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関連審決 異議2000-73341
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  加工 /  設定登録 /  混同 /  請求の範囲 /  取消決定 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 198号 特許取消決定取消請求事件
原告 富士写真フイルム株式会社
訴訟代理人弁理士 牛久健司
同 井上 正
同 高城貞晶
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 山本章裕
同 田口英雄
同 小林信雄
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/02/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が異議2000−73341号事件について平成13年3月21日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「ディジタル電子スチル・カメラ」とする特許第3015183号発明(平成3年12月16日特許出願、平成11年12月17日設定登録
以下「本件発明」という。)の特許権者である。
平成12年9月6日、上記特許につき特許異議の申立てがされ、異議2000-73341号事件として特許庁に係属したところ、原告は、平成13年1月16日に明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載を訂正する旨の訂正請求をした。
特許庁は、同特許異議の申立てにつき審理した上、同年3月21日、「訂正を認める。特許第3015183号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は同年4月9日原告に送達された。
2 上記訂正後の明細書の特許請求の範囲に記載された本件発明の要旨 【請求項1】カメラに設けられた第1のコネクタに接続された記録媒体から圧縮画像データを読取りデータ伸張を施す伸張手段、および 上記伸張手段によって伸張された画像データを再生する再生処理手段、
を備えたディジタル電子スチル・カメラにおいて、
外部装置を接続するためのカメラに設けられた第2のコネクタを通して外部装置から送信される圧縮画像データを受信する受信手段、および 上記受信手段によって受信された圧縮画像データを上記伸張手段によりデータ伸張するようにカメラを制御する制御手段、
を備えたディジタル電子スチル・カメラ。
【請求項2】上記伸張手段によってデータ伸張された画像データを記憶するメモリ、および 上記メモリに記憶されている画像データを上記第2のコネクタを通して外部装置に送信する送信手段、
をさらに備えた請求項1に記載のディジタル電子スチル・カメラ。
(以下、請求項1又は2のいずれかに記載の発明のみをいうときは、「本件発明1」又は「本件発明2」という。) 3 本件決定の理由 本件決定は、別添「異議の決定(訂正)」(本件決定謄本の明らかな誤記を訂正したもの。以下、この誤記訂正後のものを「本件決定写し」として引用する。)記載のとおり、上記訂正請求に係る訂正を認め、本件発明の要旨を上記2記載のとおり認定した上、本件発明は、本件出願の日前の他の特許出願であって、その特許出願後に公開された特願平3-125269号(特開平4-328965号〔本訴甲第4号証〕)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下「先願明細書」という。)記載の発明と同一であり、また、本件発明の発明者は先願明細書記載の発明の発明者と同一の者でなく、かつ、本件出願の出願時の出願人は先願明細書に係る出願の出願人と同一の者でないから、その特許は特許法29条の2の規定に違反してされたものであり、同法113条1項2号に該当し、取り消されるべきものとした。
原告主張の本件決定取消事由
本件決定の理由中、訂正の適否についての判断(本件決定写し1頁23行目〜3頁23行目)、先願明細書には「カメラに設けられた第1のコネクタに接続された記録媒体から圧縮画像データを読取りデータ伸張を施す伸張手段、および上記伸張手段によって伸張された画像データを再生する再生処理手段、を備えたディジタル電子スチル・カメラ」の構成が記載されているとの認定(同5頁17行目〜31行目)、本件発明の発明者は先願明細書記載の発明の発明者と同一の者でなく、
かつ、本件出願の出願時の出願人は先願明細書に係る出願の出願人と同一の者でないとの認定(同7頁16行目〜18行目)は認める。
本件決定は、本件発明1、2に共通する構成及び本件発明2の構成にそれぞれ対応する先願明細書の記載内容の認定を誤った結果、本件発明と先願明細書記載の発明との同一性の判断を誤った(取消事由1、2)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明と先願明細書記載の発明との同一性の判断の誤り) (1) 本件決定は、先願明細書(甲第4号証)及びその記載の発明について、
「データの内容は“圧縮後の画像データや伸張後の画像データ”の記載があり、当該画像データは圧縮/伸張回路8を介した接受データ以外にないものであるから、
外部機器はシステム制御回路13⇔カードインタフェース回路11とは外部機器インタフェース部を介して、外部機器との間で自由にデータの接受が可能の構成のものであると理解できる。そして、このように理解することを否定する記載はない。
したがって、ここには、『外部装置を接続するためのカメラに設けられた第2のコネクタを通して外部装置から送信される圧縮画像データを受信する受信手段、および上記受信手段によって受信された圧縮画像データを上記伸張手段によりデータ伸張するようにカメラを制御する制御手段』の構成がある」(本件決定写し6頁3行目〜14行目)と認定するが、誤りである。
(2) 先願明細書には、外部機器インタフェース部15が「圧縮後の画像データや伸張後の画像データ」の授受を行う旨の記載があり、他方、圧縮/伸張回路8が撮像により得られた画像データを圧縮し、ICカード12から読み出された画像データを再生するために伸張する旨の記載があるが、外部機器インタフェース部15と圧縮/伸張回路8との関連性については、一切記載されていない。本件決定が、
外部機器インタフェース部15の授受するデータについて、「当該画像データは圧縮/伸張回路8を介した接受データ以外にない」として、外部機器インタフェース部15と圧縮/伸張回路8とを関連づけるのは、先願明細書の記載から離れた独断というべきである。
もっとも、先願明細書には「システム制御回路13」が記載されているが、このシステム制御回路13が本件発明の「制御手段」のように構成されたものであるという記載はない。システム制御回路13が、たとえマイクロプロセッサのようなプログラム可能な装置であったとしても、所定の機能を達成するためには、
その機能を達成するようにプログラムされていることが必要であり、そのプログラムは、アルゴリズム、すなわちどのような制御を実行するかという技術的思想に基づいて作成される。技術的思想の存在しないところに、いかなるプログラムも存在し得ない。
先願明細書記載の電子スチルカメラの動作は、記録モード、再生モード及びコピーモードの三つの形態であるから、システム制御回路13は、これら三つの形態が実現されるように、スイッチ5、7及び10、符号化制御回路9、カードインタフェース回路11等を含め、カメラ全体の動作を制御するものであって、圧縮/伸張回路8による画像データの伸張処理は上記再生モードで行われるだけである。したがって、先願明細書には、外部機器から入力された画像データを圧縮/伸張回路8によりデータ伸張するようにカメラを制御する旨の記載はなく、また、外部機器から入力された画像データを圧縮/伸張回路8によりデータ伸張するようにカメラを制御する場合に、スイッチ5、スイッチ7及びスイッチ10がどのような設定状態になるのか、画像データの流れがどのようになるのかといった記載もない。
結局、外部機器から入力された画像データを圧縮/伸張回路8によりデータ伸張するようにカメラを制御するという動作は、先願明細書の記載を超えたものである。
(3) 被告は、本件決定の認定を支持する論拠として、先願明細書の図1において、カードインタフェース回路11とシステム制御回路13との間及びシステム制御回路13と外部機器インタフェース部15の間の接続関係を示す線が、それぞれ両端矢印の線で記載されていることを挙げるが、同図においては、画像データや画像信号の経路を示す線のすべてに矢印は表されておらず、むしろ、被告の指摘する矢印は制御線ではないかと思われるものである。
2 取消事由2(本件発明2と先願明細書記載の発明との同一性の判断の誤り) (1) 本件決定は、先願明細書記載の発明について、「RAM6には圧縮/伸張回路で伸張された画像データが記録され、またこの画像データはスイッチ7⇔スイッチ10間のバイパス回路を介してカードインタフェース回路11に出力できるものであって、当然ながら、該インタフェースの画像データは外部機器インタフェース部15(本件発明での「第2のコネクタ」に相当する)を介して外部装置に送信できるものである。したがって、ここには本件発明2に記載の『上記伸張手段によってデータ伸張された画像データを記憶するメモリ、および上記メモリに記憶されている画像データを上記第2のコネクタを通して外部装置に送信する送信手段』の構成がある」(本件決定写し6頁25行目〜35行目)と認定するが、誤りである。
(2) まず、先願明細書記載の発明において、再生モードとコピーモードとは全く別の動作であるところ、上記認定中、RAM6に記録された伸張後の画像データが「スイッチ7⇔スイッチ10間のバイパス回路を介してカードインタフェース回路11に出力できる」との点は、これらの二つのモードを混同しており、明らかに誤りである。本件発明2の特徴は、メモリに記憶されている画像データ(伸張手段によってデータ伸張された画像データ)を第2のコネクタを通して外部装置に送信する送信手段を備えている点にあり、この技術的思想は先願明細書に開示されていない。
また、本件発明2は、請求項1の従属項に係るものであるから、メモリに記憶される画像データは、外部装置から送信された圧縮画像データをデータ伸張した画像データである。ところが、先願明細書に、圧縮/伸張回路8と外部機器インタフェース部15との関連性について一切言及されていないことは前述のとおりであるから、先願明細書記載の発明において、RAM6に記録されている伸張後の画像データが、外部機器インタフェース部15を介して外部機器に送信されていると理解すべき理由はなく、この点からも、先願明細書に本件発明2の構成が記載されていないことは明らかである。
(3) 被告は、先願明細書記載の発明においては、必要に応じてスイッチ7、10等が適宜切り替えられ動作すると解される旨主張するが、システム制御回路13は、あらかじめ定められたように、スイッチ5、7、10を含むカメラ全体の動作を制御しているのであって、これらのスイッチのみが適宜切り替えられるものではない。
被告の反論
本件決定の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(本件発明と先願明細書記載の発明との同一性の判断の誤り)について 原告は、先願明細書には、外部機器インタフェース部15と圧縮/伸張回路8との関連性についての記載及び外部機器から入力された画像データを圧縮/伸張回路8によりデータ伸張するようにカメラを制御する旨の記載はない旨主張する。
しかし、先願明細書(甲第4号証)には、「外部機器インタフェース部15は、システム制御回路13を介してパソコン等の外部機器に対するデータの入出力を行うもので、圧縮後の画像データや伸張後の画像データ等のデータの授受が行われ」るとの記載(4欄4行目〜9行目)があり、外部機器インタフェース部15が外部機器から接受するデータは「圧縮後の画像データや伸張後の画像データ」であるとされている。そして、画像データの圧縮は、画像の記録や伝送を行う際に、記録媒体の有効利用を可能にし、伝送時間の短縮が図れることから広く行われてきた技術であり、他方、画像の再生表示や加工等の処理を行う場合には、圧縮されたままのデータではこれらの処理を行うことができないため、これを伸張した後に処理をすることは技術常識として知られており、いずれも実際に広く行われている技術事項である(特開平3-272289号公報、乙第1号証参照)。そうすると、先願明細書記載の電子スチルカメラにおいても、外部機器から接受される圧縮後のデータは、装置内で再生等の処理を行うため、圧縮/伸張回路8による伸張処理がされるものと理解される。
このことは、先願明細書の図1において、カードインタフェース回路11とシステム制御回路13との間及びシステム制御回路13と外部機器インタフェース部15の間の接続関係を示す線が、それぞれ両端矢印の線で記載されていることからも明らかである。
したがって、先願明細書に明示の記載はないものの、上記の技術常識を考慮すれば、外部機器インタフェース部15と圧縮/伸張回路8との関連性を理解することができ、「受信手段によって受信された圧縮画像データを上記伸張手段によりデータ伸張するようにカメラを制御する制御手段」に相当する構成は、実質的に先願明細書に記載されているということができる。
2 取消事由2(本件発明2と先願明細書記載の発明との同一性の判断の誤り)について 原告は、本件決定の認定は、再生モードとコピーモードを混同した誤りがある旨主張するが、先願明細書(甲第4号証)には、「コピーモード」についての記載はあるものの、再生に関しては、「ICカード12に記録された画像を再生する場合は、スイッチ7と10は、記録時と同じ状態に設定され・・・ICカード12からカードインタフェース回路11を介して読み出された画像データは・・・ディスプレイに映像信号として出力される」(4欄10行目〜23行目)との動作の一例を示す記載があるにすぎず、モードとしての概念を提示しているものではない。
先願明細書記載の発明は、必要に応じてスイッチ7、10等が適宜切り替えられ動作すると解されるものであって、本件決定に原告の主張する誤りはない。
また、原告は、先願明細書には、メモリに記憶されている画像データ(伸張手段によってデータ伸張された画像データ)を第2のコネクタを通して外部装置に送信する送信手段を備えるという本件発明2の技術的思想が開示されていない旨主張するが、先願明細書記載の発明において、外部機器インタフェース部15により外部機器との間で授受されるデータは「圧縮後の画像データや伸張後の画像データ等」(甲第4号証4欄4行目〜8行目)とされているから、外部機器インタフェース部15から外部機器へ、伸張後の画像データが送信されることが分かる。一方、
先願明細書の「圧縮/伸張回路8で上述圧縮処理とは逆の処理である伸張処理が施された後、スイッチを介して、RAM6に記録される」(同4欄15行目〜17行目)との記載によれば、先願明細書記載の発明において、伸張後の画像データはRAM6に記録されていることが明らかであるから、RAM6に記録されている伸張後の画像データを外部機器インタフェース部15を介して外部機器に送信していると解さなければならない。したがって、明示の記載はないものの、技術常識を考慮すれば、「伸張手段によってデータ伸張された画像データを記憶するメモリに記憶されている画像データを第2のコネクタを通して外部装置に送信する構成」は先願明細書に実質的に記載されているというべきである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明と先願明細書記載の発明との同一性の判断の誤り)について (1) 原告は、先願明細書には、外部機器インタフェース部15と圧縮/伸張回路8との関連性についての記載及び外部機器から入力された画像データを圧縮/伸張回路8によりデータ伸張するようにカメラを制御する構成の記載はない旨主張するのに対し、被告は、先願明細書に明示の記載はないものの、技術常識等を考慮すれば、上記関連性を理解することができ、実質的には当該構成が記載されているということができる旨主張するので、以下判断する。
(2) まず、先願明細書(甲第4号証)は、圧縮/伸張回路8に関し、「合焦制御されたレンズ1を介してCCD2に結像された被写体像は・・・圧縮/伸張回路8で圧縮され・・・ICカード12に例えばDOSフォーマットで記録される」(3欄25行目〜48行目)、「ICカード12に記録された画像を再生する場合は・・・圧縮/伸張回路8で・・・伸張処理が施された後・・・ディスプレイに映像として出力される」(4欄10行目〜23行目)と記載し、CCDに結像した被写体像の記録及びICカードに記録された画像の再生という特定の動作を行う場合における画像データの圧縮及び伸張処理を説明するにとどまり、外部機器インタフェース部15との関連性や、「外部機器から受信された圧縮画像データ」を伸張するようにカメラを制御する構成については、何らの明示的な記載はなく、このこと自体は被告も自認するところである。
(3) そこで、進んで、被告の主張する技術常識等を踏まえて、上記関連性が理解され、上記各構成が先願明細書に実質的に記載されているといえるか検討する。
ア 被告は、まず、先願明細書(甲第4号証)が、外部機器とのデータの授受に関し、「外部機器インタフェース部15は、システム制御回路13を介してパソコン等の外部機器に対するデータの入出力を行うもので、圧縮後の画像データや伸張後の画像データ等のデータの授受が行われ」ると記載(4欄4行目〜9行目)していることを根拠として、外部機器インタフェース部15が外部機器から圧縮後の画像データを接受するとされている旨主張する。しかし、一般に、「データの入出力」、「データの授受」との用語は、必ずしも双方向でのデータのやりとりを意味するとは限らず、一方通行でのデータの伝送であっても、一方でデータを入力し他方から出力することを「データの入出力」といい、一方からデータを送信し他方でこれを受信することを「データの授受」と表現することも、本件の当業者にとって通常の用語法であって、上記記載から、先願明細書記載の発明が、外部装置から送信される圧縮画像データを受信する受信手段の構成を備えるものと判断することはできない。かえって、先願明細書(甲第4号証)には、「本発明の目的は、記録媒体に記録されている画像データのコピー、転送処理を高効率且つ高品質で行えるようにした情報処理装置を提供することにある」(2欄45行目〜48行目)、
「本発明による情報処理装置では、記録媒体内の圧縮されたデータとしての記録内容をコピー、転送する際に、記録媒体から読み出したデータを伸張処理せず、圧縮データのまま転送しているので、高効率且つ高品質でのコピー、転送処理が可能となる」(5欄25行目〜6欄3行目)との目的及び効果の記載が認められるところ、このような目的及び効果からすると、先願明細書記載の発明、特にその特許請求に係るものにおいては、カメラ内の記憶媒体内のデータを外部機器に転送するという方向でのデータのやりとりが意図されていることは明らかであって、外部装置から送信される圧縮画像データを受信する受信手段を有しデータを双方向に伝送する構成が当然予定されていると見ることはできない。しかも、電子スチルカメラにおいて、カメラ本体からパソコン等の外部機器に圧縮された画像データを伝送するという技術は、後記のとおり周知慣用のものにすぎないが、これと逆に、外部機器から画像データをカメラ本体に取り込んだ上、これを再生処理するという使用形態が、先願明細書に係る特許出願当時、慣用的に行われていたと認めるに足りる証拠もない。
そうすると、先願明細書の上記記載は、外部装置から送信される圧縮画像データを受信する受信手段の構成を示すものということはできず、したがって、
当該受信手段によって外部機器から入力された画像データを圧縮/伸張回路8によりデータ伸張するようにカメラを制御する構成を示唆するものともいえない。
イ 次に、被告は、画像の記録や伝送時には画像データを圧縮し、再生表示や加工時には圧縮されたデータを伸張する処理は技術常識である旨主張する。確かに、画像データの記録や、カメラからパソコン等の外部機器へのデータ送信は圧縮データで行い、再生表示等する場合に当該圧縮画像データを伸張する処理を行うという技術は、被告の提出する特開平3-272289号公報(乙第1号証)によるまでもなく、先願明細書にも示されているところであり、このような技術常識を踏まえてその記載を検討すべきことは当然である。しかし、前述のとおり、先願明細書には、外部機器から画像データをカメラ本体に取り込むという方向でのデータの授受が記載されているとの前提は認められず、また、カメラ本体の再生処理手段によって当該データを再生処理するという動作が予定されていることを示す何らの記載もない以上、当該動作を前提として上記技術常識参酌べきであるとする被告の主張は失当である。
ウ さらに、被告は、外部機器から入力された画像データを圧縮/伸張回路8によりデータ伸張するようにカメラを制御する構成が先願明細書に実質的に記載されていることを示す論拠として、先願明細書の図1において、カードインタフェース回路11とシステム制御回路13の間及びシステム制御回路13と外部機器インタフェース部15の間の接続関係を示す線がカードインタフェース回路11とメモリカード12間の接続関係を示す線と同じ両端矢印の線で記載されていることを挙げる。なお、この点は、本件決定において、「外部機器はシステム制御回路13⇔カードインタフェース回路11とは外部機器インタフェース部を介して、外部機器との間で自由にデータの接受が可能の構成のものであると理解できる。そして、
このように理解することを否定する記載はない」(本件決定写し6頁5行目〜8行目)と認定判断しているところである。
しかし、先願明細書の図1においては、矢印の付された線と付されていない線が混在しているところ、例えば、スイッチ5、7とRAM6の間、スイッチ10とカードインタフェース回路11の間など、明らかにデータの経路として予定されている経路についても矢印は付されておらず、被告の主張する上記両端矢印の線がいかなる意味を示すものとして図示されているかを説明する記載もない。さらに、カードインタフェース回路11の機能に着目しても、外部機器から自由にデータの接受が可能であるとの記載はなく、かえって、システム制御回路13には、スイッチ7等のカードインタフェース回路11以外のものに向かう線も記載されており、システム制御回路13における制御の態様は何ら明らかにされていない。
そうすると、上記図1の矢印に一貫した技術的意義が認められない以上、カードインタフェース回路11は外部機器から自由にデータの接受が可能であり、パソコン等の外部機器に対するデータの入出力が常にカードインタフェース回路11を介して行われるということはできず、上記図1に示された多数の線のうちから、被告の主張に係る両端矢印の線だけを取り上げて、「外部機器インタフェース部15→システム制御回路13→カードインタフェース回路11」というデータの流れを一義的に読み取ることはできない。
(4) 以上の認定判断によれば、先願明細書の記載及び図示から、被告の主張するような外部機器インタフェース部15と圧縮/伸張回路8との関連性を理解することはできず、本件発明の構成中、「外部装置を接続するためのカメラに設けられた第2のコネクタを通して外部装置から受信される圧縮画像データを受信する受信手段、および上記受信手段によって受信された圧縮画像データを上記伸張手段によりデータ伸張するようにカメラを制御する制御手段」の構成については、先願明細書に、明示的な記載がないことはもとより、実質的な開示があるということもできない。したがって、先願明細書に当該構成の記載があるとの誤った認定に基づいて、本件発明と先願明細書記載の発明とは同一であるとした本件決定の判断もまた誤りというべきである。
2 以上のとおり、原告主張の取消事由1は理由があり、この誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件決定は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利