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関連ワード 特許を受ける権利 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  実施料 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (ワ) 3645号 特許権侵害差止等請求事件
平成 13年 (ワ) 24199号 特許権侵害差止等請求事件
第1事件及び第2事件原告 株式会社ユタカ・トレンズ (以下「原告」という。)
訴訟代理人弁護士 脇田輝次
補佐人弁理士 下山冨士男第1事件被告 温産業株式会社 第2事件被告 株式会社シガリオ
被告両名訴訟代理人弁護士 野間自子
同 水沼太郎
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/11/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の,第1事件及び第2事件における各請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,第1事件及び第2事件とも原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 第1事件 (1) 第1事件被告は,別紙目録記載の製造プラントを使用して,玄米粉(商品名「リブレフラワー」)を製造し,販売してはならない。
(2) 第1事件被告は,その本店,営業所及び工場に存在する玄米粉(商品名「リブレフラワー」)の半製品及び完成品を廃棄せよ。
(3) 第1事件被告は,原告に対し,1200万円及びこれに対する平成12年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第2事件 (1) 第2事件被告は,別紙目録記載の製造プラントを使用して,玄米粉(商品名「リブレフラワー」)を製造し,販売してはならない。
(2) 第2事件被告は,その本店,営業所及び工場に存在する玄米粉(商品名「リブレフラワー」)の半製品及び完成品を廃棄せよ。
(3) 第2事件被告は,原告に対し,1200万円及びこれに対する平成13年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,穀物粉の製造プラントに関する特許権を有する原告が,第1事件被告(以下「被告温産業」という。)及び第2事件被告(以下「被告シガリオ」という。)に対して,上記特許権の侵害を理由に,第1事件被告所有の工場内の穀物粉製造プラントを使用して玄米粉(商品名「リブレフラワー」,以下「リブレフラワー」という。)を製造,販売することの差止め等及び損害賠償金の支払を求めている事案である。
1 争いのない事実 (1) 原告は,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。)を有している。
特許番号 第2637894号 発明の名称 穀物粉の製造プラント 出願日 平成5年5月17日 登録日 平成9年4月25日 特許請求の範囲(請求項1) 別紙特許公報写しの該当欄記載のとおり(以下,同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。) (2) 本件発明の構成要件を分説すると,次のAないしDのとおりとなる。
A 穀物粒を水洗,計量する手段と, B 該水洗,計量手段によって水洗・計量された穀物粒を焙煎する手段と, C 該焙煎手段によって焙煎された穀物粒から炭化物を分離,選別する手段と, D 該分離,選別手段によって分離,選別された穀物粒を粉末状に粉砕する手段と, を備えてなることを特徴とする穀物粉の製造プラント。
(3) 原告が本件特許権を取得した経緯 ア 本件特許は,平成5年5月17日,有限会社クラリッチ(以下「クラリッチ」という。)により出願された。
イ 原告は,平成7年3月22日,被告温産業に対し,事業資金として1500万円を,返済期限を平成8年3月末日とする約定で貸し付けた(以下「本件消費貸借契約」という。)。原告は,同日,クラリッチとの間で,本件消費貸借契約に基づく返済債務を担保するため,本件特許を受ける権利を原告に譲渡する旨の契約(以下「本件譲渡担保契約」という。)を締結した。
ウ 被告温産業は,同返済期限に,本件消費貸借契約に基づく債務を履行しなかった。原告は,クラリッチに対し,平成8年4月4日付け内容証明郵便により,本件譲渡担保契約に基づき,本件特許を受ける権利に対する譲渡担保権を実行し,本件特許を受ける権利を確定的に取得する旨通知した。
本件特許は,平成9年4月25日に,原告を特許権者として登録された。
(4) 被告温産業は,長野県南安曇三郷村(以下略)に工場(以下「本件工場」という。)を有している。本件工場内に設置する穀物粉製造プラント(以下「本件プラント」という。)を使用して,リブレフラワーを製造している(製造する主体が,被告温産業であるか被告シガリオかについては,争いがある。)。被告シガリオは,同リブレフラワーを販売している。
2 争点 (1) 第1,2事件共通 ア 原告は,本件特許権を取得したといえるか。
イ 本件プラントは本件発明の構成要件Cを充足するか。
損害額はいくらか。
(2) 第1事件について エ 被告温産業は,リブレフラワーを製造,販売しているといえるか。
3 争点に対する当事者の主張 (1) 原告は,本件特許権を取得したといえるか(第1,第2事件共通)。
(原告の主張) 原告は,本件譲渡担保契約に基づく譲渡担保権を実行するに際し,信用調査機関から入手した被告温産業の推定貸借対照表に基づき,国税庁の評価方式と純利益四分法の2つの方法で評価した。いずれの方法によるも,被告温産業の平均利益額が総資産価格に比して低いため,本件特許権は極く低額の評価しか得られなかった。したがって,本件特許権が被担保債権額を超える価値を有することはない。
また,仮に,本件特許権の価値が被担保債権額を超えることがあるとしても,本件特許権に対する譲渡担保権の実行により,本件特許権が確定的に原告に帰属していることに変わりはないのであって,その場合に問題となるのは,超過分についての精算義務だけである。
したがって,本件特許権の帰属に関する被告らの主張は理由がない。
(被告らの主張) 本件譲渡担保契約に基づく譲渡担保権の実行は,その被担保債権額と担保価値とのバランスを著しく欠く不相当なものであるから,原告が本件特許権を確定的に取得することはない。
(2) 本件プラントは本件発明の構成要件Cを充足するか(第1,第2事件共通)。
(原告の主張) ア 本件プラントには,サイクロンは設置されていないけれども,別紙「プラント構造図」記載の集塵フィルタータンク(以下「本件集塵機」という。)が設置されている。本件集塵機は,焙煎穀物から炭化物を分離,選別しているので,本件発明の構成要件のCを充足する。
原告は,平成13年4月26日,被告温産業及び公証人加藤晃立会いの下で本件工場を見学した(同工場見学を以下「本件工場見学」という。その経過は乙12のとおりである。)。本件工場見学において,原告は,焙煎した穀物の冷却工程が終了した後,本件集塵機の底にたまっていた残留物及び本件集塵機のフィルターに付着した残留物を採取したところ,上記残留物には多量に炭化物が含まれていた(検甲6,甲7)。したがって,本件集塵機により炭化物の分離,選別が行われていることは明らかである。
イ 被告らは,本件プラントでは,焙煎後に炭化物を発生させない新型の焙煎釜を使用しているので,そもそも炭化物を分離,選別する手段を必要としない旨主張する。
しかし,本件工場見学において,原告は,本件プラントの焙煎釜から焙煎された焙煎穀物のサンプルを採取したところ,そのサンプルには,炭化物が混入しており(検甲3及び検甲4),また,焙煎後の焙煎釜の内側を布で拭き取ったところ,その布には,炭化物が付着している(検甲5)。
本件プラントに使用されている焙煎釜は炭化物を発生させるものであり,被告らの上記主張は理由がない。
ウ 以上のとおり,本件プラントは本件発明の構成要件Cを充足する。
(被告らの主張) ア 本件プラントには,以下のとおり,炭化物の分離,選別装置は設置されていない。
(ア) 本件プラントに設置されている本件集塵機は,炭化物の分離,選別を目的とした装置であるサイクロンとは異なる。
すなわち,本件プラントでは,焙煎された穀物を空気を使って粉砕機に送る過程において,粉塵爆発を防ぐために焙煎された穀物を冷却する必要があるが,この冷却は,冷却ファンで冷却タンクに空気を送る方法により行っている。本件集塵機はその際に発生した粉塵を濾過するために使用されるにすぎない。これに対し,サイクロンは,炭化物を分離,選別するために使用され,分離選別後の炭化物をフィルター等で捕集する装置であって,集塵機とサイクロンとは全く性質・機能を異にする。
本件工場見学において集塵機から採取した集塵機内の残留物には炭化物は含まれていない。検証物(検甲6,7)は,炭化物による黒色を示したものではない。上記各検証物がリブレフラワーの色より若干濃い色をしているのは,被告シガリオが製造している,非常に濃い茶色をした「ブラックジンガー」という商品の塵が混入しているためである。 (イ) 次に,本件プラントでは,焙煎後に炭化物を発生させない機能を有する特殊な焙煎釜を使用しているので,そもそも炭化物を分離,選別する手段を必要としない。すなわち,本件プラントにおいて使用されている焙煎釜は,従来のような炭化物の発生が不可避である旧釜とは異なり,均一に焙煎ができ,炭化物を発生させないように設定すればそのようにできるものであって,この焙煎釜については,以下のとおりの特許権が成立している。
特許番号 第1694743号 発明の名称 焙煎装置 出願日 昭和59年2月20日 登録日 平成4年9月17日 (ウ) 原告は,本件工場見学において,本件プラントの焙煎釜から採取された焙煎穀物のサンプルには炭化物が混入している旨主張する。しかし,同サンプルには炭化物はほとんど含まれていない。同サンプルに含まれている炭化物は,原告がサンプルを採取する際に,釜の縁に付着していた炭化物をシャベルでそぎ取ったものが含まれたからである。
イ したがって,本件プラントは本件発明の構成要件Cを充足しない。
(3) 損害額はいくらか(第1,第2事件共通)。
(原告の主張) ア 平成9年5月から現在までに販売されたリブレフラワーの総額は少なくとも2億円を下らず,また,本件特許権の実施料率は販売価格の5パーセントを下らない。
したがって,本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額は,被告それぞれについて,1000万円を下らない。
イ 原告は,本件訴訟を遂行するために,弁護士費用及び補佐人費用として,少なくとも各100万円を負担せざるを得ない。
ウ したがって,原告は,本件特許権の侵害について,被告温産業及び被告シガリオに対し,それぞれ損害賠償金1200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年4月11日(被告温産業に対して)又は平成13年11月14日(被告シガリオに対して)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する権利を有する。
(被告らの主張) 争う。
(4) 被告温産業は,リブレフラワーを製造,販売しているといえるか(第1事件のみ)。
(原告の主張) 被告温産業は,本件プラントを被告シガリオに対して賃貸しているから,同被告は,リブレフラワーを製造,販売していないと主張する。
しかし,被告温産業の同主張は,以下のとおり理由がない。被告温産業の代表取締役であるXは,平成10年1月20日まで,被告シガリオの代表取締役であり,同人の妻は現在も被告シガリオの監査役である。また,被告シガリオは,平成5年に設立されたが,同社の設立時の定款の目的には,@穀類の製粉及び加工食品の製造販売,A健康飲料,嗜好飲料の製造販売,B健康食品の製造販売は入っていなかったことからも明らかなように,リブレフラワーを製造販売していない。また,被告シガリオは,何らの事業活動も行っておらず,休眠会社に等しい状況であった。さらに,被告シガリオは,本件特許権に基づく侵害差止仮処分命令申立事件の係属中である平成10年1月20日付けで,定款の目的に上記@ないしBを追加した上,上記仮処分命令申立事件の係属中である平成11年8月ころに至って,被告温産業から本件工場を賃借した。
上記の各事実からすれば,被告温産業と被告シガリオとは形式的には別個の法人形態を備えているが,実質的には同一であり,被告温産業は本件特許権に基づく差止請求を回避する目的で休眠会社である被告シガリオの法人格を利用し,被告シガリオとの間で本件工場の賃貸借契約を締結した。
このような法人格の利用は会社制度の濫用であるから,被告温産業と被告シガリオとは別個の法人であるとして,本件請求を拒むことは許されない。
(被告温産業の主張) 被告温産業は,本件プラントを被告シガリオに対して賃貸しており,本件プラントを使用してリブレフラワーを製造し,これを販売していない。
当裁判所の判断
1 本件プラントは本件発明の構成要件Cを充足するか。
(1) 当裁判所は,本件プラントには,以下のとおりの理由から,炭化物の分離,選別装置は設置されていないと判断する。すなわち, @ 被告温産業は,かつて,リブレフラワーの製造プラントにおいて,サイクロン方式の遠心分離装置を設けたことはあるが,その後,新型の焙煎釜を採用したことにより,炭化物の分離,選別する手段を必要としなくなった。
A 本件プラントに設置されている本件集塵機は,粉塵飛散防止目的で設置されたものであって,炭化物を分離,選別する機能を有しない。
B なお,本件工場見学においても,焙煎釜から採取した焙煎穀物には,分離装置によって,炭化物を分離,除去を必要とするだけの炭化物は存在しなかった。
その詳細を順に説示する。
(2) 上記@の点について述べる。
証拠(甲12,乙12,16)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
ア Aは,昭和63年から平成7年まで被告温産業に勤務し,当時,プラントを用いてリブレフラワーを製造する業務についていた。同人作成の陳述書(甲12)によれば,被告温産業の当時のプラントでは,水切り釜7(同陳述書添付の図面番号,以下同じ)から各焙煎釜9へ移行された玄米は,各焙煎釜9で焙煎され,この焙煎された玄米は,吸引ホース10で吸い取られながら,かつ,風圧手段11でもって空気冷却されながら冷却ホッパー12へ風圧移送されており,また,冷却ホッパー12の上部入口近傍には,焙煎釜9によって焙煎された玄米から出る炭化物を分離,選別する手段としての集塵機13を具備しているとともに,この集塵機13は,遠心力を利用したサイクロン方式でもって,正常に焙煎された玄米と炭化物とを分離しながら,炭化物を除去するようになっていたと記載されている。
イ しかし,被告温産業の当時のプラントにおいて,同人の陳述書どおりの方法が採用されていたか否かはさておき,その後,被告温産業は,焙煎後に炭化物を発生させない性能を有する特殊な焙煎釜の使用を開始した。すなわち,本件プラントにおいて使用されている焙煎釜は,従来のような炭化物の発生が不可避である釜とは異なり,均一に焙煎ができ,炭化物を発生させないようにしたものである。
このため,本件プラントにおいては,炭化物を分離,選別する手段を必要としなくなった。
ウ 本件プラントにはサイクロン方式の遠心分離装置が設置されていないことは明らかである(この事実は,原告も前提としているところである。)。
上記のとおり,本件プラントにおいては,サイクロン方式の遠心分離装置が設けられていることを認めることはできない。
(3) Aの点について述べる。
証拠(乙12,16)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められ,これに反する証拠はない。
ア 本件プラントの全体の構造は別紙「プラント構造図」のとおりである。
焙煎釜により焙煎された焙煎穀物は順に「ラインフィルタータンク」,「冷却タンク」,「バグフィルターミルタンク」,「粉砕機」,「バグフィルター製品タンク」と移動する。「冷却タンク」には,「冷却用送風ファン」が設置されており,一方には,「排気用のダクト」が連結され,排気口へと通じている。排気ダクトの中間には,本件集塵機が粉塵飛散防止用として置かれている。すなわち,本件集塵機は,焙煎穀物が製品になるライン上に位置するものではなく,不要物である粉塵を含んだ排気の排出過程に位置する。
イ 本件プラントにおいて,高熱焙煎された焙煎穀物は,空気搬送して冷却タンクに貯蔵されるが,同焙煎穀物は空送中に半割等が生じたり,冷却によって表皮部分が剥離されたりして,粉塵が生ずることがある。また,上記のとおり,冷却タンクには,その冷却効果を高めるために,タンク内に送風する目的で冷却用送風ファンが設けられ,一方,焙煎穀物の熱を逃がすために,排気ダクトが設けられている。本件プラントには,冷却タンク内に送り込まれた焙煎穀物の粉塵が,そのまま排気ダクトを通じて直接工場外に飛散して,環境を汚染することを防止するために,粉塵飛散防止用のフィルターを内蔵した本件集塵機(フィルターを備えた粉塵飛散防止タンク)を排気ダクト途中に設けている。
ウ 本件集塵機に充填されたフィルターは,ポリエステル100パーセントの不織布のプリーツ仕上げのものであって,空気を濾過するだけの機能しかなく,その構造から炭化物の分離,選別ができるような機能を備えていないことは明らかである(そもそも,フィルターによって焙煎穀物から炭化物を除去できるものではない。)。また,製品として利用可能な焙煎穀物(非炭化物)について,前記製品ライン上に戻すための装置が設けられていないことも明らかである。
上記各事実からすると,本件集塵機は,焙煎穀物から炭化物を分離,選別するためではなく,冷却用送風ファンによって送られた空気により発生した粉塵を濾過して,排気するために設置されたものと考えるのが合理的であり,本件集塵機が焙煎穀物から炭化物を分離,選別する機能を有すると認めることは困難である(なお,原告は,本件工場見学において採取した集塵機の残留物に炭化物が含まれていることから本件集塵機には炭化物を分離する機能を有すると主張するが,上記認定並びに集塵機の構造及び設置された場所等に照らし,残留物に炭化物が含まれていることから直ちに本件集塵機が炭化物を分離,選別する機能を有するものと認めることはできない。)。
(4) Bの点について述べる。
証拠(乙12,16)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠はない。
ア 本件工場見学において焙煎釜から採取した焙煎穀物には,検証物で確認する限り,@目視により認識できる程度の炭化物の固まりは,検甲3に1個確認できるほかは,全く存在しない,A目視により認識できる程度の炭化物が付着した焙煎穀物も全く存在しない,B粉末状の炭化物様のものも極めて僅かにしか存在しない。したがって,本件プラントにおける焙煎釜によって焙煎された焙煎穀物には,炭化物の分離装置を必要とするほどの炭化物は含まれていないと解される(検甲3,甲4)。
また,本件工場見学において焙煎釜から採取した焙煎穀物には,写真で確認する限り,炭化物の固まり様のものが少なくとも2つ(甲15の1),炭化物が付着した焙煎穀物が全体150個以上の中の少なくとも1個確認できる(甲15の2)。
イ 前記認定した検甲3及び4と比較すると,甲15の1,2は,本件工場見学において採取した焙煎穀物のうち,唯一存在する炭化物が付着した焙煎穀物ないし炭化物様のものを撮影したものと推認される。焙煎穀物に炭化物が含まれていたしても,その量が微量であれば,リブレフラワーの原料として使用することに支障はなく,炭化物の分離装置により分離・除去することを必要とする程の炭化物が存在するものと認めることはできない。
ウ 本件プラントの焙煎釜には,炭化物様の粉末状のものが付着していた(検甲5)。しかし,証拠(乙16)及び弁論の全趣旨から,本件プラントでは,リブレフラワー以外の焙煎穀物も製造しており,その中には炭化物を含む焙煎穀物も存在すること,本件プラントに現在設置されている焙煎釜は,炭化物を生じないだけの釜ではなく,むしろ,製品用途に応じて,炭化物を生じさせる焙煎も可能であること,本件工場見学に際しては,焙煎釜は洗浄していないことが認められることから,上記焙煎釜に付着した炭化物様のものがリブレフラワーの製造の際に発生したものと断定することはできない。
(5) 以上(2)ないし(4)で認定した事実を総合すると,本件プラントにおける本件集塵機は,焙煎穀物から炭化物を分離する機能を有していると認めることはできず,また,その他,本件プラントのいずれにおいても,炭化物の分離,選別装置は存在しないと解するのが相当である。したがって,本件プラントは本件発明の構成要件Cを充足しない。
2 以上のとおり,その余の点について判断するまでもなく,原告の第1事件及び第2事件における各請求は,いずれも理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。
追加
目録長野県南安曇三郷村(以下略)所在の工場内に存在する,下記の構造の穀物粉の製造プラント記穀物粒を水洗,計量する手段と,該水洗,計量手段によって水洗・計量された穀物粒を焙煎する手段と,該焙煎手段によって焙煎された穀物粒から炭化物を分離,選別する手段と,該分離,選別手段によって分離,選別された穀物粒を粉末状に粉砕する手段とを備えてなることを特徴とする穀物粉の製造プラント。
プラント構造図
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 谷有恒
裁判官 佐野信