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関連審決 無効2000-35164
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明の詳細な説明 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 493号 審決取消請求事件
原告 中西金属工業株式会社
訴訟代理人弁理士 岸本 瑛之助
被告 関東自動車工業株式会社
被告 株式会社ダイフク
両名訴訟代理人弁理士 森本義弘
同 板垣孝夫
同 笹原敏司
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/11/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2000-35164号事件について平成12年11月2日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告らの負担とする。
2 被告ら 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告らは、名称を「可動体搬送設備」とする特許第2132675号発明(昭和63年10月7日特許出願、平成9年10月9日設定登録、以下その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
原告は、平成12年3月31日、本件特許につき無効審判の請求をした。
特許庁は、同請求を無効2000-35164号事件として審理した上、同年11月2日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同月27日原告に送達された。
2 平成9年5月23日付け手続補正書により補正された明細書(以下「本件明細書」という。)に記載された発明(以下「本件発明」という。)の要旨 【請求項1】複数の可動体が実質的に密着状態で直列状に並んで移動可能な一定経路を設け、前記可動体に、その前後方向の全長に亘って外側向きの受圧面を左右一対に設け、前記一定経路の上手側に、前記受圧面に当接離間自在な左右一対の押圧ローラと、これら押圧ローラを当接離間動させる揺動駆動装置とを有し、かつ両押圧ローラを両受圧面に当接作用させることで可動体に移動力を付与する可動体搬送装置を設け、前記一定経路の下手側に、前記受圧面に当接離間自在な左右一対のブレーキローラを有しかつ両ブレーキローラを両受圧面に当接作用させることで可動体に制動力を付与する制動装置を設け、前記可動体搬送装置の上手側に、この可動体搬送装置に可動体を投入させる投入手段を設けるとともに、前記制動装置の下手側に、可動体を早送りで搬出させる搬出手段を設けたことを特徴とする可動体搬送設備。
【請求項2】可動体を、床側レールに支持案内されて移動自在な台車により構成した請求項1記載の可動体搬送設備。
【請求項3】可動体を、天井側レールに支持案内されて移動自在なトロリ装置により構成した請求項1記載の可動体搬送設備。
(以下、上記請求項1〜3記載の各発明を、請求項の番号に対応して「本件発明1〜3」などといい、これらを総称して「本件発明」という。) 3 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、請求人(注、原告)の主張する無効理由、すなわち、本件発明1、2は、特公昭43-13437号公報(審判、本訴とも甲第3号証)、特公昭39-11104号公報(審判、本訴とも甲第4号証)、米国特許第2281725号明細書(審判、本訴とも甲第5号証)、実願昭47-104674号(実開昭49-60467号)のマイクロフィルム(審判甲第6号証、本訴同号証の1、2)及び昭和60年9月7日株式会社電気書院発行の「インバータ応用マニュアル」(表題頁、目次頁、156頁〜158頁及び奥付)(審判、本訴とも甲第7号証)記載の各発明に基づいて、本件発明3は上記各発明及び米国特許第4212384号明細書(審判、本訴とも甲第8号証)記載の発明に基づいて、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるとの主張は採用することができず、請求人(注、原告)が主張する理由及び提出した証拠によっては本件発明を無効とすることはできないとした。
原告主張の審決取消事由
審決の理由中、本件発明1と甲第3号証記載の発明の相違点A、Bの認定(審決謄本7頁1行目〜6行目)は認める。
審決は、本件発明1と甲第3号証記載の発明との相違点Cの認定を誤る(取消事由1)とともに、同相違点A〜Cについての判断を誤り(取消事由2)、また、本件発明2、3についての容易想到性の判断を誤った(取消事由3)結果、本件発明1、2は、甲第3〜第7号証記載の各発明に基づいて、本件発明3は、甲第3〜第8号証記載の各発明に基づいて、いずれも当業者が容易に発明をすることができたとはいえないとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点Cの認定の誤り) (1) 審決は、本件発明1と甲第3号証記載の発明との相違点Cとして、「本件特許の請求項1に係る発明(注、本件発明1)では、一定経路の下手側に・・・可動体に制動力を付与する制動装置を設けているのに対し、甲第3号証に記載された発明においては、出口(ニ)側に入口(ハ)側の駆動歯車5.5より遅れ気味に即ち歯車5.5による直線送り速度より僅か小さくなるような直線送り速度の駆動歯車を設けている点」(審決謄本7頁7行目〜12行目)を認定するが、誤りである。
(2) 審決の上記誤りは、本件発明1における「制動装置」の意義を可動体を停止させる手段であると誤解したことに起因すると考えられるので、この「制動装置」の意義について述べる。
本件明細書(甲第2号証の1、2)の発明の詳細な説明中「作用」欄の「可動体搬送装置による可動体の後押し移動時において、一定経路の下手側に位置している可動体受圧面に対して制動装置のブレーキローラが当接作用しており、したがって、この可動体に制動力が作用して逸送することを防止し得、さらに可動体搬送装置と制動装置との間に位置した可動体群間に隙間が生じることがなくて、衝突音など発生しない円滑な後押し移動を行える。すなわち可動体群は、実質的に密着状態で直列状に並んで一定経路を移動することになる」(4欄11行目〜20行目)との記載及び「実施例」の欄の「このブレーキローラ33A.33Bから外れた台車1は、搬出フィーダ32によって、台車1群から分離されて早送りで搬出される」(6欄40行目〜42行目)との記載からすると、本件発明1の可動体搬送装置において、可動体の後押し移動時には一定経路の下手側に位置している可動体受圧面に対して制動装置のブレーキローラが当接作用しているため、可動体に制動力が作用して逸送することが防止されるが、一定経路の下手側に位置している可動体が制動装置によって停止させられるものではないことは明らかである。
すなわち、本件発明1にいう「可動体に制動力を付与する制動装置」とは、可動体を停止させる手段ではなく、減速させる手段と解するべきである。
(3) 他方、甲第3号証の「研摩側のチャンネル状案内軌条1の入口(ハ)即ち硝子板台送込側(ハ)と出口(ニ)即ち硝子板台送出側(ニ)にはその両側もしくは片側にそれぞれ、硝子板台3の移送用駆動歯車5.5、6.6を設けこの駆動歯車は、出口(ニ)側の歯車6.6は入口(ハ)側の歯車5.5より遅れ気味に即ち歯車5.5による直線送り速度より歯車6.6による直線送り速度が僅か小さくなるような、さらに換言すれば歯車5.5と歯車6.6とが同形なれば歯車6.6の方が回転数を歯車5.5のそれより僅か小さくなるような特殊の関係に置かれている」(1頁左欄下から7行目〜右欄4行目)、「研摩側のチャンネル状案内軌条1の出口(ニ)付近に設けられた駆動歯車6.6は入口(ハ)付近に設けられた前述の駆動歯車5.5より・・・いわゆる遅れ気味に回転しているため支持軌条4.4上に一直線状に連なった硝子板台3は、入口側と出口側との双方より押圧された形で移送される」(同2頁右欄11行目〜17行目)との記載からすると、甲第3号証記載の発明にいう「研摩側のチャンネル状案内軌条1の出口(ニ)付近に設けられた駆動歯車6.6」が、本件発明の可動体に相当する「硝子板台3」に減速作用を付与するものであることは明らかであるから、本件発明1の「可動体に制動力を付与する制動装置」に相当するというべきである。
(4) 上記(2)、(3)のとおり、本件発明1も甲第3号証記載の発明も、「一定経路の下手側に、可動体に制動力を付与する制動装置を設けている」点で一致するというべきである。これに対し、審決の相違点Cに係る認定は、甲第3号証記載の発明が上記構成を備えないことを前提とするものであって、誤りである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) (1) 審決は、本件発明1と甲第3号証記載の発明との相違点として、「(A)本件特許の請求項1に係る発明(注、本件発明1)では、前記可動体に移動力を付与する手段が受圧面と押圧ローラであるのに対し、甲第3号証に記載された発明においては、ラックと駆動用歯車である点、(B)本件特許の請求項1に係る発明(注、同上)では、前記可動体に移動力を付与するものが当接離間自在で揺動駆動装置により当接離間動しているのに対し、甲第3号証には該構成の記載がない点、
及び(C)本件特許の請求項1に係る発明(注、同上)では、一定経路の下手側に、受圧面に当接離間自在な左右一対のブレーキローラを有しかつ両ブレーキローラを両受圧面に当接作用させることで可動体に制動力を付与する制動装置を設けているのに対し、甲第3号証に記載された発明においては、出口(ニ)側に入口(ハ)側の駆動歯車5.5より遅れ気味に即ち歯車5.5による直線送り速度より僅か小さくなるような直線送り速度の駆動歯車を設けている点」(審決謄本7頁1行目〜12行目)を認定した上、甲第4号証記載の発明の制動手段の甲第3号証記載の発明への適用について、「制動装置の適用に関しては、甲第3号証に記載の発明が、被研摩硝子板支持台を均整な速度で移送する事を課題とするもので、可動体の停止に通ずる程の制動力が付与されるべくもなく、よって本件発明の様にブレーキローラーによる制動手段の適用を示唆するものではないから、甲第4号証記載の制動手段を甲第3号証記載の発明に適用することが容易にできるとはいえない」(同7頁24行目〜29行目)と判断するが、誤りである。
すなわち、審決の上記判断は、本件発明1の「制動装置」が可動体を停止させる手段であるとの誤解に起因するものと考えられるが、甲第3号証記載の出口側の駆動歯車6.6も、本件発明1の制動装置も、ともに可動体を減速させる制動力を付与するものであることは上記1で述べたとおりであるから、甲第4号証記載の発明の制動手段を甲第3号証記載の発明に適用し、本件発明1の構成を得ることは当業者の容易にし得たことというべきである。
(2) また、審決は、本件発明1は「上記相違点(A)(B)の『一定経路の上手側に、当接離間自在な左右一対の押圧ローラからなる可動体搬送装置に可動体を投入させる』の構成と上記相違点(C)の『一定経路の下手側に可動体に制動力を付与する制動装置を設け』の構成とにより、設備全体を短くコンパクトに形成でき、且つ可動体の投入を円滑に行うとともに先行し停止している可動体群に対し隙間のない後押し移動を行うことができる作用効果を生ずるものである」(同7頁30行目〜末行)と認定し、本件発明1の容易想到性を否定する論拠とするが、誤りである。
すなわち、甲第4号証は、当接離間自在で揺動駆動装置により当接離間動する押圧ローラでの摩擦駆動手段及び制御手段を開示しているところ、これを甲第3号証記載の発明に適用した場合、審決の認定する本件発明1の上記作用効果は、
その組合せに係る構成から予測可能なものにすぎない。
3 取消事由3(本件発明2、3の容易想到性の判断の誤り) (1) 審決は、「本件特許の請求項2及び3に係る発明(注、本件発明2、3)は、請求項1に係る発明(注、本件発明1)を更に限定したものであるから、上記請求項1に係る発明(注、同上)についての判断と同様の理由により、請求人(注、原告)の主張を採用することができない」(審決謄本8頁10行目〜12行目)と判断するが、誤りである。
(2) 本件発明2は、本件発明1の構成に加えて、「可動体を、床側レールに支持案内されて移動自在な台車により構成した」ことを要件とするものであるが、甲第3号証記載の発明もこれに相当する構成を有するものであるから、本件発明2も甲第3、第4号証記載の各発明又は甲第3〜第7号証記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明3は、本件発明1の構成に加えて、「可動体を、天井川レールに支持案内されて移動自在なトロリ装置により構成した」ことを要件とするものであるが、この構成は甲第8号証の第3図に開示されているから、本件発明3も、甲第3、第4、第8号証記載の各発明又は甲第3〜第8号証記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
被告らの反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(相違点Cの認定の誤り)について (1) 原告は、本件発明1にいう「可動体に制動力を付与する制動装置」とは、
可動体を停止させる手段ではなく、減速させる手段であると主張するが、当該制動装置は、可動体を停止させる手段として機能しているというべきである。
すなわち、本件発明1においては、一定経路の上手側に設けられて可動体に移動力を付与する可動体搬送装置と、一定経路の下手側に設けられて可動体を早送りで搬出させる搬出手段の間には、可動体に制動力を付与する制動装置が設けられているだけであって、甲第3号証記載の駆動歯車6.6のような駆動手段が設けられていないから、本件発明1では、可動体搬送装置を停止すると、一定経路の下手側に設けられた制動装置のブレーキ作用により、可動体群全体の移送が停止することは明らかである。本件明細書(甲第2号証の1、2)の発明の詳細な説明中にも、「可動体は、先行し停止している可動体群を後押しして移動することになる。
可動体搬送装置による可動体の後押し移動時において、一定経路の下手側に位置している可動体受圧面に対して制動装置のブレーキローラが当接作用しており、したがって、この可動体に制動力が作用して逸走することを防止し」(4欄10行目〜15行目)、「台車1は、先行し停止している台車1群を、その本体2の前後端面を相当接させることで後押しして搬送Bすることになる」(6欄16行目〜18行目)、「先行し停止している可動体群を後押しして移動できる」(7欄4行目〜5行目)と記載されており、これによれば、可動体搬送装置による可動体の後押し移動時の初動工程において、まず先行する可動体が制動装置により停止し、その後引き続いて送り込まれる可動体がこの先行し停止している可動体に当接して停止し、
このような可動体の停止と送込みとによって可動体群が形成されるものと解されるから、本件発明1における「制動装置」は、可動体を停止させる手段として機能しているというべきである。
(2) 次に、原告は、甲第3号証記載の発明の「研摩側のチャンネル状案内軌条1の出口(ニ)付近に設けられた駆動歯車6.6」は、「硝子板台3」に減速作用を付与するものである旨主張するが、上記駆動歯車6.6は、硝子板台3に移動力を付与する移送用駆動手段として特定されるべきである。
すなわち、甲第3号証には、「研摩側において硝子板台は静に一直線状に密に接続され強固にかつ正確に水平度を維持され均整な速度で移行されるので大型の硝子板を研摩行程に理想的に移送できる効果がある」(2頁右欄26行目〜29行目)、「研摩側のチャンネル状案内軌条1の入口(ハ)即ち硝子板台送込側(ハ)と出口(ニ)即ち硝子板台送出側(ニ)にはその両側もしくは片側にそれぞれ、硝子板台3の移送用駆動歯車5.5、6.6を設けこの駆動歯車は、出口(ニ)側の歯車6.6は入口(ハ)側の歯車5.5より遅れ気味に即ち歯車5.5による直線送り速度より歯車6.6による直線送り速度が僅か小さくなるような、
さらに換言すれば歯車5.5と歯車6.6とが同形なれば歯車6.6の方の回転数を歯車5.5のそれより僅か小さくなるような特殊の関係に置かれている」(同1頁左欄下から7行目〜右欄4行目)と記載されている。これらの記載によれば、甲第3号証記載の発明では、硝子板台3は、入口(ハ)付近に設けられた移送用駆動歯車5.5と出口(ニ)付近に設けられた移送用駆動歯車6.6との2つの駆動歯車により均整な速度で送行駆動されるものであって、例えば、入口側の駆動歯車5.5が停止されても出口側の駆動歯車6.6が停止されないと硝子板台群の先端台車はこの駆動歯車6.6によって移送されるものであるから、出口側の駆動歯車6.6は、硝子板台3の駆動手段として機能し、入口側の駆動歯車5.5と同様に硝子板台に移動力を付与する移送用駆動手段として特定されるべきである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は、甲第4号証記載の発明の制動手段を甲第3号証記載の発明に適用し、本件発明1の構成を得ることは当業者の容易にし得たことであると主張するが、甲第3号証記載の発明には、本件発明1における「制動装置」、すなわち可動体の停止に通じるほどの制動力を付与する装置が備えられていないから、ブレーキローラによる制動手段の適用を示唆するものとはいえず、甲第4号証記載の制動手段を甲第3号証記載の発明に適用することは当業者にとって容易であるとはいえない。
仮に、甲第4号証記載の摩擦駆動手段及び制動手段を甲第3号証記載の発明に適用する場合には、鉱車の所望の速度に対応した回転数で摩擦輪を回転させる誘導電動機を有する「鉱車の操車装置」を上流側及び下流側の摩擦駆動手段として設けることになり、誘導電動機の回転数はその同期回転数以上にはなり得ないから、結局のところ、下流側の「鉱車の操車装置」では発電制動による減速作用を奏することができないのであって、本件発明1の作用効果を奏することはできない。
(2) 本件発明1は、その構成により、@可動体群は、非連結式でありながら、
実質的に密着状態で直列状に並んで一定経路を移動できること、A可動体搬送装置や制動装置を一定経路の側方や下方などに配置すればよいから、一定経路の長さ方向で設置スペースを不要にできる結果、設備全体を短くコンパクトに形成できること、B揺動駆動装置により、可動体の可動体搬送装置への投入を円滑に行い、かつ、挟持形式により移動力付与を確実に行い得ること、C可動体搬送装置や制動装置に摩擦形式のローラを採用した場合、これらのローラが摩耗しても、可動体側に押圧付勢されているので、駆動又は制動する機能が失われることなく円滑に作動し、騒音も発生しないことという、甲第3、第4号証記載の各発明からは予測し得ない効果を奏する。
他方、甲第3号証記載の発明の移送手段は、硝子板台3の裏面に設けられたラック13.13と移送用駆動歯車5.5、同6.6との噛合形式によるものであるから、噛合を円滑に行わせるために噛合調整装置15、同期回転装置19、硝子板台接続用駆動歯車5.’5’などからなる特殊で複雑な機構を必要とし、また、硝子板台が前後に接触(当接)したときの前後のラックの接続部分において、
ラックの歯ピッチの精度を正確に出す必要もあるほか、噛合による騒音が生ずるという問題もある。
3 取消事由3(本件発明2、3の容易想到性の判断の誤り)について 本件発明2、3は、本件発明1の構成を更に限定したものであり、本件発明1がその進歩性を否定されるものではないことは上記のとおりであるから、本件発明2、3についてもその進歩性が否定される理由はない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点Cの認定の誤り)について (1) 原告は、本件発明1にいう「可動体に制動力を付与する制動装置」とは、
可動体を停止させる手段ではなく、減速させる手段である旨主張するので、この点について判断するに、本件明細書(甲第2号証の1、2)の発明の詳細な説明中には、「一定経路5の下手端近くには、前記受圧体6の受圧面6a.6bに当接作用して台車1に制動力を付与する制動装置が設けられる。ここで制動装置は、前記受圧体6の両受圧面6a.6bに当接離間自在な左右一対のブレーキローラ33A.33Bなどから構成される」(5欄37行目〜42行目)、「強制回転Aされている押圧ローラ22A.22Bを受圧面6a.6bに圧接させることで台車1に移動力を与えることになり、以て台車1は一定経路5上で搬送Bされる。その際に台車1は、先行し停止している台車1群を、その本体2の前後端面を相当接させることで後押しして搬送Bすることになる。可動体搬送装置7による台車1の後押し移動時において、一定経路5の下手側に位置している台車1に対しては、その受圧体6の受圧面6a.6bに制動装置の両ブレーキローラ33A.33Bが当接作用している。したがって、この台車1に制動力が作用して逸走することを防止し得、さらに可動体搬送装置7と制動装置との間に位置した台車1群間に隙間が生じることがなくて、衝突音など発生しない円滑な後押し移動を行える。すなわち台車1群は、
実質的に密着状態で直列状に並んで一定経路5を移動することになる」(6欄13行目〜28行目)と記載されている。これらの記載と第1〜第4図が図示するところによれば、本件発明1において、一定経路の下手側に設けられたブレーキローラ33A.33Bは、可動搬送装置7とは独立して設けられ、一定経路の下手側に位置している台車に対して制動力を働かせることにより、該台車を停止させて逸走することを防止しており、このようにして停止した先行する台車群に対し、強制回転されている押圧ローラ22A.22Bが新たな台車に移動力を与えて一定経路上を移送させると、該台車が先行する台車群に当接し後押しして、該台車と先行する台車群が隙間を生ずることなく円滑に移動を行うものと認められる。
そうすると、本件発明1の制動装置は、新たな台車による上記後押しが作用しないときには、台車を停止させる機能を有し、新たな台車による上記後押しが作用するときには、従動する機能を有するものというべきである。
(2) これに対し、甲第3号証には、「研摩側チャンネル状案内軌条1の入口(ハ)即ち硝子板台送込側(ハ)と出口(ニ)即ち硝子板台送出側(ニ)にはその両側もしくは片側にそれぞれ、硝子板台3の移送用駆動歯車5.5、6.6を設けこの駆動歯車は、出口(ニ)側の歯車6.6は入口(ハ)側の歯車5.5より遅れ気味に即ち歯車5.5による直線送り速度より歯車6.6による直線送り速度が僅か小さくなるような、さらに換言すれば歯車5.5と歯車6.6とが同形なれば歯車6.6の方の回転数を歯車5.5のそれより僅か小さくなるような特殊の関係に置かれている」(1頁左欄35行目〜右欄4行目)、「研摩側のチャンネル状案内軌条1の出口(ニ)付近に設けられた駆動歯車6.6は入口(ハ)付近に設けられた前述の駆動歯車5.5より前に説明した通りのいわゆる遅れ気味に回転しているため支持軌条4.4上に一直線状に連なった硝子板台3は、入口側と出口側との双方より押圧された形で移送される」(2頁右欄11行目〜17行目)と記載されており、これらの記載によれば、甲第3号証の出口側の駆動歯車6.6は、入口側の駆動歯車5.5より遅れ気味に回転する結果、支持軌条4.4上に硝子板台3を一直線状に密着させて移送させるものであると認められる。
そうすると、甲第3号証記載の発明の出口側の駆動歯車6.6は、入口側の駆動歯車5.5と相まって、その間の台車群が隙間を生ずることなく円滑に移動を行うようにする機能を有するという点で、本件発明1の制動装置と近似する作用を奏するということはできるが、この作用は、入口側の駆動歯車5.5と出口側の駆動歯車6.6の送り速度の差に基づくものであって、出口側の歯車6.6の機能をそれ自体として見た場合、直線送り速度が一定となるように駆動回転することに止まり、独立した制動機能を有するものでないことは明らかである。
(3) 以上のとおり、本件発明1の制動装置は、後押し作用を受けて回転する従動輪であって、後押し作用のないときには台車を停止する制動機能を有するのに対し、甲第3号証記載の発明の出口側の駆動歯車6.6は、直線送り速度が一定となるように回転する駆動輪であるから、これを超える後押し作用の速度との速度差に基づいて当該直線送り速度までの制動機能が発生するにすぎず、本件発明1の制動装置のように、後押し作用がない時に、台車を停止する独立した機能を有するものとはいえない。
そうすると、本件発明1の制動装置と甲第3号証記載の発明の出口側の駆動歯車6.6とは、その機能及びこれにより奏される作用において異なるものといわざるを得ず、これと同旨の審決の相違点Cの認定に誤りはない。したがって、本件発明1と甲第3号証記載の発明とは「一定経路の下手側に、前記受動部の左右に接して可動体に制動力を付与する制動装置を設けている」点で一致する旨の原告の主張は採用することができず、原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は、甲第3号証記載の発明の出口側の駆動歯車6.6も、本件発明1の制動装置も、ともに可動体を減速させる制動力を付与するものであることを前提に、甲第4号証記載の発明の制動手段を甲第3号証記載の発明に適用し、本件発明1の構成を得ることは当業者の容易にし得たことである旨主張するが、上記主張は、まず、「甲第3号証記載の発明の出口側の駆動歯車6.6も、本件発明1の制動装置も、ともに可動体を減速させる制動力を付与するものである」との前提において失当であることは、上記1で述べたとおりである。
加えて、甲第4号証には、「鉱車の操車装置」の発明に関して、「本発明は、鉱車の減速、停止、発進、走行等のすべての操作を行い得る装置を提供するもので、これにより、操作設備を単純化し、その設備費の低減と共に、運転保守の簡易化をはかったものである」(1頁左欄下から4行目〜右欄1行目)、「レールの両側にある揺動腕3は、レールの下のピット13内で、圧気シリンダ11により相互に連結され、図示されてない圧気制御装置により、そのピストンロッド側aに圧気が導入された時互いに引寄せられて、その摩擦輪1を鉱車21の函体12の側面に圧接し、この両者の摩擦を介して電動機10の回転駆動力を鉱車21にその進行駆動力として伝達し、あるいは電動機に付属した制動機により、鉱車21を減速あるいは停止せしめる」(1頁右欄27行目〜36行目)と記載されており、これらの記載によれば、甲第4号証記載の発明の摩擦輪は、電動機の回転駆動力を鉱車に伝達してこれをその進行方向に駆動したり、電動機に付属した制動機により鉱車を停止するものと認められる。そうすると、甲第3号証記載の発明における出口側の駆動歯車6.6が、前示のとおり、駆動歯車であって、台車を停止する独立した機能を有するものではないから、甲第3号証の出口側の駆動歯車6.6を甲第4号証の摩擦輪により置き換えることについては、これらの駆動機構の構成と機能作用上の基本的な相違により、当業者の容易に想到し得るものではないというべきであるし、仮に、原告の主張するように、甲第4号証記載の発明の制動手段を甲第3号証記載の発明の出口側の駆動歯車6.6に代えてこれに適用したとしても、本件発明1の作用効果を奏することはできないことは、下記(2)で述べるとおりである。
(2) 次に、原告は、甲第4号証記載の発明の制動手段を甲第3号証記載の発明に適用した場合、本件発明1の作用効果はその組合せに係る構成から予測可能なものにすぎない旨主張する。
しかし、前示のとおり、甲第3号証記載の発明は、出口側の駆動歯車6.6が入口側の駆動歯車5.5より遅れ気味に、すなわち入口側の駆動歯車5.5による直線送り速度より出口側の駆動歯車6.6による直線送り速度がわずかに小さくなるような特殊の関係にある歯車機構を用いたものであり、甲第4号証記載の発明は、摩擦輪を鉱車の函体の側面に圧接したことによる摩擦を介して、電動機の回転駆動力を鉱車に伝達して進行方向に駆動したり、電動機に付属した制動機により鉱車を減速又は停止させるものである。これに対し、本件発明1では、甲第3号証記載の発明における歯車機構や、甲第4号証記載の発明における「電動機に付属した制動機」を用いることなく、これらの発明の構成からは予測することのできない簡易な構成によって、非連結式の可動体群を実質的に密着状態で直列状に並んで一定経路を移動させることができること、しかも、ラックと歯車の噛合形式を採用しないことにより、噛合調整装置等の装着も要さず、歯車の磨耗による噛合の不良や騒音の問題を生ずることがなく、ローラが磨耗しても、可動体への押し付け付勢による制動機能は失われることがないという顕著な効果を奏するものと認められる。
(3) したがって、取消事由2に係る原告の主張は理由がない。
3 取消事由3(本件発明2、3の容易想到性の判断の誤り)について 本件発明2、3は本件発明1の構成を更に限定したものであるところ、本件発明1の進歩性を肯定した審決の判断に原告主張の誤りがないことは前示のとおりであるから、本件発明2、3の各発明において更に限定した構成について判断するまでもなく、これらの発明の進歩性も否定することができないというべきである。
したがって、取消事由3に係る原告の主張は理由がない。
4 以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利