審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成14ネ3649特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成15ネ2115特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成11ネ3751特許権に基づく差止請求権不存在確認,特許権侵害行為差止等,損害賠償等請求控訴,同附帯控訴事件 平成12ネ1205特許権に基づく差止請求権不存在確認,特許権侵害行為差止等,損害賠償等請求控訴,同附帯控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成15ネ514特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成14ネ2331特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 公知技術 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 実施料相当額 / 権利の濫用(権利濫用) / 対象製品 / 参酌 / 均等 / 置き換え / 同一の作用効果 / 容易に想到(容易想到性) / 意識的除外(意識的に除外) / 禁反言 / 特許発明 / 実施 / 耐用期間 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 損害額推定(損害額の推定) / 実施料 / 相当因果関係 / 不法行為(民法709条) / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
13年
(ネ)
2095号
特許権侵害行為差止等請求控訴事件
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控訴人(第1審原告) アイエヌジ商事株式会社 訴訟代理人弁護士 藤木久 同 溝上哲也 被控訴人(第1審被告) マゴト・ジャパン株式会社 (旧商号 古河マゴト株式会社) 訴訟代理人弁護士 安田有三 補佐人弁理士 越場隆 |
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裁判所 | 大阪高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/02/13 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 当審において追加された控訴人の請求を棄却する。 3 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨 (1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は,別紙被控訴人製品目録記載の物件を製造し,輸入し,使用し,譲渡し,貸し渡し,又は譲渡又は貸渡しのために展示してはならない(なお,控訴人は,当審において,原判決添付別紙被告製品目録(原告)を別紙被控訴人製品目録に差し替えたが,その修正箇所は,同目録の下線部分のとおりである。)。 (3) 被控訴人は,その占有に係る別紙被控訴人製品目録記載の物件及びその半製品を廃棄せよ。 (4) 被控訴人は,控訴人に対し,100万円及びこれに対する平成5年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (5) 仮執行宣言 2 当審において追加された請求の趣旨 (1) 被控訴人は,控訴人に対し,1億6000万円及びこれに対する平成13年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 仮執行宣言[以下,「第2 事案の概要」,「第3 争点に関する当事者の主張」及び「第4 争点に対する判断」の部分は,原判決「事実及び理由」中の各該当部分を付加訂正した。ゴシック体太字の部分が,当審において,内容的に付加訂正を加えた主要な箇所である。それ以外の字句の訂正,部分的削除等については,特に指摘していない。] |
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事案の概要
(争いのない事実) 1 控訴人は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。 (1) 特許第1618574号 (2) 発明の名称 粉砕機に使用される破砕面部材 (3) 出 願 日 昭和61年12月9日(特願昭61-292884号) (4) 公 告 日 平成2年9月7日(特公平2-39939号) (5) 登 録 日 平成3年9月30日 (6) 特許請求の範囲 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)記載の特許請求の範囲第1項の記載は,別添特許公報(以下「本件公報」という。)該当欄記載のとおりである(以下,その特許発明を「本件発明」という。)。 2 本件発明は次のとおり分説するのが相当である。 @ 破砕面aと破砕面bとの間に連続的に材料を噛み込み粉砕して行く粉砕機の破砕面部材A,Bであって, A その少なくとも表層部分に耐摩耗性の異なる2種類のブロック1,2が,前記破砕面a,b上で材料の噛み込まれて行く方向Xに交互に配列されており, B 耐摩耗性の低いブロック2の巾wが耐摩耗性の高いブロック1の巾Wに対して0.1×W〜1.0×Wを満足し, C 且つ,使用時の摩耗に伴って耐摩耗性の低いブロック2に生じる安定的な凹みの深さlが0.5〜15oになるように両ブロックの耐摩耗性および巾が設定されてなる D ことを特徴とする粉砕機に使用される破砕面部材。 3 被控訴人は,ベルギー国の法人であり親会社でもあるマゴトー・ソシエテ・アノニム(以下「マゴト社」という。)から,商品名が「DUOCAST」という,粉砕機に使用される破砕面部材(以下「被控訴人製品」という。)を輸入し,販売している(そのパンフレットが甲9)。 (控訴人の請求) 本件は,控訴人が被控訴人に対し,被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属することを理由に,被控訴人がそれを輸入,販売等することは本件特許権を侵害するとして,被控訴人製品の製造,輸入,譲渡等の差止めと損害賠償(弁護士費用)を請求するものである。 原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人は,控訴を提起するとともに,当審において,本件特許権の侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき,被控訴人製品1台当たりの実施料相当額に被控訴人による販売台数を乗じた金額の支払を求める請求を追加した。 (争点) 1 被控訴人製品の特定。 2 被控訴人製品は構成要件@及びAを充足するか。 3 被控訴人製品は構成要件Bを充足するか。 4 被控訴人製品は構成要件Cを充足するか。 5 損害又は不当利得の額。 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点1(被控訴人製品の特定)について 【控訴人の主張】 被控訴人製品は,別紙被控訴人製品目録記載のとおり特定されるべきである。 【被控訴人の主張】 (1) 被控訴人製品は,原判決添付別紙被告製品目録(被告)記載のとおり特定されるべきである。 (2)(当審における追加主張) 控訴人は,別紙被控訴人製品目録図面4の製品も被控訴人製品として,控訴審において追加した。しかし,同図4に示される製品を被控訴人は製造したことも販売したこともない。控訴人は,甲13の製品を被控訴人製品として追加したものと推測されるが,同製品は円筒状のものではなく,その周面は,太鼓の胴様に膨らんだものである。また,控訴人は,原審第10回弁論準備手続において,同製品を本訴の請求対象から除外するとしていた。 2 争点2(被控訴人製品は構成要件@及びAを充足するか。)について 【控訴人の主張】 (1) 被控訴人製品の破砕面部材は,粉砕機に単体(対象物を噛み込んでいく破砕面の一方)で使用されるものであるが,このようなものも本件発明の技術的範囲に属する。構成要件@には「破砕面部材A,B」と記載され,構成要件@及びAには「破砕面a,b」と記載されているが,@本件明細書添付図面では,破砕面部材Bは第9図にしか記載されておらず,同図は粉砕機の一般的な粉砕原理を図示したものにすぎないから,本件明細書添付図面上は破砕面部材Bには本件発明の構成が要求されていないこと,A特許請求の範囲の記載に当たり,明細書添付図面中の符号を使用したとしても,それは,特許請求の範囲の記載を理解するためのものであり,その技術的範囲を同図面の符号記載のものに限定することにはならないこと,B本件発明は,破砕面部材の構成に関する発明であって,セットとなる破砕面部材との組み合わせに関するものではないこと,C粉砕機の破砕面部材である以上,他の破砕面部材とセットで使用する必要はあるが,その他方の破砕面部材に本件発明を使用しなくても,本件発明の構成上全く支障がなく本件発明の作用効果に影響がないことは,本件明細書の記載から明らかなことから,本件発明の構成を具備する破砕面部材は1つで足りる。 したがって,被控訴人製品は,構成要件@及びAを充足し,本件発明の技術的範囲に属する。 (2) 本件明細書の特許請求の範囲には,「破砕面部材A,B」と記載されているが,本件発明の技術思想や作用効果からは破砕面の一方で本件発明の破砕面部材が使用されていればよく,本件明細書には破砕面の一方に本件発明の破砕面部材が使用された場合が記述されているから,破砕面の両面で本件発明の破砕面部材を使用することを前提にしたかのような特許請求の範囲の記載は,明らかな誤記と理解することができる。仮に明らかな誤記といえないとしても,同様の理由から,本件発明の破砕面部材を片面若しくは両面のいずれで使用するかは,実質的な意味のない微差にすぎない。 (3) 仮に,被控訴人製品が破砕面部材単体であることをもって,本件発明の文言侵害に該当しないとしても,被控訴人製品は,本件発明と均等であり,その技術的範囲に属する。すなわち,本件発明の本質的部分は,耐摩耗性の高いブロックと低いブロックを構成要件Aのように交互に配列することと,構成要件B,Cの部分にあり,破砕面部材Bの存在は本質的部分でない。その他,被控訴人製品のように破砕面部材を対で使用しなくても本件発明と同一の作用効果を奏するし,そのことは当業者が容易に推考できたものであり,また,被控訴人製品は本件発明の特許出願時の公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく,特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外したというような特段の事情もない。 【被控訴人の主張】 (1) 本件発明は,「破砕面部材AとB」及びその「破砕面aとb」を必須の要件とするものである。本件発明の特許請求の範囲には,符号が使用されているが,当該符号を取り除いたとしても,構成要件@が,二つの破砕面部材の存在を要求していることは明らかである。本件明細書添付第1図ないし第8図で,一方の破砕面部材Aが記載され,他方の破砕面部材Bが略されているのは,両者が等しいものであるから,他方を略しているだけである。 被控訴人製品を使用する粉砕機は,被控訴人製品を一方の破砕面とし,他方の破砕面がテーブル状破砕面となるものであって,被控訴人製品は1個単位で使用されるものであり,被控訴人製品を二つ並べて接触させ,その二つのロール両面で粉砕作業がなされることはないから,構成要件@及びAを充足しない。また,被控訴人製品が採用される縦型ローラミルでは,押し潰し粉砕手段が採用されているから,構成要件@の「噛み込み粉砕」を行っていない。 (2) 控訴人は,本件発明の特許請求の範囲の記載は誤記であると主張するが,誤記とは,例えば「長さ5平方センチメートル」というように記載自体が矛盾しており,その記載を訂正しないと意味自体が把握できない場合をいうところ,構成要件@及びAに「誤記」など存在しない。 したがって,控訴人の主張は失当である。 (3) 控訴人は,本件発明の破砕面部材を片面と両面のいずれで使用するかは実質的な意味のない微差にすぎないと主張するが,「破砕面部材Aと破砕面a」だけの場合,構成要件@の「破砕面aと破砕面bとの間に連続的に材料を噛み込み粉砕」及び構成要件Aの「表層部分に耐摩耗性の異なる2種類のブロック1,2が,前記破砕面a,b上で材料の噛み込まれて行く方向Xに交互に配列され」との構成及び作用が得られない。仮に,一方の破砕面部材が「交互に配列した同ブロック1及び2」を有するものであり,他方の同部材が均一な耐摩耗性の破砕面である粉砕機は,本件発明の粉砕機に比べ,「噛み込み効果」が劣ることは明らかである。 したがって,「破砕面部材Aと破砕面a」だけと,構成要件@及びAとの間には,本質的な相違があるから,その相違を微差ということはできない。 (4) 控訴人は,被控訴人製品は本件発明と均等であると主張するが,被控訴人製品と本件発明には,上記(3)記載のとおりの本質的な相違があるのであるから,均等に当たらない。また,控訴人の主張によれば,被控訴人製品には,そもそも本件発明の「破砕面部材B」と均等を論ずる物がそもそも存在しないこととなるから,特許発明の要件中「対象製品等と異なる部分」と「対象製品等におけるもの」との存在を前提とする均等が成立する余地はない。 また,控訴人は,本件特許出願の過程で平成2年1月12日付手続補正書を提出し,本件発明の出願当時公知であった実公昭55-9389号実用新案公報(乙3)記載の考案により容易推考との拒絶理由を回避するため,構成要件B及びCを特許請求の範囲に加えた。したがって,構成要件B及びCを有する二つの破砕面部材が存することが,本件発明の作用効果を生じさせる技術的思想の中核をなす特徴的部分であるというべきであるとともに,控訴人は,構成要件B及びCを具備する二つの破砕面部材でないものを,本件発明の技術的範囲から意識的に除外したというべきである。 また,破砕面部材Bがあるものと,破砕面部材Bがないものとを置き換えた場合,その作用効果が異なるものとなることは明らかであり,また,そのように置き換えることは本件明細書の記載と矛盾するものであるから,当業者が容易に想到することはできない。 さらに,被控訴人製品は,上記公知技術から当業者が容易に推考できたものである。 したがって,控訴人の主張は失当である。 3 争点3(被控訴人製品は構成要件Bを充足するか)について 【控訴人の主張】 被控訴人製品が構成要件Bを充足していることは,被控訴人製品を撮影した写真(甲5)を見れば明らかである。 【被控訴人の主張】 構成要件Bは,両ブロックの全長にわたっての要件であるが,被控訴人製品はリブ50部分において構成要件Bを充足しない。 4 争点4(被控訴人製品は構成要件Cを充足するか)について 【控訴人の主張】 (1) 本件明細書の記載(本件公報5欄5行〜20行)からすると,構成要件Cの「使用時の摩耗に伴って耐摩耗性の低いブロック2に生じる安定的な凹み」とは,使用後に,耐摩耗性の低いブロック2が耐摩耗性の高いブロック1よりも早く摩耗することによって生じる凹みのことであり,いったん所定の深さの凹みを生じると,耐摩耗性の高いブロック1の摩耗進行の分だけ,耐摩耗性の低いブロック2の頂部が摩耗するので,凹みは常にほぼ同じ深さを維持することを示している。 したがって,前記「安定的な凹み」が製品出荷時における使用前の状態や,ブロック1が摩耗し尽くして製品寿命が終了した段階の状態でないことはいうまでもない。 そして,被控訴人製品はマゴト社の有する特許第2799250号特許権に係る特許発明の実施品でもあるところ,その特許公報(乙1)の記載(同証拠の【0015】では,「このリブ50の目的は,支持部材42を鋳造する際に上記空間内に展性のある鋳鉄を流入させて,互いに隣接する全てのインサート44の間に細い展性鋳鉄の放射状フィン52を形成することにある。空間にできる放射状フィン52の目的は,ローラの作動時に,展性合金を優先的に摩耗させてインサート44間に溝を形成させ,この溝の中に被粉砕物質を捕捉することにある。」とされている。)からすれば,被控訴人製品が「使用時の摩耗に伴って耐摩耗性の低いブロック2に生じる安定的な凹み」を有し,被控訴人製品が本件特許と同じく安定的に生じる凹みによって,高い粉砕効率を持続させようとしていることは明らかである。 (2) また,破砕面部材の少なくとも表層部分に耐摩耗性の異なる2種類のブロックが,破砕面上で材料の噛み込まれていく方向に交互に配列された破砕面部材においては,耐摩耗性の低いブロックに生じる凹みの深さは,当該ブロックの幅よりも大きくならない。なぜなら,原料は,まず耐摩耗性の高いブロックによって粉砕され,耐摩耗性の高いブロック相互の隙間(耐摩耗性の低いブロックの幅)よりも小さくなったものだけが,耐摩耗性の低いブロックによって粉砕されるところ,原料は自らの大きさ以上には耐摩耗性の低いブロックを摩耗できないから,結局,耐摩耗性の低いブロックの幅以上には,当該ブロックを摩耗できないからである。しかも,対となる破砕面の間には,実際は3ないし8oの遊びがあることや,粉砕された原料によるセルフライニング効果(粉砕された原料が溝の底に埋没して溝の摩耗進展を防止すること)などのために,その凹みの深さはその幅よりも浅くなるのである。 そして,被控訴人製品における耐摩耗性の低いブロックの幅は7ないし8oであるから,その凹みの深さもこれ以下となると考えられるところ,実際,被控訴人製品のパンフレット(甲10)には,その凹みの深さが3ないし4oであると記載されている。したがって,被控訴人製品は,構成要件Cの「安定的な凹みの深さlが0.5〜15oになるように両ブロックの耐摩耗性および巾が設定されてなる」という要件を充足する。 (3) なお,被控訴人が提出する被控訴人製品の写真(乙9〜12)に写されている被控訴人製品は,粉砕を行う大径部分において,耐摩耗性の高い部材がすべて摩耗して消失しており(穴や亀裂が生じているものもある。),溝がなくなっているから,商品寿命のなくなった廃品である。本件特許発明は,「使用時の摩耗に伴って耐摩耗性の低いブロック2に生じる安定的な凹み」によって,「耐摩耗性の高いブロック1が使用限界まで摩耗するまで,高水準の粉砕効率が維持継続される。」ものであるから,そもそも使用限界を超えれば本件特許発明の作用効果が発揮されないことは明らかであるが,乙9ないし12の被控訴人製品は,いずれも大径部分で,インサート44の少なくとも幅方向の一部がローラ母材側で断面鳩尾状となってインサート間の間隔が広くなっている部分まで摩耗した,使用限界を超えたものであるから,耐摩耗性の低いブロック2に生じる安定的な凹みが存在しないことの証拠とはなり得ず,被控訴人製品が構成要件Cを充足しないということはできない。 (4) 当審における追加主張 ア 構成要件Cの「使用時の摩耗に伴って耐摩耗性の低いブロック2に生じる安定的な凹みの深さ」という記載は,それ自体において何ら不明瞭な用語を含むものでなく,記載としても明確であるから,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないという特許法70条1項の原則に従って,文字どおり使用時の摩耗に伴って耐摩耗性の低いブロック2に生じる凹みの深さlが0.5ないし15oの範囲で安定的な値となるように両ブロックの耐摩耗性及び幅が設定されているという意味に解釈されるべきである。また,上記記載は,絶対値として常に所定の深さを維持することまでを必要とする意味ではなく,0.5ないし15oの範囲で安定的な値となるよう深さlを維持することが要件とされているという意味に解釈すべきで,安定的な値となる範囲では変動することもあり得るというべきである。 また,本件特許明細書の「発明の詳細な説明」中,本件特許発明の技術思想を論じた箇所には,「ブロック1よりブロック2の耐摩耗性が劣ると規定して,本発明のローラAで材料の粉砕を行えば,第2図イ,ロに示されるように,使用開始後しばらく経過すると,耐摩耗性の低いブロック2の頂部破砕面は耐摩耗性の高いブロック1より速やかに摩耗を生じ,図に示した深さlの凹みを自然発生的に生じる。」と凹みの発生する作用の説明があるが,この作用は,耐摩耗性の高いブロックがロール軸方向に偏摩耗しても,その偏摩耗に応じて隣接する耐摩耗性の低いブロックが摩耗することにより発揮され得る。そして,本件特許発明の実施例中にも,「なお,ローラは巾方向に中央部で集中的に摩耗を発生することから,摩耗を生じない両側の10〜15o巾の部分を残し,その内側に耐摩耗性ブロック1とスぺーサブロック2とを配列することとしてある。」という記述があるから,本件特許発明では,幅方向に発生する偏摩耗とは別に自然発生的な凹みの生じることが論じられている。 イ 被控訴人製品が「ロール周方向において耐摩耗性の低いブロックに安定的な凹みが生じている」ことは,「ローラ作動時に,展性合金を優先的に摩耗させてインサート44間に溝を形成させ,この溝の中に被粉砕物質を補足する」ものであって,被控訴人製品では,インサートの間隔より小さくなったものだけが展性合金によって粉砕され,被粉砕物質は自らの大きさ以上には展性合金を摩耗できないのであって,結局,展性合金はインサートの間隔以上には摩耗できず,溝の深さは,インサートの間隔によって規制されることになるから,理論上明らかである。 竪型ローラミルでは,原料が受け皿となるテーブル面の真ん中に落下する。そして,テーブルが回転することによってその原料を遠心力で外側に移動させる。その結果,破砕面部材は,外側,すなわち,ロール大径部で原料の大半を摩耗するので,被控訴人製品ではロール大径部の摩耗が進捗するだけのことである。被控訴人製品のロール大径部の溝が広いからではないし,ロール大径部のブロックの耐摩耗性が低いからでもない。 さらに,被控訴人製品のパンフレット(甲10)に,「噛み込み効果(ダクタイル鋳鉄はインサートの間でインサートより3ー4o摩耗する。)」と記載されていることから,凹みの深さlが0.5ないし15oの範囲内であることは証拠上からも明らかである。また,被控訴人製品の両ブロック(インサートとローラ母材)の材質は,例えば,「ダクタイル鋳鉄:GGG40-70」と「FMU-18」又は「FMU-46」として耐摩耗性が設定されており(甲10),両ブロックの幅も,例えば甲5の使用済みの廃品の小径部分では,「約55o」と「約7〜8o」に設定されている(甲5のC)。これらを総合すれば,被控訴人製品にも「安定的な凹み」があると認定されるべきである。 甲5のAの写真の被控訴人製品も,本件発明の機能を発揮する使用時間を大幅に超過した廃品である。 本件発明における破砕面部材そのものの寿命は,耐摩耗性の高いブロックに支配されるのであるから(本件公報9欄38〜39行),本件発明との関係においては,被控訴人製品の部材としての寿命は,摩耗性の高いブロックが本来の機能を発揮する厚みまで摩耗する時間となるはずである。 【被控訴人の主張】 (1) 控訴人の本件特許出願に対する審査における主張及び構成要件Cの記載からすれば,構成要件Cの「安定的な凹み」とは,ロール幅(長手軸)方向に存在する耐摩耗性の高いブロック1(幅W)が同方向での偏摩耗をせず,耐摩耗性の低いブロック2(幅w)にブロック1の表面に対して凹みが生じることをいう。すなわち,ブロック1がロール幅方向で偏摩耗しないので,「ブロック2の凹みがロール幅方向のブロック1の全長に沿って溝状に延在していること」になる。 しかし,被控訴人製品のロール面は,使用に従って絶えず摩耗し続け,しかも,ロール幅(長手軸)方向で偏摩耗を生じさせるものであるから,「使用時の摩耗に伴って放射状フィン52に安定的な凹み」はそもそも存在しない。 控訴人は,被控訴人製品について,乙1の特許公報を引用して「安定的な凹み」が生ずることを被控訴人が自認していると主張するが,同公報に記載されているのは,使用時には放射状フィン52の部分に溝が生じ,この溝内に被粉砕物質を捕捉するということであって,その溝の深さが「安定的」ということではない。 (2) また,被控訴人製品は,「安定的な凹みの深さlが0.5〜15oになるように両ブロックの耐摩耗性及び巾が設定」されていない。被控訴人製品でも,使用中両ブロックが併存するときは,耐摩耗性の低い部分に自然発生的に凹みが生じる。しかし,その深さは,「0.5〜15o」が過渡的かつ局部的に生じても,凹みの深さが同数値範囲に維持されることはない。また,耐摩耗性の高いブロックが消失しても,耐摩耗性の低い支持部材42の耐摩耗性を利用して粉砕を行うから,この時点では両ブロック間の凹みを論ずる余地がない。 したがって,被控訴人製品は,構成要件Cを充足しない。 (3) なお,控訴人の主張によれば,耐摩耗性の異なるブロック1及び2が存在すれば,本件発明の技術的範囲に属することになるが,そのような主張は,控訴人が,実公昭55-9389号実用新案公報記載の考案により本件発明の特許出願が拒絶されることを回避するために,構成要件Cを追加する補正をした行為と矛盾するものであり,禁反言の法理からみても許されず,また,そのような主張は権利濫用であり許されない。 (4) 控訴人は,乙9ないし12の写真に写っている被控訴人製品の状態について,「使用済みの廃品」という。しかし,乙9は使用開始後約4000時間,乙10は約5000時間経過後である。乙11は使用の最終段階であるが,いずれも「使用時の摩耗乃至破損」によって生じた状態であり,「安定的な凹み」はない。 (5) 当審における追加主張 ア 粉砕する原料の種類によって,原料の耐摩耗性の強度が異なるから,原料粉砕時に破砕面側に生ずる摩耗の程度も異なる。また,原料の耐摩耗性の強度が耐摩耗性の高いブロック1より強ければ,ブロック1自体の摩耗が大きく凹みの基準面となるブロック1の表面が不安定となり,「両ブロックの耐摩耗性の差(相違の程度)」を利用した「安定的な凹み」は得られない。 また,補正書で本件特許請求の範囲に追加された「安定的な凹みの深さ」については,ロール幅(長手軸)方向の偏摩耗を防ぐことを発明の効果として加入したこと,及び本件発明が破砕面部材に関する発明であることからすると,本件発明の効果は破砕面(周方向及び軸方向)全体にわたって安定的な凹みの深さが得られることをいうと解すべきである。 イ 本件発明は,公知技術(乙3の第1ないし第3図)との同一性を回避するため,安定的な凹みの深さを0.5ないし15oになるように「両ブロックの耐摩耗性及び巾が設定される」との技術手段を発明の要件Cとして加入したものである。しかし,被控訴人製品において凹みの深さを調整する技術的要請はそもそも存在しないから,凹みの深さ調整のため,両ブロックの耐摩耗性を設定したり,幅を設定することもない。 控訴人は,甲5のAの写真は使用済みの被控訴人製品を撮影したと主張するが,仮に使用済みといえども使用によって生じたことに変わりはない。 5 争点5(損害又は不当利得の額)について 【控訴人の主張】 (1) 従来の請求に係る主張 控訴人が控訴人訴訟代理人らに本件訴訟を委任したことに伴う弁護士費用のうち,被控訴人の本件特許権侵害行為と相当因果関係にある損害は,100万円をくだらない。 (2) 当審において追加された請求に係る主張 ア 特許法102条3項による損害額の推定 被控訴人は,遅くとも本件特許の公告日の後である平成5年には,ベルギー国法人であるマゴト社が製造した別紙被控訴人製品目録記載の被控訴人製品を日本に輸入して,これを独占的に販売していた。被控訴人の本件特許権の侵害期間は,短くとも平成5年1月1日から平成12年12月31日までの8年間に及んでおり,この間の被控訴人製品の販売台数は,少なくとも160台を下らない。 また,被控訴人製品の平均販売価格は,1台当たり1000万円を下らないが,被控訴人製品の販売による本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額は,被控訴人製品が消耗品であって,その全体が本件発明の対象であることからすると,少なく見積もっても,実施料率としては売上の10%を下らない。 以上を計算すると,特許法102条3項による損害額は,1億6000万円と推定される。 1000万円×160台×10%=1億6000万円 イ 不当利得 控訴人は,短くとも平成5年1月1日から平成12年12月31日までの8年間にわたって,本件発明を実施料を支払うことなく実施して,少なくとも1億6000万円の利得を得ており,控訴人はこれと同金額の損失を被った。 【被控訴人の主張】 争う。 |
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争点に対する判断
1 争点1(被控訴人製品の特定)について 前記第2の3の事実に証拠(甲5,9,10,乙2,9〜12,14)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 (1) 被控訴人製品は,被控訴人がマゴト社から輸入し日本国内で販売している,商品名が「DUOCAST」という,粉砕機に使用される破砕面部材のうちテーパー状のものであるが,粉砕ローラとして未使用の時点での構成は,原判決添付別紙被告製品目録(被告)記載のとおりであり,耐摩耗性の低いブロック(被控訴人が「放射状フィン」という部分。以下「フィン部」という。)と同一部材を支持部材としつつ,耐摩耗性の低いブロックと耐摩耗性の高いブロック(被控訴人が「インサート」という部分。以下「インサート部」という。)とを,材料の噛み込まれていく周方向に交互に配列していると認められる。そして,鋳型内にセットしたインサートの周りに展性の高い材料を鋳造して形成したフィン部は,インサートの外側表面より,むしろ,放射方向外側に突出する(溢れ出る)ことが多い。 (2) しかし,フィン部は,支持部材と同一の展性の高い材料で構成されており,耐摩耗性はインサート部の部材よりも低いことから,粉砕ローラとして被粉砕物の粉砕処理に使用するようになると,間もなくフィン部においてインサート部よりも摩耗が進み,フィン部で凹みが形成される。もっとも,この凹みの深さは,原判決添付別紙被告製品目録(原告)図面1のようにロール軸方向にロール大径部からロール小径部までほぼ同一(l)になるわけではなく,破砕面の仕事量の多いロール軸方向にロール大径部側ほど摩耗が大きくなるが,周方向での各インサート部及び各フィン部の摩耗度並びに各フィン部に形成される各凹みの深さは,ほぼ同一であると認められる。 なお,控訴人は,当審第2回口頭弁論において,被控訴人製品の構成の特定について,原判決添付別紙被告製品目録(原告)に代えて,これに甲13の写真の被写体となっている破砕面部材を他の実施例として追加した別紙被控訴人製品目録に訂正する旨主張する。これは,実質的には,製造,輸入,譲渡等の差止請求及び損害賠償請求の対象となる被控訴人製品を追加するもので,訴えの変更に当たるものと解される。 しかしながら,控訴人は,甲13の被控訴人の製品の図面を被控訴人製品目録に追加したのみで,同製品が本件請求の対象としての特定をいまだ十分に行っているとはいえず,しかも,被控訴人は,甲13の被控訴人の製品を本件請求の対象とすることを争っているのであるから,双方の主張立証を尽くさせて本件請求の対象となるか,また,本件特許権を侵害するか否かを審理するためには,なお相当の時間を要するといわざるを得ない。 また,控訴人は,平成13年3月1日の原審第10回弁論準備手続の席上において,本件で控訴人が差止請求及び損害賠償請求の対象とする被控訴人製品は,商品名「DUOCAST」のうち,原判決添付別紙被告製品目録(原告)図面1表示のテーパー状のものに限定し,甲13の被控訴人製品は,本件請求の対象としない旨言明している。そして,被控訴人において,平成12年9月8日付準備書面をもって,甲13の被写体が被控訴人の製造した製品であることを認めたのが,同年10月13日の第7回弁論準備手続の席上であるから,控訴人は,これを知りつつ,甲13の被控訴人の製品を本件請求の対象から除外する旨陳述したものと認められ,かかる訴訟上の経緯をも考慮すると,控訴人が当審で行った上記被告製品目録(原告)の差し替えの主張(訴えの変更)は,これにより著しく訴訟手続を遅延させるものと認められるから,民事訴訟法143条1項の趣旨により,これを許さないこととする。 2 争点4(構成要件C充足性)について (1) 構成要件Cには,「使用時の摩耗に伴って耐摩耗性の低いブロック2に生じる安定的な凹みの深さ」という記載があるが,これが具体的にどのような状態を意味しているのかについては,特許請求の範囲の記載からは,一義的に導き出されない。そこで,本件明細書の記載を参酌するに,証拠(甲1)によれば,本件明細書には次の記載があることが認められる。 ア 従来の技術(本件公報4欄11行〜15行) 当初から粉砕面a,bに筋状突起4を付与しておくと,粉砕開始時点から粉砕効率が増加し単位時間当りの生産トン数を増加させる効果が有る。これは突起が原料の噛み込みを良くする作用を果たすためと考えられる。 イ 発明が解決しようとする問題点 (ア) 本件公報4欄17行〜22行 ところが,山高の筋状突起4を粉砕面a,bに付与すると,振動や騒音の発生原因になるので,筋状突起4の高さはおのずと制限される。その為,筋状突起4が使用開始後すぐに摩耗消失し,粉砕効率の増大にさしたる効率を与えることが出来ないのが実状である。 (イ) 本件公報4欄31行〜35行 本発明は斯かる状況に鑑み,使用開始後,速やかに粉砕効率が増加し,その後,耐用期間が終了するまでの間,長期間に亘ってその高粉砕効率が維持継続される破砕面部材を提供するものである。 ウ 問題点を解決するための手段 (ア) 本件公報5欄5行〜20行 ブロック1よりブロック2の耐摩耗性が劣ると規定して,本発明のローラAで材料の粉砕を行えば,第2図イ,ロに示されるように,使用開始後しばらく経過すると,耐摩耗性の低いブロック2の頂部破砕面は耐摩耗性の高いブロック1より速やかに摩耗を生じ,図に示した深さlの凹みを自然発生的に生じる。 このような状況に至ると材料の噛み込が良くなり,粉砕効率が急激に改善され,その後,耐摩耗性の高いブロック1が使用限界まで摩耗するまで,高水準の粉砕効率が維持継続される。 すなわち,一旦所定の深さlの凹みを生じると,耐摩耗性の高いブロック1の摩耗進行の分だけ,耐摩耗性の低いブロック2の頂部が摩耗するので,凹みは常に同じ深さlを維持するものである。 (イ) 本件公報7欄8行〜9行 耐摩耗性ブロック1(耐摩耗性の高いブロック1のこと)の耐摩耗性は,粉砕面部材A,Bの寿命を実質的に支配する。 (ウ) 本件公報7欄29行〜32行 スペーサブロック2(耐摩耗性の低いブロック2のこと)の耐摩耗性は,後述の摩耗係数の逆数で評価して,耐摩耗性ブロック1の耐摩耗性の10〜90%減が望ましい。 (エ) 本件公報8欄19行〜23行 この凹みは,主に耐摩耗性ブロック1とスペーサブロック2との耐摩耗性差に支配されるが,スぺーサブロック2の巾wによる影響も受ける。したがって所望の深さlを得るためには,耐摩耗性差とブロック巾の双方が調整される。 エ 実施例(本件公報9欄24行〜30行) このようにして構成したロールを使用したところ,粉砕操業を開始して僅か3日経過後に,凹みの深さlは3〜5o(平均4o)になり,粉砕効率は14トン/Hに上昇した。さらにその使用寿命は従来の4ヶ月から8ヶ月になり,その間,凹みの深さlは平均4oに維持され,生産効率は絶えず14トン/Hを持続した。 オ 発明の効果(本件公報9欄33行〜10欄24行) 本発明の粉砕面部材はその少なくとも表層部分に耐摩耗性の異なる2種類のブロックを交互に配列し,耐摩耗性の劣るブロックに自然発生的に凹みを形成させて,材料の噛み込み状態を良好ならしめるもので,粉砕面部材そのもの寿命は耐摩耗性の高いブロックに支配されるので,粉砕面部材は全体として極めて高い耐久性を示すことになり,更に,その間,凹みは両ブロックの耐摩耗性の差に応じて一定に保持されるので,耐用期間の全体にわたって良好な粉砕効率を維持し,また,この凹みは自然発生的に形成されるので,凹みに起因して騒音や振動を生じることも極めて少ないものである。 (2) 以上の本件明細書の記載を参酌すれば,構成要件Cにいう「使用時の摩耗に伴って耐摩耗性の低いブロック2に生じる安定的な凹みの深さ」とは,耐摩耗性の高いブロックと耐摩耗性の低いブロックが交互に配列されている破砕面部材において,使用時の摩耗に伴って耐摩耗性の低いブロックが耐摩耗性の高いブロックよりも,その耐摩耗性の差に起因して先に摩耗することによって自然発生的に生じる凹みであって,しかも,その深さが,耐摩耗性の高いブロックが使用限界まで摩耗するまで,常に所定の深さを維持することを意味しているというべきである。 被控訴人は,「安定的な凹み」とは,ロール幅(長手軸)方向に存在する耐摩耗性の高いブロック1(幅W)が同方向で偏摩耗せず,耐摩耗性の低いブロック2(幅w)にブロック1の表面に対して凹みが生じることをいうと主張する。しかし,耐摩耗性の高いブロックがロール幅(長手軸)方向に偏摩耗しても,その偏摩耗に応じて隣接する耐摩耗性の低いブロックが摩耗することにより,耐摩耗性の低いブロックに生じる凹みの深さが所定の深さを維持し続けることはあり得るのであって,その場合には,本件発明が「安定的な凹み」との構成によって奏しようとした効果が奏されると解されるから,被控訴人の主張は採用することができない。 すなわち,「安定的な凹み」とは,ロール周方向に着目し,耐摩耗性の低いブロックに生じた凹みの深さが,所定のものかどうかを検討すれば足りるものと解される。 なお,構成要件Cには,「安定的な凹みの深さlが0.5〜15oになるように・・・設定されてなる」と記載されているが,これは,0.5ないし15oの範囲で所定の深さが設定されることを意味し,設定された所定の深さが変動することを予定しているものではない。この点について,控訴人は,絶対値として常に所定の深さを維持することまでを必要とする意味ではなく,0.5ないし15oの範囲で安定的な値となるよう深さlを維持することが要件とされているという意味に解釈すべきで,安定的な値となる範囲では変動することもあり得ると主張する。しかし,本件明細書では,本件発明の効果として,前記(1)エのとおり,耐用期間の全体にわたって,凹みは両ブロックの耐摩耗性の差に応じて一定に保持されるとしており,また,本件発明の実施例として,前記(1)ウのとおり,このようにして構成したロールを使用したところ,粉砕操業を開始して僅か3日経過後に,凹みの深さlは3〜5o(平均4o)になり,その使用寿命は従来の4ヶ月から8ヶ月になり,その間,凹みの深さlは平均4oに維持されたとなっていることなどに照らすと,本件発明の効果として,いったんあらかじめ設定した凹みの深さに達した後はこの凹みの深さが変動することはないものと解するのが相当であるから,控訴人の上記主張を採用することはできない。 (3) そして,構成要件Cは,「使用時の摩耗に伴って耐摩耗性の低いブロック2に生じる安定的な凹みの深さlが0.5〜15oになるように両ブロックの耐摩耗性および巾が設定されてなる」とあるところ,本件明細書の記載(前記(1)イ(エ))を併せ考慮すると,所定の凹みの深さは,単に耐摩耗性の異なる2種類のブロックを材料の噛み込まれていく方向に交互に配列するだけでは足りず,両ブロックの耐摩耗性差及び耐摩耗性の低いブロックの幅(すなわち,耐摩耗性の高いブロック相互間の幅)を設定することにより達成されるものであると認められる。 けだし,両ブロックの耐摩耗性差を設定するのは,破砕面部材が粉砕する原料との関係で,適切な耐摩耗性を有する2種類の材質のブロックを選択することにより,両ブロックの耐摩耗性の差を利用して,耐摩耗性の低いブロックに凹みを生じさせることができるからであり,また,耐摩耗性の低いブロックの幅を設定するのは,耐摩耗性の低いブロックに生じた凹みの深さは,耐摩耗性の高いブロック相互間の幅に規制されることになるからである。 すなわち,@ 破砕面部材の少なくとも表層部分に耐摩耗性の異なる2種類のブロックが,破砕面上で材料の噛み込まれていく方向に交互に配列された破砕面部材においては,原料は,まず耐摩耗性の高いブロックによって粉砕され,耐摩耗性の高いブロック相互間の幅よりも小さくなったものだけが,耐摩耗性の低いブロックによって粉砕されるが,A 原料は,自らの大きさ以上には耐摩耗性の低いブロックを摩耗できないから,結局,耐摩耗性の低いブロックは,耐摩耗性の高いブロック相互間の幅以上には摩耗しないこととなる。そして,耐摩耗性の高いブロックが摩耗するのに応じて,耐摩耗性の低いブロックも所定の凹みの深さを保って摩耗していき,耐摩耗性の高いブロックがほぼ消失するまで(理論的には耐摩耗性の高いブロック自体の高さが摩耗によってl以下になるまでと考えられる。),安定した粉砕効率を維持するという効果が奏されることになるのである。 (4) 以上を前提にして,被控訴人製品について検討する。 ア 前記1のとおり,被控訴人製品は,耐摩耗性の低いフィン部と同一部材を支持部材としつつ,耐摩耗性の低いフィン部と耐摩耗性の高いインサート部とを,材料の噛み込まれていく方向に交互に配列されているところ,フィン部は支持部材と同一の展性の高い材料で構成されており,耐摩耗性はインサート部の部材よりも低いのであるから,粉砕ローラとして被粉砕物の粉砕処理に使用するようになれば,間もなくフィン部においてインサート部よりも摩耗が進み,フィン部で凹みが形成されるものである。 したがって,被控訴人製品も,本件発明の効果のうち,少なくとも「耐摩耗性の異なる2種類のブロックを交互に配列し,耐摩耗性の劣るブロックに自然発生的に凹みを形成させて,材料の噛み込み状態を良好ならしめる」効果については,これを奏しているというべきである。 イ しかしながら,証拠(甲5,乙9〜12)によれば,未使用の被控訴人製品と,ある程度の時間使用した被控訴人製品とを比較すると,前者よりも後者の方が,少なくともロール大径部において,耐摩耗性の高いインサート部相互間の幅が広くなっていると認められる。 これは,そもそも,被控訴人製品の耐摩耗性の高いインサート部相互間の幅(耐摩耗性の低いフィン部の幅)が,表面部分よりも中心部に近い方が広く設定されているためか,被控訴人製品の耐摩耗性の高いインサート部の耐摩耗性が原料との関係で十分ではなく,当該インサート部の幅方向中央部よりも耐摩耗性の低いフィン部との境界付近(いわゆるエッジ部分)が早く摩耗してしまったため,その結果として耐摩耗性の高いインサート部相互間の幅が広がってしまったかの,いずれかの可能性が考えられる。そして,証拠(甲5,乙2,14)によると,未使用の状態における被控訴人製品の耐摩耗性の高いインサート部相互間の幅(耐摩耗性の低いフィン部の幅)は,リブの部分で狭まっているものの,その他の箇所では概ね一定であると認められることに照らすと,前者の可能性は考え難い。むしろ,証拠(甲5,乙9〜12)によれば,ある程度の時間使用した被控訴人製品では,耐摩耗性の高いインサート部相互間の幅は,ロール小径部からロール大径部に向かうにつれて広がっており,かつ,耐摩耗性の高いインサート部によって形成された凸部の消失はロール大径部の方から生じているのであり,このことからすると,被控訴人製品においては,耐摩耗性の高いインサート部の摩耗が進むとともに耐摩耗性の高いインサート部相互間の幅も広がっていくものであって,その原因は前記二つの可能性のうち後者にあると推認される。 すなわち,被控訴人製品においては,ロール大径部側から,粉砕処理使用時のエッジ部分の摩耗によって耐摩耗性の高いインサート部相互間の幅が広がり,それに伴い,当初よりも直径の大きな原料を耐摩耗性の低いフィン部の凹みで粉砕することになるため,それにより「使用時の摩耗に伴って耐摩耗性の低いブロックに生じる」「凹みの深さ」は,耐摩耗性の高いインサート部が使用限界まで摩耗しないうちに,より深くなる方向で変化してしまう(この変化は次第にロール小径部側の方に及んでくる。)ものと考えられるのである。 ウ そうすると,被控訴人製品は,「使用時の摩耗に伴って耐摩耗性の低いブロック2に生じる安定的な凹みの深さl」を得るために,「両ブロックの耐摩耗性及び巾が設定」されているとは認められないから,構成要件Cを充足しない。 エ(ア) なお,控訴人は,被控訴人製品はマゴト社の有する特許第2799250号特許権に係る特許発明の実施品でもあるところ,その特許公報(乙1)の記載(同証拠の【0015】)からすれば,被控訴人製品が「使用時の摩耗に伴って耐摩耗性の低いブロック2に生じる安定的な凹み」を有していることは明らかであると主張するが,乙1には,使用時の摩耗に伴って耐摩耗性の低いフィン部に凹みが生じることは記載されており,この溝の中に被粉砕物質を噛み込んでいくことを目的としている(前記ア)と認められるものの,その凹みが,耐摩耗性の低いフィン部又は耐摩耗性の高いインサート部のどちらかが使用限界まで摩耗するまで,常に所定の深さを維持することまで記載されているとは認められないから,控訴人の上記主張は採用することができない。 (イ) 次に,控訴人は,被控訴人製品における耐摩耗性の低いフィン部の幅は7ないし8oであるから,その凹みの深さもこれ以下となると考えられるところ,実際,被控訴人製品のパンフレット(甲10)には,その凹みの深さが3ないし4oであると記載されているから,被控訴人製品においても安定的な凹みの深さになるようインサート部及びフィン部の耐摩耗性及び幅がそれぞれ設定されている旨主張する。 しかし,被控訴人製品における耐摩耗性の低いフィン部の幅が徐々に広がり(すなわち,耐摩耗性の高いインサート部の幅が徐々に狭まり),最終的には耐摩耗性の高いインサート部が消失するのであるから,控訴人主張の7ないし8oよりも広くなってしまうことは,前記イのとおりであり,また,被控訴人製品のパンフレットである甲10には,控訴人指摘のとおり「ダクタイル鋳鉄はインサートの間でインサートより3-4o摩耗する。」との記載があるものの,これは,被控訴人製品が前記アの噛み込み効果を有することを説明するに当たっての記載にすぎない。さらに,甲10では,ローラ母材(耐摩耗性の低いブロックに該当)として「ダクタイル鋳鉄GGG40-70」,インサート部材として「FMU-18」又は「FMU-46」との記載があるが,これはいずれも被控訴人製品の材質を説明したにすぎず,それ以上に被控訴人製品において「安定的な凹み」を得るための設定がなされているとは認めるに足りない。また,被控訴人製品のパンフレットの一部と思われる甲19には,「デュオキャスト・ローラーの特徴」として,「均一な摩耗状況」「安定した生産量」「噛み込み効果が最終寿命まで持続する」といった文言が記載されているものの,その意味内容は必ずしも明確なものではなく,これまでの認定,判断を直ちに左右するものではない。 したがって,控訴人の上記主張も採用することはできない。 (ウ) さらに,控訴人は,甲5のAの写真の被控訴人製品は,本件発明の機能を発揮する使用時間を大幅に超過した廃品であり,乙9ないし12の被控訴人製品も,いずれも耐摩耗性のローラ大径部におけるインサート部の少なくとも幅方向の一部がローラ母材側で断面鳩尾状となってインサート部間の間隔が広くなっている部分まで摩耗した使用限界を超えたものであるから,耐摩耗性の低いフィン部に生じる安定的な凹みが存在しないことの証拠とはなり得ないと主張する。 しかし,甲5のAの写真に写っている二つの破砕面部材のうち手前のもの及び乙9の写真に写っているものは,ローラ大径部においてもインサート部がすべて摩耗で消失するまでには至っておらず,いずれも使用限界を超えた廃品とは認め難い。また,甲5のAの写真に写っている二つの破砕面部材のうち奥のもの及び乙10ないし12の写真に写っているものは,いずれも大径部側のインサート部が摩耗で消失している(被控訴人は,乙9ないし12のうち,インサート部がローラ小径部側までほとんど摩耗で消失している乙11が使用の最終段階であるとする。)が,前記(イ)のとおり,かかる状態になるに至る経過として,被控訴人製品における耐摩耗性の低いフィン部の幅が徐々に広がり(すなわち,耐摩耗性の高いインサート部の幅が徐々に狭まり),最終的には耐摩耗性の高いインサート部が消失するものと認められるから,耐摩耗性の低いフィン部に安定的な凹みが形成されるとはいえない。したがって,この点に関する上記控訴人主張も採用することはできない。 3 そうすると,被控訴人による被控訴人製品の輸入,販売等は,本件特許権の侵害行為に該当せず,また,本件発明の実施によって不当な利得を得たことにもならないから,その余の争点について検討するまでもなく,控訴人の請求はいずれも理由がないこととなる。 |
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結論
以上の次第で,控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がなく,また,当審で控訴人が追加した請求も理由がないので棄却することとする。 よって,主文のとおり判決する。 (平成13年12月4日口頭弁論終結) |
裁判長裁判官 | 竹原俊一 |
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裁判官 | 小野洋一 |
裁判官 | 西井和徒 |