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関連審決 審判1997-20480
関連ワード 製造方法 /  29条1項3号 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  化学構造 /  置換 /  不存在 /  加工 /  構成要件 /  発明の範囲 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 325号 審決取消請求事件
原告ザ ダウケミカル カンパニー
訴訟代理人弁護士 宇井正一
同 弁理士 吉田維夫
同 西館和之
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 小林正巳
同 森田ひとみ
同 喜納稔
同 茂木静代
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/01/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が平成9年審判第20480号事件について平成11年5月7日にした審決を取り消す。
前提となる事実(争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和62年2月27日、発明の名称を「ラミネート」とする発明につき特許出願(昭和62年特許願第43229号)をし、平成7年6月14日に出願公告された(特公平7-55555号)ところ、平成7年9月14日に特許異議の申立てがされ、平成8年10月2日付けで本件特許出願の願書に添付された明細書の補正をしたが、特許庁によって平成9年7月2日に、特許異議の申立てを認める決定がされ、同年9月9日に拒絶査定謄本が発送されたので、拒絶査定不服の審判を請求した。
特許庁は、同請求を平成9年審判第20480号事件として審理した結果、平成11年5月7日、出訴期間として90日を付加して、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年6月9日に原告に送達された。
2 本願発明の要旨(本件特許出願の願書に添付された明細書(以下「本願明細書」という。出願当初の明細書(甲第2号証(本願公報)参照)に対する平成8年10月2日付け手続補正書(甲第3号証)による補正後のもの。)記載の特許請求の範囲第1項に係る発明、以下「本願発明」という。)「(A)少なくとも1種類の補強用物質と;(B)少なくとも1種類のエポキシ樹脂と;及び、(C)成分(B)のための少なくとも1種類の硬化剤と、を含む組成物を、
前記成分(B)の少なくとも一部分として、少なくとも1種類の、炭化水素-フェノールエポキシ樹脂、ハロゲン化炭化水素-フェノールエポキシ樹脂、又はそれらの組み合わせを、前記成分(B)中に存在するエポキシ基の少なくとも40%が前記炭化水素-フェノールエポキシ樹脂、ハロゲン化炭化水素-フェノールエポキシ樹脂、又はそれらの組み合わせによって、与えられるような量で使用して硬化することにより調製され、かつ少なくとも150℃のTgを有するラミネートにおいて、
前記成分(B)が、
(i)エピハロヒドリンと; フェノール、クレゾール又はこれらの組み合わせを、70〜100重量%のジシクロペンタジエン、0〜30重量%のC10ダイマー、0〜7重量%のC4-C6不飽和炭化水素のオリゴマー、及び全量を100重量%とするに必要な残余の量のC4-C6アルカン、アルケン又はジエンを含む組成物と反応させて得られる生成物と、の反応生成物を脱ハロゲン化水素することにより得られる生成物、
(ii) 成分(i)の生成物のハロゲン化誘導体、
あるいは、
(iii)これらの組み合わせ、
であり、かつ、
また前記成分(C)が、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルスルホン、フェノール-ホルムアルデヒドノボラック樹脂、炭化水素-フェノール樹脂、又は、これらの混合物である、
ことを特徴とするラミネート。」 3 審決の理由 別紙1の審決書の理由写し(以下「審決書」という。)のとおり、本願発明は、
特開昭61-243820号公報(甲第4号証、以下「引用例」という。)に記載された発明であるから、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないと判断した。
原告主張の審決取消事由の要点
1 審決は、本願発明の認定を誤り、その結果、引用例記載の発明と本願発明とが同一であると誤って判断したものであって、違法として取り消されるべきものである。 2(1) 本願発明は、150℃以上のTgを有する従来のラミネートの問題、
すなわち、加工性が低いという欠点を解消し、しかもその電気的特性及び耐湿性の向上したラミネートに係るものであって、下記の要件(T)ないし(X)により構成されるものである。
(T)(A)少なくとも1種類の補強用物質と、(B)少なくとも1種類のエポキシ樹脂と、及び(C)前記成分(B)のための少なくとも1種の硬化剤とを含む組成物を硬化することにより調製されたラミネートであること。
(U)このラミネートが、少なくとも150℃のTgを有すること、
(V)前記硬化に際し、
「前記成分(B)の少なくとも一部分として、少なくとも1種類の、炭化水素-フェノールエポキシ樹脂、ハロゲン化炭化水素-フェノールエポキシ樹脂、又はそれらの組み合わせを、前記成分(B)中に存在するエポキシ基の少なくとも40%が前記炭化水素-フェノールエポキシ樹脂、ハロゲン化炭化水素-フェノールエポキシ樹脂、又はそれらの組み合わせによって、与えられるような量で使用する こと。
(W)前記成分(B)が、
(i)エピハロヒドリン(以下、「成分(W-a)」という。)と、
フェノール、クレゾール又はこれらの組み合わせを、70%〜100重量%のジシクロペンタジエン、0〜30重量%のC10ジエンダイマー、0〜7重量%のC4 -C6 不飽和炭化水素のオリゴマー、及び全量を100重量%とするに必要な残余の量のC4 -C6 アルカン、アルケン又はジエンを含む組成物と反応させて得られる生成物と、の反応生成物を脱ハロゲン化水素することにより得られる生成物 、
(ii)成分(i)の生成物のハロゲン化誘導体、
あるいは、
(iii)これらの組み合わせ、
であること。
(X)前記成分(C)が、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルスルホン、フェノール-ホルムアルデヒドノボラック樹脂、炭化水素-フェノール樹脂、又は、これらの混合物であること。(下線は、原告。) (2) 本願発明のラミネートは、上記(1)の構成要件(T)ないし(X)を満たすものである。特に構成要件(W)(ii)のハロゲン化誘導体は、「構成要件(W)(i)により規定された反応生成物のハロゲン化誘導体」である。すなわち、構成要件(W)(i)により規定された反応生成物の出発原料として用いられるフェノール化合物は、フェノール及びクレゾールに限定されており、ハロゲン化フェノール(例えば臭素化フェノール)が用いられることはない。
これに対して、引用例の臭素含有ジシクロペンタジエンフェノール類重合物のエポキシ化物は、引用例(甲第4号証)の2頁左上欄2行ないし8行に明記されているように、臭素化フェノール類と、ジシクロペンタジエンの重合で得られた樹脂にエピクロルヒドリンを反応させて得られたものであって、本願発明の構成要件(W)(A)に規定される、「構成要件(W)(i)により規定された反応生成物のハロゲン化誘導体」ではない。
エピハロヒドリンはエポキシ基導入剤であってハロゲン化剤ではなく、その反応副生成物としてハロゲン化水素が生成し、このハロゲン化水素は、アルカリによる中和によって除去される。よって、本願発明のエピハロヒドリン反応段階(構成要件(W)(i))においては、フェノール、クレゾール又はこれらの組合せがハロゲン化されることはない。
したがって、審決が引用例記載の発明について、「引用例には、(B)成分のハロゲン化炭化水素-フェノールエポキシ樹脂は、「臭素化フェノール類とジシクロペンタジエンの重合で得られた樹脂にエピクロルヒドリンを反応させる製造法により、製造されたエポキシ樹脂である」と記載されていて、臭素化フェノール類はハロゲン化フェノールであり、エピクロロヒドリン(エピクロルヒドリン)はエピハロヒドリンであり、そして、脱ハロゲン化水素することにより閉環しエポキシ化することは周知のことであるから、「エピハロヒドリンと;ハロゲン化フェノールをジシクロペンタジエンと反応させて得られる生成物と、の反応生成物を脱ハロゲン化水素することにより得られた生成物」、すなわち「(ii)エピハロヒドリンと;フェノールをジシクロペンタジエンと反応させて得られる生成物と、の反応生成物を脱ハロゲン化水素することにより得られた生成物〔成分(i)の生成物〕のハロゲン化誘導体」が記載されているといえる。」(審決書6頁16行ないし7頁13行の記載)として、本願発明の構成要件(W)(ii)のハロゲン化誘導体が、引用例に記載の方法により製造された臭素含有ジシクロペンタジエンフェノール類重合物のエポキシ化物と同一であって、引用例に記載されているとする認定には根拠がない。
(3) さらに、審決が、「したがって、両者は、「(A)補強用物質と;・・(B)エポキシ樹脂と;(C)成分(B)のための硬化剤とを含む組成物を、前記成分(B)として、ハロゲン化炭化水素-フェノールエポキシ樹脂を、前記成分(B)中に存在するエポキシ基の全量(「少なくとも40%」であるといえる)が前記ハロゲン化炭化水素-フェノールエポキシ樹脂によって与えられるような量で使用して硬化することにより調製されるラミネートにおいて、前記成分(B)が、(ii)エピハロヒドリンと;フェノールを100重量%のジシクロペンタジエン(他の不飽和炭化水素成分は全て0%の場合に相当)を含む組成物と反応させて得られる生成物と、の反応生成物を脱ハロゲン化水素することにより得られる生成物〔成分(i)の生成物〕のハロゲン化誘導体であり、かつ、前記成分(C)がフェノール-ホルムアルデヒドノボラック樹脂であるラミネート。」という点で一致し、」(審決書7頁末行ないし8頁17行)として、本願発明と引用例記載の発明とが、本願発明の構成要件(W)(ii)においても一致する、という認定は誤りである。
すなわち、本願発明の構成要件(W)(ii)のとおり、フェノール及び/又はクレゾールを出発原料として用いて得られた反応生成物のハロゲン化誘導体と、引用例記載の発明のとおり、臭素含有フェノール類を出発原料として用いて得られた反応生成物とが同一ということはできない。
(4) 被告は、本願発明の構成要件(W)(ii)に規定される、(W)(i)の生成物の「ハロゲン化誘導体」は、最終的に得られるものがハロゲン化物であれば、どのような段階でハロゲン化処理が行われたかは特に限定されない旨主張する。
しかしながら、ある化合物の「ハロゲン化誘導体」とは、ある化合物に「ハロゲン化」工程を施して、ある化合物の構造の一部を変化させて得られる化合物を意味する。したがって、本願発明の構成要件(W)(ii)において、「(i)の生成物のハロゲン化誘導体」とは、成分(W)(i)に、ハロゲン化工程を施して、その一部を変化させて得られる化合物を意味する。被告が主張する誘導体は、成分(W)(i)の「ハロゲン原子含有誘導体」と表示すべきものである。
本願発明の構成要件(W)(ii)のハロゲン化誘導体の原料は、(W)(i)の生成物以外にはあり得ないのであって、被告が主張するように米国特許第4394497号(乙第1号証)及び第4390680号(乙第2号証)に開示されたクロロフェノール、ブロモフェノールなどを用いることは、本願特許請求の範囲の範囲外のことである。
(5) 被告は、(W)(ii)のハロゲン化誘導体について、原告主張のものに限られるとすると、構成要件(W)(i)の反応工程において、一度脱ハロゲン化した箇所を、構成要件(W)(ii)の工程で部分的にまたハロゲン化状態に戻すということになり、(W)(i)の反応工程での脱ハロゲン化処理と逆行するものであって、極めて不合理な製法のみを構成要件として規定したことになり、また、
その製造物は電気的性質が劣る旨主張する。
しかしながら、構成要件(W)(i)の反応工程の場合には、次の(6)のとおり、単一の工程で進行するのであって、被告が指摘する乙第3号証の例のように、
第二次の工程として脱ハロゲン化処理を施すわけではないし、それによる製品とは異なるものであるから、被告の主張は当を得ないものである。
(6) 本願発明における構成要件(W)(i)及び(ii)の反応工程は、以下のとおりである。
本願発明の構成要件(W)(i)の生成物は、別紙2の(1)記載の反応式による反応により生成される。
上記反応の反応生成物は、ジシクロペンタジエン-フェノールエポキシ樹脂とハロゲン化水素(HX)との混合物であって、この反応生成物から、ハロゲン化水素を、アルカリにより中和除去することにより上記反応を促進し、上記エポキシ樹脂を補集することが可能になる。この反応において、アルカリの存在により、エピハロヒドリンによるフェノール成分のエポキシ化反応は、単一工程で十分に進行する。被告が指摘する乙第3号証に記載されている多価アルコール(これは、脂肪族アルコールであって、本願発明における芳香族フェノールとは異なる)とエピクロルヒドリンとの反応の場合、ルイス酸を触媒とする第一次反応工程と、アルカリを中和剤として用いる第二次反応工程との二工程を必要とし、また、そのようにして製造された脂肪族エポキシ化合物は、脱塩酸工程を完全に進行させることが困難であるため、その製品は電気的性質において劣るものであるが、本願発明の反応工程による場合はそのようなことはない。なお、乙第8号証には、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応において、中間体として、塩素含有化合物が生成することが示されているが、この中間体の構造は、OH基含有副生物の生成理由を説明するためのものであって、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応は、NaOHの存在下に単一工程で進行し、塩素含有中間体生成反応工程と、そのエポキシ化反応工程との二工程を必要とするわけではなく、また、塩素含有中間体が単離することができるわけでもない。
そして、本願発明の構成要件(W)(i)の生成物の「ハロゲン化誘導体」の製造方法、及びそれにより得られる誘導体は、当業者に自明である。
すなわち、(W)(i)の生成物から、そのハロゲン化誘導体(例えばブロム化誘導体)を得るには、通常の有機化合物のハロゲン化法に従って、該生成物をハロゲン化剤、例えばBr、Br2又はHBrを、ハロゲン化触媒の存在下に、又は不存在下に、あるいは紫外線などの化学線の照射下に用いて、ハロゲン化させればよい。このようなハロゲン化においては、該生成物の最も反応性の高い部分、すなわちエポキシ構造がハロゲン化され、エポキシ基:は、 例えば、-HC(OH)-CH2Brに変化する。
そして、該生成物中のエポキシ基のすべてがハロゲン化され尽くした後ならば、
他の構造、すなわち、ベンゼン核及び/又は、炭化水素基においてハロゲン化が生起することはあり得る。しかしながら、本願発明の請求項1に記載されているように成分(B)はエポキシ樹脂であるから、(W)(i)の生成物のすべてをハロゲン化して非エポキシ樹脂化することはあり得ない。したがって、成分(W)(i)の生成物のハロゲン化誘導体において、そのハロゲン化は、ハロゲン化誘導体中にエポキシ基が存在する程度に行われ、ハロゲン化がエポキシ基以外の基、すなわちベンゼン核及び炭化水素基に及ぶことはないのである。このため、(W)(i)の生成物のハロゲン化誘導体において、そのベンゼン核がハロゲン化されることはない。
以上から明らかなとおり、本願発明において、構成要件(W)(i)の生成物のハロゲン化誘導体が、引用例に記載されているような、ベンゼン核のみにブロムが導入され、しかしエポキシ基は全くブロム化されていない化合物と同一でないことは明白である。
したがって、引用例に、本願発明の構成要件(W)(i)の生成物の「ハロゲン化誘導体」が記載されているということはできない。
3 以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明であり、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないとする審決の結論には根拠がなく、違法なものである。
被告の反論の要点
1(1) 原告は、本願発明の構成要件(W)(ii)の「成分(i)の生成物のハロゲン化誘導体」は、構成要件(W)(i)に記載の出発原料から得られる反応生成物であって、引用例記載の臭素含有フェノール類を出発原料として用いて得られた反応生成物とは同一でない旨主張する。
確かに、本願発明の特許請求の範囲の記載からすれば、構成要件(W)(ii)における「成分(i)の生成物」とは、「(i)から製造される生成物である炭化水素-フェノールエポキシ樹脂」であり、原告が主張するように、まず、炭化水素-フェノールエポキシ樹脂を得てからこれをハロゲン化処理してハロゲン化された誘導体としたものであるとの解釈も可能である。
(2) しかしながら、むしろ、構成要件(W)(ii)の「成分(i)の生成物」との文言は、単に「炭化水素-フェノールエポキシ樹脂」の意味であり、そのものの「ハロゲン化誘導体」は、最終的に得られるものがハロゲン化物であれば、
どのような段階でハロゲン化処理が行われたかは特に限定されないと解するのが自然であり、以下のアないしエに指摘する事項を考慮すれば、原告が主張するように、前者のもののみに限定して解釈することは、理由がないことが明らかである。
ア 本願明細書における「エポキシ樹脂のハロゲン化された誘導体」についての記載は、特許請求の範囲の他には、「上記したエポキシ樹脂のハロゲン化された誘導体、特に臭素化された誘導体も好適である。」(甲第2号証(本願公報)6欄31行ないし33行)との記載があるだけであり、具体的にどのようなハロゲン化誘導体を指すのか、どのようなハロゲン化誘導体を含まないのか、又はどのようなハロゲン化方法によって製造するのか等について具体的な記載は何もされていない。
イ 本願明細書には、本発明で使用することができる好適な炭化水素-フェノールエポキシ樹脂は、Aらにより米国特許4394497号(乙第1号証)、米国特許4390680号(乙第2号証)に開示されたものを含む旨の記載があるが(甲第2号証4欄49行ないし5欄3行)、それらによると、原料となる芳香族ヒドロキシル-含有化合物として、クロロフェノール、ブロモフェノールが挙げられている。
このように、本願明細書で参照された文献の記載を手がかりにハロゲン化炭化水素-フェノールエポキシ樹脂を製造するとすれば、まずハロゲン化フェノールを原料とする方法が試されることになる。
ウ 本願発明の出願時におけるエポキシ樹脂の分野の典型的なハロゲン化誘導体は、臭素化エポキシ樹脂であるが、樹脂骨格中にブロム原子を導入する方法としては、基本的には、フェノール類を臭素と反応させて、ベンゼン核の水素をブロムと置換し、このブロム化されたフェノール類をエポキシ樹脂の原料として使用することにより、臭素化エポキシ樹脂が製造されていることが知られており、それ以外のハロゲン化手段の記述はされていない(乙第3ないし第5号証)。
エ もし、原告主張のものに限られるとすると、構成要件(W)(i)の反応工程では、エピクロルヒデリンとフェノール・・・と反応させて得られる生成物との反応生成物を脱ハロゲン水素化することにより得られる生成物とあり、その反応は、付加したエピハロヒデリン化合物からアルカリにより脱ハロゲンを行うものとみられる(乙第3号証30頁記載の反応式を参照。)ところ、このように一度ハロゲン化した箇所を、構成要件(W)(ii)の工程で部分的にまたハロゲン化状態に戻すということになり、(W)(i)の反応工程での脱ハロゲン化処理と逆行するものであって、極めて不合理な製法のみを構成要件として規定したことになる。
特に、本願明細書の記載(甲第2号証(本願公報)4欄7行、8行、4欄30行ないし34行、7欄32行ないし34行)によれば、本願発明では、電気的ラミネートにおける電気的性質の改善がうたわれているものであると認められるところ、
乙第3号証30頁によれば、「・・・最後の脱塩酸工程を完全に進行させることが困難なため残留塩素基のために硬化物での電気的性質が多少劣るということである。」と記載されており、原告が主張する反応工程のように、脱ハロゲン化し、エポキシとした部分にハロゲン基を導入することは、残留塩素を増加させることと同じであるから、電気的な用途に使用する樹脂の場合、全く想定することができないハロゲン化の手法であるといわざるを得ない。
(3) 以上のとおり、本願明細書について、従来技術を参考にし、かつ出願当時の技術常識に照らして読めば、本願発明の特許請求の範囲構成要件(W)(ii)の「成分(i)の生成物のハロゲン化誘導体」との記載は、「(i)の工程で得た樹脂を更にその後の行程でハロゲン化した誘導体」のみを意味するとすることはできず、単に「成分(i)の生成物」、すなわち、「炭化水素-フェノールエポキシ樹脂」のハロゲン化誘導体を示しているのであり、通常のハロゲン化誘導体の取得法、すなわち、出発原料のフェノールに代えて、ハロゲン化フェノールを使用して製造された化合物であっても、本願発明の構成要件(W)(ii)に相当する「炭化水素-フェノールエポキシ樹脂のハロゲン化誘導体」に包含されるということができる。
審決は、正にこのことを念頭に置いて認定したものである。
(4) 原告が「フェノール及び/又はクレゾールを出発原料として用いて得られた反応生成物のハロゲン化誘導体と、臭素含有フェノール類を出発原料として用いた反応生成物が同一ということができない。」と主張するのであれば、まず、
フェノール及び/又はクレゾールを出発原料として用いて得られた反応生成物をその後にハロゲン化してハロゲン化炭化水素-フェノールエポキシ樹脂を製造する方法や、そのようにして得られた誘導体が具体的にどのようなものかについて、本願発明に係る明細書には、どのように記載されているのかを明確に示し、その上で、
引用例のブロムフェノールを原料として得られるハロゲン化誘導体と本願発明の構成要件(W)(ii)の樹脂との相違点を明らかにしなければならないところ、原告はいずれも明らかにしていない。
2 以上のとおり、本願発明は引用例記載の発明であるとした審決の認定に誤りはなく、本願発明が特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないとした審決の結論に誤りはない。
当裁判所の判断
1 本願発明の構成要件の整理 (1) 本願発明の要旨が、本願発明の特許請求の範囲請求項1のとおりのものであり、その構成要件が、以下のとおりに整理可能であることについて、当事者間に争いがない。
(T) (A)少なくとも1種類の補強用物質と、(B)少なくとも1種類のエポキシ樹脂と、及び(C)前記成分(B)のための少なくとも1種の硬化剤とを含む組成物を硬化することにより調製されたラミネートであること。
(U) このラミネートが、少なくとも150℃のTgを有すること。
(V) 前記硬化に際し、
前記成分(B)の少なくとも一部分として、少なくとも1種類の、炭化水素-フェノールエポキシ樹脂、ハロゲン化炭化水素-フェノールエポキシ樹脂、又はそれらの組み合わせを、前記成分(B)中に存在するエポキシ基の少なくとも40%が前記炭化水素-フェノールエポキシ樹脂、ハロゲン化炭化水素-フェノールエポキシ樹脂、又はそれらの組み合わせによって、与えられるような量で使用すること。
(W) 前記成分(B)が、
(i) エピハロヒドリンと、
フェノール、クレゾール又はこれらの組み合わせを、70%〜100重量%のジシクロペンタジエン、0〜30重量%のC10ジエンダイマー、0〜7重量%のC4 -C6不飽和炭化水素のオリゴマー、及び全量を100重量%とするに必要な残余の量のC4 -C6 アルカン、アルケン又はジエンを含む組成物と反応させて得られる生成物と、の反応生成物を脱ハロゲン化水素することにより得られる生成物、
(ii) 成分(i)の生成物のハロゲン化誘導体、
あるいは、
(iii) これらの組み合わせ、
であること。
(X) 前記成分(C)が、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルスルホン、
フェノール-ホルムアルデヒドノボラック樹脂、炭化水素-フェノール樹脂、又は、これらの混合物であること。
(2) 上記(1)の構成要件のうち、成分(W)(i)ないし(iii)を更に整理して、その非必須成分を全て0重量%とし、各成分、生成物に記号を付して記載すると以下のとおりである。
(W)(i)エピハロヒドリン(a)と; フェノール、クレゾール又はこれらの組み合わせ(b)をジシクロペンタジエン(c)と反応させて得られる生成物(d)と、
の反応生成物(e)を、
脱ハロゲン化水素することにより得られる生成物(f)、
(ii) 成分(i)の生成物(f)のハロゲン化誘導体(g)、あるいは (iii) これらの組み合わせ (3) 上記(2)において、(W)(i)の「フェノール、クレゾール又はこれらの組みあわせ(b)」が、「フェノール」である場合には、以下のとおりである。
(W)(i) エピハロヒドリン(a)と; フェノール (b)をジシクロペンタジエン(c)と反応させて得られる生成物(d)と、
の反応生成物(e)を、
脱ハロゲン化水素することにより得られる生成物(f)、
(ii) 成分(i)の生成物(f)のハロゲン化誘導体(g)、あるいは (iii) これらの組み合わせ 2 本願発明の構成要件(W)(ii)の「成分(i)の生成物(f)のハロゲン化誘導体」の解釈、並びにその反応及び生成物 (1) 本願発明の構成要件(W)(ii)の「成分(i)の生成物(f)のハロゲン化誘導体」の意義を解釈するに当たり、以下、上記1の(3)の場合、すなわち、成分(b)が「フェノール」である場合について検討する(該成分がクレゾール、
あるいはフェノールとクレゾールの組合せである場合についても、以下の記載内容は同様であることは明らかである。)。
(2) 原告は、審決の取消事由として、審決は本願発明の構成要件(W)(ii)の「ハロゲン化誘導体(g)」の認定を誤り、その結果、本願発明と引用例記載の発明が同一であると誤って結論したものであると主張するが、その理由とする主張を、上記1の(3)の場合に即して、各成分、生成物に記号を付して整理すると次のアないしウのとおりとなる。
ア 本願発明において、構成要件(W)(i)の反応は、別紙2の(2)記載の反応式のとおり、単一工程で進行し、下記構造式(f)で表される生成物、すなわち、エポキシ樹脂(f)が生成する。
イ 上記(W)(i)に規定される「成分(i)の生成物」、すなわちエポキシ樹脂(f)のハロゲン化誘導体(g)とは、エポキシ樹脂(f)それ自体に「ハロゲン化」工程を施すことにより誘導される化合物である。
生成物(f)を直接ハロゲン化すると、まず、反応性に富むエポキシ基の一部がハロゲン化され、別紙2の(3)記載の構造式(gT)のハロゲン化誘導体が生成する(なお、このハロゲン化誘導体(gT)は、前記(T)(B)に規定されるとおり「エポキシ樹脂」であり、硬化するものであるから、分子中に必ずエポキシ基が残るからn-mは、正の整数である。)。その際、反応性に富むエポキシ基ではなく、それ以外の位置にのみハロゲン原子(X)が導入されたハロゲン化誘導体、例えば、別紙2の(4)記載の構造式(gU)を有するハロゲン化誘導体が生成することはあり得ない。
仮に、全てのエポキシ基がハロゲン化された後、さらにハロゲン化を継続すれば、例えば、別紙2の(5)記載の構造式(gV)のようなハロゲン化誘導体が生成するが、この誘導体は、エポキシ基を全く含まず、したがって、もはやエポキシ樹脂ではないから、本願発明の範囲外である。
ウ 上記のとおり、本願発明の(W)(i)のハロゲン化誘導体(g)は、
上記構造式(gT)で表されるエポキシ樹脂であるところ、引用例には、上記構造式(gU)で表されるエポキシ樹脂が記載されているにすぎない。
審決は、このように構造が明確に異なるエポキシ樹脂を同一であると誤認したものである。
(3) 原告の上記(2)のとおり整理することができる主張内容について、
検討を加える。
ア 上記(2)のア(エポキシ樹脂(f)の合成経路)について (ア) 本願特許請求の範囲には、成分(W)(i)に関し、
「(W)(i)エピハロヒドリン(a)と;フェノール(b)をジシクロペンタジエン(c)と反応させて得られる生成物(d)と、の反応生成物(e)を、脱ハロゲン化水素することにより得られる生成物(f)」と規定されているといえることは、前判示のとおりであるところ、この特許請求の範囲の規定の構文は明瞭であり、これによれば、エポキシ樹脂(f)は、
@ フェノール(b)をジシクロペンタジエン(c)と反応させ生成物(d)を生成する工程、
A エピハロヒドリン(a)と、上記@の生成物(d)とを反応させて、生成物(e)を生成する工程、
B 上記Aの反応生成物(e)を脱ハロゲン化水素することにより生成物(f)(すなわち、エポキシ樹脂(f))を生成する工程、
を経て得られるものであることを、明文をもって規定するものと認められる。
また、甲第2号証(本願公報)を参照すると、その発明の詳細な説明に、「本発明で使用できる・・・特に好適な炭化水素-フェノールエポキシ樹脂は、エピハロヒドリンと;芳香族ヒドロキシル基含有化合物と・・・不飽和炭化水素との反応生成物との、反応生成物を脱ハロゲン化水素することにより調製されるものを含む。」(2頁4欄49行ないし3頁5欄7行)との記載があるのみであり、上記のような多段工程で製造することを排除する旨の記載は存在しない。
(イ) ところで、本件証拠によれば、本願発明の特許請求の範囲に規定される多段工程を経るエポキシ樹脂の製造方法は、本願出願の時点において周知であることが認められる。
すなわち、甲第8号証(「接着」29巻12号、昭和60年発行)には「エポキシ樹脂の合成反応例(1)」との論文が掲載され、その中において、クロルヒドリンエーテルの合成及び閉環エポキシ化反応の多段工程を経るエポキシ樹脂の製造方法(37頁の実験4、及び35頁右欄22行と23行の間の反応式)が、単一工程でエポキシ樹脂を製造する方法(36頁、37頁の実験1及び2)と共に記載されていることが認められる。また、乙第8号証(「改訂新版・プラスチックハンドブック」、昭和44年発行、273頁、10行目と12行目の間)にも同様の多段工程によるエポキシ樹脂の製造方法が示されていることが認められる。
さらに、甲第8号証には、上記多段工程によるエポキシ樹脂の製造方法について、該方法によると、クロルヒドリンエーテルがほぼ純品の形で得られ、「このほぼ純品の形で得られるクロルヒドリンエーテルを、アルカリを用いて閉環エポキシ化反応させれば、より純品のエポキシ樹脂の得られることがわかる」(37頁右欄23ないし25行)と記載され、32頁右欄には、別紙2の(6)記載の合成法が、「エポキシ樹脂の最も基本的かつ代表的な合成法」として、記載されていることが認められる。
(ウ) 上記(イ)の周知技術に照らせば、本願発明の成分(W)(i)の生成物(f)の生成反応は、別紙2の(7)記載の@ないしBの工程で進行するものと認めることができる。
イ 上記(2)のイ(ハロゲン化誘導体(g))について (ア) 本願発明の特許請求の範囲には、構成要件(W)(ii)として、「前記成分(B)が、」・・・「成分(i)の生成物(f)のハロゲン化誘導体(g)」・・・「であること。」と規定されていることは前判示のとおりである。
そこで、まず、「ハロゲン化誘導体」の語の一般的な意味についてみると、「ハロゲン化」の語は、「化学大辞典7」(原告参考資料2)に記載されるとおり、
「一つあるいはそれ以上のハロゲンが有機化合物中に導入される工程」を意味するものである。また、「誘導体」の語は、「化学大辞典9」(原告参考資料1、乙第10号証)に、「主として有機化合物について使われる術語で、ある化合物に小部分の構造上の変化があってできる化合物を、もとの化合物の誘導体という。普通は化合物の中の水素原子あるいは特定の原子団が、他の原子あるいは原子団によって置換された化合物をいう。」と記載されているように、元の化合物(X)に小部分の構造上の変化があってできる化合物(Y)の全般を意味するものであり、化合物(X)につき構造上の変化がもたらされる反応の具体的な工程にはかかわりなく、
化合物(X)と(Y)の化学構造に係る関係を表す術語であるものと認められ、
「ハロゲン化誘導体」という場合にも、ハロゲンの導入工程の具体的な方法を特定するものではなく、例えば、元の化合物(X)を対象とし、これに直接化学反応を施して化合物(Y)を生成する方法に限定することを意味するものではないものと認められる。
そして、本願発明の構成要件(W)(ii)は、単に「成分(i)の生成物(f)の」「ハロゲン化誘導体」とのみ規定して「成分(B)」を特定するものであって、
「生成物(f)」(エポキシ樹脂(f))そのものに「ハロゲン化工程を施すことにより得られる」「ハロゲン化誘導体(g)」として規定したり、「前記(i)の工程により得られた生成物(f)の」「ハロゲン化誘導体(g)」として規定しているものでないことは、その文言上明らかである。
また、甲第2、第3号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の特許請求の範囲に記載の構成要件(W)(ii)に関しては、「更に、上記したエポキシ樹脂のハロゲン化された誘導体、特に臭素化された誘導体も好適である」(甲第2号証3頁6欄31ないし33行)との記載があるだけであって、「成分(i)の生成物(f)のハロゲン化誘導体(g)」との構成を、「エポキシ樹脂(f)」自体に「ハロゲン化工程を施すことにより得られるもの」のみに限定したり、ハロゲン化される「エポキシ樹脂(f)」の生成方法を構成要件(W)(i)の規定する工程にのみに限定することを示唆する記載は認められない。
以上によれば、構成要件(W)(ii)に規定される「成分(i)の生成物(f)のハロゲン化誘導体(g)」との文言上は、該構成が、「成分(i)の生成物(f)」すなわち「エポキシ樹脂(f)」中に「ハロゲン原子が導入されたもの」という意義を有するものと解釈することができるのであって、本願に係る明細書中には、該構成について、「生成物(f)」(エポキシ樹脂(f))を直接ハロゲン化することにより得られるもののみに限定したり、ハロゲン化される「生成物(f)」(エポキシ樹脂(f))の生成方法を構成要件(W)(i)の規定する工程にのみに限定するものであると解すべき根拠は認められない。
(イ) 上記のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明を参照しても、構成要件(W)(ii)の「成分(i)の生成物(f)のハロゲン化誘導体(g)」が具体的にどのような化合物を指すのかについての記載はない。
そこで、「エポキシ樹脂のハロゲン化誘導体」に関し、本願発明の出願前における当業者の技術常識周知技術の内容について、検討する。
乙第7号証(「エポキシ樹脂の高機能化と用途展開」、昭和58年発行)によれば、その「1.3 ハロゲン化エポキシ樹脂」の節に、「一般にハロゲン化エポキシ樹脂は、テトラブロモビスフェノールA・・・をエポキシ化して製造される。エポキシ樹脂の製造法と同様にこれらのビスフェノールAにエピクロルヒドリンを反応させてハロゲン化エポキシ樹脂が製造される。」(5頁7ないし9行)との記載に続き、別紙2の(8)記載の反応式が記載されていることが認められる。
また、乙第5号証(「エポキシ樹脂ハンドブック」、昭和62年発行)によれば、その「1.3 含ブロムエポキシ樹脂」の節に、「絶縁塗料やプリント配線基板などの電気・電子分野を中心として硬化物に難燃性が要求されるケースが近年増加している。この難燃性を硬化物に付与する方法としては・・・エポキシ自体を難燃化させる方法も採用されている。このエポキシ樹脂自体を難燃化させる方法として広く使用されているのが、樹脂骨格中にブロム原子を導入する方法である。」(43頁下5行ないし44頁3行)との記載、「本節では、市場において現在汎用的に使用されている含ブロムエポキシ樹脂について記述する。・・・現在市販されている含ブロムエポキシ樹脂は基本的にはフェノール類を臭素と反応させてベンゼン核の水素をブロム原子と置換し、このブロム化されたフェノール類をエポキシ樹脂の原料として使用することにより製造されている。」(44頁4ないし10行)と記載されていることが認められる。
他に、本願出願前の米国特許公報(乙第1、第2号証)、技術文献(乙第3、第4号証、第6号証、第8号証、第13、第14号証)を見ても、ベンゼン核の水素原子がハロゲン原子で置換された化合物を使用して製造されたハロゲン化エポキシ樹脂が、従来より知られている旨の記載があることが認められる。
上記の各記載によれば、あらかじめハロゲン原子を導入したフェノール類からハロゲン化エポキシ樹脂(エポキシ樹脂のハロゲン化誘導体)を製造することは周知の技術であり、この方法により製造されたハロゲン化エポキシ樹脂(エポキシ樹脂のハロゲン化誘導体)は、電気・電子分野等で広く使用されていることは、当業者の技術常識に属するものであると認められる。
(ウ) 以上判示の本願発明の構成要件(W)(ii)の文言上の解釈、本願明細書の記載内容に、本願発明の出願前の当業者の技術常識を併せて考慮すれば、本願発明の構成要件(W)(ii)の「成分(i)の生成物(f)のハロゲン化誘導体」とは、「成分(i)の生成物(f)」すなわち「エポキシ樹脂(f)」中に「ハロゲン原子が導入されたもの」を意味するものであり、「フェノール」に代えて「ハロゲン化フェノール」を原料として使用することにより製造されたものも、この構成要件に該当すると解するのが相当である。
そして、ハロゲン化フェノール(b)’を原料として使用する際の反応及び生成物は、別紙2の(9)記載の@ないしBの工程のとおりであると認められるところ、
この工程から得られる生成物(f)’が、(W)(i)の生成物(f)にハロゲン原子(X)を導入したハロゲン化誘導体であることは明らかであって、この(f)’の構造は、前記(2)のイの構造式(gU)(別紙2の(4)記載の構造式(gU))と同一のものである。
(エ) 原告は、本願発明の構成要件(W)(ii)に規定される「ハロゲン化誘導体(g)」は、エポキシ樹脂(f)を直接ハロゲン化することにより得られる誘導体、すなわち、前記(2)のイの構造式(gT)(別紙2の(3)記載の構造式(gT))を有するものであり、これに限定される旨主張している。
確かに、エポキシ樹脂(f)を、直接ハロゲン化すれば、原告が主張するように、(gT)が生成することは、被告も争わないところである。
しかしながら、エポキシ樹脂(f)を直接ハロゲン化することにより(gT)が生成するとしても、このこと自体は、本願発明の構成要件(W)(ii)が規定する「成分(i)の生成物(f)のハロゲン化誘導体(g)」から、上記の構造式(gU)の「ハロゲン化誘導体」が排除されると解すべき積極的な根拠とはなり得ないことは明らかであり、他に、構成要件(W)(ii)に規定される「ハロゲン化誘導体(g)」について、
「エポキシ樹脂(f)」を直接ハロゲン化することにより得られる誘導体に限定したり、該「エポキシ樹脂(f)」の生成方法を構成要件(W)(i)の規定する工程にのみ限定するものであると解することを首肯するに足りる証拠は認められず、原告の上記主張は、採用することができない。
3 本願発明と引用例記載の発明との同一性 (1) 以上によれば、本願発明の構成要件(W)(ii)の「ハロゲン化誘導体」は、構造式(gU)で示されるものも含まれると解すべきである。
そして、このハロゲン化誘導体(gU)が、引用例に記載されていること、及び本願発明と引用例記載の発明はその他の構成要件で一致することについては、原告も争わないところである。
(2) したがって、本願発明と引用例記載の発明との間で、同一性が認められるから、審決の「本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法29条1項3号の規定に該当し、特許を受けることができない」との認定及び結論に、
誤りはない。
4 結論 以上の次第で、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史