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関連審決 異議2003-73808
関連ワード 創作性(創作) /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  慣用技術 /  技術常識 /  技術情報 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10121号 特許取消決定取消請求事件

原告 株式会社コバヤシ
訴訟代理人弁理士 峯 唯夫
被告 特許庁長官 小川 洋
指定代理人 佐藤昭喜
同 木原 裕
同 立川 功
同 宮下正之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/09/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2003-73808号事件について平成16年10月18日にした決定を取り消す。
事案の概要
本件は,原告が有する後記特許について,特許庁が特許異議申立てに基づいて特許取消決定をしたので,特許権者である原告がその取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「ユニットタイル」とする発明について平成11年6月15日に特許を出願し,平成15年8月1日,特許第3458072号として設定登録を受けた(甲2。以下「本件特許」という。)。
本件特許についてAから特許異議の申立てがあったので,特許庁はこれを異議2003-73808号事件として審理し,平成16年10月18日に「特許第3458072号の請求項1に係る発明についての特許を取り消す」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その決定謄本は,平成16年11月8日原告に送達された。
(2) 発明の内容 本件特許は請求項1のみから成り,その発明の内容は,下記のとおりである(以下「本件発明」という。)。
記 「複数並列されたタイルの裏面同士を,接着媒体が配合されたアクリル樹脂プラスチゾルで連結したユニットタイル」 (3) 決定の内容 ア 本件決定の内容は,別添異議の決定写しのとおりである。その理由の要旨は,本件発明は,本件特許出願前に頒布された刊行物である特開平11-71884号公報(甲5。以下「引用刊行物1」という。)及び特開平5-148401号公報(甲6。
以下「引用刊行物2」という。)にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,等としたものである。
イ なお,本件決定は,本件発明と引用刊行物1に記載された発明(以下「引用発明」という。)との一致点及び相違点について,次のとおり認定している。
(一致点) 「複数並列されたタイルの裏面同士を,接着剤で連結したユニットタイル」である点。
(相違点) 接着剤が,本件発明では「接着媒体が配合されたアクリル樹脂プラスチゾル」であるのに対し,引用発明では「アクリル系接着剤又は接着性のあるプラスチック」である点。
(4) 決定の取消事由 しかしながら,本件決定には,以下のとおり,本件発明及び引用発明の認定を誤るとともに,特許法29条2項の解釈適用を誤った違法があり,取消しを免れない。
ア 取消事由1(一致点の認定誤り) 本件発明におけるタイルの裏面同士は「連結」とされているのに対して,引用発明では「接着」とされている。「連結」とは「つらねむすぶこと。むすびあわせること。」をいい,「接着」とは「面と面とを貼り合わせること。」をいうから,異なる概念である。本件決定がこの相違を看過し,「タイルの裏面同士を,接着剤で連結したユニットタイル」である点で本件発明と引用発明が一致すると認定したことは誤りである。
イ 取消事由2(相違点に係る容易想到性の判断の誤り) 引用発明の「アクリル系接着剤又は接着性のあるプラスチック」に代えて本件発明の「接着媒体が配合されたアクリル樹脂プラスチゾル」を用いてタイル同士を連結した構成を用いることは,当業者が容易に想到できるものではない。
(ア) すなわち,上記アのとおり,引用発明ではタイル同士が接着されているのに対し,本件発明ではアクリル樹脂プラスチゾルによって連結されているという本質的な相違があるから,引用発明から本件発明を想到することは容易ではない。
a 引用刊行物1では接着の工程に関して「接着剤を塗布」「接着剤が乾く」等と説明されているところからみて,引用刊行物1に記載された「接着性のあるプラスチック」とは,溶剤を媒体とした液体であって溶剤が揮散することによって硬化するタイプのもの,すなわちアクリル系接着剤(アクリル塗料またはアクリルエマルジョン)であると理解される。
アクリル系接着剤には,強度不足,硬度不足,厚塗り困難という問題点があり,これを本件発明のような連結タイルの連結剤として用いることはできない。
また,引用刊行物1には,液状接着剤を用いること以外の示唆はないから,本件発明のようにプラスチゾルにより連結することの示唆もない。
b 被告は,引用発明の「アクリル系接着剤又は接着性のあるプラスチック」もタイル同士を連結するための接着力・樹脂強度を有することが推認されると主張するが,引用刊行物1には接着力・樹脂強度に関する記載は全くなく,被告の主張は根拠がない。むしろ,試験結果(甲16)によれば,かかる推認は否定される。
(イ) また,引用刊行物2に接した当業者にとって,引用刊行物2のアクリル樹脂プラスチゾルを引用発明の「アクリル系接着剤又は接着性のあるプラスチック」に代えて用いることは,容易に想到できることではない。
a 接着性について 引用刊行物2に開示された発明は,従来のポリ塩化ビニル系プラスチゾルの代替品としてアクリル樹脂プラスチゾルを提案するものである。
ポリ塩化ビニル系プラスチゾルは,シートや塗布体として用いられていたものである。したがって,これの代替品である引用刊行物2のアクリル樹脂プラスチゾルが接着性を有するとしても,その接着性は,物体の表面にシートとして貼り付けられたり,塗布体として塗布されたりする際に要求される程度の接着性であると解されるから,物体の表面と面接触し,当該物体の表面から引き剥がす方向の外力が働かない環境において,当該物体への接着状態を保持し得る程度の接着性にすぎない。
したがって,引用刊行物2に開示されたアクリル樹脂プラスチゾルは,複数枚のタイルの重量に耐え得る接着力と樹脂強度を有しないものである。
b ポリエチレンイミンの添加について 引用刊行物2には,アクリル樹脂プラスチゾルに接着性付与剤としてポリエチレンイミンを添加することが開示されているが,引用刊行物2におけるポリエチレンイミンの添加は,アクリル樹脂プラスチゾルの上記aのような接着性を前提としてこれを強化することを目的とするものであって,複数枚のタイルの重量に耐え得る接着力を発揮するものではない。したがって,引用刊行物2における接着性付与剤としてのポリエチレンイミンが本件発明の「接着媒体」に相当するという本件決定の認定も,誤りである。
c 粘度について 本件決定は,引用刊行物2のアクリル樹脂プラスチゾルには粘度があり,粘度のある物質を接着剤として使用することは周知慣用技術であると認定するが,かかる認定は誤りである。粘度があれば接着剤として認定できるというものではない。引用刊行物2においても,粘度に関する記載は加工特性との関係で述べられたものであり,接着性との関係で述べられたものではない。
また,本件発明におけるアクリル樹脂プラスチゾルは連結剤であって接着剤ではないから,引用刊行物2のアクリル樹脂プラスチゾルが接着剤として使用できるとしても,本件発明の構成を得ることはできない。
d 制振鋼板・合わせガラスとしての用途について 本件決定は,引用刊行物2に,接着性付与剤としてのポリエチレンイミンを含有させたアクリル樹脂プラスチゾルが,制振鋼板(鋼板同士を貼り合わせたもの)や合わせガラス(ガラス同士を張り合わせたもの)の用途に使用されることが記載されていることをもって,ポリエチレンイミンを含有させたアクリル樹脂プラスチゾルを接着剤として用い得ることの理由としているが,誤りである。
そもそも,引用刊行物2において,制振鋼板・合わせガラスはアクリル樹脂プラスチゾルの用途として挙げられているにすぎず,接着性付与剤としてのポリエチレンイミンを含有させたアクリル樹脂プラスチゾルの用途として挙げられているのではない。
また,ポリエチレンイミンの含有の有無にかかわらず,アクリル樹脂プラスチゾルが制振鋼板や合わせガラスに用いられるとしても,それは鋼板同士やガラス同士の間にはさまれるシートとしてである。該シートと鋼板ないしガラスを接着するためには別途接着剤が用いられるのであり,アクリル樹脂プラスチゾル自体が接着剤として用いられているわけではない。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論 原告が,本件発明の進歩性についての本件決定の認定判断が誤りであるとして主張するところは,次のとおりいずれも失当である。
(1) 取消事由1について 原告は,本件発明と引用発明とはタイル同士を「連結」するか「接着」するかの点で相違しており,本件決定が,「複数並列されたタイルの裏面同士を,接着剤で連結したユニットタイル」の点で両発明が一致すると認定したのは誤りであると主張する。
しかし,引用刊行物1の記載に徴すれば,引用発明の「アクリル系接着剤又は接着性のあるプラスチック」の機能は,複数枚並列されたタイルの裏面同士を連結することであることは明白であるから,本件発明における連結剤の機能と異なるところはない。また,本件発明について,本件明細書(甲2参照)では「接着剤」及び「樹脂系接着剤」という用語が多用されている。このように,「接着」と「連結」の相違は単なる呼称の違いにすぎず,実質的な相違点ではないから,本件決定の一致点の認定に誤りはない。
(2) 取消事由2について ア 原告は,引用発明の「接着性のあるプラスチック」はアクリルエマルジョン又はアクリル系塗料の接着剤に他ならないと主張するが,そのように限定して解すべき根拠はない。
イ 原告は,引用刊行物2が開示する「接着性付与剤としてのポリエチレンイミンを含有させたアクリル樹脂プラスチゾル」を引用発明の「接着性のあるプラスチック」として用いて本件発明の「接着媒体が配合されたアクリル樹脂プラスチゾル」の構成を得ることは容易でない,と主張するが,以下のとおり失当である。
(ア) 原告は,引用刊行物2が開示するアクリル樹脂プラスチゾルは,ポリ塩化ビニル系プラスチゾルに対する代替品として位置付けられていることを根拠に,ポリエチレンイミンを含有させたとしても,タイル同士を連結させるために必要な接着力・樹脂強度が得られることは当業者の容易に想到し得るところではない,と主張する。
しかし,当業者は,引用刊行物2に開示された技術情報に基づき,さらに技術常識及び通常の技術手段を用いて,通常の創作能力を発揮することができる者であるから,引用刊行物2に開示されている組成物を接着という観点からとらえ,引用発明の「接着性のあるプラスチック」として用いることは,当業者の容易に想到し得るところである。
(イ) 原告は,本件決定が,引用刊行物2にはアクリル樹脂プラスチゾルの粘度が記載されており,粘度のある物質を接着剤として使用することが周知慣用技術であるとして,このことを,引用刊行物2のアクリル樹脂プラスチゾルを引用発明の「接着性のあるプラスチック」として用いることの容易想到性の論拠としたのは誤りであると主張する。
しかし,原告は,「アクリル樹脂プラスチゾル」と,「接着性付与剤としてのポリエチレンイミンを含有させたアクリル樹脂プラスチゾル」とを区別せずに論じており,失当である。
(ウ) 原告は,本件決定が,引用刊行物2のアクリル樹脂プラスチゾルの用途として制振鋼板及び合わせガラスが開示されていることを,当該アクリル樹脂プラスチゾルに接着性があることの根拠に挙げているのは誤りであると主張する。
しかし,引用刊行物2の記載事項からみて,「接着性付与剤としてのポリエチレンイミンを含有させたアクリル樹脂プラスチゾル」が制振鋼板,合わせガラスの用途に使用されることが明記されており,原告の主張は根拠がない。
当裁判所の判断
1 請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯)・(2)(発明の内容)・(3)(決定の内容) の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下においては,原告主張の取消事由ごとに本件決定の適否について判断する。
2 取消事由1について 原告は,本件発明と引用発明とはタイル同士を「連結」するか「接着」するかの点で相違しており,本件決定が,「複数並列されたタイルの裏面同士を,接着剤で連結したユニットタイル」の点で両発明が一致すると認定したのは誤りであると主張するので,検討する。
(1) 引用刊行物1(甲5)には,下記の記載がある。
記 「 【請求項2】タイルを複数枚連結したタイルシートにおいて,該タイルの裏面の一部に塗布され,隣接する該タイルの側面同士でつくる空間の一部を横架する接着剤によって,隣接する該タイル同士が相互に連結されていることを特徴とするタイルシート。」(【特許請求の範囲】) 「 (実施の形態2)図6は,本発明のタイルシートの第2の実施例を示す斜視図であり,図7は,前記タイルシートを製造するため,タイルを枠に配置し,接着剤を塗布したところの要部断面図であり,………」(段落【0011】) 「 図6に示すタイルシート1において,2はタイルであり,2aはタイル2のタイル裏面であり,2bはタイル2のタイル側面であり,3は隣接するタイル2同士を連結する接着剤であり,………」(段落【0012】) 「 本実施例のタイルシートは,以下に示すごとく製造される。まず枠5に,複数枚のタイル1を,タイル裏面2aが上になった状態で挿入する。次に,接着剤塗布部10に接着剤3を塗布する。接着剤3の量は,接着剤3を接着剤塗布部10の中心に塗布した時,接着剤塗布部10の範囲にのみ広がる程度とする。接着剤塗布部10は,タイル裏面2a縁部と,隣接する該タイルの側面同士でつくる空間の一部を横架する領域である。タイル裏面2a縁部とは,タイル裏面2a上の,タイル裏面2aの一辺で,この一辺からの奥行きが,対向するタイル裏面2aの一辺までには至らない領域である。………。接着剤3が乾くことにより,タイルシート1は完成する。」(段落【0013】) 引用刊行物1の上記記載並びに同刊行物の図6及び図7によれば,引用発明の接着剤3は,タイル裏面2aの縁部と,面と面とが対向する関係にあって互いに固着している。また,当該接着剤3が,隣接するタイル2の側面同士でつくる空間の一部を横架しているため,接着剤3が塗布後に乾燥固化することによって,隣接する2枚のタイル2の位置関係が互いに固定されることになる。
そうすると,「接着」は「面と面とを貼り合わせること」,「連結」は「つらねむすぶこと。むすびあわせること。」を意味するという原告の主張によっても,引用発明の「接着剤」は,タイル裏面に「接着」されることによって,複数のタイルを「連結」するものである,ということができる。
(2) 一方,本件発明は,前記のとおり, 「複数並列されたタイルの裏面同士を,接着媒体が配合されたアクリル樹脂プラスチゾルで連結したユニットタイル」 である。
そして,本件明細書(甲2参照)には,下記の記載がある。
記 「【発明の実施の形態】図はこの発明のユニットタイル1の裏面側を示すものである。すなわち,複数のタイル2が並列してあり,隣接するタイル2同士を目地用の間隔3を隔てて,接着媒体が配合されたアクリル樹脂プラスチゾルで連結して構成してある。………」(段落【0006】) 「このユニットタイル1に用いる接着媒体が配合されたアクリル樹脂プラスチゾルは,タイルとの接着力が強いことの他,以下の条件を満たすものであることが好ましい。硬化前において………。硬化後において,@樹脂強度(特に引張り強度や引裂強度)が強いこと。A………。
上記@Aは,………,かつ施工時のタイルの分離を防止するためである。………。」(段落【0008】) 「【発明の効果】………樹脂系接着剤として接着媒体が配合されたアクリル樹脂プラスチゾルを使用したので,接着剤の硬化時間が短いので製造効率が良く,………」(段落【0019】) 本件明細書(甲2参照)の上記記載及び同書の図1によれば,本件発明の「接着媒体が配合されたアクリル樹脂プラスチゾル」は,隣接するタイル2の裏面と,面と面とが対向する関係にあって互いに固着している。そして,また,当該アクリル樹脂プラスチゾルが硬化することによって,隣接する2枚のタイルが分離しないという効果が奏されることになる。
そうすると,本件発明の「接着媒体が配合されたアクリル樹脂プラスチゾル」も,タイル裏面に「接着」されることによって,複数のタイルを「連結」するものである,ということができる。
(3) 上記(1)及び(2)のとおり,本件発明の「接着媒体が配合されたアクリル樹脂プラスチゾル」と引用発明の「接着剤」は,いずれも,タイル裏面に「接着」されることによって複数のタイルを「連結」するという点において共通する。
(4) また,タイル裏面に接着されるための接着力及び複数のタイルを連結するための強度の点においても,本件発明の「接着媒体が配合されたアクリル樹脂プラスチゾル」と引用発明の「接着剤」との間には,以下に述べるとおり,相違はないというべきである。
ア 本件明細書(甲2参照)には,下記の記載がある。
記 「【従来の技術】従来,複数のタイルを一度に壁面に張り付けるためには,いわゆる紙張りタイルが用いられている。………」(段落【0002】) 「【発明が解決しようとする課題】上記従来の紙張りタイルにおいては,以下の問題点があった。………」(段落【0003】) イ 引用刊行物1(甲5)には,下記の記載がある。
記 「【従来の技術】………。従来のタイルは,壁面への貼り付けの作業性を向上させるために,あらかじめ複数枚のタイルをモザイク調に規則正しく連結させ,シート状にしていた。このタイルシートは,………,紙などのシートをすべてのタイルに掛け渡すように,タイルに接着することにより製造される。………」(段落【0002】) 「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,………,紙をはがす作業には膨大な手間と時間を必要とするという問題点があった。………」(段落【0003】) ウ 本件明細書(甲2参照)及び引用刊行物1の上記各記載に照らすと,本件発明及び引用発明は,いずれも,タイル同士を連結するために紙を用いていた従来のユニットタイルに対する代替品として発明されたことが明らかである。そうすると,本件発明の「接着媒体が配合されたアクリル樹脂プラスチゾル」と引用発明の「接着剤」とは,いずれも従来技術における紙が有していたのと同程度の接着力及び強度を有するものであると考えられ,接着力及び樹脂強度において特段の相違はないと解するのが相当である。
(5) 以上のとおりであるから,本件決定が,「複数並列されたタイルの裏面同士を,接着剤で連結したユニットタイル」の点で本件発明と引用発明が一致すると認定したことに誤りはない。
3 取消事由2について (1) 原告は,引用発明ではタイル同士が接着されているのに対して,本件発明ではアクリル樹脂プラスチゾルによって連結されているという本質的な相違があるから,引用発明から本件発明を想到することは容易ではないと主張する。
ア すなわち,原告は,引用刊行物1には引用発明の「接着剤」としては液状のもの以外を示唆する記載はないから,接着剤として使用可能なものとして列挙されているうちの「接着性のあるプラスチック」は,アクリル系接着剤(アクリル塗料又はアクリルエマルジョン)であると理解されるのであり,アクリル系接着剤はタイル同士を接着することはできても連結することはできない,と主張する。
しかし,引用刊行物1(甲5)には,下記の記載がある。
記 「なお,以上の説明での接着剤としては,合成ゴム,ブチルゴム及びクロロプレンゴムなどのゴム材並びにウレタンフォームなどの合成樹脂並びにゴム系,アクリル系及びホットメルトなどの接着剤並びに接着性のあるプラスチックなどが使用可能である。」(段落【0036】) 上記記載に照らせば,「接着性のあるプラスチック」は,「ゴム材」や「合成樹脂」と並列されているものであるから,これが原告の主張のように液状のアクリル系接着剤であると解すべき理由はなく,原告の上記主張は前提において誤りがある。
イ なお,原告は甲16の試験報告書を提出し,引用発明の「接着剤」はタイル同士を連結するために必要な接着力及び樹脂強度を具備していないと主張する。
しかし,同試験報告書は,引用刊行物1の実施例に記載された方法によってタイルシートを製造するに当たり,「接着剤」としてアクリル系接着剤(アクリル塗料及びアクリルエマルジョン)を用いたものである。引用発明の「接着剤」がアクリル系接着剤に限られるわけではないことは上記アのとおりであるから,同試験報告書のタイルシートにおいてはタイル同士の連結という結果が得られなかったからといって,引用発明の「接着剤」が一般にタイル同士を連結する機能を有しないということはできない。
(2) 次に原告は,引用刊行物2(甲6)に記載された「接着性付与剤としてポリエチレンイミンを含有させたアクリル樹脂プラスチゾル」を,引用発明の「接着剤」として用いることによって本件発明の「接着媒体が配合されたアクリル樹脂プラスチゾル」の構成を得ることは,当業者(発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の容易に想到し得るところではないと主張するが,原告がその理由として述べるところは,以下のとおりいずれも採用することができない。
ア 引用発明の「接着剤」の一例として,「接着性のあるプラスチック」が引用刊行物1(甲5)に明示されていることは上記(1)アのとおりである。一方,引用刊行物2(甲6)には,「アクリル酸エステル系共重合体プラスチゾル組成物」の発明が開示され(【特許請求の範囲】),同組成物には,「接着性をさらに向上させるために用いられる接着剤付与剤」としてポリエチレンイミンを含有させることができる旨が明示されている(段落【0016】【0017】)。
そうすると,引用刊行物1及び2の両方に接した当業者が,引用発明の「接着剤」の例として引用刊行物1に示された「接着性のあるプラスチック」として,引用刊行物2の「接着性付与剤としてポリエチレンイミンを含有させたアクリル樹脂プラスチゾル」を適用することに阻害事由があることを示す特段の証拠もないのであるから,本件決定が,その適用は当業者の容易に想到し得るところであると判断したことに,誤りがあるということはできない。
イ 原告は,引用刊行物2のアクリル樹脂プラスチゾルはポリ塩化ビニル系樹脂プラスチゾルに対する代替品として発明されたものであり,ポリ塩化ビニル系樹脂プラスチゾルはシート又は塗布体として利用されるものであるから,その代替品である引用刊行物2のアクリル樹脂プラスチゾルもシート等として利用されることが予定されており,これを引用発明の「接着剤」に代えて利用することは当業者の容易に想到し得ないところであると主張する。
しかし,引用発明における「接着剤3」は,上記2(1)で認定したとおり,タイル2の側面同士がつくる空間の上に横架され,タイル裏面2aの縁部に接着されるものであるから,引用刊行物1(甲5)の図6,図7に示されるように,硬化後においてはまさに小さな「シート」の形状を呈すものであると認められる。そうすると,引用刊行物2のアクリル樹脂プラスチゾルがポリ塩化ビニル系樹脂プラスチゾルの代替物であってシートとして利用されるものであることは,当該アクリル樹脂プラスチゾルを引用発明の「接着剤」として用いることを阻害するものではない。
ウ 原告は,本件決定が,引用刊行物2(甲6)のアクリル樹脂プラスチゾルに粘度がある旨が開示されていることや,その用途として制振鋼板・合わせガラスが開示されていることを,当該アクリル樹脂プラスチゾルを引用発明の「接着剤」として用いることの容易想到性の根拠にしたことは不当であると主張する。
しかし,上記ア及びイで述べたように,粘度及び用途に関する引用刊行物2の記載を参酌するまでもなく,引用刊行物2のその余の記載に接した当業者にとって,引用刊行物2に開示された「接着性付与剤としてポリエチレンイミンを含有させたアクリル樹脂プラスチゾル」を引用発明の「接着剤」として適用することに想到することは容易であるといえるのであるから,原告の上記主張は,本件決定の判断がその結論において誤りはないことを,何ら左右するものではない。
4 結語 以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉