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関連審決 審判1999-35104
関連ワード 協議 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  容易に発明 /  特許の有効性 /  明瞭でない記載 /  善意 /  特許料(維持年金) /  実施 /  加工 /  差止請求(差止) /  侵害 /  実施料 /  同意 /  実施許諾(実施の許諾) /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  釈明 /  特許無効審決 /  審決確定(審決が確定) /  不服申立 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 146号 審決取消請求事件
原告 大豊工業株式会社
訴訟代理人弁護士 上谷清
同 宇井正一
同 笹本摂
訴訟代理人弁理士 永坂友康
同 島田哲郎
被告 大同メタル工業株式会社
訴訟代理人弁理士 浅村皓
同 浅村肇
同 小池恒明
同 岩井秀生
同 金子憲司
同 吉田裕
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/01/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第35104号事件について平成13年2月21日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 (1) 本案前の答弁 主文と同旨。
(2) 本案に対する答弁 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「すべり軸受」とする特許第2795305号(平成6年3月18日出願。平成10年6月26日設定登録。以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
被告は,平成11年3月9日,本件特許を請求項1ないし3のいずれに関しても無効にすることについて審判を請求し,特許庁は,この請求を平成11年審判第35104号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,特許請求の範囲減縮及び明瞭でない記載釈明を目的とするとして,訂正請求を行った。特許庁は,審理の結果,平成13年2月21日に,「特許第2795305号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同年3月14日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由の要点 別紙審決書の理由の写し記載のとおりである。要するに,@上記訂正請求に係る発明は,その出願前に頒布された刊行物である審判甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるため,特許出願の際,独立して特許を受けられるものと認めることはできないから,上記訂正は認められない,A本件発明は,審判甲第3号証に記載された発明であるから,本件特許は,特許法29条1項3号の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号の規定に該当するものとして,無効とすべきである,というものである。
3 本件特許の特許請求の範囲 (1) 訂正請求に係るもの(下線部が訂正請求に係る部分である。) 「【請求項1】ボーリング加工 によって 摺接面の円周方向に伸びる環状の連続した山,あるいは不連続な山を軸方向に多数形成して,回転軸側の摺接面 とすべり軸受側 の摺接面 の山部 の間隙 が小さくなるように ,軸方向の断面における山形をした各部分の合計の断面積と谷形の凹部となる各部分の合計の断面積とが同一となる位置に各山形の部分と交差して軸心と平行な仮想の基準線を求めて,上記仮想の基準線から上記各山形 の頂点までの高さを△Cとし,上記谷形の凹部の底部から山形の頂点までの高さをhとしたときに,横軸に上記hをとり,縦軸に上記△Cをとった直線のグラフにおいて,上記△Cおよび高さhを,次の4つの数式で示される直線によって囲繞される範囲内に設定したことを特徴とするすべり軸受。
h=△C ・・・(1) h=5/1.9△C ・・・(2) h=8 ・・・(3) △C=1 ・・・(4) ただし,上記hおよび△cの寸法単位はμmとする。
【請求項2】ボーリング加工 によって 摺接面の円周方向に伸びる環状の連続した山,あるいは不連続な山を軸方向に多数形成して,回転軸側の摺接面 とすべり軸受側 の摺接面 の山部 の間隙 が小さくなるように ,軸方向の断面における山形をした各部分の合計の断面積と谷形の凹部となる各部分の合計の断面積とが同一となる位置に各山形の部分と交差して軸心と平行な仮想の基準線を求めて,上記仮想の基準線から上記各山形の頂点までの高さを△Cとし,上記谷形の凹部の底部から山形の頂点までの高さをhとしたときに,横軸に上記hをとり,縦軸に上記△Cをとった直線のグラフにおいて,上記△Cおよび高さhを,次の4つの数式で示される直線によって囲繞される範囲内に設定したことを特徴とするすべり軸受。
h=△C ・・・(1) h=2△C ・・・(2) h=8 ・・・(3) △C=1.5 ・・・(4) ただし,上記hおよび△cの寸法単位はμmとする。
【請求項3】ボーリング加工 によって 摺接面の円周方向に伸びる環状の連続した山,あるいは不連続な山を軸方向に多数形成して,回転軸側の摺接面 とすべり軸受側 の摺接面 の山部 の間隙 が小さくなるように ,軸方向の断面における山形をした各部分の合計の断面積と谷形の凹部となる各部分の合計の断面積とが同一となる位置に各山形の部分と交差して軸心と平行な仮想の基準線を求めて,上記仮想の基準線から上記各山形の頂点までの高さを△Cとし,上記谷形の凹部の底部から山形の頂点までの高さをhとしたときに,横軸に上記hをとり,縦軸に上記△Cをとった直線のグラフにおいて,上記△Cおよび高さhを,次の3つの数式で示される直線によって囲繞される範囲内に設定したことを特徴とするすべり軸受。
h=△C ・・・(1) h=5 ・・・(2) △C=3 ・・・(3) ただし,上記hおよび△cの寸法単位はμmとする。」 (2) 訂正請求前のもの 「【請求項1】摺接面の円周方向に伸びる環状の連続した山,あるいは不連続な山を軸方向に多数形成して,軸方向の断面における山形をした各部分の合計の断面積と谷形の凹部となる各部分の合計の断面積とが同一となる位置に各山形の部分と交差して軸心と平行な仮想の基準線を求めて,上記仮想の基準線から上記山形の頂点までの高さを△Cとし,上記谷形の凹部の底部から山形の頂点までの高さをhとしたときに,横軸に上記hをとり,縦軸に上記△Cをとった直線のグラフにおいて,上記△Cおよび高さhを,次の4つの数式で示される直線によって囲繞される範囲内に設定したことを特徴とするすべり軸受。
h=△C ・・・(1) h=5/1.9△C ・・・(2) h=8 ・・・(3) △C=1 ・・・(4) ただし,上記hおよび△cの寸法単位はμmとする。
【請求項2】摺接面の円周方向に伸びる環状の連続した山,あるいは不連続な山を軸方向に多数形成して,軸方向の断面における山形をした各部分の合計の断面積と谷形の凹部となる各部分の合計の断面積とが同一となる位置に各山形の部分と交差して軸心と平行な仮想の基準線を求めて,上記仮想の基準線から上記山形の頂点までの高さを△Cとし,上記谷形の凹部の底部から山形の頂点までの高さをhとしたときに,横軸に上記hをとり,縦軸に上記△Cをとった直線のグラフにおいて,上記△Cおよび高さhを,次の4つの数式で示される直線によって囲繞される範囲内に設定したことを特徴とするすべり軸受。
h=△C ・・・(1) h=2△C ・・・(2) h=8 ・・・(3) △C=1.5 ・・・(4) ただし,上記hおよび△cの寸法単位はμmとする。
【請求項3】摺接面の円周方向に伸びる環状の連続した山,あるいは不連続な山を軸方向に多数形成して,軸方向の断面における山形をした各部分の合計の断面積と谷形の凹部となる各部分の合計の断面積とが同一となる位置に各山形の部分と交差して軸心と平行な仮想の基準線を求めて,上記仮想の基準線から上記山形の頂点までの高さを△Cとし,上記谷形の凹部の底部から山形の頂点までの高さをhとしたときに,横軸に上記hをとり,縦軸に上記△Cをとった直線のグラフにおいて,上記△Cおよび高さhを,次の3つの数式で示される直線によって囲繞される範囲内に設定したことを特徴とするすべり軸受。
h=△C ・・・(1) h=5 ・・・(2) △C=3 ・・・(3) ただし,上記hおよび△cの寸法単位はμmとする。」
本案前の申立てに関する当事者の主張の要点
1 被告 原告と被告は,1999年(平成11年)9月24日付けの「覚書」と題する書面(乙第1号証。以下「本件覚書」という。)により,本件審決に対し取消訴訟を提起しないとの,不起訴の合意をした。本件訴えは,この不起訴の合意に違反する不適法なものであるから,却下されるべきである。
(1) 本件覚書の第2項には,「大豊(判決注・原告のこと。以下同じ。)および大同メタル(判決注・被告のこと。以下同じ。)は,本件問題を両社間の話合いで解決することに基本同意する。」との記載がある。ここにいう「本件問題」とは,「すべり軸受に関する特許係争」のことであることは,本件覚書の冒頭の「すべり軸受に関する特許係争(以下本件問題という)」(覚書2行)との文言により,その具体的な事件内容は,本件審決に係るものであることは,本件覚書の「大豊の所有する特許権(特許第2795305号,以下本件特許という)に対し,大同メタルは無効審判(平成11年審判第35104号)を申立てている。」(覚書5行〜6行)との記載により,いずれも明らかである。原被告双方は,この本件問題を話し合いで解決することを基本同意事項としたものであるから,原被告間において,本件審決に対し,取消訴訟を提起しないとの合意があったことは,明らかである。
(2) 本件覚書の第4項には,「(1)大豊および大同メタルは,本件審決に従うことに合意し,その結果に応じて次の取扱いとすることに合意する。」との記載がある。ここにいう「本件審決」とは,当時係属していた本件特許についての無効審判(平成11年審判第35104号)の審決,すなわち,本件訴訟における本件審決のことであり,「従う」とは,特許庁においてされた本件審決の結果を,上記「本件問題」の最終的な結果としてこれに従う,との意味である。
ここにいう「本件審決」が「確定した」本件審決ではないことは,上記本件覚書第4項(1)の記載から明らかである。
(3) 本件覚書の合意内容が,本件審決が「確定した」ことを要するとしたものでないことは,覚書第4項(2),(3)の合意内容全体からも明らかである。
本件覚書第4項(2)には「本件審決が,特許無効の場合。大豊は,受領した尊敬料を大同メタルへ返却することとする。」との規定がある。原告は,本件審決が確定していないにもかかわらず,上記尊敬料を被告に返却しており,このことは,本件覚書4項(1)の合意内容が,本件審決が「確定した」ことを要するものではなかったことを示すものである。
本件覚書第4項(3)の4.には,「本件審決が,特許有効の場合。」,「大豊および大同メタルは,本件に関する契約書を審決の直後に調印することに同意する。なお,本件審決前に両社で協議を行い,その他の条項に関し基本の合意をしておくこととする。」と規定され,同規定に従って,原被告間において,「特許許諾契約書(案)」と題する書面(乙第2号証)が既に取り交わされている。同契約書(案)の第4条(1)には「本件審判の決定において本件特許の有効性が確認された場合に当たるため,」との文言があり,この文言からも,本件覚書が,本件審決が「確定した」ことを要するものではなかったことが明らかである。
(4) 本件覚書第2項が上記不起訴の合意を規定したものであることは,本件覚書の成立に至る交渉の経緯からも裏付けられる。すなわち,原被告双方は,本件覚書の成立に至るまでも,本件審決が出た段階で,これにつき訴訟を提起することなく,これに従う形で,本件問題を話合いで解決する,との指針に基づいて行動してきているのである。
(5) 上記契約書(案)の12条には「本件覚書に規定のない事項または・・・に疑義を生じた場合は,相互に善意と信頼をもって協議の上,解決する。」との記載がある。この記載も,原被告間では,本件問題を訴えによらず話合いで解決することが約束されていたことを物語るものである。
2 原告 本件覚書(乙第1号証)の合意内容の解釈に当たっては,その文言のみによるのではなく,合意に至る経緯や当事者間の言動などの諸事情をも十分に勘案する必要がある。これらの諸事情をも勘案して総合的に考察するならば,本件において,不起訴の合意があったとは認められないというべきである。
(1) 本件覚書の前提となっている「特許係争」は,原告が,被告の製造販売している「すべり軸受」が原告の本件特許を侵害するものと判断して,特許権侵害差止訴訟を提起するのもやむなしと考え,その事実を被告に通知したことに端を発するものである。
本件覚書は,原被告間で,本件特許に基づく侵害訴訟の取扱いについて合意したものである。同覚書にいう「本件問題」とは,その前文で定義されているように「すべり軸受に関する特許係争」,すなわち特許侵害問題のことであって,特許無効審判のことではない。本件覚書第1項で,被告の請求した特許無効審判が,「前提となる事実関係」として記載され,「本件問題」とは峻別されているのは,このことを示すものである。本件覚書第2項で「本件問題を両社間の話合いで解決することに基本同意する。」と規定されているのも,侵害問題を話合いで解決しようとする意図を表したものであり,特許無効審判の結論について,裁判ではなく話合いで決着しようと定めたものではない。
本件覚書第3項は,侵害問題については話合いで解決するものの,現に被告から請求されている特許無効審判事件の取扱いをどのようにするかを定めたものであり,@無効審判の結論が出されるまでは原告は被告に対する侵害訴訟を控え,A侵害訴訟を控える見返りとして,被告は本件特許を尊重し,敬意を表する趣旨で尊敬料を原告に預託し,B当該尊敬料の預託期限を定める,という内容のものである。
本件覚書第4項で,「本件審決に従うことに合意し」と規定されているのも,当事者の認識としては本件特許が有効の場合を前提として定めたものであり,審決に対する不服申立をしないとする趣旨ではない。そして,尊敬料については,審決の結果に応じ,特許無効審決があった場合には尊敬料を返却し,特許が有効だった場合には被告が原告に実施料を支払うという取扱いを定めたのが第4項(2),(3)である。
(2) 当事者が本件覚書の趣旨につき,上記のように認識していたことは,当事者間の書面のやりとりから,明確に理解することができる。
本件覚書第4項(3)4では,特許無効審判で特許が有効であるとの審決がなされた場合には,実施許諾をすることによって侵害問題を解決することが合意されており,当事者双方は,審決前に実施許諾契約につき,あらかじめ基本合意をしておくとの条項に従い,交渉を開始した。
この交渉の過程で,原告が,平成11年12月1日付けで,被告に対し,書簡に特許許諾契約書(案)を添付したもの(甲第6号証)を送付したのに対し,被告は,平成12年1月18日付けで,原告に対し,書簡及び特許許諾契約書(大同修正案)(甲第7号証)を送付し,この大同修正案において,「本件審判の決定が如何なる内容であっても,大豊および大同メタルはその決定に従い,それ以降の訂正審判請求,審決取消訴訟等の法的対応をとらない」旨の条項の追加を提案した。もし,被告の主張するように,本件覚書によって不起訴の合意がなされたものと認識されていたとすれば,このような提案をする必要もないのであるから,被告から,このような提案があったということは,本件覚書では不起訴の合意はなかったことを端的に示すものである。
原告が,上記大同修正案に対し,同月25日付けの回答書に,特許許諾契約書(大豊修正案)及びその説明書を付したもの(甲第8号証)を送付し,上記条項の追加について,「本契約は,特許が有効であるとの本件審決の決定後に締結するものであり,ご提案の追加条項1は,本契約の締結には不要の条項であります。」と説明したのに対し,被告は,その後の交渉の経緯において,上記追加条項のことについて,一切言及していない。このことから,被告は,原告の上記説明を承諾し,追加条項の主張を取り下げたものと理解することができる。
このように,本件特許の無効審判についての不起訴の合意が,被告からいったんは提案されたことは確かであるものの,この提案は,その後取下げないし撤回されたものである。結局,本件審決についての不起訴の合意は存在しないのである。
当裁判所の判断
1 前記当事者間に争いのない事実及び乙第1,第2号証並びに弁論の全趣旨によれば,原告は,被告が「ボーリング軸受」の名称で製造販売する,すべり軸受が,原告が特許権者である本件特許を侵害すると判断して,平成10年にその旨を被告に通知したこと,被告は,本件特許につき無効審判の請求(平成11年審判第35104号)をしたこと,原告と被告は,上記すべり軸受に関する特許係争につき協議,交渉した結果,1999年(平成11年)9月24日付けで,次の文言の本件覚書を作成しこれに調印したこと,原告と被告は,その後,本件覚書第4項(3)4の規定に従い,協議のうえ,本件審決が出される前に,あらかじめ,特許許諾契約書(案)(乙第2号証)を作成したこと,が認められる。
「 覚 書 大豊工業株式会社(以下大豊という)と,大同メタル工業株式会社(以下大同メタルという)とは,すべり軸受に関する特許係争(以下本件問題という)の解決に当たり,次の事項につき同意したので覚書を取り交わす。
第1項 前提となる事実関係について (1)大豊の所有する特許権(特許第2795305号,以下本件特許という)に対し,大同メタルは無効審判(平成11年審判第35104号)を申立てている。
(2)大同メタルは,『ボーリング軸受』と自称して,本件問題に関連するすべり軸受(以下対象軸受という)を製造販売している。
第2項 基本同意について 大豊及び大同メタルは,本件問題を両社間の話合いで解決することに基本同意する。
第3項 尊敬料について (1)大豊は,本件特許の無効審判の決定(以下本件審決という)まで,提訴を控える。
(2)大同メタルは,その代りに尊敬料を大豊に支払うとともに,本件特許を尊敬する。
(3)尊敬料は,金1000万円とする。この尊敬料は遅くとも1999年9月30日までに支払うこととする。
第4項 本件審決後の取扱いについて (1)大豊および大同メタルは,本件審決に従うことに合意し,その結果に応じて次の取扱いとすることに合意する。
(2)本件審決が,特許無効の場合。
大豊は,受領した尊敬料を大同メタルへ返却することとする。
(3)本件審決が,特許有効の場合。
1.大同メタルは,別途に特許料を大豊に支払うこととする。
2.特許料は,対象軸受の販売価格の5%とする。
3.但し,大同メタルが支払った尊敬料は,特許料の一部に充当させることとする。
4.この場合,大豊および大同メタルは,本件に関する契約書を審決の直後に調印することに同意する。なお,本件審決前に両社で協議を行い,その他の条項に関し基本の合意をしておくこととする。 」 2 被告は,本件覚書により,本件審決に対し取消訴訟を提起しないとの不起訴の合意がなされたと主張する。
上記1の認定によれば,原告と被告は,本件覚書の第2項で,本件特許に関し両者間に存在する紛争を,当事者間の話合いで解決するとの基本合意をし,この基本合意に基づく話合いによる解決の方法として,第3項で,原告は,本件審決が出されるまでの間,被告に対する侵害訴訟の提起を差し控え,被告は,その見返りとして,原告に対し尊敬料の名目で1000万円を支払うことを,第4項で,最終的に,当事者双方が本件審決の結論に従って行動することを,約束したものであるということができる。
より具体的には,@本件審決の結論が特許無効である場合には,原告は,被告に対し,尊敬料名目の金員を返還し,A本件審決の結論が特許有効である場合には,原被告間で,審決の直後に特許実施許諾契約書に調印して,被告が原告に対し特許実施料を支払うことを内容とする特許実施許諾契約を締結することとしたものである。
本件覚書には,本件審決につき,取消訴訟を提起しうるか否かについて,直接に言及した記載はない。しかしながら,上記のとおり,本件審決の結論が特許有効である場合においては,「審決の直後」に特許実施許諾契約書に調印することとされていることからすれば,特許実施許諾契約を締結した被告が,その特許を有効とした審決の取消訴訟を提起することが,許されないものとされていることは,明らかというべきである。
また,@の本件審決の結論が特許無効である場合に,原告は,尊敬料の返還をする義務を負担するだけで,その審決の取消訴訟を提起することができるとすると,取消訴訟の結論が出るまで,原被告間の本件特許に関する係争は,解決しないこととなり,しかも,本件覚書には,取消訴訟の結論に従ってどのように上記紛争を解決するのかについては,何ら規定がないから,本件覚書をわざわざ取り交わして話合いによる解決をするとの基本合意をしたことがその限りでは無意味となるといわざるを得ない。加えて,このような結論は,上記のとおり,本件審決の結論が特許有効である場合には被告に取消訴訟の提起が認められていないこととの間に大きな不公平を生じさせることになる。したがって,原告が審決取消訴訟を提起することを被告が了承していたなど特段の事情が認められない限り,本件覚書第4項(2)は,本件審決が特許無効との結論となった場合にも,原告は,これに従い本件特許が無効であることを認めてそれに応じた内容で紛争を解決するとの趣旨であって,この審決の取消訴訟を提起することは許されないと解するのが相当である。
原告は,本件覚書の合意に至る経緯や,当事者の言動を勘案するならば,上記特段の事情が認められるとして,原告の交渉担当者の陳述書(甲第5号証)を提出する。
しかしながら,甲第5号証のうち,本件覚書の趣旨についての記載は,結論を述べるだけであり,本件覚書の締結に至る経緯について,この結論を裏付けるに足りる具体的な事実の記載はなく,この点に関する当事者間のやりとりを示す文書等の客観的な資料も提出されていない。
また,甲第5号証中には,本件覚書締結後の特許実施許諾契約書(案)の作成過程において,被告側から,本件審決がいかなる内容であっても,原被告は,これに従い審決取消訴訟を提起しない旨の記載を特許実施許諾契約書に追加すべきであるとの提案があったのに対し,原告側が,原告には審決取消訴訟をする自由があると主張してこれを拒絶したところ,被告から異議が唱えられなかったので,被告は,原告が審決取消訴訟をする自由があることを,少なくとも黙示的に同意した旨の記載があり,甲第6ないし第17号証によれば,被告は,2000年1月18日付け「貴社との特許問題の解決の件」と題する書面において,特許実施許諾契約書に「本件審判の決定が如何なる内容であっても,大豊及び大同メタルはその決定に従い,それ以降の訂正審判請求,審決取消訴訟等の法的対応をとらない。」との条項を追加条項1として入れることを提案したこと,原告は,同月25日付け「貴社との特許問題の解決に関する件」と題する書面により上記条項の追加を拒絶したこと,被告は,その後の交渉過程においては,原告に送付した文書中に,上記追加条項に関する記載をしていないことが認められる。
しかしながら,甲第8号証によれば,原告は,上記同月25日付け書面において,上記条項の追加を拒絶する理由につき,「本契約(判決注・特許実施許諾契約のこと)は,特許が有効であるとの本件審決の決定後に締結するものであり,ご提案の追加条項1は,本契約の締結には不要の条項であります。」と回答するにとどまり,原告に審決取消訴訟を提起する自由があるとは回答していないことが認められ,他に,原告が被告に対し,原告が本件審決につき審決取消訴訟を提起する自由があると述べたことについては,その裏付けとなる文書等の証拠がなく,認めることができない。したがって,被告が,これを黙示的に承諾したことを認めることもできない。
原告は,上記追加条項の提案は,被告が,本件覚書において,不起訴の合意がなかったことを認識していたことを示すものであり,かつ,被告は,その後の交渉過程において,上記提案を撤回し,原告が審決取消訴訟を提起しうることを認めた,と主張する。しかしながら,上記追加条項の提案をしたことだけから,直ちに,被告が,不起訴の合意がなかったことを認識していたことを認めるには足りない。かえって,上記認定の本件覚書の記載内容及び弁論の全趣旨によれば,被告の提案は,本件覚書の趣旨を明確にする意図の下になされたものであること,原告からは,特許許諾契約書(案)の締結とは直接の関係がないとの理由で条項の追加を拒絶されたものの,審決取消訴訟を提起できるとの主張はなされなかったことから,その後の交渉過程では,追加条項に言及しなかったものであること(特許実施許諾契約書は,本件特許を有効とする審決がなされた場合にのみ,その直後に作成されるものであるから,被告の提案は,実質的には,誤解あるいは検討の不足に基づく,無用なものであったということができる。)を推認することができる。
以上のとおりであるから,原告提出の上記各証拠から,前記特段の事情を認めることはできず,他に,これを認めるに足りる証拠はない。
3 以上述べたところによれば,本件においては,原被告間において,本件審決につき取消訴訟を提起しないとの不起訴の合意があったと認めることができるから,本件訴えは,不起訴の合意に違反する不適法なものであるというべきである。
よって,原告の本件訴えを却下することとし,訴訟費用の負担につき行政事
件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸
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