用例の課題は「新設道路データを既存の地図データに重ねて記憶させるようにして,更新された既存の地図データの供給を待つことなく,最新の地図データに関する画像を表示装置の画面に表示できるようにすること」にあり,新設道路を既存道路と区別して表示することではないことからみて,表示画面上は,新設道路が他の既存道路と区別して表示されないから,使用者は,表示画面上,当該道路が新設道路であるとの情報を把握することはできない。仮に,新設道路が点線で画面上に表示されるとしても,使用者は,点線が新設道路を示すとの約束を知って初めて当該道路が新設道路であるとの情報を把握できるものであって,即座にその情報を把握できるものではない。また,引用例第1図(B)においては,同第3図(B)との対比のために,便宜上,新設道路を点線で記載したとも解釈できる。
そうすると,引用例第1図(B)における「」,「 」が,「その区間の道路が新設道路であること,その始点及び終点の所在位置という・・・有益な情報(交通情報)を与える」(審決書2頁34行〜36行)との審決の認定も誤りである。
(3) 一致点認定の誤り 審決は,本願発明1と引用例記載の発明とを対比して,「所定地域の地図を画面上に表示する一方,地図上の所定の道路区間に対して一方通行などの付加的な交通情報を付記する地図表示方法において,前記道路区間の両端にその区間の交通情報の内容を表す記号を付記するようにした地図表示方法」(審決書3頁9行〜12行)である点で一致すると認定した。しかし,この認定が,両発明が「前記道路区間の両端に・・・記号を付記する」ことで一致するとした点において,そもそも誤りを犯すものであり,また,仮にその点は問わないとしても,そのときは,両発明が,付記された記号が「その区間の交通情報の内容を表す」ことで一致するとした点において誤りを犯すものである。審決の上記一致点認定の誤りが,その結論に影響を及ぼすことは,明らかである。
2 取消事由2(顕著な作用効果の看過) 本願発明1は,「前記道路区間の両端にその区間の交通情報の内容を表す記号を重ね表示する」との構成によって,「交通情報が付された道路区間の端部が地図表示領域外にはみ出した場合においても,使用者に確実且つ即座にその交通情報の内容を知らしめることができる」との効果を奏するものである。引用例には,この効果につき開示がない。審決はこの効果を看過している。
被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,原告主張の審決取消事由はすべて理由がない。
1 取消事由1(引用例の記載の意味の誤認に基づく一致点の誤認)について (1) 引用例第1図(B)に表示される符号についての認定の誤りについて ア 原告は,「」,「 」が表示画面上に表示される旨の審決の認定は誤りであると主張する。しかし,審決は,「第1図(B)に・・・記号(マルA,マルB)が付記されている」(審決書2頁18行〜19行)と認定したのであって「」,「 」が表示画面上に表示される旨認定しているのではない。
審決は,@引用例には,始点Aから終点Bまでの新設道路(RN)を表示画面上に表示するとの記載はあるが,「」,「 」を表示画面上に表示するとの記載はないこと,A第1図(B)を表示画面とは離れ一つの地図表示とみなすと,第1図(B)には「」,「 」が「付記」されていること,B「付記」の概念は,本願発明の「重ね表示」を包含すること,及び,C第1図(B)を地図表示とみなすと,「地図情報を表示画面上に表示する」点も当然相違点となるが,引用例の地図情報がカーナビゲーション装置で表示されること及びカーナビゲーション装置では地図情報を表示画面上に表示することは当然のことであることを考慮すると,あえて相違点とすべきほどのものでもないことを前提に,第1図(B)に「」,「 」が付記されているとしたものである。
すなわち,審決は,「所定地域の地図を画面上に表示する一方,地図上の所定の道路区間に対して一方通行などの付加的な交通情報を付記する地図表示方法において,前記道路区間の両端にその区間の交通情報の内容を表す記号を付記するようにした地図表示方法」(審決書3頁9行〜12行)を一致点とし,「請求項1に係る発明では,交通情報を表す記号は所定地域の地図を表示した画面上に重ね表示されるのに対し,引用例のものでは,交通情報を表す記号は所定の道路区間の両端に付記されるものの,表示画面上に重ね表示されるのか否か,明記されていない点」(審決書3頁14行〜17行)を相違点とした。
以上のとおり,審決は,第1図(B)に「」,「 」が付記されていると認定したのであって「」,「 」が表示画面上に表示されるとは,認定していない。
イ 原告は,第1図(B)における「」,「 」は,説明符号である旨主張するが,「」,「 」は説明符号ではない。
(ア) 説明符号は引出線を引いて記載すること,引出線がある符号は図面の説明符号であることは技術常識である(特許法施行規則第25条様式第17(参考資料))。これによれば,引用例のR1〜R3,RR,RNは引出線があるから説明符号である。一方,「」,「 」は引出線がないから説明符号ではなく図面に付記された記号(もとの地図の上に付け足された記号)である。また,引用例では説明符号は全体的に()付きで記載されているのに,A,Bは()付きではないから,「」,「 」は説明符号ではなく付記された記号である。
さらに,このことは,乙第1号証及び乙第2号証(引用例に係る出願と同一の日の出願であって,同一の出願人及び発明者に係る出願の公開公報)の記載からも明らかである。
審決は,明細書の記載に関する技術常識に従い,引用例の表現形態に実質的な意味を認めて,第1図(B)に「」,「 」が付記されていると認定したものであり,正当である。
(イ) 原告は,引用例の「GPSナビゲーション機能または自立型ナビゲーション機能により,移動体の位置を始点Aに設定する(S21)。」(3頁左下欄16行〜18行)との記載によれば,表示画面に新設道路が表示される前の段階の記載において「A」の記載が見られるから,「」,「 」は説明符号であり表示画面に表示される要素ではないと主張する。
上記記載は,ナビゲーション機能により得られた始点Aの位置データを設定・入力する過程を記載したものである。これを前提にすると,上記記載は,始点Aを表示画面上に表示する際,始点Aの位置データをあらかじめ入力・記憶しておく必要があることから,始点Aを表示するために必要な過程を記載したものと解釈することができる。
したがって,上記記載をもって,「」,「 」は説明符号であり表示画面に表示される要素ではない,ということはできない。
(2) 引用例第1図(B)における「」,「 」が表す内容についての認定の誤りについて ア 原告は,本願発明1の「交通情報の内容を表す記号」は,一方通行の交通標識などそれを見ただけで誰もが即座に交通情報の内容を理解することができるものであるのに対し,引用例の「」,「 」は,単なる説明符号であり,そのまま交通情報の内容を表すものではないから,本願発明1の「交通情報の内容を表す記号」に相当しないと主張する。
しかし,地図情報(道路地図等)に付記された記号が当該記号の付記位置の近傍につき地図に関する特定の情報を意味することは経験則であり,その記号の態様も地図使用者が特定の情報を認識できる限度のもので足りるということができる。引用例は,新設道路の始点及び終点という道路通行上有益な情報を使用者が認識できるようにするものであるとの限度において,始点をに終点を に対応させたものであるから,「」,「 」は,使用者にとって,始点又は終点を意味することとなり,本願発明1の「交通情報の内容を表す記号」の意味と異ならない。
したがって,原告の主張は理由がない。
イ 原告は,表示画面上では,新設道路が他の既存道路と区別して表示されないから,仮に,新設道路が点線で画面上に表示されるとしても,使用者は,点線が新設道路を示すとの約束がない限り当該道路が新設道路であるとの情報は把握できない,として,これを前提に,第1図(B)における「」,「 」が新設道路の始点及び終点という有益な情報を与える旨の審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,引用例の「次に,ファンクション・キー装置(9)内の入力開始キーをONにする(S22)。これに続くステップ(S23)においては,ある時点における移動体の存在位置を検出して,当該時点での現在位置を表示させる。次のステップ(S24)においては,移動体が所定の距離・(例えば10m)以上移動したか否かの判定がなされる。そして,この判定の結果がYESであったときには,ステップ(S25)に移行して,該当の位置に対する位置データの記録がなされる。」(3頁左下欄18行〜右下欄7行)との記載によれば,新設道路の位置データは間欠的に記録されているから,新設道路は点線(間欠的)で実際に画面上に表示されると解するのが自然である。説明の便宜上,点線で記載したものでもない。
また,たとい新設道路が点線で表示されないとしても,審決が「一方,引用例中,第1図(B)の地図表示において,道路の始端及び終端に付記された記号(マルA,マルB)によって,その区間の道路が新設道路であることと,その始点及び終点の所在位置という,運転者にとって道路を通行する上で有益な情報(交通情報)を与えるものであることは明らかであるから,引用例における「始端及び終端を表す記号」は付加的な交通情報を有するものであって,請求項1に係る発明における「一方通行などの付加的な交通情報」に相当すると言える。」(審決2頁33行〜末行)と説示するとおり,新設道路の表示態様に関係なく,道路の始端及び終端に付記された記号によって新設道路であるとの交通情報を把握することができるのであるから,原告主張は誤りである。
(3) 一致点の認定の誤りについて 引用例記載の意味についての審決の認定に,原告の主張の誤りがないことは,上記のとおりである。この誤りの存在を前提とする一致点の誤認についての原告の主張は,失当である。
2 取消事由2(顕著な作用効果の看過) 審決には,本願発明1の効果を看過した誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用例の記載の意味の誤認に基づく一致点の誤認)について (1) 引用例第1図(B)に表示される符号についての認定の誤りについて ア 甲第4号証によれば,引用例には,次の内容の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていることが認められる。
「この発明は,移動体用ナビゲーション装置に関するものであり,特に,例えば新規に開設された道路に関するデータを,地図データ記憶装置内の既存の地図データに重ねて記憶させるようにして,更新された既存の地図データの供給を待つことなく,最新の地図データに関する画像を表示装置の画面に表示できるようにされた移動体用ナビゲーション装置に関するものである。」(1頁右欄10行〜17行参照)。
引用発明の課題は,「従来の装置は・・・地図データ記憶装置に記憶されている地図データが最新の道路状況等に併せて更新されたものではなく,このために,新規に使用の開始がなされた道路が表示装置に表示されないという問題点があった。」(2頁右下欄10行〜15行)との認識に基づき,この問題点を解決することである。
引用発明が課題解決手段として採用した構成は,「ファンクション・キー装置内の所要のキーを用いて,例えば,新しく開設された道路に関するデータのような新規の地図データを,地図データ記憶装置内の既存の地図データに重ねて入力する」(2頁右下欄17行〜3頁左上欄1行)というものである。
引用発明の実施例として,「GPSナビゲーション機能または自立型ナビゲーション機能により,移動体の位置を始点A(判決注:新規に開設された道路の始端)に設定する(S21)。次に,ファンクション・キー装置(9)内の入力開始キーをONにする(S22)。これに続くステップ(S23)においては,ある時点における移動体の存在位置を検出して,当該時点での現在位置を表示させる。次のステップ(S24)においては,移動体が所定の距離■(例えば10m)以上移動したか否かの判定がなされる。そして,この判定の結果がYESであったときには,ステップ(S25)に移行して,該当の位置に対する位置データの記録がなされる。
これに対して,前記判定の結果がNOであったときには,前記ステップ(S25)はスキップされる。次のステップ(S26)においては,入力終了であるか否かの判定がなされる。この判定の結果がYESであったときには,ステップ(S27)に移行して,作業が終了する。これに対して,前記判定の結果がNOであったときには,元のステップ(S23)に戻り,前記されたと同様な作業を続行する。」(3頁左下欄16行〜右下欄15行)との構成,すなわち,移動体をして新規開設の道路を移動させながら,これに応じて移動体の現在位置を地図上に表示し,併せて,移動体が所定の距離だけ移動する毎に,その移動体の位置に対する位置データを記録していく(上記移動体の位置の表示と位置データの記録は,入力終了が検出されるまで続行される)との構成が記載されている。
そして,引用発明の実施例の説明図である第1図(B)において表示画面の表示例が図示され,「この第1図(B)において,表示画面(81)上に表示されているものは,既存の道路(R1〜R3),鉄道線路(RR),および,始点Aから終点Bまで新設された道路(RN)である。」(3頁左下欄5行〜9行)との説明がある。
イ 甲第4号証によれば,引用例には,引用発明が,「例えば,新しく開設された道路に関するデータのような新規の地図データを,地図データ記憶装置内の既存の地図データに重ねて入力するようにして,その使用性を著しく向上させることができるという効果が奏せられる。」(4頁左欄13行〜18行)ものであり,新しく開設された道路等の新規データの入力をその課題としているものであることは記載されているものの,入力された道路が新規道路であることを地図上に示すこと,あるいは,新規道路の始点,終点 を地図上に示すことをその技術的課題とする等の記載,あるいは,新規道路の始点又は終点 を画面上に表示するための構成とそれによる作用効果等を示す記載は全くないことが認められる。そうだとすれば,当業者は,上記のような引用例の明細書の記載及び引用例の第1図(B)を見ることにより,同図中に表示されている「」,「 」について,これらは引用発明の実施例の技術内容を説明するために便宜上付された符号であって,地図そのものにおける符号としての意味を有するものではなく,したがって,これらが,新規道路の始点あるいは終点を意味する記号としてデータに入力されたり,画面上の地図に「」,「 」として表示されたりするものではないと理解するものであることは,明らかというべきである。もちろん,「」,「 」が画面上の地図その他の地図に表示されるようにすることは技術的に可能であるが,引用例においては,前記のとおり,そのようなものとはされていないのである。
審決は,上記の点については一応認識しており,「」,「 」が「表示画面上において表示されているか否かは,引用例の公報の記載からでは必ずしも明らかではない」(審決書2頁16行〜18行)ことは少なくとも認めながら,その上で,「少なくとも第1図(B)に示された地図表示においては,新設道路の始端,及び終端に記号(マルA,マルB)が付記されている。」(審決書2頁18行〜19行)と認定しているものである。これは,引用例の第1図(B)という図面そのものを,地図表示としてとらえ,その地図表示の中に始点又は終点 が記載されていることを認定したものである。しかし,前に詳しく説示したように,引用例の第1図(B)という図面自体,直接的には,引用発明の実施例の技術内容の説明のための図面にすぎず,地図としての情報を提供するための図面ではないのであるから,これを無条件に「地図表示」(地図としての情報を提供するための表示)としてとらえることが,そもそもの間違いなのである。したがって,同図における「」,「」も,そこに記載されることによって,当然に地図表示の一部となるものとすることはできず,これらが地図表示の一部となるとするためには,同図が,直接的には引用発明の実施例の技術内容の説明のための図面であるにもかかわらず,なお,当業者がこれらを地図表示の一部として理解するかどうかについての検討が必要となる。すなわち,同図が,直接的には,引用発明の実施例の技術内容の説明のための図面であるとしても,技術内容の説明の内容として,「」,「 」が地図表示の一部であるものとされていれば,当業者は,当然,この点をとらえて,これらを地図表示の一部としてもみることになるであろうが,そうではない限り,当業者は,当然に,これらを地図表示の一部としてもみる,ということにはならない。そして,引用例の上記記載状況を前提にして,なお,当業者が「」,「 」を地図表示として理解するであろうと考えさせる資料は,本件全証拠を検討しても見いだすことができない(被告は,この点について,「」,「 」は引出線がないから説明符号ではなく図面に付記された記号(もとの地図の上に付け足された記号)である,また,引用例では説明符号は全体的に()付きで記載されているのに,A,Bは()付きではないから,「」,「 」は説明符号ではなく付記された記号である,と主張するが,引出線の有無や()付きの有無などの形式的な事項によって,前記のとおり認定した引用例における「」,「 」の記載の意味が変更されると解すべき理由はなく,被告の上記主張は採用し得ない。)。
ウ 以上によれば,審決は,引用例の記載の意味の認定を誤り,その結果,引用例に記載された技術と本願発明1とが,「・・・道路区間の両端に・・・記号を付記するようにした地図表示方法」である点で一致するとして,一致点の認定を誤ったものであり,この誤りが,審決の結論に影響を与えることは,明らかである。
(2) 引用例第1図(B)における「」,「 」が表す内容についての認定の誤り 仮に,審決の採用した論法により,引用例の第1図(B)を独立の地図表示とみたとしても,同図の「」,「 」を,本願発明1の「その区間の交通情報の内容を表す記号」に相当するものと認めることはできず,審決は,この点においても誤っている。
ア 甲第2,第3号証によれば,本願発明1の内容は,次のとおりであると認められる。
本願発明1は,「所定地域の地図を画面上に表示する・・・地図表示方法」(甲第2号証【0001】)に関するものであり,「かかる補助情報のうち一方通行や通行止など道路に関する情報は,対応する道路区間の開始位置にその内容を示す識別記号を付し,且つ道路区間を識別できるような線イメージをその道路区間に沿って付すことによって地図上に重ね表示されるのが一般的である。」(同【0004】)との従来技術を改良したものである。すなわち,本願発明1が解決しようとする課題は,「かかる車載用の地図表示装置においては,表示地図の特定部分を拡大表示する機能が備えられている。これによりユーザは特定領域の地図をより詳しく知ることができる。しかしながらかかる拡大表示においては,地図上の一部の領域のみを拡大するものであるから,前記補助情報が付された道路区間の始端部がこの領域の外にはみ出す場合がある。このような場合には,地図上にはこの道路区間に沿って付された線イメージのみが画面上に表示され,先頭に付された識別記号は表示されない。このためユーザは,この道路区間には何らかの補助情報が付されていることは分かるが,その付加情報がどのような内容のものであるのかを知ることはできない。本発明は従来装置におけるかかる不都合を解決することを課題としている。」(同【0005】)というものである。
本願発明1は,上記課題の解決手段として,「所定地域の地図を画面上に表示するとともにこの地図上の所定の道路区間に対して一方通行などの付加的な交通情報を重ね表示する地図表示方法において,前記道路区間の両端にその区間の交通情報の内容を表す記号を重ね表示することを特徴とする地図表示方法」(同【0006】,甲第3号証【請求項1】参照)との構成を採用したものである。
本願発明1は,上記構成により「交通情報が付された道路区間の端部が地図表示領域外にはみ出した場合においてもユーザは常に良好に交通情報の内容を知ることができる。」(甲第2号証【0020】)との効果を奏する。
これらの記載からすれば,本願発明1において,所定の道路区間の両端に示された記号がその内容を表すものとされている「その区間の交通情報」とは,両端を除く道路部分にはその内容が示されていない情報に限られ,同道路部分自体にその内容が示されているものは含まれないことが,明らかである。
イ ところが,甲第4号証によれば,引用例の第1図(B)の図面自体にはもちろん,引用例のどこにも「」,「 」が,両端を除く道路部分にはその内容が示されていない情報を表すことは,示されていないことが明らかである。
したがって,審決が,第1図(B)の「」,「 」がそれにより始端及び終端が特定される道路区間の交通情報の内容を表す記号である,と認定したのは誤りである。
ウ 被告は,地図情報(道路地図等)に付記された記号が当該記号の付記位置の近傍につき地図に関する特定の情報を意味することは経験則であり,その記号の態様も地図使用者が特定の情報を認識できる限度のもので足りるといえる,引用例は,新設道路の始点及び終点という道路通行上有益な情報を使用者が認識できるようにするものであるとの限度において,始点をに終点を に対応させたものであるから,「」,「 」は,使用者にとって,始点又は終点を意味することとなり,本願発明1の「交通情報の内容を表す記号」の意味と異ならない,と主張する。
しかし,引用例の第1図(B)を引用例の明細書の記載と併せて読めば,第1図(B)において,「」,「 」が,新設道路に関するデータを入力する起点ないし終点とされていることは明らかであるものの,「」,「 」自体が,その区間の交通情報(新設道路であることを含む。)の内容を表すものとされていることは,認めることができない。また,明細書の記載と離れて,第1図(B)だけを見ると,「」,「 」が鎖線で表すものの両端を表すことは理解できるものの,そこに鎖線で示されるものについての交通情報が含まれているものと認めることはできない。被告の主張はいずれも採用し得ない。
エ 以上のとおり,審決は,引用例第1図(B)における「」,「 」が,これにより始端及び終端が特定される道路区間の交通情報の内容を表すものであると誤って認定し,その結果,この点でも,引用例に記載された技術と本件発明1との一致点の認定を誤ったものであって,その相違点の認定の誤りは,審決の結論に影響を与えることが,明らかである。
2 以上に検討したところによれば,審決には,結論に影響を与える瑕疵があるため,これを取り消さざるを得ない。
よって,原告の本訴請求を認容することとし,訴訟費用の負担について行政
事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 宍戸充