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関連審決 審判1997-40016
無効2003-35399 異議1999-74083
関連ワード 公然知られ(29条1項1号) /  公然実施(29条1項2号) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  上位概念 /  下位概念 /  同日出願 /  同一の発明 /  試行錯誤 /  技術的特徴 /  実質的に同一 /  盗用 /  登録実用新案 /  特許発明 /  実施 /  交換 /  差止請求(差止) /  侵害 /  設定登録 /  審理終結通知 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  独立特許要件 /  異議申立 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10113号 審決取消(特許)請求事件

原告 X
被告 株式会社明間ボーリング
訴訟代理人弁理士 須田 篤
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/09/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2003-35399号事件について平成16年10月13日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,被告が有し発明の名称を「温泉水汲み上げ装置」とする後記特許につき,原告が特許無効審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「温泉水汲み上げ装置」とする発明につき,平成7年6月22日に特許出願し,平成11年5月28日に特許第2934590号として設定登録を受けた(以下「本件特許」という。)。
その後本件特許に対し,平成11年10月31日付けで,原告が代表取締役を務める株式会社A(以下「A」という。)から特許異議の申立てがなされ,特許庁は,これを平成11年異議第74083号事件として審理することとした。その中で特許庁は,平成12年5月11日被告に対し,本件特許のうち,請求項1,2に係る発明につき取消理由通知を発し(甲16),これに対し被告は,平成12年7月25日付けで本件特許の訂正請求をした(甲17。以下「本件訂正」という。)。
そして,特許庁は,平成12年9月29日,「訂正を認める。特許第2934590号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。」との決定(甲18。以下「本件異議決定」という。)をした。
そこで,原告は,平成15年9月17日付けで,特許無効審判請求をし,特許庁は,これを無効2003-35399号事件として審理し(以下「本件審判手続」という。),その結果,平成16年10月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は平成16年10月23日原告に送達された。
(2) 発明の内容 本件訂正後の発明の内容は,下記のとおりである(下線部が訂正により付加された部分。登録時の発明はこれを除いたもの)。
記 「【請求項1】地中に設けられて内部に坑を形成するケーシングと,前記坑内の水を汲み上げる汲み上げポンプと,前記坑内に深層部まで挿入されて前記坑 の孔底 に固定 され ,その深層部に配置される端部に排水口を有する送水管と,前記送水管に水を送る送水器とを有し,前記送水器は,前記汲み上げポンプの排水管と前記送水管とに接続された分水器と,この分水器に接続された給水管と,この給水管の給水量を制御する給水バルブとを有することを特徴とする温泉水汲み上げ装置。
【請求項2】前記送水管に接続された注水管と,この注水管内の水を前記排水口の方向に送る制御バルブとを有することを特徴とする請求項1記載の温泉水汲み上げ装置。
【請求項3】前記送水管は前記坑の中心線上に配置され,その排水口は,複数であって,送水管の中心軸を中心とする所定の螺旋軌道上に形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の温泉水汲み上げ装置。」 (以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」等という。) (3) 審決の内容 本件審決の内容は,別紙審決の写しのとおりである。その理由の要旨は,原告主張の下記無効理由1ないし3は,いずれも認められないとしたものである。
記 無効理由1 本件発明1ないし3は,本件特許出願前に公然実施された発明であるから,特許法29条1項2号等に該当する。
無効理由2 本件発明1ないし3は,本件特許出願前に公然実施された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項等に該当する。
無効理由3 本件発明1ないし3は,本件特許と同日に出願された実願平7-7348号(実用新案登録第3020698号)に係る考案と同一であり,両出願人は同一であるから,いずれか一の出願人のみが特許又は実用新案登録を受けることができるものであるので,特許法39条4項等に該当する。
(4) 審決の取消事由 しかしながら,本件審決には,以下のとおり認定判断の誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(公然実施の判断の誤り) 本件審決は,特許法29条1項2号公然実施とは,部外者が含まれて実施したことが条件であるが,平成7年6月6日から8日間秋田県大館市清水町の被告敷地内の温泉井戸(以下「明間温泉」という。)において行われた「温泉改善装置移設試験」は公然実施の条件を欠いているから公然実施に該当しないと判断した。
しかし,特許庁の審査便覧(42.03A)には,特許法29条1項2号は発明が実施されたことによって,公然知られた事実が認められない場合でも,その実施が公然なされた場合を規定しているものである旨記載され,また,東京高裁昭和51年1月20日判決(判例タイムズ337号283頁)は,公然知られたとは,閲覧可能性があればよいと判示している。
本件は,被告の資材置場内に掘削されていた温泉井戸(明間温泉)の現場で,屋外開放のままの状況で実施されたものであり,その当時,現場は,歩道との境に設置された金網フェンスから約5メートル離れた場所に位置し,目隠しがされていたわけでもなく,歩行者及び車道通行者から容易に「閲覧可能な状況」であった。
また,本件は,工事の安全上,第三者の立入りを禁止した状態で行われたが,これは安全を確保できる範囲での当然の行為であり,24時間体制で立入りを規制していたわけではなく,まして密室で実施されたものではなく屋外で実施されたものであるから,公然実施に当たるというべきである。
本件が公然実施に該当しないとの本件審決の上記判断は,上記審査便覧及び裁判例を看過し,特許法29条1項2号を誤解した不当な判断である。
イ 取消事由2(本件訂正の適否等の判断遺脱) 原告は,本件審判手続において,本件訂正によって付加された「前記坑の孔底に固定され」との送水管端部の構成が,被告が本件特許出願と同日に出願した実用新案登録(実用新案登録第3020698号。以下「本件実用新案登録」という。)に係る考案の送水管端部の構成と同一であること,本件特許は当初から送水管端部以外の全体構成を特許請求の範囲としていたこと等からすれば,本件訂正は上位概念に係る拡張訂正である旨指摘した上で,本件異議決定が本件特許出願の願書に本件実用新案登録出願に係る考案と同一図面が添付されていることを理由に本件訂正が特許請求の範囲減縮に当たると判断したことは誤りである旨主張した。それにもかかわらず,本件審決は,原告の上記主張に対する判断をしていないから,判断遺脱(判断の遺漏)がある。
また,本件審決は,原告が本件特許出願前に被告に対し送水管端部を「孔底密着」するよう指示していた事実を認めていながら,この事実に関する審理も遺脱している。
ウ 取消事由3(手続違背) 審判長は,平成16年7月8日になされた仙台市での本件口頭審理期日において,被告に対し,同年7月末日を期限として発明事実の証拠,発明の構成の科学的根拠及び実施例記載の事実証拠の提出を要請し,その提出がない場合は無効審判請求の請求の趣旨に沿った審理となる旨述べ,被告はこれを了承した。
また,原告は,審判長に対し,本件審判手続の審理において被告から提出されたすべての書面等の副本の送達及びこれに対する検討,弁駁の機会が得られるよう要請し,審判長はこれを了承した。
しかし,審判長は,被告の書証等の提出期限が過ぎてもその提出の有無を原告に知らせることなく,原告は,本件審決謄本の送達を受けて初めて,無効理由3に係る本件実用新案登録の請求項の削除訂正の事実を知り,原告の要請は無視された。のみならず,被告に対する要請の結果について,本件審決に何ら言及がなく,審理されていない。
これは騙し討ちのようなものであり,本件審判手続の審理及び本件審決は,著しく公平公正を欠いた不当なものである。
エ 取消事由4(無効理由3の判断の誤り) 被告による本件実用新案登録の全請求項(請求項1及び2)の削除訂正は,本件実用新案登録そのものが存在しなくなるもので,被告が無効理由3を認めたことにほかならないから,本件審決においては,まず無効理由3を認定し,その上で本件訂正を認めなければならない。
したがって,無効理由3が認められないとした本件審決の判断は誤りである。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論 (1) 取消事由1に対し 本件審決が,「温泉改善装置移設試験」が行われた場所は被告の敷地内であり,「当該敷地が具体的にどのような状況であったかについては,請求人からは何ら主張立証がないため,外部の者が敷地内に自由に立ち入ることができる状況にあったとか,外部の者が当該発明の実施状況を見ることができたということはできない。むしろ,当該敷地は,明間の私有地であるから,自由な立ち入りは困難であった」(8頁16行〜21行)として,公然実施を否定した判断に誤りはない。特に,送水管の「坑内に深層部まで挿入されて前記坑の孔底に固定され,その深層部に配置される端部に排水口を有する」との構成は,坑内の深層部のため,見ることはできない。
(2) 取消事由2に対し ア 「送水管」を「坑の孔底に固定された送水管」に限定した本件訂正は,原告の主張するような上位概念に係る拡張訂正ではなく,より下位概念に限定する訂正であり,本件訂正前の明細書(甲15)の段落【0009】及び段落【0019】に記載されているものである。すなわち,本件訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するものではない。
また,「坑の孔底に固定された送水管」については,公知ではなく,本件訂正後の発明(本件発明1)は,特許出願前に日本国内において公然と実施された発明ではない。
イ 原告が本件特許出願前に被告に対し送水管端部を「孔底密着」するよう指示していた事実はなく,本件審決も,そのような指示がされた事実を認定していない。
(3) 取消事由3に対し ア 審判長が本件口頭審理の際に請求人及び被請求人に求めたのは,第1回口頭審理調書(甲32)に記載のとおり,「明間温泉で行った試験運転の具体的な内容(特に送水管の先端の構成)を示すとともに,請求人,被請求人以外の外部の見学参加者一覧を7月30日までに上申書で提出すること。」であって,原告の主張するような発明事実の証拠,発明の構成の科学的根拠等の提出を求めていない。
被告は,平成16年7月30日付けで,審判長から提出を求められた事項につき上申書(甲20)を提出した。
イ 本件審決に先立ち,平成16年9月30日付けで,本件審判手続の審理終結通知が発送されており,原告の主張するような騙し討ちはなく,本件審判手続の審理及び本件審決の手続に何ら違法はない。
(4) 取消事由4に対し 本件実用新案登録の請求項1及び2の削除訂正は,平成16年7月30日付け上申書(甲20)のとおり,「上位概念である本件特許発明は,下位概念である登録実用新案第3020698号の登録新案と同一の発明に該当するものではないが,本件特許の成立により登録実用新案第3020698号の意義は達成したため」である。上記削除訂正により,被告が無効理由3を認めたことにはならない。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,原告主張の本件審決の取消事由(請求原因(4))について,以下,順次判断する。
2 取消事由1(公然実施の判断の誤り)の有無 (1) 前記争いのない事実と証拠(甲1,4,5,7ないし20,27ないし41,乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,本件訴訟に至る経緯等として,次の事実が認められる。
ア 原告が代表取締役を務める株式会社であるAは,平成7年1月10日,被告との間で,Aが有する温泉井戸の状況改善技術,温泉熱回収利用技術,地熱利用技術等の技術による調査・分析・企画業務(以下「本件技術業務」という。)と,これらに関連してAが特許・実用新案等の工業所有権を申請している機器及び設備の営業,販売,施工,アフターサービスを実施する権利を被告に与え,被告が自己の名と責任においてこれを実施する,Aが被告の依頼により本件技術業務を行うときは,Aと被告間で,その都度請負契約を締結し,被告はAに本件技術業務の報酬を支払う等を内容とした業務提携契約(以下「本件業務提携契約」という。)を締結した(甲1)。
イ 被告は,平成7年2月,Aに対し,被告が掘削工事を行っていた京都府綾部市内の温泉井戸(以下「綾部温泉」という。)について,温泉水の昇温及び湧水量の増量を目的とする本件技術業務を依頼し,Aは,同年2月28日付けで,被告に対し,孔内注水式の深層熱誘導法による昇温・増量策の設備概略図等を記載した企画書(甲38)を送付した。上記企画書には,綾部温泉の現在の井戸口元温度約15.8℃,湧水量毎分約3.2リットルであるが,これを井戸口元温度約43℃,温泉量毎分約50リットルの目標値に昇温・増量することを可能である旨記載されていた。
被告は,Aに対し,平成7年3月25日付けで,上記企画書等に基づいて作成した設備の施工図(甲4)をファックス送信し,さらに,同年4月10日付けで,当初設計から放水管の口径等を変更した放水管詳細図(甲5)をファックス送信した。
平成7年5月15日,綾部温泉で,被告が完成した設備・装置の試運転が行われ,その後,同年5月16日,21日及び22日にも,同所で試運転が行われたが,井戸口温度は26.4℃にとどまり,湧水量の増量はみられなかった。なお,上記企画書及び上記試運転中にAから被告へ提出された改善指示書には孔底までの距離は1800mとする旨の記載があったが,被告は,費用がかかることなどから,それに従わず孔底までの距離を1300mとして上記試運転を行った。
ウ その間Aは,被告の依頼に基づいて,平成7年4月14日付けで,大館市清水町所在の温泉井戸(明間温泉)についての企画書(甲39)を送付した。上記企画書には,現在約37.5℃(井戸口元)の泉温を45℃以上に昇温すること,孔外注水法により,孔内湧水量毎分65リットルを毎分100リットルに増量することを目的とする旨記載されていた。
被告は,綾部温泉で使用した前記設備・装置を明間温泉に移設した上,平成7年6月6日から同年6月13日までの8日間にわたり,明間温泉で,その設備・装置の試運転(「温泉改善装置移設試験」)を実施した。その試運転の際には,原告も立ち会った。
明間温泉は,被告が資材置場として使用していた被告の敷地内に位置し,上記敷地と公道との境には金網フェンスが設置されており,上記試運転の際には,第三者の立入りが禁止されていた。
エ 平成7年6月14日付け北鹿新聞(甲11の(1))に,「温泉の温度,湯量調整」,「明間ボーリング 深層熱誘導実験に成功」との見出しを付して,「大館市の竃セ間ボーリング・・・は,深層熱誘導法の実験に成功した。これまで湯温,揚湯量の不足で失敗していた温泉の湯を地熱を利用して加熱,増量させるもので,この技術が実用化されれば今まで使用できなかった源泉を復活させることができる。実験の成功は日本初と同社では話している。・・・今回実験に成功した深層熱誘導法は,これまでボイラーなどに頼っていた温泉の加熱を地熱で行うもの。地下七百メートルの深さでは,地熱は約六十度になることを利用し,地上に出た水をポンプで強制的にもう一度地下にもどし,対流させて温度を上げる。温度が足りないものは温度をあげ,揚湯量が足りないものは,水を加えて量を増やすことができる。・・・同社は,昭和五十五年に清水町の工場敷地内に掘り,湯温不足で使用していなかった源泉を実験に利用。三十七.五度だった湯温が,最高四十二.二度まで上昇した。装置は,パイプが横につながっているもの。さらにユニット化でコンパクト化,揚湯管の開発で高効率化開発も図られる。」などと記載された記事が掲載された。
オ 次いで,平成7年6月19日付け大館新報(甲11の(2))に,「「死んだ温泉」を復活!!」,「明間ボーリングが画期的システム」,「"地下ボイラー"開発」,「実用新案申請へ・・・・・大館から全国へ発信」との見出しを付して,「温泉井深層熱誘導昇温システムと呼ばれるもので,同社のB技師が開発した。地底の温泉をかき混ぜることで,地熱を吸収して湯温を上げることができる,という発想。幸い同社には実験井があった。同市清水町の資材置場の一角に一九八〇年,社員の福利厚生用にと温泉を試掘したところ,九百二十メートル掘って湯温は三十七.四度しか上がらなかった。そのまま放っておいたところが今回の実験場となった。・・・試行錯誤を繰り返しながらスタートから三日目,ついに湯温四二度まで上げることに成功。」,「企業秘密となる部分は多いが,初期の実験データによると,毎分百七十五リットルをくみ上げ,このうち七十五リットルを排出し,百リットルを地中に戻した。これが地中深層部をかき混ぜるとともに,地底の熱交換も同時に行い,湯温上昇に結びついた。」などと記載された記事が掲載された。
カ Aは,前記エの記事を見て,被告がAが考案発明したシステムを盗用したものと考え,平成7年7月28日付け内容証明郵便で,代理人弁護士を通じて,被告に対し,被告の行為はAの著作権,実用新案権,特許権を侵害する違法行為に当たるとして,損害賠償等を求めた。
これに対し被告は,平成7年8月11日,Aに対し,本件業務提携契約の錯誤無効を理由に,同契約に基づき支払った報酬(合計270万円)が不当利得に当たるとして,その返還を求める訴訟(秋田地方裁判所大館支部平成7年(ワ)第85号)を提起した。平成9年8月,被告の請求を全部認容する旨の第1審判決が言い渡され(甲36),Aは,これを不服として控訴(仙台高等裁判所秋田支部平成9年(ネ)第95号)した。
控訴審は,平成11年9月1日,第1審判決を取り消し,被告の請求を全部棄却する旨の判決を言い渡した(甲37)。
キ 一方,Aは,平成10年に,被告及びC株式会社に対し,被告が開発した商品であるとして,被告らが共同して温泉汲み上げ装置(商品名・コンベクト)を各種展示会やコンクールに出品した等の行為が不正競争(誤認惹起行為)に該当するとして,被告らに対し,上記装置の営業活動の禁止等の差止めを求めるとともに,被告に対し,本件業務提携契約に基づく報酬(技術料)の残金480万円の支払を求める訴訟(秋田地方裁判所大館支部平成10年(ワ)第62号,第64号,第76号)を提起した。同支部は,平成12年3月28日,原告の請求のうち,被告に対する報酬請求に関する部分を一部認容(130万円及び平成10年8月12日以降の年5分の割合による遅延損害金)し,被告らに対する差止請求に関する部分を全部棄却する旨の判決を言い渡した。これに対しA及び被告がそれぞれ控訴(仙台高等裁判所秋田支部平成12年(ネ)第37号)し,平成13年2月14日,Aの控訴を棄却し,原判決中,被告の敗訴部分を変更し,被告に対し,90万円及び平成10年8月12日以降の年5分の割合による遅延損害金の支払を命じる旨の判決が言い渡され(甲41),その後,同判決は確定した。
ク この間被告は,平成7年6月22日,本件特許出願をするとともに,同日付けで本件実用新案登録出願をした。そして,平成7年11月15日には,本件実用新案登録(登録第3020698号)を受けるとともに,平成11年5月28日には,本件特許の設定登録を受けた。これに対しAは,平成11年10月31日付けで,本件特許に対し特許異議の申立てをした(平成11年異議第74083号)。その通知の内容は,特許庁は,その審理途中の平成12年5月11日,被告に対し,取消理由通知を発した。その通知内容(甲16)は,異議申立人たるAが提出した綾部温泉及び明間温泉に関する前記企画書(甲38,39)には「温泉井戸内に,揚湯管を備えた温泉水中ポンプと,温泉井戸孔内深層部に配置される端部に放水管を備えた環水管とを設け,揚湯管と環水管及び温泉供給管とに接続された熱誘導促進器を有し,熱誘導促進器において供給管と環水管とに分湯し,さらに,環水管には管が接続されこの管から温泉井戸内へ注水する温泉井戸の昇温増量装置」なる発明が記載されていることになるが,この発明は公然実施発明であり,本件訂正前の請求項1及び2に係る発明とは実質的に同一の発明であるから特許法29条1項2号に違反する,等というものであった。これに対し被告は,前記のとおり,平成12年7月25日付けで,本件訂正を請求した。
ケ 特許庁は,平成12年9月29日,本件訂正を認め,訂正後の請求項1ないし3(本件発明1ないし3)に係る特許を維持するとの決定(本件異議決定。
甲18)をし,同年10月21日,本件異議決定は確定した。
本件異議決定の中で特許庁は,前記取消理由通知の中で指摘した公然実施発明との関係につき,本件訂正により訂正された訂正後発明1(本件発明1と同じ)は,「送水管を坑の坑底に固定することによって,明細書記載の「排水口から排水される水の勢いで揺れて部材が破損することを防ぐ」という作用効果を奏するものであり,本件訂正後発明1は,上記公然実施された発明であるとはいえないし,上記公然実施された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない」等として,本件訂正後発明1ないし3(本件発明1ないし3)は独立特許要件を有すると判示した。
その後,原告は,平成15年9月17日付けで,本件特許につき特許無効審判請求をした。
特許庁は,平成16年7月8日に仙台市の特許庁審判廷で口頭審理(本件口頭審理)を行った (2)ア ところで,本件審決は,平成7年6月6日から8日間被告が明間温泉において行った試運転の内容を「明間温泉発明」と称し,その内容を「温泉井戸内に,揚湯管を備えた温泉水中ポンプと,温泉井戸孔内深層部に配置され下端部に放水管を備えた還水管とを設け,揚湯管と還水管及び温泉供給管とに接続された熱誘導促進器を有し,熱誘導促進器において温泉供給管と還水管とに分湯し,さらに,還水管には別の井戸から管を介して温泉井戸内へ注水する温泉井戸の昇温増量装置」(7頁14行〜18行)と認定した上で,この内容を発明と解した場合,これは,本件特許出願前の平成7年6月6日から8日間,大館市清水町の被告の敷地内において行われたが,公然と実施されたことを証明する証拠は提出されておらず,公然と実施されたものということはできない旨判断(8頁6行〜10頁11行)した。
これに対し原告は,この発明は,被告の資材置場内に掘削されていた温泉井戸(明間温泉)の現場で,屋外開放のままの状況で実施されたものであり,その当時,現場は,歩道との境に設置された金網フェンスから約5メートル離れた場所に位置し,目隠しがされていたわけでもなく,歩行者及び車道通行者から容易に「閲覧可能な状況」であったから,本件審決の上記判断は誤りである旨主張する。
イ そこで検討するに,前記認定のとおり,被告敷地内の温泉井戸は,被告が資材置場として使用している被告の敷地内に位置し,上記敷地と公道との境には金網フェンスが設置されており,「温泉改善装置移設試験」の実施の際には,第三者の立入りが禁止されていたのであるから,原告が主張するように第三者が現場付近の公道からその内容を実施している様子を一応垣間見ることができたとしても,それ以上に,本件訂正後発明1(本件発明1と同じ)の核心をなす「坑内に深層部まで挿入されて前記坑の孔底に固定され,その深層部に配置される端部に排水口を有する」様子の詳細は,見ることができなかったというべきであり,また,第三者が希望すればその発明の内容を開示する状況にあったということも認められないから,本件発明1は秘密を保持されたまま実施されたいうべきであり,公然実施されたものと認めることはできない(なお,前記認定のとおり,平成7年6月6日から実施された前記「温泉改善装置移設試験」については,平成7年6月14日付け北鹿新聞(甲11の(1))及び同年6月19日付け大館新報(甲11の(2))に掲載されたが,その各記事の内容に照らしても,本件発明1の具体的な内容は明らかにされていない。)。
したがって,本件発明1ないし3は公然実施されたものではないとした本件審決は,その結論において誤りはなく,原告主張の取消事由1は採用できない。
3 取消事由2(本件訂正の適否等の判断遺脱)の有無 (1) 原告は,本件審判手続において,本件訂正によって付加された「前記坑の孔底に固定され」との送水管端部の構成が,被告が本件特許出願と同日に出願した本件実用新案登録に係る考案の送水管端部の構成と同一であること,本件特許は当初から送水管端部以外の全体構成を特許請求の範囲としていたこと等からすれば,本件訂正は上位概念に係る拡張訂正である旨指摘した上で,本件異議決定が本件特許出願の願書に本件実用新案登録出願に係る考案と同一図面が添付されていることを理由に本件訂正が特許請求の範囲減縮に当たると判断したことは誤りである旨主張したにもかかわらず,本件審決は,原告の上記主張に対する判断をしていないから,判断遺脱(判断の遺漏)がある旨主張する。
そこで検討するに,原告の平成15年9月17日付け審判請求書(甲27)には,@ 「(2) 特許無効の理由の要点」として,「本件特許発明は,特許異議審判の取消理由通知に係り独立特許要件減縮限定する訂正請求を認定した,訂正後発明に関するもので,証拠の甲・・・・号証に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,また,本件特許と同じ代理人により同日に出願された実用新案登録第3020698号の考案要件を,同上経緯の訂正請求時において,本件特許の独立特許要件である旨虚偽記載した訂正であり,特許法第29条第2項及び同法第126条第4項の規定により,特許を受けることができないものである。よって,本件特許は同法第123条第1項第2及び8号に該当し,無効とするべきである。」(2頁12行〜23行),A 「エ)以上の検討から,訂正時において本件特許請求項1に挿入された「前記坑の孔底に固定され」という請求要件において,被請求人が発明した実質的な構成や技術的特徴は既に登録された実用新案と同一であるという点,また,その出願前に公然実施された発明において,前述したように甲・・・号証に図示される孔底固定という技術概念を知り得ていたという点から,この「前記坑の孔底に固定され」という訂正は,公然実施された発明における送水管固定の構成と既に登録された実用新案における送水管固定の構成のそれぞれに対する上位概念となる訂正といえる。さらに,既に登録された実用新案と同一であることを看過させようとした作為的訂正ともいえる。また,請求項2及び3についても,前述のとおり,公然実施された発明(甲・・・・号証)で知り得た技術的概念と具体的構成により容易に発明できたものである。」(9頁26行〜10頁3行),B 「オ)以上のように本件訂正後特許は,第3020698号登録実用新案実質的に同一であるから,その効果としている前記(3)@項についても,同実用新案に比して進歩性が存在するべくもない。また,その作用効果自体,前述エ)項のとおり,物理上あり得ないもの,技術的思慮のないものといえ,公然実施された発明に比して進歩性のない思いつきの発明である。」(10頁4行〜10行),C 「(4) むすび」として,「したがって,本件訂正後特許は,証拠甲・・・・号証に記載される公然実施された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項,同法第126条4項の規定により特許を受けることができないものであり,同特許は,同法第123条第1項第2,8号に該当し,無効とすべきである。」(10頁11行〜17行)との記載がある。
これらの記載によれば,原告は,本件審判手続において,本件訂正後の発明(本件発明1ないし3)が公然実施された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから進歩性がないこと,本件訂正後の発明が本件実用新案登録の考案と同一であることを理由に,独立特許要件を欠くなどとして,本件訂正が不適法である旨主張していたものと認められる。
そして,本件審決は,本件訂正の適否についての明示的な説示はしていないものの,原告主張の無効理由を無効理由1ないし3のとおり整理した上,原告が本件訂正が不適法であることの前提事実として主張する発明の公然実施が認められない旨(前記2(2)),本件特許出願と同日に出願された本件実用新案登録の請求項1及び2は,平成16年8月2日に訂正により削除され,実用新案法14条の2第3項の規定により,訂正後における明細書又は図面により実用新案登録出願及び実用新案権の設定の登録がされたものとみなされるから,本件実用新案登録の請求項は初めからなかったものとみなされ,実用新案登録を受けようとする考案が最初からないものとなったので,無効理由3の対象となる考案が存在しなくなったことから,本件特許出願との同日出願処理に違反しない旨(審決の10頁13行〜20行)認定判断し,結果的に,本件訂正が不適法であるとする前提事実がいずれも認められないと判断しているものと認められる。
そうすると,本件審決は本件訂正が不適法であると認められないことについても判断していることになるから,本件審決に原告主張の判断遺脱があったものということはできない。
(2) 次に原告は,本件審決は,原告が本件特許出願前に被告に対し送水管端部を「孔底密着」するよう指示していた事実を認めていながら,この事実に関する判断も遺脱している旨主張する。
しかしながら,原告の主張はその主張のみでは本件審決の取消事由になるものではなく,本件審決の結論に影響を及ぼすものとはいえないし,また,本件審決が原告が主張するような指示があった事実を認定しているものとも認められない。
(3) したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(手続違背)の有無 原告は,審判長は,平成16年7月8日の仙台市における本件口頭審理期日において,被告に対し,同年7月末日を期限として発明事実の証拠,発明の構成の科学的根拠及び実施例記載の事実証拠の提出を要請し,その提出がない場合は無効審判請求の請求の趣旨に沿った審理となる旨述べ,また,原告は,審判長に対し,本件審判手続の審理において被告から提出されたすべての書面等の副本の送達及びこれに対する検討,弁駁の機会が得られるよう要請し,審判長はこれを了承したのに,審判長は,被告の書証等の提出期限が過ぎてもその提出の有無を原告に知らせることなく,原告は,本件審決謄本の送達を受けて初めて,無効理由3に係る本件実用新案登録の請求項の削除訂正の事実を知り,原告の要請は無視されたのみならず,被告に対する要請の結果について,本件審決に何ら言及がなく,審理されていないから,これは騙し討ちのようなものであり,本件審判手続の審理及び本件審決は,著しく公平公正を欠いた不当なものである旨主張する。
しかしながら,証拠(甲20,32,33,35,乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,審判長は,本件口頭審理において,@ 「請求人(原告)は,別件異議11-74083号の決定に記載された仙台高裁秋田支部平成9年(ネ)第95号の判決の写し,及び別件無効平成9年審判第40016号において提出された証拠甲第13号証,甲第14号証を7月30日までに上申書で提出すること。」,A 「請求人(原告)及び被請求人(被告)は,明間温泉で行った試験運転の具体的な内容(特に送水管の先端の構成)を示すとともに,請求人,被請求人以外の外部の見学参加者一覧を7月30日までに上申書で提出すること。」,B 「以後の審理は書面審理とする。」旨述べたこと(甲32),原告は,平成16年7月23日付けで,上記@及びAに関するものとして陳述書(甲33)を特許庁に提出したこと,一方,被告は,平成16年7月30日付け書面(乙1)で,本件実用新案登録について請求項1及び2(全請求項)を削除する訂正を行い,同書面は同年8月2日特許庁に到達したこと,また,被告は,平成16年7月30日付けで,上記Aに関するものとして上申書(甲20)を特許庁に提出した。上記上申書には,被告が上記のとおり本件実用新案登録の請求項1及び2を削除訂正した旨,「上位概念である本件特許発明は,下位概念である登録実用新案第3020698号の登録新案と同一の発明に該当するものではないが,登録実用新案第3020698号の意義は達成したため」削除訂正した旨の記載があったこと,その後,特許庁は,平成16年8月25日付け審尋書で,原告に対し,明間温泉の試験運転が公然と実施されたことを証明する証拠の提出等の機会を付与し,これに対し原告は同年8月30日付け審尋回答書(甲35)を提出したこと,特許庁は,平成16年10月13日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(本件審決)をしたこと,以上の事実を認めることができる。
前記認定事実によれば,審判長は,平成16月7月8日の本件口頭審理において,原告及び被告双方に対し,「明間温泉で行った試験運転の具体的な内容(特に送水管の先端の構成)を示すとともに,請求人,被請求人以外の外部の見学参加者一覧を7月30日までに上申書で提出すること。」を求めたのであり,被告に対してのみ,原告の主張するような証拠等の提出を要請したり,その提出がない場合は無効審判請求の請求の趣旨に沿った審理となる旨述べたものとは認められないし,審判長が被告から提出される上申書の副本を原告に送達することを約したものとも認められない。
加えて,審判長の上申書の提出の求めに対して,原告が平成16年7月23日付け陳述書を,被告が同年7月30日付け上申書を提出した後,特許庁は,平成16年8月25日付け審尋書で,原告に対し,再度,明間温泉の試験運転が公然と実施されたことを証明する証拠の提出等の機会を付与し,これに対し原告は同年8月30日付け審尋回答書(甲35)を提出していることなど本件審判手続の前記審理経過に照らせば,本件審判手続の審理及び本件審決が不当であるとの原告の上記主張は採用することできない。
したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
5 取消事由4(無効理由3の判断の誤り)の有無 原告は,被告による本件実用新案登録の全請求項(請求項1及び2)の削除訂正は,本件実用新案登録そのものが存在しなくなるもので,被告が無効理由3を認めたことにほかならないから,本件審決においては,まず無効理由3を認定し,その上で本件訂正を認めなければならない旨主張する。
しかしながら,前記4のとおり,被告が本件実用新案登録の全請求項(請求項1及び2)の削除訂正をしたのは,上位概念である本件特許の成立により本件実用新案登録の意義は達成したと考えたためであり,無効理由3を認めたものではないから,原告の主張は採用することができない。
したがって,原告の取消事由4も理由がない。
6 結論 以上によれば,原告の本訴請求は理由がないことになるから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 大鷹一郎
裁判官 長谷川浩二
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