関連審決 | 審判1999-14245 |
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関連ワード | 技術的思想 / 物の発明 / 新規性 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 周知技術 / 公知技術 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
382号
審決取消請求事件
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原告 エル・エス・アイジャパン株式会社 原告 株式会社ジョイス 原告 有限会社佐藤美術工芸3名訴訟代理人弁理士 南條眞一郎 同 森竹義昭 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 山田忠夫 同 木原裕 同 大橋良三 同 山口由木 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/02/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告ら 特許庁が平成11年審判第14245号事件について平成12年8月14日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは,発明の名称を「点数自動計数麻雀卓」とする発明について,平成5年10月22日に特許出願をしたが(以下,この特許出願を「本願出願」といい,この発明を「本願発明」という。),平成11年7月29日,拒絶査定を受けたので,平成11年9月7日,これを不服として審判の請求をした。特許庁は,これを平成11年審判第14245号事件として審理した結果,平成12年8月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年9月11日,その謄本を原告らに送達した。 2 本願発明の特許請求の範囲(別紙図面(1)参照) 【請求項1】点数棒を収納し収納された点数棒の数から自動的に点数を計数・表示する麻雀卓で用いられる点数棒箱であって,前記点数棒箱は複数のトレイを有し,前記複数のトレイを識別可能なように前記複数のトレイに各々異なる色が付されている,麻雀卓用点数棒箱。 【請求項2】前記トレイが4個である,請求項1の麻雀卓用点数棒箱。 【請求項3】点数棒を収納し収納された点数棒の数から点数を計測する麻雀卓で用いられる点数棒であって,前記点数棒には種類毎に各々異なる色が付されている,麻雀用点数棒。 【請求項4】前記色が4色である,請求項3の麻雀用点数棒。 【請求項5】前記点数棒が100点棒,500点棒,1000点棒,5000点棒及び10000点棒であり,前記5000点棒及び10000点棒が同色である,請求項4の麻雀用点数棒。 (以下,請求項1ないし5に係る発明を,それぞれ「本願発明1」,「本願発明2」などといい,全体を「本願発明」と総称することがある。) 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明3及び4は,特開昭53-25129号公報(以下「引用刊行物」ということがある。)に記載された発明(以下「引用発明」ということがある。)及び特開昭55-108379号公報(以下「本件公報」ということがある。)等にみられる周知事項(以下「本件周知事項」ということがある。)に基づいて,当業者が容易に発明できたものである,というものである。 |
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原告ら主張の取消事由の要点
審決は,本願発明3及び4と引用発明との対比方法を誤り(取消事由1),引用発明の技術内容を誤認し(取消事由2),本願発明3及び4と引用発明との相違点についての認定判断を誤り(取消事由3),本願発明3及び4の顕著な効果を看過し(取消事由4),本件公報を証拠として採用するに当たってなすべき新たな拒絶理由通知をしなかった(取消事由5)。審決の犯したこれらの誤りは,いずれも,その結論に影響することが明らかであるから,審決は,違法として取り消されなければならない。 1 取消事由1(対比方法の不当性) 審決は,本願発明4と引用発明とを対比して,両者は,「種類毎に4色の色が付されている,麻雀用点数棒。」の点で一致し,「「点数棒」が,前者は「収納された点数棒の数から点数を計測する麻雀卓で用いられる」ものであるのに対し,後者はそのような麻雀卓で用いられるものかどうか明らかでない点。」で相違すると認定した。しかし,審決は,本願発明4に係る特許請求の範囲と,引用刊行物に記載された事項を対比するのみであって,両発明の技術内容についての対比及び相違点の摘示をしていない。したがって,対比方法において既に失当である。 (1) 本願明細書の発明の詳細な説明中に,「また,点数棒は4つのグループに分類し,それぞれのグループを色分け等の手段により区分するとともにトレイに対しても同様の区分を行うことにより点数棒とトレイとの関係を固定する。」(第9段),「従来の点数棒は全て同色の材料で構成されており,僅かに図10(a)あるいは(d)に示したように,表示が異なるだけである。そのため,各点数棒を本来収納するべきトレイがわかりにくい。そのため,この実施例においてはトレイ40-1,40-2,40-3,40-4の色を異なるものにし,各々のトレイに収納されるべき点数棒の色をトレイの色と一致させる。このようにすることにより,各点数棒を収納するべきトレイを容易に見いだすことができ,仕訳が確実に行われる。」(第25段)と記載されているように,本願発明3及び4は,すべて同色の材料で構成された従来の点数棒では各点数棒を本来収納するべきトレイがわかりにくいことを前提にし,各々のトレイに収納されるべき点数棒の色をトレイの色と一致させることにより,各点数棒を収納するべきトレイを容易に見いだすことができ,仕訳を確実に行うことができるという技術内容及び効果を有する発明である。 一方,引用刊行物には,壱万点,五千点,千点及び百点の点棒の両端の色を各々白,緑,赤,黒の4色とすることにより点棒を区別することが記載されているものの,点棒を区別することによりどのような効果が得られるのかについて何ら記載されておらず,むしろ,各点棒は,区別されることなく受け入れ口に入れられ,その後自動分類装置の内部で点棒の種類が区別されることが記載されているから,引用発明は,本願発明のように各々のトレイに収納されるべき点数棒の色を区別する必要はない,という技術内容を有するところに特徴がある。 したがって,本願発明3及び4と引用発明とを対比するに当たっては,審決は,両発明の技術内容に着目し,その相違を指摘すべきである。そして,両発明の技術内容に着目すれば,本願発明と引用発明とは,単に麻雀卓という技術分野について共通するのみであり,その技術的思想は全く相違していることが直ちに理解できるのである。 (2) 原告らは,審判段階において,本願発明3及び4と引用発明との上記技術内容の相違を指摘し,その技術内容に基づく対比方法について主張したにもかかわらず,審決は,原告らの主張を一顧だにしなかったから,その点でも不当である。 2 取消事由2(引用発明の技術内容の誤認) 審決は,本願発明4と引用発明とを対比して,両者は,「種類毎に4色の色が付されている,麻雀用点数棒。」の点で一致していると認定した。しかし,上記認定は,誤りである。 (1) 引用刊行物に,両端のみを色別した点棒が記載されていることは,事実である(別紙図面(2)参照)。しかし,同刊行物記載の点棒自動分類装置は,色を認識しないものであるから,たとい,引用発明の点棒が色分けされていても,同装置においてこの色分けに従って分別がなされるわけではない。このような点棒自動分類装置においては,点棒の色分けは,本来,無用の事柄である。 このように,引用発明の点棒は,本来,点数棒を収納すべきトレイを容易に見いだすことができるように点数棒の色を区別するものではないから,本願発明4の麻雀用点数棒が,「種類毎に4色の色が付されている。」のとは,その技術的意味が全く異なるものである。 (2) 審決は,引用発明に関して,「 「麻雀等の遊戯に使用する点棒」(第1頁左欄第14行)であって,「4種の点棒について・・・説明すると・・・壱万点,五千点,千点,百点が区別され・・・両端の色別・・・によっても区別されている。」(第1頁右欄第5〜12行)こと,前記「両端の色」が,「壱万点-白」「五千点-緑」「千点-赤」「百点-黒」の「4色」(第2頁左上の表)であることが,記載されている。」と認定しているけれども,これは,引用刊行物の記載を単に抽出したにすぎず,この記載によっては,審決でどのような発明が引用刊行物に記載されていると認定したのか不明である。 3 取消事由3(相違点についての認定判断の誤り) (1) 審決は,「点数棒を収納するトレーを点数棒の種類の数だけ有し,別々に収納された点数棒の数から点数を計測する麻雀卓」が,本件公報等にみられる周知のものであると認定している。しかし,本件公報には,点数棒を収納するトレーを見いだすための構成が記載されていない。審判請求書(甲第8号証の12頁9行〜12行参照)で述べたとおり,本件公報には,点棒収納部として点棒受皿が記載されているものの,この点棒受皿は,両側壁を30°〜130°に傾斜させ,断面を逆3角形状に構成されており,このような形状の受皿は,通常の意味でトレイといえるようなものではない(別紙図面(3)参照)。 仮に,本件公報に,「点数棒を収納するトレーを点数棒の種類の数だけ有し,別々に収納された点数棒の数から点数を計測する麻雀卓」が記載されているとしても,同公報には,上述したとおり,点棒受皿が記載されているものの,点数棒を収納すべきトレーは記載されていないので,本件公報に記載された技術を,引用発明に適用したとしても,トレイを使用する本願発明には至らないのである。 (2) 本件公報に記載された麻雀卓は,所定位置に収納された透光性の点数棒によって光路を形成することにより点数棒の有無を検出し,点数を算出しているものであって,点数棒の検出を光電スイッチによって行う方式である。このようなスイッチによる点数棒の検出は,技術的にみて,本願発明の「計測」ということのできないものである。 4 取消事由4(顕著な効果の看過) 本願発明3及び4は,取消事由1で述べたとおり,すべて同色の材料で構成された従来の点数棒では各点数棒を本来収納するべきトレイがわかりにくいことを前提にし,各々のトレイに収納されるべき点数棒の色をトレイの色と一致させることにより,各点数棒を収納するべきトレイを容易に見いだすことができ,仕訳を確実に行うことができるということを技術内容及び効果を有する発明である。審決は,本願発明3及び4の上記の顕著な効果を看過しているから,違法である。 5 取消事由5(手続の違背) 審決は,本件公報を証拠として採用するに当たってなすべき新たな拒絶理由通知をしなかった違法がある。 本願発明についての審理の段階において,審査官は,拒絶理由通知において,本願出願に係る特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された各発明に拒絶すべき理由があるとの根拠として本件公報を引用したものの,本願発明3及び同4に対する関係では全く引用しなかった。したがって,審決が,本件公報を周知事項を証する一例として引用して本願発明3及び4を拒絶するためには,特許法159条2項で準用する同法50条に規定された拒絶理由通知をする必要があったというべきである。 ところが,審決は,そのような拒絶理由通知をしていない。そのため,原告らは,拒絶理由通知がなされることにより取り得るはずの,出願の補正あるいは出願の分割を行う機会が奪われた。 審決には,拒絶理由通知をしなかった違法がある。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1(対比方法の不当性)について 審決は,特許庁における手続の経緯,審判請求理由書における原告らの主張,本願出願の時点における技術常識等を十分参酌しつつ,本願発明の特許請求の範囲の各請求項に記載された事項によって特定される各発明と引用した刊行物とを対比しているものである。審判請求理由書における原告らの主張についての判断が審決に直接的に記載されていなくても何ら問題はない。そもそも,原告らの取消事由1に係る主張は,特許法のどのような規定に照らして違法であるのか,全く不明である。 2 取消事由2(引用発明の技術内容の誤認)について 本願発明3及び4は,点数棒自体の発明であり,その点数棒自体の構成は,単に,点数棒の種類別に異なる色を付したというだけのものであり,この点数棒を用いる麻雀卓については「点数棒を収納し収納された点数棒の数から点数を計測する麻雀卓」とされているだけであって,点数棒の収納の仕方,収納部の構成は何ら限定されておらず,まして,点数棒を収納する各トレイの色を点数棒の色と一致させることについては,特許請求の範囲に何らの記載もない。したがって,本願発明3及び4の作用効果について考えるとき,各トレイの色との関係について参酌する必要性はなく,点数棒に種類別に異なる色を付した点の作用効果について検討するだけで十分である。 原告らは,「点数棒を収納すべきトレイを容易に見いだすことができる」という作用と絡めて,上記一致点の認定が誤りである旨主張する。しかし,上記のとおり,本願発明3及び4は,点数棒の収納部の構成を何ら限定していないのであり,原告らの主張する「点数棒を収納すべきトレイを容易に見いだすことができるように」は,本願発明3及び4の構成ではない。原告らの主張は,本願発明3及び4の構成に基づかないものである。 3 取消事由3(相違点についての認定判断の誤り)について (1) 審決は,「点数棒を収納するトレーを点数棒の種類の数だけ有し,別々に収納された点数棒の数から点数を計測する麻雀卓」が本願出願時点において広く知られたものである点を示す一例として本件公報を提示したのであり,そのような麻雀卓が具体的に提示した周知例に記載されていることは明らかであり,周知例についての技術内容の誤認はない。 (2) 両端を色別した点数棒でも識別性が向上することは自明である。しかも,本願発明3及び4は,点数棒における色の付される位置や範囲を限定していないから,両端(だけ)を色別した点棒を排除していない。そうである以上,引用発明と本件周知事項とを組み合わせて,本願発明3及び4に想到することに,困難はあり得ない。 4 取消事由4(顕著な効果の看過)について 本願発明3及び4は,特許請求の範囲の記載から明らかなとおり,点数棒自体の発明であり,その点数棒自体の構成は,単に,点数棒の種類別に異なる色を付したというだけのものであり,この点数棒を用いる麻雀卓については「点数棒を収納し収納された点数棒の数から点数を計測する麻雀卓」とされているだけであって,点数棒の収納の仕方,収納部の構成は何ら限定されておらず,まして,点数棒を収納する各トレイの色を点数棒の色と一致させることについても何らの記載もない。 したがって,本願発明3及び4の作用効果について考えるとき,各トレイの色との関係について参酌する必要性はなく,点数棒に種類別に異なる色を付した点の作用効果について検討すれば足りることは,明らかである。原告らの主張は,本願発明の構成に基づかないものである。 5 取消事由5(手続の違背)について 本願に係る拒絶理由通知及び拒絶査定では,本願発明3及び4は,引用発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断していることを分析すれば,本願発明3及び4と引用発明との間に存する構成の差異は,本願出願当時の技術水準を考慮すれば当業者が容易になし得る程度のことであり,本願発明3及び4に進歩性がないとする趣旨であると理解することができる。審査官は,上記拒絶理由通知及び拒絶査定において,本願出願当時の技術水準を成す周知事項については例示するまでもないものとして提示しなかったにすぎない。 審決は,上記拒絶理由通知及び拒絶査定の前提となっている,本願出願当時の技術水準を成す周知事項を周知例を挙げて具体的に説明したにすぎず,新たな拒絶理由を提示するものではない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(対比方法の不当性)について (1) 原告らは,審決が,本願発明4の特許請求の範囲に記載された事項と引用刊行物に記載された事項(引用発明)とを対比して,両者は,「種類毎に4色の色が付されている,麻雀用点数棒。」(審決書2頁22行〜23行)である点で一致し,「「点数棒」が,前者は「収納された点数棒の数から点数を計測する麻雀卓で用いられる」ものであるのに対し,後者はそのような麻雀卓で用いられるものかどうか明らかでない点」(審決書2頁24行〜26行)で相違している,と認定したのを非難し,審決は,両発明の技術内容についての対比及び相違点の摘示をしていないから,対比方法において既に失当である,と主張する。 平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項は,「第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。・・・2 特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること。」と規定しているから,明細書に記載された特許請求の範囲には,出願人が特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているはずである。 特許請求の範囲は,一般に,発明を特定するために必要な複数の事項の組合せから成り立っている。このように複数の事項の組合せから成り立っている発明の進歩性の有無を判断するに当たり,同一又は近接する技術分野における従来技術中に,当該発明の個々の構成要素に係る技術が存在するかどうかを検討し,当業者がこれら個々の技術を組み合わせて当該発明の構成を得ることが容易であるかどうかを検討する,というのが,審判,特許異議申立てや取消訴訟事件において行われる常套の検討方法であり,かつ,この検討方法には十分合理性が認められるところである。 (2) 原告らは,審決が,本願発明4に係る特許請求の範囲と,引用刊行物に記載された事項を対比するのみであって,両発明の技術内容についての対比及び相違点の摘示をしていないから,対比方法において既に失当である旨主張する。 しかしながら,本件において,審決が,上記常套の検討方法によって検討して結論を導いていることは,審決書の説示自体から明らかであり,本件において,上記方法によって検討することが不合理であると認めさせる事情を見いだすこともできない。 原告らは,本願明細書の発明の詳細な説明中の記載を挙げて,本願発明は,すべて同色の材料で構成された従来の点数棒では各点数棒を本来収納するべきトレイがわかりにくいことを前提にし,各々のトレイに収納されるべき点数棒の色をトレイの色と一致させることにより,各点数棒を収納するべきトレイを容易に見いだすことができ,仕訳を確実に行うことができるということを技術内容及び効果を有する発明であると主張する。 しかしながら,原告らの主張は,特許を受けようとして,特許法36条5項に従って記載した特許請求の範囲に記載されていない事項を,本願発明3及び4の内容として読み込もうとするものである。 原告らの上記主張は,失当である。 (3) 原告らは,審判段階において,本願発明3及び4と引用発明との上記技術内容の相違を指摘し,その技術内容に基づく対比方法について主張したにもかかわらず,審決は,原告らの主張を一顧だにしなかったから不当である旨主張する。 しかしながら,原告ら主張の対比方法が明らかに誤っていることは,上述したとおりである。明らかに誤った原告らの主張に対して,何の応答もしなかったからといって,審決が不当とされる筋合いはない。 原告らの上記主張は,主張自体失当である。 2 取消事由2(引用発明の技術内容の誤認)について 引用刊行物についてみると,「この発明は,麻雀等の遊戯に使用する点棒の分類装置に関し,その目的とするところは,点棒に判別用の被検出体を異なった配置で取り付け,これらの点棒を判別して,自動的に点棒を分類するようにした,麻雀等の遊戯における点棒自動分類装置を提供しようとするものである。以下,麻雀に使用する4種の点棒について,図を参照して一実施例を説明すると,1は丸柱状のアクリル体に,適宜配置で金属片(例えばアルミ)1aが貼着された点棒で,この金属片1aの位置は次の表の如く成り,これによって壱万点,五千点,千点,百点が区別され,更に両端の色別,中央の金属片への刻印によっても区別されている。」(1頁左欄14行〜右欄12行)との記載があり,第2頁左上欄の表には,前記「両端の色」が,「壱万点-白」「五千点-緑」「千点-赤」「百点-黒」の「4色」のものが示されていることが認められる(別紙図面(2)参照)。 上記認定の記載によれば,「種類毎に4色の色が付されている,麻雀用点数棒。」の技術が記載されていることは,明らかである。そして,上記「種類毎に4色の色が付されている,麻雀用点数棒。」の技術は,引用刊行物の特許請求の範囲の記載に係る「麻雀等の遊戯における点棒自動分類装置」の発明と結び付けてのみ把握されるというものではなく,これとは別個に把握できる技術であることが,明らかである。 原告らは,引用発明の点棒自動分類装置は,色を認識しないものであるから,たとい,引用発明の点棒が色別されていても,同装置において色分けされるわけではないから,無用の事柄である,と主張するけれども,上記点棒自動分類装置による分類との関係で無用であるからといって,色別自体が無用になるわけではないことは自明である。原告らが主張する上記事由は,むしろ,「麻雀等の遊戯における点棒自動分類装置」という技術(引用発明)が上記「麻雀等の遊戯における点棒自動分類装置」と離れて別個に把握できるものであることを,裏付けているということができるのである。 審判官は,特許請求の範囲に記載される発明が新規性,進歩性を有するかどうかという判断をするに当たり,当該発明と対比して検討するのにふさわしい公知技術を選択することができるのであり,本件においても,本願発明の構成に対応して検討するのにふさわしい公知技術として,引用刊行物から,他と離れてそれ自体として把握することのできる,「種類毎に4色の色が付されている,麻雀用点数棒。」という構成を引用したのであることは,審決の説示自体で明らかである。 原告らの上記主張は,審決の引用発明の認定とは別に,独自に引用刊行物を把握し,そのような把握しか許されないことを当然の前提として,これに基づき審決を非難しているものであって,失当である。 3 取消事由3(相違点についての認定判断の誤り)について (1) 特許請求の範囲請求項3に,「点数棒を収納し収納された点数棒の数から点数を計測する麻雀卓で用いられる点数棒であって,前記点数棒には種類毎に各々異なる色が付されている,麻雀用点数棒。」,請求項4に,「前記色が4色である,請求項3の麻雀用点数棒。」との記載があることは,当事者間に争いがない。 (2) 本願発明は,物の発明であり,上記記載中の「点数棒であって,前記点数棒には種類毎に各々異なる色が付されている,麻雀用点数棒。」,「前記色が4色である」の文言が,本願発明をなす物自体の構成に係るものであることは,明白である。 一方,上記記載中の「点数棒の数から点数を計測する麻雀卓で用いられる」,「点数棒を収納し収納された点数棒の数から点数を計測する麻雀卓で用いられる」の文言は,本願発明をなす物自体の構成に係るものではなく,その物の用途の特定に係るものであることも,明白である。 取消事由2との関係において2で述べたとおり,引用刊行物には,「種類毎に4色の色が付されている,麻雀用点数棒。」との技術が記載されており,これが,本願発明の,「点数棒であって,前記点数棒には種類毎に各々異なる色が付されている,麻雀用点数棒。」,「前記色が4色である」との構成をすべて具備していることは,明らかである。 したがって,本願発明と引用発明との相違点は,審決が認定するように,「収納された点数棒の数から点数を計測する麻雀卓で用いられる」という用途の特定に係る部分のみとなるのである。 (3) 本願出願当時,麻雀において点数棒の数によって点数を計算するという方式が採用されていること,麻雀卓は,点数棒を収納する受け皿を具備していること,麻雀の勝敗を明らかにするために,点数棒の数から点数を計算することが,当業者のみならず,一般通常人の間でも広く知られていたことは,当裁判所に顕著である。 このように,「点数棒を収納し,収納された点数棒の数から点数を計測する麻雀卓」という技術が周知のものとして存在する場合に,引用発明の「点数棒であって,前記点数棒には種類毎に各々異なる色が付されている,麻雀用点数棒。」,「前記色が4色である」という構成の物を,上記のような周知の麻雀卓に使用することに何らの困難性もないことは,論ずるまでもないことである。 審決が,相違点について,「点数棒を収納するトレーを点数棒の種類の数だけ有し,別々に収納された点数棒の数から点数を計測する麻雀卓は,原査定の拒絶の理由で引用された特開昭55-108379号公報等にみられるとおり従来周知のものであり,上記後者の点数棒を従来周知の点数計測機能を有する麻雀卓用として,上記前者とした点に格別の技術的意義は認められず,当業者が容易に想到し得る程度のことにすぎない。」と判断したことに誤りはない。 (4) 本件公報についての原告らの主張は,いずれも,同公報が,現実には,上記のとおり,周知技術の一例としての位置付けしか与えられていないのに,引用例として挙げられておるものであることを前提にするものであり,誤った前提に立った無意味なものという以外にない。 4 取消事由4(顕著な効果の看過)について 原告らは,本願発明3及び4は,すべて同色の材料で構成された従来の点数棒では各点数棒を本来収納するべきトレイがわかりにくいことを前提にし,各々のトレイに収納されるべき点数棒の色をトレイの色と一致させることにより,各点数棒を収納するべきトレイを容易に見いだすことができ,仕訳を確実に行うことができるということを技術内容及び効果を有する発明である,審決は,本願発明3及び4の上記の顕著な効果を看過しているから違法であると主張する。 しかしながら,上記効果は,本願発明3及び4の構成を採用した場合の,自明の作用効果であって,当業者において容易に予想し得たものであることは,論ずるまでもないところである。 5 取消事由5(手続の違背)について 原告らは,本願発明についての審理の段階において,審査官は,拒絶理由通知において,本願出願に係る特許請求の範囲請求項1及び2に記載された各発明に拒絶すべき理由があるとの根拠として本件公報を引用したものの,本願発明3及び4に対する関係では全く引用しなかった,したがって,審決が,同公報を周知事項を証する一例として引用して本願発明3及び4を拒絶するためには,特許法159条2項で準用する同法50条に規定された拒絶理由通知をする必要があったものである,とし,これを理由に,審決は,同公報を証拠として採用するに当たってなすべき新たな拒絶理由通知をしなかった違法があると主張する。 しかしながら,原告らの主張は失当である。原告らの主張は,周知技術の一例を示すものとしての文献も,拒絶理由通知に掲げられていなければならない,ということを前提として初めて成り立つものであるのに,そのような前提が認められないことは,明らかなことというべきであるからである。 6 結論 以上によれば,原告ら主張の審決取消事由は,いずれも理由がないことが明らかであり,その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告らの本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 宍戸充 |