関連審決 | 審判1999-12062 |
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関連ワード | 発明者 / アクセス / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 出願公開 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 業として / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
38号
審決取消請求事件
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原告 九頭龍企画株式会社 訴訟代理人弁護士 木村圭二郎、山内玲、弁理士 柳野隆生 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 佐藤秀一、山本春樹、小林信雄、茂木静代 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/02/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年審判第12062号事件について平成12年11月2日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成7年4月11日名称を「通信ネットワーク構造及びそれを基礎とした通信ネットワークシステム並びにその通信方法」とする発明について特許出願(平成7年特許願第85028号)をしたが、平成11年5月24日拒絶査定があったので、同年7月22日審判を請求し、平成11年審判第12062号事件として審理されたが、平成12年11月2日、本件審判の請求は成り立たないとの審決があり、その謄本は平成13年1月10日原告に送達された。 2 本願発明(請求項1記載の発明)の要旨 相互間が双方向の通信手段で結ばれた複数のユーザー局と、これらユーザー局と双方向の通信手段で結ばれた少なくとも1局以上のホスト局とより構成され、各ユーザー局が当該通信ネットワークを通じて他のユーザーに伝えたい自分の意識の要約としての意識情報並びに各ユーザー局同士が相手局を直接又は間接的に選択して相手局とホスト局を経由することなく直接交信するために必要となる通信接続情報とを登録したデータベースをホスト局に構築するとともに、各ユーザー局にはホスト局を経由することなくユーザー局相互間の直接交信により授受する知識情報を蓄積してなる通信ネットワーク構造。 3 審決の理由の要点 (1) 引用例 原査定の拒絶理由に引用された特開平5-63696号公報(平成5年3月12日出願公開。引用例)には、 「本発明は、データベースを利用して、相互に相手を知らない両者を仲介する機能を有する仲介通信方式に関するものである。」(2頁左欄41行ないし43行)、 「従来より、リサイクルに関して提供側と要求側、結婚に関して男性と女性、職業に関して求職側と求人側等の相互の出会いを仲介する業者があった。【0003】しかし、人手を介するため、コストが高く結果として料金が高くなり、また、取扱業者に個人情報が知れる等の問題があり、手軽に利用できなかった。【0004】また通信網を利用してデータベースをアクセスする形態も考えられている。・・・従来の通信網を利用してデータベースをアクセスする形態は、顧客管理が面倒であるとともに信用の問題などで中小業者がサービスを提供することは容易ではなかった。 【0006】本発明の目的は、従来の問題点を解決し、低コストで手軽に利用できる仲介通信方式を提供することにある。」(2頁左欄45行ないし右欄10行)、 「本発明は上記目的を達成するため、通信網を介して情報を蓄積および検索するデータベースと、該当データベースにより相互に相手を知らない両者を仲介する通信方式において、複数の種類の仲介業種に共通の情報を扱う共通センタと、個別の仲介業種ごとの情報を扱う仲介システム個別センタと、顧客、共通センタおよび仲介システム個別センタの相互間での通信手段を提供する通信網を有し、同一顧客の情報を、前記共通センタが保有する第1のデータベースと、前記仲介システム個別センタが保有する第2のデータベースとに分けて蓄積し、前記第2のデータベースの内容により、要求側と提供側の情報を照合し、両者の条件が一致したとき前記第1のデータベースの内容にもとづき、要求側と提供側の相互通信を行う手段を備えてなることを特徴とする。」(2頁右欄18行ないし32行)、 「図1は本発明の第1の実施例を説明する図であって、1は通信網、2は共通センタ、3は結婚仲介センダ、4はリサイクル仲介センタ、5は職業仲介センタ、6は提供者、7は要求者、8は第1のデータベース、9-1、9-2、9-3はそれぞれ結婚仲介センタ、リサイクル仲介センタ、職業仲介センタが保有する第2のデ-タベースである。【0019】共通センタ2は結婚、リサイクル、職業等各種の仲介に共通の業務を行う。【0020】また、結婚仲介センタ3、リサイクル仲介センタ4、職業仲介センタ5は、デ-夕の蓄積をはじめ、それぞれ個々の仲介に関する業務を行う。【0021】以下、これら3〜5の結婚、リサイクル、職業各仲介センタを総称して個別センタとよぶ。【0022】以下、職業仲介の場合を例にとって説明する。 【0023】この場合、提供者6は求職側が、要求者7は求人側が該当する。【0024】発信者(今の場合は提供者6とする)は仲介通信であることを示す所定の識別子をダイヤルする。【0025】通信網1はこれを受けて共通センタ2に接続する。【0026】発信者の提供者6は共通センタ2からの指示により仲介種別(この場合は職業仲介)を選択する。【0027】共通センタ2は、仲介種別にしたがって、 この呼を職業仲介センタ5に転送し、後の処理を職業仲介センタ5に引き継ぐ。 【0028】職業仲介センタ5では、発信者の提供者6に対して、求職、求人の別を入力するように指示する.【0029】発信者の提供者6はここで、求職側を選択すると、職業仲介センタ5はさらに登録、検索の別を問う。【0030】発信者の提供者6はまず、求めている職種の求人があるかどうかを知りたいので「検索」を選択する。【0031】このあとは職業仲介センタ5の第2のデータベース9-3の情報検索処理にはいる。 【0032】すなわち、職業仲介センタ5は検索に必要な職種、労働条件等の希望を問い合わせながら、第2のデ-夕べ-ス9-3から、これらをキ-ワードとする検索を行う。【0033】該当する求人があった場合には求人側に関する情報を発信者の提供者6に提供するとともに、連絡をとりたいかどうかを聞く。【0034】処理が終了すると、職業仲介センタ5は、連絡をとりたいかどうか、処理内容に応じた料金徴収を行うための情報等を付加して共通センタ2に再度転送する。 【0035】共通センタ2は、発信者の提供者6が該当する求人者と連絡をとりたいとの希望があれば、個別センタからの仮に設定した仮識別子の仮IDにもとづき発信者番号(以下発信者IDと呼ぶ)、氏名等を共通センタ2の第1のデ-夕べ-ス8より検索し、連絡手段(例えば電話番号、会社名等)を通知する。」(第3頁左欄第14行〜右欄第17行)、 「なお、相互に連絡をとる便宜のため、最初の登録時に、通信可能な時間帯や端末の種類をあらかじめ指定しておくこともできる。【0063】また、検索照合の結果にもとづき、提供側あるいは要求側の少なくとも一方が照合結果で参照される相手側との通信要求を発出した場合、自動的に両者の相互接続を行うようにしても良い。【0064】この場合、共通センタまたは個別センタが、接続時刻や端末種別等相互通信が可能な手段を選び、通信網に対して通信要求を行う。【0065】通信網はこれを受けて両者の相互接続を行う。【0066】もちろん、発信者の要求により、そのまま直接相手と接続するようにしてもよい。」(4頁左欄40行ないし右欄3行)との記載がある。 これらの記載によれば、引用例には、「提供者6(求職者)、要求者7(求人者)、共通センタ2、職業仲介センタ5が通信網1で結ばれ、職業仲介センタ5には求職・求人情報を蓄積した第2のデータベース9-3が構築され、共通センタ2には提供者6又は要求者7が共通センタ2及び職業仲介センタ5を経由することなく相手方に直接交信するために必要となる連絡手段(電話番号、会社名等)を登録した第1のデータベース8が構築され、上記第2のデータベースの求職・求人情報により提供者6(求職者)と要求者7(求人者)の情報を照合し、両者の条件が一致したときには上記第1のデータベースの内容にもとづき提供者6(求職者)と要求者7(求人者)の相互通信を行う仲介通信方式。」の発明(以下、「引用例記載の発明」という。)が開示されているものと認められる。 (2) 本願発明と引用例記載の発明との対比 (2)-1 本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、引用例記載の発明の「提供者6(求職者)、要求者7(求人者)」、「共通センタ2、職業仲介センタ5」、「提供者6(求職者)、要求者7(求人者)、共通センタ2、職業仲介センタ5が通信網1で結ばれ」ていること、「求職又は求人情報」、「提供者6又は要求者7が共通センタ2及び職業仲介センタ5を経由することなく相手方に直接交信するために必要となる連絡手段(電話番号)とを登録した第1のデータベース8」、「仲介通信方式」は、それぞれ、本願発明の「ユーザー局」、「1局以上のホスト局」、「相互間が双方向の通信手段で結ばれた複数のユーザー局と、これらユーザー局と双方向の通信手段で結ばれた少なくとも1局以上のホスト局とより構成」、「他のユーザーに伝えたい自分の意識の要約としての意識情報」、「各ユーザー局同士が相手局を直接又は間接的に選択して相手局とホスト局を経由することなく直接交信するために必要となる通信接続情報とを登録したデータベース」、 「通信ネットワーク構造」に相当するから、本願発明と引用例記載の発明とは、以下の点で一致及び相違する。 (2)-2 一致点 「相互間が双方向の通信手段で結ばれた複数のユーザー局と、これらユーザー局と双方向の通信手段で結ばれた少なくとも1局以上のホスト局とより構成され、各ユーザー局が当該通信ネットワークを通じて他のユーザーに伝えたい自分の意識の要約としての意識情報並びに各ユーザー局同士が相手局を直接又は間接的に選択して相手局とホスト局を経由することなく直接交信するために必要となる通信接続情報とを登録したデータベースをホスト局に構築する通信ネットワーク構造。」 (2)-3 相違点 本願発明はユーザー局相互間の直接交信により授受する知識情報を蓄積するのに対して、引用例記載の発明では知識情報を蓄積することについては不明である点。 (3) 審決の判断 上述したように、引用例記載の発明は、第2のデータベースの求職・求人情報により提供者6(求職者)と要求者7(求人者)の情報を照合し、両者の条件が一致したときには第1のデータベースの内容に基づき提供者6と要求者7の相互通信を行うものであることから、引用例記載の発明においても「求職又は求人情報」である意識情報に対する解答、すなわち知識情報は、ユーザー局である提供者及び要求者の相互通信により授受するものと解されるものであり、また、通信によって得た情報を蓄積することは一般によく行われることであるから、ユーザー局相互間の直接交信により授受する知識情報を蓄積することは、当業者であれば格別な困難を要することなく容易に想到し得るものである。 (4) 審決のむすび したがって、本願発明は、引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができない。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(一致点の認定誤り) 審決は、引用例記載の発明と本願発明との対応関係の認定を誤ったものであり、 その結果一致点の認定を誤ったものである。 (1) 引用例記載の発明における「提供者6(求職者),要求者7(求人者)」が、本願発明における「ユーザー局」に相当するとした審決の認定は誤りである。 すなわち、本願発明における「ユーザー局」は、相互間が双方向の通信手段で結ばれ、かつ、ホスト局を経由しない交信により授受する知識情報を蓄積するものであるが、引用例に記載された提供者6と要求者7との間には、両者を直接結ぶ双方向の通信手段が存在しないのみならず、引用例には、交信により授受される知識情報が両者に蓄積されているとの記載もない。 (2) 引用例記載の発明における「共通センタ2,職業仲介センタ5」が、本願発明における「1局以上のホスト局」相当するとした審決の認定は誤りである。 本願発明における「ホスト局」に登録される情報は、知識情報と区別される意識情報と、通信接続情報に限定されるものであるが、引用例記載の発明の「共通センタ2,職業仲介センタ5」に登録される求職、求人情報には、ユーザー局に置かれるべき知識情報の大半が含まれている。 本願明細書には、「本発明者は、従来の通信ネットワーク構造が抱える問題について探求を重ねた結果、従来の通信ネットワークの最大の問題点は、ホスト局に全ての情報が蓄積されていることにあるとの結論にいたった。」(段落【0007】)、 及び「本発明者はこのような通信ネットワーク構造の問題を解消するには、ホストマシンに知識情報を蓄積することは止めて、ホスト局には意識情報のみを登録することとし、一方知識情報はユーザー局に蓄積することとすれば、上記問題は基本的に解消するとの確信を得て本発明にいたった。」(段落【0010】)、との記載を受けて「各ユーザー局が当該通信ネットワークを通じて他のユーザーに伝えたい自分の意識の要約としての意識情報並びに各ユーザー局同士が相手局を直接又は間接的に選択して相手局とホスト局を経由することなく直接交信するために必要となる通信接続情報とを登録したデータベースをホスト局に構築するとともに、各ユーザー局にはホスト局を経由することなくユーザー局相互間の直接交信により授受する知識情報を蓄積してなることを特徴としている。」(段落【0010】)との本願発明の特許請求の範囲に相当する記載がある。 してみると、本願発明の特許請求の範囲が「意識情報」、「通信接続情報」以外の情報の登録を排除することは明らかであるから、「個人の秘密」、「プライバシーに関わる部分」、「仲介内容情報」、「個人情報」、「職種、労働条件」、「求人側に関する情報」、「氏名等」、「連絡手段(例えば電話番号、会社名等)」等の「意識情報」に相当するといえない情報が蓄積されている「共通センタ2,職業仲介センタ5」(引用例記載の発明)は、「1局以上のホスト局」(本願発明)に相当しない。そもそも、引用例記載の発明には、一定の目的に従い、意識情報と知識情報とを区別する示唆、及び動機付けは一切うかがえない。 (3) 引用例記載の発明における「提供者6(求職者),要求者7(求人者)共通センタ2、職業仲介センタ5が通信網1で結ばれ」が、本願発明における「相互間が双方向の通信手段で結ばれた複数のユーザー局と、これらユーザー局と双方向の通信手段で結ばれた少なくとも1局以上のホスト局とより構成」に相当するとした審決の認定は誤りである。 審決が、本願発明における「ユーザー局」及び「ホスト局」に対応する引用例記載の発明の構成としてそれぞれ「提供者6(求職者),要求者7(求人者)」、 「共通センタ2,職業仲介センタ5」と認定したのは誤りであることは前記のとおりであって、上記認定はその前提において既に誤りである。 (4) 引用例記載の発明における「求職又は求人情報」が、本願発明における「他のユーザーに伝えたい自分の意識の要約としての意識情報」に相当するとした審決の認定は誤りである。 提供者6及び要求者7とをより良く仲介するという引用例記載の発明の性質上、 当該照合の基礎となる情報をより詳細にすることに何の不都合もなく、むしろ、そこでの情報をより詳細にする方が仲介業としての目的にかなうことになる。すると、そこで蓄積される情報は、本願発明における知識情報に相当することを意味する。 このように、引用例記載の「求職又は求人情報」は、本願発明の知識情報に相当するから、「求職又は求人情報」を「他のユーザーに伝えたい自分の意識の要約としての意識情報」に相当するとした審決の認定、判断は誤りである。 (5) 引用例記載の発明における「提供者6又は要求者7が共通センタ2及び職業仲介センタ5を経由することなく相手側に直接交信するために必要となる連絡手段(電話番号)とを登録した第1のデータベース8」が、本願発明における「各ユーザー局同士が相手局を直接又は間接的に選択して相手局とホスト局を経由することなく直接交信するために必要となる通信接続情報とを登録したデータベース」に相当するとした審決の認定は誤りである。 引用例の段落【0035】には「共通センタ2は、発信者の提供者6が該当する求人者と連絡をとりたいとの希望があれば、個別センタからの仮に設定した仮識別子の仮IDにともづき発信者番号(以下発信者IDと呼ぶ)、氏名等を共通センタ2の第1のデータベース8より検索し、連絡手段(例えば電話番号、会社名等)を通知する。」と記載されているように、通信ネットワークは連絡手段の通知により終了しており、発信者の提供者6が、その後直接求人者を来訪するのか、手紙を書くのか、電話をかけるのかはおよそネットワークシステムの対象外の事項になっている。 ここで段落【0063】の記載、すなわち、「また、検索照合の結果にもとづき、提供者側の少なくとも一方が照合結果で参照される相手側との通信要求を発出した場合、自動的に両者の相互接続を行うようにしても良い。」との記載を参照すると、 自動的な相互接続の過程は、発信者の提供者6が共通センタ2の第1のデータベース8と通信継続している過程(【0035】)を前提として成立しているのであり、その場合、既に確立されているホスト局との接続を遮断することは不自然である。さらに、段落【0064】、【0065】、【0066】の記載、すなわち、「この場合、共通センタまたは個別センタが接続時刻や端末種別等相互通信が可能な手段を選び、通信網に対して通信要求を行う。」、「通信網はこれを受けて両者の相互接続を行う。」、及び「発信者の要求によりそのまま直接相手と接続するようにしてもよい」との記載から明らかなとおり、提供者側と要求者側との相互接続は、いずれも共通センタ又は個別センタからの通信要求と検索照合の結果によるものであり、両者の相互接続にはホスト局に対応付けされている共通センタ又は個別センタが常に関与している。 2 取消事由2(相違点の看過) 本願発明においては、ホスト局に、意識情報と区別される意味での「知識情報」が蓄積されていないことは前記のとおりである。 一方、引用例記載の発明では、「意識情報」と「知識情報」とに区別する点、及び「知識情報」をホスト局を経由することなくユーザー局相互間の直接交信により授受する点は、いずれも引用例には開示されていない。 したがって、単に知識情報を蓄積する点のみを相違点とした審決は誤りである。 3 取消事由3(相違点(知識情報を蓄積する)の判断誤り) 審決は、本願発明の請求項1の「蓄積してなる」構成を「通信によって得た情報を蓄積すること」と対比してその進歩性を否定しているが、この判断は誤りである。 すなわち、本願発明の請求項1は、通信ネットワーク構造において授受される情報につき、意識情報はホスト局のデータベースに登録され、他方、意識情報と区別される知識情報はユーザー局に蓄積されるとして、ネットワーク上における各情報の所在を規定したものであって、これは通信ネットワーク構造の構成を表しているものである。 これに対して、審決の判断理由である「通信によって得た情報を蓄積すること」は、通信ネットワーク構造外において、通信ネットワークから得られた情報をどのように処理するかという単なる作用に関する叙述にすぎず、このことと本願発明の請求項1の「蓄積してなる」という点を対比し、本願発明の進歩性を否定することはできない。 |
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審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1(一致点の認定誤り)に対して (1) 取消事由1の(1)の主張に対して 審決は、引用例の「提供者6(求職者)、要求者7(求人者)」との文言が、本願発明の「ユーザー局」との文言に相当すると認定したものであって、ホスト局を経由しない交信により授受する知識情報を蓄積するものであることまでを含めて認定したものでない。 (2) 取消事由1の(2)の主張に対して 本願発明の「意識情報」及び「知識情報」とは、請求項1の記載から、それぞれ「各ユーザーが当該ネットワークを通じて他のユーザーに伝えたい自分の意識の要約としての情報」及び「ホスト局を経由することなくユーザー局相互間の直接交信により授受する情報」となる。 一方、引用例には、職業仲介センタに「職種、労働条件などの希望」が第2のデータベースとして蓄積される旨記載されている(【0030】〜【0033】)。当該「職種、労働条件などの希望」とは、要求者7(求人者)が人材が欲しい、提供者6(求職者)が就職先はないかというものであるから、本願発明の意識情報に相当するものである。 また、職業仲介センタ5への検索により要求者7(求人者)と提供者6(求職者)の条件が一致したときには、提供者6(求職者)と要求者7(求人者)とが、 通信網によって相互接続され、相互の通信が行われることが記載されている(【0011】、【0063】〜【0065】)ことから、両者の間で当然、具体的な仕事の内容、具体的な労働条件をなどの詳細な情報(本願発明における知識情報)をホスト局を経由することなく直接交信するものと考えられる。 してみると、引用例記載の発明の共通センタ、職業仲介センタに登録される求職又は求人情報には、ユーザー局に置かれるべき知識情報の大半が含まれているとする原告の主張は失当であり、これを前提として、引用例記載の発明には、知識情報と区別される意識情報と通信接続情報に限定した情報を登録するホスト局は存在しないとの主張も失当である。 (3) 取消事由1の(3)の主張に対して 本願発明の「ユーザー局」及び「ホスト局」に対応する引用例記載の発明における構成の認定、判断に誤りがないことは上記のとおりである。 (4) 取消事由1の(4)の主張に対して 上記(2)で述べたように、引用例記載の発明の職業仲介センタに第2のデータベースとして蓄積された「職種、労働条件などの希望」が、本願発明の意識情報に相当するものであるから、「求職又は求人情報」が本願発明の「他のユーザーに伝えたい自分の意識の要約としての意識情報」に相当すると認定した審決に、原告主張の誤りはない。 (5) 取消事由1の(5)の主張に対して 引用例の明細書に記載された段落【0063】、【0064】、【0065】の記載を参照すれば、引用例記載の発明は、共通センタ又は個別センタ(本願発明の「ホスト局」に相当)が通信網に対して通信要求を行い、通信網はこれを受けて提供側と要求側の相互接続をするものであり、そして、両者の相互接続という接続関係から、共通センタ又は個別センタを経由して行われるものではないことは明らかである。 2 取消事由2(相違点の看過)に対して 引用例記載の発明は、提供側と要求側の相互接続であるという接続関係から、共通センタ又は個別センタを経由して行われるものではない。したがって、知識情報が、ユーザー局相互でホスト局を経由することなく授受されることをもって、引用例記載の発明と本願発明との相違点としなかった審決の認定、判断に誤りはない。 3 取消事由3(相違点(知識情報を蓄積する)の判断誤り)に対して 引用例記載の職業仲介センタ5には、要求者7(求人者)側から人材が欲しい、 提供者6(求職者)側から就職先はないか、というときにそれを検索することができる情報、すなわち、本願発明における「意識情報」が蓄積され、さらに、当該要求者(求人者)又は提供者(求職者)側には、具体的な仕事の内容、具体的な労働条件等の詳細な情報を知りたいときに、相互通信により直接授受する前記詳細な情報、本願発明でいう「知識情報」が存在する。 また、要求者(求人者)又は提供者(求職者)側には、端末が備えられ、通信網に接続される端末には情報を蓄積する機能を有するものが多いことから、「通信によって得た情報を蓄積することは一般によく行われることであるから、ユーザー局相互間の直接交信により授受する知識情報を蓄積することは、当業者であれば格別な困難を要することなく容易に想到し得るものである」とした審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定誤り)について (1) 原告は、引用例記載の発明における「提供者6(求職者),要求者7(求人者)」が、本願発明における「ユーザー局」に相当するとした審決の認定は誤りであると主張するので、これについてまず判断する。 甲第3号証によれば、本願明細書に次のとおりの記載があることが認められる。 【0008】に、「「情報」はその内容によって「意識情報」と「知識情報」に区別できる。そして「意識」、「知識」、「情報」、「意識情報」、「知識情報」は概念的に区別して取り扱う必要があり、これらはそれぞれ次のように定義できる。 意識:@生命体の、物事に気付く心や、状況・問題のありようを知る心。 A生命体の、思考・感覚・意志・直感などを含む、広く精神的なものの総体。 知識:@生命体の、物事について知っていることがら。 :A生命体が、物事について理解したことや認識したこと。 情報:@物事や出来事、事物に関する知らせ Aある特定の目的について、適切な判断を下したり、行動の意志決定をするために役立つ資料やデータの総体。 意識情報;意識の内容に関する知らせ・資料・データの総体。 知識情報;知識の内容に関する知らせ・資料・データの総体。」との記載。 【0009】に具体例として、「「美味しいサラダの作り方を知りたい」との思いが意識情報であり、これに対する解答としての「野菜の組み合わせの具体例やドレッシングの具体的な調合事例」が知識情報である。」との記載。 【0009】のこの記載からすると、「美味しいサラダの作り方を知りたい」を更に限定した、例えば、「美味しいポテト(フルーツ)サラダの作り方を知りたい」も同様に意識情報であることとなる。 一方、甲第2号証によれば、引用例記載の発明の職業仲介の例(【0022】以下)においては、提供者6(求職者)は、所定の識別子を付けてダイヤルすると、通信網1がこれを受けて共通センタ2に接続し、共通センタ2は、仲介種別に従って職業仲介センタ5に転送する。仲介センタ5は情報検索を行い、該当する求人があった場合には、求人側に関する情報を発信者の提供者に提供するとともに、連絡を取る希望がある場合には、連絡手段(例えば電話番号、会社名等)を通知する旨が記載されていることが認められる(【0024】〜【0035】)。引用例記載の発明においては、結婚仲介、リサイクル品の仲介等についても同様である旨が記載されていることが認められる(甲第2号証【0072】)。 ここで、連絡を取る希望がある場合には、連絡手段(例えば電話番号、会社名等)を通知する旨の引用例における記載中の、「連絡を取る」場合としては、就職申込みの希望を表明する場合のほか、就職したいとの希望に基づいて、求人側企業に関する更なる情報を得たいという場合が存する。例えば、職業仲介において「連絡を取る」場合として、面接、昇級・昇格条件、勤務形態、職場の立地・労働環境等による更なる情報を獲得する場合、また、結婚仲介において「連絡をとる」場合として、相手の身体状況、趣味などさらなる相手の情報を獲得する場合が存在することは自明の事項であり、しかも、当該情報が知識情報であることは、本願明細書に記載された前記の定義より明らかである。 してみると、これらの知識情報を得るために提供者、要求者間で連絡を取るということは、両者間で、検索でヒットした事項に関する情報、すなわち知識情報を保持(蓄積)していることとなる。そして、両者間の連絡手段としては、引用例の「連絡手段(例えば電話番号、会社名等)を通知する」との記載からみて、両者間が双方向でかつ直接交信の通信手段で結ばれているということができる。 したがって、本願発明の「ユーザー局」が引用例記載の発明における「提供者6(求職者),要求者7(求人者)」に相当するとした審決の認定に誤りはない。 (2) 原告は、引用例記載の発明における「共通センタ2、職業仲介センタ5」が本願発明の「1局以上のホスト局」に相当するとした審決の認定は誤りであると主張する。 原告のこの主張は、「共通センタ2、職業仲介センタ5」には「個人の秘密」、 「プライバシーに関わる部分」、「仲介内容情報」、「個人情報」、「職種、労働条件」、「求人側に関する情報」、「氏名等」、「連絡手段(例えば電話番号、会社名等)」等の「意識情報」に相当するといえない情報が蓄積されていることを根拠とするものである。 しかしながら、「意識情報」は、希望を含む、広く精神的な内容に関するものである。結婚仲介においては、結婚したいとの希望情報はもとより、相手の身体状況、年齢、年収、趣味等に関して希望する条件も、希望情報に包含されるものとして、意識情報に属するものと解することができる。このような条件は、「個人の秘密」、「プライバシーに関わる部分」「個人情報」等に相当するものであって、 「個人の秘密」、「プライバシーに関わる部分」「個人情報」等が「意識情報」に属さないとすることはできない。職業仲介に関しても同様であり、単に就職したいとする意識だけではなく、職種、勤務形態、年収額等自分の意志に基づく希望条件に関するものも意識情報に相当するものであることは明らかであるから、「職種、 労働条件」、「求人側に関する情報」等が「意識情報」に属さないとすることはできない。 甲第3号証によれば、本願明細書段落【0027】及び【0032】に「意識データベースへの意識情報の登録方法としては種々の方法が考慮されるが、例えば予め用意された質問事項に対して用意された回答項目のなかから1つを選択する多枝選択アンケート方式を採用し・・・。そしてこのようなアンケートはツリー構造となすことがより好ましい」、「このような通信ネットワーク構造を・・・意識情報はホストマシン上に構築される意識データベースに登録される。意識情報の登録方法はホストマシンが問いかけてくる質問事項に次々と答えるアンケート方式であったり、・・・」と記載されていることが認められ、本願発明の意識情報が、ツリー構造として示される複数の詳細な意識情報から構成されていることが明らかであって、本願明細書のこの記載も上記判断に沿うものということができる。 したがって、原告の上記主張は、その前提において既に理由がない。 (3) 上記(1)、(2)における原告の主張が理由のないものである以上、これを前提とする取消事由1の(3)の原告の主張も理由がない。 (4) 原告は、引用例記載の発明における「求職又は求人情報」が、本願発明における「他のユーザーに伝えたい自分の意識の要約としての意識情報」に相当するとした審決の認定は誤りであると主張する。 しかしながら、職業仲介に関しても、単に就職したいとの意識だけではなく、職種、勤務形態、年収額等自分の希望に基づく条件を付すことが一般的であり、当該条件を充足する会社に就職したいとの意識も意識情報に相当するものであり、これら複数の詳細な意識情報から本願発明の意識情報が構成されることは前記(2)に示したとおりである。そして、前記(1)に示したとおり、さらなる情報獲得のために連絡手段を備えていることを考慮すれば、引用例記載の発明の「求職又は求人情報」が本願発明の「他のユーザーに伝えたい自分の意識の要約としての意識情報」に相当するとした審決の認定に誤りはない。 (5) 原告は、引用例記載の発明の連絡手段(電話番号)を登録した「第1のデータベース8」は、本願発明の通信接続情報を登録した「データベース」には相当せず、これに反する審決の認定は誤りである旨主張する。 引用例における「提供者6又は要求者7が共通センタ2及び職業仲介センタ5を経由することなく相手側に直接交信するために必要となる連絡手段(電話番号)とを登録した第1のデータベース8」との記載からも明らかなように、そこには、直接交信手段として電話連絡手段が記載されている。 一方、本願発明における直接交信手段として、本願明細書の【0023】及び【0026】に「G)前記通信接続情報提供工程によってホスト局から取得した通信接続情報にしたがって、ユーザーマシンが自動ダイアルして、ターゲットユーザーのユーザーマシンとの双方向通信路を回線接続状態とするとともに、・・・」、 「ホスト局からユーザーに提供されるターゲットユーザーの通信接続情報のうち少なくとも電話番号はユーザーには秘匿しておくことが好ましい。・・・」と記載されていることが認められる(甲第3、第4号証)。 また、本願発明のネットワークに関しては、特許請求の範囲第1項に「相互間が双方向の通信手段で結ばれた複数のユーザー局と、これらユーザー局と双方向で結ばれた少なくとも1局以上のホスト局とより構成され、各ユーザー局が当該通信ネットワークを通じて、・・・」とあり、この記載からすると、本願発明にいう通信ネットワークとは、ユーザー局間が双方向通信手段としての電話で結ばれ、さらに、ユーザー局と双方向で結ばれたホスト局から、構成されることとなる。 そして、当該通信ネットワークの構成は、引用例記載の発明において、本願発明の「ユーザー局」に相当する「提供者(求職者)、要求者(求人者)」間の双方向通信手段としての電話と、これらのユーザー局と双方向で結ばれている本願発明の「ホスト局」に相当する、「共通センタ2及び職業仲介センタ5」とからなる引用例記載の発明における通信の構成と同様であり、当該双方向通信手段としての電話による通信が、「共通センタ」「個別センタ」は関与していないことも明らかである。 したがって、引用例記載の発明の「提供者6又は要求者7が共通センタ2及び職業仲介センタ5を経由することなく相手側に直接交信するために必要となる連絡手段(電話番号)とを登録した第1のデータベース8」が、本願発明の「各ユーザー局同士が相手局を直接又は間接的に選択して相手局とホスト局を経由することなく直接交信するために必要となる通信接続情報とを登録したデータベース」に相当するとした審決の認定に、原告主張の誤りはない。 2 取消事由2(相違点の看過)について 原告は、審決には、本願発明と引用例記載の発明との間に、「意識情報」と「知識情報」を区別するか否か、「知識情報を」ホスト局を経由することなくユーザー局相互間の直接交信により授受するか否かの相違がある点を看過した誤りがある旨主張する。 確かに、引用例記載には「意識情報」、「知識情報」との直接的記載のあることは認められないが(甲第2号証)、「知識情報」といえるものがユーザー局に存在し、ホスト局を経由することなくユーザー相互間の直接交信により授受することは、取消事由1に関して説示した前記1の(1)のとおりであり、さらに、ホスト局に意識情報が存在することも同(2)のとおりであるから、審決に、原告主張の相違点の看過があるということはできない。 3 取消事由3(相違点(知識情報を蓄積する)の判断誤り)について 原告は、本願発明は、ネットワークにおける各情報の所在を規定したものであって、ネットワーク構造の構成を表しているものであるところ、審決は、通信ネットワーク構造外において、通信ネットワークから得られた情報を蓄積することと対比して進歩性を判断しており、その点に誤りがある旨主張する。 しかしながら、本願発明における通信ネットワークと引用例に記載された、ユーザー局間、ユーザー局ホスト局間の通信のための構成が同様であることは、前記1の(5)で示したとおりであるから、例えば、ユーザー局である求職者が、電話にてさらなる企業情報を複数企業から獲得・蓄積した場合は、当該電話、ユーザー局、及び当該ユーザー局が獲得・蓄積した当該情報も、本願発明にいうネットワークに含まれるものであることは明らかである。 したがって、引用例記載の発明における「通信によって得た情報を蓄積すること」が「通信ネットワーク構造外において、通信ネットワークから得られた情報」であるとする原告の主張は理由がなく、これを前提とする取消事由3も理由がない。 |
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結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。 (平成14年2月5日口頭弁論終結) |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 橋本英史 |