関連審決 | 異議1999-72347 |
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関連ワード | 創作性(創作) / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 周知技術 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 交換 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 独立特許要件 / 訂正明細書 / 取消決定 / 異議申立 / 国際公開 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
391号
特許取消決定取消請求事件
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原告 光洋精工株式会社 訴訟代理人弁理士 青山葆 同 山崎宏 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 寺山啓進 同 杉野裕幸 同 大野克久 同 宮川久成 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/01/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年異議第72347号事件について平成12年8月29日にした決定を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和61年4月21日の特許出願に係る特願昭61-91925号出願の一部を平成9年6月30日に新たな特許出願とした特願平9-190590号出願につき平成10年10月16日に設定登録を受けた、名称を「センサー内蔵形軸受装置」とする特許第2838701号発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。 上記特許につき特許異議の申立てがされ、平成11年異議第72347号事件として特許庁に係属したところ、原告は、平成12年1月11日に願書に添付した明細書の記載を訂正する旨の訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」と、本件訂正請求に係る訂正明細書(甲第8号証)を単に「訂正明細書」という。)をし、その後さらに、訂正請求書の補正をした。 特許庁は、同特許異議の申立てにつき審理した上、平成12年8月29日、 「特許第2838701号の特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年9月20日、原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載 (1) 本件訂正前の明細書の特許請求の範囲の記載 外側軌道輪と、該外側軌道輪と2列の転動要素を介して互いに相対回転可能な内側軌道輪とからなる軸受装置であって、 外側軌道輪の内周部と内側軌道輪の外周部との間の空間部が前記転動要素を内部に含む形で密封手段により密封されて密封空間が形成されると共に、 前記密封空間内であって、前記転動要素の列と列の間で、内側軌道輪の外周部に、磁性体よりなる突起部を円周方向に配設したパルス発生器を嵌合し、 パルス発生器を、前記外側軌道輪に、径方向外側より内側に貫通させて取付け、前記パルス発生器に対向配置させたことを特徴とするセンサ内蔵形軸受装置。 (2) 訂正明細書の特許請求の範囲の記載(下線部が訂正部分である。以下、この記載に係る発明を「訂正請求発明」という。) 車体に固定 するための ボルトフランジ を有する 円筒状 ハウジング の内周部に軌道溝 を有する 外側軌道輪と、該外側軌道輪と2列の転動要素を介して互いに相対回転可能な内側軌道輪とからなる軸受装置であって、 内側軌道輪は、ハブ 軸に軌道溝 を有する 第一 の内輪 と、該第一 の内輪 の前記ハブ 軸に嵌合固定 される 第二 の内輪 とにより 構成 されており 、 外側軌道輪の内周部と内側軌道輪の外周部との間の空間部が前記転動要素を内部に含む形で密封手段により密封されて密封空間が形成されると共に、 前記密封空間内であって、前記転動要素の列と列の間で、内側軌道輪の前記第一 の内輪 の外周部に、磁性体よりなる突起部を円周方向に配設したパルス発生器を嵌合し、 パルス検出器を、前記外側軌道輪に、径方向外側より内側に貫通させて取付け、前記パルス発生器に対向配置させたことを特徴とするセンサー内蔵形軸受装置。 3 本件決定の理由 本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、@訂正請求書の補正につき、 訂正請求書の要旨を変更するものであるから、特許法120条の4第3項(注、 「平成11年法律第41号による改正前の特許法120条の4第3項」の趣旨と解される。)において準用する同法131条2項の規定に反するものであって、採用しないとし、A本件訂正請求につき、訂正請求発明は、いずれも特願昭61-91925号出願の特許出願前に頒布された刊行物である「国際公開82/03828パンフレット」(甲第3号証、以下「刊行物1」といい、そこに記載された発明を「刊行物発明1」という。)、米国特許第3793545号明細書(甲第4号証、 以下「刊行物2」という。)、英国特許第1386020号明細書(甲第5号証、 以下「刊行物3」という。)及び実願昭59-7270号(実開昭59-165203号)のマイクロフィルム(甲第6号証、以下「刊行物4」という。)にそれぞれ記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができず、特許法120条の4第3項で規定する訂正の要件については、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の規定により「なお、従前の例による」とされる、改正前の特許法126条3項の規定(注、「特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項が、同法の施行前にした特許出願に係る特許の願書に添付した明細書又は図面の訂正については、 なお従前の例によるとすることにより、平成11年法律第41号による改正前の特許法120条の4第3項において準用する同法126条4項が読み替えられて準用される特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)による改正前の特許法126条3項の規定」の趣旨と解される。)に適合しないので、本件訂正は認められないとし、B本件発明の要旨を、本件訂正前の明細書の特許請求の範囲の記載のとおり認定した上、本件発明は、刊行物1〜3にそれぞれ記載された発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し(注、「本件発明についての特許は特許法29条2項の規定により拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条に基づく特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により」の趣旨であると解される。)、取り消されるべきものであるとした。 |
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原告主張の本件決定取消事由
本件決定の理由中、「訂正の適否についての判断」(決定謄本1頁下から4行目〜7頁20行目)に関しては、訂正請求書の補正を採用しないとした判断、訂正請求発明の要旨の認定、刊行物1〜4の記載を摘記した部分(同3頁23行目〜5頁24行目)の認定、訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(2)及び(3)の各認定を認める。「特許異議申立てについて」(同7頁21行目〜8頁33行目)に関しては、本件発明の要旨の認定、刊行物1〜3の記載についての認定、本件発明と刊行物発明1との一致点及び相違点の各認定を認める。 本件決定は、「訂正の適否についての判断」において、訂正請求発明と刊行物発明1との一致点及び相違点(1)の各認定を誤り(取消事由1)、相違点(1)〜(3)についての判断を誤った(取消事由2〜4)結果、訂正請求発明が刊行物1〜4に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨の誤った判断により、独立特許要件を欠くとして本件訂正請求を認めず、ひいては、本件発明の要旨の認定を誤ったものであり、仮に、本件訂正請求が認められないとしても、本件発明と刊行物発明1との相違点(1)、(2)についての判断を誤って(取消事由5)、本件発明が、刊行物1〜3にそれぞれ記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(訂正請求発明と刊行物発明1との一致点及び相違点(1)の認定の誤り) (1) 本件決定は、「訂正請求発明と刊行物1に記載された発明(注、刊行物発明1)とを対比すると、刊行物1記載の・・・『回転フランジ2』、・・・『フィン12』、『アンチロックセンサー9』は、それぞれ、訂正請求発明の・・・『内側軌道輪』、・・・『突起部を円周方向に配設したパルス発生器』、『パルス検出器』に相当する。・・・また、刊行物1記載の回転フランジ2の中空ホイール8として形成された軸のごとき突起には、その全周上に球6および7用に設けられた2本の案内溝が設けられており、この2本の案内溝は訂正請求発明の軌道溝に相当する。・・・刊行物1記載の『球軸受そのものは、一方でカバーリング10により、 また他方でパッキン15により、外部に対して密閉されている』ことは、訂正請求発明における『外側軌道輪の内周部と内側軌道輪の外周部との間の空間部が前記転動要素を内部に含む形で密封手段により密封されて密封空間が形成される』ことと異ならない」(決定謄本5頁26行目〜6頁6行目)とした上、訂正請求発明と刊行物発明1とが、「車体に固定するためのボルトフランジを有する円筒状ハウジングの内周部に軌道溝を有する外側軌道輪と、該外側軌道輪と2列の転動要素を介して互いに相対回転可能な内側軌道輪とからなる軸受装置であって、内側軌道輪は、 ハブ軸に軌道溝を有する第一の内輪により構成されており、外側軌道輪の内周部と内側軌道輪の外周部との間の空間部が前記転動要素を内部に含む形で密封手段により密封されて密封空間が形成されると共に、前記密封空間内であって、前記転動要素の列と列の間で、内側軌道輪の前記第一の内輪の外周部に、突起部を円周方向に配設したパルス発生器を設け、パルス検出器を、前記外側軌道輪に取付け、前記パルス発生器に対向配置させたセンサー内蔵形軸受装置」(同6頁7行目〜16行目)である点で一致する旨認定し、かつ、「パルス発生器が、訂正請求発明は、磁性体よりなり、第一の内輪の外周部に嵌合されるのに対して、刊行物1記載の発明は、材質に関して記載されておらず、第一の内輪の外周部に直接形成されている点」(同頁18行目〜20行目)を、訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(相違点(1))と認定した。 しかしながら、上記一致点の認定及び相違点(1)の認定は、下記のとおり誤りである。 (2) 本件決定は、刊行物発明1の「回転フランジ2」が訂正請求発明の「内側軌道輪」に相当するとするが、訂正請求発明の内側軌道輪2は、第一の内輪51と第二の内輪52との二つからなり、それぞれに軌道溝が形成されているのに対し、 刊行物発明1の回転フランジ2は一体のものであり、その中空ホイール8に2本の案内溝が形成されている。すなわち、刊行物発明1には訂正請求発明の「第一の内輪」に相当するものが存在せず、それゆえ、2本の案内溝は、「第一の内輪の軌道溝」には当たらない。したがって、一致点の認定中、訂正請求発明と刊行物発明1とが、「内側軌道輪は、ハブ軸に軌道溝を有する第一の内輪により構成されて」いる点及び「内側軌道輪の前記第一の内輪の外周部に、突起部を円周方向に配設したパルス発生器を設け」た点で一致するとしたことは誤りであり、また、相違点(1)の認定中、「パルス発生器が・・・刊行物1記載の発明は・・・第一の内輪の外周部に直接形成されている」としたことも誤りである。 なお、訂正明細書(甲第8号証)記載の特許請求の範囲は、第二の内輪に軌道溝があることを規定してはいないが、「JIS用語辞典 U機械編」(甲第10号証)に、「内輪」の意味として「軸にはめ合わせる軌道輪」と、「軌道輪」の意味として「軸受の内輪、外輪及びスラスト軸受の中央輪」と、それぞれ掲記されている(189頁)ように、第二の内輪も軌道輪であって、軌道が存在することに加え、願書に添付した図面のうち実施例を表す図1、2において、第二の内輪にも軌道溝があることが示されており、訂正請求発明を認定するに当たり、このように明細書及び図面に実施例として示されている内容と全く合致しないように解釈することは不自然である。 (3) 本件決定は、刊行物発明1の「フィン12」が訂正請求発明の「突起部を円周方向に配設したパルス発生器」に相当するとするが、訂正請求発明のパルス発生器6は、第一の内輪51の外周部に嵌合したもので、第一の内輪51とは別体であるのに対し、刊行物発明1のフィン12は、中空ホイール8に一体に形成されたものであるから、これが訂正請求発明のパルス発生器6に相当するとはいえない。 したがって、一致点の認定中、訂正請求発明と刊行物発明1とが、「内側軌道輪の前記第一の内輪の外周部に、突起部を円周方向に配設したパルス発生器を設け」た点で一致するとしたことは、この点においても誤りである。 (4) 本件決定は、刊行物発明1の「アンチロックセンサー9」が訂正請求発明の「パルス検出器」に相当するとするが、訂正請求発明のパルス検出器7は、外側軌道輪1に、径方向外側より内側に貫通させて取り付けているのに対し、刊行物発明1のアンチロックセンサー9は、固定フランジ1の突起13内に完全に埋め込まれており、固定フランジ1を貫通するものではないから、これが訂正請求発明のパルス検出器7に相当するとはいえない。したがって、一致点の認定中、訂正請求発明と刊行物発明1とが、「パルス検出器を、前記外側軌道輪に取付け」た点で一致するとしたことは誤りである。 (5) 本件決定は、刊行物発明1における「球軸受そのものは、一方でカバーリング10により、また他方でパッキン15により、外部に対して密閉されている」ことが、訂正請求発明における「外側軌道輪の内周部と内側軌道輪の外周部との間の空間部が前記転動要素を内部に含む形で密封手段により密封されて密封空間が形成される」ことと異ならないとするが、訂正請求発明の密封手段4は、接触作用によって密封するものであり、それゆえに密封空間5が形成されるものであるのに対し、刊行物発明1のカバーリング10は、小さな隙間をもってするシールであるラビリンスシールをするものと考えるのが自然である。したがって、刊行物発明1のカバーリング10は、訂正請求発明の密封手段とは異なるものであるから、一致点の認定中、訂正請求発明と刊行物発明1とが、「外側軌道輪の内周部と内側軌道輪の外周部との間の空間部が前記転動要素を内部に含む形で密封手段により密封されて密封空間が形成される」点で一致するとしたことは誤りである。 2 取消事由2(訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(1)についての判断の誤り) (1) 本件決定は、上記訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(1)について、 「パルス発生器の材質として磁性体を用いることは周知・・・であり、また、刊行物2には、ローターリング3(パルス発生器に相当する)を別部材として駆動軸2に嵌合したものが記載されている。よって、相違点(1)は、刊行物1記載のパルス発生器に、材質として上記周知の磁性体を採用し、第一の内輪に直接形成することに代えて刊行物2記載の別部材のものを嵌合する技術を適用することにより、当業者がきわめて容易に想到し得る事項である」(決定謄本6頁27行目〜35行目)と判断したが、下記のとおり誤りである。 (2) まず、刊行物発明1のパルス発生器を「第一の内輪に直接形成することに代えて」とする判断は、刊行物発明1に「第一の内輪」が存在することを前提とするが、上記1の(2)のとおり、刊行物発明1には訂正請求発明の「第一の内輪」に相当するものが存在しないのであるから、上記判断部分はその前提を誤っている。 また、刊行物発明1の中空ホイール8は、先端部が中央部よりも大径になっているから、中空ホイール8の中央部に、別体のパルス発生器を嵌合することはできない。刊行物発明1では、そのために、中空ホイール8に一体にフィン12(パルス発生器)を形成しているのであり、刊行物発明1に別体のパルス発生器を適用する余地はない。 他方、刊行物2記載の発明は、訂正請求発明の軌道溝を有する内側軌道輪に相当するものを有しておらず、パルス発生器に相当するローターリング3は駆動軸2に嵌合しており、これを駆動軸に嵌合するために、駆動軸を段付きとするとともに、別部品の円錐コロ軸受23、24を用いている。 したがって、刊行物発明1の中空ホイール8の一体のフィン12(パルス発生器)に代えて、刊行物2記載の発明の別部材のパルス発生器を適用しようとしても、そのままでは、中空ホイール8にパルス発生器3を嵌合することができず、 仮に適用しようとすれば、刊行物発明1の中空ホイール8の外周部を段付きの構造にし、さらに、別部品の円錐コロ軸受が必要となって、結局、刊行物2記載の発明と同じ構造になってしまい、訂正請求発明の構成には至らない。 3 取消事由3(訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(2)についての判断の誤り) (1) 本件決定は、訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(2)として認定した「パルス検出器が、訂正請求発明は、外側軌道輪に、径方向外側より内側に貫通させて取付けるのに対して、刊行物1記載の発明(注、刊行物発明1)は、外側軌道輪に、内部に埋め込まれて取付ける点」(決定謄本6頁21行目〜23行目)につき、「刊行物2記載の端子箱7及び刊行物3記載のステータ19は、いずれも径方向に貫通して取付けられているから、刊行物1記載の埋め込んで取付けることに代えて、刊行物2、3記載の技術を適用して、径方向外側より内側に貫通させて取付けることは当業者であれば容易になし得る事項である」(同6頁36行目〜7頁1行目)と判断した。 確かに、刊行物2、3には、それぞれパルス検出器に相当する端子箱又はステータを径方向に貫通して取り付けることが記載されているが、これらの技術を適用して、刊行物発明1の内部に埋め込まれて取り付けられているパルス検出器を、貫通させて取り付けることにすることが当業者に容易であるとすることは、下記のとおり誤りである。 (2) すなわち、刊行物1(甲第3号証)には、「従来公知となっている全ての種類のセンサー」(同号証訳文1頁8行目)につき、「上記センサーがカプセル形式として部分的に自由に出し入れ可能となるように車輪懸垂装置に取り付けられており、ケーブルも同じく比較的自由に懸垂されていることは欠点である。この構造方式の場合、上記センサーも、ケーブルも激しい酷使に曝されており、このため、 しかるべき頑丈な構造方式により補正されなければならない」(同頁11行目〜15行目)と記載されており、刊行物発明1は、その欠点を解決するために、特許請求の範囲の請求項1に「前記センサー(9)は上記車輪軸受(3)の固定フランジ(1)に埋め込まれている」(同4頁8行目〜9行目)と、また、同請求項6に「前記センサー(9)は、該センサーが完全に包囲されるように前記フランジ(1)に埋め込まれている」(同頁22行目〜末行)と規定されている構成を採用したものである。 そうすると、刊行物1には、センサー(パルス検出器)を貫通させて取り付けることに対する否定的な記載があり、この記載が、センサーを貫通させる構成を採用することを妨げることは明らかである。したがって、刊行物2、3記載の技術を適用して、刊行物発明1のセンサーが完全に埋め込まれた構成を、貫通させて取り付ける構成にすることが、当業者にとって容易でないことは明白である。 4 取消事由4(訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(3)についての判断の誤り) (1) 本件決定は、訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(3)として認定した「内側軌道輪が、訂正請求発明は、第一の内輪と、第一の内輪のハブ軸に嵌合固定される第二の内輪とにより構成されるのに対して、刊行物1記載の発明(注、刊行物発明1)は、第一の内輪単独で構成される点」(決定謄本6頁24行目〜26行目)につき、「刊行物4に、軌道9を備えた内側レース8が記載されており、さらに内側レース8は2つの環状機素14、15からなる点も記載されている。また、 刊行物1記載の発明と刊行物4記載の発明とは、車軸の軸受装置という点で同一技術分野に属するといえるから、刊行物1記載の発明に刊行物4記載の発明を適用して、内側軌道輪を第一の内輪と第一の内輪のハブ軸に嵌合固定される第二の内輪とにより構成することは、当業者であれば容易に想到し得る事項である」(同7頁2行目〜8行目)と判断した 確かに、刊行物4には、内側軌道輪(内側レース)8を第一の内輪(環状機素)14と第二の内輪(環状機素)15で構成することが記載されているが、本件決定の上記判断は、以下のとおり誤りである。 (2) すなわち、刊行物4記載の発明は、パルス発生器やパルス検出器とは何の関係もない単なる軸受装置である。刊行物発明1のような非分割一体の中空ホイール8にフィン12(パルス発生器)を一体に形成したセンサー内蔵形軸受装置に、 単なる軸受装置であって、内側軌道輪を第一の内輪と第二の内輪とで構成した刊行物4記載の発明を組み合わせる動機ないし契機は存在しない。 また、訂正請求発明において、「内側軌道輪は、ハブ軸に軌道溝を有する第一の内輪と、該第一の内輪の前記ハブ軸に嵌合固定される第二の内輪とにより構成」することは、別体のパルス発生器の圧入状態または密な嵌合状態での通過距離を小さくすることができ、したがって、パルス発生器の取付け時に、焼付き、かじり等が生じなくて、パルス発生器の組付けが確実、容易にできるという作用効果を奏するものである。すなわち、相違点(3)に係る上記構成は、訂正請求発明の「内側軌道輪の前記第一の内輪の外周部に、磁性体よりなる突起部を円周方向に配設したパルス発生器を嵌合」する構成と密接な関係及び相互作用を有するのである。これに反し、刊行物1及び刊行物4には、そのような記載はなく、そもそも別体のパルス発生器は、刊行物1、4に記載されていないから、上記のような密接な関係及び相互作用の前提を欠くものである。 5 取消事由5(本件発明と刊行物発明1との相違点(1)、(2)についての判断の誤り) 仮に、本件訂正請求が認められず、本件発明の要旨を、本件訂正前の明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて認定すべきであるとしても、本件決定がした本件発明と刊行物発明1との相違点(1)、(2)についての判断は誤りである。 すなわち、本件決定は、上記相違点(1)として認定した「パルス発生器が、訂正請求発明(注、「本件発明」の誤記と認められる。)は、磁性体よりなり、内側軌道輪の外周部に嵌合されるのに対して、刊行物1記載の発明は、材質に関して記載されておらず、内側軌道輪の外周部に直接形成されている点」(決定謄本8頁13行目〜15行目)につき「上記『2.(エ)』(注、訂正請求発明と刊行物発明1との対比・判断)における相違点(1)と実質的に異ならないので同様にして、相違点(1)は、刊行物1記載のパルス発生器に、材質として上記『2.(エ)』記載の周知の磁性体を採用し、内側軌道輪に直接形成することに代えて刊行物2記載の別部材のものを嵌合する技術を適用することにより、当業者がきわめて容易に想到し得る事項である」(同頁21行目〜24行目)と判断したが、この判断が誤りであることは、上記取消事由2と同様である。 また、本件決定は、本件発明と刊行物発明1との相違点(2)として認定した「パルス検出器が、訂正請求発明(注、「本件発明」の誤記と認められる。)は、 外側軌道輪に、径方向外側より内側に貫通させて取付けるのに対して、刊行物1記載の発明は、外側軌道輪に、内部に埋め込まれて取付ける点」(同頁16行目〜18行目)につき「上記『2.(エ)』における相違点(2)と実質的に異ならないので同様にして、刊行物1記載の埋め込んで取付けることに代えて、刊行物2、3記載の技術を適用して、径方向外側より内側に貫通させて取付けることは当業者であれば容易になし得る事項である」(同頁25行目〜28行目)と判断したが、この判断が誤りであることは、上記取消事由3と同様である。 |
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被告の反論
本件決定の認定及び判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(訂正請求発明と刊行物発明1との一致点及び相違点(1)の認定の誤り)について (1) 原告は、刊行物発明1には訂正請求発明の「第一の内輪」に相当するものが存在しないから、一致点の認定中、訂正請求発明と刊行物発明1とが、「内側軌道輪は、ハブ軸に軌道溝を有する第一の内輪により構成されて」いる点及び「内側軌道輪の前記第一の内輪の外周部に、突起部を円周方向に配設したパルス発生器を設け」た点で一致するとしたことは誤りであり、また、相違点(1)の認定中、「パルス発生器が・・・刊行物1記載の発明は・・・第一の内輪の外周部に直接形成されている」としたことも誤りである旨主張する。 しかしながら、「軌道」とは、軌道輪で転動体が転がる部分をいい、肩又は案内つばが転動体を抱くような形で溝状を成している「軌道溝」の形態をとる場合と、軌道溝という形態をとらない場合とがあるところ、訂正明細書記載の特許請求の範囲は第二の内輪に軌道溝があることを規定してはいないから、訂正請求発明の第二の内輪は軌道溝があるものに限定されない。そうすると、第二の内輪の軌道の機能は、転動要素が転がる部分となるというものではあるが、溝によって転動要素の軌道を画定するという軌道溝の機能を必ずしも有するものではない。したがって、第二の内輪は、訂正明細書記載の特許請求の範囲において軌道溝を有することが規定されている第一の内輪とは異なる機能を有するものであるから、その構成については、内側軌道輪の構成として分離し、別途判断することが可能である。 また、内側軌道輪を第一の内輪と第二の内輪とに分割することは、転動要素を組み付ける際の障害を取り除くという機能を有するものであり、この機能は、 転動要素の転がる部分となるという軌道の機能自体とは異なるものである。この点からも、内側軌道輪を第一の内輪と第二の内輪とに分割する点を分離して別途判断することが可能となるものである。 したがって、本件決定は、内側軌道輪を第一の内輪と第二の内輪とに分割する点は除外して訂正請求発明と刊行物発明1との一致点を認定し、その点は相違点(3)として別途認定したものである。そして、その際、刊行物発明1の2本の案内溝を有する中空ホイール8が、ハブ軸に軌道溝を有する訂正請求発明の第一の内輪の機能を有することは、上記「2本の案内溝」が「軌道溝」の機能を有することを含めて明らかであるので、本件決定は、「この2本の案内溝は訂正請求発明の軌道溝に相当する」と認定した上、「内側軌道輪は、ハブ軸に軌道溝を有する第一の内輪により構成されて」いる点を一致点とし、また、「内側軌道輪の前記第一の内輪の外周部に、突起部を円周方向に配設したパルス発生器を設け」た点を一致点に含め、相違点(1)の認定において「パルス発生器が・・・刊行物1記載の発明は・・・第一の内輪の外周部に直接形成されている」としたものであって、これらの各認定に誤りはない。 (2) 原告は、訂正請求発明のパルス発生器が第一の内輪とは別体であるのに対し、刊行物発明1のフィンは中空ホイールに一体に形成されたものであるから、これが訂正請求発明のパルス発生器に相当するとはいえず、訂正請求発明と刊行物発明1とが「内側軌道輪の前記第一の内輪の外周部に、突起部を円周方向に配設したパルス発生器を設け」た点で一致するとした本件決定は誤りである旨主張する。 しかしながら、刊行物1(甲第3号証)の記載によれば、刊行物発明1は、中空ホイール8の外面に突起部を円周方向に配したフィン12が設けられ、このフィン12が回転することによりセンサーの中でパルスを発振しているのであるから、フィン12が訂正請求発明の「突起部を円周方向に配したパルス発生器」に相当することは明らかである。パルス発生器を中空ホイール8(第一の内輪)と一体のものとしたか、別体のものとしたかは、パルス発生器自体の備えるべき機能とは直接関係がないから、本件決定は、この点を除外して一致点を認定した上で、一体(第一の内輪に直接形成)か、別体(第一の内輪に嵌合)かは、相違点(1)として認定したものであり、この点に関する本件決定の認定に誤りはない。 (3) 原告は、訂正請求発明のパルス検出器が外側軌道輪に貫通させて取り付けているのに対し、刊行物発明1のアンチロックセンサーは、固定フランジ1の突起13内に完全に埋め込まれているから、これが訂正請求発明のパルス検出器7に相当するとはいえず、訂正請求発明と刊行物発明1とが、「パルス検出器を、前記外側軌道輪に取付け」た点で一致するとした本件決定は誤りである旨主張する。 しかしながら、刊行物1(甲第3号証)の記載によれば、刊行物発明1において、アンチロックセンサー9がパルスを検出するという機能を有するものであって、訂正請求発明の「パルス検出器」に相当することは明らかである。パルス検出器が固定フランジ1の突起13内に埋め込まれているか、貫通して設けられているかは、パルス検出器のパルスを検出するという機能自体とは直接関係がないから、本件決定は、この点を除外して一致点を認定した上で、パルス検出器が外側軌道輪1に貫通させて取り付けているか、埋め込まれて取り付けているかは、相違点(2)として認定したものであり、この点に関する本件決定の認定に誤りはない。 (4) 原告は、刊行物発明1のカバーリング10が、小さな隙間をもってするシールであるラビリンスシールをするものであり、訂正請求発明の接触作用によってする密封手段とは異なるものであるから、訂正請求発明と刊行物発明1とが、「外側軌道輪の内周部と内側軌道輪の外周部との間の空間部が前記転動要素を内部に含む形で密封手段により密封されて密封空間が形成される」(決定謄本6頁11行目〜12行目)点で一致するとしたことは誤りである旨主張する。 しかしながら、刊行物1(甲第3号証)は、「球軸受そのものは、一方でカバーリング10により、また他方でパッキン15により、外部に対して密閉されている」(同号証訳文2頁10行目〜12行目)との記載のとおり、カバーリング10によるものとパッキン15によるものとを総称して「密閉する」としており、 これをラビリンスシールに限定して解すべき理由はない。 他方、訂正明細書の特許請求の範囲に「密封手段により密封されて密封空間が形成される」と記載されているにとどまることからして、訂正請求発明の密封手段を接触作用によってする密封手段に限定して解することもできない。 したがって、訂正請求発明の接触作用によってする密封手段とは異なるものであるとする原告の主張は採用することができず、本件決定が、「刊行物1記載の『球軸受そのものは、一方でカバーリング10により、また他方でパッキン15により、外部に対して密閉されている』ことは、訂正請求発明における『外側軌道輪の内周部と内側軌道輪の外周部との間の空間部が前記転動要素を内部に含む形で密封手段により密封されて密封空間が形成される』ことと異ならない」(決定謄本6頁2行目〜6行目)との認定に基づいてした上記一致点の認定に誤りはない。 2 取消事由2(訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(1)についての判断の誤り)について 原告は、刊行物発明1には訂正請求発明の「第一の内輪」に相当するものが存在しないから、刊行物発明1のパルス発生器を「第一の内輪に直接形成することに代えて」とする本件決定の判断が誤りであると主張するが、相違点(1)において、 「パルス発生器が・・・刊行物1記載の発明は・・・第一の内輪の外周部に直接形成されている」とした本件決定の認定に誤りがないことは上記1の(1)のとおりである。 また、原告は、刊行物発明1の中空ホイール8は、先端部が中央部よりも大径になっているから、その中央部に別体のパルス発生器を嵌合することはできず、 刊行物発明1に刊行物2記載の別体のパルス発生器を適用する余地はない旨主張するが、刊行物1(甲第3号証)には、「回転フランジ2の中空ホイール8として形成された軸のごとき突起には、その全周上に上記球6および7用の2本の案内溝が設けられている。これらの溝間において、上記中空ホイールは再び太くなり、軸方向へ延びる溝12が設けられており」(同号証訳文2頁13行目〜16行目)との記載はあっても、中空ホイールの先端部が中央部よりも大径である旨の記載はないから、原告の上記主張は、刊行物1の記載に基づかないものである。 なお、刊行物1の第1図及び第2図は、刊行物発明1の中空ホイール8の先端部が太くなるかのように描かれているが、刊行物1に「図示されている車輪軸受に代えて、固定内側軸受部品および回転外側軸受部品を備えるタイプであって、駆動軸へ埋め込む必要のないものを使用することも同様に可能である。」(同号証訳文3頁19行目〜末行)と記載されているとおり、刊行物発明1の態様を上記各図面に記載されたものに限定する必要はない。 さらに、仮に中空ホイール8の先端部が中央部より大径であるとしても、刊行物発明1に刊行物2記載の発明の別部材のパルス発生器を適用することが困難であるとはいえない。 すなわち、刊行物2(甲第4号証)の第3図では、駆動軸2にローターリング3(パルス発生器)を挟んで円錐コロ軸受23、24が設けられているが、円錐コロ軸受23の内側支持体は駆動軸2の段部に嵌合しており、駆動軸2とは別体であることが表されている。したがって、刊行物2には、別体のローターリング3を軸方向から挿入する場合に、障害となる部材(円錐コロ軸受23の内側支持体)を別体とする技術思想が示されているといい得るところ、このことにかんがみれば、 刊行物発明1に刊行物2記載の別体のパルス発生器を適用するに当たって、中空ホイール8の端部が大径になっていたとしても、パルス発生器を嵌合することができないというほどのことではなく、この程度のことはその適用に際し当業者が通常の創作活動においてし得る程度のことにすぎない。 したがって、本件決定の相違点(1)についての判断に誤りはない。 3 取消事由3(訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(2)についての判断の誤り)について 原告は、刊行物1に、センサー(パルス検出器)を貫通させて取り付けることに対する否定的な記載があるから、刊行物2、3記載の技術を適用して、刊行物発明1のセンサーが完全に埋め込まれた構成を、貫通させて取り付ける構成にすることは容易ではないと主張する。 しかしながら、刊行物1(甲第3号証)に原告主張の記載があるからといって、それが、センサーを貫通させて取り付けることに対する否定的な記載であるということはできない。 すなわち、刊行物1には、「従来公知となっている全ての種類のセンサーの埋込みまたは取付ける場合において、センサーと、車輪と共に回転して、このセンサーと相互に作用する部品とを埋め込むことが、車両の組み立てを複雑にし、かつその価格を上げること」(同号証訳文1頁8行目〜10行目)との記載があり、 「ならびに」との語によって原告主張の記載に至っているのであるから、刊行物1は、センサーにつき、埋込方式と、取付方式(貫通させる場合が含まれる。)とのそれぞれの欠点を併記した上で、「上述した諸欠点のないアンチロック装置を提供する」(同頁16行目)ために、一例として埋込方式を利用して従来の欠点を解決した発明を記載したものである。しかしながら、埋込方式のものであっても、埋め込まれたセンサーから外側へ引き出されるケーブルの出口部分については取付方式を利用しなければならず、埋め込まれた部分を除けば両方式にそれほどの技術的差異はないから、刊行物1が、取付方式(貫通する形式)を利用した上で従来の欠点を解決したものの適用可能性までも否定する趣旨とは解されない。 また、刊行物2、3には、取付方式(貫通する形式)によるものが記載されており、かつ、それらは補正を要しないほどに頑丈な構造方式によるものであることが明らかである。 したがって、刊行物2、3記載の技術を適用して、刊行物発明1のセンサーが完全に埋め込まれた構成を、貫通させて取り付ける構成にすることは当業者において容易にし得ることというべきであり、その旨の本件決定の判断に誤りはない。 4 取消事由4(訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(3)についての判断の誤り)について 原告は、刊行物発明1のような非分割一体の中空ホイール8にフィン12(パルス発生器)を一体に形成したセンサー内蔵形軸受装置に、パルス発生器やパルス検出器とは何の関係もない単なる軸受装置であって、内側軌道輪を第一の内輪と第二の内輪とで構成した刊行物4記載の発明を組み合わせる動機ないし契機は存在しない旨主張する。 しかしながら、刊行物4記載の発明のように、内側軌道輪を第一の内輪と第二の内輪とにより構成することは、実願昭58-155649号(実開昭60-64101号)のマイクロフィルム(乙第1号証)及び特公昭49-19361号公報(乙第2号証)にも記載されており、軸受装置の分野において周知の構成であるから、パルス発生器やパルス検出器を有してはいるものの、軸受装置であることに変わりのない刊行物1のセンサー内蔵形軸受装置に、刊行物4記載の発明を適用することに困難性はない。 また、原告は、訂正請求発明において、内側軌道輪を第一の内輪と第二の内輪とにより構成することは、パルス発生器の組付けが確実、容易にできるという作用効果を奏するものであり、相違点(3)に係る上記構成は、訂正請求発明の「内側軌道輪の前記第一の内輪の外周部に、磁性体よりなる突起部を円周方向に配設したパルス発生器を嵌合」する構成と密接な関係及び相互作用を有する旨主張する。 しかしながら、上記2(相違点(1)についての判断)のとおり、刊行物2には、別体のローターリング3を軸方向から挿入する場合に障害となる部材を別体とする技術思想が示されており、本件決定は、このことを前提として、相違点(1)についての判断において刊行物発明1に刊行物2記載の発明を適用したものであるから、相違点(3)についての判断において、パルス発生器の組付けと第一の内輪及び第二の内輪との関係についてまで判断する必要はない。 仮に、相違点(3)についての判断において、上記の点を判断すべきであるとしても、刊行物4記載の第一の内輪と第二の内輪とは、組付けにおいて障害となる内側軌道輪を分割したものであると解されるから、パルス発生器が組付けの障害となる場合に、同様の障害の除去の機能を有する刊行物4記載の発明を適用することに問題はない。 したがって、本件決定の相違点(3)についての判断に誤りはない。 5 取消事由5(本件発明と刊行物発明1との相違点(1)、(2)についての判断の誤り)について 本件発明と刊行物発明1との相違点(1)、(2)についての本件決定の判断に誤りがないことは、上記2及び3と同様である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正請求発明と刊行物発明1との一致点及び相違点(1)の認定の誤り)について (1) 原告は、訂正請求発明の内側軌道輪2は、第一の内輪51と第二の内輪52との二つからなり、それぞれに軌道溝が形成されているのに対し、刊行物発明1の回転フランジ2は一体のものであり、その中空ホイール8に2本の案内溝が形成されているから、刊行物発明1には訂正請求発明の「第一の内輪」に相当するものが存在しないとし、本件決定の一致点の認定中、訂正請求発明と刊行物発明1とが、「内側軌道輪は、ハブ軸に軌道溝を有する第一の内輪により構成されて」(決定謄本6頁10行目〜11行目)いる点及び「内側軌道輪の前記第一の内輪の外周部に、突起部を円周方向に配設したパルス発生器を設け」(同頁13行目〜15行目)た点で一致するとしたことは誤りであり、また、相違点(1)の認定中、「パルス発生器が・・・刊行物1記載の発明(注、刊行物発明1)は・・・第一の内輪の外周部に直接形成されている」(同頁18行目〜20行目)としたことは誤りである旨主張する。そして、上記主張内容に照らすと、原告は、要するに、刊行物発明1の内側軌道輪は、単独の内輪によって構成されており、訂正請求発明の「第二の内輪」に相当するものが存在しないから、当該単独の内輪は「第一の内輪」に当たらないことをいうものと解される。 しかしながら、本件決定は、相違点(3)において、「内側軌道輪が、訂正請求発明は、第一の内輪と、第一の内輪のハブ軸に嵌合固定される第二の内輪とにより構成されるのに対して、刊行物1記載の発明は、第一の内輪単独で構成される点」(同頁24行目〜26行目)を認定しているのであるから、本件決定が、上記一致点の認定において「内側軌道輪は・・・第一の内輪により構成されて」いるとしたのは、内側軌道輪が「単独の内輪」によって構成されているとの趣旨を含むものでないことはもとより、内側軌道輪に「第一の内輪」のほか「第二の内輪」が存在することを前提とする趣旨を含むものでもないことは明らかであり、このことに、本件決定の「刊行物1記載の回転フランジ2の中空ホイール8として形成された軸のごとき突起には、その全周上に球6および7用に設けられた2本の案内溝が設けられており、この2本の案内溝は訂正請求発明の軌道溝に相当する」(同5頁33行目〜35行目)との認定を併せ考えれば、本件決定は、内側軌道輪を構成する軌道輪であって、ハブ軸に軌道溝を有するものを、訂正明細書(甲第8号証)記載の特許請求の範囲の「ハブ軸に軌道溝を有する第一の内輪」との規定に合わせて便宜的に「第一の内輪」と表現したにすぎないものと認められる。 なお、原告は、訂正請求発明の内側軌道輪は、第一の内輪と第二の内輪のそれぞれに軌道溝が形成されている旨主張するところ、願書に添付した図面(甲第3号証)のうち実施例を表す図1、2において、第一の内輪のほか、第二の内輪にも軌道溝があることが示されているが、訂正明細書(甲第8号証)記載の特許請求の範囲は、第二の内輪に軌道溝が形成されていることを規定しておらず、また、第二の内輪が「軌道輪」であるとしても、軌道輪であれば必ず軌道溝があるわけではないから、上記主張は、訂正請求発明の構成に関するものとしては採用することができない。 そして、刊行物1に「Fig.1は垂直方向と水平方向へ切断された車輪軸受3を示している。この車輪軸受3は・・・四角形の固定フランジ1と・・・円形の回転フランジ2とで構成されている。回転フランジ2には、固定フランジ内へ延びて、そこで軸方向へ球軸受により案内される軸のような突起が設けられている。上記両フランジ1、2は、球軸受6、7を介して、相互に回転するように結合されている・・・回転フランジ2の中空ホイール8として形成された軸のごとき突起には、その全周上に上記球6および7用の2本の案内溝が設けられている。これらの溝間において、上記中空ホイールは再び太くなり、軸方向へ延びるフィン12が設けられており、この軸方向へ延びるフィンは、上記中空ホイール8の外面で延びている・・・固定フランジ1の突起13内およびフランジ1内には、アンチロックセンサー9が埋め込まれており、このアンチロックセンサーは、中空ホイール8の外側のフィン12がフランジ2の回転につれてセンサーの感知器16の部位を回転しつつ通過するように設定されている。 この回転しながら通過するフィン12は、センサー9の中でパルスを発振し」(決定謄本3頁26行目〜4頁6行目)との記載があることは当事者間に争いがなく、この記載と刊行物1(甲第3号証)の第1図とにかんがみれば、刊行物発明1の回転フランジ2に設けられた突起である中空ホイール8が、内側軌道輪を構成する軌道輪であって、ハブ軸に軌道溝(球6および7用の2本の案内溝)を有するものであり、その外周部に、突起部を円周方向に配設したパルス発生器(フィン12)を直接形成したものであることは明らかである。 したがって、本件決定が、一致点及び相違点(1)の各認定において「第一の内輪」との表現を用いたことはやや適切を欠くとしても、上記各部分の認定自体に原告主張の誤りがあるということはできない。 (2) 原告は、訂正請求発明のパルス発生器が第一の内輪の外周部に嵌合され、 第一の内輪とは別体であるのに対し、刊行物発明1のフィン12は、中空ホイール8に一体に形成されたものであるから、これが訂正請求発明のパルス発生器に相当するとはいえず、一致点の認定中、訂正請求発明と刊行物発明1とが、「内側軌道輪の前記第一の内輪の外周部に、突起部を円周方向に配設したパルス発生器を設け」た点で一致するとしたことは誤りであると主張する。 しかしながら、訂正明細書(甲第8号証)に、「パルス発生器は・・・パルス検出器に、パルス発生器の突起部の通過ごとにパルスを発生させる。」(【0004】項)と記載されているとおり、パルス発生器とは、検出器に突起を通過させるごとにパルスを発生させる機器を意味するものであると解され、それが取り付けられる部材と一体であるか、別体であって嵌合したものであるかは、上記機能と直接関係するものでないことは明白である。 そして、上記(1)で認定した刊行物1の「アンチロックセンサーは、中空ホイール8の外側のフィン12がフランジ2の回転につれてセンサーの感知器16の部位を回転しつつ通過するように設定されている。 この回転しながら通過するフィン12は、センサー9の中でパルスを発振し」との記載によれば、刊行物発明1のフィン(溝)12が「内側軌道輪の前記第一の内輪の外周部に、突起部を円周方向に配設したパルス発生器」に当たることは明らかであり、加えて、本件決定は、 「パルス発生器が、訂正請求発明は・・・第一の内輪の外周部に嵌合されるのに対して、刊行物1記載の発明(注、刊行物発明1)は・・・第一の内輪の外周部に直接形成されている点」(決定謄本6頁18行目〜20行目)を、別途相違点(1)として認定しているのであるから、本件決定の一致点の認定中、上記部分に原告主張の誤りはない。 (3) 原告は、訂正請求発明のパルス検出器が外側軌道輪に貫通させて取り付けているのに対し、刊行物発明1のアンチロックセンサーは、固定フランジ1の突起13内に完全に埋め込まれているから、これが訂正請求発明のパルス検出器7に相当するとはいえず、訂正請求発明と刊行物発明1とが、「パルス検出器を、前記外側軌道輪に取付け」た点で一致するとした本件決定は誤りである旨主張する。 しかしながら、上記(2)で認定した訂正明細書の「パルス発生器は・・・パルス検出器に、パルス発生器の突起部の通過ごとにパルスを発生させる。」との記載によれば、パルス検出器とは、パルス発生器の突起部の通過によってパルスを発生する機器を意味するものであると解され、それが外側軌道輪に貫通させて取り付けているか、埋め込まれているかは上記機能と直接関係するものでないことは明白である。 そして、上記(1)で認定した刊行物1の「アンチロックセンサーは、中空ホイール8の外側のフィン12がフランジ2の回転につれてセンサーの感知器16の部位を回転しつつ通過するように設定されている。 この回転しながら通過するフィン12は、センサー9の中でパルスを発振し」との記載によれば、刊行物発明1のアンチロックセンサー9が訂正請求発明のパルス検出器に当たることは明らかであり、加えて、本件決定は、「パルス検出器が、訂正請求発明は、外側軌道輪に、径方向外側より内側に貫通させて取付けるのに対して、刊行物1記載の発明は、外側軌道輪に、内部に埋め込まれて取付ける点」(決定謄本6頁21行目〜23行目)を別途相違点(2)として認定しているのであるから、本件決定の一致点の認定中、上記部分に原告主張の誤りはない。 (4) 原告は、刊行物発明1のカバーリング10が、小さな隙間をもってするシールであるラビリンスシールをするものであり、訂正請求発明の接触作用によってする密封手段とは異なるものであるから、訂正請求発明と刊行物発明1とが、「外側軌道輪の内周部と内側軌道輪の外周部との間の空間部が前記転動要素を内部に含む形で密封手段により密封されて密封空間が形成される」点で一致するとしたことは誤りである旨主張する。 しかしながら、訂正明細書(甲第8号証)には、「発明の実施の形態」として、「外輪1の内周部と内輪2の外周部との間の空間部はボール3を内部に含む形で、密封手段であるシール部材4により密封され、密封空間5が形成されている」(【0006】項)と記載されているものの、その特許請求の範囲には「外側軌道輪の内周部と内側軌道輪の外周部との間の空間部が前記転動要素を内部に含む形で密封手段により密封されて密封空間が形成される」と記載されているにとどまり、 密封手段が、シール部材によるものであるとか、接触作用によってするものである等の規定はないから、刊行物発明1のカバーリング10が訂正請求発明の接触作用によってする密封手段とは異なるとする原告の主張は採用することができない。そうすると、本件決定が、「刊行物1記載の『球軸受そのものは、一方でカバーリング10により、また他方でパッキン15により、外部に対して密閉されている』ことは、訂正請求発明における『外側軌道輪の内周部と内側軌道輪の外周部との間の空間部が前記転動要素を内部に含む形で密封手段により密封されて密封空間が形成される』ことと異ならない」(決定謄本6頁2行目〜6行目)とした上で認定した一致点の上記部分に原告主張の誤りがあるということはできない。 (5) したがって、本件決定のした訂正請求発明と刊行物発明1との一致点及び相違点(1)の認定に原告主張の誤りはない。 2 取消事由2(訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(1)についての判断の誤り)について (1) 原告は、相違点(1)についての本件決定の判断中、刊行物発明1のパルス発生器を「第一の内輪に直接形成することに代えて」とする部分につき、刊行物発明1には訂正請求発明の「第一の内輪」に相当するものが存在しないから誤りであると主張するが、本件決定が、内側軌道輪を構成する軌道輪であって、ハブ軸に軌道溝を有するものを便宜的に「第一の内輪」と表現したこと、刊行物発明1の回転フランジ2に設けられた中空ホイール8がこれに当たることは上記1の(1)のとおりであり、原告の上記主張は採用することができない。 (2) また、刊行物2記載の発明において、パルス発生器に相当するローターリング3が駆動軸2に嵌合していることは当事者間に争いがなく、さらに、刊行物2(甲第4号証)の第3図には、駆動軸2にローターリング3を挟んで、アクスルハウジング1との間の円錐コロ軸受23、24が設けられていることが示されているから、上記ローターリング3(パルス発生器)は、軸受によって相対回転可能とされた二つの部材(外側部材であるアクスルハウジング1及び内側部材である駆動軸2)のうちの内側部材に設けられているということができる。 そうとすれば、刊行物発明1の「フィン」と刊行物2記載の「ローターリング」とは、いずれも軸受によって相対回転可能とされた二つの部材のうちの内側部材に設けられた「パルス発生器」であるから、刊行物発明1のパルス発生器に、 パルス発生器が内側部材(駆動軸2)に嵌合している刊行物2記載の技術を適用して、訂正請求発明のパルス発生器が「第一の内輪」の外周部に嵌合する構成とすることは、当業者において容易にし得ることというべきである。 原告は、刊行物発明1の中空ホイール8は、先端部が中央部よりも大径になっているから、中空ホイール8の中央部に、別体のパルス発生器を嵌合することはできず、刊行物発明1に別体のパルス発生器を適用する余地はないとか、仮に適用しようとすれば、刊行物2記載の発明と同じ構造になってしまい、訂正請求発明の構成には至らない旨主張する。 しかしながら、刊行物1(甲第3号証)の第1、第2図にあっては、刊行物発明1の中空ホイール8の先端部の径が中央部の径よりも大きいかのようにも見えるが、刊行物1自体に、中空ホイール8の先端部が中央部よりも大径である旨の記載は見当たらず、かつ、そのようにする技術的理由を見いだすこともできない。 のみならず、仮に、刊行物発明1の中空ホイール8の先端部が中央部よりも大径であったとしても、刊行物2記載の「ローターリング」を弾性体によって構成する等により、中空ホイール8に嵌合することが不可能であるとはいえない。 したがって、原告の上記主張は、いずれにしても採用することができない。 3 取消事由3(訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(2)についての判断の誤り)について 原告は、刊行物1に、センサー(パルス検出器)を貫通させて取り付けることに対する否定的な記載があるから、刊行物2、3記載の技術を適用して、刊行物発明1のセンサーが完全に埋め込まれた構成を、貫通させて取り付ける構成にすることは容易ではないと主張する。 しかしながら、刊行物1(甲第3号証)には、原告の摘示する記載を含めて、「従来公知となっている全ての種類のセンサーの埋込みまたは取付ける場合において、センサーと、車輪と共に回転して、このセンサーと相互に作用する部品とを埋め込むことが、車両の組み立てを複雑にし、かつその価格を上げること、ならびに、上記センサーがカプセル形式として部分的に自由に出し入れ可能となるように車輪懸垂装置に取り付けられており、ケーブルも同じく比較的自由に懸垂されていることは欠点である。この構造方式の場合、上記センサーも、ケーブルも激しい酷使に曝されており、このため、しかるべき頑丈な構造方式により補正されなければならない」(同号証訳文1頁8行目〜15行目)との記載があり、この記載によれば、刊行物1は、センサー(パルス検出器)と、車輪と共に回転してこのセンサーと相互に作用する部品(パルス発生器)とを埋込方式にする従来公知の技術については、組立の容易性の面と価格の面で欠点があり、他方、パルス検出器とパルス発生器とを取付方式(貫通させて取り付ける構成を含むものと解される。)にする従来公知の技術については、激しい酷使に曝されるという欠点があるとしていることは明らかであって、センサー(パルス検出器)を貫通させて取り付けることに対してだけ欠点があるとするものではなく、少なくとも、組立の容易性の面と価格の面では、埋込方式に比べ取付方式に利点があるとするものである。 そして、刊行物1に記載された刊行物発明1は、センサーをフランジ(1)に埋め込む構成を採用する一方で、上記1の(2)のとおり、パルス発生器に相当するフィンを中空ホイール8の外周部に形成して埋込方式にしないことにより、上記埋込方式と取付方式の双方の欠点を緩和しようとしたものと認められる。 加えて、刊行物2(甲第4号証)に「アクスルハウジング1に端子箱7をねじ込んである・・・端子箱7の内側にステータが変位可能に摩擦式に取り付けてある。ステータは概ねカップ状のステータ基体12とその内側に同軸に配置された磁極棒13を含んでいる」(決定謄本4頁26行目〜30行目)との記載があることは当事者間に争いがないところ、刊行物2には、さらに、「製造公差内での個々の部材の寸法に応じて、大なり小なり端子箱が固定されるまでステータは端子箱7内に押し込まれる。・・・組立時にはステータはロータに対してかかる基本位置をとり、それは、空隙が構造的に規定される最小値となるような位置である。・・・半径方向の軸受すきまが生ずると、ロータがこのすきまの範囲内でステータから離れるか、ステータを更に端子箱7に押し込む。ステータが占める各々の位置は、意図的に与えられるばね19と端子箱7との間の接触摩擦によって維持される。このようにして空隙が半径方向の軸受すきまよりも大きくなることはない」(同号証訳文2頁17行目〜27行目、なお、原文(同号証6欄59行目〜7欄10行目)と照らし合わせると、「軸受すきま」の語は「bearing play」を訳したものであり、いわゆる「遊び」を意味するものと解される。)との記載があり、図3の記載を併せ考えると、刊行物2記載の発明においては、パルス検出器に相当するステータを取り付けた端子箱をアクスルハウジングに貫通させて取り付けることにより、部材の製造公差にかかわらず、ステータと、パルス発生器に相当するロータとの間の空隙を構造的に規定される最小値とし、かつ、その空隙を半径方向の軸受すきま(遊び)よりも大きくしないために、パルス検出器の位置の調整をするものとしていることが認められるが、埋込方式を採用した場合には、このようなパルス検出器の位置の調整ができないことは明らかである。 また、刊行物3(甲第5号証)に、「本発明によれば、自動車の車輪の回転速度を検知するためのセンサー装置が提供される。当該装置は次のものから構成される。両者間に軸方向に離間した複列の転動要素が配置された相対回転可能な内側部品と外側部品とを有する軸受、当該装置の使用時に自動車の車輪と共に回転する方の軸受部品に取り付けられ、軸方向で2列の転動要素の間に位置している歯付きローター、および、ローターとステータによって形成される磁気回路の磁束の変化に感応する要素を有するステータ、前記ステータは、2列の転動要素の間で、ローターとは反対側の他方の非回転軸受部品に取り付けられ、ローターに歯があることから、ローターの回転と共に磁気回路に磁束の変化が生じ、しかして前記回路の磁界が車輪の回転速度に応じて変動するようになっている。」(決定謄本4頁36行目〜5頁6行目)、「図2に従い、2列軸受15を駆動輪用に用いた場合のセンサー装置の簡単な構成が達成される。車輪(図示せず)を取り付ける駆動アクスル16がここでは複列軸受15によって自動車の部品17上に配置されている。静止軸受シェル15aと自動車の部品17はセンサーのロッド状のステータ19をはめ込むことのできる孔18を有している。」(同5頁8行目〜12行目)との記載があることは当事者間に争いがないところ、刊行物3には、さらに、「車輪軸受は頻繁に交換しなければならないような構成になっていないので、車輪軸受間にそれらの製造後にセンサーを搭載できるようになっていなければならない。近時、既知の車輪軸受を・・・既製(プレハブ)の軸受ユニットに置き換えることが企図されており、・・・これらの軸受では、軸受が分解できないため、少なくとも一つのセンサー部品の後付けができなくなる。本発明は、そのような軸受を使用する場合に好適なセンサーの取付けを可能にせんとするものである。」(同号証訳文1頁10行目〜20行目)、「ステータが前記外側軸受部品を半径方向に貫通している。ステータを外側軸受部品の半径方向開口に挿入するようにしてもよい。」(同2頁8行目〜10行目)との記載があり、これらの記載によれば、刊行物3記載の発明においては、分解ができない既製の軸受ユニットを車輪軸受として使用することに対応したセンサー部品の取付構成として、パルス検出器に相当するステータを、外側軸受部品を貫通して取り付けるものであることが認められる。 そうすると、上記のとおり、刊行物1は、パルス検出器を取付方式にすることと埋込方式にすることの双方に欠点があるとし、少なくとも、組立の容易性の面と価格の面では、埋込方式に比べ取付方式に利点があることを記載するものであり、刊行物発明1においては折衷的な選択として、パルス検出器について埋込方式の構成を採用したものの、刊行物1の記載自体が、パルス検出器を貫通させて取り付ける構成に対し必ずしも否定的であるとはいうことはできない。加えて、上記のとおり、刊行物2及び同3に、パルス発生に対するパルス検出器の位置の調整を図ること及び既製の軸受ユニットを車輪軸受として使用することへの対応として、パルス検出器を貫通させて取り付ける構成が記載されているのであるから、これらの作用効果を併せ考えて、刊行物発明1の埋込方式の構成を貫通させて取り付ける構成に変更することは、当業者において容易にし得ることといわざるを得ない。 したがって、原告の上記主張は採用することができず、「刊行物1記載の埋め込んで取付けることに代えて、刊行物2、3記載の技術を適用して、径方向外側より内側に貫通させて取付けることは当業者であれば容易になし得る事項である」(決定謄本6頁37行目〜7頁1行目)とした本件決定の相違点(2)についての判断に原告主張の誤りはない。 4 取消事由4(訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(3)についての判断の誤り)について 原告は、刊行物発明1のような非分割一体の中空ホイール8にフィン12(パルス発生器)を一体に形成したセンサー内蔵形軸受装置に、パルス発生器やパルス検出器とは何の関係もない単なる軸受装置であって、内側軌道輪を第一の内輪と第二の内輪とで構成した刊行物4記載の発明を組み合わせる動機ないし契機は存在しない旨主張し、さらに、訂正請求発明において、内側軌道輪を第一の内輪と第二の内輪とで構成することは、別体のパルス発生器の圧入状態または密な嵌合状態での通過距離を小さくすることができ、したがって、パルス発生器の取付時に、焼付き、かじり等が生じなくて、パルス発生器の組付けが確実、容易にできるという作用効果を奏するものであって、訂正請求発明の第一の内輪の外周部にパルス発生器を嵌合する構成と密接な関係及び相互作用を有するところ、別体のパルス発生器の記載のない刊行物1、4はそのような密接な関係及び相互作用の前提を欠く旨主張する。 しかしながら、訂正明細書(甲第8号証)には、内側軌道輪を第一の内輪と第二の内輪とで構成することに係る上記作用効果についての記載はなく、この点についての原告の主張は、明細書の記載に基づかないものといわざるを得ない。 のみならず、原告の主張及び願書に添付した図面(甲第3号証)の図1の記載にかんがみて、訂正請求発明において、内側軌道輪を第一の内輪と第二の内輪とで構成することにより、別体のパルス発生器の圧入状態または密な嵌合状態での通過距離を小さくすることができることは、直接には、第一の内輪のハブ軸のうち第二の内輪が嵌合固定される部分が小径となっていることによる効果であると考えられるところ、刊行物2(甲第4号証)の第3図には、駆動軸2に別体の円錐コロ軸受23の内側支持体が嵌合し、駆動軸2のうち当該嵌合部分が小径となっていることが示されているから、上記のような作用効果は、刊行物2記載の発明においても当然奏するものであって、そのような作用効果が刊行物1及び同4に記載されていなくとも、何ら格別なものということはできない。 そして、刊行物4(甲第6号証)に、内側軌道輪を第一の内輪と第二の内輪とで構成することが記載されていることは当事者間に争いがない。また、刊行物4が「車両軸受に関する発明」(決定謄本5頁15行目)であることは当事者間に争いがなく、刊行物4添付の第1図によれば、2列の転動要素(転がり体)を備えたものであることが認められるところ、これらの点では、刊行物4記載の発明は刊行物発明1と共通するものである。このことに、上記のとおり、内側軌道輪を第一の内輪と第二の内輪とで構成することによる効果として原告の主張するところが失当であることを併せ考えれば、刊行物4にパルス発生器及びパルス検出器の記載がなくとも、そこに記載された内側軌道輪を第一の内輪と第二の内輪との二つの部材で構成する点を刊行物発明1に適用することは、当業者において容易にし得るところというべきであり、その組合わせの動機ないし契機が存在しないとする原告の主張は採用することができない。 したがって、「刊行物1記載の発明(注、刊行物発明1)と刊行物4記載の発明とは、車軸の軸受装置という点で同一技術分野に属するといえるから、刊行物1記載の発明に刊行物4記載の発明を適用して、内側軌道輪を第一の内輪と第一の内輪のハブ軸に嵌合固定される第二の内輪とにより構成することは、当業者であれば容易に想到し得る事項である」(決定謄本7頁4行目〜8行目)とした本件決定の相違点(3)についての判断に原告主張の誤りはない。 5 取消事由5(本件発明と刊行物発明1との相違点(1)、(2)についての判断の誤り)について 原告は、訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(1)及び同(2)について、本件決定がした判断が誤りであること(取消事由2及び同3)を前提として、本件決定がした本件発明と刊行物発明1との相違点(1)、(2)についての判断が誤りである旨主張するが、原告主張の取消事由2及び同3に理由がなく、訂正請求発明と刊行物発明1との相違点(1)及び同(2)について、本件決定がした判断が誤りであるとはいえないことは上記のとおりであるから、本件発明と刊行物発明1との相違点(1)、(2)についての判断が誤りである旨の原告の主張も採用することができない。 6 以上のとおりであるから、原告主張の本件決定取消事由は理由がなく、他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 宮坂昌利 |