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関連審決 不服2000-1198
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  試行錯誤 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  置き換え /  置換 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 14号 審決取消請求事件
原告 ポリマテック株式会社
訴訟代理人弁理士 松田省躬
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 熊倉強
同 青山紘一
同 山口由木
同 茂木静代
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/01/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2000-1198号審判事件について平成12年11月15日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担する。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「硬質樹脂キートップ式キーパッドの製造法」とする発明について平成9年11月11日に特許出願し(平成9年特許願第323932号)、同11年12月17日に拒絶査定を受けたので、同12年2月3日に拒絶査定に対する不服審判(不服2000-1198号事件)を請求したが、同年11月15日「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は同年12月18日原告に送達された。
2 本願発明の要旨(特許請求の範囲の請求項1及び同2) 請求項1 (この請求項1の発明を「本願発明」という。) 押釦スイッチ用シリコーンゴム製キーパッドと、あらかじめ成形された硬質樹脂キートップを貼着してなる硬質樹脂キートップ付キーパッドの製造方法において、
キーパッドのキートップとの貼着面をドライプロセスにて表面改質し、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂より選ばれる少なくとも一つの反応硬化性樹脂からなる接着剤を塗布し、その後、あらかじめ成形された硬質樹脂キートップを貼着する硬質樹脂キートップ付キーパッドの製造方法
請求項2 押釦スイッチ用シリコーンゴム製キーパッドと、あらかじめ成形された硬質樹脂キートップを貼着してなる硬質樹脂キートップ付キーパッドの製造方法において、
キーパッドのキートップとの貼着面をコロナ放電処理、火炎処理あるいはプラズマ処理にて表面改質し、エポキシ系樹脂の反応硬化性樹脂からなる接着剤を塗布し、その後、あらかじめ成形された硬質樹脂キートップを貼着する硬質樹脂キートップ付キーパッドの製造方法
3 審決の理由の要旨 審決は、別紙審決書の理由写しのとおり、本願発明は、本願の出願前に頒布された特開平6-187871号公報(甲第1号証、以下「引用例」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定によって特許を受けることができないから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶をすべきものである、とした。
原告主張の審決取消理由の要点
審決は、周知技術の認定を誤り(取消事由1)、本願発明の顕著な効果を看過し(取消事由2)、本願発明の進歩性の判断を誤った(取消事由3)ものであって、
違法として取り消されるべきものである。
1 取消事由1(周知技術の認定の誤り) (1) 審決は、本願発明と引用例に記載された発明(引用例発明)との相違点として、本願発明が、反応硬化性樹脂からなる接着剤として、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂のいずれかを使用するのに対して、引用例発明では「熱硬化型エポキシ接着剤あるいはUV効果型エポキシ接着剤」を使用していることを挙げた上、「反応硬化性樹脂からなる接着剤としてのエポキシ樹脂は、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂と同様に、本願出願前周知のもの」である(審決書2頁末行ないし3頁2行)と認定するが、誤りである。 (2) 原告は、エポキシ樹脂が、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂と同様に、金属、木材、紙用の接着剤として、一般的に広く用いられていることを否認するものではない。しかしながら、審決には、「反応硬化性樹脂からなる接着剤としてのエポキシ樹脂」が、本願出願前周知であることを裏付ける証拠が何も示されていない。
本願発明は、「硬質樹脂キートップ付キーパッドの製造方法」に係るものであり、シリコーンゴム製キーパッドと硬質樹脂キートップとの貼着を強固、迅速、低温、正確、生産性良く行えることを発明の解決課題、作用・効果とするものである(本願明細書(甲第6号証の2)段落【0008】ないし【0011】、【0013】、【0050】参照)。
こうした解決課題や作用効果など本願発明の明細書・図面全体から本願発明の技術思想を考えると、本願発明の構成要件でいうところの「反応硬化性樹脂からなる接着剤」は、「押釦スイッチ用シリコーンゴム製キーパッドにおけるドライプロセスにより表面改質されたキートップとの貼着面」と「あらかじめ成形された硬質樹脂キートップ」とを接着対象とするシリコーンゴム製キーパッド・硬質樹脂キートップ接合用の「接着剤」を意味するものと理解することが、本願発明の技術思想を適切に把握した合理的かつ当然の解釈である。
被告は、甲第8号証(「工業材料」91年7月別冊、鞄刊工業新聞社)に「反応硬化性樹脂からなる接着剤としてのエポキシ樹脂」が「本願出願前周知のもの」であることが示されている旨主張するが、本願発明の構成要件の全体を顧みず、本願発明の構成要件を部分的に捉えた結果の的を得ない主張である。
甲第8号証には、金属、木材、紙材などに利用するエポキシ樹脂の接着剤としての用途における性質やその変性などが記載されているだけであって、上述した本願発明の構成要件で示すところの「押釦スイッチ用シリコーンゴム製キーパッドにおけるドライプロセスにより表面改質されたキートップとの貼着面」と「あらかじめ成形された硬質樹脂キートップ」とを接着対象とするシリコーンゴム製キーパッド・硬質樹脂キートップ接合用の「接着剤」としてエポキシ樹脂を利用することについては一切記載がない。
(3) また、審決は、「反応硬化性樹脂からなる接着剤としてのエポキシ樹脂」が「本願出願前周知のもの」であるという事実をもって、本願発明の構成要件を成す「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂」が「本願出願前周知のもの」であると「エポキシ樹脂」と同列に言い切っている。しかし、審決では、本願発明の構成要件としての「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂」が「本願出願前周知のもの」あることを裏付ける証拠が何ら提示されていない。
(4) 以上のように、審決は、周知技術の認定が不十分であり、この不十分な周知技術の認定に基づいて、「反応硬化性樹脂からなる接着剤としてのエポキシ樹脂は、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂と同様に、本願出願前周知のもの」であるとしたものであり、違法である。
2 取消事由2(顕著な効果の看過) (1) 審決は、「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂を選択した点で本願の請求項1に係る発明がエポキシ樹脂を使用した場合に比して顕著な効果を奏することになるものとは認められ」ない(審決書3頁2ないし5行)と認定したが、誤りである。
(2) 本願発明は、キーパッドのシリコーンゴムの表面上の活性基と良好に結合し、さらにキーパッドに貼着する硬質樹脂キートップとの良好な結合を可能とするために、反応により分子間結合を起こして硬化する多種の反応硬化性樹脂の中から、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂からなる接着剤を選択したものである。
これにより、熱硬化型エポキシ樹脂やUV硬化型エポキシ樹脂を使用する引用例発明と比べて、以下の(3)、(4)のような顕著な効果が奏せられる。
(3) すなわち、本願明細書段落【0050】に記載するように、本願発明によれば、「シリコーンゴム製キーパッドと硬質のキートップとの貼着をより・・・迅速に、低温で行うことができる。したがって、軟化点の低い硬質樹脂例えばABS樹脂・・・の使用も可能であり、貼着時に位置ずれを生じることもなく、また、多数の位置固定用治具を使用する必要もなく、生産性の高いキーパッドができる」という効果が奏せられる。
接着用途に用いるエポキシ樹脂接着剤としては熱硬化型が一般的であるが、低温で硬化させようとすると硬化時間が非常に長くなってしまい、逆に硬化時間を短縮しようとすると高い温度で加熱硬化させなければならず、いずれにしても低温でかつ短時間での硬化ができないという問題がある。
例えば、甲第13号証(「接着技術のはなし」1997年 鞄本実業出版社)に示すエポキシ樹脂用硬化剤の硬化条件を見ると、低温(常温レベル)で硬化させようとすると最短でも2時間必要である。また、硬化時間を短縮する場合には少なくとも100℃以上加熱しなければならないため、ABS樹脂のような軟化点の低い硬質樹脂キートップの貼着には不向きである。また、甲第14号証(旭電化株式会社の「アデカOPTシステム」のカタログ)に記載されている「〔電子・電気関連用製品〕オプトマーKS・BURシリーズ/オプトンKTシリーズ」のエポキシ樹脂接着剤は、最低でも120℃で加熱しなければ硬化せず、やはり軟化点の低い硬質樹脂キートップの貼着には不向きである。このように、エポキシ樹脂接着剤は一般的に、低温でかつ短時間での硬化ができないという問題を内在している。
これに対して、本願発明の構成要件をなす「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂より選ばれる少なくとも一つの反応硬化性樹脂からなる接着剤」は、
何れもエポキシ樹脂接着剤よりも低温でかつ短時間での硬化が可能である。
例えば、甲第15号証(ロード・ファー・イースト・インコーポレイテッド社の「LOAD Chemical Products二液ウレタン系接着剤」のカタログ)記載の二液型ウレタン系反応硬化性樹脂は90℃の加熱で5分で硬化し、本願明細書実施例3に記載のように、ABS樹脂製の硬質樹脂キートップの貼着に使用する際には、その軟化点を考慮した80℃の加熱により10分で硬化する。甲第16号証(株式会社スリーボンドの「スリーボンド3000シリーズ 光硬化性樹脂」のカタログ)に記載されている紫外線反応硬化性アクリル樹脂(本願明細書実施例4で使用した接着剤の同等品)は僅か15秒と驚異的な速さで接着する。
以上のように本願発明の「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂より選ばれる少なくとも一つの反応硬化性樹脂からなる接着剤」を使用すれば、引用例に記載の熱硬化型エポキシ樹脂やUV硬化型エポキシ樹脂と対比して、特に「低温」と「迅速」の双方の要請を満足しつつシリコーンゴム製キーパッドに硬質樹脂キートップを貼着することができる、という優れた効果を発揮することができる。
(4) また、引用例発明は、加熱により硬化する熱硬化型エポキシ樹脂、あるいは、紫外線により硬化するUV硬化型エポキシ樹脂を使用するものである。この引用例発明は、原告の出願に係るものであって、これによりエポキシ樹脂が、キーパッド用の接着剤として使用し得ることが初めて提案され、特許第2837043号として特許されたものである。
しかしながら、エポキシ樹脂接着剤を使用すると、樹脂中に塩素が含有されている(甲第7ないし9号証)こと等の原因により、硬化後短時間で黄変する(甲第7号証、特開平11-106607号公報)。
これに対し、本願発明は、引用例発明の諸欠点を知悉した上で、その欠点を克服するために発明されたものであり、黄変性の低いウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、
アクリル系樹脂を用いて、そして、コロナ放電処理、プラズマ処理あるいは火炎処理により、電気的、熱的に改質することで、シリコーンゴムの表層のみの酸化しか起こらず、黄変が生じない。 (5) 以上の効果の差は、この種製品にとり、顕著なものである。審決は、本願発明のこの顕著な効果を看過したものであって、取り消されるべきである。
3 取消事由3(進歩性の判断の誤り) (1) 審決は、「引用例における『熱硬化型エポキシ接着剤あるいはUV硬化型エポキシ接着剤』に代えて、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂のいずれかを使用することは、当業者には容易になし得ることというべきである。」(審決書3頁9ないし12行)とするが、誤りである。
(2) 審決は、上記判断の前提として、「キーパッドの材料として、エポキシ樹脂は、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂と同様に広く用いられているものにすぎない(原審の拒絶理由に引用された特開平6-5150号公報、特開平6-314527号公報参照)。」(審決書3頁5ないし8行)と認定している。 しかし、特開平6-5150号公報(甲第2号証)に記載されているのは、
シリコーン・キーシート(キーパッド)にエポキシ系の紫外線硬化樹脂を盛り上げてから硬化させて、キートップとして形成する技術であり、エポキシ系の紫外線硬化樹脂は、「キートップ」の材料として記載されており、「キーパッド」の材料として記載されている訳ではない。
また、特開平6-314527号公報(甲第3号証)に記載されているのは、キートップの上面に文字印刷層を形成し、この文字印刷層の上に接着剤を介することなくエポキシ樹脂などから成る液状の透明樹脂層を形成する技術であり、エポキシ樹脂等から成る透明樹脂層は、キートップの文字印刷層を被覆するためのものであって、「キーパッド」の材料として記載されている訳ではない。
しかも、甲第2号証と甲第3号証は、いずれも本願発明のように「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂より選ばれる少なくとも一つの反応硬化性樹脂からなる接着剤」をシリコーンキーパッドと、予め形成されたキートップの接着に使用することを開示したり、示唆するものではない。
(3) 被告は、「キーパッドの材料として、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂が用いられた場合に、該キーパッドの接着にその材料と同系統のエポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂の接着剤を使用することは、当業者が容易になし得ることにすぎない。」と主張する。
しかしながら、被告の主張する論理に沿って考えると、本願発明ではキーパッドとしてシリコーンゴム製キーパッドを用いているので、硬質樹脂キートップを貼着する接着剤としてはシリコーン系接着剤を利用すればよいことになるが、実際には本願明細書【0009】に記載したようにシリコーン系接着剤は保持力が低くて貼着しても容易に剥離しやすい、という問題がある。
被告が主張するように「キーパッドの材料として、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂が用いられた場合に、該キーパッドの接着にその材料と同系統のエポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂の接着剤を使用す」ればよいなどというような単純な論理で本願発明の技術思想が成り立っている訳ではない。
本願発明は、試行錯誤を繰り返した結果、シリコーンゴム製キーパッドと硬質樹脂キートップとの貼着を強固・迅速・低温になし得る接着剤として「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂より選ばれる少なくとも一つの反応硬化性樹脂からなる接着剤」の利用を見いだしたものである。こうした本願発明がなされるに至った背景は、本願明細書に詳述されている。しかも、この「接着剤」によれば、
特に迅速、低温に接着することができ、黄変し難いという優れた効果も発揮し得ることは、前述のとおりである。
(4) 審決は、以上のとおり、周知技術の認定を誤り、本願発明の顕著な効果を看過し、本願発明がなされた背景を無視して、単に甲第2号証や甲第3号証でキーパッドを構成するキートップの被覆層の材料としてエポキシ樹脂などが記載されている事実をもって、本願発明は当業者が容易になし得たものであると誤って判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。
被告の反論の要点
1 取消事由1について 反応硬化性樹脂からなる接着剤としてのエポキシ樹脂が広く用いられていることは、甲第8号証から明らかである。
また、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂が同様に広く用いられているものであることは、甲第13ないし第17号証から明らかである。
2 取消事由2について エポキシ樹脂が、全て低温かつ短時間での硬化ができないものであるとはいえない。原告は、常温での硬化時間が極端に長い(2時間以上)ものを甲第13号証として提示しているが、一般には、常温で短時間(5〜15分)で硬化するエポキシ樹脂接着剤も広く知られている(乙第1号証、「接着便覧第10版」昭和51年株式会社高分子刊行会発行)。
また、全てのエポキシ樹脂が「硬化後顕著に黄変する」訳ではなく、原告の提出した甲第7号証中の「実施例1」のものもほとんど黄変しない(黄変は僅少にすぎない)ことが示されている。
したがって、本願発明の効果は、顕著なものということはできない。
3 取消事由3について エポキシ樹脂とともにウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂も、前記1のように反応硬化性樹脂からなる接着剤として周知のものであり、また、審決中に周知例として引用された特開平6-5150号公報(甲第2号証)には、「諸形状に成形加工したシリコーンキーシート(注、キーパッドと同義)の表面短波長紫外線照射やあるいはプラズマ放電処理を行い・・・その上にアクリル系、エポキシ系、シリコーン系の紫外線で硬化するUV硬化性樹脂を薄く平らに、半球状にあるいは複雑な曲面等任意の形状に盛り上げたのちに、紫外線を照射して硬化、かつ接着させ(る)」(第2頁左欄第34行ないし右欄第4行)旨記載され、エポキシ系樹脂のほか、アクリル系樹脂などがシリコーンキーパッドとの接着剤になることが示唆されている。
また、キーパッドの材料として、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂が用いられた場合に、該キーパッドの接着にその材料と同系統のエポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂の接着剤を使用することは、当業者が容易になし得ることにすぎない。
これらの点をも考慮すれば、エポキシ樹脂に代えて、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂より選ばれる少なくとも一つの反応硬化性樹脂からなる接着剤を用いることは当業者が容易になし得ることにすぎない。
当裁判所の判断
1 本願発明の概要 (1) 甲第6号証の2(本願公開公報)によれば、本願明細書には次の記載及び開示があることが認められる(引用文中の下線は判決)。
@「【発明の属する技術分野】 本発明は、携帯電話、携帯情報端末・・・などに使用される、美観に優れ、高級感があり、かつ耐久性に優れたキーパッドの製造方法に関するものである。」(段落【0001】) A「【従来の技術】従来のキーパッドは、耐寒性、耐熱性、・・・が優れていることから主にシリコーンゴム等が用いられている。」(段落【0002】) B「【発明が解決しようとする課題】 シリコーンゴムは接着性に乏しく、これらを貼着させるためには一般にシリコーン系接着剤を使用するか、プライマーで表面を処理するしか方法がなかった。ところが、これらシリコーン系接着剤は、保持力が低く、・・・硬化が遅いので、硬化を速めるために約100 ℃以上に加熱する必要があ(り)・・・軟化点の低い樹脂をキートップの材料として使用することは困難であった。」(段落【0008】ないし【0010】) C「【課題を解決するための手段】 本発明は、・・・キーパッドのキートップの貼着面あるいはその一部を、短波長紫外線の照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理より選ばれる少なくとも一つの方法で表面改質し 、そして硬質樹脂で成形されたキートップを、ウレタン系樹脂、
、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、光反応硬化性樹脂等の反応硬化性樹脂で、貼着させる ことで、シリコーンゴム製キーパッドと硬質のキートップをより強固に、・・・軟化点の低い硬質樹脂の使用も可能で、貼着作業も迅速に行うことができ、貼着時に位置ずれを生じることもなく、生産性の高いキーパッドを製造できることを特徴とするものである。」(段落【0012】ないし【0013】) D「すなわち本発明は、押釦スイッチ用シリコーンゴム製キーパッドの貼着面を、表面改質し、反応硬化性樹脂を塗布し、その後硬質樹脂で成形されたキートップを貼着する硬質樹脂キートップ付キーパッドの製造方法である。」(段落【0014】) E「反応硬化性樹脂としては、組成は限定されず、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂、シアノアクリレート系樹脂より選ばれる少なくとも一つの樹脂を使用することができる。」(段落【0023】) F「反応硬化性樹脂の硬化方法も、特に限定されるものではない」(段落【0024】) G「【発明の効果】・・・本発明の硬質樹脂キートップ付キーパッドの製造方法によれば、シリコーンゴム製キーパッド表面を短波長紫外線の照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理より選ばれる少なくとも1つの方法で表面改質し、硬質樹脂で成形されたキートップを反応硬化性樹脂で貼着させることで、シリコーンゴム製キーパッドと硬質のキートップとの貼着をより強固に、迅速に、低温で行うことができる。」(段落【0050】) H 実施例1ないし4として、シリコーンゴムコンパウンドを使用して形成されたキーパッドの貼着部の表面をドライプロセスにより表面改質し、その上に反応硬化性接着剤(いずれも、市販のもの)を塗布した後、硬質樹脂キートップを貼りあわせた例が記載されていることが認められる。
表面改質処理: 短波長紫外線照射 実施例1、3、4 コロナ放電 実施例2 接着剤: シアノアクリレート系反応硬化性樹脂(市販品) 実施例1 紫外線反応硬化性樹脂(市販品) 実施例2、4 ウレタン系反応硬化性樹脂(市販品) 実施例3 なお、実施例で使用された反応硬化性接着剤は、以上が全てであり、市販品以外の反応性接着剤を使用した実施例は記載されていない。
I 比較例3では、実施例1で使用されたのと同一のシアノアクリレート系反応硬化性樹脂(市販品)を使用しても、ドライプロセスによるシリコーンキーパッドの表面改質を行わない場合には十分な貼着ができないことが示され、比較例4では、実施例2及び4で使用されたのと同一の紫外線反応硬化性樹脂(市販品)を使用しても、ドライプロセスによるシリコーンキーパッドの表面改質を行わない場合には十分な貼着ができないことが示されている。
(2) 甲第6号証の1(平成12年2月3日付け手続き補正)によれば、同補正により、本願の特許請求の範囲に包含される反応硬化性樹脂は、「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂より選ばれる少なくとも一つの反応硬化性樹脂」に限定されたことが認められる。
(3) 以上によれば、本願発明は、従来より使用されているシリコーンゴム製のキーパッドが接着性に乏しく、これに接着するキートップの材料として軟化点の低い樹脂を使用することが困難である等の問題点を、シリコーンキーパッドの貼着面を短波長紫外線照射等のドライプロセスにより表面改質処理するとともに、「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂」より選ばれる反応硬化性樹脂を選択して使用することにより解決したものと認められる。
2 取消事由1(周知技術の認定判断の誤り)について (1) 原告は、「反応硬化性樹脂からなる接着剤としてのエポキシ樹脂は、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂と同様に、本願出願前周知のもの」である(審決書2頁末行ないし3頁2行)との審決の認定が誤りである旨主張する。
ア しかしながら、エポキシ樹脂が、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル樹脂と同様に、金属、木材、紙用の接着剤として、本願出願前より一般的に広く用いられていることについては、原告もこれを認めるところである。このように一般に広く用いられているものが周知といえることは自明である。
また、甲第1号証(引用例)、第2、第3号証、第7ないし第19号証、及び乙第1号証によれば、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂及びアクリル系樹脂は、いずれも、その構成成分が化学反応により硬化する反応硬化性接着剤として使用されていることが明らかに認められる。
そうすると、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル樹脂は、
いずれも、反応硬化性接着剤として本願出願前周知のものと認めることができるから、「反応硬化性樹脂からなる接着剤としてのエポキシ樹脂は、ウレタン系樹脂、
アミノ系樹脂、アクリル系樹脂と同様に、本願出願前周知のもの」であるとの審決の認定に誤りはない。
イ 原告は、本願発明の構成要件でいうところの「反応硬化性樹脂からなる接着剤」は「押釦スイッチ用シリコーンゴム製キーパッドにおけるドライプロセスにより表面改質されたキートップとの貼着面」と「あらかじめ成形された硬質樹脂キートップ」とを接着対象とする接着剤(以下、「シリコーンゴム/硬質樹脂接着用の反応硬化性樹脂接着剤」ということがある。)を意味するとし、審決は、このような本願発明の構成要件としての「反応硬化性樹脂からなる接着剤としてのエポキシ樹脂」が、「本願出願前周知のもの」であることを裏付ける証拠を何も示していないから、審決の認定は、不十分であって、誤りであるとも主張する。
しかしながら、審決は、「反応硬化性樹脂からなる接着剤としてのエポキシ樹脂は、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂と同様に、本願出願前周知」であることを認定し、この認定に基づいて、本願発明の進歩性について判断したものであるから、審決がその判断の前提とした上記認定を越えて、「押釦スイッチ用シリコーンゴム製キーパッドにおけるドライプロセスにより表面改質されたキートップとの貼着面」と「あらかじめ成形された硬質樹脂キートップ」とを接着対象とする「接着剤」としてのエポキシ樹脂が「本願出願前に周知」である根拠を示していないとしても、このことが違法であるということはできない。
そして、上記認定に誤りがないことは前示のとおりであり、上記認定を前提とした審決の判断に誤りがないことは取消事由3の項に示すとおりである。
したがって、この点に関する原告の主張は採用することができない。
(2) 原告は、また、審決は、「本願発明の構成要件」としての「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂」(シリコーンゴム/硬質樹脂接着用のウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂)が「本願出願前周知のもの」あることを裏付ける証拠が何ら提示されていないから、審決の認定は不十分であって、誤りであるとも主張する。
ア しかしながら、「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂」が本願出願前に周知であることは、前示のとおりであるところ、本願発明の構成要件としての「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂」が、周知の「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂」と異なるものとは認めることはできない。
イ すなわち、本願特許請求の範囲請求項1には、単に「ウレタン系樹脂、
アミノ系樹脂、アクリル系樹脂より選ばれる少なくとも1つの反応硬化性接着剤」とのみ、規定されているにすぎない。また、本願明細書の発明の詳細な説明には「反応硬化性樹脂としては、組成は限定されず、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂、シアノアクリレート系樹脂より選ばれる少なくとも一つの樹脂を使用することができる。」(前記1E参照)と、本願発明で使用する樹脂の組成は、格別限定されないものであることが記載され、実施例において使用されている樹脂(接着剤)は、全て、一般に市販されているものであることが認められる(前記1H参照)。
そうすると、「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂」は、市販され、一般に周知のものであり得ることは明らかである。
ウ したがって、「本願発明の構成要件」としての(シリコーンゴム/硬質樹脂接着用の接着剤としての)「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂」が周知であることは、明らかである。
原告の主張は採用することができない。
3 取消事由2(顕著な効果の看過)について (1) 原告は、本願発明は、反応により分子間結合を起こして硬化する多種の反応硬化性樹脂の中から、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂からなる接着剤を特に選択し使用するものであり、これらを使用することにより、エポキシ樹脂を使用する引用例発明と比較して、「低温」と「迅速」の双方の要請を満足しつつシリコーンゴム製キーパッドに硬質樹脂キートップを貼着することができる、
という顕著な効果を発揮することができる旨主張するので検討する。
ア 本願特許請求の範囲には、使用する接着剤について「ウレタン系樹脂、
アミノ系樹脂、アクリル系樹脂より選ばれる少なくとも一つの反応硬化性樹脂からなる接着剤」を使用する旨の規定しかなく、接着の際の温度等の条件についても何らの限定もない。
また、本願明細書には、「反応硬化性樹脂としては、組成は限定されず、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂、シアノアクリレート系樹脂より選ばれる少なくとも一つの樹脂を使用することができる。」と記載されていることは、前示のとおりである。
これらによれば、本願発明で使用する「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂」は、格別限定されず、任意組成のものであってよいことは明らかであるところ、全証拠によっても、これらの樹脂を使用すれば、その組成にかかわらず、
エポキシ樹脂を使用した場合より、「低温」、「迅速」にシリコーンゴム製キーパッドに硬質樹脂キートップを貼着し得ると認めることはできない。
かえって、エポキシ樹脂を使用した場合と、本願発明の樹脂を使用した場合とでは、低温、迅速性において差異がない、あるいは、エポキシ樹脂の方が低温、迅速性において優れる場合もあるものと認められる。
すなわち、本願明細書の実施例3では、接着剤として市販のウレタン系反応硬化性樹脂が使用されていることは前示のとおりであるところ、この実施例においては、キートップは80℃、10分間硬化の条件で貼着されていることが認められる。そして、この実施例で使用されたウレタン系反応硬化性樹脂の同等品が甲第15号証(旭電化株式会社の「アデカOPTシステム」のカタログ)に示されていることは原告も認めるところ、この同等品の常温での硬化時間は72時間である。
これに対し、乙第1号証(「接着便覧第10版」高分子刊行会発行)によると、
市販のエポキシ樹脂接着剤には、常温でも5分で硬化し、15分で実用強度に達するものもあることが認められる。反応硬化性樹脂接着剤の硬化速度は、温度の上昇に比例するところ、この市販のエポキシ樹脂の硬化速度が、上記ウレタン系接着剤の硬化速度より迅速であることは明白である。
イ 原告は、本願発明による反応硬化性接着剤には、秒単位の速度で硬化する顕著なものもある旨主張する。確かに、本願明細書の実施例1、2、4に使用されたシアノアクリレート系及び紫外線反応硬化性接着剤は、秒単位の速度で迅速に硬化することが認められる。しかしながら、これは、実施例の効果であって、本願発明の効果ではない。
ウ したがって、この点に関する原告主張は、採用することができない。
(2) 原告は、「ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂より選ばれる少なくとも一つの反応硬化性樹脂からなる接着剤」を使用することにより、引用例に記載された発明で使用されているエポキシ樹脂を使用した場合と比較して、黄変しないという顕著な効果が奏されるものであるとも、主張する。
しかしながら、エポキシ樹脂が黄変しやすいことが、本願出願前に当業者に周知であったことは、甲第7ないし第11号証の文献及び公報の記載から、明らかにこれを認めることができる。
黄変しやすいことが周知の接着剤の使用を避け、これを周知のその他の接着剤に置き換えることにより黄変しないとの効果が達成されたとしても、そのような効果は、当業者が容易に予測することができるものであって、格別のものということはできない。 この点に関する原告の主張も採用することができない。
4 取消事由3(進歩性の判断の誤り)について (1) 本願出願時の技術水準について ア 甲第1号証(引用例)によれば、特開平6-187871号公報には、
「シリコーンゴムで接点部を形成し、表面に短波長紫外線を化学的に活性化した後、その上に予め成形加工しておいたキートップ用樹脂を熱硬化型エポキシ接着剤あるいはUV硬化型エポキシ接着剤にて接着してなるキートップ付接点ゴム」(【請求項2】)との発明が開示され、その発明の詳細な説明には、「【発明が解決しようとする課題】 従来の樹脂キートップ付接点ゴムにおいては・・・シリコーンゴムを用いた場合、有機系樹脂との化学的接着が難しいため。(ママ)物理的接合方法を取らなければならないので構造及び製造工程が複雑となる。」(段落【0003】)、「【問題を解決するための手段】 本発明は、シリコーンゴムにて成形加工した接点ゴムの表面に短波長紫外線をあてることにより化学的に活性化して・・・熱硬化型あるいはUV硬化型エポキシ樹脂が容易に化学的接着できるようになることを見出し、樹脂キートップ部を・・・短時間に一体化できるようにしたものである。」と記載され、その実施例3及び4には、シリコーンゴム製のキーパッドの表面に短波長紫外線を照射した後、「予め ポリカーボネート樹脂で成形加工しておいたキートップ用チップ 」を熱硬化型エポキシ樹脂接着剤を用いて貼着した例が記載されていることが認められる。なお、上記ポリカーボネート樹脂が硬質樹脂であること、短波長紫外線照射がドライプロセスによる表面改質処理の1種であることについては、当事者間に争いがない。
イ 審決で周知例として言及された甲第2号証(特開平6-5150号公報)には「樹脂キートップ付シリコーンキースイッチの製造法」との発明が開示され、
発明の詳細な説明中に、「従来は・・・シリコーンゴムあるいは接点ゴム等に、別にアクリル、ABS等にて成形加工したキートップ をシリコーン系接着剤にて接着している。」(段落【0002】)、「本発明は、キートップ部をUV硬化性樹脂を用いて形成させるようにすることで、作業時間の短縮をはからんとするものである。そのために、・・・シリコーンキーシートの表面を短波長紫外線照射あるいはプラズマ放電処理を行い・・・その上にアクリル系、エポキシ系・・・の紫外線で硬化するUV硬化性樹脂を薄く平らに・・・盛り上げたのちに、紫外線を照射して硬化、かつ接着させて樹脂キートップ付シリコーンスイッチを製造するようにした。」(段落【0004】)、「本発明の製造法によれば、キートップ樹脂の成形と接着が同時に行えるので作業時間の短縮と作業の複雑さが大いに改善される。また、シリコーンキーシート表面を短波長紫外線あるいはプラズマ放電処理・・・したことで樹脂キートップとシリコーンキーシートとの接着性が向上したので、スイッチの耐久性が非常に増大した。」(段落【0007】)との記載があることが認められる。なお、上記アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ABS樹脂が硬質樹脂であること、プラズマ放電処理が、短波長紫外線照射と同じく、ドライプロセスによる表面改質処理であることについては当事者間に争いがない。
ウ 同じく、審決で周知例として言及された甲第3号証(特開平6-314527号公報)には「キーパッド及びその製造方法」との発明が開示され、発明の詳細な説明中に、「従来のキーパッドはシリコーンゴム製キーパッド主体のキートップ面の上面に、シリコーンゴム含有の抜き文字印刷層を形成し・・・抜き文字印刷層を保護するためにシリコーンゴム系接着剤を使用し、さらに、その接着剤層の上に・・・透明樹脂層を固着していた。」(段落【0002】)、「【発明が解決しようとする課題】 シリコーンゴムと樹脂とはシリコーンゴム系接着剤を使用し、さらにプライマー処理をしない限り直接には接着できない。・・・接着剤を使用し、プライマー処理する場合、塗布及び処理作業が面倒であるばかりか・・・乾燥固化に時間を要する等の難点があった。」(段落【0003】)、「本発明に係るキーパッドの製造方法は、シリコーンゴム製キーパッド主体のキートップ面の上面に、文字印刷層を形成した後、前記キーパッド主体の上面にコロナ放電処理をし、次いで・・・文字印刷層上に液状の透明樹脂層を滴下するかスクリーン印刷して乾燥固化するものである。」(段落【0006】)、「本発明で使用される液状の透明樹脂層としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂 、・・・アミノ樹脂 ・・・が使用される。これらの樹脂はいずれもシリコーンゴムに直接には接着不可能な樹脂であるが、上記キートップ1bの上面にコロナ放電することにより直接、接着が可能となるものである 。」(段落【0010】)との記載があることが認められる。
なお、上記エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アミノ樹脂が硬質樹脂であること、コロナ放電処理がドライプロセスによる表面改質処理の1種であることについては当事者間に争いがない。
エ 上記各記載によれば、シリコーンゴム製キーパッドの上に硬質樹脂製のキートップを備えた硬質樹脂キートップ付キーパッドは本願出願前に周知であったことは明らかである。
そして、硬質樹脂キートップ付キーパッドは、シリコーンゴム製キーパッドの上に、あらかじめ成形加工した硬質樹脂製キートップをキーパッドの上に貼着するか、キーパッド上で反応硬化性樹脂を硬化することにより形成されていたこと、シリコーンゴム製キーパッドと硬質樹脂製キートップとは直接接着し難いこと、両者の接着不良の問題は、シリコーンゴム製キーパッドの表面を、短波長紫外線照射、
コロナ放電等のドライプロセスによる表面改質処理を施すことにより改善されること、ドライプロセスにより表面改質処理されたシリコーンゴム製キーパッドは、硬質樹脂、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アミノ樹脂、アクリル樹脂と直接良好に接着可能であることも、本願出願前に周知であったものと認められる。
オ 一方、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂が、反応硬化性接着剤として、本願出願前より広く使用されており、周知であることは前示のとおりである。
(2) 上記エ及びオのような本願出願前の技術水準に照らせば、引用例に記載されている、「シリコーンゴムで接点部を形成し、表面に短波長紫外線を化学的に活性化した後、その上に予め成形加工しておいたキートップ用樹脂を熱硬化型エポキシ接着剤あるいはUV硬化型エポキシ接着剤にて接着してなるキートップ付接点ゴム」(【請求項2】)との発明に接した当業者が、引用例における周知の「熱硬化型エポキシ接着剤あるいはUV硬化型エポキシ接着剤」に代えて、周知のウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂から選択される反応硬化型接着剤を使用することを想到することに、格別の困難があったものということは到底できない。
また、使用する接着剤をこのように置換することによる効果(低温での迅速な硬化及び黄変の防止)が当業者にとって予測し難い顕著なものと認めることができないことは、前示のとおりである。 (3) 原告は、審決の「キーパッドの材料として、エポキシ樹脂は、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂と同様に広く用いられている」(審決書3頁5ないし7行)との認定は誤りであると主張するが、この審決の認定中の「キーパッド」との記載が「キートップ」の誤記であることは、当業者に自明である。また、この誤記が、結論に影響するものでもない。
(4) したがって、「引用例における『熱硬化型エポキシ接着剤あるいはUV硬化型エポキシ接着剤』に代えて、ウレタン系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂のいずれかを使用することは、当業者には容易になし得ることというべきである。」との審決の判断に誤りはない。
5 結論 以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実