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関連審決 無効2000-35180
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事件 平成 12年 (行ケ) 416号 審決取消請求事件
原告 花王株式会社
訴訟代理人弁護士 竹田稔、弁理士 根本恵司、羽鳥修
被告 ユニ・チャーム株式会社
訴訟代理人弁護士 柳田幸男、近藤惠嗣、磯部健介、池原元宏、弁理士 白浜吉 治、小林義孝
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/02/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2000-35180号事件について平成12年9月19日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「使い捨ておむつ」とする特許第2134031号発明(平成2年10月31日特許出願、平成7年5月17日出願公告(特公平7-44945号)、平成9年12月19日設定登録。本件発明)の特許権者である。
被告は、平成12年4月10日、本件特許の無効審判を請求し、無効2000-35180号事件として審理された結果、平成12年9月19日「特許第2134031号発明の特許を無効とする。」との審決があり、その謄本は同年10月10日原告に送達された。
2 本件発明の要旨(A〜Dの符号を便宜付した。「亘って」は「わたって」と、「夫々」は「それぞれ」と表記) A 液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これら両シート間に配置される吸収体とを有する本体を備え、該本体は、着用時に着用者の腹側に位置する腹側部と背側に位置する背側部とからなり、
B 該腹側部及び背側部それぞれの両側縁部を接合固定して、ウエスト開口部と一対のレッグ開口部を形成したパンツ型の使い捨ておむつにおいて、
C 上記ウエスト開口部及び一対のレッグ開口部には、それぞれその周縁部全周にわたって実質的に連続したギャザーを形成する弾性部材が設けられており、
D 上記本体における上記吸収体の配置された領域には、上記ウエスト開口部の開口端形成縁部との間隔をそれぞれ保って上記腹側部及び背側部それぞれを全域にわたって横断する複数の弾性部材であって、上記両側縁部の接合固定により該両側縁部の中央部を通る胴回り全周にわたって実質的に連続したギャザーを形成する弾性部材が設けられていることを特徴とする使い捨ておむつ。
3 審決の理由の要点 (1) 請求人(被告)の主張 被告は、下記に掲げる審判甲第1号証ないし審判甲第4号証(いずれも、本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物と認める。)及び参考資料1ないし参考資料8を提出するとともに、その理由として、本件発明は、審判甲第1号証に記載された発明と審判甲第2号証〜審判甲第4号証のいずれかに記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は無効とすべきである旨主張している。
[証拠方法]・審判甲第1号証:特開昭62-243806号公報・審判甲第2号証:米国特許第2,733,715号明細書・審判甲第3号証:実公昭39-19633号公報・審判甲第4号証:実願昭55-107567号(実開昭57-34509号)明細書全文・参考資料1:特開平2-4367号公報・参考資料2:米国特許第4,586,199号明細書・参考資料3:実願昭63-94907号(実開昭63-97907号)明細書全文・参考資料4:米国特許第2,866,459号明細書・参考資料5:実願昭62-153082号(実開平1-58610号)明細書全文・参考資料6:「婦人の友」(昭和17年3月号)の記事・参考資料7:(財)特許情報機構「パトリス」の様式P105検索回答一覧・参考資料8:本件原告の平成10年1月30日付書留内容証明郵便 (2) 被請求人(原告)の主張 原告は、本件発明は、審判甲第1号証〜審判甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当せず、無効とされるべきではない旨反論している。
(3) 証拠の内容(以下、引用部分を含め「および」は「及び」と、「または」は「又は」と表記) 審判甲第1号証ないし審判甲第4号証には、図面とともに以下の記載があることが認められる。 (3)-1 審判甲第1号証:特開昭62-243806号公報 [記載1-1]「着用者の肌に接する透水性トップシート、該トップシートと反対側に位置する不透水性バックシート及び該両シート間に介在する吸収性コアからなるパンツ本体と、ウエストバンド及び一対のレッグホールにそれぞれ伸縮ギャザーを作る伸縮部材とを含む使い捨て吸収性パンツにおいて、
前記パンツ本体は、前記パンツ本体を縦方向に二分する横方向中心線を介して前記トップシートが互いに接する状態で縦方向に折り返され、その状態で前身頃及び後身頃の横方向対向側縁において連続線に加圧溶着され、
前記伸縮部材のうち少なくとも前記レッグホールのそれは前記コアの外側縁から外側へ10〜130mm延びていることを特徴とする前記パンツ」(特許請求の範囲) [記載1-2]「本発明は、乳幼児用のおむつ・いわゆるトレーニングパンツ、失禁者用おむつ等として供するための、予め完全なパンツ型に形成された使い捨て吸収性パンツに関する。」(1頁右欄14〜17行) [記載1-3]「パンツ本体1は、透水性トップシート2と、同大の不透水性バックシート3と、該両シートよりも小さい吸収性コア4とからなる。また、パンツ本体は、ウエストバンドにギャザーを作る伸縮部材5a,5bと、レッグホールにギャザーを作る伸縮部材6a,6bとを有する。」(2頁下左欄20行〜下右欄6行) [記載1-4]「前身頃7と後身頃8の対向側縁には、それらの中央部を絞ってフィット性をよくするため、V状の凹欠部13が設けられている。」(3頁上左欄17〜19行) [記載1-5]「第4図、第5図においては、パンツ本体1の他の実施例を示してある。このパンツ本体1は、前記実施例のそれと実質的に同じであるが、伸縮部材6a,6bとして複数本の糸状ゴムが使用され、さらに凹欠部12の縦方向内側には、互いに平行に縦方向へ延び伸縮部材6a,6bと接続する比較的広幅たとえば10〜45mmのウレタンフォーム又は熱処理によって伸縮性を発現するプラスチックフィルムからなる伸縮部材6cが接着されている。」(3頁上右欄10〜18行) [記載1-6]「第1図、第3図、第5図に示すように、パンツ本体1は、横方向中心線X(第2図、第4図参照)を介してトップシート2が内側になるように縦方向に折り返され、前身頃7及び後身頃8に対向側縁に沿い、しかも外側縁を適宜幅W、
好ましくは10mm以下残して加圧下に連続線に溶着されることによって接合されている。」(3頁上右欄19行〜下左欄5行) (3)-2 審判甲第2号証:米国特許第2,733,715号明細書「本発明は、幼児衣類に関し、特に複合おむつ及び幼児用トレーニングパンツとして供するガーメントに関するものである。」(1頁1欄15〜17行訳文)「複合ガーメントAを異なるサイズの幼児にも適用可能にするため、図に示すように、パンツ覆材の内側の腰回り部23に縦方向に離間した3本の周回弾性バンド24,24',24”を設けてある。弾性バンド24,24',24”は、腰部23を幼児の腰周辺に快適に引き寄せるために所定の最小周回長にしてある。これら3本のバンドの最上部のもの24は、図5に最もよく示すように、折り返し縁縫い26に被覆されている。その下部の2本のバンド24',24”は、パンツ覆材の内側に露出しているが、図1に示すように、ガーメントAの着用状態ではおむつパッド10で覆われている。下部の各弾性バンド24',24”は、その部位に縫い込まれるとき、伸長されている。そのため、縫い込み後に解放されると、パンツ覆材はギャザー又はひだが生じ、バンドの伸長と同時にその覆材が自由に伸長する。」(1頁2欄28〜46行訳文) (3)-3 審判甲第3号証:実公昭39-19633号公報「本考案の実施例を図面に基づいて述べれば、符号1は普通のパンツで、腹部と両腿に当る部分にはそれぞれ伸縮用のゴムひもイ、ロが取付けられ、同パンツ1の全面及び背面にはおむつ入れ2が設けられている。同オムツ入れ2は普通乳幼児に当てるオムツを四つ折りにした位の大きさがあってこれを第1図及び第2図に示すごとく、パンツ1の全面中央から股下を経て背面中央にまわし、前面部と背面部では両側a,bの部分をパンツ1に縫いつけると共に、股下部ではパンツ1の股下部との間に人差し指先と親指先がはいる位の隙間cを作る。」(1頁左欄37行〜右欄5行)「オムツ入れ2の上方部とパンツ1の中央部には、横にゴム紐ハ、ニを取付け、その収縮力によって使用中パンツ1及び中に入れたオムツeが動かないように止めておく。さらに、前面部のオムツ入れ2とパンツ1には、中のオムツeがずれ出ないために、スナップf,gが取付けてある。」(1頁右欄12〜18行)「パンツの中央及びオムツ入れの上方に設けられたゴム紐で、オムツ入れに入れたオムツを動かないようにするから、使用中オムツともどもパンツがずれ動くことがない。」(1頁右欄39〜40行) (3)-4 審判甲第4号証:実願昭55-107567号(実開昭57-34509号)明細書全文「1はおむつカバー本体で、復元力の強い伸縮性の強い合成樹脂繊維を伸縮自在になるように加工した編糸により編上げた所望寸法の表裏2枚の四方形の編地2,3を重ね合わせて両者を左右両側端縁において縫合糸4で縫着し、できた筒状体の上端開口縁に復元力のさらに強い伸縮性の強い合成樹脂繊維を伸縮自在になるように加工した編糸によりバンド部5を形成し、また下端開口に中央部をつまみ合せて結束糸6により結束して股部7を形成し、且該股部の左右両側に大腿部挿入用の開口8a,8bを形成し、次で表裏編地2,3に表編地2には略中央部から上端縁にかけて復元力のさらに強い合成樹脂を伸縮自在になるように加工した編糸により所望の間隔を設けて数条の編込み9をまた下端部に股部7より内側に、3条の編込み10を形成し、裏編地3には上部約3分の1の個所から前記復元力の強い編糸により所望の間隔に複数条の編込み11を形成して成るものである。」(2頁6行〜3頁4行)「本考案は上記のように構成されているので、これを例えば紙おむつを装着したうえから装着すると伸縮自在なる編糸で編組されているので伸縮の度合が極めて大きく、そのうえ表裏編地にはさらに伸縮度の強い編糸を所要個所すなわち、表編地2には略中央部から上端縁及び下端縁に所望間隔に打込みまた裏地3には上部約3分の1の個所から下に表編地に打込んだ編糸と同じ編糸を打込んで成るものであるから、幼児の腹部及び臀部によくフィットしておむつをよく保持し、幼児の自由な活動を妨げることがないし、過激な運動に対しても脱落の心配がなく使用し得る効果がある。」(3頁13行〜4頁5行) (3)-5 また、参考資料1〜6には概略次のような技術について開示されている。
参考資料1(特開平2-4367号公報) 腰回り締め付け手段として弾性腹部支持バンドを有する使い捨ておむつ。
参考資料2(米国特許第4,586,199号明細書) 胴回り締め付け手段として、複数の弾性バンドを有するパンツ型おむつカバー。
参考資料3〔実願昭63-94907号(実開昭63-97907号)明細書全文〕 胴回り締め付け手段として、複数の弾性ゴム挿入部を有する小児用パンツ。
参考資料4(米国特許第2,866,459号明細書) 胴回りを含む全域に締め付け手段としての弾性糸を有するパンツ型おむつ。
参考資料5〔実願昭62-153082号(実開平1-58610号)明細書全文〕 パンツ状使い捨ておしめの胴部に弾性部材を用いてギャザーを設け、着用者の肌におしめを締め付けて密着させてなるもの。
参考資料6〔「婦人の友」(昭和17年3月号)の記事〕 「ダーツ」と「弾性部材」とは、着衣のフィット性をよくするための締め付け手段として、互いに選択的に採用される慣用手段であること。
(4) 対比 審判甲第1号証に記載された発明を、本件発明と対比しつつ検討する。
まず、上記摘記記載1-1、1-2からみて、審判甲第1号証記載の「使い捨て吸収性パンツ」は本件発明の「使い捨ておむつ」に対応するものであり、前者の「透水性トップシート」「不透水性バックシート」「吸収性コア」「前身頃」「後身頃」は、後者の「液透過性のトップシート」「液不透過性のバックシート」「吸収体」「腹側部」「背側部」に明らかに相当するから、審判甲第1号証記載の発明は本件発明の構成Aに相当する構成を具備している。
また、審判甲第1号証記載の発明のパンツ本体は「前身頃及び後身頃の横方向対向側縁において連続線に加圧溶着され」ており(記載1-1、1-6)、本件発明の「腹側部及び背側部それぞれの両側縁部を接合固定し」たもの(構成B)に相当する。
さらに、ウエストバンドにギャザーを作る伸縮部材5a,5b、レッグホールにギャザーを作る伸縮部材6a,6b及び該伸縮部材6a,6bと接続する伸縮部材6cを有するものであるから(記載1-3、1-5)、審判甲第1号証記載の発明は「ウエスト開口部及び一対のレッグ開口部には、それぞれその周縁部全周にわたって連続したギャザーを形成する伸縮部材が設けられており」(構成C)に相当する構成も備えている。
そうすると、両者は、共に構成A〜Cに相当する構成を備える点、すなわち、本件発明の用語を用いると、「液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これら両シート間に配置される吸収体とを有する本体を備え、該本体は、着用時に着用者の腹側に位置する腹側部と背側に位置する背側部とからなり、該腹側部及び背側部それぞれの両側縁部を接合固定して、ウエスト開口部と一対のレッグ開口部とを形成したパンツ型おむつにおいて、上記ウエスト開口部及び一対のレッグ開口部には、それぞれその周縁部全周にわたって実質的に連続したギャザーを形成する弾性部材が設けられている使い捨ておむつ」である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点] 本件発明が「本体における吸収体の配置された領域」に、「ウエスト開口部の開口端形成縁部との間隔をそれぞれ保って腹側部及び背側部それぞれを全域にわたって横断する複数の弾性部材であって、両側縁部の接合固定により該両側部の中央部を通る胴回り全周にわたって実質的に連続したギャザーを形成する弾性部材が設けられている」ものであるのに対し、審判甲第1号証記載の発明はその点の構成を備えていない点。
(5) 審決の判断 そこで、上記相違点について検討する。
審判甲第2号証に記載された弾性バンド24、24'、24”は幼児用パンツ型おむつにおいて、幼児の腰周辺にフィットさせるために腰周り全周に設けられたものであり、24'は両側部の中央部を通るものである。
また、審判甲第3号証記載のゴム紐は、オムツ入れ上方部とパンツ中央部の全周に設けられており、その収縮力によってパンツがずれ動くことがないようにしている。
同様に審判甲第4号証においても、おむつカバーに設けられた、伸縮度の強い編糸による編込みは、両側縁部の中央部に設けられており、幼児の腹部及び臀部にフィットさせることを目的としたものである。
そして、いずれも、「ウエスト開口部の開口端形成縁部との間隔をそれぞれ保って腹側部及び背側部それぞれを全域にわたって横断する」ものであり、そのことにより、装着時には、その周囲に連続したギャザーが形成されることになるものと解される。
すなわち、パンツ型のおむつにおいて、体にフィットさせることを目的として、
ウエスト開口部の開口端形成縁部との間隔をそれぞれ保って両側縁部の中央を通り胴周り全周にわたって実質的に連続したギャザーを形成させる弾性部材を設けることは、審判甲第2号証ないし審判甲第4号証に開示されるように、本件出願前に当業界において公知の技術である。
しかるに、審判甲第1号証には、使い捨て吸収性パンツのフィット性をよくする点の課題も開示されており(上記摘記記載1-4)、パンツ型おむつのフィット性をよくするという共通の課題を解決することを目的として、審判甲第2号証〜審判甲第4号証に開示されるような手段を採用することが当業者にとって格別困難であるとは認められない。
また、審判甲第3号証記載のゴム紐は明らかに「本体における吸収体の配置された領域」を通っているように、弾性部材により両側のシートと吸収体とを一緒に締め付けるようにすることが特別の構成とはいえず、弾性部材を複数条設けることも審判甲第2号証ないし審判甲第3号証に記載されるように当業者が適宜採用し得る構成である。
原告は、審判甲第1号証記載の「V状の凹欠部」は単に着用時の着用体裁を整えるためのものであって、外見上のフィット性をよくするものではあるが、弾性的に身体に作用して胴周り部のフィット性を高めるような作用を有するものではない旨、また、審判甲第1号証の「コアの剛性を避けて伸縮部材を配置する」ことによりレッグ部のシール性を高め排泄物の漏れを防止する」という特徴は吸収体の位置する胴周り部に弾性部材を配置させることの動機付けの阻害要因となり得るものである旨反論している。
しかしながら、弾性的に作用するかどうかはともかく、審判甲第1号証の「V状の凹欠部」がフィット性をよくするものであることには変わりなく、審判甲第2号証ないし審判甲第4号証記載のごとき弾性部材を適用する動機付けには十分なり得るものである。また、原告が指摘する審判甲第1号証の記載はレッグホールに配置される伸縮部材に関するものであって、そのことが、フィット性を目的として本体中央部に設ける手段の採用を阻害することになるものではない。
そして、審判甲第3号証記載のようにコア部をも締め付けるように弾性部材を設けた場合、ずり落ちや漏れ防止の効果があるであろうことは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
したがって、原告が主張する効果も、審判甲第1号証記載の発明に審判甲第2号証ないし審判甲第4号証記載の技術を適用した場合、当業者であれば容易に予測し得ることというべきである。
してみると、上記相違点に係る構成、すなわち、「本体における吸収体の配置された領域」に、「ウエスト開口部の開口端形成縁部との間隔をそれぞれ保って腹側部及び背側部それぞれを全域にわたって横断する複数の弾性部材であって、両側縁部の接合固定により該両側部の中央部を通る胴回り全周にわたって実質的に連続したギャザーを形成する弾性部材」を設ける点の構成は、審判甲第2号証ないし審判甲第4号証記載の公知技術を適用することによって当業者が容易になし得るものとするのが相当である。
したがって、本件発明は、審判甲第1号証ないし審判甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(6) 審決のむすび 以上のように、本件の請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(公知技術の認定の誤りに基づく相違点の判断の誤り) 審決は、本件発明と審判甲第1号証記載の発明との相違点の判断に当たり、審判甲第2号証に記載された弾性バンド、審判甲第3号証に記載されたゴム紐、審判甲第4号証に記載された伸縮度の強い編糸による編込みが、「いずれも『ウエスト開口部の開口端形成縁部との間隔をそれぞれ保って腹側部及び背側部それぞれ全域にわたって横断する』ものであり、そのことにより、装着時には、その周囲に連続したギャザーが形成されるものと解される。」として、「パンツ型のおむつにおいて、体にフィットさせることを目的として、ウエスト開口部の開口端形成縁部との間隔をそれぞれ保って両側縁部の中央を通り胴周り全周にわたって実質的に連続したギャザーを形成させる弾性部材を設けることは、審判甲第2号証ないし審判甲第4号証に開示されるように、本件出願前に当業界において公知の技術である。」と認定したが、誤りである。
(1) 審決の上記認定は、審判甲第2〜第4号証に記載の発明がパンツ型のおむつであり、本件発明の「パンツ型の使い捨ておむつ」と共通するとの前提に立つ。しかし、本件発明の「使い捨ておむつ」は、おむつ自体であって、使用状態におけるパンツ型のおむつとして機能するものを意味するものではなく、審決の上記前提は誤りである。
他方、審判甲第2号証記載の発明及び審判甲第3号証記載の発明は、オムツの部分と、オムツカバーとなる部分とからなっているから、その全体を指してパンツ型のおむつということはできない。また、審判甲第4号証記載の発明はおむつカバーであっておむつでないことは明らかであるから、これをパンツ型のおむつということもできない。
(2) 本件発明においては、ギャザーはおむつに伸縮性を付与するために、おむつ自体に形成されるものであるところ、審判甲第2号証記載の弾性バンド、審判甲第3号証記載のゴム紐、及び審判甲第4号証記載の編込みは、オムツ(おむつ)の胴回り全周に実質的に連続したギャザーを形成するものでない。したがって、審判甲第2〜第4号証記載の弾性部材は、本件発明における「両側縁部の中央部を通り胴回り全周にわたって実質的に連続したギャザーを形成する(複数の)弾性部材」には相当しない。
本件発明は、おむつ本体における「吸収体」の配置された領域に複数の弾性部材を設け連続したギャザーを形成するという、従来の常識を越えた構成を採用したことで、吸収体に伸縮性を付与し顕著な漏れ防止機能が生じたものである。
(3) 被告は、パンツ型おむつにおいては漏れ防止の課題があるから、その課題解決手段として胴回りに弾性部材を設けることが考えられる旨主張する。しかし、本件発明は、審判甲第1号証記載の発明が漏れ防止機能を有していることを前提に(審判甲第1号証記載の発明では、ウエストギャザーと足回りのレッグギャザーを締めることで、漏れ防止機能は一応備わっている)、その漏れ防止機能の一層の向上を図ったものであるのに対し、審判甲第2〜第4号証記載の発明は脚回りのシール性を備えておらず、これら発明の漏れ防止機能はせいぜいおむつで排泄物を受け止めて吸収するだけであるから、本件発明の漏れ防止機能とは無関係である。
(4) 被告は、特表平1-503473号公報(乙第1号証)を根拠にして、本件出願前に「使い捨てのパンツ型吸収性おむつ」につき、「外側カバー」の全面を伸縮性素材で構成することが当業界において公知であったと主張する。しかしながら、本件審判手続においてはこの主張はなかったし、乙第1号証も提出されていなかったから、この主張及び立証は、審決取消訴訟における審理範囲を逸脱するものであり、許されない。
しかも、乙第1号証記載の発明は、本件発明の「液透過性トップシートと、液不透過性バックシートと、これら両シート間に配置される吸収体を有する本体」とは構造が相違し、したがって、また、審判甲第1号証記載の発明ともその基本構造を異にするので、乙第1号証記載の発明が公知であるからといって、審判甲第1号証記載の発明に審判甲第2〜第4号証記載の発明を適用することが容易であるとすることはできない。
2 取消事由2(審判甲第1号証記載の発明の技術課題の認定の誤りに基づく、
相違点の判断の誤り) 審決は、「審判甲第1号証には、使い捨て吸収性パンツのフィット性をよくする点の課題も開示されており・・・、パンツ型おむつのフィット性をよくするという共通の課題を解決することを目的として、審判甲第2号証〜審判甲第4号証に開示されるような手段を採用することが当業者にとって格別困難であるとは認められない。」と判断したが、誤りである。
(1) 「フィット」という用語には、審美的又は体型の修飾、感性的造形表現、心理的快適性を考慮したデザイン上の意味(デザイン的フィット)と、着用者の運動機能を考慮した身体動作適応性の意味(機能的フィット)がある(A作成の見解書(甲第7号証))。
本件発明における「フィット」は、「機能的フィット」に該当するものであって、衣類と身体との密着性を維持しながら身体の動作に対する適応性を持たせたものである。これに対し、審判甲第1号証記載の発明は、胴回りの側縁中央部におけるV状の凹欠部分には伸縮部材が設けられていないため、前記凹欠部分には寸法上相当な余裕がないと、前記パンツの装着は不可能であるか又は極めて困難であり、
実用に供し得ないことは明白であるから、相当なゆとり量をもったフィット性と解すべきであり、その必要なゆとり量からいえば「デザイン的フィット」に当たると解すべきである。
したがって、本件発明と審判甲第1号証記載の発明における「フィット」の意味は異なるから、審判甲第1号証記載の発明に基づいて本件発明との相違点に係る構成を想到する動機付けは存しない。
(2) しかも、審判甲第1号証記載の発明の「フィット」と、審判甲第2〜第4号証記載の発明の「フィット」の意味も異なる。
審判甲第2号証には、「様々なサイズの幼児に適用可能にさせるため、・・・、
垂直方向に相互に離間した三つの周方向弾性バンド24,24’24”が設けられる。」(甲第4号証の1、2頁24〜26行)と記載されている。
審判甲第3号証には、「オムツ入れ2の上方部とパンツ1の中央部には、横にゴム紐ハ、ニを取付け、その収縮力によって使用中パンツ1及び中に入れたオムツeが動かないように止めておく」(1頁右欄12〜16行)と記載されている。
審判甲第4号証には、そのおむつカバーが「幼児の腹部及び臀部によくフィットしておむつをよく保持し、幼児の自由な活動を妨げることがないし、過激な運動に対しても脱落の心配がなく使用し得る効果がある」(4頁1〜5行)と記載されている。
これら記載のとおり、審判甲第2〜第4号証記載の発明での「フィット」は、オムツ(おむつ)を体に固定してオムツ(おむつ)がずり落ちないように止めておく又は保持することであるから、審判甲第1号証記載の発明の「フィット」、すなわち「デザイン的フィット」とは共通性がないばかりでなく、審判甲第1号証記載の発明の「フィット」の意味を審判甲第2〜第4号証記載の発明のフィットの意味に理解すると、審判甲第1号証記載の発明は着用できず使用不可能になるものであるから、本件相違点の判断においては、その差異はむしろ組合せの阻害要因として理解すべきものである。
しかるに、審決はそれらが共通すると全く逆の認定を行い、その認定の下に、審判甲第1号証記載の発明に審判甲第2〜第4号証記載の発明を適用して本件発明の構成を得ることが容易になし得たと誤って判断したものである。
(3) 審決はこのフィット性に関連して、「弾性的に作用するかどうかはともかく、審判甲第1号証の「V状の凹欠部」がフィット性をよくするものであることに変わりなく、審判甲第2〜第4号証記載のごとき弾性部材を適用する動機付けには十分なり得るものである」と判断したが、以上述べたところによりこの判断も誤りである。
(4) 被告は、使い捨ておむつという商品の性格上、及び審判甲第1号証記載の発明の効果欄に、「着用者の身体に対するフィット性が良好であり」と記載されていること、及び凹欠部の形状が限定されていないことから、審判甲第1号証記載の発明の「フィット性」が「デザイン的フィット」ではないとも主張するが、審決が審判甲第1号証記載の発明について認定した「フィット性」は、「前身頃7と後身頃8との対向側縁には、それらの中央部を絞ってフィット性をよくするため、V状の凹欠部13が設けられている」と記載されたフィット性であり、発明の効果欄に記載された「フィット性」ではないから、後者のフィット性をもって審決の判断の正当性を主張することはできない。
3 取消事由3(阻害要因の看過) 審決は、「原告が指摘する審判甲第1号証の記載はレッグホールに配置される伸縮部材に関するものであって、そのことが、フィット性を目的として本体中央部に設ける手段の採用を阻害することになるものではない。」と判断したが、誤りである。
(1) 上記判断中の「審判甲第1号証の記載」とは、「とくに、本発明に係るパンツによれば、レッグホールの伸縮部材は、・・・剛性であるコアの対向側縁から外側へ所定長さ延びているから、その延びている伸縮部分は前記コアの剛性によって伸縮性を阻害されることが少なく、そのため着用者の脚回りに対する前記レッグホールのシール性が良好になり、そこから排泄物の漏れることが少ない。」(3頁右下欄1〜9行)であるが、この記載は、弾性部材の本来の機能である伸縮性を発揮させるという観点からみて、吸収体(コア)が有する剛性は、そこに弾性部材を設けることの阻害要因となっていることを明示するものである。
したがって、審判甲第1号証記載の発明に前記阻害要因がある以上、当業者が審判甲第2〜第4号証記載の発明の弾性部材を審判甲第1号証記載の発明にそのまま適用するなどということはあり得ない。
この阻害要因を取り除くため、つまり吸収体(コア)の剛性に打ち勝って伸縮性を発揮させるためには、弾性部材の伸縮力を高める必要がある。しかしこれを1条の弾性部材で行おうとすると着用者に無用な圧迫感を与え、あるいは装脱着の操作性を損なうことになる。そこで、本件発明は、ウエスト開口部の開口端形成縁部との間隔を保って複数の弾性部材を設け、それによって前記問題を解決し併せて吸収体の剛性による伸縮性の阻害に対処したのである。
(2) 被告は、本件出願時において、パンツ型の使い捨ておむつの胴回りに、複数の弾性部材を設けることが当業者にとって極めて容易に想到し得るものであることが、実願平2-73465号(実開平4-32718号)のマイクロフィルム(乙第2号証)から容易に推認し得ると主張する。しかしながら、被告が自認するように、乙第2号証は、本件審判手続において無効理由として主張され、引用されたものではないから、上記主張及び立証は審決取消訴訟における審理範囲を逸脱するものであって許されない。しかも、乙第2号証は、公知文献には当たらない。
4 取消事由4(顕著な作用効果の看過) 審決は、相違点の判断における原告の反論に対する説示で、「審判甲第3号証記載のようにコア部をも締め付けるように弾性部材を設けた場合、ずり落ちや漏れ防止の効果があるであろうことは当業者であれば容易に想到し得ることである。」とし、「原告が主張する効果も、審判甲第甲第1号証記載の発明に審判甲第2号証ないし第4号証記載の技術を適用した場合、当業者であれば容易に予測し得ることというべきである。」と判断したが、これらの判断も誤りである。
(1) 本件発明においては、吸収体部分における使い捨ておむつの伸縮性が確保され、その結果、着用者の姿勢変更や運動時における体形の変化に対応して、その伸縮性により着用者の腹部に常に密着させることができ、おむつ(吸収体)と着用者との間に隙間が生じることがない。しかも、前記複数の弾性部材はおむつの側縁中央部に設けられているため、ウエスト開口部及びレッグ開口部を押し開けようとすると、それらの部分に設けた弾性部材と相俟ってその力に対しても抵抗力を発揮できるから、ウエスト開口部及びレッグ開口部の弾性部材の伸縮力を特に強化しなくとも、その部分からの排泄物の漏れを一層確実に防止することができるのである。
その結果、本件発明は本件明細書中の表(特許公報9欄)に示すように、胴回り弾性部材を設けない使い捨ておむつと対比した場合に、ずれ落ち量、うつ伏せ及び横寝状態での尿漏れまでの吸収量、横寝状態での便漏れまでの吸収量において顕著な作用効果が生じたのである。
これに対し、審判甲第3号証にはそもそも審決が指摘するようなコア部なるものの記載はなく、仮に「コア部」がオムツを指すとしても、オムツを一本のゴム紐でいくら締めたところでオムツに連続したギャザーを形成することはできないから、
オムツの部分に伸縮性を付与することはできず、本件発明の漏れ防止機能は全く期待できない。また、審判甲第2〜第4号証に記載の発明にも排泄物の漏れを防止する格別の機能はないから、本件発明の前記効果は望むべくもない。
(2) 甲第8号証は、本件発明によるパンツ型使い捨ておむつ(本件特許発明品)と胴回りに弾性部材を設けない使い捨ておむつ(本件特許比較品:比較例2という)及び審判甲第1号証記載の発明のおむつ(比較例1という)とを、ベビーモデル(着用者という)に装着した写真であって、立位状態及び座位の状態の着用者を正面及び側面から撮影した写真である。
いずれの写真においても、本件発明の使い捨ておむつでは、着用者の腹部のところの膨らみの発生が抑制され、吸収体部分が腹部に密着しているのが明瞭に観察できる。とくに座位の状態では、比較例1、2における着用者の腹部のところの膨らみは顕著であるのに対して、本件特許発明品ではその部分に膨らみは認められず、
そのフィット性の優位は歴然としている。
(3) 以上述べたように、本件発明の作用効果は顕著であるにもかかわらず、審決はこれを看過して本件発明と審判甲第1号証記載の発明との相違点について前記判断を行ったのであるから、その判断は明らかに誤りである。
審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1に対して (1) 「パンツ型のおむつ」との認定が誤りであるとの主張に対して 審決が審判甲第2〜第4号証に記載の発明をも含めてパンツ型おむつと呼ぶのは、これらは、いずれも使用状態においてパンツ型のおむつとして機能する(審判甲第2号証記載の発明においては、それ自体がオムツパッド部分と複合化されていることにより、審判甲第3号証記載の発明については、四つ折にしたおむつを所定のオムツ入れに入れることにより、審判甲第4号証記載の発明については、それ自体は複合化されたパンツ型おむつではないが、紙おむつの上から装着されることにより)からであり、審決がこれらを「パンツ型おむつ」と呼ぶのは誤りではない。
審決の認定に誤りがないことは、審決が「使い捨ておむつ」との語と「パンツ型おむつ」との語を明確に区別して、公知技術については、単に「パンツ型おむつ」と呼んでいることに照らせば明らかである。具体的には、審決は、本件発明につき「使い捨ておむつ」と述べ、審判甲第1号証記載の発明の「使い捨て吸水性パンツ」がこれに対応すると明示する一方、審判甲第2〜第4号証に記載の発明については、「使い捨ておむつ」との語は一切用いていないことに照らせば、審決が「使い捨ておむつ」との語と「パンツ型おむつ」との語を明確に区別して用いていることは明らかである。
(2) ギャザー形成部の主張に対して 審決は、パンツ型のおむつ一般につき、「ウエスト開口部の開口端形成縁部との間隔をそれぞれ保って両側縁部の中央を通り胴周り全周にわたって実質的に連続したギャザーを形成させる弾性部材を設ける」ことが当業界において公知であると認定しているが、これは、排泄物の漏れ防止という課題及び解決手段が、おむつが複合型(審判甲第2〜第4号証に記載の発明)であるか一体型(本件発明及び審判甲第1号証記載の発明)であるかによるものではなく、パンツ型であることによるものであるからであり、審決のかかる認定にも誤りはない。そのことは、本件出願前に「使い捨てのパンツ型吸収性おむつ」につき、「外側カバー」の全面を伸縮性素材で構成することが当業界において公知であったことを示す特表平1-503473号公報(乙第1号証)に照らせば、おのずと明らかである。乙第1号証は審判手続において提出されていないが、当業者の技術レベルを明らかにするために、審決取消訴訟において新たな公知資料を提出することが許されることは、判例・実務上確立された考え方である。
原告は、本件発明は、あたかも吸収体自体にギャザーを設けるという点に特徴があり、このような構成を採用した点において、従来の技術常識を越えたものであるかのように主張する。しかし、本件発明は吸収体自体にギャザーを設ける、との構成を採用したものではなく、原告の主張は、明細書の記載から完全に遊離した机上の空論にすぎない。
実質的に連続したギャザーが形成されるのは、吸収体の外側に位置する部材にほかならず、本件発明における漏れ防止も、かかる吸収体の外側に位置する部材(複合型であればオムツカバーがこれに相当する)にギャザーを形成し、これによって吸収体を締め付けフィット性を図る点において、複合型のおむつ(審判甲第2〜第4号証に記載の発明)における漏れ防止と全く同一の原理に基づく。
2 取消事由2に対して (1) 原告は、「フィット性」の概念を種々分類し、本件発明の「フィット性」が、「『機能的フィット』に該当するものであって、衣類と身体との密着性を維持しながら身体の動作に対する適応性を持たせたもの」のみに限定されるかのように主張する。しかし、そもそも本件特許請求の範囲には、本件発明の作用効果としての「フィット性」を原告主張の概念のみに限定するような構成の記載は存在せず、
原告の主張は、本件発明の要旨に基づかない空論にすぎない。すなわち、本件発明の特許請求の範囲には、吸収体上に位置する複数の弾性部材の形状、本数、配置はもとより、その応力すらも具体的に規定されていないのである。
(2) 審決は、審判甲第1号証記載の発明の「フィット性」と本件発明の「フィット性」とが同一であることを、その判断の論理的前提とするものではない。むしろ、審決が、「(凹欠部が)弾性的に作用するかどうかはともかく、フィット性をよくするものであることには変わりなく」と説示していることから明らかように、
審決は、この両者に差があることを十分に踏まえた上で、審判甲第1号証に、「吸水性パンツのフィット性をよくする点の課題も示されている」ことから、審判甲第2〜第4号証に記載の発明の弾性部材を設ける動機付けには十分なり得ると判断しているにすぎず、かかる審決の判断に対して「フィット性」の厳密な差異を論じてみても意味はない。
なお、使い捨ておむつという商品の性格上からみて、また、審判甲第1号証に「着用体裁がきわめて良好」(3頁左下欄17行)との記載とは別に、「着用者の身体に対するフィット性が良好であり」(3頁左下欄17〜18行)と記載されていること、及び凹欠部の形状が限定されていないことからみて、審判甲第1号証記載の発明の「フィット性」が正に「フィット」させることを目的としたものであり、単なるデザイン上の要請によるものではないことは、明らかである。
3 取消事由3に対して (1) 原告は、審判甲第1号証に、レッグホールに配置される伸縮部材に関して、
コアの剛性を避けて配置する旨の記載があることから、審判甲第1号証記載の発明を前提とする限り、吸収体の位置する領域に弾性部材を配置するとの発想は阻害されると主張する。しかし、レッグホールと胴回りとでは、それぞれの部位の違いを反映して求められる機能(シール性の内容・程度)が異なる以上、レッグホールに関する記載が本体中央部に弾性部材を設けることを阻害する要因とはならないことはいうまでもない。
(2) 本件無効審判においては、先願に関わる考案であるため引用されていないが、本件出願時点において胴回り中央部に複数の弾性部材を設けることが当業者であれば極めて容易に想到し得ることであったことは、本件発明の審査過程で引用例として取り上げられた実願平4-32718号(実願平2-73465号のマイクロフィルム(乙第2号証)において開示されている技術事項を見れば、おのずと明らかである。
すなわち、乙第2号証は、審判甲第1号証記載の発明同様V字条の凹欠部を含むものを従来技術(乙第2号証3頁7行記載の「特開昭62-231005号公報(乙第3号証)記載の発明」)として引用した上で、「フィット性を良好」にするために、その胴回りに実質的に連続したギャザーを形成する弾性部材を複数条設けることのみならず、かかる胴回りの弾性部材を取付ける際の製造工程の簡略化を意図して、おむつを胴回りの弾性部材が固定された「連結体」と吸収体を中心とする「吸収体」とに分けるという技術思想を開示している。
4 取消事由4に対して 本件発明の作用効果が、審判甲第2〜第4号証に記載の発明の作用効果として原告の主張する、吸収体を締め付けることによりずり落ちや漏れを防止することにあることは、本件発明の作用効果を確認するために行われた明細書記載の試験の内容(ずり落ち量及び吸収量のみが測定されている)を見ればおのずと明らかなことであり、原告の取消事由4における主張が後知恵によるものであることは明らかである。
なお、原告の主張は、審判甲第2〜第4号証に記載の発明は、脚回りのシール性を備えていないとの点を前提とするものであるが、誤りである。審判甲第2号証記載の発明の脚回りには弾性バンド18が、審判甲第3号証記載の発明の脚回りには伸縮用のゴム紐ロが、それぞれ設けられており、また、審判甲第4号証記載の発明の脚回りはそもそも伸縮自在な網紐で形成されているのであり、脚回りのシール性は、審判甲第2〜第4号証に記載の発明のいずれにおいても備わっている。
当裁判所の判断
1 取消事由1について (1) 「パンツ型のおむつ」に関する主張について (1)-1 本件発明は、「液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これら両シート間に配置される吸収体とを有する本体を備え、該本体は、着用時に着用者の腹側に位置する腹側部と背側に位置する背側部とからなり、該腹側部及び背側部それぞれの両側縁部を接合固定してウエスト開口部と一対のレッグ開口部を形成したパンツ型の使い捨ておむつ」との構成を前提とするものであるが、これが「パンツ型」であるとされる理由が、「ウエスト開口部と一対のレッグ開口部を形成した」との構成にあり、また「使い捨て」であることが、吸収体が液透過性のトップシートと液不透過性のバックシートとの間に配置されていて、吸収体を交換することなく、使用後はおむつ全体を捨てる、という使用形態に由来するものであることは自明である。「パンツ型の使い捨ておむつ」とは、「ウエスト開口部と一対のレッグ開口部」を有する形状であって、しかも使用形態が「使い捨て」である「おむつ」との意味に解される。そして、本体のうち吸収体を除く構成は、着用時に吸収体を着用者の排泄位置に配置し、吸収体から漏れた排泄物が衣服等に漏れることを防止するために存在する構成であると認めることができる。
また、布おむつを使用する際には、おむつカバーを併用することが従来から周知であり、排泄物は主として布おむつにより吸収し、おむつカバーは、布おむつを着用者の排泄物排泄位置に配置し、布おむつから漏れた排泄物が衣服等に漏れることを防止するために存在するものであることも、当裁判所に顕著な事実である。
したがって、本件発明の「使い捨ておむつ」は、「おむつ」との表現においては、従来の布おむつと一致するものであるが、従来のおむつカバーの有する機能をも併せ持つものであり、従来の布おむつに相当する部材は「吸収体」のみであって、残余の構成は、おむつカバーに相当するものということができる。
(1)-2 甲第4号証によれば、審判甲第2号証に、「本発明は・・・オムツと幼児用トレーニングパンツの複合体として機能する衣類に関する」(訳文1頁3〜4行)との記載、及び「オムツパッド11の中間エッジ部分16がパンツシース10の股部分15のエッジに多かれ少なかれ永続的に取り付けられている」(訳文2頁13〜14行)との記載があることが認められ、この記載とFig.1〜Fig.5の図示によれば、トレーニングパンツの内側にオムツを固定的に取り付けたものが開示されているものと認められる。そして、トレーニングパンツは当然「ウエスト開口部と一対のレッグ開口部を形成した」ものであり、そこに本件発明の吸収体に相当するオムツが取り付けられている以上、形状面では「パンツ型」といえるものであるから、審判甲第2号証に記載のものは、「パンツ型おむつ」と自然に表現することができる。
甲第5号証によれば、審判甲第3号証に、「符号1は普通のパンツで、・・・同パンツ1の前面及び背面にはおむつ入れ2が設けられている。」(1頁左欄下から7〜3行)との記載があり、第1図にはパンツ1にオムツ入れ2を設けたものの斜視図が図示され、さらに第2図にはパンツ1とオムツ入れ2の間におむつeを挿入した断面図が図示されていることが認められる。これらの記載及び図示によれば、
おむつeを挿入した状態、すなわち着用時においては、パンツ1とオムツ入れ2は、おむつを着用者の排泄位置に配置し、おむつから漏れた排泄物が衣服等に漏れることを防止するために存在するものであるから、おむつカバーとして機能するものであり、それらとおむつを合わせた構成をもって、「パンツ型おむつ」と自然に表現することができる。
甲第6号証によれば、審判甲第4号証に、「1はおむつカバー本体で、・・・表裏2枚の四方形の編地2,3を重ね合わせて両者を左右両側端縁において縫合糸4で縫着し、・・・下端開口に中央部をつまみ合せて結束糸6により結束して股部7を形成し、」(2頁6〜15行)との記載、及び「紙おむつを装着したうえから装着すると」(3頁14〜15行)と記載があることが認められる。おむつカバー本体は「ウエスト開口部と一対のレッグ開口部を形成した」ものであるから、「パンツ型」と称し得るものであり、着用時にはその内側に紙おむつが存在することとなるから、おむつカバーと紙おむつ全体とを合わせてみれば、「パンツ型おむつ」と表現し得る。
(1)-3 原告は、本件発明の『使い捨ておむつ』は、おむつ自体であって、使用状態におけるパンツ型のおむつとして機能するものを意味するものではないと主張するが、本件発明の「使い捨ておむつ」が、構成としておむつカバーとして機能する部材を含む意味を持つことは、上記(1)-1に説示のとおりである。おむつとおむつカバーが分離されている形態のものにあっては、それら全体構成、すなわち、着用時における構成以外のものを、本件発明の構成と比較対象することはできないといわなければならない。のみならず、審判甲第2号証記載の発明にあっては、トレーニングパンツとオムツは固定されており、使用状態でなくとも「パンツ型おむつ」ということができる。
したがって、審決が審判甲第2号証ないし審判甲第4号証記載のものをもって、
「パンツ型のおむつ」であると表現した点について、原告主張の誤りは認められない。
(2) ギャザー形成位置に関する主張について 原告は、「本件発明においては、ギャザーはおむつに伸縮性を付与するために、
おむつ自体に形成される」とし、「審判甲第2〜第4号証に記載の発明の弾性部材は、本件発明における「両側縁部の中央部を通り胴回り全周にわたって実質的に連続したギャザーを形成する(複数の)弾性部材」には相当しない。」と主張する。
しかしながら、本件発明において、おむつにギャザーが形成されることはその構成から明らかであるが、本件発明の「おむつ」とは、従来のおむつに相当する「吸収体」とおむつカバーの機能をなす部材の集合体であることは、さきに説示したとおりである。そうである以上、おむつにギャザーが形成されるといっても、そのギャザーが吸収体に形成されることにはならないことは自明のことである。本件明細書及び図面(甲第2号証)においても、複数の弾性部材が吸収体にギャザーを形成することや、吸収体に伸縮性を付与することについての記載を見いだすことはできない。
他方、審判甲第2〜第4号証に記載の発明において、従来のおむつカバーに相当する「トレーニングパンツ」(審判甲第2号証記載の発明)、「パンツ及びおむつ入れ」(審判甲第3号証記載の発明)、及び「おむつカバー」(審判甲第4号証記載の発明)にギャザーが形成されることについて原告は争っておらず、これら従来のおむつカバーに相当する部材も、着用時には「パンツ型おむつ」の構成に含まれるものであるから、従来のおむつカバーに相当する部材にギャザーが形成されることは、「パンツ型おむつ」にギャザーが形成されることにほかならないというべきである。
(3) 以上説示したところに反する点を前提にして、審決は本件発明と審判甲第1号証記載の発明との間の相違点の判断を誤ったとする取消事由1は、理由がない。
2 取消事由2について (1) 甲第3号証によれば、審判甲第1号証に、「前身頃7と後身頃8の対向側縁には、それらの中央部を絞ってフィット性をよくするため、V状の凹欠部13が設けられている。」(3頁左上欄17〜19行)との審決摘記の記載があることが認められる。この「V状の凹欠部13」が設けられる位置が、着用時の高さにおいて、本件発明における「腹側部及び背側部それぞれを全域にわたって横断する複数の弾性部材」が設けられる位置と異ならないことは自明である。そして、「V状の凹欠部13」が設けられた場合と、設けられていない場合を比較すれば、前者は後者よりも、着用時において、身体と使い捨て吸収性パンツの間隙が小さくなり、密着度が向上することは容易に理解されるから、審判甲第1号証の「フィット性をよくする」との意味が密着度向上にあることは明らかである。使い捨てであるとないとを問わず、またパンツ型であるとないとを問わず、およそおむつ(おむつカバーがある場合にはそれを含む)においては、排泄物の漏れをなくすことが自明の課題であること、及び同課題を解決するに当たっては、おむつと身体との密着度を向上する必要があることは技術常識であると認められる。審判甲第1号証(甲第3号証)が、発明の効果の欄において、「着用体裁がきわめて良好」(3頁左下欄17行)との記載とは別に、「着用者の身体に対するフィット性が良好であり」(3頁左下欄17〜18行))と記載したのも、上記理解に沿うものである。そこにおける「フィット性」が、原告主張のように「機能的フィット」ではなく「デザイン的フィット」を意味するものということはできない。
(2) 原告撮影による「本件特許発明品と比較例1及び比較例2についての、着用者が立位及び座位の状態で正面及び側面から撮影した写真」(甲第8号証)2葉目の立位状態での側面写真によれば、「甲第3号証(審判甲第1号証)記載品」は「本件特許比較品」に比べて、腹部におけるおむつの膨らみが若干少ないこと、すなわち、腹部における密着度に勝るものであることを認めることができる。この写真における「本件特許比較品」とは、本件明細書記載の「比較試験例1 本試験では、胴回りの弾性部材16a、16bを用いない比較品」(甲第2号証9欄7〜9行)であると認められ、これと審判甲第1号証記載の発明を比較した場合の構成上の相違は、審判甲第1号証記載の発明が具備する上記「V状の凹欠部」の有無のみである。そうすると、V状の凹欠部を有する「甲第3号証(審判甲第1号証)記載品」が、V状の凹欠部を有しない「本件特許比較品」よりも、腹部における密着度に勝るのであるから、V状の凹欠部は身体とおむつの密着度向上に寄与しているものというべきであり、この写真からも、審判甲第1号証にいう「フィット性をよくする」が密着度向上の意味であることは明らかである。
日本女子大学助教授A作成の見解書(甲第7号証)には、「ここに記載されている『V状の凹欠部』は、・・・デザイン的フィットのうちルーズフィットを目的とするものと思われる。」(2頁6〜8行)との部分があるが、この見解は、上記説示したところにより、採用することができない。
(3) 甲第4号証によれば、審判甲第2号証には、「様々なサイズの幼児に適用可能にさせるため、・・・、垂直方向に相互に離間した三つの周方向弾性バンド24,24’24”が設けられる。弾性バンド24,24’24”は、所定の最小腰周りを持つ幼児の腰に腰部分23をぴったりと引き寄せるような長さである。」との記載(訳文2頁24〜28行)、及び「下側の弾性バンド24’24”の各々は所定位置に縫い付けられる際には伸長状態であるため、縫製後に伸縮状態が解除されるとパンツシースにはギャザー又はシャーリングが形成され、バンドが伸びるのと同時にパンツシース材料は自由に伸張することができるようになっている。」(訳文3頁1〜5行)との記載があることが認められ、これによれば、着用時において「所定の最小腰周りを持つ幼児の腰に腰部分23をぴったりと引き寄せる」以上、それよりも腰周りの大きな幼児に対しては、なお一層「ぴったりと引き寄せる」ものであるから、弾性バンド24,24’24”は、審判甲第2号証記載の発明のトレーニングパンツと身体の密着度を高めるものであると認められる。
甲第5号証によれば、審判甲第3号証に、「オムツ入れ2の上方部とパンツ1の中央部には、横にゴム紐ハ、ニを取付け、その収縮力によって使用中パンツ1及び中に入れたオムツeが動かないように止めておく」(1頁右欄12〜16行)との記載があること、及び、甲第6号証によれば、審判甲第4号証に、「幼児の腹部及び臀部によくフィットしておむつをよく保持し、幼児の自由な活動を妨げることがないし、過激な運動に対しても脱落の心配がなく使用し得る効果がある」(4頁1〜5行)との記載があることが認められ、これら記載中の「使用中パンツ1及び中に入れたオムツeが動かない」こと及び「おむつをよく保持し、・・・脱落の心配がな」いことは、パンツ若しくはおむつカバー及びおむつと身体との密着度が高い結果であることは、自明のことである。
したがって、審判甲第2号証記載の発明の「弾性バンド24,24’24”」、
審判甲第3号証記載の発明の「ゴム紐ハ、ニ」、及び審判甲第4号証記載の発明の「数条の編込み9」は、パンツ型おむつと身体との密着度向上に寄与するものであるから、その向上の程度は別として、審判甲第1号証記載の「フィット性をよくする」ためと同様の目的をもって採用された構成であると認めることができる。そうである以上、「パンツ型のおむつにおいて、体にフィットさせることを目的として、ウエスト開口部の開口端形成縁部との間隔をそれぞれ保って両側縁部の中央を通り胴周り全周にわたって実質的に連続したギャザーを形成させる弾性部材を設けることは、審判甲第2〜第4号証に開示されるように、本件出願前に当業界において公知の技術である。」とした審決の認定に誤りはなく、これに続く「パンツ型おむつのフィット性をよくするという共通の課題を解決することを目的として、審判甲第2号証〜甲第4号証に開示されるような手段を採用することが当業者にとって格別困難であるとは認められない。」とした審決の判断にも誤りはない。
(4) 原告は、「審判甲第1号証記載の発明の「フィット」の意味を審判甲第2〜第4号証に記載の発明のフィットの意味に理解すると、審判甲第1号証記載の発明は着用できず使用不可能になる」とも主張するが、審判甲第1号証記載の発明と審判甲第2〜第4号証に記載の発明の「フィット」が、いずれも密着度向上にあることは前示のとおりであるところ、その向上の程度までもが同一であるわけではなく、そのことは、審決が「弾性的に作用するかどうかはともかく、甲第1号証の「V状の凹欠部」がフィット性をよくするものであることには変わりなく」と認定したことにも沿うものである。そして、審決が説示する「審判甲第2号証〜審判甲第4号証に開示されるような手段を採用すること」とは、審判甲第1号証記載の発明に、審判甲第2〜第4号証に記載の発明の弾性部材を採用することであり、これらは弾性部材であるから、着用不能にならないのは明らかである。
(5) 以上のとおりであり、取消事由2も理由がない。
3 取消事由3について 甲第3号証によれば、審判甲第1号証に、「とくに、本発明に係るパンツによれば、レッグホールの伸縮部材は、構成素材や厚さのゆえにトップシートやバックシートに比較して剛性であるコアの対向側縁から外側へ所定長さ延びているから、その延びている伸縮部材部分は前記コアの剛性によって伸縮性を阻害されることが少なく、そのため着用者の脚回りに対する前記レッグホールのシール性が良好になり、そこから排泄物の漏れることが少ない。」(3頁右下欄1〜9行)との記載のあることが認められる。
しかし、ここで「コアの剛性」が問題とされているのは、「着用者の脚回りに対する前記レッグホールのシール性」との関連においてであり、レッグホール位置に剛性部材があれば、レッグホールの伸縮部材と剛性部材の関係により、レッグホール位置において身体との隙間が生じる可能性を指摘するとともに、同位置には剛性部材がないことから、そのような可能性がないことを指摘しただけのことと理解される。そして、胴回りにおいて、脚回り程度に身体との隙間が生じてならないという理由はなく、審判甲第1号証記載の発明において、剛性を有する吸収体(コア)が、胴回り弾性部材を設けることの阻害要因となるものではない。
取消事由3は、吸収体(コア)が有する剛性は、そこに弾性部材を設けることの阻害要因となっていることを明示するものである点を、審決は看過したとするものであるが、以上説示したところによれば、取消事由3も理由がない。
4 取消事由4について (1) 審判甲第2号証記載の発明の「弾性バンド24,24’24”」、審判甲第3号証記載の発明の「ゴム紐ハ、ニ」、及び審判甲第4号証記載の発明の「数条の編込み9」は、パンツ型おむつと身体との密着度向上に寄与するものであることは、取消事由2に関して説示したとおりである。そして、およそおむつにおいて、
漏れ防止が重要な課題であること、パンツ型おむつと身体との密着度が高いほど、
漏れが少ないことは自明のことである。
甲第8号証の前記写真によれば、「本件特許発明品」は「甲第3号証記載品」及び「本件特許比較品」に比べて、身体との密着性に優れていることは認められるものの、それは胴回りの弾性部材の有無による相違であり、胴回りの弾性部材を具備することにより密着性が向上することは容易に予測できることといわざるを得ない。
したがって、審判甲第1号証記載の発明に審判甲第2〜第4号証に記載の発明の上記弾性部材を採用した場合、排泄物の漏れが少なくなることは、当業者であれば容易に予測できることであるから、「審判甲第1号証記載のようにコア部をも締め付けるように弾性部材を設けた場合、ずり落ちや漏れ防止の効果があるであろうことは当業者であれば容易に想到し得ることである。したがって、原告が主張する効果も、審判甲第1号証記載の発明に審判甲第2号証ないし審判甲第4号証記載の技術を適用した場合、当業者であれば容易に予測し得ることというべきである。」とした審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は、審判甲第2〜第4号証に記載の発明の上記弾性部材がおむつにギャザーを形成するものではないことを前提として、本件発明の作用効果を主張するが、本件発明は「使い捨ておむつ」にギャザーを形成するものであっても、吸収体にギャザーを形成するものと認めることはできないことは、取消事由1に関して説示したとおりであり、ギャザー形成位置において、本件発明は審判甲第2〜第4号証に記載の発明と格別異なるものではない。
(3) よって、取消事由4も理由がない。
結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成14年1月31日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史