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関連審決 審判1999-35770
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  置換 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 485号 審決取消請求事件
原告 ビルコン株式会社
訴訟代理人弁理士 山名正彦、山口邦夫
被告 株式会社三陽電機製作所
訴訟代理人弁理士 長谷照一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/02/05
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年審判第35770号事件について、平成12年10月31日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「受付整理装置」とする特許第1360590号発明(昭和57年3月12日特許出願(特願昭57-39123号)、昭和62年1月30日設定登録。本件発明)の特許権者である。被告は、平成11年12月20日、本件発明について無効審判請求をし、平成11年審判第35770号事件として審理されたが、平成12年10月31日、「特許第1360590号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決があり、その謄本は同年11月21日原告に送達された。
2 本件発明の要旨(用字につき、公用文の方式に従った場合がある。以下の明細書等の引用につき同じ) 受付券を発行ごとにその受付券に連続番号としての呼出番号を印字する受付券発行機と、受付する呼出番号及びこの呼出番号の受付券を受付する受付窓口の番号をそれぞれを対応させて表示する表示盤と、呼出キースイッチ、チャイムキースイッチ、クローズキースイッチを有し、各受付窓口に配設された操作キー部及び呼出番号をモニター表示するモニター表示部で成る窓口操作盤と、これら受付券発行機、
表示盤、窓口操作盤を連携して制御するマイクロコンピュータで成る制御盤とを備えており、制御盤は前記窓口操作盤の呼出キースイッチの呼出信号により、その呼出信号を発した窓口操作盤の窓口番号と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示盤に警報音と共に表示するとともに、呼出信号を発した窓口操作盤のモニター表示部には表示盤に表示した呼出番号を表示するようにしたことを特徴とする受付整理装置。
3 審決の理由の要点 (1) 被告(請求人)の主張 被告は無効理由として、概ね次のように主張している。
(無効理由1)呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成が明らかではないこと、呼出信号の保留状態の解除手段が明確でないことから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項の規定に違反している。
(無効理由2)発明の詳細な説明に記載されているとしても、本件特許の権利範囲が不明確であるから、チャイムキー、クローズキーの制御盤との相互関係並びにそれぞれの機能について特許請求の範囲に明記されるべきであること(無効理由2の1)、複数の依頼者を利用可能な受付窓口に順次案内するという受付整理装置の作用効果を果たすために、現在表示中の受付券を有する依頼者が窓口に来たとき、
「制御盤40は窓口操作盤20のスイッチの信号により、表示盤30の現在表示中の呼出番号を消去し、表示盤30が次の呼出番号を表示し得る状態にする」構成は、発明の構成に欠くことのできない事項であること(無効理由2の2)から、特許請求の範囲の記載は、特許法36条5項の規定に違反している。
(無効理由3)審判甲第1ないし2号証を提出し、審判甲第2号証に開示された取引システムにおいて、利用状況に応じて取引装置(1)〜(3)を同じ機能の3台の取引装置とし、各取引装置の番号に予約番号を順次対応させて予約番号表示装置7に案内表示することは、当業者が必要に応じて行う設計的事項であるから、本件発明は審判甲第2号証に記載の公知技術に基づき審判甲第1号証に記載の公知技術参酌すれば、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定に違反する。
(2) 原告(被請求人)の主張 原告は、概略以下のように反論している。
(2)-1 無効理由1について 原告の主張を符号(イ)ないし(ヘ)を付して示すと、以下のとおりである。
(イ)(A)本件出願公告公報の2頁第4欄15行〜27行目にかけて、「制御盤40は…窓口操作盤20の呼出キースイッチ22の呼出信号により、その呼出信号を発した窓口操作盤20の窓口番号と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示盤30の各表示器31、32に警報音と共に表示する」と記載され、
(B)同公報の同第4欄23行〜27行目にかけて、「このときの表示盤30に表示される呼出番号は、その表示初期(例えば、表示後約8秒間)には点滅表示され、依頼者にスピーカー89による警報音と共に注意を喚起している。」と記載され、
(C)同公報の同第4欄33行〜41行目にかけて、「この呼出中に、他の窓口操作盤20から呼出キースイッチ22が押されることで呼出番号の要求があったときは、現在表示中のものが優先表示されるとともに、呼出番号を要求した他の窓口操作盤20は保留状態となる。この保留状態の窓口業務者への報知は、制御盤40によって保留された呼出番号をモニター表示部 25の呼出番号表示部27に表示するとともに待人数表示器26に待人数を点滅表示することで行う。」と記載され、
(D)同公報の同第4欄42行ないし第5欄の2行目にかけて、「窓口操作盤20はチャイムキースイッチ23を押すことで制御盤40により、再度呼出が行われる。すなわち、表示盤30の呼出番号表示器32の呼出番号を再度点滅表示するとともにチャイム等の警報音を発するものである。」と記載されている。
これら(A)〜(D)の各ステップは、制御のフローチャートを示した第3図の記載に照らすと、制御盤40の「更新型ソフトウエア」で順次処理されることが当業者に明解である。本件出願公告公報の第7欄41行〜43行目には、「第3図は制御のフローチャートを示したものであり、図中〔 〕書きは第4図に示すRAM55内の記憶領域を示すのである。」と記載されていることから、RAM55には表示器に表示すべき表示内容が記憶されていることは明らかである。
(ロ)第3図において、電源を投入後は直ちに、窓口操作盤の各キースイッチの入力の有無が「入力あり?」のステップで監視される。それは本件出願公告公報の第6欄33行〜38行目にかけて、「入力キースイッチ22〜24のうちいずれかがONした際にエンコーダラッチ70はストローブ信号を発生し、通信線100のうちのストローブラインKに信号を送出するため、CPU51はこのストローブラインKを監視している。」と記載されていることからも明らかであり、このストローブ信号によって「入力あり?」の有無(入力のチェック)を行っていることになる。
また、第3図において、電源を投入後の窓口操作盤の各キースイッチの入力の有無の監視は、ステップ「呼出し」において呼出キースイッチの入力を、ステップ「クローズ」においてクローズキースイッチの入力を、ステップ「チャイム」においてチャイムキースイッチの入力の有無を、それぞれ順次サイクリックに監視していることが分かる。
(ハ)そして、第3図のステップ「呼出し」がYesの場合には、まず呼出番号に「+1」だけインクリメントする処理、表示盤に呼出番号を入れる処理(換言すれば呼出番号を表示するための処理)、呼び出した操作盤のモニター表示部に呼出番号を入れる処理、呼び出した操作盤の窓口番号を表示盤に入れる処理、待人数を「-1」だけデクリメントする処理、及びチャイム音を発生する処理が順次一連に遂行され、その後当初のステップへ遷移することが明らかで、その間に他の窓口操作盤の呼出キースイッチが入力された場合、上記(D)に記載のとおり「保留状態」となって待たされることが分かる。前記の「保留状態」は、上記(B)に記載のように、表示盤30に表示された表示初期の例えば表示後約8秒間の「点滅表示」の間を無条件に待たされることになる。
(ニ)そして、上記第1順位の「呼出し入力」について、上述したYesの各処理がすべて終了すると、第2順位以下の「呼出し入力」があるときは、各々について上述したYesの各処理が全く同様に次々遂行される。
(ホ)同様に、ステップ「チャイム」の入力がYesの場合には、前記「呼出し」のステップと機能的には全く並列の関係で、つまり「呼出し入力」と共に順列を作って「チャイム音発生」の処理が行われる。例えば呼出キースイッチとチャイムキースイッチの入力の時間的先後の順序に従い、呼出→呼出→チャイム→呼出のような順序で処理が行われることが分かる。
(ヘ)したがって、被告が主張する「次の呼出のために現在の呼出番号を消去すること」などをいちいち制御盤へ報知するステップは一切無用であり、いわゆる「更新型ソフトウエア」によって何の不都合もなく、依頼者を受付窓口へ案内して窓口業務の遂行を順序よく円滑に行えるのである。
よって、本件明細書及び図面の記載は、特許法36条4項に規定する要件を十分に満たしている。
(2)-2 無効理由2について 窓口操作盤のチャイムキースイッチ及びクローズキースイッチと、制御盤との関連性が不明であるとの被告の主張には、次のように反論する。
「羅列する」記載にすぎない旨の主張に対しては、本件請求項1には「これら受付券発行機、表示盤、窓口操作盤を連繋して制御するマイクロコンピューターで成る制御盤とを備えており、」と記載されているとおり、各構成要件相互間の共働関係はきっちり記載されている。具体的に説明すると、チャイムキースイッチの操作によってチャイム音が発生することが第3図に明示されている。チャイム音の発生は制御盤との連繋なくしては達成し得ないからである。クローズキースイッチと制御盤との連繋もまたしかりである。通例、「マイクロコンピューターで成る」と云えば、いわゆるハードウエアのみならず、所要のソフトウエアを内蔵したものと理解するのは、当業者の常識といって差し支えなく、要するに第3図のようなソフトウエアが制御盤に内蔵されていることは当業者の理解に難くない。
その上、上記「連繋して制御する」の意味内容として、請求項1には、
「制御盤は前記窓口操作盤の呼出キースイッチの呼出信号により、その呼出信号を発した窓口操作盤の窓口番号と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示盤に警報音と共にに表示するとともに、呼出信号を発した窓口操作盤のモニター表示部には表示盤に表示した呼出番号を表示するようにした」と記載して、いわゆる各構成要件相互間の共働関係を「呼出キースイッチ」の働きに関する内容できっちり明記しているから、まとまりのある一つの技術的思想を認定、把握できる記載になっており、本件明細書及び図面の記載は、特許法36条5項に規定する要件を満たしている。
(2)-3 無効理由3について 被告の審判甲第2号証を主引用例とし審判甲第1号証を第2引用例とした「容易性の主張」は、技術的思想の相違点及び技術的本質についての誤認、誤解に基づくものであり、成り立たない。
審判甲第2号証記載の発明「取引システム」は、人の介在を否定する無人銀行の取引装置の利用順序を自動的に整理するものであるが、審判甲第1号証記載の発明「窓口番号表示装置」は、人による窓口業務を前提として、窓口呼出業務の不都合、欠点を解決するものであるから、双方の技術的思想、技術的本質に共通性がなく組合わせ又は置換の可能性がないから、被告の主張は合理性がない。
(3) 審決の判断 (3)-1 無効理由1について 本件発明は、即時処理型の窓口業務の受付は複数の窓口が併設されている場合、
個々の処理時間は一定でないため各列によって処理速度は相違し、したがって待ち時間に不平等が生じる場合もあることから、依頼者の待ち時間の不平等をなくし、
受付券を受け取った順序で開いている窓口に案内できるようにすることを主たる目的とするものであり(本件特許公報(特許出願公告公報)第2欄1行ないし12行参照)、そのために、「呼出信号を発した窓口操作盤の窓口番号と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示盤に警報音と共に表示する」ものであって、「呼出中に、他の窓口操作盤20から呼出キースイッチ22が押されることで呼出番号の要求があったときは、現在表示中のものが優先表示されるとともに、呼出番号を要求した他の窓口操作盤20は保留状態となる」ものであるから、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」及び「呼出信号の保留状態の解除手段」が明細書又は図面の記載から明確でなければならないことは明らかである。
そこで、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」及び「呼出信号の保留状態の解除手段」が本件明細書又は図面の記載から明確であるか否か検討する。
呼出番号の表示に関して、本件明細書には、「制御盤40は…窓口操作盤20の呼出キースイッチ22の呼出信号により、その呼出番号を発した窓口操作盤20の窓口番号と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示盤30の各表示器31、32に警報音と共に表示する」(本件特許公報第4欄15行ないし27行参照)、「このときの表示盤30に表示される呼出番号は、その表示初期(例えば、表示後約8秒間)には点滅表示され、依頼者にスピーカー89による警報音と共に注意を喚起している。」(本件特許公報第4欄23行ないし27行参照)、及び「窓口操作盤20はチャイムキースイッチ23を押すことで制御盤40により、
再度呼出が行われる。すなわち、表示盤30の呼出番号表示器32の呼出番号を再度点滅表示するとともにチャイム等の警報音を発するものである。」(本件特許公報第4欄42行ないし第5欄2行参照)とは記載されているものの、本件明細書又は図面には、呼出番号表示自体をいつまで続けるとは記載されておらず、また先の呼出が表示されているときには次の呼出要求は保留されるが、その解除については何も記載されていないので、本件明細書及び図面には、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」及び「呼出信号の保留状態の解除手段」に関する実施例は一つも記載されていない。
そして、本件出願時に、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」及び「呼出信号の保留状態の解除手段」を実現するための具体的手段が周知であったとも、慣用されていたとも認めることはできない。
また、本件発明において、必要に応じて呼出信号の保留状態を解除し、呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を順次表示盤30に表示させるという課題が与えられたときに、その課題を解決することが、
本件出願時に当業者が容易になし得たとも認めることはできない。
一方、原告は、「保留状態」に関して、無効理由1に対する反論の(ハ)において、「上記(B)に記載のように、表示盤30に表示された表示初期の例えば表示後約8秒間の「点滅表示」の間を無条件に待たされることになる。」と述べ、あたかも、保留状態となるのは、先の呼出が「点滅表示」されている期間だけであるかのように主張しているが、「保留状態」についての本件明細書の記載は、原告が無効理由1に対する反論の(イ)において(C)として引用している部分であって、
(B)として引用している部分には、「表示盤30に表示される呼出番号は、その表示初期(例えば、表示後約8秒間)には点滅表示される」旨記載されているのみであるから、原告の主張によって呼出信号の保留状態の解除手段が明確になったと認めることはできない。
また、呼出番号の表示についても、さきに述べたように、本件明細書には、原告が無効理由1に対する反論の(イ)において(B)及び(D)として引用している部分に、「その表示初期には点滅表示される」及び「チャイムキースイッチ23を押すことで表示盤30の呼出番号表示器32の呼出番号を再度点滅表示する」旨記載されてはいるものの、呼出番号表示自体をいつまで続けるとは記載されていないこと、及び先の呼出が表示されているときには次の呼出要求は保留されると記載されていることを勘案すると、原告の無効理由1に対する反論の(ニ)及び(ホ)における「第1順位の「呼出し入力」について、上述したYesの各処理がすべて終了すると、第2順位以下の「呼出し入力」があるときは、各々について上述したYesの各処理が全く同様に次々遂行される」旨及び「呼出キースイッチとチャイムキースイッチの入力の時間的先後の順序に従い、呼出→呼出→チャイム→呼出のような順序で処理が行われる」旨の主張が本件明細書又は図面の記載から明らかであるとは認めることができない。
したがって、上記原告の主張によって、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」及び「呼出信号の保留状態の解除手段」が本件明細書又は図面の記載から明確である、とすることはできない。
以上のとおりであり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項の規定に違反している旨の被告の主張は理由がある。
(3)-2 無効理由2について まず、無効理由2の2について検討すると、本件発明の、受付券を受け取った順序で開いている窓口に依頼者を案内できるようにするという目的、作用効果に照らして、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」に相当するものが、本件発明の構成に欠くことのできない事項であると認められる。
被告は、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」を実現するためには、窓口操作盤20の何らかのスイッチの信号により、現在表示中の受付券を有する依頼者が窓口に来たことを制御盤に通知する必要があるとして、「制御盤40は窓口操作盤20のスイッチの信号により、表示盤30の現在表示中の呼出番号を消去し、表示盤30が次の呼出番号を表示し得る状態にする」構成は、発明の構成に欠くことのできない事項である旨主張していると認められ、実質的には、複数の依頼者を利用可能な受付窓口に順次案内するという受付整理装置の作用効果を果たすための構成、
すなわち、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」は、発明の構成に欠くことのできない事項である旨主張していると認められるところ、原告は、無効理由1についての反論において、「次の呼出のために現在の呼出番号を消去すること」などをいちいち制御盤へ報知するステップは一切無用である。」旨主張して、無効理由2の2には直接明示的には反論せず、特許請求の範囲には、「これら受付券発行機、表示盤、窓口操作盤を連繋して制御するマイクロコンピューターで成る制御盤とを備えており、」と記載され、さらに「連繋して制御する」の意味内容として、「制御盤は前記窓口操作盤の呼出キースイッチの呼出信号により、その呼出信号を発した窓口操作盤の窓口番号と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示盤に警報音と共に表示するとともに、呼出信号を発した窓口操作盤のモニター表示部には表示盤に表示した呼出番号を表示するようにした」と記載していることから、
本件明細書及び図面の記載は、特許法36条5項に規定する要件を満たしている旨主張している。
そこで、上記「連繋して制御する」の意味内容が、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」に相当するか検討すると、文言上は、「連繋して制御する」が「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させる」を含むとはいえるものの、無効理由1についての判断で検討したように、本件明細書には、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」に関する実施例は一つも記載されていない。
したがって、「連携して制御する」という記載はあるものの、これをもって、
「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」に相当するものが、特許請求の範囲に記載されていると認めることはできない。
よって、特許請求の範囲の記載は特許法36条5項の規定に違反している旨の被告の主張は、無効理由2の1について検討するまでもなく、理由がある。
(3)-3 無効理由3について 審判甲第1号証(特開昭57-31076号公報)には、窓口に顧客が来て所定の手続を依頼した後、所定の手続が終了したときに、顧客を呼び出すための窓口番号表示装置が記載されている。また、審判甲第2号証(特開昭52-10648号公報)には、それぞれ1台ずつよりなる支払機、預金機及び両替機よりなる取引システムにおいて、利用者が立ったまま並んで待つ必要をなくすために、各取引装置ごとに順次予約番号を表示して待機している利用者に報知するものが記載されている。
そして、審判甲第1号証及び審判甲第2号証のいずれも、複数の窓口が併設されている場合に、依頼者を受付券を受け取った順序で開いている窓口に案内できるようにするという技術思想が記載されているものではなく、本件発明を示唆するものではない。
被告は、審判甲第2号証に開示された取引システムにおいて、利用状況に応じて取引装置(1)〜(3)を同じ機能の3台の取引装置とし、各取引装置の番号に予約番号を順次対応させて予約番号表示装置7に案内表示することは、当業者が必要に応じて行う設計的事項である旨主張しているが、審判甲第2号証に開示された取引システムは、仮に取引装置(1)〜(3)を同じ機能の3台の取引装置としたとしても、待ち時間に不平等が生じることを防ごうとするものでなく、単に利用者が立ったまま並んで待つ必要をなくすためのものであるから、各取引装置ごとに順次予約番号を表示して各取引装置ごとに待機している利用者に報知するものにすぎないと考えるのが相当であり、3台の取引装置に共通に予約券を発行し、開いている取引装置に順次利用者を案内することが示唆されているとは認めることができない。
したがって、無効理由3に関する被告の主張は採用できない。
(4) 審決のむすび 以上のとおりであるから、本件特許は、特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、特許法123条1項3号に該当するので、無効にすべきものである。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(36条4項の解釈の誤り) 審決は、無効理由1に関して、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」及び「呼出信号の保留状態の解除手段」が本件明細書又は図面の記載から明確である、とすることはできない」と判断したが、これは特許法36条4項の解釈・運用を誤ったものであるから、審決は取り消されるべきものである。
(1) 前者の構成に関しては、制御盤40の働きについての記載、すなわち、「呼出信号を発した窓口操作盤20の窓口番号と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示盤30の各表示器31,32に警報音と共に表示する」、及び、
「表示盤30に表示される呼出番号は、その表示初期(例えば、表示後約8秒間)には点滅表示され、依頼者にスピーカー89による警報音と共に注意を喚起している」と記載され、第3図のフローチャート、ステップ3、31〜36、及びステップ6(甲第4号証の昭和60年12月18日付け手続補正書添付図面参照)にはこれらのことが裏付けられている。
さらに、「そして、この呼出中に、他の窓口操作盤20から呼出キースイッチ22が押されることで呼出番号の要求があったときは、現在表示中のものが優先表示されるとともに、呼出番号を要求した他の窓口操作盤20は保留状態となる」との具体的構成、作用が記載され、これらの記載から、本件発明の「制御盤は前記窓口操作盤の呼出キースイッチの呼出信号によりその呼出信号を発した窓口操作盤の窓口番号と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示盤に警報音と共に表示する」との記載が、具体的にいかように実施されるかを容易に理解できるはずであり、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」は明らかであるから、特許法36条4項に規定する要件を十分に満たしている。
また、後者の構成に関しては、本件発明の詳細な説明に「そして、この呼出中に、他の窓口操作盤20から、呼出キースイッチ22が押されることで呼出番号の要求があったときは、現在表示中のものが優先表示されるとともに、呼出番号を要求した他の窓口操作盤20は保留状態となる」(第4欄33〜37行)と記載され、当該記載中の「この呼出中に」とは、前後の文脈から「表示初期(例えば、表示後約8秒間)には点滅表示され」の「表示初期」の期間を意味することは、第3図のステップ3の「Yes」に続く制御フローの最終ステップ36が「チャイム音の発生」となっていることからも理解できる。
つまり、先の呼出信号の「表示初期」の期間中は現在表示中のものが優先表示され、後の呼出信号による表示は制御盤40によって保留状態となるが、前記「表示初期」の期間が経過した後には制御盤40によって自動的に保留解除となり、速やかに第3図のステップ31〜36が進んで、次の呼出信号の表示に更新されることは当業者の理解に明らかである。
そもそも「呼出信号の保留状態の解除手段」に関しては、特許請求の範囲の記載としては直接顕在化していないから、本来、特許法36条4項所定の要件は問題にはならない。
(2) 被告は、表示処理の実行中は、他の窓口操作盤からの呼出信号は、何らかの手段によってステップ3の前段階にて保留され、先の呼出信号が維持されるものと解される旨主張する。
しかし、先に入力した呼出信号は「ステップ3」の「Yes」の判定により直ちに31〜36の各ステップを順に進む。次に入ったキースイッチ入力がステップ5の「チャイム?」にて「Yes」の信号であれば、ステップ3,4は「No」の方向へ素通りして、ステップ5における「Yes」の判定によりステップ51へと進み、チャイム音を発生して該当依頼者に注意を喚起する。
よって「先に入力した呼出信号がキャンセル」されたか否か等々を議論する余地は一切ないから、「先の呼出信号がステップ3に維持される」との理解は、誤りである。
先の呼出信号が「ステップ3」にて「Yes」と判定された後に、次の呼出信号の入力が「ステップ3」に入り、やはり「Yes」と判定されたが、いまだ「表示初期」の期間中のときは、表示盤への表示処理は一時保留される。その保留は制御盤40がステップ31〜36の進行を「表示初期」の期間だけ一時止めるにすぎないことは、本件発明の詳細な説明の記載(本件特許公報第4欄13〜41行)から明らかである。
(3) 被告は、表示盤30に呼出中の依頼者の呼出番号とその受付窓口の窓口番号が表示されている最中に次の呼出信号が発せられて、先の呼出信号がキャンセルされて表示処理の更新がなされると、次に呼び出された依頼者は、自己の呼出番号が表示盤に表示されないため、当該受付窓口の窓口業務者が待機しているにもかかわらず、いずれの受付窓口に行けばよいのか不明になる旨主張する。
しかし、先の呼出信号による呼出中に、他の窓口操作盤の呼出信号が発せられたときは、先の呼出信号による表示盤の表示初期の期間中であれば、一時保留されるが、前記期間の経過後は表示盤の表示は後の呼出信号によるものに更新される。つまり、表示初期の期間の長さを適宜設定しておくと(実施例では約8秒間:甲第2号証4欄25行)、待機中の依頼者は表示盤を見ることで十分に確実に順番と窓口を確認できることが、本件発明の思想である。そして、仮に該当の依頼者が来ないときは、窓口担当者はチャイムキーを押して催促できる。以上のように「キャンセル」という処理は一切なく、「ステップ3」の「Yes」に続くステップ31〜36の処理が次々と更新され、更新の結果は「ステップ6」に表示処理が実行されるのである。
2 取消事由2(請求項の記載要件に関する判断の誤り) 審決は「本件発明の、受付券を受け取った順序で開いている窓口に依頼者を案内できるようにするという目的、作用効果に照らして、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」に相当するものが、本件発明の構成に欠くことのできない事項である」と認定し、当該「構成に相当するものが特許請求の範囲に記載されているとは認めることはできない」と判断したが、誤りである。
(1) 第1に、特許法36条5項は、特許請求の範囲の記載要件に関する規定であり、「実施例」の記載の問題ではない。
第2に、特許請求の範囲における「制御盤は前記窓口操作盤の窓口操作盤の呼出キースイッチの呼出信号により、その呼出信号を発した窓口操作盤の窓口番号と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示盤に警報音と共に表示する」との記載は、呼出中の依頼者が受付窓口に来たか否かにかかわらず、次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成を記載していることは、本件明細書及び図面の全体を通じて当業者に明らかなところである。
(2) 被告は、複数の窓口操作盤から発せられる呼出信号に応答して「単一の表示盤」に各窓口操作盤の窓口番号と受付券発行順の呼出番号とを順次対応させて警報音と共に表示する受付整理装置を提案したものであるから、呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき、次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤(単一の表示盤)に表示させるための構成が、発明の構成に欠くことのできない事項であることは明らかである旨主張する。
しかし、特許請求の範囲には、当該構成対応箇所として、「制御盤は前記窓口操作盤の呼出キースイッチの呼出信号により、その呼出信号を発した窓口操作盤の窓口番号と受付券発行順に従った呼出番号とを順次対応させて表示盤に警報音と共に表示する」と記載され、詳細な説明及び第3図の記載から、窓口操作盤の呼出キースイッチの呼出信号が発せられる度に、表示盤の表示が次々更新されることは当業技術者に容易に理解されるから、特許請求の範囲の記載は、特許法36条5項に規定する要件を十分に満たす。
被告は表示盤について「単一の表示盤」を主張するが、特許請求の範囲には、一つとも複数とも限定するような記載はなされていない。
審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1に対して (1)「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」及び「呼出信号の保留状態の解除手段」は、明確でない。
本件特許公報に「この呼出中に、他の窓口操作盤20から呼出キースイッチ22が押されることで呼出番号の要求があったときは、現在表示中のものが優先表示されるとともに、呼出番号を要求した他の窓口操作盤20は保留状態となる。この保留状態の窓口業務者への報知は制御盤40によって保留された呼出番号をモニター表示部25の呼出番号表示部27に表示するとともに待人数表示器26に待人数を点滅表示することで行う」処理については、第3図(参考図)のフローチャートが示されているのみであるから、当該フローチャートに基づいて前記処理を見ると、
@ 呼出キースイッチが押圧されると、ステップ3で「Yes」と判定されてステップ31〜36が実行されて、窓口番号と受付券発行順の呼出番号を対応させて表示盤30に表示する表示処理が実行される。
A この表示処理の実行中は他の窓口操作盤から呼出信号を入力してもその呼出信号は何らかの手段によってステップ3の前段階にて保留され、先の呼出信号が維持されることとなる。
B したがって、先の呼出信号に基づく表示処理の実行中は、ステップ3にて「Yes」の判定が継続的になされてプログラムステップ4,5には進行しないことになる。
C すると、先の呼出信号がキャンセルされない限りステップ3にて「No」と判定されず、ステップ5の「チャイム?」にてチャイムキーが操作されたか否か判別できないこととなる。
さらに、ステップ3においては、操作盤1-4から順次入力された呼出信号が、
先の呼出信号か次の呼出信号かを判別する手段が不明であり、しかも、先の呼出信号に応答したステップ31〜36までの処理中に次の呼出信号を入力することは不可能であるから、「呼出信号をチェックしても操作された呼出キースイッチとその窓口操作盤を特定すること」は不可能である。
(2) 原告は「呼出中の依頼者が受付窓口に来る来ない」にかかわらず、いずれかの窓口業務者が窓口操作盤20の呼出キースイッチ22を操作して呼出信号を発すると、表示盤30の表示内容が変更される旨主張する。
しかし、先の呼出信号に応答してステップ6の表示処理により表示盤30に呼出中の依頼者の呼出番号とその受付窓口の窓口番号が表示されている最中に次の呼出信号が発せられると、先の呼出信号がキャンセルされて表示処理の更新がなされることになるが、先の表示盤30に表示・呼出中の依頼者が来なかったときには当該受付窓口の窓口業務はその業務を行うことなく待機することになり、次に呼び出された依頼者は、自己の呼出番号が表示盤に表示されないため、当該受付窓口の窓口業務者が待機しているにもかかわらず、いずれの受付窓口に行けばよいのか不明になる。
2 取消事由2に対して 本件発明の目的は、「依頼者の待ち時間の不平等をなくし、受付を受け取った順序で開いている窓口を案内でき、しかも、窓口業務者の労力軽減も図れる受付整理装置を提供すること」であり、その実施形態として「複数の窓口操作盤から発せられる呼出信号に応答して「単一の表示盤」に各窓口操作盤の窓口番号と受付券発行順の呼出番号とを順次対応させて警報音と共に表示する受付整理装置」を提供したものであって、この受付整理装置においては常に一つの窓口番号とその窓口番号の受付窓口にて受付けられる呼出番号が順次表示される。このため、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき、次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤(単一の表示盤)に表示されるための構成」が発明の構成に欠くことのできない事項であることが明らかであって、この構成が実施例において理解できない限り、特許請求の範囲の根拠となる事項が開示されていないことにほかならない。
当裁判所の判断
取消事由1(36条4項の解釈の誤り)について判断する。
1 原告は、「呼出中の依頼者が受付窓口に来たとき次の呼出番号及びそれに対応する窓口番号を表示盤30に表示させるための構成」及び「呼出信号の保留状態の解除手段」は明確である旨主張し、「呼出信号の保留状態の解除手段」が明確であることの根拠として、本件明細書の発明の詳細な記載中の、(A)「そして、この呼出中に、他の窓口操作盤20から呼出キースイッチ22が押されることで呼出番号の要求があったときは、現在表示中のものが優先表示されるとともに、呼出番号を要求した他の窓口操作盤20は保留状態となる」との具体的構成、作用の記載、及び、(B)当該記載中の「この呼出中」が「表示初期(例えば、表示後8秒間)」を意味するものであるとする。
2 原告主張中の(B)「この呼出中」の意味するところを検討するに、「この呼出中」に記載されている「この」との「指示」を考慮すると、「この呼出中」は、それ以前に記載された「呼出中」の文言を受けていることとなり、当該「この呼出中」との記載以前に記載された「呼出中」の文言は、発明の詳細な説明における当該「この呼出中」の直前の記載、すなわち、「また、窓口操作盤20の呼出番号表示器27には、表示盤30にこの窓口操作盤20で呼び出している呼出番号が表示されている間は、呼出番号が点滅表示されている。従って、窓口業務者はこの点滅表示によって現在呼出中であることが確認できるものである。」との記載事項(甲第2号証の本件特許公報第4欄27〜32行)中の「呼出中」を受けたものであることが認められる。
そこで、当該記載中の「呼出中」の意義についてみるに、 呼出中は窓口操作盤20の呼出番号表示器27の呼出番号が点滅しており、当該点滅は、表示盤30に窓口操作盤20で呼び出している呼出番号が表示されている間表示されるものであること、要するに、「表示盤30に呼出番号が表示されている間」が「呼出中」であることが自明である。
原告指摘の「このときの表示盤30に表示される呼出番号は、その表示初期(例えば、表示後約8秒間)には点滅表示され、依頼者にスピーカー89による警報音と共に注意を喚起している。」との本件明細書の発明の詳細な説明の記載(甲第2号証第4欄22〜27行)は、表示盤30の表示手法に関する記載であるにとどまることが明らかであって、この記載をもって、「この呼出中」との点を、原告主張のように「表示初期」であると解釈しなければならない根拠とすることはできない。
3 次いで原告主張中の(A)について検討する。
「この呼出中」の意味として上記2で判示したところの解釈に従って、原告指摘の本件明細書の(A)の記載を敷衍すると、「そして、表示盤30に呼出番号が表示されている間に、他の窓口操作盤20から呼出キースイッチ22が押されることで呼出番号の要求があったときは、現在表示中のものが優先表示されるとともに、
呼出番号を要求した他の窓口操作盤20は保留状態となる」となるが、甲第2号証によれば、この箇所以外に「保留状態」との文言が記載された箇所は、本件明細書にはないことが認められる。
そして、当該「保留状態」が解除されなければ、保留状態に陥った呼出番号の受付券を持つ「客や申請者等の依頼者に受付券を発行してその受付窓口への案内する受付整理装置」がその作用を果たさないこととなるので、当該「保留状態」が解除される必然性が存することは自明のことである(原告は、「呼出信号の保留状態の解除手段」は、特許請求の範囲の記載としては直接顕在化していないから、本来、
特許法36条4項に規定する要件は問題にならない旨主張するが、理由がない。)。
ところが、甲第2号証によれば、「保留状態の解除」に関する記載は本件明細書にはないことが認められ、かつ、単一の表示盤にて呼出信号が保留状態に陥った場合の解決手段が周知であることを認めるべき証拠もないのであることからすると、
「「呼出信号の保留状態の解除手段」が本件明細書又は図面の記載から明確であるとすることはできない」とした審決の判断に誤りはないといわなければならない。
4 原告は、「この呼出中」が「その表示初期(例えば、表示後約8秒間)」を意味することは、本件第3図のステップ3の「Yes」に続く制御フローの最終ステップ36(甲第4号証の昭和60年12月18日付け手続補正書添付図面参照)が「チャイム音の発生」となっていることからも理解することができる旨主張する。
しかし、第3図の制御フロー中には、前記、呼出中に、他の窓口操作盤20から呼出キースイッチ22が押されることで呼出番号の要求があったとき、現在表示中のものが優先表示されるとともに、呼出番号を要求した他の窓口操作盤20を“保留状態”とすることに関するフローは記載されていないから、第3図の制御フローを根拠に、原告主張のように、「この呼出中」が「その表示初期(例えば、表示後約8秒間)」を意味するものであると解することはできない。
原告は、表示盤に関して、特許請求の範囲には一つとも複数とも限定するような記載はされていない旨主張するが、特許請求の範囲に限定がない以上、表示盤が一つのものも本件発明に包含され、表示盤が一つでも本件発明の作用・効果が奏されなければならないことは明らかである。この点に関する原告の主張は理由がない。
5 したがって、取消事由1は理由がなく、本件特許は特許法36条4項所定の要件を満たしていないとした審決の判断に誤りは認められない。
結論
以上のとおり、本件特許は特許法36条4項所定の要件を満たしていないとした審決の判断に誤りが認められない以上、無効理由2についての判断の誤りをいう取消事由2について判断を加えるまでもなく、本件特許を無効とした審決の結論を支持することができ、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成14年1月22日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史