運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 異議1999-73638
関連ワード 29条1項3号 /  発明の詳細な説明 /  明瞭でない記載 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  取消決定 /  異議申立 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (行ケ) 471号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社リコー
訴訟代理人弁理士 鈴木康志、加藤和彦
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 小川謙、東次男、小林信雄、茂木静代
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/12/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年異議第73638号事件について平成12年10月24日にした決定を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「画像形成装置」とする発明に関する特許第2874814号(平成4年1月28日特許出願(平成4年特許願13180号)、平成11年1月14日設定登録)の特許権者であるが、本件特許の請求項1に係る発明について特許異議の申立てがあり、平成11年異議第73638号事件として係属した。そこにおいてされた取消理由通知に対し、平成12年4月21日に訂正請求をした後、
訂正拒絶理由通知に対して平成12年8月22日に手続補正書を提出したが、平成12年10月24日、「特許第2874814号の請求項1に係る特許を取り消す」との決定があり、その謄本は同年11月13日原告に送達された。
2 本件請求項1に係る発明の要旨(設定登録時の明細書における特許請求の範囲の記載) シート上に画像を形成する作像エンジンと、
前記作像エンジンで画像を形成されたシートを排出するシート排出手段と、
前記シート排出手段により排出されたシートを積載するシート積載部を前記作像エンジンの上方に形成する作像エンジン筐体と、
前記シート積載部の上方に空間を隔てて配置され、原稿画像を電気信号に変換して前記作像エンジンに供給するスキャナ手段と、
前記スキャナ手段を前記シート積載部の上方に空間を隔てて支持する支持手段とを有し、
前記支持手段が、前記作像エンジン筐体と別体で独立して構成され、当該作像エンジン筐体の側方外部に位置することを特徴とする画像形成装置。
3 決定の理由の要点 (1) 訂正の適否について (1)-1 訂正請求書の補正の適否について 訂正請求書の補正は、「(3)訂正の要旨」中の「訂正事項a」及び「訂正事項c」における各記載「前記空間の少なくとも隣り合う2側面が開放されて」を「前記空間の隣り合う2側面が連続的に開放されて」に補正する、「(3)訂正の要旨」に、訂正事項d及びeを付加する、「訂正の原因」の1行ないし5行を補正する、「請求の原因」の「相当する。」の後に新たな文を付加する、というものである。しかし、上記補正は、訂正事項を変更あるいは新たに加えるものであり、訂正請求書の要旨を変更するものであるから、特許法120条の4第3項において準用する同法131条2項の規定に違反するものであり、採用しない。 (1)-2 訂正の適否について 平成12年4月21日付けの訂正請求は、特許請求の範囲減縮を目的として、
特許請求の範囲の請求項1に「前記シート蓄積部に蓄積されたシートを取り出せるように前記空間の少なくとも隣り合う2側面が解放されて前記スキャナ手段を支持する」を付加し、請求項2を元のまま維持するために請求項2を独立項とし、また、明瞭でない記載釈明を目的として、明細書の段落【0006】を訂正しようとするものであるが、願書に添付した明細書又は図面には、「【0020】スキャナ手段200を支持する支持手段180を、作像エンジン筐体100から独立させて構成することも可能である。このための構成を、図6に示す。」と記載され、特にシート積載部とスキャナ手段との間の空間の開放についての記載は、段落【0020】〜【0023】及び図6であると認められるが、これらの記載は、複写機のどの方向から作業を行っても、シートを取り出せないという事態がなくなり、操作性が向上するように、作像エンジン筐体の上方に形成されたシート蓄積部とスキャナ手段200との間の空間の4方のどの一面も塞ぐことのないように支持手段を構成することを開示ないし示唆するのみで、支持手段が「前記シート蓄積部に蓄積されたシートを取り出せるように前記空間の少なくとも隣り合う2側面が解放されて前記スキャナ手段を支持する」こと(これが隣り合う2側面のみが開放され、他の2側面が開放されない態様を含むことは文言上明らかである。)を開示ないし示唆しない。なお、図2、図3、図4、【0016】、【0017】の記載は、支持手段180が作像エンジン筐体と一体的に固定された例を示し、請求項1に係る発明に関する記載とは認められないが、これらの記載も、支持手段を、作像エンジン筐体の上方に形成されたシート蓄積部とスキャナ手段との間の空間の4方のどの一面も塞ぐことのないように構成することを開示するのみである。
したがって、請求項1についての上記訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものでなく、特許法120条の4第3項で準用する126条2項の規定に適合しない。
また、訂正された請求項2は、支持手段が「前記作像エンジン筐体と別体で独立して構成され、当該作像エンジン筐体の側方外部に位置すること」を明示せず、このことが「前記支持手段が前記作像エンジン筐体の上面の内対角線上にある2点にて形成された支柱であること」から当然に導き出せるものでもないから、請求項2についての上記訂正は、請求項2を元のまま維持するものではなく、特許請求の範囲拡張するものであり、特許法120条の4第2項の規定に適合しない。
さらに、請求項3及び請求項4は、請求項1又は請求項2を引用しているから、
同様に、請求項1を引用する部分に関しては特許法120条の4第3項で準用する126条2項の規定に適合せず、請求項2を引用する部分に関しては特許法120条の4第2項の規定に適合しない。
よって、当該訂正は認められない。
(2) 特許異議申立てについて (2)-1 本件請求項1に係る発明 本件請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
シート上に画像を形成する作像エンジンと、
前記作像エンジンで画像を形成されたシートを排出するシート排出手段と、
前記シート排出手段により排出されたシートを積載するシート積載部を前記作像エンジンの上方に形成する作像エンジン筐体と、
前記シート積載部の上方に空間を隔てて配置され、原稿画像を電気信号に変換して前記作像エンジンに供給するスキャナ手段と、
前記スキャナ手段を前記シート積載部の上方に空間を隔てて支持する支持手段とを有し、
前記支持手段が、前記作像エンジン筐体と別体で構成され、当該作像エンジン筐体の側方外部に位置することを特徴とする画像形成装置。
(2)-2 刊行物に記載された発明 平成12年2月2日付け取消理由において引用した刊行物(特開平3-75861号公報。引用刊行物)には、図面(第1図、第2図及び第4図については、本判決別紙引用刊行物図面参照)と共に、次のイ〜ニを内容とする「コピー、プリント、及びファクシミリの諸ジョブを処理するためのコピー、プリント、及びファクシミリ送受の諸モードを有している多モード装置のための待ち行列管理方法」(1頁左下欄5行〜同8行)が記載されている。
イ.「第1図ないし第4図に、本発明の待ち行列管理方法が適用される形式の多機能複写、プリント兼ファクシミリ装置5を示す。(中略)装置5は、レーザプリンタ7、書類走査装置9、及び装置の動作を制御及びプログラムするためのタッチパネル型ユーザインタフェース(U1)を有する。」(3頁左下欄7行〜同15行)こと。
ロ.「プリンタ7は、外面22が適当な光導電材料で被覆されている光受容体ドラム20と、映像の準備としてドラム光導電面22を帯電させるための帯電コロトロン28を有する。ドラム20は複写装置フレーム35内に回転自在に適当に軸支されており、ドラム20は矢印方向に回転して、その光導電面を、プリンタ7の露光ステーション32、現像ステーション34、及び転写ステーション36を通過させる。(中略)この転写ステーション36において、現像済み画像は光導電面22からコピーシート68へ転写される。転写の後、トナー像を支持しているコピーシートはドラム20の光導電面22から分離されて定着ステーション80へ送られる。この定着ステーションにおいて、ローラ形定着器82が、転写済み粉像を前記コピーシートへ定着させる。定着の後、仕上がったコピーまたはプリントはプリント排出ローラ84によってプリント出力トレイ86へ送られる。」(3頁右下欄14行〜4頁左下欄7行)こと。
ハ.「書類走査器9はデュアルモード走査器であり、被走査書類110が手動で透明プラテン101上に載せられる手動走査動作、または、1つまたは複数の被走査書類が傾斜書類送りトレイ103上に載せられる自動走査が可能である。走査器9は可動走査キャリジ105上に配置されたCCD型接点アレイ102を有す。」(4頁左下欄11行〜同17行)こと。
ニ.「第11図及び第12図を参照し、複写装置5によるジョブのプリントを管理するための本発明の待ち行列管理方法を説明する。プリントされるべきジョブはいくつかのことからなる型のジョブのうちのどれか一つから成る。これらジョブとしては、パーソナルコンピュータのような画像発生装置から受信される画像データからプリントが作られるプリントジョブ300、走査器によって走査される書類110からコピーが作られるコピージョブ303、電話回線25(第3図)のような通信チャンネルを介して複写装置5へ伝送されるビデオ情報からコピー及びプリントが作られるファクシミリジョブ305等がある。」(6頁左上欄20行〜同右上欄12行)こと。
ホ.また、第1図には、書類走査器9を上面に載置し、下部の棚上にプリンタ7を収容配置する、したがって、プリンタ7とは別体であり、プリンタの側方外部に位置する支持台が図示されている。
ヘ.さらに、プリンタ7の詳細を示す第2図には、コピーシート68上に画像を形成する部分を囲む筐体、その筐体の上部に形成されたプリント排出トレイ86が図示されている。
(2)-3 対比・判断 本件請求項1に係る発明と引用刊行物に記載された発明とを対比すると、
イ.引用刊行物に記載された発明のプリンタ7は、コピーシート68上に画像を形成し、画像が形成されたコピーシートを排出ローラ84によりプリント出力トレイ86へ送るように構成されており(上記(2)-2ロ参照)、そのコピーシート68上に画像を形成する部分、排出ローラ84は、それぞれ本件請求項1に係る発明の「作像エンジン」、「シート排出手段」に相当する。また、プリンタ7は、作像エンジン筐体を有し、その上部にプリント出力トレイ86が形成されていると認められる(上記(2)-2ヘの記載参照)から、引用刊行物に記載された発明は、「シート排出手段により排出されたシートを積載するシート積載部を作像エンジンの上方に形成する作像エンジン筐体」を有すると認められる。
ロ.引用刊行物に記載された発明の書類走査器9は、被走査書類110の画像を電気信号に変換してプリンタ7の作像エンジンに供給するものである(上記(2)-2ハ及びニ参照)から、本件請求項1に係る発明の「スキャナ手段」に相当する。
ハ.引用刊行物に記載された発明の、書類走査器9を上面に載置し、下部の棚上にプリンタ7を収容配置する支持台は、スキャナ手段をシート積載部の上方に空間を隔てて支持する支持手段といえ、その支持台は、作像エンジン筐体と別体で構成され、当該作像エンジン筐体の側方外部に位置する(上記(2)-2ホ参照)から、本願請求項1に係る発明の「支持手段」に相当する。
以上イ〜ハから明らかなように、引用刊行物に記載された発明は、本件請求項1に係る発明の構成要件をすべて有している。
したがって、本件請求項1に係る発明は、引用刊行物に記載された発明であり、
特許法29条1項3号に規定する発明に該当するから、本件請求項1に係る発明についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してなされたものである。
(3) 決定のむすび 以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明についての特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
原告主張の決定取消事由
1 取消事由1(本件請求項1に係る発明の認定の誤り) (1) 決定は、本件請求項1に係る発明の要旨を認定するに際し、「シート上に画像を形成する作像エンジンと、・・・前記支持手段が、前記作像エンジン筐体と別体で構成され、当該作像エンジン筐体の側方外部に位置することを特徴とする画像形成装置」と認定しており、「独立して」との構成を看過したものであるから、誤りである。
(2) 被告は、「独立して構成され」は、支持手段が「別体で構成され」ということから当然に導き出される結果を表すものにすぎない旨主張する。
しかし、「支持手段が作像エンジン筐体と別体で独立して構成され」とは、支持手段が作像エンジン筐体とは別個に床面によって支持される構成を表すものであり、これは本件請求項1に係る発明の図6とも一致する(本件請求項1に係る発明の図面については、本判決別紙本件発明図面参照)。本件請求項1に係る発明の実施例である図6の記載に基づけば、支持手段が「独立して構成され」とは、支持手段が作像エンジン筐体とは別個に床面によって支持されるという構成を意味し、
「別体で構成され」とは異なる構成であることは明らかであり、「独立して構成され」と「別体で構成され」との間には実質的な相違がある。
2 取消事由2(一致点認定の誤り) (1) 決定は、一致点として、引用刊行物に記載された「支持台」が本件請求項1に係る発明の「支持手段」に相当すると認定しているが、引用刊行物における「支持台」は、プリンタ7を載置しており(第1図)、プリンタ7と「独立して」構成されておらず、本件発明の「支持手段」に相当するものではない。決定の上記認定は誤りである。
(2) 上記の構成の相違により、引用刊行物においては、スキャナ手段である書類走査器9が稼働している場合、その振動が直接作像エンジンであるプリンタに伝わる問題点があるのに対し、本件請求項1に係る発明は「独立して構成され」ているために、稼動中のスキャナ手段の振動が直接作像エンジンに伝わることがないという特有の作用効果を有する。決定は、この点を看過したものである。
3 取消事由3(取消理由通知欠如の違法) 被告は、『「独立させて」は・・・「別体で」を別の表現で表したものと理解される』旨主張しており、当該主張は、要するに「別体」と「独立」が同じ構成を意味するものであるから「別体」のみについて引用刊行物との対比判断ができるとの趣旨であるが、これは、取消理由通知書及び特許異議申立書に記載された取消理由とは全く異なるものであり、その記載から容易に予想されるものでもなく、新たな取消理由に該当する。
決定の理由が被告主張のとおりだとすれば、特許法120条の4第1項に規定する取消理由を通知しなかった違法な手続上の瑕疵があることとなり、取消理由通知の欠缺の違法がある。
決定取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1、2に対して 決定が本件請求項1に係る発明の要旨を認定するに際し、「独立して」との字句を記載しなかったことは認める。しかし、これは単なる誤記であり、形式的な相違はあるものの実質的な相違はなく、決定の結論が変わるものでもない。
すなわち、「別体で」及び「独立して」が支持手段そのものの構成を表すものであり、支持手段が作像エンジンなどの他の構成と接触などせずして独立していることを規定するものではないことは、請求項1の記載から明らかであり、「独立して構成され」は支持手段が「別体で構成され」ということから当然に導き出される結果を表すものにすぎない。
このことは、本件請求項1に係る発明の実施例といえる図6において、支持手段180の支柱180a,180bは作像エンジン筐体100の隅角部に対角配置されたガイド溝190a,190bに遊嵌されるものであるから、当該支柱180a,180bのみで独立してスキャナ手段を支持しているとは考えにくく、ガイド溝190a,190bに接触してスキャナ手段を支持していると考えるのが自然であるから、他の構成と接触などせずして独立しているものではない。しかも、図6についての説明には、「支持手段180を作像エンジン筐体100から独立させて構成することも可能である。」と記載され(段落【0020】、そこには単に「独立させて」との記載があるのみで「別体で」の記載はなく、本件明細書の記載全体を見ても「独立させて」と「別体で」を意識的に区別しているとはいえない。ここでいう「独立させて」は、図1〜図5についての記載である「一体的に固定され」に相対するものであり、「別体で」を別の表現で表したものである。
2 取消事由3に対して 通知した取消理由の理由は、本件請求項1に係る発明は引用刊行物に記載された発明であるというもので、決定における取消理由と同じものである。
原告の指摘する点は、請求項1に係る発明と引用刊行物に記載された発明とを対比・判断するに際しての一手法にすぎないのであって、取消理由の範囲を逸脱するものではない。
当裁判所の判断
1 取消事由1、2(本件請求項1に係る発明の認定の誤り)について (1) スキャナを支持する「支持手段」について検討する。
本件請求項1に係る発明において「支持手段」は、「作像エンジン筐体と別体で独立した構成」と記載されており、「別体」に関しては、それが単独の要件として構成されているものではない。「独立」に関してみれば、本件明細書の発明の詳細な説明中【0020】に「スキャナ手段200を支持する支持手段180を、作像エンジン筐体100から独立させて構成することも可能である。このための構成を、図6に示す」と記載されているのみであることが認められる(甲第3号証)。
そこで上記図6に示される支持手段180に関し、本件明細書の記載を更にみるに、
甲第3号証によれば、発明の詳細な説明の【0021】に次のように記載されていることが認められる。
「スキャナ手段200の下面の対角にある2つの隅角部には、下方へ延びる支柱180a、180bが固定して取り付けられている。ガイド溝190a、190bと支柱180a、180bとは、支柱180a、180bがそれぞれガイド溝190a、190bに遊嵌する関係にあり、そして支柱180a、180bの長さは、これをガイド溝190a、190bに遊嵌して組み立てたとき、作像エンジン筐体100の上面とスキャナ手段200との間に、
既述の空間が存在する大きさとなっている。」 他方、甲第3号証によれば、支持手段に「独立」の文言の存在しない他の実施例に関する本件明細書の発明の詳細な説明の記載として、以下のものがあることが認められる。
「該スキャナ手段200は、既述のように、シート積載部400上方に支持手段180により空間を隔てて配置されるようになっている。」(【0015】)、「前記支持手段180は、作像エンジン2の筐体と一体的に固定されている。」(【0016】)、「これをさらに説明すると、図2に示すように、支持手段として2つの支柱180a、180bが作像エンジン筐体100の上側面にて対角線上にある2つのほゞ頂点位置に配置されている。」(【0017】)、「・・・そのうち支柱部分180eは、作像エンジン筐体100に一体的に固定されている。それに対して、支柱部分180dは、スキャナ手段200側にあり、該スキャナ手段と接触支持しているものの、該スキャナ手段には完全には固定されておらず、スキャナ手段に対し軸方向には移動不可能であるが、回転方向に取り付けられている。・・・」(図3、4の実施例に関する【0019】) 以上の記載からみると、本件請求項1に係る発明の支持手段における「独立」とは、支持手段が作像エンジンの筐体と一体的に固定されていないとの意味を有するものと認めることができる。
(2) そこで、決定が本件請求項1に係る発明の「支持手段」に相当すると認定した引用刊行物の「支持台」が、本件請求項1に係る発明の「独立して」の構成を具備するかを検討する。
甲第4号証によれば、引用刊行物の第1図及び第2図において、スキャナに相当する書類走査器9を支持する構成をみると、作像エンジンに相当するプリンタ7の上方に空間を隔ててスキャナに相当する書類走査器9が逆山高帽構造の台により支持されていることが認められる。また、プリンタ7は一般的には単体で存在する装置であり、しかも当該支持台とプリンタが一体的に固定されていないことは、第1図からも、当該趣旨の記載が認められないことからも明らかである。
してみると、引用刊行物の逆山高帽構造の台は、「独立して」構成されていることとなるから、当該台(支持台)が「支持手段」に相当するとした決定の認定は正当である。決定は、本件請求項1に係る発明の認定に際して「独立して」との要件の認定を漏らしているが、これは単なる誤記と認められ、この誤記のあることをもって、決定の結論に違法があるものということはできない(甲第3号証によれば、
本件明細書中には「独立して」との要件が関係する箇所は、支持手段以外には認められず、その要件が本件請求項1に係る発明の構成として格別の意味を有するものとは認められない。)。
(3) 原告は、「独立して構成され」とは、支持手段が作像エンジン筐体とは別個に床面によって支持される構成である旨主張するが、そのような構成である旨の記載のあることは本件明細書中には認められず、原告の主張は理由がない。
2 取消事由3(取消理由通知欠如の違法)について 本件請求項1に係る発明の「エンジン筐体と別体で独立して」構成される「支持手段」が引用刊行物の「支持台」に相当すると認定して、本件請求項1に係る発明と対比判断したことが正当であること、及び「独立して」の記載漏れが単なる誤記であり、結論に影響を与えるものでないことは、上記説示のとおりであるから、この誤記のあったことをもって、原告が主張するように、取消理由通知の欠如の違法があったとすることはできない。取消事由3も理由がない。
結論
以上のとおり、原告主張の決定取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成13年11月27日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史