関連審決 | 審判1998-35505 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明の詳細な説明 / 実質的に同一 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
318号
審決取消請求事件
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原告 有限会社ケンオン興産 原告 有限会社ケイエイエム 原告 有限会社シミズ3名訴訟代理人弁護士 河合徹子 同 岡村泰郎 同 濱岡峰也 同 堀内康徳 同 山本健司 同 同弁理士 森治 被告 阪神高速道路公団 被告 株式会社栗本鐵工所 被告 新日本製鐵株式会社 被告 川崎重工業株式会社 被告 神鋼鋼線工業株式会社 被告 日立造船株式会社 被告 株式会社神戸製鋼所 被告 日本鋼管株式会社 被告 三菱重工業株式会社 被告 川崎製鉄株式会社 被告 日本碍子株式会社11名訴訟代理人弁護士 村林隆一 同 松本司 同 岩坪哲 同 弁理士 小谷悦司 同 村松敏郎 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/11/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告ら 特許庁が平成10年審判第35505号事件、同第35522号事件、同第35524号事件、同第35535号事件、同第35541号事件、同第35553号事件、同第35560号事件、同第35569号事件、同第35582号事件、同第35588号事件及び同第35599号事件について平成12年7月19日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告らの負担とする。 2 被告ら 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは、名称を「高架橋の足場兼用吸音部材」とする特許第2676598号発明(平成7年9月14日出願、平成9年7月25日登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。被告阪神高速道路公団、被告株式会社栗本鐵工所、 被告新日本製鐵株式会社、被告川崎重工業株式会社、被告神鋼鋼線工業株式会社、 被告日立造船株式会社、被告株式会社神戸製鋼所、被告日本鋼管株式会社、被告三菱重工業株式会社、被告川崎製鉄株式会社及び被告日本碍子株式会社は、それぞれ、平成10年10月22日、同月29日、同月30日、同年11月5日、同月9日、同月12日、同月16日、同月18日、同月24日、同月27日、同年12月1日、本件特許の無効審判の請求をし、平成10年審判第35505号事件、同第35522号事件、同第35524号事件、同第35535号事件、同第35541号事件、同第35553号事件、同第35560号事件、同第35569号事件、同第35582号事件、同第35588号事件、同第35599号事件として特許庁に係属した。特許庁は、これらの事件を併合して審理した結果、平成12年7月19日、「特許第2676598号発明の明細書の請求項1、2及び3に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年8月3日、原告らに送達された。 2 本件発明の要旨(【請求項1】〜【請求項3】の発明を、以下「本件発明1」〜「本件発明3」という。) 【請求項1】高架橋の床版の下方に所定の作業空間を形成して床版の下面を覆うように設ける恒久足場の足場兼用吸音部材であって、多数の透孔を有する上面板と、多数の透孔を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面板と、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填した吸音材とで構成したことを特徴とする高架橋の足場兼用吸音部材。 【請求項2】前記膨出部を帯状に形成したことを特徴とする請求項1記載の高架橋の足場兼用吸音部材。 【請求項3】前記下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填する吸音材を空洞を有するブロック体で形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の高架橋の足場兼用吸音部材。 3 審決の理由 審決の理由は、別添審決謄本記載のとおり、本件発明1及び2は、特開平7-180118号公報(甲第8号証、以下「引用例1」という。)及び実願昭61-22117号(実開昭62-138710号)のマイクロフィルム(甲第2号証、以下「引用例2」という。)記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明3は、引用例1及び2に記載された発明並びに周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、いずれも特許法29条2項の規定に違反し、同法123条1項2号により無効とされるべきであるというものである。 |
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原告ら主張の審決取消事由
審決の理由中、第一(手続の経緯、本件特許発明)、第二(審判請求)は認める。第三(引用刊行物記載の事項)中、引用例1に「吸音材を帯状に形成した高架式建造物の点検用歩廊兼用吸音部材」(審決謄本30頁14行目〜15行目)が開示されていること及び引用例2に「多数の吸音用小孔を・・・吸音長尺材」(同32頁7行目〜10行目)が開示されていることは争い、その余は認める。第四(当審での検討)一中、「引用例1のものにおいては・・・開示されていない」(同34頁2行目〜9行目)ことは認め、その余は争う。同二1中、「引用例1記載のものにおいては、吸音材を帯状に形成している」(同35頁22行目〜23行目)ことは争い、その余は認める。同二2中、「引用例1のものにおいては・・・開示されていない」(同35頁26行目〜32行目)ことは認め、その余は争う。 同三1は認め、同三2中、「引用例1のものにおいては・・・開示されていない」(同37頁19行目〜26行目)こと及び「又、『第三・・・参照のこと)」(同38頁3行目〜6行目)は認め、その余は争う。同三3中、「引用例1記載のものにおいては、吸音材を帯状に形成している」(同39頁11行目〜12行目)ことは争い、その余は認める。同三4中、「引用例1のものにおいては・・・開示されていない」(同39頁20行目〜28行目)こと及び「又、『第三・・・参照のこと)」(同40頁6行目〜9行目)は認め、その余は争う。第五(結び)は争う。 審決は、引用例2記載の発明(以下「引用例発明2」という。)の認定を誤り(取消事由1)、本件発明1と引用例1記載の発明(以下「引用例発明1」という。)との相違点1の判断を誤り(取消事由2)、本件発明2との相違点3に係る引用例発明1の認定を誤った(取消事由3)結果、本件発明1〜3が進歩性を欠くとの誤った判断をしたものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(引用例発明2の認定の誤り) (1) 審決は「引用例2において、『高架橋のスラブの下方に所定の作業空間を形成してスラブの下面を覆うように設ける恒久足場の足場兼用吸音面状体であって、多数の吸音用小孔を有する上面部と、多数の吸音用小孔を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面部と、下面部の膨出部内を含む上面部と下面部との間に充填した吸音材を有する吸音長尺材と、適宜間隔をおいて配設される複数の吸音長尺材上に敷設した多孔板とで構成した高架橋の足場兼用吸音面状体』が、公知の技術手段として開示されている。引用例2に記載のものは、高架橋において、そのスラブの下方に、騒音を吸収するとともに作業員が乗って橋桁部の点検補修を可能とする足場兼用吸音面状体を有するものであって、『上面板』及び『下面板』との明示はされてはいないものの、多数の吸音用小孔を有する上面部と、多数の吸音用小孔を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面部と、下面部の膨出部内を含む上面部と下面部との間に充填した吸音材を有する吸音長尺材の構成が開示されている。」(審決謄本34頁10行目〜23行目)と認定するが、誤りである。 (2) すなわち、引用例発明2の吸音材を充填した断面中空三角形の吸音長尺材は、外殻がアルミニウム製押出し形材により一体に形成されているものであるから、これを「上面部」と「下面部」とに分割して解釈することは適当でない。仮に「下面部」が「膨出部」を構成しているとしても、この「膨出部」は「下面部」全体によって構成され、「下面部」自体が「膨出部」を構成しているのであるから、 引用例発明2に「下方に突出する膨出部を形成した下面部」との構成が開示されているとする審決の認定は、誤りである。 (3) さらに、上記「膨出部」を構成する「下面部」と「上面部」とが直接一体化されているから、引用例発明2の吸音長尺材では、「膨出部」を構成している「下面部」と「上面部」との間のみに吸音材を充填したものである。したがって、 審決が引用例発明2に「下面部の膨出部内を含む上面部と下面部との間に充填した吸音材を有する吸音長尺材」の構成が開示されていると認定した(審決謄本32頁9行目〜13行目)ことは、膨出部以外の上面部と下面部との間における吸音材を充填する箇所の存在を認めたものであって、誤りである。 (4) 本件特許出願の願書に添付された明細書(甲第29号証、以下「本件明細書」という。)には、「上面板31及び枠部材32、さらに、場合によっては、下面板33を、押出成形により一体成形することができる。」(5欄37行目〜39行目)との記載があるが、この記載は、上面板、枠部材及び下面板の存在を前提とする。 これに対し、引用例発明2では、このような前提はないから、外殻がアルミニウム製押出し形材により一体に形成された断面中空三角形の吸音長尺材について、「上面部」と「下面部」とに分割して解釈することは適当でない。 2 取消事由2(本件発明1と引用例発明1との相違点1の判断の誤り) (1) 審決は、「請求項1に係る発明(注、本件発明1)においては、その恒久足場の足場兼用吸音部材が、多数の透孔を有する上面板と、多数の透孔を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面板と、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填した吸音材とで構成しているのに対し、引用例1記載のもの(注、引用例発明1)においては、少なくとも、多数の透孔を有する上面板よりなるボックス形状の枠体に、吸音材を設けて構成している点」(審決謄本33頁31行目〜末行)を相違点1と認定した上、上記相違点1について、「引用例1におけるような、高架式建造物(高架橋)の点検用歩廊(恒久足場)兼用吸音部材において、少なくとも多数の透孔を有する上面板よりなるボックス形状の枠体に吸音材を設けて構成されているものに代えて、引用例2におけるような吸音長尺材の構成を採用し、その際、特に吸音長尺材の上面部を上面板とし、下面部を下面板として、請求項1に係る発明(注、本件発明1)におけるように構成するようなことは、引用例1及び引用例2がいずれも高架橋の足場兼用吸音部材に関するものであること、さらに引用例1に引用例2を適用することによる構成の組み合わせ又は置換を阻害する特段の要因もないことを考慮すると、格別顕著な困難性を見出すことはできず、 当業者が必要に応じて容易になし得た程度のことである。」(同34頁24行目〜33行目)と判断するが、誤りである。 すなわち、引用例発明2の吸音長尺材は、橋桁部の下面に適宜間隔をおいて取り付けられるものであるから、本件発明1のような「恒久足場」を構築するためには、吸音長尺材のみでは足りず、パンチングメタル、エキスパンドメタル等の多孔板に適宜間隔をおいて複数の吸音長尺材を敷設することが必要となる。このことは、引用例発明2(甲第2号証)の実用新案登録請求の範囲(1)に「吸音部材が断面中空三角形状の複数の吸音長尺材を適宜間隔をおいて併設して成る」(1頁6行目〜8行目)と記載され、また、「このように吸音面状体14の一部を多孔板30にて構成することにより、吸音長尺材12の併設が容易になると共に、より一層吸音効果が向上し、しかも、多孔板30上に作業員Aが乗って橋桁部3の点検補修を可能にすることができる。」(6頁18行目〜7頁3行目)と記載されていることから明らかである。このように、引用例発明2の吸音長尺材は、単独では「恒久足場」を構築することができないものであって、このことは、引用例発明1に引用例発明2の技術を適用することを阻害する要因となるものである。 また、引用例発明1では、複数本のルーバー構成部材を互いに並行して形成した吸音用開口部を閉塞してルーバー構成部材間に吸音材を設けた構成となっているが、この吸音材に代えて引用例発明2の吸音長尺材を採用しても、引用例発明1の上記構成と組み合わされた具体的な構成態様を想到することができないから、 これらを組み合わせることはできない。 (2) 審決は、「全体として、本件請求項1に係る発明(注、本件発明1)によってもたらされる効果も、引用例1及び引用例2に記載のそれぞれのものから、当業者であれば当然に予測することができる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。」(審決謄本34頁34行目〜37行目)と判断するが、誤りである。 すなわち、引用例発明2の吸音材を充填した断面中空三角形の吸音長尺材は、断面が三角形であるため、その両端部に充填される吸音材の量(厚み)が漸次少なくなるだけでなく、適宜間隔をおいて取り付けられることを前提とするものであることから、吸音長尺材のみによる吸音効果はさほど期待できず、高架橋やその下方の道路を走行している車両の騒音の低減効果が得にくいという問題点を有する。 これに対し、本件発明1は、「高架橋の床版の下方に所定の作業空間を形成して床版の下面を覆うように設ける恒久足場の足場兼用吸音部材」であり、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に吸音材が充填されているため、吸音材が鉛直方向に一定の厚みを有する構成により、高架橋やその下方の道路を走行している車両の騒音を確実に軽減することができるため、恒久足場上の作業空間の作業環境を良好に維持することができる。これに加えて、本件発明1は、足場兼用吸音部材単独で恒久足場を構築することができ、補修作業を行う都度足場を組み立てる必要がないことと相まって、作業効率を向上させることができる等の顕著な作用効果を奏する。 3 取消事由3(本件発明2との相違点3に係る引用例発明1の認定の誤り) 審決は、本件発明2と引用例発明1との相違点3の認定において、「引用例1記載のものにおいては、吸音材を帯状に形成している」(審決謄本35頁22行目〜23行目)と認定するが、誤りである。 すなわち、引用例発明1では、吸音材が高架式建造物の桁裏面のほぼ全面を覆うように配設されているから、吸音材が帯状に形成されているものではない。吸音材10が各ルーバー構成部材6Aの支持壁6e間に架け渡して配設されてはいるものの、この支持壁は吸音材を固定するための単なる部材にすぎず、吸音材は実質的に高架式建造物の桁裏面のほぼ全面を覆うように配設されているが、このような設置形態にあるものを、通常、帯状に形成したとはいわない。 |
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被告らの反論
1 取消事由1(引用例発明2の認定の誤り)について (1) 本件明細書(甲第29号証)には、「上面板31及び枠部材32、さらに、場合によっては、下面板33を、押出成形により一体成形することができる。」(5欄37行目〜39行目)と記載されているから、本件発明は上面板と下面板とが押出成形により一体成形されたものを含む。そうすると、引用例発明2の吸音長尺材が押出成形により一体成形されたものであっても、この「吸音長尺材」を「上面部」と「下面部」とに分割して解釈することができる。 (2) 本件明細書(甲第29号証)の特許請求の範囲【請求項1】には、「下方に突出する膨出部を形成した下面板」、「下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填した吸音材」との記載があるが、この要件は、下面板の一部にのみ膨出部を形成するものだけではなく、下面板自体が膨出部を形成するものを含む。また、本件明細書(甲第29号証)には、本件発明の第2実施例の第3変形例について、「この足場兼用吸音部材3は、上記第2実施例の第2変形例において、下面板33を枠部材32に嵌合、係止することにより固定していたのに代えて、下面板33を枠部材32にビス又は溶接により固定したものである。」(6欄28行目〜32行目)と記載され、上記第3変形例を示す【図10】(b)には、ほぼ膨出部のみで構成された下面板が図示されているから、膨出部のみで下面板が構成されているものも本件発明1に含まれることは明らかである。そうすると、引用例発明2の吸音長尺材も、「下方に突出する膨出部を形成した下面板」と「下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填した吸音材」とを具備するものというべきである。 2 取消事由2(本件発明1と引用例発明1との相違点1の判断の誤り)について (1) 原告らの主張は、本件発明1において吸音部材同士が密に配列され高架橋裏面全面を覆うことを前提とするものと解されるが、本件発明1は、このような構成を要件としていない。すなわち、本件発明1は1本の吸音部材のみの発明であって、1本の吸音部材の形状及び構造は特定されているものの、複数の吸音部材がどのように配列されるかについては一切限定されていない。 仮に、原告ら主張のように吸音部材の具体的配列が本件発明1の構成要件であるとしても、当該配列は、引用例発明2に開示されているところであり、引用例発明1に引用例発明2の技術を適用することに阻害要因はない。すなわち、引用例発明2の実用新案登録請求の範囲(1)には、「高架橋のスラブの下部に配設される橋桁部の側面及び下面に吸音部材を被覆して成り、上記吸音部材が断面中空三角形状の複数の吸音長尺材を適宜間隔をおいて併設して成る吸音面状体にて構成されることを特徴とする高架橋の吸音被覆構造」と記載されているから、複数の吸音長尺材から成る吸音面状体が高架橋の橋桁部の下面を「被覆する」ことを明確に示しており、かつ、その「吸音長尺材を適宜間隔をおいて併設して成る吸音面状体にて構成される」という文言は、吸音長尺材を若干間隔をおいて配設しても全体として高架橋裏面を被覆することとなり、それ自体が足場を構成し得ることを示している。 仮に、引用例発明2単独では足場として兼用し得る吸音部材が開示されていないとしても、同発明には、少なくとも橋桁側に固定された吸音長尺材12の上に多孔板30を敷設して成る吸音面状体を足場として兼用し得ること、すなわち、吸音長尺材12を少なくとも恒久足場の主要強度部材として兼用することが開示されているから、同発明の吸音長尺材12の形状及び構造を、単独で恒久足場に兼用される引用例発明1の吸音材10に適用し本件発明1の足場兼用吸音部材を想到することは、当業者が容易にし得たものである。 本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】には、その前段に「高架橋の床版の下方に所定の作業空間を形成して床版の下面を覆うように設ける」との記載があるが、この記載は、同請求項の「足場兼用吸音部材」が高架橋の床版の下面を覆う恒久足場に用いられるものであるという目的及び用途を示す修飾句にすぎない。 (2) 引用例発明2の実用新案登録請求の範囲(1)には、吸音長尺材の配列間隔を密にすることによって吸音長尺材のみで「吸音面状体」を構成するものが記載され、吸音長尺材(吸音部材)を併設することにより足場兼用の吸音面状体が得られるという点で、本件発明1と同一の技術が開示されている。当業者にとって、引用例発明2の上記(1)の記載のみから、吸音長尺材同士を密に配列して本件発明1を想到することは容易であり、加えて、引用例発明1には、複数の帯状の吸音部材を併設することにより高架橋の床版の下面を覆うように設ける恒久足場兼用の吸音板が示されている。引用例発明2には、上面部と下方に膨出する下面部とから成り、上面部と下面部との間に吸音材を充填した吸音長尺材とこの吸音長尺材を併設すれば吸音面状体となることが開示されているから、引用例発明1及び2に接した当業者がこれらを組み合わせて本件発明1の構成を想到することは、容易であるというべきである。 本件発明1は、上面板及び下面板の構造について、「多数の透孔を有する上面板と、多数の透孔を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面板と、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填した吸音材とで構成した」という特定しかなく、上面板や膨出部を含む下面板の具体的形状については何ら特定されていないのであるから、本件発明1について、吸音材が鉛直方向に一定の厚みを有するように構成されているというべき根拠はない。本件発明1の吸音部材と引用例発明2の吸音長尺材とは、共に高架橋裏面を覆うように配設されるものであって、かつ、「多数の透孔を有する上面板と、多数の透孔を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面板と、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填した吸音材とで構成した」という具体的構成を有する点で全く一致する以上、両者の作用効果は基本的に同等であるとみるべきであり、引用例発明2では本件発明1のような吸音効果が期待できないとする原告らの主張は根拠がない。 3 取消事由3(本件発明2との相違点3に係る引用例発明1の認定の誤り)について 引用例発明1(甲第8号証)の発明の詳細な説明中には、「図示の実施例では、開口部8の長手方向に延びるグラスウールからなる厚さ50oの吸音材10であり、この吸音材10は上記各ルーバー構成部材6Aの支持壁6e間に架け渡して配設されており、該支持壁6eと上壁6bとで挟持されている」(5欄28行目〜32行目)、 「有孔板よりなるボックス形状の枠体21が嵌合状に備えられていて吸音材10を補強しており、ルーバーパネル17を取付け部19によって高架建造物の桁裏面に空気層11を形成して装着したとき、前記枠体21が点検用等のための歩廊とされている」(7欄36行目〜40行目)と記載されている。これらの記載及び第1、第6、第7図が図示するところによれば、1対のルーバー構成部材6a、6a間の各支持壁6eと上壁6bとの間に、有孔板より成るボックス形状の枠体21により吸音材10を補強した帯状の吸音材を1単位として幅方向に複数列併設して、その上面を点検用歩廊の足場板とする構成が示されているから、引用例発明1(甲第8号証)には、吸音材10を一方向に延びる帯状に形成した構造が開示されており、この点に関する審決の認定は正当である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(引用例発明2の認定の誤り)について (1) 原告らは、引用例発明2の吸音材を充填した断面中空三角形の吸音長尺材は、外殻がアルミニウム製押出し形材により一体に形成されているものであるから、これを「上面部」と「下面部」とに分割して解釈することは適当でないと主張する。 しかしながら、本件明細書(甲第29号証)には、「上面板31及び枠部材32、さらに、場合によっては、下面板33を、押出成形により一体成形することができる。」(5欄37行目〜39行目)と記載されているから、この記載によれば、 本件発明1にあっても、上面板、枠部材及び下面板が別体であることを前提として、場合によっては、これらを一体成形することができるものと解される。また、 本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】は、上面板と下面板が別体であるか一体であるかについて何ら限定しておらず、そうである以上、本件発明1は、これらが別体であって組み合わされる場合と一体成形される場合の両者を含むものと解さざるを得ない。そうすると、仮に、引用例発明2記載の吸音長尺材が一体に形成されているものとしても、当該長尺材を「上面部」と「下面部」との各部分から成るものということに誤りはない。 (2) また、原告らは、引用例発明2において「下面部」が「膨出部」を構成しているとしても、この「膨出部」は「下面部」全体によって構成されているから、 「下方に突出する膨出部を形成した下面部」との構成が開示されているとの審決の認定は誤りであること、さらに、「膨出部」を構成する「下面部」と「上面部」とが直接一体化されているから、これらの間のみに吸音材を充填したものであり、したがって、引用例発明2に「下面部の膨出部内を含む上面部と下面部との間に充填した吸音材を有する吸音長尺材」の構成が開示されているとの審決の認定は、膨出部以外の上面部と下面部との間における吸音材を充填する箇所の存在を認めたものであって、誤りであると主張する。 しかしながら、本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】には、「下方に突出する膨出部を形成した下面板」と記載されているが、下面板における膨出部の大きさや位置については何ら限定がないから、本件発明1は、下面板の一部に膨出部を形成した場合と下面板全体が膨出部である場合の両者を含むものである。本件明細書に記載された作用効果に照らしても、下面板全体が膨出部である場合を排除する理由は見いだせない。そして、引用例発明2に「下面部の膨出部内を含む上面部と下面部との間に充填した吸音材を有する吸音長尺材」の構成が開示されているとの審決の認定についても、本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】の記載に下面板や膨出部の具体的な形状について何ら限定がない以上、上面板と下面板との間が下面板の膨出部内である場合を含むものと解されるから、引用例発明2に関する審決の上記認定に誤りはない。 2 取消事由2(本件発明1と引用例発明1との相違点1の判断の誤り)について (1) 本件発明1と引用例発明1との相違点1について、「引用例1のもの(注、引用例発明1)においては、・・・足場兼用吸音部材は、少なくとも、多数の透孔を有する上面板よりなるボックス形状の枠体に吸音材を設けて構成されており、請求項1に係る発明(注、本件発明1)での『上面板』に対応する構成は有するものの、多数の透孔を有する上面板と、多数の透孔を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面板と、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填した吸音材とで、足場兼用吸音部材を構成する点は開示されていない」(審決謄本34頁2行目〜9行目)ことは当事者間に争いがない。 一方、引用例発明2が、「高架橋のスラブの下方に所定の作業空間を形成してスラブの下面を覆うように設ける恒久足場の足場兼用吸音面状体であって」(同10行目〜12行目)、「適宜間隔をおいて配設される複数の吸音長尺材上に敷設した多孔板」(同14行目〜15行目)をその構成に含むことは当事者間に争いがなく、上記発明において、「多数の吸音用小孔を有する上面部と、多数の吸音用小孔を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面部と、下面部の膨出部内を含む上面部と下面部との間に充填した吸音材を有する吸音長尺材」(同12行目〜14行目)の構成も開示されているとの審決の認定に誤りのないことは上記1のとおりである。 (2) 原告らは、恒久足場を構築するためには多孔板に適宜間隔をおいて複数の吸音長尺材を敷設することが必要となるところ、引用例発明2の吸音長尺材は、橋桁部の下面に適宜間隔をおいて取り付けられ単独で恒久足場を構築することのできないものであるから、引用例発明1に引用例発明2の技術を適用することに阻害要因があると主張する。 そこで、引用例発明2について検討すると、明細書(甲第2号証添付)の第1、第2、第3図には、第一実施例として、多孔板を用いずに、断面L形状の取付け部材5に互いに平行に配設された吸音長尺材12が開示され、第6図には、第二実施例として、多孔板30を敷設した複数の吸音長尺材12が開示されている。 また、上記明細書には、「吸音長尺材12は1つの角部とその対向する辺部にビスポケット16を有するアルミニウム製押出し形材等にて形成されており」(5頁6行目〜8行目)、「上記吸音長尺材12は単なる中空状であってもよいが、例えば第5図に示すように、吸音長尺材12のほぼ全領域に多数の吸音用小孔22を穿設すると共に、吸音長尺材12の中空部内に吸音材24を充填した構造とすることもできる」(同6頁3行目〜7行目)と記載されており、これらの記載及び第5図によれば、引用例発明2の内部に吸音材を充填した吸音長尺材は、アルミニウム製押出し形材等により形成されるものであると認められる。 さらに、上記明細書には、「第2図に示すように、橋桁部3から突設されるステー4を介して取付けられる断面L形状の取付け部材5に吸音長尺材12を互いに平行に配設した後、取付け部材5から吸音長尺材12にボルトをねじ込んで各吸音長尺材12を固定することにより、吸音面状体14が形成される」(5頁12行目〜17行目)、「第6図はこの考案の第二実施例を示すもので、上記吸音面状体14を例えばパンチングメタル、エキスパンドメタル等の多孔板30を上記した適宜間隔をおいて配設される複数の吸音長尺材12上に敷設して形成した場合である。このように吸音面状体14の一部を多孔板30にて構成することにより、吸音長尺材12の併設が容易になると共に、より一層吸音効果が向上し、しかも、多孔板30上に作業員Aが乗って橋桁部3の点検補修を可能にすることができる」(6頁14行目〜7頁3行目)と記載されており、これらの記載によれば、上記第二実施例においても、多孔板を上に敷設した吸音長尺材12は、第2図が図示する第一実施例のものと同様に、 断面L形状の取付け部材5に配設されていることを前提とするものと認められる。 そうすると、第二実施例におけるアルミニウム製押出し形材等により形成された吸音長尺材12は、点検補修の作業員が乗るのに安全な程度の強度を有するものであるから、引用例発明2の第二実施例が多孔板を用いることにより足場兼用の機能を奏するものであるからといって、これを引用例発明1に適用することが阻害されるものということはできない。 (3) 原告らは、引用例発明1は、複数本のルーバー構成部材を互いに並行して形成した吸音用開口部を閉塞してルーバー構成部材間に吸音材を設けた構成となっているが、この吸音材に代えて引用例発明2の吸音長尺材を採用しても、引用例発明1の上記構成と組み合わされた具体的な構成態様を想到することができないから、これらを組み合わせることはできないと主張する。 しかしながら、引用例発明1(甲第8号証)の特許請求の範囲【請求項1】には、「複数本のルーバー構成部材を互いに並行して吸音用開口部を形成するように配設し、前記開口部を閉塞して前記ルーバー構成部材間に吸音材を設けているとともに、高架式建造物の桁裏面との間に空気層を形成しかつ該裏面を覆って装着されていることを特徴とする高架式建造物における桁裏面の被覆用ルーバー」と記載されているが、吸音材やこれを保持するルーバー構成部材の具体的な形状や構造については何ら限定がなく、引用例発明1(甲第8号証)の発明の詳細な説明中には、「ルーバー構成部材6,15,16は、吸音材を支持するものであればよくデザイン、形状等は自由である」(8欄11行目〜13行目)との記載があるから、ルーバー構成部材やその吸音材を保持する形状や構造について、図1が図示する吸音材10と支持壁6e又は図7が図示する吸音材10を充填した枠体21とこれを保持するルーバー構成部材16における上平面の形状に限定されるものではない。そして、引用例発明1のボックス形状の枠体から成る吸音材を引用例発明2の吸音長尺材に代える際に、引用例発明2の吸音長尺材の形状に適合するように、引用例発明1が開示する上記支持壁や上記上平面の構造を変更することは、当業者が容易に想到し得るものと認められる。 (4) また、原告らは、引用例発明2の吸音材を充填した断面中空三角形の吸音長尺材は、断面が三角形であるため、その両端部に充填される吸音材の量(厚み)が漸次少なくなるだけでなく、適宜間隔をおいて取り付けられることを前提とするものであるから、吸音長尺材のみによる吸音効果はさほど期待できないのに対し、 本件発明1は、「高架橋の床版の下方に所定の作業空間を形成して床版の下面を覆うように設ける恒久足場の足場兼用吸音部材」であって、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に吸音材が充填されているため、吸音材が鉛直方向に一定の厚みを有する構成により高架橋やその下方の道路を走行している車両の騒音を確実に軽減することができること、足場兼用吸音部材単独で恒久足場が構築できるので、補修作業を行う都度足場を組み立てる必要がないことと相まって作業効率を向上させることができる等の顕著な作用効果を奏すると主張する。 しかしながら、引用例発明1に「高架式建造物の桁裏面の下方に所定の作業空間を形成して桁裏面の下面を覆うように設ける点検用歩廊兼用吸音部材であって、少なくとも、多数の透孔を有する上面板よりなるボックス形状の枠体に、吸音材を設けて構成した高架式建造物の点検用歩廊兼用吸音部材」(審決謄本30頁10行目〜13行目)が開示されていることは当事者に争いがないから、原告らの主張する、高架橋の床版の下面を覆うように吸音部材を設けたことによる吸音効果は、引用例発明1が奏するものというべきである。また、本件発明1の構成では「下方に突出する膨出部を形成した下面板と、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填した吸音材とで構成した」との限定はあるものの、充填材の厚みについては何ら限定がなく、また、本件発明1における「下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填した吸音材」とは、前示のとおり、下面部全体が膨出部である場合を含むから、本件発明1の吸音部材と引用例発明2の吸音長尺材とは、その構成において実質的に同一というべきである。さらに、引用例発明2の第二実施例の吸音長尺材12は、前示のとおり、作業員の足場としての強度を有するものである。そうすると、原告らの主張する本件発明1の奏する効果は、いずれも当業者にとって格別顕著な効果ということはできない。 3 取消事由3(本件発明2との相違点3に係る引用例発明1の認定の誤り)について (1) 原告らは、引用例発明1では、吸音材が高架式建造物の桁裏面のほぼ全面を覆うように配設されているから、吸音材が帯状に形成されているものではないとして、審決が、本件発明2と引用例発明1との相違点3において、引用例発明1は吸音材を帯状に形成していると認定する点は誤りであると主張する。 (2) しかしながら、本件明細書(甲第29号証)には、「足場兼用吸音部材3の第1実施例を、図2〜図4に示す。この足場兼用吸音部材3は・・・上面板31と・・・枠部材32と・・・下方に高架橋1の長手方向に沿って延びる帯状に突出する膨出部を形成した金属製板材からなる下面板33と・・・吸音材34とで構成する。」(5欄3行目〜12行目)、「足場兼用吸音部材3の第2実施例を、図5〜図7に示す。この足場兼用吸音部材3は・・・上面板31と・・・枠部材32と・・・下方に高架橋1の長手方向に沿って延びる帯状に突出する膨出部を形成した金属製板材からなる下面板33と・・・吸音材34とで構成する。」(同欄27行目〜36行目)、「請求項2記載の発明(注、本件発明2)によれば、下面板の膨出部を帯状に形成することにより、騒音の軽減効果を向上することができるとともに、足場兼用吸音部材の製造を容易にしてその製造コストを低廉にすることができる。」(7欄15行目〜19行目)と記載され、本件明細書の特許請求の範囲【請求項2】は、同【請求項1】を引用するものであるから、本件発明2における「帯状」とは、高架橋の床版の下面が長手方向に沿って延びた状態を意味すると解するのが相当である。 (3) 一方、引用例発明1(甲第8号証)の発明の詳細な説明中には、「図示の実施例では、開口部8の長手方向に延びるグラスウールからなる厚さ50oの吸音材10であり、この吸音材10は上記各ルーバー構成部材6Aの支持壁6e間に架け渡して配設されており、該支持壁6eと上壁6bとで挟持されている。」(5欄28行目〜32行目)と記載されており、この記載に第1、第2、第6、第7及び第8図を総合すれば、引用例1記載の吸音材10も、各ルーバー構成部材6Aの間に架け渡して高架橋の床版の下面を長手方向に沿って延びた帯状に形成され、この吸音材自体の形状は、吸音材が高架式建造物の桁裏面のほぼ全面を覆うように配設されていることにより影響を受けないと認められる。そうすると、本件発明2との相違点3に係る引用例発明1の構成について「引用例1記載のものにおいては、吸音材を帯状に形成しているもの」(審決謄本35頁22行目〜23行目)とする審決の認定に原告ら主張の誤りはない。 4 以上のとおり、原告ら主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告らの請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 長沢幸男 |