関連審決 | 異議1999-73044 |
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関連ワード | 技術的思想 / 方法の発明 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 警告 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 変更 / 訂正明細書 / 取消決定 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10051号
特許取消決定取消請求事件
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原告 株式会社ノーザ代表者代表取締役 訴訟代理人弁理士 大塚康徳 同 高柳司郎 同 大塚康弘 同 木村秀二 訴訟復代理人弁護士 和田信博 被告 特許庁長官中嶋 誠 指定代理人 田中秀夫 同 阿部 寛 同 立川 功 同 小林和男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/02/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が平成11年異議第73044号事件について平成13年3月1日にした決定を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,後記特許の特許権者である原告が,株式会社沖メディカル・システムズ及びAからの特許異議申立てに基づき特許庁が特許取消決定をしたので,その取消しを求めた事案である。 なお,その後原告がなした訂正審判請求に対し特許庁が請求不成立の審決をしたことに対し,原告から審決取消訴訟(当庁平成17年(行ケ)第10534号)が提起され,本件訴訟と並行して審理が進められている。 |
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当事者の主張
1 請求原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「歯科情報処理方法及び装置」とする発明につき,平成7年11月9日に特許出願をし,平成10年11月27日に設定登録を受けて特許第2857088号の特許権者となった(請求項1〜6。以下「本件特許」という。)。 その後,本件特許に対し株式会社沖メディカル・システムズ及びAから特許異議の申立てがなされ,同申立ては平成11年異議第73044号事件として係属した。同事件係属中の平成12年3月6日,原告は本件特許の訂正を請求した(甲5。以下「本件訂正」という。)が,特許庁は,平成13年3月1日,前記訂正を認めた上,「特許第2857088号の請求項1乃至6に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は平成13年3月22日原告に送達された。 (2) 発明の内容 ア 設定登録時(平成10年11月27日)の特許請求の範囲の記載は,下記のとおりである(以下「本件発明1」〜「本件発明6」という。)。 記 【請求項1】患者の各処置部位毎の歯科処置情報を登録して記憶する登録手段と, 患者に対する治療時に処置を行なう処置部位を入力する処置部位入力手段と, 前記処置部位入力手段より入力された処置部位に対する処置情報を入力する処置情報入力手段と, 前記処置情報入力手段により入力された処置情報が適切な処置情報入力であったか否かを前記登録手段の登録内容を基に判別する判別手段と, 前記判別手段による判別の結果適切な処置情報入力でなかった場合に,不適切な入力項目を一覧表表示する一覧表表示手段と, 前記一覧表表示手段の表示を確認して再入力する項目が選択された場合に,当該選択項目の入力画面を表示して当該項目の入力を可能とする項目入力許可手段と, 前記入力項目許可手段による入力のあった項目に対する入力情報を対応する部位の過去の対応する全ての入力に対して一括変換して前記登録手段に再登録する再登録手段とを備えることを特徴とする歯科情報処理装置。 【請求項2】前記再登録手段による再登録後に他の不適切入力項目がある場合には再度一覧表表示手段による他の不適切入力項目の入力可能画面に移行することを特徴とする請求項1記載の歯科情報処理装置。 【請求項3】前記入力項目許可手段は,前記一覧表表示手段により表示されていた一覧表示と共に前記当該選択項目の入力画面を並列表示し,入力項目の状態を把握しながら入力することを可能とすることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の歯科情報処理装置。 【請求項4】患者の各処置部位毎の歯科処置情報を登録して記憶する登録手段を備える歯科情報処理装置における歯科情報処理方法であって, 患者に対する治療時に処置を行なう処置部位及び入力された処置部位に対する処置情報が入力された場合において,入力された処置情報が適切な処置情報入力であったか否かを前記登録手段の登録内容を基に判別し,判別の結果適切な処置情報入力でなかった場合に,不適切な入力項目を一覧表表示するとともに,一覧表表示を確認して再入力する項目が選択された場合に,当該選択項目の入力画面を表示して当該項目の入力を可能とし,ここで入力のあった項目に対する入力情報を対応する部位の過去の対応する全ての入力に対して一括変換して前記登録手段に再登録することを特徴とする歯科情報処理方法。 【請求項5】前記再登録後に他の不適切入力項目がある場合には再度一覧表の表示を行い他の不適切入力項目の入力可能画面に移行することを特徴とする請求項4記載の歯科情報処理方法。 【請求項6】前記選択項目の入力画面においては少なくとも前記選択項目一覧表表示部分と共に前記当該選択項目の入力画面を並列表示し,入力項目の状態を把握しながら入力することを可能とすることを特徴とする請求項4または5のいずれかに記載の歯科情報処理方法。 イ 本件訂正(平成12年3月6日付け)により訂正された特許請求の範囲の記載は,下記のとおりである(以下「訂正発明1」〜「訂正発明6」という。下線が訂正箇所)。 記 【請求項1】患者の各処置部位毎の歯科処置情報を登録して記憶する登録手段と, 患者に対する治療時に処置を行なう処置部位を入力する処置部位入力手段と, 前記処置部位入力手段より入力された処置部位に対する処置情報を入力する処置情報入力手段と, 前記処置情報入力手段により入力された処置情報が不適切な処置情報入力であったか否かを前記登録手段の登録内容を基に判別する判別手段と, 前記判別手段による判別の結果入力された 処置情報 が不適切 である 場合に,不適切な入力項目を一覧表表示する一覧表表示手段と, 前記一覧表表示手段の表示を確認して再入力する項目が選択された場合に,当該選択項目の入力画面を表示して当該項目の入力を可能とする入力項目許可手段と, 前記入力項目許可手段による入力のあった項目に対する入力情報を対応する部位に対する過去の対応する全ての入力に対して一括変換して前記登録手段に再登録する再登録手段とを備えることを特徴とする歯科情報処理装置。 【請求項2】前記再登録手段による再登録後に他の不適切な入力項目がある場合には再度前記一覧表表示手段による他の不適切な 入力項目の入力可能画面に移行することを特徴とする請求項1記載の歯科情報処理装置。 【請求項3】前記入力項目許可手段は,前記一覧表表示手段により表示されていた一覧表示と共に前記当該選択項目の入力画面を並列表示し,入力項目の状態を把握しながら入力することを可能とすることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の歯科情報処理装置。 【請求項4】患者の各処置部位毎の歯科処置情報を登録して記憶する登録手段を備える歯科情報処理装置における歯科情報処理方法であって, 患者に対する治療時に処置を行なう処置部位及び入力された処置部位に対する処置情報が入力された場合において,入力された処置情報が不適切な処置情報入力であったか否かを前記登録手段の登録内容を基に判別し,判別の結果入力された 処置情報 が不適切 である 場合に,不適切な入力項目を一覧表表示するとともに,一覧表表示を確認して再入力する項目が選択された場合に,当該選択項目の入力画面を表示して当該項目の入力を可能とし, ここで入力のあった項目に対する入力情報を対応する部位に対する 過去の対応する全ての入力に対して一括変換して前記登録手段に再登録することを特徴とする歯科情報処理方法。 【請求項5】前記再登録後に他の不適切な入力項目がある場合には再度前記一覧表の表示を行い他の不適切な 入力項目の入力可能画面に移行することを特徴とする請求項4記載の歯科情報処理方法。 【請求項6】前記選択項目の入力画面においては少なくとも前記選択項目一覧表表示部分と共に前記当該選択項目の入力画面を並列表示し,入力項目の状態を把握しながら入力することを可能とすることを特徴とする請求項4または5のいずれかに記載の歯科情報処理方法。 (3) 本件決定の内容 ア 本件決定の内容は,別添異議の決定写し記載のとおりである。 その要旨とするところは,訂正発明1ないし6は,いずれも下記の引用刊行物に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件訂正は認められない。また,本件発明1ないし6も同様の理由により特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから,本件特許は取り消されるべきである等というものである。 記 株式会社ジーシー製のマニュアル「歯科医院用コンピュータシステム RECEFISU MANUAL」(甲3。以下「引用刊行物」という。) イ 訂正発明1と引用発明との一致点及び相違点についての認定 本件決定は,訂正発明1と引用発明とを対比し,その一致点と相違点を,下記のように摘示している。 記 <一致点> 「患者の各処置部位毎の歯科処置情報を登録して記憶する登録手段と, 患者に対する処置部位を入力する処置部位入力手段と, 前記処置部位入力手段より入力された処置部位に対する処置情報を入力する処置情報入力手段と, 前記処置情報入力手段により入力された処置情報が不適切な処置情報入力であったか否かを前記登録手段の登録内容を基に判別する判別手段と, 前記判別手段による判別の結果入力された処置情報が不適切である場合に,不適切な入力項目を一覧表表示する一覧表表示手段と, 前記一覧表表示手段の表示を確認して再入力する項目が選択された場合に,当該選択項目の入力画面を表示して当該項目の入力を可能とする入力項目許可手段と, 前記入力項目許可手段による入力のあった項目に対する入力情報を前記登録手段に再登録する再登録手段とを備えることを特徴とする歯科情報処理装置。」である点。 <相違点a> 患者に対する処置部位に関し,訂正発明1が,「治療時に処置を行なう」処置部位であるのに対し,引用発明は,治療した後の処置部位としている点。 <相違点b> 再登録に関し,訂正発明1が,「対応する部位に対する過去の対応する全ての入力に対して一括変換」するのに対し,引用発明はそのような対応がなされていない点。 (4) 本件決定の取消事由 しかしながら,本件決定は,以下に述べる理由により,違法として取り消されるべきである。 ア 取消事由1(訂正発明1と引用発明との対比判断の誤り) (ア) 一致点の認定の誤り a 本件決定は,訂正発明1と引用発明の一致点について,上記のとおり訂正発明1のほとんどの構成要件が,引用刊行物(甲3)に記載されているものとして認定したが,かかる認定は訂正発明1及び引用発明を誤って認識したことに基づくものであり,以下に述べる理由により失当といわざるを得ない。 b 訂正明細書(甲5添付)の段落【0004】及び【0005】に記載されている「従来のこの種の歯科情報処理装置においては,・・・病名を後で訂正しようとする場合等は,当該治療部位の初診よりの全ての処置毎にいちいち病名を再入力しなければならなかった。また,処置の項目の指定誤りがあった場合においても,当該誤りのあった治療日を指定し,当該日における患者を特定し,しかる後に病名や治療内容より誤りの検出された処置部位を特定して行わなければならなかった」という課題に対し,訂正発明1は,過去の治療履歴などとの関連で不適切な入力を訂正することに関し,具体的には,同じ処置部位に対して重複して行われることのない処置が指定入力されている場合等に,治療履歴との関連で当該不適切入力を検出し,項目を再入力する場合には,当該履歴を含めて対応箇所を再入力項目へ一括変換することを特徴とするものである。このように,訂正発明1の「不適切な入力項目」とは,単なる誤記や入力ミスをいうのではなく,過去の治療履歴と比較した際にあり得るはずのない「治療部位に対する治療情報」のようなロジカルエラーを意味する。さらに,訂正発明1は,単なる誤記訂正を特徴とする発明ではなく,患者の治療履歴に基づいて論理的に矛盾する入力を検知し,それを不適切入力項目として検出するとともに,ユーザーに対し,不適切と判断した根拠となった箇所を比較判断する機会を提供して,最新の入力内容を訂正すべきか,過去の既に確定した入力項目を訂正すべきかを決定することを可能とするものである。 c 他方,引用刊行物(甲3)は,「誤入力」というだけで,誤入力エラー検出を行い検出箇所を示して手動訂正を促す発明を記載したにすぎず,訂正発明1のように,過去の治療履歴と対比して論理的矛盾をエラーとして検出する旨や,過去のデータも含めて一括変換する旨の開示及び示唆は存在しない。このように,訂正発明1は,引用発明とは明らかに異なる発明であり,したがって,引用刊行物をもって訂正発明1の特許性を判断する余地はない。 (イ) 相違点aについての判断の誤り a 本件決定は,相違点aについて,「一般に,・・・データ入力を行う時期に関しては使用者の都合に応じて適宜変更し得るものである。そうすると,・・・患者に対する治療時に行うようにすることに格別の発明力を要するとは認められない」(決定6頁第3段落,第4段落)と判断したが,明らかに誤りである。 b 訂正発明1は,処置情報が適切な処置情報入力であるか否かを登録された過去の内容との比較で判断し(すなわち,ロジカルなエラー判断を行い),過去と現在の対比から矛盾のあるエラーを訂正することができる。これは,患者に対して処置(治療)を施そうとする際に,過去の治療履歴との関連で当該処置が正しいものであるかを検証する機会を与えるものであり,これから処置を施そうとする患者に対する治療を正しい方向に導くことを可能とする。訂正発明1の課題は,治療行為を行なっていいかどうかの判定を既に登録されている処置と比較して行うことにあるので,処置に先立って処置部位を入力する処置部位入力手段を本発明の要素に取り込むことは,訂正発明1の技術的思想の開示があって初めてなし得ることであり,引用刊行物(甲3)に,単にコンピュータシステムの一般的な常識を当てはめただけでは,訂正発明1の構成に至ることもできないし,訂正発明1が奏するような上記効果を得ることはできない。 (ウ) 相違点bについての判断の誤り a 本件決定は,相違点bについて,当業者であれば容易に推考し得る程度のことにすぎないとし,訂正発明1の奏する効果は,引用発明から当業者が予測し得る範囲のものであり,したがって,訂正発明1は,引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると判断したが,明らかに誤りである。 b 訂正発明1では,ユーザーに対し新規入力が過去の入力との関連で論理的矛盾を生じる旨が警告された場合に,ユーザーは新規入力に対応するような過去の入力の訂正を指示し,又は過去の入力に対応するように新規入力を訂正するように指示することが可能であり,そのような過程を経た上で一括変換が行われる。 c 他方,引用発明は,単にエラー箇所を一つずつ手動訂正する発明にすぎず,また,過去との関係で新規入力が本当にエラーであるかどうかを判断することはできないのにもかかわらず,本件決定は,「誤った情報(入力データ)を過去に遡って全て訂正することが望ましいのは当然のことであり,また,誤った情報(入力データ)を一つ一つ訂正する代わりに一括変換処理することは情報処理技術分野における常套手段である」として,これを引用発明に適用することは当業者に容易であるとした。しかし,引用発明では,過去の入力を訂正するには,ユーザーが対応箇所を探し出し,それが誤りであるかどうかを判断していかなければならず,対応箇所が複数の場合はそれらをすべて探し出し,それぞれを訂正しなければならない。また,一括変換とは本来変換される各箇所が対応付けられて初めて実行可能な機能であり,上述したように対応箇所をユーザーがマニュアルで探していくような場合には,探し出した箇所を対応付けるための操作が必要になるはずであるが,それに相当する記載は引用刊行物(甲3)にはない。さらに,上記作業は,患者の数が増えれば増えるほど困難となり,現実的には遂行不可能である。したがって,このような作業の必要がない訂正発明1によってユーザーの労力は大幅に軽減されるのであり,訂正発明1のもたらす効果は顕著であり,当業者が予測し得る範囲のものではない。 イ 取消事由2(訂正発明2ないし6と引用発明との対比判断の誤り) (ア) 訂正発明2は,訂正発明1に従属する発明であり,訂正発明3は,訂正発明1又は2に従属する発明であるから,訂正発明1が引用発明に対し特許性を有する以上,従属する訂正発明2,3も引用発明によって特許性が否定されることはない。 (イ) 加えて,訂正発明3は,「前記入力項目許可手段は,前記一覧表表示手段により表示されていた一覧表示と共に前記当該選択項目の入力画面を並列表示し,入力項目の状態を把握しながら入力することを可能とすることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の歯科情報処理装置」であり,エラーの一覧表示と,いずれかが正しく,いずれかが間違っていることが判断できる選択項目の入力画面を並列に表示するという特有の構成を有する。この構成によって,患者に対する治療時に処置を行なう処置部位を入力する治療行為の選択画面を過去の治療行為から時系列的にチェックでき,重複あるいは不適当な治療行為を事前に防止でき,これらは,歯科治療という医療に特化した特有の技術アイディアであり,情報処理分野における常套手段から容易であるわけがない。 したがって,仮に訂正発明1が想到容易であったとしても,訂正発明3は十分な特許性を持つというべきである。 (ウ) 次に,本件決定は,訂正発明4ないし6について,訂正請求項4ないし6が訂正請求項1ないし3を方法の発明として記載したものであり,引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであると判断した。しかし,引用発明に対して訂正発明1ないし3が特許性を有することは上記(ア),(イ)のとおりであるから,訂正発明4ないし6についての本件決定の上記判断は明らかに誤りである。 2 請求原因に対する認否 請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。 3 被告の反論 本件決定の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 (1) 取消事由1(訂正発明1と引用発明との対比判断の誤り)に対し ア 原告の主張(ア)(一致点の認定の誤り)につき (ア) 原告は,訂正発明1の「不適切な入力項目」とは,単なる誤記や入力ミスをいうのではなく,過去の治療履歴と比較した際にあり得るはずのない「治療部位に対する治療情報」のようなロジカルエラーを意味すると主張するが,訂正明細書(甲5添付)の【請求項1】には,「処置情報入力手段により入力された処置情報が不適切な処置情報入力であったか否かを前記登録手段の登録内容を基に判別する判別手段と,前記判別手段による判別の結果入力された処置情報が不適切である場合に,不適切な入力項目を一覧表表示する」と記載されているだけであって,この記載から「不適切な入力項目」が,過去の治療履歴と比較した際にありえるはずのない「治療部位に対する治療情報」のようなロジカルエラーのみに特定されるものであるとも,単なる誤記や入力ミスを含まないものであるともいうことはできない。 加えて,誤記や入力ミスあるいは間違って入力した内容等は,不適切な情報であると考えるのが一般常識であるから,入力項目に誤記や入力ミスあるいは間違って入力した内容等を含むものも,それを「不適切な入力項目」としてとらえるのが妥当である。 (イ) コンピュータを用いた歯科治療情報装置である引用刊行物(甲3)には,「患者情報入力の間違いを検索し,画面下に一覧表示します」(17頁7行目),「4.選択した誤入力部分(患者情報登録表内)へカーソルが移動します。 5.誤入力を訂正します」(17頁13行目〜14行目)と記載されているように,「誤入力」は,「患者情報登録」,すなわち,登録手段に既に登録されている患者の各処置部位ごとの登録内容に基づいてコンピュータが検索し判別したものであることは明らかである。 イ 原告の主張(イ)(相違点aについての判断の誤り)につき 原告は,訂正発明1が上記ロジカルなエラー判断を行うことができることを理由に,本件決定の相違点aについての判断が誤りであると主張する。しかし,訂正発明1がロジカルなエラー判断を行うものに特定されないことは上記アのとおりである。 ウ 原告の主張(ウ)(相違点bについての判断の誤り)につき (ア) 原告は,訂正発明1は,ユーザーに対し新規入力が過去の入力との関連で論理的矛盾を生じる旨が警告された場合にユーザーは新規入力に対応するような過去の入力の訂正を指示し,又は過去の入力に対応するように新規入力を訂正するように指示することが可能であり,そのような過程を経た上で一括変換が行われると主張するが,同主張は本件発明1の構成に基づかないものであり失当である。 (イ) 原告は,引用発明では,過去の入力を訂正するには,ユーザーが対応箇所を探し出し,それが誤りであるかどうかを判断していかなければならないと主張する。 しかし,本件決定が「情報処理装置において,誤った情報(入力データ)を・・・一括変換処理することは情報処理技術分野における常套手段である」(決定6頁第5段落)とした点は,情報処理技術分野における技術常識の範囲内で認定できることであり,このような情報処理技術分野における技術常識を,同じ分野に属する引用発明に適用することは,当業者が容易に想到し得る程度のことである。 また,「一括変換」が,「変換される各箇所が対応付けられて初めて実行可能な機能である」ことも含めて情報処理技術分野における技術常識と認められるものである以上,引用刊行物(甲3)に「一括変換」の開示がなされていないからといって,訂正発明1の進歩性を肯定することはできない。 さらに,原告主張の訂正発明1の効果は,情報処理技術分野における常套手段である「一括変換」自体が有している効果にすぎず,当業者が熟知しているものである。 (2) 取消事由2(訂正発明2ないし6と引用発明との対比判断の誤り)に対し (ア) 原告は,訂正発明2,3は訂正発明1に従属する発明であり,訂正発明1が引用発明に対し特許性を有する以上,従属する訂正発明2,3も引用発明によって特許性が否定されることはないと主張するが,訂正発明1の進歩性が否定されるものである以上,同発明が進歩性を有することを前提とした上記原告の主張は失当である。 (イ) また,原告は,訂正発明3は,エラーの一覧表示と,いずれかが正しく,いずれかが間違っていることが判断できる選択項目の入力画面を並列に表示するという特有の構成を有すると主張する。しかし,一般的に,関連する情報画面をディスプレー上に並列表示することにより入力項目の状態を把握し得るようにすることは,情報処理技術分野における常套手段であるとともに,エラーチェックをいかなる時点で実施するかは,同じ構造を有する歯科情報処理装置であっても,その使用目的に応じて任意に選定し得る事項である。そして,引用発明においても,不適当な治療行為を事前に防止できるという効果は,エラーチェックを歯科治療に先だって行なうことにより当業者が当然予測し得る程度のものにすぎない。 (ウ) さらに,原告は,引用発明に対して訂正発明1ないし3が特許性を有するから,これらを方法の発明として記載した訂正発明4ないし6についての本件決定の上記判断は明らかに誤りであると主張する。しかし,訂正発明1ないし3の進歩性が否定されるものである以上,それらの発明を方法の発明としてとらえた訂正発明4ないし6も,その進歩性を認めることができないのは明らかであるから,上記原告の主張は失当である。 |
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当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)(本件決定の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 2 取消事由1(訂正発明1と引用発明との対比判断の誤り)について (1) 原告の主張(ア)(一致点の認定の誤り)につき ア 原告は,本件決定の一致点の認定は,訂正発明1のほとんどの構成要件が,引用刊行物(甲3)に記載されているものとしたが,かかる認定は訂正発明1及び引用発明を誤って認識したことに基づくものであって失当であるとし,その理由として,訂正発明1の「不適切な入力項目」とは,単なる誤記や入力ミスをいうのではなく,過去の治療履歴と比較した際にあり得るはずのない「治療部位に対する治療情報」のようなロジカルエラーを意味するのに対し,引用刊行物(甲3)は,誤入力エラー検出を行い検出箇所を示して手動訂正を促す発明を記載したにすぎず,訂正発明1のように,過去の治療履歴と対比して論理的矛盾をエラーとして検出する旨や,過去のデータも含めて一括変換する旨の開示及び示唆は存在しないと主張する。 イ しかし,訂正明細書(甲5添付)の【請求項1】には,「患者の各処置部位毎の歯科処置情報を登録して記憶する登録手段と,患者に対する治療時に処置を行なう処置部位を入力する処置部位入力手段と,前記処置部位入力手段より入力された処置部位に対する処置情報を入力する処置情報入力手段と,前記処置情報入力手段により入力された処置情報が不適切な処置情報入力であったか否かを前記登録手段の登録内容を基に判別する判別手段と,前記判別手段による判別の結果入力された処置情報が不適切である場合に,不適切な入力項目を一覧表表示する一覧表表示手段と,前記一覧表表示手段の表示を確認して再入力する項目が選択された場合に,当該選択項目の入力画面を表示して当該項目の入力を可能とする入力項目許可手段と,前記入力項目許可手段による入力のあった項目に対する入力情報を対応する部位に対する過去の対応する全ての入力に対して一括変換して前記登録手段に再登録する再登録手段とを備えることを特徴とする歯科情報処理装置。」と記載され,同記載中には,原告の主張する「ロジカルエラー」については記載がない。また,上記【請求項1】の「患者の各処置部位毎の歯科処置情報を登録して記憶する登録手段」及び「前記処置情報入力手段により入力された処置情報が不適切な処置情報入力であったか否かを前記登録手段の登録内容を基に判別する判別手段と,前記判別手段による判別の結果入力された処置情報が不適切である場合に,不適切な入力項目を一覧表表示する一覧表表示手段」との記載によれば,訂正発明1の「判別手段」は,「処置情報が不適切な処置情報入力であったか否かを前記登録手段の登録内容を基に判別する」ものではあるが,「登録手段の登録内容」が「患者の各処置部位毎の歯科処置情報」のみであるとの限定や,判別の具体的な態様についての限定はなく,「不適切な入力項目」が過去の治療履歴と比較した際にありえるはずのない「治療部位に対する治療情報」を意味するとの限定や,過去の治療履歴と対比して論理的矛盾をエラーとして検出するとの限定もない。かえって,訂正明細書(甲5)の発明の詳細な説明には,「このエラー一覧表表示画面の例を図12に示す。図12の例は・・・歯に対して行われた治療に対して病名の入力が行われていない状態を示しており」(段落【0076】)と,【図12】(甲2の15頁と同じ)の「エラー一覧」(平成7年10月診療分)には,「抜髄を算定して,Pulの病名がない」,「根治を算定して,Pul・Perなどの病名がない」等と記載されており,エラー一覧表示の例として,過去の治療履歴と比較した際にあり得るはずのない「治療部位に対する治療情報」のようなロジカルエラーとはいえない単なる入力ミスの例も示されている。 ウ 原告は,引用刊行物(甲3)には過去の治療履歴と対比して検出する旨の開示及び示唆は存在しないと主張するが,引用刊行物には,「1-2 病名,処置登録」(24頁1行目)との記載,「入力済みの病名・処置内容の間違いをチェックします。1.病名,処置名入力後,(vf・3)(判決注;以下,枠記号の代用として丸括弧を用いる。)を押すと画面下に間違って入力した内容が一覧表に表示されます。」(29頁末行〜30頁2行目)との記載があり,引用刊行物においても,病名・処置を登録し,病名・処置内容の間違いをチェックし,その内容を表示するものであり,このチェックは登録内容に基づいて行われるものと認められる。また,原告は,引用刊行物に一括変換する旨の開示及び示唆は存在しないとも主張するが,本件決定は,「訂正明細書の請求項1に係る発明が,「対応する部位に対する過去の対応する全ての入力に対して一括変換」するのに対し,上記刊行物記載の発明はそのような対応がなされていない点(以下,「相違点b」という。),で相違する」(決定6頁第1段落)とし,この点を相違点として認定しているところである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 エ 以上検討したところによれば,本件決定の一致点の認定に原告主張の誤りがあるということはできない。 (2) 原告の主張(イ)(相違点aについての判断の誤り)につき ア 原告は,訂正発明1が処置情報が適切な処置情報入力であるか否かを登録された過去の内容との比較で判断し(すなわち,ロジカルなエラー判断を行い),過去と現在の対比から矛盾のあるエラーを訂正することができ,また,処置に先立って処置部位を入力する処置部位入力手段を本発明の要素に取り込むことは,訂正発明1の技術的思想の開示があって初めてなし得ることであるなどとして,本件決定の相違点aについての判断が誤りであると主張する。 イ しかし,訂正発明1がロジカルなエラー判断を行うものに特定されないことは上記(1)イのとおりである。 また,本件決定の認定した相違点aは,上記のとおり,訂正明細書(甲5添付)の【請求項1】における「治療時に処置を行なう」処置部位を入力する点であり,「治療時に」という記載はされているが,処置に先立って処置部位を入力すると認定したものではない。訂正発明1が処置に先立って処置部位を入力するものであるとしても,入力が不適切か否かの判別をどの時点で行うかは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が任意に選定し得る事項というべきであり,その効果も,予測し得る程度のものであって,格別のものということはできない。 したがって,本件決定の相違点aについての判断に原告主張の誤りがあるということはできない。 (3) 原告の主張(ウ)(相違点bについての判断の誤り)につき ア 原告は,本件決定が,相違点bについて,当業者であれば容易に推考し得る程度のことにすぎず,訂正発明1の奏する効果は,引用発明から当業者が予測し得る範囲のものであるとして想到容易とした判断は誤りであるとし,その理由として,訂正発明1では,ユーザーに対し新規入力が過去の入力との関連で論理的矛盾を生じる旨が警告された場合に,ユーザーは新規入力に対応するような過去の入力の訂正を指示し,又は過去の入力に対応するように新規入力を訂正するように指示することが可能であり,そのような過程を経た上で一括変換が行われるのに対し,引用発明では,過去の入力を訂正するには,ユーザーが対応箇所を探し出し,それが誤りであるかどうかを判断していかなければならず,対応箇所が複数の場合はそれらをすべて探し出し,それぞれを訂正しなければならず,このような作業の必要がない訂正発明1によってユーザーの労力は大幅に軽減され,その効果は顕著であると主張する。 イ しかし,引用刊行物においても,病名・処置を登録し,病名・処置内容の間違いをチェックし,その内容を表示するものであり,このチェックは登録内容,すなわち過去の入力に基づいて行われるものであることは上記(1)ウのとおりである。また,情報処理装置において,誤った情報(入力データ)を一括変換処理することは,情報処理技術分野における技術常識というべきであり,このような情報処理技術分野における技術常識を,同じ分野に属する引用発明に適用することは,当業者が容易に想到し得るものと認められる。原告主張の訂正発明1の効果も,「一括変換」自体が有している効果にすぎないものというべきであり,格別のものということはできない。 したがって,本件決定の相違点bについての判断に原告主張の誤りがあるということはできない。 3 取消事由2(訂正発明2ないし6と引用発明との対比判断の誤り)について (1) 原告は,訂正発明2,3は訂正発明1に従属する発明であり,訂正発明1が引用発明に対し特許性を有する以上,従属する訂正発明2,3も引用発明によって特許性が否定されることはないと主張するが,訂正発明1の進歩性が否定されることは上記2のとおりであり,同発明が進歩性を有することを前提とした上記原告の主張は失当である。 (2) また,原告は,訂正発明3は,エラーの一覧表示と,いずれかが正しく,いずれかが間違っていることが判断できる選択項目の入力画面を並列に表示するという特有の構成を有すると主張する。 しかし,引用刊行物(甲3)の「1-2 病名,処置登録 ・・・「病名,処置登録」画面が表示されます」(24頁1行目〜3行目),「C部位・病名・処置入力欄 ・画面左側は部位・病名入力欄,画面右側は処置入力欄になります」(24頁下12行目〜下11行目),「(vf・3):チェック機能 入力済みの病名・処置内容の間違いをチェックします。〈操作〉1.病名,処置名入力後,(vf・3)を押すと画面下に間違って入力した内容が一覧表に表示されます」(29頁下2行目〜30頁3行目)との記載によれば,引用刊行物においても,部位・病名入力欄及び処置入力欄を有する「病名,処置登録」画面の下に間違って入力した内容の一覧表が並列に表示されると認めることができるから,エラーの一覧表示と,いずれかが正しく,いずれかが間違っていることが判断できる選択項目の入力画面を並列に表示することは,訂正発明3に特有の構成ということはできない。一般に,関連する情報画面をディスプレー上に並列表示することにより入力項目の状態を把握し得るようにすることは,情報処理技術分野における常とう手段であるとともに,エラーチェックをいかなる時点で実施するかは,同じ構造を有する歯科情報処理装置であっても,その使用目的に応じて任意に選定し得る事項である。そして,不適当な治療行為を事前に防止できるという効果は,エラーチェックを歯科治療に先立って行うことにより当業者が当然予測し得る程度のものにすぎない。 (3) さらに,原告は,引用発明に対して訂正発明1ないし3が特許性を有するから,これらを方法の発明として記載した訂正発明4ないし6についての本件決定の上記判断は明らかに誤りであると主張する。しかし,訂正発明1ないし3の進歩性が否定されることは上記のとおりであるから,それらの発明を方法の発明としてとらえた訂正発明4ないし6も,その進歩性を認めることはできない。 (4) したがって,本件決定の訂正発明2ないし6と引用発明との対比判断に原告主張の誤りがあるということはできない。 4 結論 以上検討したところによれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 上田卓哉 |