審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成11ネ4926特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成16ネ1589特許権侵害に基づく損害賠償請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成14ネ3714特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成16ネ1664特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成11ネ4956特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 使用方法 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 実施料相当額 / 抵触 / 参酌 / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 実施料 / 不法行為(民法709条) / 実施許諾(実施の許諾) / 対価 / 請求の範囲 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
13年
(ネ)
1132号
特許権侵害差止等請求控訴事件
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控訴人 有限会社マルゼン 控訴人 有限会社丸前商店 両名訴訟代理人弁護士 安原正之 同 佐藤治隆 訴訟復代理人弁護士 鷹見雅和 補佐人弁理士 安原正義 被控訴人 株式会社ウエスタン・アームス 訴訟代理人弁護士 宗万秀和 同 高橋隆二 同 山枡幸文 同 荒木和男 同 近藤良紹 同 早野貴文 同 川合順子 同 鬼頭栄美子 同 藤原靖夫 同 天野義章 補佐人弁理士 神原貞昭 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/01/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 控訴人ら (1) 原判決中、控訴人ら敗訴の部分を取り消す。 (2) 被控訴人の請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。 2 被控訴人 主文と同旨 |
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事案の概要
被控訴人は、名称を「自動弾丸供給機構付玩具銃」とする発明(特許第2561429号、以下「本件発明」といい、その特許権を「本件特許権」という。)の特許権者であり、控訴人らは、原判決別紙物件目録一及び二記載の玩具銃(以下「控訴人製品」という。)を製造販売している。本件は、控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属し、その製造販売が本件特許権を侵害するとして、被控訴人が、控訴人らに対し、特許法65条1項に基づく補償金の支払及び不法行為による損害賠償を求めている。 原審は、控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属し、その製造販売が本件特許権を侵害するとして、被控訴人の請求を一部認容した。 本件の当事者間に争いのない事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、 次のとおり当審における主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」のとおり(ただし、原判決12頁21行目の「ピデオテーブ画像」を「ビデオテープ画像」に改める。)であるから、これを引用する。 1 控訴人らの主張 (1) 構成要件HBCの充足性について ア 構成要件HBCの解釈 本件発明の構成要件HBCは、第1のガス通路を開状態として、蓄圧室からのガスを装弾室に供給し弾丸を発射する第1の状態から、弾丸の発射後に第2のガス通路を開状態として、蓄圧室からのガスを受圧部に作用させてスライダ部を後退させ、それに伴う可動部材の後退を生じさせて弾倉部の一端から装弾室への弾丸の供給のための準備を行う第2の状態に移行するガス通路制御部を備えていることが要件となっている。このことは、本件明細書の発明の詳細な説明欄における本件発明の作用効果の記載からも明らかである。また、特許請求の範囲を始めとする本件明細書の他の部分を見ても、第1のガス通路が開状態の間に第2のガス通路が開状態となりスライダ部の後退が始まってもよいことを示唆する記載はない。玩具銃においては、銃口から弾丸が出る瞬間に照準が合っていなければ、初期段階でスライダ部の移動による影響を回避しても、弾道に狂いが生ずる。したがって、弾道の狂いを回避するためには、第1の状態を通じて第2のガス通路が閉状態でなければならない。 本件特許に係る審決取消訴訟の判決(東京高裁平成12年(行ケ)第35号事件平成13年4月4日判決、以下「審決取消訴訟判決」という。)において、裁判所は、本件発明が、装弾室から発射される弾丸がスライダ部の移動による影響を受けて弾道に狂いが生ずる事態が回避されるという、独自の作用効果を奏する旨判示している。第1の状態の途中から第2のガス通路が開状態となることを妨げないとか、可動部材の後退を生じさせることのないスライダ部の動作は「スライダ部の後退」に該当しないとする原判決の判断は、審決取消訴訟判決の上記判断に抵触する。また、本件特許権に基づく特許権侵害差止等請求事件の各判決(東京地裁平成9年(ワ)第9112号、第16900号、第5734号、平成11年8月31日判決、以下「別件地裁判決」という。)では、裁判所は、本件発明が第1の状態においてスライダ部の移動の原因となり得る受圧部へのガス圧を排除するために第2のガス通路を閉状態に制御するという構成を採用したものと解しており、その各控訴審判決(東京高裁平成11年(ネ)第4958号、第4956号、第4926号、平成12年9月27日判決、以下「別件高裁判決」という。)も、同旨の判断をしている。 イ 控訴人製品の構造 控訴人製品は、吸排気孔38が開状態の期間において、第1気室42からのガスを吸排気孔38から第2気室36内に流入させ、流入したガスは前後2方向に分かれ、前方に向かうガスは、バレル側通気孔35から装弾部52に供給され弾丸31をインナーバレル20内に前進させると同時に、後方シリンダーブロック側通路37に向かうガスは、シリンダーブロック23を後退させ始める構成を採っている点で、本件発明と構成を異にしている。第1気室42内の圧縮ガスが吸排気孔38を経て第2気室36内に流入すると、栓25の中央径大部bと円柱状部分cの下面にガス圧がかかり、栓25の後端を上方に持ち上げ、円錐状部分dとシリンダーブロック側通路37との接触が解除され、吸排気孔38から流入した圧縮ガスは、シリンダーブロック側通路37に向かい流入を続け、シリンダーブロック23を後退させ始める。 控訴人製品では、吸排気孔38から流入したガスにより弾丸がインナーバレルから発射される以前に、次弾供給のためのボルトがガス圧を受けて後退を始める。ボルトが最前進時における部材同士の衝突の反動で2mm後退するとしても、その後、ボルトは前進して最前進位置に戻ることがないから、この段階で、ガス圧がボルトの前進を阻止している。本件発明では、第1のガス通路を開状態とし、ガスを装弾室に供給し弾丸を発射した後に、第2のガス通路を開状態とし、スライダ部及び可動部材の後退を生じさせる第2の状態へ移行する構成であるのに対し、控訴人製品では、弾丸の発射より前にシリンダーブロック23に一体に固定されているボルトハンドル3が後退する現象が起きている。このようなスライダ部の後退は、第2のガス通路に蓄圧室からのガスが進入し受圧部に作用して生ずる動きである。 被控訴人は、甲第41号証の実験に基づいて、弾丸が装弾室からインナーバレル内に移動した時点におけるシリンダーブロック側ガス通路のガス圧が、弾丸発射用ガス通路における圧力の20分の1以下にすぎず、ガス漏れと評価すべきである旨主張するが、上記実験は、圧力センサーの取付け方及び使用方法が正しくなく、導圧パイプの長さによる影響で圧力センサーの反応に遅れが出るなどの問題点があるから、これによって得られた結果には信用性がない。 また、スライダ部後退の初動時には、静止しているスライダ部を動かす力は大きく、微動するにも相当のガス圧が必要であり、この後退に伴う反動、発射される弾丸の弾道への影響は無視できない。 原判決は、吸排気孔38が開状態となり圧縮ガスが流入すると第2のガス通路が開制御されると判示し、他方、トリガが操作されてガス導出通路部が開状態とされ、第1のガス通路が開状態にある時が第1の状態の初期段階である旨判示するから、原審認定によっても、控訴人製品は、第1の状態の初期段階において第2のガス通路は開状態である。 (2) 補償金の額について 原判決は、補償金の額について、被控訴人と有限会社タナカとのルガーP08実施許諾契約の内容から、その計算上の実施料率11.5%を基礎として、控訴人製品の売上金額に実施料率12%を乗じた実施料相当額を補償金の額と認定しているが、同社は、被控訴人から技術指導を受け、その製品を被控訴人に納入する特別な関係にある会社であるから、その実施料を一般の基準とすることはできない。 また、上記契約の締結時に支払われた800万円の頭金は、5年間の実施許諾に対するものであるから、同社が実際に実施した20箇月間に按分するのではなく、契約期間である5年間に按分すべきであり、計算上の実施料率は8.3%となる。 2 被控訴人の主張 (1) 構成要件HBCの充足性について ア 構成要件HBCの解釈 本件発明は、ガス通路制御部によるガス通路の開閉制御を構成要件とするところ、「開閉制御」とは、完全な開放及び閉塞のみならず、ガス通路断面積の相対的変化をも含む概念であるから、第2のガス通路が完全に閉塞されることは、 本件発明の要件ではない。 第1の状態における第2のガス通路の開閉状態は、特許請求の範囲において限定されていないのであるから、第1の状態において第2のガス通路が開状態となることも、特許請求の範囲に含まれていると解すべきである。第1の状態において第2のガス通路が開状態であっても、それによって直ちに、スライダ部の後退による影響を受けて弾道に狂いが生ずるわけではないから、本件発明の奏する作用効果が害されることはない。 構成要件HBCは、第1のガス通路を開状態として、蓄圧室からのガスを装弾室に供給する第1の状態から、第2のガス通路を開状態として、蓄圧室からのガスを受圧部に作用させてスライダ部を後退させ、それに伴う可動部材の後退を生じさせて弾倉部の一端から装弾室への弾丸の供給のための準備を行う第2の状態に移行することを内容とするもので、第2のガス通路を開状態にする時期を弾丸の発射後に限定するものではない。 イ 控訴人製品の構造 控訴人らは、吸排気孔38から流入したガスがバレル側通気孔35及びシリンダーブロック側通路37の双方に同時に流入する理由について、圧縮ガスが吸排気孔38を経て第2気室36内に流入すると、栓25の中央径大部bと円柱状部分cの下面にガス圧がかかり、栓25の後端を上方に持ち上げ、円錐状部分dとシリンダーブロック側通路37との接触が解除されるためであると主張するが、そのような栓25の動作は、物理的現象として不自然である。第2気室36への圧縮ガスの流入により、栓25が瞬間的に上下方向にぶれを生ずることはあり得るが、栓25が上方に持ち上げられたままの状態を継続することは物理的に考えられず、それだけでは受圧部に十分なガス圧が作用しないので、シリンダーブロック23の後退が生ずることはあり得ない。この段階では、スプリング30により後方に付勢された円錐状部分dがシリンダーブロック側通路37を基本的に閉塞しており、嵌合部からわずかなガス漏れが生じているというべきである。 控訴人製品において、トリガ11が操作されて吸排気孔38が開状態となった第1の状態の当初は、栓25の円錐状部分dがスプリング30によって後方に付勢され、シリンダーブロック側通路37の開口部を塞いでいるから、第2のガス通路は閉状態である。栓25が持ち上がり、シリンダーブロックの開口部が開状態となるには、栓25にかかるガス圧が一定の圧力に達しなければならないから、トリガ11が操作されて吸排気孔38が開状態となってから第2のガス通路が開状態となるまでには、必ず時間差がある。 蓄圧室から第2気室36内にガスが流入することにより、バレル側通気孔35のガス圧は急激に上昇し、装弾室に装填された弾丸を押圧することにより、弾丸は、装弾室の保持力に抗しつつインナーバレル内に移動する。このとき、シリンダーブロック側通路37を通じ受圧部方向へもガスの流入は認められるものの、その程度は、バレル側通気孔35における圧力の20分の1の微弱なものである。この段階におけるシリンダーブロック側通路37へのガスの流入は、設計上意図されたものではなく、玩具銃製品として作動させる上で許容し得る製造上の誤差によるものであり、ガス漏れと評価すべきものであって、控訴人製品の作動に結びつく有意なガス圧ということはできない。特許請求の範囲との関係で問題となるのは、スライダ部の後退を生じさせるガスの流入であって、単なるガス漏れではない。バレル側通気孔35におけるガス圧は、弾丸がインナーバレル内を通過している間に低下に転じ、 これと相前後して、シリンダーブロック側通路37のガス圧は急激に上昇する。このガス圧の急激な上昇は、シリンダーブロック側通路37が閉状態から開状態に移行したことを示している。 控訴人製品において、弾丸がインナーバレル先端から飛び出す前にシリンダーブロックが後退する現象は確認することができない。乙第4号証、第10号証の1〜4は、測定方法に問題があり、採用することができない。 仮に、控訴人ら主張のとおり、シリンダーブロック23がわずかに後方に移動するとしても、そのような微動は、本件発明の構成要件HBにいう「スライダ部の後退」には該当しない。本件発明における「スライダ部の後退」とは、可動部材の後退を生じさせて次弾供給の準備を行うための後退でなければならないからである。 被控訴人が行ったデジタル式圧力計実験(甲第41号証)によれば、弾丸が装弾室からインナーバレル内に移動した時点におけるシリンダーブロック側ガス通路のガス圧は、弾丸発射用ガス通路における圧力の20分の1以下にすぎず、 上記のとおり嵌合部から生じているわずかなガス漏れと評価すべきものであって、 スライダ部の後退に結びつく有意的なガス圧であるとはいえない。 また、弾丸がインナーバレル内を移動中にスライダ部のわずかな移動があったからといって、その影響を受けて弾道に狂いが生ずることはないから、本件発明の作用効果が害されるものではない。 控訴人製品は、トリガ11を引くとボルト2が前進し、最先端位置まで前進して停止する際、部材同士の衝突による反動でわずかにボルト2が後退するが、 この後退は、蓄圧室からガスが供給される前の動作であって、本件発明とは無関係なものである。控訴人製品において、ボルトが前進して停止する際、部材同士の衝突による反動でボルトがわずかに後退することは、弾丸を装填せずガスも供給しない状態でも衝突による反動でボルトの後退が生ずることから明らかである。 (2) 補償金の額について 実施許諾契約において頭金が支払われた場合には、販売期間が実施者の都合によって短期に終わったからといって、特許権者に対し、実際の販売期間に応じて頭金の減額を請求することはできないから、現実の販売実績によって実施料が割合的に変化することは当然である。また、被控訴人が現に本件発明の実施許諾契約を締結して実施料を得ている場合には、その実績を基準にしつつも、これを超える補償金額を認定することが認められるべきであり、そのように解さなければ、正規に実施許諾を受けた者の支払う実施料より違法な特許権侵害者の支払う補償金の方が低額になるという不合理な結果を生ずる。 |
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当裁判所の判断
当裁判所も、被控訴人の請求は、原判決が認容した限度において理由があると判断するが、その理由は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。 1 原判決の補正 (1) 原判決22頁4行目の「構成要件HB」を「構成要件HC」に改める。 (2) 原判決24頁12行目〜27頁17行目を以下のとおり改める。 「ア 本件明細書の特許請求の範囲の記載によれば、本件発明は、以下の構成を有するものと認められる。 『可動部材』は、装弾室と受圧部との間に配され、スライダ部の移動方向に沿う方向に移動可能であること、 『第1のガス通路』は、ガス導出通路部から可動部材内を通じて装弾室に至ること、 『第2のガス通路』は、ガス導出通路部から可動部材内を通じて受圧部に至ること、 『ガス通路制御部』は、可動部材内において移動可能に設けられ、第1のガス通路と第2のガス通路のそれぞれを開閉制御すること 上記開閉制御により、第1のガス通路を開状態として蓄圧室からのガスを装弾室に供給する第1の状態から、第2のガス通路を開状態として蓄圧室からのガスを受圧部に作用させる第2の状態に移行すること、 イ また、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、【従来の技術】の欄に続く【発明が解決しようとする課題】の欄に、以下の記載がある。 『本発明は・・・ガス圧動作部が、その構成が簡略化されて、蓄圧室からガス圧動作部に至るガス通路及び蓄圧室から装弾室に至るガス通路の構成を複雑化しないものとして配され、しかも、装弾室に装填された弾丸の発射後にスライダ部の移動が開始されることになる自動弾丸供給機構付玩具銃を提供することを目的とする。』(5欄16行目〜27行目) 『トリガが操作されると、蓄圧室からのガスが、直ちに装弾室に供給されて装弾室に供給された弾丸の発射に利用され、その後スライダ部の後退及びその後退に伴う可動部材の後退に利用される状態が確実に得られる。その結果、弾丸の発射がトリガに対する操作に迅速に応答して行われ、しかも、装弾室から発射される弾丸が、スライダ部の移動による影響を受けて、その弾道に狂いが生じることになる事態が回避される。』(7欄6行目〜13行目) ウ これら本件明細書の特許請求の範囲に記載された構成及び発明の詳細な説明の記載を総合するならば、本件発明は、『ガス通路制御部』が、第1の状態において、第1のガス通路を開状態、第2のガス通路を閉状態とする位置にあり、弾丸の発射後直ちに、第1のガス通路を閉状態、第2のガス通路を開状態とするように装弾室方向に移動することにより、第2の状態に移行する構成であって、第1の状態において、第2のガス通路は閉状態であり、この間に装弾室の弾丸が発射された後、直ちに、ガス通路制御部の瞬間的な移動により第2の状態に移行し、第1のガス通路が閉状態となり、受圧部がガス圧を受けることでスライダ部及び可動部材が後退を開始するものと認められる。 エ ところで、控訴人らの主張(原判決別紙「被告ら説明書」@A)によれば、控訴人製品においては、第1気室42内の圧縮ガスが吸排気孔38を経て第2気室36内に流入すると、圧縮ガスがバレル側通気孔35及びシリンダーブロック側通路37の双方に同時に流入し、シリンダーブロック側通路37に向かうガスはシリンダーブロック23を後退させ始め、バレル側通気孔35内に流入したガスの圧力により弾丸31が発射され、これに伴い、バレル側通気孔35内は第2気室36に比し相対的に減圧し、そのため、栓25はスプリング30の付勢に抗し銃口側に吸引されて移動し、栓25の中央径大部bにより第2気室36とバレル側通気孔35とを遮断し、ガスはすべてシリンダーブロック側通路37に流入するというのである。 そして、控訴人らは、吸排気孔38が閉状態のときには栓25の後端の円錐状部分dがシリンダーブロック側通路37の開口部にスプリング30の後方への付勢により接触しているが、第1気室42内の圧縮ガスが吸排気孔38を経て第2気室36に流入すると、栓25の中央径大部bと円柱状部分cの下面にガス圧がかかり、栓25を上方に持ち上げ、円錐状部分dとシリンダーブロック側通路37の開口部との接触が解除され、吸排気孔38から流入した圧縮ガスは、バレル側通気孔35及びシリンダーブロック側通路37の双方に同時に流入し(原判決別紙「被告ら説明書」@A)、後方シリンダーブロック側通路37に向かうガスは、シリンダーブロック23を後退させ始める構成を採っているから、本件発明の構成要件HBCを充足しない旨主張する。 オ しかしながら、控訴人製品は、栓25の後端の円錐状部分dが丁度シリンダーブロック側通路37の開口部を閉塞する形状を有し、吸排気孔38が閉状態のときには、これがスプリング30の後方への付勢により接触して、シリンダーブロック側通路37を閉状態としており、また、栓25のバレル側通気孔挿入部分aが先端部のみをテーパー状とした細長い円筒形状を有し、かつ、ノズルブロック22内に隙間なく嵌挿されていることは、原判決別紙物件目録一及び二から明らかである。そうすると、栓25の後端の円錐状部分dは、吸排気孔38が開状態となり第2気室36にガスが流入した際、ガスがシリンダーブロック側通路37に流入しないようにその開口部を閉塞する作用を果たすものとされていることが明らかであり、控訴人ら主張のとおり、吸排気孔38から流入した圧縮ガスがバレル側通気孔35及びシリンダーブロック側通路37の双方に同時に流入するとしても、その際シリンダーブロック側通路37に流入するガスの量は、製造上の誤差の範囲内のものであると推認される。 また、控訴人らは、控訴人製品の作動状況を撮影したビデオテープ画像の解析結果(乙第4号証)等を根拠に、控訴人製品では弾丸31の発射と同時にシリンダーブロック23が後退する旨主張し、確かに、上記証拠によれば、弾丸31の発射とほぼ同時にシリンダーブロック23が後退していると認められる。しかしながら、 上記のとおり、吸排気孔38から流入した圧縮ガスがバレル側通気孔35及びシリンダーブロック側通路37の双方に同時に流入するとしても、シリンダーブロック側通路37に流入するガスの量は、製造上の誤差の範囲内のものであって、その流入量は微量であると推認され、現に、上記解析結果(乙第4号証)によっても、弾丸31の発射前後に生ずるシリンダーブロック23の後退は、わずかなものであり、かつ、ボルト2が最前進した際における部材同士の衝突に伴う反動によるものと解される。 カ そうすると、控訴人製品において、弾丸発射前にシリンダーブロック側通路37に流入するガスの量が製造上の誤差の範囲内のものであり、そのガスによるシリンダーブロック23の後退も認められないのであるから、弾丸発射前において、 第1のガス通路に当たるバレル側通気孔35は開状態、第2のガス通路に当たるシリンダーブロック側通路37は閉状態というべきであって、その余の構成要件HBCの要件に該当する構成が存することは明らかであるから、控訴人製品は、構成要件HBCを充足すると認められる。」 2 控訴人らの当審で追加した主張について (1) 構成要件HBCの充足性について ア 構成要件HBCの解釈 控訴人らは、本件発明の構成要件HBCについて、第1のガス通路を開状態として、蓄圧室からのガスを装弾室に供給し弾丸を発射する第1の状態から、 弾丸の発射後に第2のガス通路を開状態として、蓄圧室からのガスを受圧部に作用させてスライダ部を後退させ、それに伴う可動部材の後退を生じさせて弾倉部の一端から装弾室への弾丸の供給のための準備を行う第2の状態に移行するガス通路制御部を備えていることが要件となっている旨主張するところ、構成要件HBCをそのように解すべきことは、上記のとおりである。 控訴人らは、審決取消訴訟判決、別件地裁判決及び別件高裁判決について主張するが、控訴人らの主張するこれら判決の説示は、本件発明の構成要件HBCの解釈に関する当裁判所の上記判断に抵触するものではない。 被控訴人は、本件発明における「開閉制御」がガス通路断面積の相対的変化をも含むとか、第1の状態における第2のガス通路の開閉状態が特許請求の範囲において限定されていないなどと主張するが、上記のとおり、本件発明の目的の一つが、装弾室に装填された弾丸の発射後にスライダ部の移動が開始され、その結果、弾丸がスライダ部の移動による影響を受けて弾道に狂いが生ずる事態が回避されることになる自動弾丸供給機構付玩具銃を提供することであることは、本件明細書の発明の詳細な説明の欄に明記されているとおりであるから、第1の状態において第2のガス通路は閉状態であることを要するというべきである。 イ 控訴人製品の構造 控訴人らは、控訴人製品について、吸排気孔38が開状態の期間において、第1気室42からのガスを吸排気孔38から第2気室36内に流入させ、流入したガスは前後2方向に分かれ、後方シリンダーブロック側通路37に向かうガスは、シリンダーブロック23を後退させ始める構成を採っていると主張する。しかしながら、 上記のとおり、第1気室42内の圧縮ガスが吸排気孔38を経て第2気室36内に流入すると、栓25の中央径大部bと円柱状部分cの下面にガス圧がかかり、栓25の後端を上方に持ち上げ、円錐状部分dとシリンダーブロック側通路37との接触が解除されるとする控訴人らの主張は、栓25の形状など控訴人製品の上記構造に照らして採用することができない。 控訴人らは、当審において、検乙第5、第6号証、乙第56号証の1〜4、第57号証を提出し、これらの証拠によれば、控訴人製品において、吸排気孔38から流入したガスにより弾丸がインナーバレルから発射される以前に、シリンダーブロック側通路37内にガスが流入する事実が認められる。しかしながら、当審において被控訴人の提出した甲第41〜45号証によれば、弾丸が装弾室からインナーバレル内に移動するとき、シリンダーブロック側通路37を通じ受圧部方向へのガスの流入は認められるものの、その圧力は約0.03kgf/cm2(大気圧を0とした場合の圧力表記であるゲージ圧による。以下、同じ。)であって、バレル側通気孔35における約0.66kgf/cm2に比べ約22分の1の微弱なものであるから、このガスの流入は、設計上意図されたものではなく、玩具銃製品として作動させる上で許容し得る製造上の誤差の範囲内のものというべきである。控訴人らは、上記甲号証の信用性を争うが、少なくとも、弾丸が装弾室からインナーバレル内に移動する際のシリンダーブロック側通路37内のガス圧が微弱であることは上記甲号証により立証されているというべきであり、このことは、控訴人製品における栓25の上記構造にも合致するものであって、控訴人らの主張は採用することができない。 また、控訴人らは、ボルトが最前進した際における部材同士の衝突の反動で2mm後退するとしても、その後、ボルトは前進して最前進位置に戻ることがないから、この段階で、ガス圧がボルトの前進を阻止していると主張する。しかしながら、上記のとおり、弾丸が発射される時点におけるシリンダーブロック側通路37内のガス圧は微弱なものであって、これにより可動部材の後退が生じているとは考え難い上、被控訴人が当審において提出した甲第40号証によれば、控訴人製品は、ガスの有無に関係なく、ボルトが最前進したときに、反動により約2mm後退する事実が認められるから、上記ボルトの後退から直ちに、弾丸が発射される際にシリンダーブロック側通路37内に有意のガス圧が存在すると認めることはできない。 ボルトは、約2mm後退した後、前進することなく更に後退を続けるが、その時点においては、既に弾丸が発射されているから、シリンダーブロック側通路37内に有意のガスが流入し、受圧部にガス圧が加わることによりボルトが後退を続けることは、控訴人製品の動作として自然なものである。 (2) 補償金の額について 控訴人らは、原判決が補償金の額の算定基礎としたルガーP08実施許諾契約の当事者である有限会社タナカが、被控訴人から技術指導を受け、その製品を被控訴人に納入する特別な関係にある会社であると主張する。しかしながら、特許発明の実施許諾を受ける者が当該発明に関連する技術の指導を受けることは通常のことであって、このことから直ちに、当該実施許諾契約が特殊であると認めることはできず、他に、上記許諾契約の内容が特殊なものであると認めるべき証拠はない。 また、控訴人らは、上記契約の締結時に支払われた800万円の頭金は、 5年間の実施許諾に対するものであるから、同社が実際に実施した20箇月間に按分するのではなく、契約期間である5年間に按分すべきであり、計算上の実施料率は8.3%となると主張し、甲第33号証によれば、上記契約の締結時に支払われた800万円の頭金は、5年間の実施許諾に対するものであると認められるけれども、 同社が実際に本件発明を実施した期間が20箇月間であり、上記頭金がその対価として支払われた以上、これを実際に実施された20箇月間に按分することが合理性を欠くものとはいえない。もっとも、特殊な事情により実施期間が当初の予定より極端な短期間で終了したような場合には、頭金を実際に実施された期間に按分すると、実施料が極端に高額になるという不合理が生じ得るところであり、そのような場合には、当該特殊事情を参酌すべきであるが、本件においては、現実に実施された期間が極端に短期間であるとか、特殊な事情により実施が打ち切られたような事実関係はうかがわれない。 3 結論 以上のとおり、被控訴人の請求中、控訴人らに対し、連帯して、補償金請求として2283万6947円及びこれに対する平成9年4月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金並びに損害賠償請求として2812万6096円及びうち946万6663円に対する平成9年4月29日から、うち1865万9433円に対する平成11年12月14日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金、控訴人マルゼンに対し、補償金請求として170万4955円及びうち54万3053円に対する平成9年4月29日から、うち116万1902円に対する平成12年9月1日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において請求を認容した原判決は相当であって、控訴人らの本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法67条1項本文、61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 長沢幸男 |