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関連審決 異議1998-72660
関連ワード 頒布された刊行物 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  上位概念 /  出願公開 /  技術的手段 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  明細書の記載要件 /  遡及 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 187号 特許取消決定取消請求事件
原告 ヤマハ発動機株式会社
訴訟代理人弁理士 木村良雄
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 大島祥吾
同 蓑輪安夫
同 大橋良三
同 大野克人
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/11/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年異議第72660号事件について平成12年4月12日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成4年5月26日にした特願平4-157387号(以下「原原出願」という。)の一部を平成7年6月23日に分割した新たな特許出願(特願平7-157974号。以下「原出願」という。)の一部を,更に分割して,(なお,本件では,後記のとおり,原原出願との関係で,本件出願が分割要件を満たしているか否かが争点であり,原出願の内容は問題とされていないから,以下,便宜上,原原出願からの原出願の分割及び原出願からの本件出願の分割を,一括して「本件分割」という。),平成8年9月4日に出願した(以下,この出願を「本件出願」という。),発明の名称を「電動自転車」とする特許第2684029号の特許(平成9年8月15日に特許権設定登録,以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
三洋電機株式会社から,本件特許につき,請求項1ないし4に対して特許異議の申立てがあり,特許庁は,これを,平成10年異議第72660号事件として審理した結果,平成12年4月12日に,「特許第2684029号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年5月1日にその謄本を原告に送達した。
2 本件特許の特許請求の範囲 【請求項1】 人力駆動系と電気駆動系とを並列に設けた電動自転車において,繰返し充放電可能な長尺状のバッテリーケースを車体フレームのフレーム部材の長手方向に沿わせて配置するとともに,前記バッテリーケースを車体フレームに対しこのバッテリーケースの長手方向の一端部を支点にして揺動自在かつ着脱自在に設け,前記バッテリーケースの一端部を車体フレームに係合させ,続いてその一端部を支点に揺動させる一連の車体フレームへの装着操作に伴い前記バッテリーケースに設けた放電用接触端子が前記車体フレーム側に設けたモータ側接触端子に自動的に接続する構造としたことを特徴とする電動自転車。(以下「本件発明1」という。) 【請求項2】 請求項1記載の電動自転車において,バッテリーケースを支点回りに揺動させることによって放電用接触端子がモータ側接触端子に接続する構造としたことを特徴とする電動自転車。(以下「本件発明2」という。) 【請求項3】 請求項1または請求項2記載の電動自転車において,バッテリーケースをシートチューブとシートステーと後輪とによって囲まれる空間に配置し,車体側方に揺動自在としたことを特徴とする電動自転車。(以下「本件発明3」という。) 【請求項4】 請求項1ないし請求項3記載のうち何れか一つの電動自転車において,バッテリーケースに充電用接触端子と放電用接触端子とを設け,これらを並列に接続したことを特徴とする電動自転車。(以下「本件発明4」という。) 3 決定の理由の要点 別紙決定書の理由の写し記載のとおり,@本件分割は,分割要件を満たしておらず,本件出願については,出願日の遡及は認められないから,その出願日は,実際に出願された平成8年9月4日であると認められ,本件発明1ないし4は,その出願日前に公開された,原原出願に係る公開特許公報である特開平5-319104号公報(甲第3号証,以下「刊行物1」という。)及び実公昭60-7995号公報(甲第4号証。以下「刊行物2」という。)記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,これらについてなされた特許は,いずれも,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであって,同法113条2号に該当し,A本件特許の明細書における発明の詳細な説明は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められず,本件特許は,特許法36条4項の規定に違反してなされたものであって,同法113条4号に該当し,取り消されるべきである,と認定判断した。
原告主張の決定取消事由の要点
決定の理由中,「T.手続の経緯」は認める。「U.本件特許発明」中,「(1)本件特許発明の認定」及び「(2)分割要件の可否」のうち「イ.第1回目の取消理由及び審尋書の経緯」は認め,その余は争う。「V.取消理由1について」,「W.取消理由2について」及び「X.むすび」は争う。
決定は,本件分割の分割要件の有無について,誤って分割要件を具備しないものであると判断し(取消事由1),本件発明1ないし4の容易想到性について,誤って当業者が容易に想到できたものであると判断し(取消事由2),本件特許時の明細書又は図面(以下,両者をまとめて「本件特許明細書という。)の記載について,誤って,当業者が本件特許を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められないと判断した(取消事由3)ものであり,これらの誤りは決定の結論に影響を及ぼすものであるから,決定は,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(分割要件の有無についての認定判断の誤り) 決定は,本件特許明細書の特許請求の範囲請求項1における「車体フレーム」は,揺動自在に取り付けられている支持箱を含まず,請求項1の「前記バッテリーケースの一端部を車体フレームに係合させ」るとは,支持箱のような部材を介さないで,バッテリーケース自体を車体フレームに直接係合させることを意味する,と解釈して,このような事項は,原原出願及び原出願の明細書及び図面には全く記載されていないから,本件特許は分割要件を満たしていない,とした。しかし,この認定判断は,誤りである。
(1) 本件発明1の本質は,本件特許明細書(甲第2号証)の特許請求の範囲請求項1に記載した構成を採用することにより,放電用接触端子とモータ側接触端子とを接離させるに当たって,バッテリーケースの着脱操作のほかに特別な操作を要しないものとしたことにより,バッテリーケースの着脱操作が単純になり,充電作業が簡略化されるという効果を奏すること,バッテリーケースの一端部を車体フレーム側に係合させる第1行程と,この一端部を支点にバッテリーケースを揺動させる第2行程との2行程で装着操作を行うことにより,第1行程ではバッテリーケースの一端を係合させるという丁寧な操作になり,第2行程では揺動というバッテリーケースの移動方向が規制された操作になるので,いずれの行程で両接触端子同士が接続するにしても接続が正確かつ円滑になるという効果を奏することにある。
このような本件発明1の本質に鑑みれば,バッテリーケースを揺動させる支点の具体的構成はいかなる態様でもよいというべきであり,本件特許明細書中に従来の技術として例示された実公昭60-7995号公報(甲第4号証)に記載された「切欠付支持金具」を用いる手段や本件発明の実施例として記載された「支持箱」を用いる手段を含め,バッテリーケースの一端部が車体フレームに係合され,続いてその一端部を支点に揺動させることができるものであれば,いかなる手段でもよいことは明らかである。本件特許明細書の特許請求の範囲請求項1においては,上記の趣旨に基づいて可動側のバッテリーケースに対応する言葉として,固定側を「車体フレーム」と総称し,「バッテリーケースの一端部を車体フレームに係合させ」と記載したものである。
(2) 決定は,一般に,「車体フレーム」が,車体の骨格の働きをする部材であると解されていることからすれば,車体フレームということができるのは,車体の骨格の働きをする部材とその部材に当初から一体的に設けられフレームと同一視し得るものに限られ,単に車体フレームに対して他の部品を取り付けるために設けられただけの部材を車体フレームということはできない,とする。
しかし,「車体フレーム」の語に絶対的な定義は存在せず,これにどのような部材が含まれるかは,その使用態様により異なる。本件発明1においては,前記の発明の本質から,特許請求の範囲に「バッテリーケースの一端部を車体フレームに係合させ,続いてその一端部を支点に揺動させる」という一連の技術を表す際に,その支点がどのようなものに存在するかを示す言葉として,上記(1)の意味で「車体フレーム」の用語を用いたものである。
(3) 決定は,原原出願及び原出願の明細書並びに本件特許明細書には,「車体フレーム」が支持箱及びその取付部材を含むものであると定義付ける旨の記載はない,とする。
しかし,原原出願の特許公報(甲第5号証参照)の特許請求の範囲請求項1には,「前記足通し空間の下部であって車体フレーム側に,バッテリーケースの着脱操作に伴って前記放電用接触端子に接離されるモータ側接触端子を固定した」と記載され,その発明の詳細な説明における実施例の説明中には,この車体フレーム側にモータ側接触端子を固定した点について,「開口幅が狭く形成された幅狭部25aに,バッテリーケース21の放電用コネクタ26に接続されるモータ側コネクタ42が取付けられると共に,この支持箱25をステー41に揺動自在に連結するための支軸43が支持されている。」(4頁右欄【0034】1行〜5行)と記載され,第9図には支持箱にモータ側接触端子が設けられた実施例の状態が図示されている。原原出願は,これらの記載で特許され,その後になされた特許異議申立手続において,モータ側接触端子が固定されているのが「車体フレーム側」であるか,「車体フレームとは別部材の支持箱側」であるかの議論がされることはなかった。この事実は,当業者であれば原原出願の発明の本質から車体フレームの言葉が何を意味しているかを容易に判断することができ,原原出願の発明におけるモータ側接触端子が固定される車体フレーム側とは,その実施例に示されている「支持箱」も当然に含むものとして理解することを意味している。本件発明1では,原原出願で用いられた用語をそのまま用いているものであるから,上記の意味に変更はない。
(4) 決定は,「車体フレーム」の語が,支持箱及びその取付部材であるフレームに対して揺動自在に取り付けられるものまでも含むことを示す客観的証拠はない,とする。
しかし,特公昭60-267号公報(甲第6号証)には,特許請求の範囲に「エンジン付自転車のエンジン懸架装置において,フレームに一個の枢軸を介して揺動可能に軸支されたエンジン」と記載され,その実施例として,第2,第3図から明らかなように,エンジン16は枢軸14によって揺動可能に軸支され,その枢軸14はエンジンブラケット18に支持され,そのエンジンブラケット18はヒンジ状に開閉でき自由に取り外すことができる構成が記載され,エンジンが,緩衝部材17を介してフレーム12に固定される構造が記載されている。
また,特開平9-286366号公報(甲第7号証)には,特許請求の範囲請求項1に「・・・において,この電動自転車のフレーム途中にバッテリユニットを収納するバッテリ収納凹部を設け」と記載され,発明の詳細な説明中には,その実施例につき「フレーム4のメインパイプ8から駆動補助装置にかけては,合成樹脂製で形成されたフレームカバー42により被覆されており,・・・このフレームカバー42にはメインパイプ8の上で長手方向に沿って下方に凹むバッテリ収納凹部44が形成されており,このバッテリ収納凹部44内に前記バッテリユニット38が嵌まり込むようになっている。」(4頁左欄【0027】1行〜8行)と記載され,第4図にはその実施例が図示されている。
以上のように,実施例でみれば車体フレームから自由に取り外すことができる部材であるヒンジ状のエンジンブラケットや合成樹脂製のフレームカバーについても,特許請求の範囲ではこれを含めて車体の「フレーム」と称している。このように,発明の本質と関係のない部分については,特許請求の範囲上位概念的にまとめて記載することは,通常広く行われていることであり,本件特許発明における支持箱も車体フレームに含めて称されることができる部材の一つの形態にすぎないから,本件発明1において,上記(1)で述べた意味で「車体フレームに係合」の言葉を用いたことは何ら不適切ではない。
以上のように,決定が本件分割が分割要件を満たしていないとする理由は,誤りであり,本件発明1に記載された「前記バッテリーケースの一端部を車体フレームに係合させ」た事項は,原原出願の明細書又は図面に記載された事項の範囲内であるか,又は少なくともこれらに記載された事項から自明な事項である。したがって,本件特許は分割要件を満たしているから,これを否定した決定は違法である。
2 取消事由2(容易想到性についての判断の誤り) (1) 本件分割は上記のとおり分割の要件を満たしており,本件出願の出願日は,原原出願の出願日である平成4年5月26日に遡及するから,原原出願の公開公報である刊行物1(甲第3号証)が,本件出願との関係で公知の刊行物となることはあり得ない。
また,刊行物2(甲第4号証)は本件特許明細書中に従来の技術として例示された文献であり,本件発明1はこの従来技術の不安定な支点構造を改良して支持箱に収まるような支点構造としたものである。このような,本件特許明細書に従来の技術として例示された技術を,本件発明1の進歩性を否定する先行技術として採用することは,許されないものというべきである。
したがって,刊行物1,2を根拠に本件発明1の進歩性を否定するのは誤りである。
(2) 本件発明2ないし4は,いずれも本件発明1の構成を更に限定したものであるから,本件発明1の進歩性を否定することができない以上,本件特許発明2ないし4についても,進歩性を否定することはできないというべきである。
3 取消事由3(明細書の記載要件についての認定判断の誤り) 決定は,「本件特許明細書の請求項1の「車体フレーム」は,支持箱を含まないダウンチューブとシートチューブからなる車体骨格の働きをする部材と見るのが相当であるので,本件特許明細書の詳細な説明には,その車体フレームに対してどのようにバッテリーケースを取り付けるのか全く記載されていないのであり,依然特許法第36条第4項に規定された要件を満足していない。」(審決書5頁18行〜23行)とした。しかし,この認定判断は,誤りである。
本件発明1の「車体フレーム」に,支持箱が含まれないとの決定の認定判断が誤りであることは,前記のとおりである。本件特許明細書中には,バッテリーケースを車体フレームに対して係合させる点について,支持箱を用いる実施例が記載されているから,本件特許明細書は,当業者が本件発明1を容易に実施できる程度に記載されているということができる。
決定は,本件発明1の容易想到性についての判断では,バッテリーケースを支持箱を用いずに取り付けることは容易であると判断したのに,明細書の記載要件についての判断では,バッテリーケースを支持箱を用いずに取り付ける方法の明記がなければ,当業者が本件発明1を容易に実施できないとしており,これらの判断は相互に矛盾するものであって失当であるというべきである。
被告の反論の要点
決定の認定判断は,正当であり,決定を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(分割要件の有無についての認定判断の誤り)について (1) 本件発明1の本質は,本件特許明細書に記載された従来の技術に基づいた目的,効果の記載及びその目的,効果を具体的に達成する構成として明示された特許請求の範囲の記載から把握される無形の観念(思想)である。分割要件の判断は,発明の技術的事項を記載した特許請求の範囲に基づいて行われなければならない。本件発明1は,本件特許明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された発明そのものであり,決定が認定判断したとおり,その構成に,揺動自在に取り付けられた支持箱は含まないものである。原告は,「車体フレーム」が発明の本質に影響のない部分の字句にすぎないとの前提に基づき,特許請求の範囲に記載の内容を,本件特許明細書に記載の従来技術,その課題,効果についての記載から,異なる意味に解して主張するが,失当である。
原告は,本件発明1の本質に鑑みれば,バッテリーケースを揺動させる支点の具体的構成はいかなる態様でもよいことであり,本件発明1においてこの支点を構成する手段として,本件特許明細書中に従来例として例示された実公昭60-7995号公報(甲第4号証)に記載された「切欠付支持金具」を用いる手段,本件発明1の実施例として記載された「支持箱」を用いる手段等を含むいかなる手段であってもバッテリーケースの一端部が車体フレームに係合され,続いてその一端部を支点に揺動させることができればよいことは明らかであると主張する。しかし,原告が主張する発明の本質は,上記のとおり誤っており,バッテリーケースを揺動させる支点の具体的構成はいかなる態様でもよいとの原告主張については,本件特許明細書中に全く記載も示唆もされていない事項である。この支点を構成する手段として,本件発明1では上記従来例(甲第4号証)に記載された「切欠付支持金具」を用いる手段を利用するとの原告主張についても,本件特許明細書には全く記載も示唆もされていない。その上,本件特許明細書には,この支点の具体的構成として支持箱を利用した実施例が記載されているだけで,それ以外の構成を採り得るとの記載は一切ない。さらに,本件特許明細書には,可動側のバッテリーケースに対応する言葉として,固定側を「車体フレーム」と総称するとの記載も,「車体フレーム」が車体フレームに対して揺動自在に取り付けられている支持箱を含むとの記載も一切ない。したがって,原告の上記主張は誤りである。
(2) 原告は,本件発明1においては,発明の本質から,特許請求の範囲に「バッテリーケースの一端部を車体フレームに係合させ,続いてその一端部を支点に揺動させる」という一連の技術を表す際に,その支点がどのようなものに存在するかを示す言葉として「車体フレーム」の用語を用いたものであると主張する。
しかし,原告のいう発明の本質とは,前記のとおり誤りであり,本件特許明細書には,バッテリーケースを揺動させる支点の構成がいかなる態様でもよいとの記載はなく,可動側のバッテリーケースに対応する言葉として,固定側を車体フレームと総称する旨の記載も一切ない。
(3) 原告は,当業者であれば原原出願の発明の本質から車体フレームの言葉が何を意味しているかを容易に判断することができ,原原出願の発明におけるモータ側接触端子が固定される車体フレーム側とは,その実施例に示されている「支持箱」も当然に含むものとして理解することを意味し,本件発明1でも,原原出願で用いられた用語をそのまま用いているものであると主張する。
しかし,原原出願に係る発明の特許請求の範囲の請求項1には,「車体フレーム側に」との文言は記載されているものの,本件発明1に記載されている「車体フレームに」との文言は記載されていない。「車体フレームの側に」と「車体フレームに」との間には,明確な相違がある。すなわち,本件発明1の「車体フレームに」は,原原出願における「車体フレーム側に」を更に限定したものであり,これらを同一ということはできない。したがって,これらを同一視し,本件発明1では原原出願から使用されている用語をそのまま使用し,その意味は全く変更されていないとする原告の主張は失当である。
特公昭60-267号公報(甲第6号証)には,「枢軸14は図示の例ではフレーム12に対し緩衝部材17を介して固定された(第3図参照)エンジンブラケット18に設けられている。」(甲第6号証2頁左欄29行〜32行)と記載され,この記載によれば,エンジンブラケット18はフレームに対して固定されているものである。したがって,車体フレームに一体的に固定されたブラケットのようなものではなく,車体フレームから自由に取り外しができる部材まで含めて「車体フレーム」と称している,との原告の主張は誤りである。
特開平9-286366号公報(甲第7号証)は,本件発明の現実の出願日以降に出願公開されたものであり,本件分割の適否を判断する上での証拠としては採用できないものである。仮に採用できるとしても,甲第7号証の記載では,フレームカバー42の車体に対する取付構成は不明であり,第5実施例についての「電動自転車2のフレーム4途中に形成したバッテリ収納凹部44に収納されるバッテリユニット38」(5頁右欄【0062】1行〜3行)との記載とこれに対応する第11図によれば,バッテリユニットを直接車体フレームに取り付けるものが示されている。このように,甲第7号証では,バッテリユニットが,車体フレームに直接取り付けられている実施例と,車体フレームにどのように取り付けられているか不明なフレームカバーに対して取り付けられている実施例が開示されている発明について,その特許請求の範囲に「電動自転車のフレーム途中にバッテリユニットを収納するバッテリ収納凹部を設け」と記載されている。したがって,甲第7号証の記載により,車体フレームに一体的に固定されたブラケットのようなものではなく,自由に取り外すことができる部材まで含めて車体の「フレーム」と称しているとの原告の主張は失当である。
したがって,本件決定の「支持箱及びその取付部材であるフレームに対して揺動自在に取り付けられるものまでも『車体フレーム』に含むことを示す客観的証拠は何らない。」(決定書3頁20行〜22行)との判断に誤りはない。
仮に,原告主張のとおり本件発明1の「バッテリーケースの一端部を車体フレームに係合させ」るとの構成が,車体フレームに支持箱のような部材を用いて係合させこれを支点とする構成を含むものとすれば,揺動自在に取り付けられている支持箱は車体フレームに含まれることになるから,本件特許明細書の第1実施例と第2実施例ではともに,バッテリーケースが支持箱,すなわち車体フレームに対して着脱自在ではあるが,バッテリーケースは支持箱,すなわち車体フレームに対して揺動自在ではない。したがって,これらの実施例は,本件特許発明の要件である「バッテリーケースを車体フレームに対しこのバッテリーケースの長手方向の一端部を支点にして揺動自在かつ着脱自在に設け」るとの構成を備えていないことになる。したがって,原告の上記主張は,本件特許明細書の第1,第2実施例の記載と矛盾するものであって,失当である。
以上のように,決定の「車体フレーム」の定義についての認定には誤りはないから,本件発明1の「バッテリーケースの一端部を車体フレームに係合させ,続いてその一端部を支点に揺動させる」との構成は,原原出願の明細書及び原出願の明細書のいずれにも全く記載されていないし,これらの記載から自明の事項でもない。したがって,本件分割が分割の要件を満たしていないとした決定の判断に,原告主張の誤りはない。
2 取消事由2(容易想到性についての判断の誤り)について (1) 原告は,本件発明1は,従来技術の不安定な支点構造を改良し,支持箱に収まるような支点構造とした技術に関するものであり,本件発明1の本質に関係のない構造部分について,従来例として示した技術を採用することは同一技術の範囲内であって,進歩性があるか否かの議論を生じる余地がないと主張する。
しかし,本件特許明細書には,支点構造についての問題点の記載は一切なく,従来技術の不安定な支点構造を改良するとの記載もない。本件発明1の「バッテリーケースの一端部を車体フレームに係合させ」るとの構成を,本件発明1の本質に関係のない構造部分とする理由もない。明細書に従来技術として記載された文献が,当該明細書の発明の進歩性を判断する証拠として採用できないとの理由はない。したがって,原告の上記主張は失当である。
(2) (1)で述べたところによれば,決定の,本件発明2ないし4についての認定判断にも,誤りはない。
3 取消事由3(明細書の記載要件についての認定判断の誤り)について 本件発明1の「車体フレーム」は,支持箱を含まないものと解すべきであるのに対し,本件特許明細書に記載された実施例はすべて支持箱を含むものである。
したがって,本件特許明細書は,支持箱を含まないでバッテリーケースの一端部を車体フレームに係合させ,続いてその一端部を支点に揺動させることについて,当業者が実施できる程度に記載されていない。
進歩性の判断を行う際の「当業者」と,明細書の記載要件を判断する際の「当業者」とは,その語句は同じであってもその範囲を異にしている。すなわち,明細書の記載については,その発明の属する技術分野に属する全部門の当業者にとって容易であることが必要であるのに対して,進歩性の判断については,全部門の当業者にとって容易であることは必要でない。したがって,進歩性についての取消事由2と明細書の記載要件についての取消事由3に関係する決定の判断が矛盾するとの原告の主張は,失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(分割要件の有無についての認定判断の誤り)について (1) 本件訴訟においては,「車体フレーム」の語が,支持箱のような第3の部材を含む意味で用いられている場合と,これを含まない意味で用いられている場合とがあるため,以下においては,理解の便宜のため,後者の意味で用いられている場合を「狭義の車体フレーム」と呼称することにする。
原告は,本件発明1においては,バッテリーケースを揺動させる支点の具体的構成はいかなる態様でもよく,いかなる手段であってもバッテリーケースの一端部が狭義の車体フレームに係合され,続いてその一端部を支点に揺動させることができればよいと主張する。また,原告が,本件の審判手続段階における審尋書に対する回答書において,本件発明1の「バッテリーケースの一端部を車体フレームに係合させ」るとは,バッテリーケースを直接,狭義の車体フレームへ係合することと,バッテリーケースを支持箱のような第3の部材を介して狭義の車体フレームに係合することとの両方を含む旨を回答したことは,当事者間に争いがない。
以上によれば,原告は,本件発明1が,少なくとも,バッテリーケースを,支持箱などの第3の部材を介することなく,直接,狭義の車体フレームに係合する場合を含むものであることを認めており,この点は,当事者間に争いがないものということができる。
原告は,審決が,本件発明1の「車体フレーム」は,狭義の車体フレームであり,揺動自在に取り付けられている支持箱を含まない,と認定したことを争い,揺動自在に取り付けられている支持箱も,本件発明1の「車体フレーム」に含まれる旨主張する。しかしながら,本件分割の適法性に関して問題となるのは,当事者間において本件発明1に含まれることに争いのない,バッテリーケースを,支持箱などの第3の部材を介することなく,直接,狭義の車体フレームに係合することが,原原出願の出願当初の明細書又は図面に記載されていたか否かということであるから,それ以外に,支持箱などの第3の部材を介して狭義の車体フレームに係合することが,本件発明1の車体フレームに含まれるか否かという点は,分割要件の具備の有無の判断に影響を及ぼさないことが明らかである。したがって,この点に関する原告の上記主張は,主張自体失当である。
(2) 原告は,決定の「原原出願及び原出願の願書に添付された明細書及び図面には,バッテリーケースはすべて,車体フレームに対して支持箱を介して取り付けられているものしか記載されていない。」との認定を争っている。
そこで,原原出願の出願当初の明細書及び図面(甲第3号証,以下両者をまとめて「当初明細書」という。)についてみる。
甲第3号証によれば,当初明細書の特許請求の範囲請求項1には「バッテリーが収納されかつ放電用接触端子が設けられたバッテリーケースを,電動自転車用フレームに設けられたバッテリーケース搭載部に着脱自在に装着し,前記バッテリーケースの放電用接触端子に電気的に接続されるモータ側接触端子を,放電用接触端子との接続方向がバッテリーケースの着脱方向と同一方向になるようにフレーム側に固定したことを特徴とする電動自転車用バッテリーケースの取付構造。」との記載があること,同じく請求項2には「電動自転車のフレームにバッテリーケース支持箱を,その下方部を枢支させることによって揺動自在に設け,このバッテリーケース支持箱に,バッテリーが収納されかつ放電用接触端子が設けられたバッテリーケースを挿抜自在に装着し,前記放電用接触端子に電気的に接続されるモータ側接触端子を,放電用接触端子との接続方向がバッテリーケース支持箱の揺動方向と同一方向となるようにフレーム側に固定したことを特徴とする電動自転車用バッテリーケースの取付構造。」との記載があること,当初明細書の発明の詳細な説明中の発明の効果の項には「放電用接触端子をモータ側接触端子に接続させるに当たって,バッテリーケース着脱操作以外に特別な操作が不要になる。このため,バッテリーケースを車体から外す操作が単純となり,充電作業が簡略化するという効果がある。」(8頁左欄【0081】1行〜5行)との記載があること,が認められる。
当初明細書の上記認定の記載によれば,原原出願の発明は,電動自転車におけるバッテリーケースを車体から外す操作を単純化して充電作業を簡略化することを目的とするものであり,請求項2に係る発明は「電動自転車のフレームにバッテリーケース支持箱を,その下方部を枢支させることによって揺動自在に設け」る事項を構成要件とするのに対し,請求項1には,このようなバッテリーケース支持箱について何ら記載がないことが,明らかである。そして,甲第3号証によれば,当初明細書において,図1ないし図12が図示する実施例並びに図13及び図14が図示する実施例は,バッテリーケースが車体に対して前後方向に揺動自在な支持箱25に装着された技術を,図15及び図16が図示する実施例は,バッテリーケース21が固定式の支持箱63に装着された技術を,図17ないし図20が図示する実施例は,バッテリーケース21が車幅方向へ揺動自在な支持箱64に装着された技術を開示していることが認められるものの,原原出願の当初明細書の全記載を参照しても,バッテリーケースの一端部を支持箱を用いないで直接電動自転車用フレームに係合させ,その一端部を支点に揺動させる技術については,これを直接述べた記載も,これを示唆する記載もないことが,明らかである。
バッテリーには相当の重量があるものであることは顕著な事実であり,この重量を受けたバッテリーケースの一端部を直接自転車用フレームに係合するためには,技術的に何らかの工夫や改造を必要とすることは技術常識であるから,その技術的解決手段が当業者に自明であると認めることができないことは明らかである。そうすると,当初明細書には,バッテリーケースの一端部を,支持箱などの第3の部材を介することなく,直接,狭義の車体フレームに係合させ,続いてその一端部を支点に揺動させる技術についての開示があるとは認めることができないものというべきである。
したがって,本件発明1が当初明細書に記載のない事項を含んでおり,本件分割は分割要件を満たさないとした決定の判断に,誤りがあるとは認められない。
(3) 原告は,本件発明1の本質とは,本件特許明細書(甲第2号証)の特許請求の範囲請求項1に記載した構成を採用することにより,放電用接触端子とモータ側接触端子とを接離させる際に,バッテリーケースの着脱操作のほかに特別な操作を要しないものとしたことにあり,この本質に鑑みれば,バッテリーケースを揺動させる支点の具体的構成はいかなる態様でもよく,本件特許明細書中に従来の技術として例示された実公昭60-7995号公報(甲第4号証)に記載された「切欠付支持金具」を用いる手段,本件特許発明実施例として記載された「支持箱」を用いる手段等を含むいかなる手段であってもバッテリーケースの一端部が車体フレームに係合され,続いてその一端部を支点に揺動させることができればよいことは明らかである旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,主張自体失当という以外にはない。
まず,本件分割の適法性に関して問題となるのは,バッテリーケースを,支持箱などの第3の部材を介することなく,直接,狭義の車体フレームに係合することが,当初明細書に記載されていたか否かであって,本件発明1の車体フレームに狭義の車体フレーム以外のものが含まれるか否かではない。
次に,一般論としても,もし,原告の主張する論理が正しいとするなら,当該発明が課題としている事項以外の事項については,それが当該発明の課題とする事項(原告のいう発明の本質)でないことを理由に,その出願後生まれた技術を無制約に当該発明の中に取り込むことが可能となることになる。このような結果を招く論理が誤っていることは,論ずるまでもないところである。
原告は,当業者であれば,原原出願の発明の本質から,車体フレームの言葉が何を意味しているかを容易に判断することができ,原原出願の発明におけるモータ側接触端子が固定される「車体フレーム側」とは,その実施例に示されている「支持箱」も当然に含む意味で理解するものであり,本件発明1は,原原出願で用いられた用語をそのまま用いているものであるから,上記の意味に変更はないと主張する。
しかし,前記説示のとおり,原原出願の特許請求の範囲請求項1,2には「モータ側接触端子を・・・フレーム側に固定した」と記載されており,発明の詳細な説明中の実施例では,いずれもバッテリーケースが車体に対して前後方向又は車幅方向に揺動自在な支持箱に装着される技術が開示されているのみである。これに対し,本件発明1は「バッテリーケースの一端部を車体フレームに係合させ,続いてその一端部を支点に揺動させる」るものとし,バッテリーケースの一端部を,直接,狭義の車体フレームに係合する場合も含むものである。したがって,本件発明1が原原出願で用いられた用語をそのまま用いているということはできないことが,明らかである。原告の主張は採用することができない。
(4) 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(容易想到性についての判断の誤り)について (1) 本件分割が分割要件を充たしていないとの決定の判断に誤りがあるとは認められないことは前記説示のとおりであるから,決定が,この判断を前提に,本件発明1の出願日をその現実の出願日である平成8年9月4日であるとして,その前に頒布された刊行物1(特開平5-319104号公報・甲第3号証)を先行技術としたことに誤りはない。
(2) 刊行物2(実公昭60-7995号公報・甲第4号証)は,本件特許明細書に従来の技術として例示されているものである。しかしながら,本件特許明細書において従来技術とされているものであっても,本件発明1の先行技術であることに変わりはないから,これを,進歩性を判断する際の引用例として採用できない理由はない。
(3) 上記説示したところによれば,本件発明2ないし4の進歩性についての決定の判断に原告主張の誤りが認められないことは,明らかである。
以上のとおり,取消事由2も理由がない。
3 取消事由3(明細書の記載要件についての認定判断の誤り)について 以上によれば,取消事由3について検討するまでもなく,決定の結論は正当であることが明らかである。しかし,念のため,取消事由3についても検討してみることとする。
本件発明1は,少なくとも,バッテリーケースの一端部を,直接,狭義の車体フレームに係合させ,続いてその一端部を支点に,揺動させるものを少なくとも包含するものであることは,前記説示のとおりである。ところが,本件特許明細書の全記載を参照しても,どのようにして,バッテリーケースを支持箱を介さずに,直接,狭義の車体フレームに係合させるのかについては,何ら開示されていない。
バッテリーケースを電動自転車の狭義の車体フレームに直接係合するためには,走行中の加速又は減速の際にも,バッテリー重量を十分に支持しうるように,バッテリーケースの一端部を狭義の車体フレームに強固に係合する必要があることは技術常識であるというべきであるのに,その具体的手段が自明であると認めさせる記載はない。そうすると,本件特許明細書が,バッテリーケースの一端部を直接車体フレームに強固に係合する技術的手段を何ら開示していない以上,本件発明1においてバッテリーケースの一端部を支持箱を介さずに直接車体フレームに係合させ,続いてその一端部を支点に揺動させる技術的事項について,本件特許明細書に,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない,というべきである。
原告は,本件特許明細書中に,バッテリーケースを車体フレームに対して係合させる点について,支持箱を用いる実施例が記載されているから,本件特許明細書は,当業者が本件発明1を容易に実施できる程度に記載されているということができる,と主張する。
しかしながら,本件発明1が,バッテリーケースを支持箱を用いないで直接狭義の車体フレームに取り付けるものを少なくとも包含することは前述のとおりであるから,本件特許明細書の記載が特許法36条4項の要件を満たしているとするためには,支持箱を用いるものについてのみでなく,支持箱を用いないものについても,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていなければならないことは,当然というべきである。原告の主張は採用できない。
原告は,決定が,本件発明1の容易想到性についての判断ではバッテリーケースを支持箱を用いずに取り付けることは容易であるとしたことと,明細書の記載要件についての判断ではバッテリーケースを支持箱を用いずに取り付ける方法の明記がなければ当業者が本件発明1を容易に実施できないとしたこととは,相互に矛盾すると主張する。
しかしながら,ある技術が想到容易であるか否かの判断と,当該技術を実施する上での具体的な手段や方法の開示があるか否かの判断とでは,判断の場面が異なるというべきであり,これらに対する決定の判断に,原告主張の矛盾があるということはできない。
取消事由3も,理由がない。
4 以上によれば,原告主張の決定取消事由は,いずれも理由がなく,その他,決定の認定判断にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,本訴請求は,理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担に
つき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸
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