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関連審決 異議2000-70365
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  技術常識 /  技術的意義 /  均等 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 332号 特許取消決定取消請求事件
原告 日立工機株式会社
訴訟代理人弁理士 吉岡宏嗣
同 鵜沼辰之
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 佐藤秀一
同 二宮千久
同 小林信雄
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が異議2000−70365号事件について平成12年7月24日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和63年1月19日に出願され、平成11年5月14日に設定登録された、名称を「電池の充電方法及び充電装置」とする特許第2927354号発明(以下、この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許につき特許異議の申立てがされ、特許庁は、同申立てを異議2000-70365号事件として審理した上、平成12年7月24日に「特許第2927354号の請求項1乃至3に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年8月9日、原告に送達された。
2 本件特許に係る発明の要旨 (1) 特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下「本件発明1」という。)の要旨 電池及び電池の近傍に設けられた感温素子からなる電池組が接続された時に充電を開始して接続された電池組を充電するようにした電池の充電方法であって、電池組の充電装置への接続を感温素子の端子電圧を検出することにより検出し、接続された電池組が高温でない充電可能な電池組の場合充電を開始し、接続された電池組が高温で充電すべきでない電池組の場合充電を開始しないようにすると共に電池組の温度が所定値以下に低下したら充電を自動的に開始するようにしたことを特徴とする電池の充電方法。
(2) 同請求項2記載の発明(以下「本件発明2」という。)の要旨 直列接続された複数の電池及び該電池の少なくとも1個の近傍に設けられ電池温度が所定値以上の時接点を開くサーモスタットからなる電池組を充電する充電装置であって、充電電源と接続される電池組との間に設けられたスイッチング素子と、電池組の充電装置への接続をサーモスタットの端子電圧を検出しサーモスタットの開閉状態を検出することにより検出し、電池組の接続を検出した時スイッチング素子をオンさせて充電を開始させる電池組接続検出制御手段とを備え、電池組接続検出制御手段が高温でなく充電可能な電池組の接続を検出した時すなわちサーモスタットの閉状態を検出した時スイッチング素子をオンさせて充電を開始させ、
電池組接続検出制御手段が高温で充電すべきでない電池組の接続を検出した時すなわちサーモスタットの開状態を検出した時スイッチング素子をオンさせずに充電を開始させないようにすると共に電池組の温度が所定値以下に低下したらすなわちサーモスタットの閉状態を検出したら充電を自動的に開始するようにしたことを特徴とする電池の充電装置。
(3) 同請求項3記載の発明(以下「本件発明3」という。)の要旨 直列接続された複数の電池及び該電池の少なくとも1個の近傍に設けられた感温素子からなる電池組を充電する充電装置であって、充電電源と接続される電池組との間に設けられたスイッチング素子と、電池組の充電装置への接続を感温素子の端子電圧を検出することにより検出し、電池組の接続を検出した時スイッチング素子をオンさせて充電を開始させる電池組接続検出制御手段とを備え、電池組接続検出制御手段が高温でなく充電可能な電池組の接続を検出した時スイッチング素子をオンさせて充電を開始させ、電池組接続検出制御手段が高温で充電すべきでない電池組の接続を検出した時スイッチング素子をオンさせずに充電を開始させないようにすると共に電池組の温度が所定値以下に低下したら充電を自動的に開始させるようにしたことを特徴とする電池の充電装置。
3 本件決定の理由 本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、本件発明1〜3は、実願昭56-27962号(実開昭57-141640号)のマイクロフィルム(甲第3号証、以下「引用例」という。)にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができず、本件特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条の規定に基づく特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により、取り消されるべきであるとした。
原告主張の本件決定取消事由
本件決定の理由中、本件発明1〜3の各要旨の認定及び引用例の記載を摘記した部分(決定謄本2頁28行目〜3頁8行目)の認定は認める。
本件決定は、引用例記載の発明を誤認して、本件発明1〜3と引用例にそれぞれ記載された発明との一致点の認定を誤った(取消事由1、2)結果、本件発明1〜3が引用例記載の上記各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1と引用例記載の発明との一致点の認定の誤り) (1) 本件決定は、引用例に「蓄電池7及び蓄電池7の近傍に設けられた低温感温素子10からなる蓄電池組立体2が接続された時に充電を開始して接続された蓄電池組立体2を充電するようにした蓄電池の充電方法であって、蓄電池組立体2の充電器1への接続をスイッチ11の状態と低温感温素子10の端子電圧を検出することにより検出し、接続された蓄電池組立体2が所定温度T1以下になると充電を開始し、接続された蓄電池組立体2が所定温度T1以上であると充電を開始しないようにすると共に蓄電池組立体2の温度が所定温度T1以下に低下したら充電を自動的に開始するようにした蓄電池の充電方法」(決定謄本4頁13行目〜20行目)の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認定し、これを前提として、本件発明1と引用発明1とが、「電池及び電池の近傍に設けられた感温素子からなる電池組が接続された時に充電を開始して接続された電池組を充電するようにした電池の充電方法であって、電池組の充電装置への接続を感温素子の端子電圧を検出することを要件に検出し、接続された電池組が高温でない充電可能な電池組の場合充電を開始し、接続された電池組が高温で充電すべきでない電池組の場合充電を開始しないようにすると共に電池組の温度が所定値以下に低下したら充電を自動的に開始するようにした電池の充電方法」(同5頁2行目〜8行目)である点で一致するものと認定した。
しかしながら、本件決定の引用発明1の認定は、以下のとおり、「蓄電池組立体2の充電器1への接続を・・・低温感温素子10の端子電圧を検出することにより検出し」との構成を備えるとした点で誤りであり、したがって、上記引用発明1の認定を前提とする本件発明1と引用発明1と一致点の認定も誤りである。
(2) すなわち、引用例(甲第3号証)には、「蓄電池組立体2の充電器1への接続を低温感温素子10の端子電圧を検出することにより検出する」旨の明示の記載は存在しない。
のみならず、引用例には、「第3図によれば、蓄電池7の表面温度がT1より低いときに充電器1に蓄電池組立体2を接続して電源を投入すると、低温感温素子10が閉路しているから電解コンデンサ5aを充電するための大きな電流がゲート付制御素子6aのゲート回路に通電され、ゲート付制御素子6aがオン状態となり、充電が開始される。ゲート付制御素子6aは、一旦オン状態になると、ゲートに電圧が印加されなくとも、そのままオン状態を保つ性質をもっているため、充電末期に蓄電池7の表面温度が上昇してT1以上となって低温感温素子10が開路してもそのまま状態が継続される。そして表面温度がT2以上となって感温素子8が開路すると充電終了となる」(6頁2行目〜15行目)との記載及び「次に、蓄電池7の表面温度がT1より高いときに充電器1に蓄電池組立体2を接続したとすると、接続直後は低温感温素子10が開路しているので充電は開始されない。しかし、時間の経過とともに蓄電池7が冷却し、その表面温度がT1以下となって感温素子10が閉路すると、電解コンデンサ5aを充電する電流がゲート回路に流れ、
ゲート付制御素子6aがオン状態となり、充電が開始される」(7頁8行目〜16行目)との記載がある。
そして、上記各記載及び図面第3図によれば、引用例記載の発明においては、充電器1に蓄電池組立体2を接続したときに、蓄電池7の温度がT1未満で閉じ、T1以上で開く低温感温素子10が、電解コンデンサ5aを介して、ゲート付制御素子6aのゲートに接続され、その状態で電源を投入すると、低温感温素子10が閉じているとき、又は閉じたとき、すなわち、蓄電池7の温度がT1未満で充電可能な場合、又は高温からT1未満に低下して充電可能となった場合に、直流電源装置3から、蓄電池7、低温感温素子10及び電解コンデンサ5aを介してゲート付制御素子6aにゲート電流が流れ、ゲート付制御素子6aをオン状態にして充電を開始することが認められる。すなわち、引用例記載の発明は、ゲート付制御素子6aにゲート電流を流すことにより充電を開始するものであって、低温感温素子10の端子電圧を検出して充電を開始するものではない。低温感温素子10は単にゲート電流を流すスイッチとして機能するだけである。
これに加え、引用例(甲第3号証)の各記載及び図面によっても、引用例記載の発明の低温感温素子10の蓄電池7側の端子(以下「端子A」という。)は蓄電池7に、電解コンデンサ5a側の端子(以下「端子B」という。)は電解コンデンサ5aに、それぞれ接続されているだけであり、これらの端子の電圧を検出するための回路手段の記載もない。
したがって、引用例記載の発明は、蓄電池組立体2の充電器1への接続を低温感温素子10の端子電圧を検出することにより検出するものではなく、本件決定の引用発明1の認定は誤りである。
(3) 被告は、本件発明1の構成に係る「感温素子の端子電圧を検出する」ことの技術的意義は、感温素子の開閉状態を示す端子電圧を検出することにより、電池組の充電装置への接続と温度の状態を検出することにあり、その手段としては、感温素子の両端子間の電圧を検出するものだけでなく、接地電位に対する感温素子の一方の端子の電位をもって感温素子の両端子間の開閉状態を示す電圧を検出するものも含まれるとした上、引用例記載の発明においては、蓄電池7の接続状態と低温感温素子10の開閉状態とに応じて端子Bの電圧が決定され、この端子Bの電圧が検出電圧として、電解コンデンサ5aを経てゲート付制御素子6aのゲートに印加され、制御素子6aのオンオフ制御をするものであるから、端子Bの電圧を検出することにより接続状態と開閉状態とを検出している旨主張する。
しかしながら、以下のとおり、被告の上記主張は誤りである。
ア 本件発明1において「感温素子の端子電圧を検出する」ことの技術的意義が感温素子の開閉状態を検出することにあることは、被告主張のとおりである。
そして、昭和58年7月20日株式会社コロナ社第17版発行の電気用語辞典編集委員会編「新版電気用語辞典」(甲第4号証)に「端子電圧」の語義として「端子間の電圧」と記載されているとおり、「感温素子の端子電圧」とは、感温素子の両端子間の電圧を意味するものである。
被告は、本件特許明細書(甲第2号証、以下「本件明細書」という。)に、実施例に関して、「サーモスタット7bの端子電圧すなわち抵抗14cと14dの接続点の電位は接地電位となるから」(2頁右欄24行目〜26行目)との記載があることを根拠として、接地電位に対する感温素子の一方の端子の電位も、本件発明1の「感温素子の端子電圧」に含まれる旨主張する。しかしながら、サーモスタットの一方の端子を接地すれば、サーモスタットの他方の端子の接地電位に対する電圧がそのまま「端子間の電圧」と等価になることから、通常は、同実施例のように、「接地電位に対する端子の電圧」を検出することにより「端子間の電圧」を検出しているが、例えば、サーモスタットの一方の端子と接地との間に他の回路要素が挿入されると、他方の端子の接地電位に対する電圧は「端子間の電圧」とは異なるものとなる。一方の端子を接地したことにより、「接地電位に対する端子の電圧」を検出することによって「端子間の電圧」を検出する上記の例は実施例にすぎず、本件発明1において検出する電圧は、あくまでも「端子間の電圧」であって、「接地電位に対する端子の電圧」ではない。したがって、接地電位に対する感温素子の一方の端子の電位も本件発明1の「感温素子の端子電圧」に含まれるとする被告の主張は誤りである。
イ また、引用例記載の発明においては、低温感温素子10の開閉状態に応じて端子Bの電圧が決定されるものであることは被告主張のとおりである。
しかしながら、低温感温素子10の開閉状態と端子Bの電圧とは一義的な関係にはない。すなわち、引用例記載の発明において、一般にゲート付制御素子6aのカソードが接地電位で用いられるので、これを接地電位とすると、端子Bの電圧は電解コンデンサ5aの両端子間の電圧と考えることができ(制御素子6aのゲート・カソード間電圧は微弱であるから無視することができ、また、スイッチ11は充電開始から終了までの間は開いているので、その開閉状態も考慮する必要はない。)、そうすると、端子Bの電圧、すなわち電解コンデンサ5aの両端子間の電圧は、電解コンデンサ5aの充電状態によって定まることになる。そこで、充電可能な蓄電池7が充電器に接続されると、低温感温素子10の接続が閉じているので、電解コンデンサ5aに充電電流が流れ、短時間で電解コンデンサ5aが飽和することに伴って電解コンデンサ5aの両端子間の電圧(端子Bの電圧)は上昇する。電解コンデンサ5aの充電電流は、電解コンデンサ5aを経て、ゲート付制御素子6aのゲートにトリガ電流として流れ、制御素子6aがオン状態となって蓄電池7への充電が開始される。そして、低温感温素子10の接続は、端子Bの電圧が短時間で上昇した後も閉状態のままであり、蓄電池7の表面温度が所定温度T1に達すると開くが、このとき電解コンデンサ5aの両端子間の電圧(端子Bの電圧)は上昇した値のままで変化しない。
このように、低温感温素子10の開閉状態と端子Bの電圧とは一義的な関係にはなく、端子Bの電圧は低温感温素子10の開閉状態を一義的に指示しないから、端子Bの電圧を検出しても低温感温素子10の開閉状態を検出することはできない。そして、本件発明1において「感温素子の端子電圧を検出する」ことの技術的意義が感温素子の開閉状態を検出することにあることは上記のとおりであるから、引用例記載の発明において、端子Bの電圧の変化を検出することは、「低温感温素子10の端子電圧を検出する」ことに当たるものではない。
(4) 被告は、本件発明と引用発明1とが検出原理において相違するとしても、
一般に、感温素子の状態変化を、端子間の電圧を検出することにより検出する手段も、一方の端子の電圧を検出することにより検出する手段も、ともに周知慣用であり、均等手段であって、いずれを採用するかは単なる設計上の微差にすぎないから、本件決定の結論に影響を及ぼす瑕疵には当たらない旨主張する。
しかしながら、上記のとおり、感温素子の一方の端子が他の回路要素を介して接地されると、一方の端子の電圧(接地電位に対する端子の電圧)は、端子間の電圧とは異なるものであり、感温素子の開閉状態を反映するものとはならないから、上記相違点が周知慣用の手段であるとはいえず、両者が均等手段であるということもできない。
2 取消事由2(本件発明2、3と引用例記載の発明との一致点の認定の誤り) (1) 本件決定は、引用例に「蓄電池7及び蓄電池7の近傍に設けられ蓄電池温度が所定温度T1以上の時接点を開く低温感温素子10としてのサーモスタットからなる蓄電池組立体2を充電する充電器1であって、直流電源装置3と接続される蓄電池組立体2との間に設けられたゲート付制御素子6aと、蓄電池組立体2の充電器1への接続をスイッチ11の状態と低温感温素子10としてのサーモスタットの端子電圧を検出しサーモスタットの開閉状態を検出することにより検出し、蓄電池組立体2の接続を検出した時ゲート付制御素子6aをオンさせて充電を開始させる過充電防止保持回路5とを備え、過充電防止保持回路5が所定温度T1以下の蓄電池組立体2の接続を検出した時すなわち低温感温素子10としてのサーモスタットの閉状態を検出した時ゲート付制御素子6aをオンさせて充電を開始させ、過充電防止保持回路5が所定温度T1以上の蓄電池組立体2の接続を検出した時すなわち低温感温素子10としてのサーモスタットの開状態を検出した時ゲート付制御素子6aをオンさせずに充電を開始させないようにすると共に蓄電池組立体2の温度が所定温度T1以下に低下したらすなわち低温感温素子10としてのサーモスタットの閉状態を検出したら充電を自動的に開始するようにした蓄電池の充電器」(決定謄本6頁7行目〜22行目)の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認定し、これを前提として、本件発明2と引用発明2とが、「電池及び該電池の近傍に設けられ電池温度が所定値以上の時接点を開くサーモスタットからなる電池組を充電する充電装置であって、充電電源と接続される電池組との間に設けられたスイッチング素子と、電池組の充電装置への接続をサーモスタットの端子電圧を検出しサーモスタットの開閉状態を検出することを要件に検出し、電池組の接続を検出した時スイッチング素子をオンさせて充電を開始させる電池組接続検出制御手段とを備え、電池組接続検出制御手段が高温でなく充電可能な電池組の接続を検出した時すなわちサーモスタットの閉状態を検出した時スイッチング素子をオンさせて充電を開始させ、電池組接続検出制御手段が高温で充電すべきでない電池組の接続を検出した時すなわちサーモスタットの開状態を検出した時スイッチング素子をオンさせずに充電を開始させないようにすると共に電池組の温度が所定値以下に低下したらすなわちサーモスタットの閉状態を検出したら充電を自動的に開始するようにした電池の充電装置」(同7頁1行目〜13行目)である点で一致するものと認定した。
(2) また、本件決定は、引用例に「蓄電池7及び蓄電池7の近傍に設けられた低温感温素子10からなる蓄電池組立体2を充電する充電器1であって、直流電源装置3と接続される蓄電池組立体2との間に設けられたゲート付制御素子6aと、
蓄電池組立体2の充電器1への接続をスイッチ11の状態と低温感温素子10の端子電圧を検出することにより検出し、蓄電池組立体2の接続を検出した時ゲート付制御素子6aをオンさせて充電を開始させる過充電防止保持回路5とを備え、過充電防止保持回路5が所定温度T1以下の蓄電池組立体2の接続を検出した時ゲート付制御素子6aをオンさせて充電を開始させ、過充電防止保持回路5が所定温度T1以上の蓄電池組立体2の接続を検出した時ゲート付制御素子6aをオンさせずに充電を開始させないようにすると共に蓄電池組立体2の温度が所定温度T1以下に低下したら充電を自動的に開始するようにした蓄電池の充電器」(決定謄本8頁6行目〜17行目)の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認定し、これを前提として、本件発明3と引用発明3とが、「電池及び該電池の近傍に設けられた感温素子からなる電池組を充電する充電装置であって、充電電源と接続される電池組との間に設けられたスイッチング素子と、電池組の充電装置への接続を感温素子の端子電圧を検出することを要件に検出し、電池組の接続を検出した時スイッチング素子をオンさせて充電を開始させる電池組接続検出制御手段とを備え、電池組接続検出制御手段が高温でなく充電可能な電池組の接続を検出した時スイッチング素子をオンさせて充電を開始させ、電池組接続検出制御手段が高温で充電すべきでない電池組の接続を検出した時スイッチング素子をオンさせずに充電を開始させないようにすると共に電池組の温度が所定値以下に低下したら充電を自動的に開始させるようにした電池の充電装置」(同8頁31行目〜9頁4行目)である点で一致するものと認定した。
(3) しかしながら、上記取消事由1において引用発明1につき述べたと同様、
本件決定の引用発明2の認定は、「蓄電池組立体2の充電器1への接続をスイッチ11の状態と低温感温素子10としてのサーモスタットの端子電圧を検出しサーモスタットの開閉状態を検出することにより検出し」との構成を備えるとした点で誤りであり、また、本件決定の引用発明3の認定は、「蓄電池組立体2の充電器1への接続をスイッチ11の状態と低温感温素子10の端子電圧を検出することにより検出し」との構成を備えるとした点で誤りである。
したがって、上記引用発明2の認定を前提とする本件発明2と引用発明2との一致点の認定も誤りであり、また、上記引用発明3の認定を前提とする本件発明3と引用発明3との一致点の認定も誤りである。
被告の反論
本件決定の認定及び判断は正当であり、原告主張の本件決定取消事由は理由がない。
1 取消事由1(本件発明1と引用例記載の発明との一致点の認定の誤り)について (1) 原告は、引用例記載の発明は、低温感温素子10が単にゲート電流を流すスイッチとして機能するだけであって、低温感温素子10の端子電圧を検出して充電を開始するものではないから、本件決定が、引用発明1につき「蓄電池組立体2の充電器1への接続を・・・低温感温素子10の端子電圧を検出することにより検出し」との構成を備える旨認定した点は誤りであり、したがって、この認定を前提とする本件発明1と引用発明1と一致点の認定も誤りである旨主張する。
(2) しかしながら、以下のとおり、引用例記載の発明は、蓄電池組立体2の充電器1への接続を低温感温素子10の端子電圧を検出することにより検出するものであるから、原告の上記主張は誤りである。
ア 本件明細書(甲第2号証)に、「サーモスタット状態信号発生手段14は、電池組7を後述する充電装置18に接続した時のサーモスタット7bの閉状態の信号と、電池組7を充電装置18から外した時あるいは満充電によりサーモスタット7bが作動した時のサーモスタット7bの開状態の信号を発生するもので、サーモスタット7bと共に電池組接続検出手段を構成する」(2頁右欄16行目〜22行目)、「従ってマイコン12は、電池組7の接続をサーモスタット7bの状態を含めて検出判断することが可能となり、接続された電池組7が、高温で充電すべきでない電池組7かまたは高温でなく充電できる電池組7かを検出判断することが可能となる」(同欄38行目〜42行目)との各記載があるとおり、本件発明1の「電池組の充電装置への接続を感温素子の端子電圧を検出することにより検出し」との構成に係る「感温素子の端子電圧を検出する」ことの技術的意義は、感温素子の開閉状態を示す端子電圧を検出することにより、電池組の充電装置への接続と温度の状態を検出することにある。そして、「感温素子の端子電圧を検出する」手段としては、感温素子の両端子間の電圧を検出するものだけでなく、接地電位に対する感温素子の一方の端子の電位をもって感温素子の両端子間の開閉状態を示す電圧を検出するものも含まれる。
原告は、本件発明1の「感温素子の端子電圧」とは、感温素子の両端子間の電圧を意味するものであって、接地電位に対する感温素子の一方の端子の電位は含まれないと主張する。
しかしながら、一般に、「端子電圧」の語は「端子間の電圧」の意味に限定されるものではなく、「接地電位に対する端子の電圧」をも意味するものである。また、本件発明1の要旨が「感温素子の端子電圧を検出する」との規定を感温素子の両端子間の電圧を検出する構成に限定していないこと、さらに、本件明細書(甲第2号証)に、実施例に関して、「サーモスタット7bの端子電圧すなわち抵抗14cと14dの接続点の電位は接地電位となるから」(2頁右欄24行目〜26行目)との記載があり、サーモスタット7bの一方の端子が接続される、抵抗14cと14dの接続点の接地電位を感温素子の端子電圧として検出することが示されていることに照らしても、本件発明1の「感温素子の端子電圧を検出する」との規定が、「端子間の電圧を検出する」構成だけでなく、「接地電位に対する感温素子の一方の端子の電位を検出する」構成も含んでいることは明らかである。
イ 他方、引用例記載の発明においては、充電可能な蓄電池7が充電器1に接続された場合には、低温感温素子10が閉じているので、その蓄電池7側の端子(端子A)の電圧がそのまま電解コンデンサ5a側の端子(端子B)に現れ、この端子Bの電圧により、未充電状態の電解コンデンサ5aを経てゲート付制御素子6aのゲート回路にトリガ電圧が印加されて、ゲート付制御素子6aがオン状態となり、充電を開始することになる。また、充電すべきでない蓄電池7が充電器1に接続された場合には、低温感温素子10が開いているので端子Aの電圧は遮断され、
端子Bの電圧は接地電位のままでゲート付制御素子6aのゲート回路に印加されることになるから、ゲート付制御素子6aはオフ状態のままであり、充電を開始しないことになる。なお、蓄電池7が充電器1に接続されていない場合には、低温感温素子10が開いた状態と同じであるから、低温感温素子10の端子Aの電圧は接地電位のままであり、充電を開始することはない。
すなわち、引用例記載の発明においては、蓄電池7の接続状態と低温感温素子10の開閉状態とに応じて端子Bの電圧が決定され、この端子Bの電圧が検出電圧として、電解コンデンサ5aを経てゲート付制御素子6aのゲートに印加され、制御素子6aのオンオフ制御をするものであり、したがって、接地電位に対する端子Bの電位を検出することにより蓄電池7の接続状態と低温感温素子10の開閉状態とを検出していることは明らかである。
そして、本件発明1の「感温素子の端子電圧を検出する」との規定が、
接地電位に対する感温素子の一方の端子の電位を検出することも含んでいることは上記のとおりであるから、本件決定が、引用発明1が「蓄電池組立体2の充電器1への接続を・・・低温感温素子10の端子電圧を検出することにより検出し」との構成を備える旨認定したことに誤りはない。
なお、原告は、引用例記載の発明において、端子Bの電圧(電解コンデンサ5aの両端子間の電圧)は低温感温素子10の開閉状態を一義的に指示しないから、端子Bの電圧を検出しても低温感温素子10の開閉状態を検出することはできない旨主張する。
しかしながら、引用例記載の発明において、充電動作は、電解コンデンサ5aの両端子間の電圧の大きさそのものに応じて制御されるのではなくとも、上記のとおり、端子Bの電位の変化を検出することにより制御されるのであり、端子Bの電位の変化を検出するということは「感温素子の端子電圧を検出する」ことと同義である。
(3) 仮に、本件発明1の「感温素子の端子電圧を検出する」ことと引用例記載の発明の「低温感温素子10の端子Bの電圧を検出する」ことの各検出原理が、端子間の電圧を検出するか、一方の端子の電圧を検出するかの点において、技術的に異なるとしても、一般に、感温素子の状態変化を、端子間の電圧を検出することにより検出する手段も、一方の端子の電圧を検出することにより検出する手段も、ともに周知慣用であり、感温素子の状態変化を検出する作用効果及び技術的意義においても均等手段といえるものであるから、いずれを採用するかは単なる設計上の微差にすぎない。
したがって、本件決定が、引用発明1における低温感温素子10の端子電圧の検出技術に係る認定に厳密性を欠いたとしても、そのことは、引用発明1の認定ないし本件発明1と引用発明1との一致点の認定の重大な誤りをもたらすものではなく、ひいて本件決定の結論に影響を及ぼす瑕疵には当たらない。
2 取消事由2(本件発明2、3と引用例記載の発明との一致点の認定の誤り)について 本件決定の引用発明2、3の各認定に誤りがないことは、引用発明1について述べたと同様であり、したがって、本件発明2と引用発明2との一致点の認定及び本件発明3と引用発明3との一致点の認定にも誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1と引用例記載の発明との一致点の認定の誤り)について (1) 被告は、本件発明1の「感温素子の端子電圧を検出する」との規定が、感温素子の両端子間の電圧を検出することのみならず、接地電位に対する感温素子の一方の端子の電位を検出することも含んでいる旨主張し、これを前提として、引用例記載の発明が、蓄電池組立体2の充電器1への接続を低温感温素子10の端子電圧を検出することにより検出するものである旨主張する。
確かに、「端子電圧」の語義が「端子間の電圧」だけに限定され、「接地電位に対する端子の電圧」の意味を含まないとは必ずしもいい切れず、また、本件明細書(甲第2号証)の、実施例に関する「電池組7が充電装置18に接続された時、電池組7が高温ではなくサーモスタット7bの接点が閉じていれば、サーモスタット7bの端子電圧すなわち抵抗14cと14dの接続点の電位は接地電位となるから、トランジスタ14aはオフしサーモスタット状態信号発生手段14はマイコン12の入力ポート12gに論理値1の状態信号を送る。一方電池組7が高温でサーモスタット7bの接点が開いていれば、サーモスタット7bの端子電圧は、トランジスタ14aのベース・エミッタ電圧(Vbe)及び抵抗14c(R14c)、14d(R14d)によって決定される電圧(Vbe+(5-Vbe)*R14d/(R14c+R14d))となり、トランジスタ14aがオンしサーモスタット状態信号発生手段14はマイコン12の入力ポート12gに論理値0の状態信号を送る。なお電池組7が接続されていなければ、サーモスタット7bが開いた状態と同じであり、上記同様論理値0の状態信号がマイコン12に送られる」(2頁右欄22行目〜37行目)との記載によれば(なお、本件明細書(甲第2号証)の図面第1図及び技術常識に照らせば、
マイコン12は、論理値1の信号を入力したときにトランジスタ17aをオンにし、スイッチング素子5、6をオンさせて充電を行い、論理値0の信号を入力したときにはトランジスタ17aをオフにし、スイッチング素子5、6をオフさせるものと認められる。)、同実施例において、接地電位に対する感温素子(サーモスタット7b)の一方の端子の電位を検出しているといえないことはない。
しかしながら、上記記載及び本件明細書(甲第2号証)の図面第1図にかんがみれば、同実施例の回路(図面第1図)において、サーモスタット7bのサーモスタット状態信号発生手段14側と反対側の端子(以下「上側端子」という。)、トランジスタ14aのエミッタ及び+5Vの定電圧電源11はいずれも接地されており、サーモスタット7bの接点が閉じているときにサーモスタット状態信号発生手段14がマイコン12に論理値1の状態信号を送るのは、サーモスタット7bの他一方の端子(サーモスタット状態信号発生手段14側の端子、以下「下側端子」という。)の電位、すなわち抵抗14cと14dの接続点の電位が、上側端子と同様、接地電位となって、エミッタが接地されたトランジスタ14aがオフするからであり、逆にサーモスタット7bの接点が開いていれば、下側端子の電位、すなわち抵抗14cと14dの接続点の電位は、接地電位である上側端子と異なり、+5Vの定電圧電源11に由来する上記Vbe+(5-Vbe)*R14d/(R14c+R14d)の式で表されるものとなって、エミッタが接地されたトランジスタ14aがオンすることにより、サーモスタット状態信号発生手段14がマイコン12に論理値0の状態信号を送ることが認められ、このことによれば、同実施例は、感温素子(サーモスタット7b)の端子間の電圧を検出するものともいうことができる。
そして、上記事実によれば、同実施例の回路動作の上で、サーモスタット7bの上側端子、トランジスタ14aのエミッタ及び+5Vの定電圧電源11が共通に接続される限りにおいては、それらが接地されること、すなわち、サーモスタット7bの接点が閉じているときに、上側端子及び下側端子の各電位が接地電位であることは回路動作上本質的でないのに対し、サーモスタット7bの接点が開いているときに上側端子及び下側端子の電位に差があることは回路動作上本質的であると認められる。また、本件発明1の構成に係る「感温素子の端子電圧を検出する」ことの技術的意義が、少なくとも直接的には感温素子の開閉状態を示す端子電圧を検出することであることは当事者間に争いがないところ、その開閉状態を直接的かつ一義的に指示するのは端子間の電圧であるということができるから、以上によれば、本件発明1の「感温素子の端子電圧を検出する」との規定は、感温素子の両端子間の電圧を検出することを意味すると解するのが相当である。
したがって、本件発明1の「感温素子の端子電圧を検出する」との規定が、接地電位に対する感温素子の一方の端子の電位を検出することも含むとの被告の主張は採用することができず、また、このことを前提として、引用例記載の発明は、蓄電池組立体2の充電器1への接続を低温感温素子10の端子電圧を検出することにより検出するものであるとする被告の主張も採用することができない。
(2) のみならず、引用例記載の発明においては、以下のとおり、そもそも低温感温素子10の電解コンデンサ5a側の端子(端子B)の電圧を検出しているとはいえないと解すべきであるから、被告の主張はこの点においても失当である。
すなわち、引用例(甲第3号証)には、「被充電蓄電池の表面に蓄電池の充電終了時を検出する感温素子を設けてある蓄電池組立体と、該蓄電池組立体に接続する充電器とより構成される過充電防止機能を有する充電回路において、前記蓄電池組立体の感温素子と並列に充電開始時を検出する低温感温素子を接続し、前記充電器のコンデンサと抵抗器との並列回路を有する過充電防止保持回路の前記抵抗器に直列に前記充電器を前記蓄電池組立体に接続したときに開路するスイッチを接続し、前記低温感温素子は前記過充電防止回路に直列に接続する構成としたことを特徴とする充電回路」(実用新案登録請求の範囲)の発明が記載され、「第3図によれば、蓄電池7の表面温度がT1より低いときに充電器1に蓄電池組立体2を接続して電源を投入すると、低温感温素子10が閉路しているから電解コンデンサ5aを充電するための大きな電流がゲート付制御素子6aのゲート回路に通電され、
ゲート付制御素子6aがオン状態となり、充電が開始される。ゲート付制御素子6aは、一旦オン状態になると、ゲートに電圧が印加されなくとも、そのままオン状態を保つ性質をもっているため、充電末期に蓄電池7の表面温度が上昇してT1以上となって低温感温素子10が開路してもそのまま状態が継続される。そして表面温度がT2以上となって感温素子8が開路すると充電終了となる。そして、一旦充電が終了すると・・・感温素子10、8がともに閉路しても、電解コンデンサ5aがすでに充電されているため、ゲート回路に大きな電流が流れることはなく、再びゲート付制御素子がオン状態となって充電が開始されることはなく」(6頁2行目〜7頁1行目)、「次に、蓄電池7の表面温度がT1より高いときに充電器1に蓄電池組立体2を接続したとすると、接続直後は低温感温素子10が開路しているので充電は開始されない。しかし、時間の経過とともに蓄電池7が冷却し、その表面温度がT1以下となって感温素子10が閉路すると、電解コンデンサ5aを充電する電流がゲート回路に流れ、ゲート付制御素子6aがオン状態となり、充電が開始される」(7頁8行目〜16行目)との各記載がある。
上記各記載及び図面第3、第4図に照らすと、引用例記載の発明においては、低温感温素子10の電解コンデンサ5a側の端子(端子B)とゲート付制御素子6aのゲートとは、電解コンデンサ5aを介してその充電までの短期間のみ電流が流れるように接続され、また、低温感温素子10の電解コンデンサ5a側の端子(端子B)の電圧を検出する回路手段等の構成は存在しないこと、充電器1に蓄電池組立体2を接続したときに、低温感温素子10が、電解コンデンサ5aを介してゲート付制御素子6aのゲートに接続され、その状態で電源を投入すると、蓄電池7の温度がT1未満であるとき、又はT 1未満に低下したとき、すなわち、低温感温素子10が閉じているとき、又は閉じたときに、端子Bの電位が、接地電位から電解コンデンサ5aの充電電位にまで短期間に上昇し、それに伴って発生する電解コンデンサ5aを充電する大きな電流が、トリガ電流としてゲート付制御素子6aのゲート回路に通電され、ゲート付制御素子6aをオン状態にして充電を開始すること、ゲート付制御素子6aは、いったんオン状態になった後は、電解コンデンサ5aが充電され、ゲートに電圧が印加されなくなっても、そのままオン状態を保つものであって、端子Bの電圧自体によりオン状態にされるわけではないことが認められる。
そうすると、引用例記載の発明は、端子Bの電圧の変化に応じた電流又は電圧が検出されてゲート付制御素子6aのゲートに印加され、ゲート付制御素子6aをオン状態にするものというべきであり、端子Bの電圧が検出されてゲート付制御素子6aのゲートに印加されるものということはできない。すなわち、引用例記載の発明は、端子Bの電圧の変化を検出するのであって、端子Bの電圧を検出するものではないといわざるを得ない。引用例には、上記のとおり、「充電開始時を検出する低温感温素子」(実用新案登録請求の範囲)との記載があるが、「充電開始時」とは端子Bの電圧が変化する時点であり、この記載からも、引用例記載の発明が端子Bの電圧自体ではなく、その電圧の変化を検出するものであることが裏付けられるというべきである。
なお、被告は、端子Bの電位の変化を検出するということは「感温素子の端子電圧を検出する」ことと同義である旨主張するが、端子Bの電位ないし電圧の変化と端子Bの電圧自体とが、概念として異なるものであることは明白であり、仮に、上記主張が、電圧の変化を検出する前提として電圧を検出する必要があるから、結局は電圧を検出しているとの趣旨であるとしても、上記のとおり、引用例記載の発明においては、端子Bの電圧を検出する構成はなく、電解コンデンサ5aの充電電流(ゲート付制御素子6aをオン状態にするトリガ電流)の発生により、いわば直接的に端子Bの電圧の変化を検出しているというべきであるから、被告の上記主張は採用することができない。
したがって、引用例記載の発明は、端子Bの電圧を検出するという意味においてさえ、低温感温素子10の端子電圧を検出するものとはいえないから、引用例記載の発明が、蓄電池組立体2の充電器1への接続を低温感温素子10の端子電圧を検出することにより検出するものである旨の被告の主張は採用することができない。
(3) 被告は、本件発明1の「感温素子の端子電圧を検出する」ことと引用例記載の発明の「低温感温素子10の端子Bの電圧を検出する」ことの各検出原理が、
端子間の電圧を検出するか、一方の端子の電圧を検出するかの点において、技術的に異なるとしても、ともに周知慣用の手段であり、均等手段であって、いずれを採用するかは単なる設計上の微差にすぎないから、本件決定の結論に影響を及ぼす瑕疵には当たらない旨主張する。
しかしながら、引用例記載の発明が「低温感温素子10の端子Bの電圧を検出する」ものでないことは上記(2)のとおりであるから、被告の上記主張はその前提を欠くものであって、採用することができない。
(4) 以上によれば、本件決定の引用発明1の認定は、「蓄電池組立体2の充電器1への接続を・・・低温感温素子10の端子電圧を検出することにより検出し」との構成を備えるとした点で誤りであり、したがって、上記引用発明1の認定を前提とする本件発明1と引用発明1との一致点の認定も誤りである。
2 取消事由2(本件発明2、3と引用例記載の発明との一致点の認定の誤り)について 上記1において引用発明1につき述べたと同様、本件決定の引用発明2の認定は、「蓄電池組立体2の充電器1への接続をスイッチ11の状態と低温感温素子10としてのサーモスタットの端子電圧を検出しサーモスタットの開閉状態を検出することにより検出し」との構成を備えるとした点で誤りであり、また、本件決定の引用発明3の認定は、「蓄電池組立体2の充電器1への接続をスイッチ11の状態と低温感温素子10の端子電圧を検出することにより検出し」との構成を備えるとした点で誤りである。
したがって、上記引用発明2の認定を前提とする本件発明2と引用発明2との一致点の認定も誤りであり、また、上記引用発明3の認定を前提とする本件発明3と引用発明3との一致点の認定も誤りである。
3 以上のとおり、本件決定の本件発明1と引用発明1と一致点の認定、本件発明2と引用発明2との一致点の認定及び本件発明3と引用発明3との一致点の認定はいずれも誤りであるところ、この瑕疵が本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件決定は違法として取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利