関連ワード | 製造方法 / 加工方法 / 進歩性(29条2項) / 実質的に同一 / 存続期間 / 禁反言 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 変更 / |
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事件 |
平成
12年
(ネ)
6015号
特許権侵害差止等請求控訴事件
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控訴人(原告) A 訴訟代理人弁護士 小林雅人 同 中島明子 被控訴人(被告) 富安株式会社 訴訟代理人弁護士 岡田宰 同 広津佳子 補佐人弁理士 中嶋伸介 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/02/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 控訴人 原判決を取り消す。 被控訴人は、別紙物件目録一記載のダブルセーフティー缶蓋を輸入し、譲渡し、貸し渡し、譲渡又は貸渡しのために展示してはならない。 被控訴人は、控訴人に対し、金1000万円及びこれに対する平成11年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 仮執行の宣言 2 被控訴人 主文と同旨 |
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事案の概要
本件は、引きちぎりタブを有する食品又は飲料の容器(いわゆるプルトップ容器)に用いる金属製のダブルセーフティー缶蓋(被告物件)を輸入し販売する被控訴人の行為が、控訴人の有する本件特許権(発明の名称を「開口縁の安全な容器蓋及びその製造方法」とする特許第1762945号)を侵害すると主張して、控訴人が被控訴人に対し上記缶蓋の輸入、販売等の差止め及び損害賠償の支払いを求めた事案であり、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決に対して控訴がなされたものである。 本件事案の概要(前提となる事実、争点及び争点についての両当事者の主張)は、次の1及び2のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。 1 原判決への付加 原判決「第二 事案の概要」欄「二 争点 1 被告物件の構成」中の(被告の主張)の末尾(原判決11頁5行の後)に、段落を改めて、「なお、被告物件は、米国特許第3,939,787号及び3,986,632号(以下「モリソン特許」といい、その対応日本出願が特公昭61年27129号として公告されている。)の明細書に開示された技術(以下「モリソン発明」という。)の実施品である。」を挿入する。 2 当審における控訴人の主張 (1) 構成要件fの充足性 原判決は、本件発明の構成要件fの「該ループ部の裂開案内線側への帰還部分を裂開案内線から離隔させると共に」の「離隔させる」について、「裂開案内線形成面と帰還部分との間は、@ループ部の内側を含む容器蓋全体に、一般的な手段によって補修ニスを塗布することを可能とする程度に間隔が設けられ、また、A衝撃を受けた時に、ループ部が衝撃を裂開案内線に直接伝えることなく変形して、 衝撃を吸収することができる程度に間隔が設けられることが必要であるというべきである。さらに、B実施例の記載に照らすならば、約0.3ミリメートルよりも著しく接近している場合には、離隔していないと解するのが相当である。」(原判決18頁3行ないし10行)と解釈したが、誤りである。 補修ニスの侵入に必要な間隙が0.01ミリメートル程度で十分であることは当業者の常識であり、ニスは回しがけで塗布するから、裂開案内線形成面と帰還部分との間の間隙(隙間10の間隔C、別紙1の本件明細書の第1図参照)は缶蓋の全周の一部にでもあれば足りる。また、衝撃吸収のためには「僅かな」変形が可能であれば足りるのであって、そのためには0.01ミリメートル程度の間隙で十分である。本件発明の実施例の説明は、本件発明の構成要件との関係では付加的な記載にすぎず、実施例を根拠に「離隔させる」ためには最低0.3ミリメートル程度の間隙を要すると解することは不当である。 原判決は、「被告物件の裂開案内線形成面と帰還部分との間の間隙は、おおむね0.01ないし0.02ミリメートル程度と推認される」(原判決26頁4行ないし8行)と認定しているところ、実験結果(甲35、36)によれば、0.01ないし0.02ミリメートル程度の間隙でも十分に衝撃吸収機能があることが確認されているから、被告物件の上記間隙は、構成要件fの「離隔させる」の要件を充足する。 (2) 構成要件eの充足性 原判決は、構成要件eの「前記裂開案内線の内側に裂開案内線の形成面から下側へ曲げられたループ部を形成し」の「ループ部」は、「@緩やかな曲げ加工によって形成されたループ形状を備えた、衝撃を吸収し得る構造を有することを有し、さらに、A裂開案内線の形成面の上下に、同様の構造を有する構成要件bに係るループ部3とともに、S字状に配置されることを要するものを指すというべきである。」(原判決29頁5行ないし9行)と判断したが、誤りである。 構成要件eは、「ループ部」が隙間を完全に潰した「リジッドな」曲げ加工による形状でないことを規定したものである。ループ部は、「リジッドな」曲げ加工で隙間を完全に潰していなければ、衝撃吸収機能があるのである。 原判決のいう2つのループ部の「S字状」の配置とは、裂開案内線の内側(中央パネル側)のループ部の曲げ加工の度合いと、帰還部分と裂開案内線の形成面との「離隔」(構成要件f)の問題にすぎないから、かかる要件は本来不要なものであり、考慮する必要はない。 仮に「S字状」の要件を考慮するとしても、被告物件は、裂開案内線を挟む2つのループ部が全体としてS字を形成しており、裂開案内線の内側(中央パネル側)のループ部は「リジッド」な曲げ加工ではなく、外側(巻き締め側)に開口した空隙を有しているから、「S字状」の要件を充足する。 (3) 構成要件gの充足性 被告物件は、構成要件g「同帰還部分を裂開案内線より外側において更に内側へ曲げた開口片側の蓋板面とからなり」を充足する(甲39、4 1)。 (4) 被告物件とモリソン発明との関係 被告物件は、モリソン発明の実施品ではない。製造図面(甲46ないし48)からみて、被告物件は、本件発明のダブルセーフティー構造を形成するように、モリソン発明の製造方法を変更して製造されている。 3 被控訴人の反論の要点 (1) 構成要件e、f及びgの充足性について 控訴人の主張はすべて争う。 構成要件fに関していえば、被告物件においてニスの塗布は想定されておらず、裂開案内線形成面と帰還部分との間に間隔は設けられていない。わずかな間隙が生じているものがあるとしても、加工上やむを得ない現象である。控訴人は、 本件特許の無効審判請求事件において、本件発明には「0.3ミリメートル以上」という被告物件にはない間隔が裂開案内線形成面と帰還部分との間に存在し、この間隔がまさに耐衝撃性という本件発明の進歩性の根拠であると主張し、審決もこれを認めて本件特許を維持したにもかかわらず、控訴人が本件訴訟において0.3ミリメートル以上でなくとも構わないと主張するのは、本件特許の範囲の著しい拡大を許す結果となり、不当である。このような主張は禁反言の原則に照らしても許されない。 さらに、構成要件eに関していうと、被告物件は、裂開案内線の内側(中央パネル側)にZの字を圧縮した形状の三層のパネル折り重なり構造が形成されているところ、そこは鋭角的な折り加工がなされているから、「裂開案内線の内側に裂開案内線の形成面から下側に曲げられた」部分が「ループ部」をなしているとはいえず、2つのループ部がS字状を呈しているものでもない。また、この三層のパネル折り重なり構造の各層間にわずかな間隙が残っているとしても、加工時に意図せずに発生するスプリングバックという極めて小さな間隙に過ぎず、本件発明におけるように離隔を意図していないし、衝撃を吸収するような効果も企図されていない。 (2) モリソン発明との関係 本件発明の特徴であるダブルセーフティー構造は、本件明細書に開示されているとおりの方法で形成されるものであって、裂開案内線の形成面の上方と下方に全体としてS字状を呈するループ部分(ループ部3とループ部8とで構成される)が、一工程で同時に形成されることに特徴がある。 これに対し、被告物件は、本件特許出願前に公知となっているモリソン発明を実施したものである。モリソン特許では、乙第4号証(特公昭61-27129号公報)の第4図に示されるように、ループ部26を変形させて開口側折り重なり部33を形成する工程と、同第6図(別紙2のFIG6参照)に示されるように、緩やかなループ部32を残したままで巻き締め側チャック・ウォール部を形成する工程とがあり、この2段の工程によって、缶蓋の開口片側(裂開案内線の内側)には三層構造のパネル折り重なり構造が形成され、他方の巻き締め側(裂開案内線の外側)には緩やかなループ形状が形成されて、裂開案内線を基準にしてS字状とはいえない非対称の構造が作られる。 控訴人は、本件特許に対する無効審判の答弁書(乙3)において、本件発明のダブルセーフティー構造とモリソン特許に開示された構造との間には、極めて重要な作用効果の差異があると主張していたのであり、モリソン特許に開示された製造方法を実質的に変更することなく製造されている被告物件が本件発明の侵害となることはあり得ない。 |
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当裁判所の判断
当裁判所も控訴人の請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、構成要件fの充足性について以下の1のとおり付加し、モリソン特許に関連して以下の2のとおり説示を付加する外は、原判決「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」と同一であるから、これを引用する。 1 構成要件fの充足性について (1) 本件発明の構成要件fは、「該ループ部の裂開案内線側への帰還部分を裂開案内線の形成面から離隔させると共に」であるところ、控訴人は、同要件における「離隔」について、補修ニスの侵入に必要な間隙は0.01ミリメートル程度で十分であるから、「離隔」とは0.01ミリメートル程度の間隔があることをもって足りると主張し、被告物件はループ部の裂開案内線側への帰還部分と裂開案内線の形成面との間に存在する間隔が0.01ないし0.02ミリメートル程度であるから、「離隔」の要件を満たすと主張する。 しかし、本件公報には「一般に、補修ニスが侵入するための最小限の隙間としては約0.3o以上必要とされるが・・・」(10欄10行から13行)と記載されていることが認められ、この記載に照らすと、補修ニスの塗布に必要な隙間として最小限0.3ミリメートル程度が予定されていることは本件明細書の記載上明らかであり、この記載に接した当業者も約0.3ミリメートルを目安として、 「離隔」の要件を理解するものと考えられる。また、本件特許に対する無効審判請求事件において被控訴人(無効審判請求人)が証拠として提出した米国特許4,116,361号明細書(乙5)のFIG19、21には、パネルの折り重なり部の1層目と2層目との間に折り畳み部空間87を設けた構造が示されているところ、 控訴人は、無効審判の答弁書(乙3)において、同図の「折り畳み部空間87は加工時に結果的に生じた空間にすぎず、補修ニスの塗布を意図したものではなく、折り畳み部空間87が塗布に必要となる空間を構成しているかどうかは疑問である」と主張し、折り畳み加工時に結果的に生ずる程度の空間と補修ニスの塗布に必要とされる空間とを区別していたことが認められる。これらの事実に照らすと、0.3ミリメートルよりも著しく小さい間隙が「離隔」の要件を満たすと解することは、 当業者の理解ないし合理的な期待に反するものであって、許されないというべきである。 控訴人の主張は、採用することができない。 (2) 控訴人は、裂開案内線形成面と帰還部分との間の間隔は0.01ミリメートル程度でも衝撃吸収機能を有するから、被告物件は構成要件fを充足すると主張する。 しかし、衝撃吸収機能を有するからという理由で0.3ミリメートルよりも著しく小さい間隙を本件発明における「離隔」の要件を満たすものということができないことは、上記(1)のとおりである。また、控訴人が0.01ミリメートル程度の間隔でも衝撃吸収機能があることを証するとして提出した甲第36、第44号証は、控訴人作成の被告物件ではない缶蓋のサンプルを用いて行った試験及びシミュレーションの結果にすぎず、これらの実験結果から直ちに被告物件の著しく小さい間隙が衝撃吸収の機能を果たすために意図的に設けられているものとまで認めることはできない。 (3) 以上のとおり、当審における控訴人の主張を検討しても、被告物件が本件発明の構成要件fを充足すると認めることはできない。 2 モリソン特許について 被控訴人は、被告物件は、本件特許出願前に米国のジョン・モリソン等によって開発され、本件特許出願前である1976年に米国特許第3,986,632号及び第3,939,787号として特許され(モリソン特許、その対応日本出願が特許第1367791号(特公昭61-27129号・乙第4号証)として特許されている。)、米国のオートメイテッド・コンテナー社が特許権者となった技術(モリソン発明)を実質的に変更することなく実施して製造されている製品であるから、本件特許の侵害とはなり得ないと主張するので、この点について判断する。 (1) モリソン特許の存在及び内容、米国オウトメイテッド・コンテナー社はモリソン特許の権利者であったこと(ただし、モリソン特許は既に存続期間満了により権利が消滅している。)、並びに被告物件が同社の製品であることについては、 控訴人も争っていない。 (2) 乙第4号証(特公昭61-27129号明細書)によれば、モリソン特許に開示されたダブルセーフティー構造を作る工程は、 @ 「第2図に図示された・・・形成工程」で「中央パネル部18の外縁部がそれ自体折り曲げられ、ゆるいループ部26を形成」する工程(4 欄15行〜18行)、 A 第3図のように、上棚部14と立ち上がり壁部20を折り曲げて「比較的ゆるやかなループ部32を形成する」工程(同欄25行〜28行)、 B 第4図のように、「ループ部26は上方へ折り曲げられ、ループ部26の外側部28が下方の棚部15と隣接」し、「ループ部26の内側部 27が上方に折り曲げられ・・・外側部28と隣接」して、三層の材料 からなる「パネルの折り重なり部33」を形成する工程(同欄29〜3 7行)、及び C 第6図のように、ゆるやかなループ部32が、分離線42上に重なるように内側へ折り畳まれる工程(5欄6行、7行)、 を含んでなるものであって、これらの工程により、缶蓋の中央パネル側(裂開案内線の内側)にはループ部26を圧縮して三層構造のパネル折り重なり構造(パネルの折り重なり部33)が形成され(前記@、Bの工程)、他方の巻き締め側(裂開案内線の外側)には緩やかなループ形状(緩やかなループ部32)が形成される(前記A、Cの工程)。 そして、これらの工程により形成される構造は、「ゆるやかなループ部32は一般的にゆるい構造のまま残され、その層(複数)は、ループ部26の場合のように圧縮されることはない」(同欄9〜11行)と説明されているとおり、裂開案内線を基準にして、S字状とはいえない非対称の構造となることが認められる。 (3) ところで、被告物件の断面写真(甲12ないし16、18ないし31(枝番省略)及び乙1の1)を観察すると、被告物件は、裂開案内線の外側に2つのループ(鼻端部4とループ部3)で形成されるほぼZ字状の構造を形成し、裂開案内線の内側(中央パネル側)には、Zの字を圧縮した形状の三層のパネル折り重なり構造が形成されており、これをモリソン特許のダブルセーフティー構造を示した図面(乙4のFIG6及び乙1の1添付資料DのFIG7)と対照すると、三層構造のパネル折り重なり部の各層間にわずかな空間が残ってはいるものの、全体として、モリソン特許のダブルセーフティー構造に極めて近い形状のものであると認められる。 また、記載内容からみて被告物件(211型缶蓋)の製品図と認められる米国オウトメイテッド・コンテナー社作成の1997年9月4日付け図面(甲48)には、裂開案内線の外側(巻締め側)に略Z字状の構造を形成し、内側(中央パネル側)には三層パネルのパネル折り重なり部を形成した構造が図示されており、図示の形状は、モリソン特許の図面(例えば、乙第4号証のFIG6)に示されたものと実質的に同一と認められる。なお、被告物件は、前記被告物件の断面写真でみると、三層になったパネル折り重なり部のパネル相互間にわずかな空間が残っているという点で前記製品図そのままの形状とはいえないものの、全体としてみると前記製品図とよく合致する形状であり、実際の製品が加工時における誤差やスプリングバックによって必ずしも製造図を正確に再現した形状にならない場合のあることを考慮に入れると、被告物件が上記製品図どおりのものを意図して製造されていることは、ほぼ疑いを容れる余地がないというべきである。 (4) 以上によれば、被告物件は、モリソン特許に開示された方法によって製造されたモリソン発明の実施品と認めるのが相当である。 なお、控訴人は、被告物件ではパネル折り重なり部の三層構造の各層が完全に隣接せずに空間が残っているからモリソン特許とは製造方法及び構造が異なると主張するが、曲げ加工でパネル折り重なり部を形成した場合に各層の間にスプリングバックと呼ばれる現象によってわずかな空間が残り得ることはよく知られていることであり、また、被告物件の缶蓋構造においてパネル折り重なり部の各層を完全に密着させ、スプリングバックによる空間を残さないような加工方法を特に採用する必要性があるとも認められないから、被告物件のパネル各層間に製品図面(甲48)と異なるわずかな空間が残っていても、これを不自然であるということはできず、被告物件がモリソン発明を実施したものであるとの前記認定を覆すには足りないというべきである。 (5) 結局、被告物件は、本件特許出願前に公知となっていた技術を実施したものにすぎないから、これを販売等する被控訴人の行為が本件特許権の侵害となる余地はない。 |
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結論
以上のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく、控訴人の請求はいずれも理由がない。よって、控訴人の控訴は理由がないから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 橋本英史 |