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関連審決 審判1998-7292
関連ワード 発明者 /  新規性 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  出願公開 /  技術常識 /  先行技術 /  分割出願 /  均等 /  実施 /  交換 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  補助参加 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 136号 審決取消請求事件
原告 株式会社ヒラカワガイダム
訴訟代理人弁理士 本田紘一
同 豊田正雄
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 冨岡和人
同 大槻清壽
同 滝本静雄
同 大野克人
同 大橋良三
被告補助参加人 三浦工業株式会社
訴訟代理人弁護士 福島三雄
同 野中誠一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/11/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第7292号事件について平成12年3月24日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,昭和63年9月10日,発明の名称を「炉筒水管ボイラ」とする発明について,特許出願(特願昭63-227182号,以下「本件出願」という。)をし,平成7年9月6日に出願公告(特公平7-81682号)されたが,特許異議の申立てがあり,平成10年3月16日に拒絶査定を受けたため,同年5月15日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを平成10年審判第7292号事件として審理した結果,平成12年3月24日「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年4月12日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲 本件出願に係る発明の特許請求の範囲は,次のとおりである。
【請求項1】 「炉筒水管ボイラにおいて,炉筒内の燃焼火炎中を含む全空間に複数の収熱水管を配設するか又はボイラのバーナ近傍の収熱水管の一部分を省いて空間部を設け炉筒内に燃焼火炎中を含んで炉筒内に複数の収熱水管を設けたことを特徴とする炉筒水管ボイラ。」(以下「本願発明1」という。) 【請求項2】 「炉筒内収熱水管において,高伝熱面熱負荷部には裸管を使用するか,収熱水面の内面に溝を設けたり,外面に断熱被覆を行い,低電熱面熱負荷部には外面にフィンを設けた請求項1記載の炉筒水管ボイラ。」(以下「本願発明2」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,本願発明1,2は,いずれも,本願出願の日前の出願であって,本願出願後に出願公開された実願昭63-107336号公報(実開平2-28902号。以下「引用例」という。)に記載された考案(以下「引用考案」という。)と同一であるから,特許法29条の2に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,手続の経緯,本願発明の認定(審決書1頁13行〜2頁2行),引用例の内容の認定(2頁3行〜3頁10行)は認める。本願発明1と引用例との対比・検討(3頁11行〜9頁3行)のうち,審決が引用した本願発明1の出願明細書の内容(3頁13行〜23行の「認められ」まで),引用例に記載された事項(3頁27行〜36行),請求人の主張(4頁9行〜15行,4頁28行〜5頁13行,5頁17行〜24行,6頁2行〜28行,7頁32行〜8頁3行,8頁29行〜33行)は認め,その余は争う。本願発明2と引用例との対比・検討(9頁6行〜35行のうち,審決が引用した本願発明2の出願明細書の内容の認定(9頁6行〜9行),引用例に記載された内容の認定(9頁17行〜25行)は認め,その余は争う。結論(9頁36行〜10頁2行)は,争う。
審決は,引用例の記載の意味を誤認し,その結果,本願発明1,2と引用例に記載された考案(以下「引用考案」という。)とが同一であるとの誤った判断をしたものであり,違法であるから取り消されるべきである。
(取消事由-引用例の記載の意味の誤認) 1 審決は,引用考案には,バーナからの燃焼ガスの「上流側には,未燃分やCOが燃焼して消滅する部分,即ち,前者(判決注・本願発明1)にいう「燃焼火炎」が存在し,後者(判決注・引用考案)の水管群(2)を構成する各水管(2a)の少なくとも一部はこの燃焼火炎中に配設されていると解することができる。」(審決書3頁下から2行〜4頁2行)と認定し,この認定を前提に,引用考案と本願発明1とは同一であると判断したが,上記認定は誤りである。
(1) 引用例には,「燃焼火炎」内に水管を置くことの記載はない。
燃焼とは,通常,光と熱を発生する「燃焼火炎」の部分と,燃焼が終了した「燃焼ガス」の部分とに区別される(甲第12ないし第14号証等)。燃焼火炎は,激しく燃料が燃える部分のことであり,燃焼ガスは,その燃え終わった部分を指す,というのが,本願発明1及び引用考案の分野における,技術常識であり,一般的な解釈である。
従来例のボイラにおいては,炉筒内の燃焼バーナ内(燃焼火炎内)に水管を置くことは,伝熱面が高負荷となり,最終的には水管の焼損を招くものと考えられて,厳格に禁止されており,これがボイラ業界の長年の技術的常識であった(甲第4,第5号証参照)。本願発明1は,この禁止事項を破り,世界で初めて炉筒内の燃焼火炎中に水管を配列した結果,かえって燃焼促進と伝達が良好で,焼損もなく低NOxであり,かつ,炉筒室を別設する必要がなくなって小型化を達成できるという,従来例からは予測できない作用効果を見いだしたものである。
引用例には,このような本願発明1の技術思想は開示されていない。
(2) 審決は,「COの酸化がある部分に水管があれば,水管が燃焼火炎に入っていることになる」との誤った前提のもとに,引用考案に本願発明1の上記技術思想が開示されているとの認定判断を導いたものである。
審決は,本願明細書(甲第2号証の1,2参照)の「収熱水管がある本発明の場合と,従来型立ボイラの大空間での燃焼とを比較すると・・・,特に水管後流のうず流の生成が上記燃焼を促進し,バーナヘッドから未燃分やCOが消滅するまでの距離(火炎の長さ)はずっと短くなること」(甲第2号証の1・3欄31行〜36行)との記載と,引用例の「上流側においても燃焼ガス温度が1200℃程度であるため,COが発生していても上流側でCO2に酸化されてしまい,以下下流側では徐々に温度が下がるため,CO2が再び分離してCOとなるのも防止できる。」(甲第3号証・8頁13行〜17行)との記載とを根拠に,引用考案における燃焼ガスの上流側には,発生したCOが酸化して消滅する部分があるから,この部分には本願発明1にいう「燃焼火炎」が存在し,この燃焼火炎中に水管が入っていると推測したものと考えられる。
しかしながら,本願明細書の上記記載は,本願発明の燃焼火炎においては,従来型のボイラにおける燃焼火炎と比較して,水管の後流の渦流によって未燃分やCOが速く燃焼することにより火炎の長さが短くなることを言ったものにすぎない。燃焼火炎中のCOの消滅は水管が燃焼火炎内にあるか否かにかかわらず起こることであって,燃焼火炎中に水管が入っていることで起こる特殊な現象ではない。また,燃焼火炎の部分において,燃焼反応の中間生成物として,COや水素などが発生すること,燃焼が完結するまでに,これらの中間生成物のほとんどが燃え尽きることは一般的な技術常識である(甲第14号証参照)。
引用考案にも燃焼火炎が存在することは事実である。しかし,問題は,その燃焼火炎中に水管が置かれていることが引用例に記載又は開示されているかどうかである。
引用例の技術思想は,「燃焼ガス」の温度が上流から下流に行くに従い低くなるため,下流に行くほど水管の伝熱面密度を大きくすることであり,「燃焼ガス」を問題にするものであるから,「燃焼火炎」を問題にする本願発明1とは基本的技術思想が異なる。
以上のとおり,引用考案中に燃焼火炎すなわち「未燃分やCOが燃焼して消滅する部分」があるからといって,そのことから,同考案において燃焼火炎中に水管が置かれていると認めることはできない。したがって,審決の前記認定・判断は誤っている。
(3) 審決は,「「燃焼ガス」といえば,必ず,燃焼が完結したガスのことを指すとは限らず,火炎を含む高温ガスを指すこともあり・・・上記引用例に記載されたもの(判決注・引用考案)の燃焼ガスは,燃焼が完結した燃焼ガスのこと或いは連鎖的酸化反応の燃焼がほぼ完結してしまった燃焼ガスのことであると解さなければならない旨の記載も見当たらない」(審決書4頁17行〜26行)とする。
しかし,たとい,「燃焼ガス」が,火炎を含む高温ガスを指す場合があるとしても,そのことは,何ら,燃焼火炎中に水管が入っていることの根拠とはならない。
本願発明1は,燃焼火炎温度の冷却に係るものであるのに対し,引用考案は,燃焼ガス温度を低く抑えるものであり,両者は,この点において大きく相違している。
なお,引用例(甲第3号証)については,特許庁の審査段階において,「燃焼ガス」の記載を,燃焼火炎と同じ意味を持つ「燃焼途上ガス」へ変更する旨の補正請求が,要旨を変更するものとして却下されている。これは,「燃焼ガス」は「燃焼火炎」とは,本質的に物理現象が異なるものであることを示すものである。
(4) 審決は,原告が,引用考案は,燃焼終了後の燃焼ガス内で残留COが温度により酸化するものであって,燃焼火炎内で燃料の燃焼とともにCOが消滅する本願発明1,2とは異なる,と主張したのに対し,引用考案における上流側の燃焼ガス温度は1200℃程度とされており,甲第11号証(特開昭60-78247号公報)に記載された1000℃以上1500℃以下の火炎温度の範囲内に入っているから,引用考案が燃焼終了後の燃焼ガス内でのCOの酸化についてのものであるとはいえない,とする。
しかし,甲第11号証は,従来のボイラについて述べたものであって,燃焼火炎中に水管が置かれたものについて記載したものではない。引用考案及び甲第11号証のものに,燃焼火炎が存在することは原告も認めるが,引用例や甲第11号証には,燃焼火炎中に水管が配置されている現象や状態は,開示されていない。
(5) 審決は,原告が,引用考案において,伝熱面密度の小なるものから大なるものの順に水管群を配置したことでなぜ低NOx化や1200℃への温度抑制の作用効果を奏するのか不明であると主張したのに対し,「引用例に記載されたものにおいては,上流側及び下流側の燃焼ガス温度が,NOxの生成が急激に増大するといわれている約1300℃よりも低い1200℃に抑えられていることを意味するものであり,そのため,NOx特にthermalNOxの発生が防止できることを意味するものであると解することができる。」(審決書8頁23行〜27行)とする。
しかしながら,燃焼温度を下げると低NOxとなること自体は,もともと,原告も認めているところであり,問題は,引用考案の上記構成がどうしてそのような効果と結び付くのか,であるにもかかわらず,それについては審決は何ら説明していない。
仮に,上記構成で上記効果を実現できるならば,本件発明の技術思想とは全く関係なく,殊更,引用考案の内容を,燃焼火炎中に水管を置くものと推定する必要はない。
引用例は,「この考案のボイラーは,横幅の縮小が容易に行える」(甲第3号証10頁18行から19行目)との効果も記載している。もし,引用考案が本願発明1,2と同じ技術思想を含むのであるならば,横幅の縮小を問題にしたのはおかしい。むしろ,燃焼室が不要となるとするべきである。しかし,実際には,引用考案では,逆に燃焼室が縦長になっている。
このように,引用考案の技術思想は不明であり,引用例に本願発明1と同じ技術思想が記載されているとは認められない。
(6) 審決は,引用例中の予混合バーナを使う旨の記載から,「その火炎長さは相当長いものになるといえなくはない」(審決書7頁14行〜15行)とあいまいな認定をしている(審決書7頁2行〜15行参照)。しかし,引用例に示されている予混合バーナは,あらかじめ空気を混合させておくので,それを使った場合は,燃料がバーナから出て初めて空気と混合して燃焼する,通常のバーナを使った場合に比べ,燃焼火炎は当然短くなるはずである(甲第21,第22号証参照)。上記のようなあいまいな推論をもって認定することは誤りである。
被告の引用例の第1図,第3図(別紙参照)の記載についての主張は,図面からみた単なる推測的な判断であり,技術思想からは遠く離れた議論であって,誤っている。
2 本願考案2についての審決の判断も,1と同じ理由により取り消されるべきである。
被告の反論の要点
審決の認定判断は,正当であり,これを取り消すべき理由はない。
審決が行った,引用考案の上流側には,未燃分やCOが燃焼して消滅する部分,すなわち,本願発明1にいう燃焼火炎が存在し,引用考案の水管群(2)を構成する各水管(2a)の少なくとも一部はこの燃焼火炎中に配設されていると解することができる,との認定に誤りはない。
1 引用考案の上流側の反応について (1) 燃焼とは,「高速の発熱反応」であり,一般に光を伴う現象の総称であって,「反応帯における物質の化学反応による変化が,短時間で完了」すること,気相で反応する場合には火炎ができることなどは,燃焼に共通する現象である(乙第1,第2号証)。
燃焼反応とは,可燃性物質と,空気等の「酸化剤との間で起こる酸化反応,単一物質の発熱分解反応あるいはそれらの複合」する反応であり,多くの中間生成物を介して,反応が「直列或いは並列的に進行」する連鎖反応である(乙第3,第4号証)。
(2) NOx・CO2の低減に関する引用例の記載 ア 燃焼によって生成されるNOxを抑制するためには,燃焼温度,O2濃度,あるいは,滞留時間を抑制することが必要である(乙第5号証)。
引用例において先行技術文献とされているもの(実公昭56-47477号公報・乙第6号証)には,燃焼温度を抑制するために,冷却体を用いて,低NOx化を図ることが示されている。
また,引用例には,「この考案においては,バーナ(5)に空気比1.3の予混合気を供給して燃焼させた場合,NOxは,従来のものに比べて1/3〜1/2程度まで低減」(甲第3号証・8頁18行〜20行)したとの記載があり,この記載は,甲第15号証(小林清志外2名著「燃焼工学-基礎と応用-」)第140頁図6.1(a)φ=0.93のケースにおいて,予混合バーナの通常の火炎温度である約2000℃のNOx濃度が,火炎温度の低減とともに急減し,約1200℃において,約1/2程度まで低減していることと技術的に合致する。
これらの技術的事項に基づくと,引用例の,「上流側の伝熱面密度の小なる水管群においても,燃焼ガス温度が低くおさえられ」(甲第3号証・8頁8行〜10行),「NOx特に thermal NOxの発生が防止でき」(8頁11行〜12行)との記載は,上流側の水管群を用いて,燃焼温度を抑えて,NOxの発生を抑制したことを表現したものということができる。
イ 引用例の「上流側の伝熱面密度の小なる水管群においても,燃焼ガス温度が低くおさえられ,下流側の外密度の大なる水管群においては,徐々に低下していくため,NOx特にthermalNOxの発生が防止でき,しかも上流側においても燃焼ガス温度が1200℃程度であるためCOが発生していても上流側でCO2に酸化されてしまい,以下下流側では徐々に温度が下がるため,CO2が再び分離してCOとなるのも防止できる。」(甲第3号証・8頁8行〜17行)との記載,及び「NOxは,従来のものに比べて1/3〜1/2程度まで低減し,またCOは,十数ppm以下までに低減するという結果が得られた。」(8頁19行〜9頁2行)との記載は,NOxの抑制と相反する傾向を有するCOの低減に関する文献(小林清志外2名著「機械工学基礎講座 燃焼工学-基礎と応用-」・甲第10号証)の「そのため,高温状態で生ずるCOを排出までに完全燃焼させうるように,燃焼ガス温度を1300K(被告注・約1000℃)以下にしつつ,火炎後流でもCOの酸化反応が進行しうるように水素分(または水分)の存在する雰囲気を作り出し,充分な滞留時間を与える必要がある。」(甲第10号証151頁6行〜10行)との記載とも技術的に整合する。
ウ 以上の技術的事項を総合すると,引用例の上記記載(甲第3号証8頁8行〜17行,8頁19行〜9頁2行)は,上流側の水管群で,NOxの発生を抑制しつつ,「COが燃焼して消滅」することを表現したものであって,引用例の上流側の水管(2a)間で燃焼反応が行われていることを意味するものというべきである。
(3) 実施例・図面の記載 ア 引用例の【従来の技術】欄には,「角型缶体構造とは,多数の水管を直列に配置してなる水管列を対向配置して,その間に燃焼室を形成したものをいい,バーナ燃焼ガスは,この水管列の間を交叉方向に通過する」(甲第3号証・2頁9行〜12行)との記載(具体例として,実開昭56-136904号公報(乙第7号証)第3図参照)があり,引用例中で先行技術文献として開示された実公昭56-47477号公報(乙第6号証)第1図及び同じく特公昭56-46046号公報(乙第8号証)第1図には,バーナの前面に水管を設けないことが示されている。
イ これに対し,引用例の第1図や第3図(別紙参照)には,従来技術に記載された内容とは異なり,バーナの前面に,それも直近して,水管(2a)を略全域に設けることが記載されている。第1図や第3図のバーナ(5)が「表面燃焼バーナ等の予混合バーナ」(甲第3号証・6頁3行〜4行)であれば,その火炎の長さは,極端に短いものでない。
これらのことは,上流側の水管(2a)間で燃焼反応が行われていることを示唆している。
ウ 引用例の実施例には「バーナ(5)からの燃焼ガス」(甲第3号証・6頁6行〜7行,7頁1行・16行)との記載が多用されている。この「バーナ(5)からの燃焼ガス」という文言を技術的にみると,バーナから直接噴出されるのは,火炎,すなわち,燃焼反応中のガスであるから,噴出直後の「バーナ(5)からの燃焼ガス」は,燃焼反応中のガスであると理解できる。
そうすると,引用例の実施例の「上流側の伝熱面密度の小なる水管群においても,燃焼ガス温度が低くおさえられ」(甲第3号証8頁8行〜10行)との記載は,上流側で起こっている燃焼反応の温度を抑制することを表現したものということができる。しかも,このことは,前述した「上流側の水管群を用いて燃焼温度を抑えて」いるということとも整合している。
(4) まとめ 以上の(1)ないし(3)によれば,引用考案の上流側では燃焼反応が行われているということができる。したがって,審決が,引用考案の上流側には,未燃分やCOが燃焼して消滅する部分,すなわち,本願発明1にいう燃焼火炎が存在する,と認定したことに誤りはない。
2 引用考案の上流側の水管の少なくとも一部は燃焼火炎中に配設されることについて 上記のとおり,引用考案の上流側では燃焼反応が行われている。
そして,引用例の第1図,第3図(別紙参照)や,「上流側の水管(2a)」(甲第3号証・7頁11行〜12行)との記載から分かるとおり,引用考案の上流側の略全域に水管(2a)が存在している。
そうすると,引用考案の上流側では燃焼反応が行われ,かつ,水管(2a)が存在することになるから,審決が,引用考案の水管群(2)を構成する各水管(2a)の少なくとも一部はこの燃焼火炎中に配設されている,と認定したことに誤りはない。
補助参加人の主張の要点
1 本願発明1,2について 原告は,燃焼火炎中に水管を置くことは厳格に禁止されていた旨主張するが,このような事実はない。原告が引用する甲第4ないし第6号証のいずれにも,禁止の語は用いられていない。これらの各号証における原告の引用箇所は,すべて,油燃焼に関するものであり,ガス燃焼に関するものではない。「厳格に禁止されていた」との原告の主張が事実に反することは,丙第5ないし第10号証からも,明らかである。
原告の主張によれば,「燃焼火炎中に水管を置くと必ず水管の焼損を招く」ことになるが,水管が破損するか否かは,当該水管の限界伝熱面熱負荷とその場の燃焼火炎温度とによって決まるのであるから,従来のボイラなら水管が破損し,同じ構成でも本願発明の場合なら水管が破損しないということにはならない。本願発明1には,水管の焼損を防止する何らの技術的事項も示されておらず,水管の破損を防ぐという課題の解決ための手段は全く示されていない。本願発明2には,「裸管」,「内面に溝」,「断熱被膜」などの記載があるが,これらは破損防止の常套手段にすぎず,到底,特許性を云々できるレベルの技術ではない。
2 審決の違法性について (1) 燃焼ガスと燃焼火炎との相違は,位置的な区別に関するものではなく,それぞれが属するカテゴリーに関するものである。燃焼ガスとは,「燃焼に伴う生成物(物質)」であり,火炎とは,「そのような燃焼ガスにおける発光(可視光領域)を伴う状態」であると解するのが当業者にとっての合理的な解釈である(甲第7号証参照)。
審決が認定するように「『燃焼ガス』といえば,必ず,燃焼が完結したガスのことを指すとは限らず,火炎を含む高温のガスのことを指すこともあり」(審決書4頁17行〜18行)とするのが,当業者の常識である。
本願発明1,2を基礎とした分割出願(特願平10-162035号・丙第12号証公報参照)につき,本願発明1,2の発明者が提出した宣誓供述書(丙第13号証)でも,上記甲第7号証の定義に近い解釈が述べられている。
(2) 引用考案における「燃焼ガス」の意味については,引用例全体の記載から合理的に解釈すべきである。引用例(甲第3号証)の「従来技術」,「実施例」及び「発明の効果」の各記載,特にNOxやCOの低減に関する記載によれば,「燃焼ガス」の用語が,火炎状態(燃焼反応中)のものも含む意味で使用されていることは明らかである。
thermalNOxの生成は,@燃焼温度が高く,A燃焼域でのO2濃度が高く,B高温域での燃焼ガス温度の滞留時間が長くなるほど多くなるのであり(丙第14号証134頁6行〜9行参照),特に,thermalNOxの生成は,燃焼火炎温度に強く依存し(丙第15号証・第1部第39頁1行参照),火炎温度の上昇により指数関数的に増大する(丙第14号証134頁第13図)。しかも,いったんNOxが生成されると,その分解速度は極めて遅く,普通の反応条件の下ではNOが窒素と酸素に解離することは余りなく,NOxは高温域を離れた後は,頑強に存在する,いわば凍結される,ものなのである(丙第16号証351頁12行〜14行,同第17号証109頁10行〜11行各参照)。したがって,NOxの生成の抑制の観点からは,燃料が燃え終わった部分の温度を低く抑えても手遅れであり,この意味からも,低NOx化を問題にしている引用例における「燃焼ガス」は,火炎状態(燃焼反応中)の燃焼ガスを含んでいるものということができる。
(3) 原告は,引用考案の技術思想について,伝熱面密度を小から大なるものへ水管群を配置したことで,なぜ低NOx化や1200℃となるのか等の作用効果を奏するのか不明である,旨主張する。
引用例は,燃焼火炎温度を低下させて低NOx化を実現する従来技術も紹介した上で,「上流側の伝熱面密度の小なる水管群においても,燃焼ガス温度が低くおさえられ,下流側の外密度の大なる水管群においては,徐々に低下していくため,NOx特にthermal NOxの発生が防止でき」(甲第3号証8頁8行〜12行)と説明しているのであるから,ここにおける「燃焼ガス温度」が本件発明の「燃焼火炎温度」と同じであることは明白であり,意図的な曲解をしない限り,燃焼反応中に水管を配置して水管における吸熱によって1200℃に抑制していることは明らかである。
(4) 原告は,引用例の審査段階における補正却下処分を問題にするが,その補正却下は,新規な造語「燃焼途上ガス」を追加しようとした点が拒否されたものにすぎない。「燃焼ガス」と「燃焼火炎」の物理現象の相違の証明と補正却下とは,全く次元の異なる問題であり,無関係である。
当裁判所の判断
1 本願発明1が,炉筒水管ボイラにおいて,炉筒内の燃焼火炎中に収熱水管を配置するものであることは,その特許請求の範囲の記載から明らかである。
原告は,引用例には,本願発明1が開示する,「燃焼火炎」中に水管を置くとの上記技術が開示されていない旨主張する。
(1) 甲第3号証によれば,引用例には,次の記載及び別紙記載の図1,3があることが認められる。
ア 実用新案登録請求の範囲 「複数本の水管を実質上平行に配置し,これら水管群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させる形式の多管式貫流ボイラーにおいて,燃焼ガスの流れ方向上流側から下流側に向けて,伝熱面密度の異なった2以上の水管群を,該密度の小なるものから大なるものの順に配置したことを特徴とする角型多管式貫流ボイラー。」(明細書1頁5行〜11行) イ 産業上の利用分野 「この考案は,燃焼ガスを水管に対する交叉線方向に直線的に流通させる形式の角型多管式貫流ボイラーに関するものである。」(同1頁14行〜16行) ウ 従来の技術 「・・・近年では,環境汚染問題等により,ボイラーからの有害燃焼排気物,特にNOx,CO等の更なる低減化が求められている。このような有害燃焼排気物の低減化対策として,燃焼ガス温度を下げることにより,NOx(特にthermalNOx)の生成を抑制する方法,並びに,燃焼ガス温度を一定の温度範囲に保つことにより,COをCO2に酸化させてCOの残留を阻止する方法が知られている。より具体的には,実公昭56-47477号公報に見られるようにバーナ炎を水冷壁などに当てたり,特公昭56-46046号公報に見られるように,旋回する空気流の中心部で過剰濃度の混合気を燃焼させたりして,燃焼温度を調整するものや,また,特開昭60-78247号公報に見られるように,バーナ近傍の冷体物によって燃焼ガス温度を調整した後,熱交換器までの間の断熱空間内でCOを酸化させるもの等がある。」(同2頁14行〜3頁11行) エ 考案が解決しようとする課題 「一般に,バーナからの燃焼ガス流は,水管への伝熱により下流側ほど温度が低下し,これに伴なって体積が減少するため,上記のボイラーでは,燃焼ガスの下流側において,流速が低下し,伝熱効率が著しく低下するという問題が生じる。」(同3頁18行〜4頁2行) オ 課題を解決するための手段 「この考案は,上述課題を解決するためになされたもので,複数本の水管を実質上平行に配置し,これら水管群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させる形式の多管式貫流ボイラーにおいて,燃焼ガスの流れ方向上流側から下流側に向けて,伝熱面密度の異なった2以上の水管群を,該密度の小なるものから大なるものの順に配置したことを特徴とする角型多管式貫流ボイラーである。」(同4頁9行〜16行) カ 作用 「この考案に係る角型多管式貫流ボイラーは,燃焼ガスの流れ方向上流側から下流側に向けて,順次,伝熱面密度を増加させた水管群を配したことにより,燃焼ガスからの熱伝達を上流側から下流側まで均等ならしめ,安定した熱伝達を行うことができ,また燃焼ガスの温度を徐々に下降させ,また滞留時間も長くすることができるため,有害排気物の発生を抑えることができる。」(同4頁18行〜5頁5行) キ 実施例(判決注・別紙記載の図1,3参照) 「バーナ(5)としては,例えば表面燃焼バーナ等の予混合バーナを用いることができるが,このようなバーナは,水管群(2)の水管壁(1)端部間(図中上方)に配置する。従って,バーナ(5)からの燃焼ガスは,水管壁(1),(1)間を図中上方から下方に向けて流れることになり,これに関連して上記の水管群(2),(3),(4)は,この流れ方向に沿って伝熱面密度(燃焼ガスの単位流路長さ当りの伝熱面面積)の小さいものから大きいものへと配列された状態としてある。」(同6頁3行〜12行) 「以上のような構成の角型多管式貫流ボイラーによれば,バーナ(5)からの燃焼ガスは,水管壁(1),(1)間で直管状の水管群(2),横ヒレ状のフィン付の水管群(3)並びにエロフィン水管群(4)を通過し,エコノマイザーを介して,あるいは直接煙突から流出する。」(同6頁20行〜7頁5行) 「更に,図示するような缶体構造とすることにより,燃焼ガスの流通経路を直線状に比較的長く設定でき,バーナ(5)からの燃焼ガスが水管群(4)の最後尾の水管(4a)を通過するまでに要する時間を比較的長く設定できる。」(同7頁14行〜18行) 「この考案の缶体においては,上流側の伝熱面密度の小なる水管群においても,燃焼ガス温度が低くおさえられ,下流側の外密度の大なる水管群においては,徐々に低下していくため,NOx特にthermal NOxの発生が防止でき,しかも上流側においても燃焼ガス温度が1200℃程度であるため,COが発生していても上流側でCO2に酸化されてしまい,以下下流側では徐々に温度が下がるため,CO2が再び分離してCOとなるのも防止できる。この考案においては,バーナ(5)に空気比1.3の予混合気を供給して燃焼させた場合,NOxは,従来のものに比べて1/3〜1/2程度まで低減し,またCOは,十数ppm以下までに低減するという結果が得られた。」(同8頁8行〜9頁2行) ク 考案の効果 「又,この考案のボイラーでは,燃焼ガスが比較的均一に温度低下しながら通過し,その温度を低く抑えられるため,NOxやCO等の有害廃棄物の発生がほとんどなく,公害対策上も有利である。更に,この考案のボイラーは,横幅の縮小が容易に行えるから同一効率で比較した場合の全体の大きさを縮小し,設置スペースの削減を可能にし,同一スペースでも多くのボイラーが設置できる・・・」(同10頁14行〜11頁1行) (2) 上記認定の引用例の記載によれば,引用例中には,「燃焼ガス」が水管群を通過する旨の記載はあるものの,「燃焼火炎」が水管群を通過する,あるいは「燃焼火炎」中に水管を置く,といった文言の記載は見当たらない。
証拠(甲第12ないし第14号証,乙第1ないし第4号証)によれば,「燃焼」とは,「酸化反応が高温で熱と光をともないながら,自動的に進行する現象」(甲第12号証1頁10行〜11行,乙第2号証1頁10行〜11行)あるいは「高速の発熱反応で,一般に光を伴う現象の総称」(乙第1号証7頁12行)をいい,「反応帯における物質の化学反応による変化が,短時間(パラフィン系炭化水素=空気予混合燃焼で10-3〜10-2秒程度)で完了すること,気相で反応する場合には火炎ができることなどは,燃焼に共通する現象である」(乙第1号証7頁12行〜15行)こと,「燃焼ガス」とは,「燃料の可燃元素である炭素,水素,いおうなどが完全燃焼して生ずるCO2,H 2O,SO 2のほかに,供給されたO 2のうち燃焼に供されなかった過剰のもの,供給された空気中のN 2,燃料中に最初からあるN2,CO 2などの不燃性ガス,燃料や空気中の水分などから成り,不完全燃焼の場合は,すす,CO2,H 2,CxHyなどの未燃物も含む。」(甲第12号証22頁5行〜9行)ものであること,と定義されていることがそれぞれ認められる。
原告は,上記用語の定義から,「燃焼火炎」とは,激しく燃料が燃え,光と熱を発生する部分であるのに対し,「燃焼ガス」とは,その燃え終わった部分であるとするのが技術常識であるから,両者は別個のものとして区別されるべきであると主張し,甲第13,第14号証(いずれも宣誓供述書)中にはこれに沿う部分がある。
しかしながら,他方,証拠(甲第7ないし第9号証,丙第13号証)によれば,「火炎は酸化反応のある状態をあらわす言葉であるが,物質としては反応生成物であるから,これを燃焼生成物(combustion products),燃焼ガス(combustion gas)などとよぶ。とくに,その温度が低下して発光をともなわない状態になれば,これを火炎と呼ばないのが普通である。」(甲第7号証2頁8行〜12行),「燃料が燃焼したときに生ずる高温のガスを燃焼ガスまたは燃焼廃ガスといい・・・ガス燃料における燃焼ガスの状態は,当初は火炎(炎)を形成するが次第に炎は消滅する。いずれにしても高温のいわゆる燃焼ガス状態をある程度保つが,この燃焼ガスはボイラーの流動域によってその名称が変わる。すなわち,燃焼室や主な伝熱面を流動中は燃焼ガス,そして煙道に達し350℃程度以下になった燃焼ガスは煙道ガスと称し,・・・」(甲第8号証30頁下から2行〜31頁下から3行),「火炎を含む燃焼ガスは高温であると同時に内燃機関などの動作ガスとして直接利用できる」(甲第9号証75頁16行〜17行)とする文献があることが認められる。また,甲第11号証によれば,本願出願前に公開された特開昭60-78247号には,「このフィン群3内には冷水が通るチューブ4が挿通してあり,火焔が通過する際にその温度を約1,000℃以上,約1,500℃以下に制御するように設定してある。・・・前記温度制御された火焔(燃焼ガス)は・・・」(5欄8行〜14行)との記載があることが認められる。
これらの記載は,「燃焼ガス」の語が「燃焼火炎」を含むものとして用いられる場合があることを示すものであり,これらの記載に照らすと,原告の指摘する上記証拠のみでは,燃焼火炎と燃焼ガスとを別個のものとして区別するのが技術常識であると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,用語の一般的意味からは,直ちに,引用例にいう「燃焼ガス」が「燃焼火炎」と別個のものである,と解することはできないというべきである。
(3) 甲第3号証によれば,引用例には,そこで用いられている「燃焼ガス」の語の意義を,原告主張の,燃焼火炎を除く燃焼が終了した後のもの,に限定する記載は存在しないことが明らかである。
むしろ,前記の引用例の記載の下では,次のようにいうことができる。
引用例は,NOx,CO等の有害燃焼排気物の低減化対策として,燃焼ガス温度を調整することが必要とされるボイラに関する考案であり,そこでは,従来例として,バーナ炎自体を冷やすことによって燃焼ガス温度を調整するものが挙げられている。また,引用例では「バーナ(5)からの燃焼ガス」との表現が用いられており,バーナから直接噴出されるのは火炎であることは明らかであるから,この表現は,燃焼火炎を含むものと理解するのが自然である。そして,この「バーナ(5)からの燃焼ガス」は,水管群(2)ないし(4)を通過し,水管への伝熱によって低温化し,NOxの発生が防止されるものとされている。さらに,明細書の図面1,3(別紙参照)には,バーナが水管と近接した位置に図示されており,甲第15,第16号証によれば,バーナからの火炎の長さは,ノズルの直径に比して相当に長いことが認められる(直径3・2mmのノズルによる噴流火炎の長さは,噴流流速10m/s以下でも30cm近くに達し,噴流流速20m/sを超えて乱流火炎となった後は,流速を増しても,約40cm程度の長さを保つ)。以上の事実を総合すると,他に特段の事情が認められない限り,引用例の「燃焼ガス」は,「燃焼火炎」を含み,水管の一部は燃焼火炎中にあるものと解するのが相当である。
(4) 原告は,従来例のボイラにおいて,燃焼火炎内に水管を置くことは,水管の焼損を招くことになるため厳格に禁止されており,これが本願発明までの当業者の技術常識であって,本願発明が初めて燃焼火炎中に水管を配置したものである旨主張する。
甲第2号証の1によれば,本願明細書には,〔課題を解決するための手段〕の項に「従来の炉筒水管ボイラの炉筒内では,本発明のような水管に火炎をぶつつけると未燃分の発生及び水管の燃損は伴なうとの考えの下に採用されていなかったのである。」(3欄22行〜24行)との原告主張に沿う記載がある。
また,甲第4ないし第6号証によれば,昭和29年発行の「燃料の節約と汽罐の保全」と題する文献には,「重油燃焼の概念」の章に「(4)焔が伝熱面にふれない内に燃焼を完了させること・・・(5)焔を汽罐受熱面や炉壁面に直接ふきつけてはならぬ」との記載があること,昭和30年発行の「汽罐取扱いの実際」と題する文献には,「重油燃焼についての心得」の章に「最も近い蒸発管(水管)とは,火炎の先端が衝突することを避けるためなるべく離し,少なくとも1500mmの距離をおく。」との記載があること,平成10年発行の「二級ボイラー技士教本」(初版改訂第3刷)と題する文献には,「燃焼室」の項に「燃焼速度を速くし,燃焼室内で燃焼を完結させる。・・・使用バーナの特性に適合しない形状の燃焼室においては,火炎が放射伝熱面あるいは炉壁を直射し,これらを焼損したり,不完全燃焼を起こしたりする。」との記載があることが認められる。
しかしながら,他方,丙第5号証,第6号証の1,2,第7号証によれば,実公昭39-1002号公報には,「火焔を左右に分流して後列蒸発管A1に当て加熱度を上昇し蒸発管群A1の加熱を平等にせんとするもので蒸気の発生を迅速にし蒸発量を豊富にして負荷の調節を自在にし過熱部蒸発管の焼損を防ぎ」(丙第5号証・1頁右欄9行〜13行)との記載があること,昭和33年に特許庁資料館に受け入れられた米国特許第2841124号には,「温水ボイラ部分に冷水が入っても亀裂を生じず,放射状の炎に直接接触させる・・・管を持つこじんまりした小型重畳水平部ガス燃焼ボイラ」(訳文である丙第6号証の2・1頁21行〜26行)との記載があること,特開昭62-84258号公報には,「第一の伝熱管群は,燃焼手段に最も近接して,例えば燃焼手段によって形成される火炎中・・・に配置される」(丙第7号証・2頁右上欄15行〜17行)との記載があることが認められ,これらの記載によれば,本願出願前に,火炎をボイラの水管に直接接触させる技術が,複数公開されていたものであることが明らかである。これらの事実に照らすと,甲第4ないし第6号証から,本願出願前において,燃焼火炎内に水管を置くことが厳格に禁止されていたものと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。上記本願明細書の〔課題を解決するための手段〕の記載を証拠に裏付けられたものと認めることはできない。
(5) 原告は,引用考案に燃焼火炎があることは認めるが,引用考案は燃焼火炎による燃焼が終わった後の燃焼ガスに関する考案である旨主張する。
しかしながら,証拠(丙第14ないし第17号証)によれば,Thermal NOの生成は,燃焼温度が高く,燃焼域でのO2濃度が高く,また高温域での燃焼ガスの滞留時間が長くなるほど多くなり,特に温度についてその傾向が顕著であること,いったんNOが形成されると分解速度はきわめて遅く,普通の反応条件の下ではNOが窒素と酸素に解離することは余りないこと,このため,NOは,高温帯を離れた後は頑強に存在し,いわば「凍結」されることが認められる。
仮に,原告主張のとおり,引用考案が,燃焼が終わった後の燃焼ガスの温度調節に関する考案であるとすると,燃焼火炎の段階でのNOxの発生については何らの配慮もされないことになり,前記認定によれば,この段階で発生したNOxはその後の燃焼ガスの温度をいくら調節しても消滅しないことになり,引用考案がNOxの発生を防止することが求められているボイラに関するものであることと合致しない。
引用考案が,NOxの発止防止を当然の前提としていると認められる以上,燃焼火炎の段階でも燃焼温度を調節し,NOxの発生を防止する構成を採用しているとみるのが相当である。
原告の主張は採用することができない。
(6) 原告は,引用考案では,伝熱面密度の小なるものから大なるものの順に水管を配置した構成と,低NOx化や1200℃の温度が実現されるという作用効果との関係が不明であり,本願発明1と同一の技術思想に基づくものとは認められない旨主張する。
しかしながら,前記認定によれば,引用考案は,燃焼ガス内に水管を置き,燃焼ガスを冷却してその温度を調節することによって,NOxの発生を防止するとともに,1200℃の温度を実現するものであり,そうである以上,仮に引用発明の技術思想が本願発明の技術思想と相違しているとしても,そのことは,引用発明と本願発明1とが同一であるとの判断を何ら左右するものでないことが明らかである。
原告の主張は,失当であり,採用することができない。
(7) 他に,引用例の「燃焼ガス」が「燃焼火炎」を含まないとする特段の事情を認めるに足りる主張,立証はない。
2 なお,審決は,本願発明2の新規性についても判断を加えているが,本件は出願公告後にされた拒絶査定に対する不服の審判請求であるから,本願発明1について新規性が否定されれば,本願発明2について判断するまでもなく,審判請求が成り立たないことになる。したがって,審決が,本願発明2の新規性についても判断したのは,本来不要なことであり,本願発明1について新規性が認められない本件においては,本願発明2について判断するまでもなく,原告の審決取消理由は認められないというべきである(もっとも,以上述べたところによれば,本願発明2についての審決の判断にも,取消事由が認められないことは,明らかである。)。
以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,審決にはこれを
取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸
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