関連審決 | 異議2000-70392 |
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関連ワード | 容易に発明 / 発明の概要 / 参酌 / 技術的意義 / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 訂正明細書 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
339号
特許取消決定取消請求事件
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原告 株式会社デンソー 訴訟代理人弁理士碓氷裕彦 同 矢作和行 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 川名幹夫 同 山口由木 同 大橋良三 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/02/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が異議2000-70392号事件について平成12年7月31日にした決定を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「光学的情報読取装置」とする特許第2932815号の特許(平成4年2月28日特許出願,平成11年5月28日設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者である。 特許庁は,平成12年1月28日,本件特許につき異議の申立てを受け,これを異議2000-70392号事件として審理した。原告は,同事件の審理の過程で,平成12年5月9日に取消理由通知を受け,同年7月5日,本件特許に係る出願の願書に添付した明細書について訂正請求をした(以下「本件訂正」といい,本件訂正に係る明細書を「訂正明細書」という。)。特許庁は,上記事件につき審理した結果,同月31日,「特許第2932815号の特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,同年8月15日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲(本件訂正による訂正後のもの。これにより特定される発明を,以下「訂正発明」という。) 「光学的情報の記載された読取対象に光を照射する照射手段と, 上記読取対象から反射してくる反射光による情報映像を所定の読取位置に結像させる結像用光学系と, 上記映像情報を電子走査方式の読取作動により電気信号に変換して,上記光学的情報を読み取る読取手段とを備えた光学的情報読取装置において, 上記結像用光学系よりも上記読取対象側に設けられ,ガイド光を上記読取対象の表面に照射して,現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめるガイド光表示を行うガイド光表示手段と, を備えたことを特徴とする光学的情報読取装置。」(別紙図面(1)参照) 3 本件決定の理由 本件決定の理由は,別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件訂正を認めた上で,訂正発明は,@特開昭63-67692号公報(以下「引用刊行物1」という。)に記載された技術(以下「引用発明1」という。)と同一である,あるいは,同一であるとはいえないとしても,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,A特開昭63-184179号公報(以下「引用刊行物2」という。)に記載された技術(以下「引用発明2」という。)及び引用発明1に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである,とするものである。 |
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原告主張の取消事由の要点
本件決定中,1(手続の経緯),2(訂正の適否)を認める。3(特許異議の申立てについての判断)の(請求項1に係る発明)を認め,(引用刊行物記載の発明)のうち,「この2組以上の点照明が現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめていることは明らかである。」(決定書3頁21行〜22行)を争い,その余を認める。(対比・判断)の引用発明1との対比及び同一性判断の部分のうち,「「ガイド光を読取対象の表面に照射して,現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめるガイド光表示を行うガイド光表示手段」に相当することは明らかである」(4頁8行〜10行),「現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめる」(4頁16行〜17行)を争い,その余を認める。(対比・判断)の引用発明2との対比の部分を認め,相違点についての判断の部分を争う。4(むすび)を争う。 本件決定は,引用発明1の認定を誤り,その結果,@訂正発明と引用発明1とが同一である,あるいは,同一であるとはいえないとしても,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの,並びに,A訂正発明と引用発明2との相違点に引用発明1を適用することによって当業者が容易に発明をすることができたものであるとの,二つの誤った結論を導き出したものであるから,違法として取り消されるべきである。 1 訂正発明の「現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめる」の技術的意義 訂正発明の「現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめる」とは,バーコードのような読み取り対象の表面の区域を知らせることをいうものである。 特許請求の範囲の記載全体を参酌すると,訂正発明にいう「現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめる」との文言は,ガイド光表示を修飾するものであり,そのガイド光は,読み取り対象の表面を照射するものであることが明らかであり,また,走査位置は,読み取り手段が映像情報を電子走査方式の読み取り作動により電気信号に変換する上で必要となる位置であることも明らかである。ここで,電子走査方式の読み取り作動は,映像情報を端から端までスキャンするものであるから,「現在の走査位置及び読取可能範囲」とは,バーコードのような読み取り対象の表面での区域を対象としたものであることが明白である。そして,光軸方向の読み取り深度を意味するものでないことも,また,明白である。 2 引用発明1には訂正発明の「現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめる」が開示されていないこと (1) 本件決定は,引用発明1について,「刊行物1の第4頁左上欄第9行〜同欄第10行には,「また,2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい。」と記載されているので,この2組以上の点照明が現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめていることは明らかである。」(決定書3頁19行〜22行)と認定した。しかし,この認定は,誤っている。 引用刊行物1には,「本発明は,読取面を接触させることなく,光電変換素子上に焦点が合う,表示情報の位置を指示することができ,操作者が容易に焦点を合わせることができる光学的情報読取装置を提供するためになされたものである。」(甲第4号証2頁右上欄3行〜7行),「本発明による光学的情報読取装置は,少なくとも2以上の照明が重複することで,光学的情報読取装置の読取可能な対物距離を指示するようにしたため,光学的情報読取装置を表示情報に接触させることなく,表示情報を読取ることができる。」(2頁左下欄17行〜右下欄2行)との記載があるから,引用刊行物1に記載された引用発明1は,指示用LED14a,14bを用いて光軸の軸線方向の距離についてのガイドを行う技術である。 引用刊行物1に,「また,2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい。」(4頁左上欄9行〜10行)との記載があることは事実である。しかし,ここにいう「読取可能な表示情報の範囲」は,引用発明1が上記技術であることを考慮すれば,光軸方向での読み取り可能範囲を意味しているものであり,当業者においても,それが,バーコードの範囲を示すものであるとは読み取ることができない。 (2) 被告は,「2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい」には「・・・をも・・・」の語があり,この記載は,2組以上の点照明により重複点による光軸方向の距離の指示をすることに加え,さらに,「読取可能な表示情報の範囲を指示する」ことを意味すると主張する。 しかし,引用刊行物1の第1図ないし第4図によれば,同刊行物に記載された指示用点照明14a,14bは,バーコード19の周囲でなくバーコードの中央部を指示していることが明らかである(別紙図面(2)参照)。確かに,引用刊行物1には,他の例として点照明を複数用いてもよいという記載はあるものの,その点照明の位置は,全く明らかでなく,少なくとも,指示用点照明がバーコード19の周囲を照射する技術が開示されていないことは,明白である。 したがって,たまたま,引用刊行物1に,「2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい」という記載があり,指示用点照明14a,14bがレンズ11よりもバーコード19側に設置された例が記載されているからといって,ガイド光が読み取り対象の周囲を照射するものと理解することはできないのである。 (3) 被告が取り上げる,引用刊行物1の「2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい」との記載は,それ以前に,一貫してなされている光軸方向の距離についてのガイドの実施例についての説明に引き続いてなされているものである。このような記載に接した光学的情報読取装置の分野の当業者は,上記の「また,2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい。」との記載についても,引き続いて,光軸方向のガイド,すなわち,読み取り深度を示していると理解するものというべきである。 更に付け加えると,点照明を4つあるいは6つとした読取装置において,各点照明が読み取り視野を指示するようにすると,多数の光がバーコードの周囲に向かって照射されることになる。そのため,読み取り対象の面に照射された多数のガイド光点の位置関係が,光軸方向の距離によって複雑に変化し,操作する者にとまどいを与える結果になり,読取装置の総合的な性能を損なってしまうものと推察される。したがって,引用刊行物1の,「2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい」という記載から,ガイド光が読み取り対象の周囲を照射するものと理解することはできない。 3 訂正発明と引用発明1とが同一でないこと 引用発明1は,上記のとおり,訂正発明にいう「現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめる」との構成を有していないから,訂正発明と引用発明1とは同一ではない。 4 引用発明1に基づいて当業者が容易に訂正発明をすることができたものでないこと 本件決定は,訂正発明と引用発明1とが,@ 訂正発明は,現在の走査位置及び読み取り可能範囲を知らしめるガイド光表示を行うガイド光表示手段が,結像用光学系よりも読み取り対象側に設けられているのに対して,引用発明1は,現在の走査位置及び読み取り可能範囲を知らしめるガイド光表示を行うガイド光表示手段が,どこに設けられているのか明記されていない点 A 訂正発明は,読み取り対象に光を照射する照射手段を用いているのに対して,引用発明1にはその点が明記されていない点 で相違すると認定し,相違点@について,「刊行物1に記載された「2組以上の点照明」も,指示用点照明14a,14bと同様に結像用光学系よりも読取対象側に設けられることは,当業者が,当然類推する事項である。」(決定書4頁30行〜33行)と判断した。 しかし,上記判断は,上述した訂正発明と引用発明1との相違点を考慮していないから,判断の前提において既に誤りである。 5 訂正発明と引用発明2との相違点に引用発明1を適用することによって当業者が容易に訂正発明をすることができたものでないこと 訂正発明と引用発明2とを対比すると,「光学的情報の記載された読取対象に光を照射する照射手段と,上記読取対象から反射してくる反射光による情報映像を所定の読取位置に結像させる結像用光学系と,上記映像情報を電子走査方式の読取作動により電気信号に変換して,上記光学的情報を読み取る読取手段とを備えた光学的情報読取装置において,ガイド光を上記読取対象の表面に照射して,現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめるガイド光表示を行うガイド光表示手段と,を備えた光学的情報読取装置」(決定書5頁15行〜22行)の点で一致し,「請求項1に係る発明では,ガイド光を読取対象の表面に照射して,現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめるガイド光表示を行うガイド光表示手段を,結像用光学系よりも読取対象側に設けるのに対して,刊行物2に記載された発明では,読取センサ7の走査線(図中1)上の両側に発光ダイオード8,9を結像用光学系よりも読取対象側と反対側に設ける点」(5頁24行〜28行)で相違していることは,事実である。 本件決定は,訂正発明と引用発明2との上記相違点について,「刊行物1に記載された発明は,ガイド光表示手段である2組以上の点照明が,指示用点照明14a,14bと同様に結像用光学系よりも読取対象側に設けられることが,当業者に,当然類推する事項であるから,刊行物2に記載されたガイド光表示手段である発光ダイオード8,9を結像用光学系よりも読取対象側に設ける点は,刊行物1に記載されている技術を単に利用したにすぎない。」と判断した。 しかしながら,前述したとおり,引用発明1は,上記相違点に係る訂正発明の「現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめる」の構成を具備していないから,引用発明2に引用発明1を組み合わせても,訂正発明になるものではない。 |
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被告の反論の要点
1 引用発明1の認定の誤り,について 引用刊行物1の「2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい。」との記載にいう「表示情報」とは,同刊行物中の「表示情報としては,所定長さの線分を複数平行に並べ,その線分の太さおよび間隔で所定の情報を表すバーコードや,所定桁の数字などが知られており,」(甲第4号証2頁左上欄7行〜10行)という記載から明らかなように,「バーコード」などを指すものである。 そうすると,上記「2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい。」との記載における「読取可能な表示情報の範囲」を,対物距離の方向の範囲と解し得る余地はなく,上記記載は,2組以上の点照明で,読取可能なバーコードなどの範囲をも指示するようにしてもよいという意味であることが,文言自体から明らかである。 原告は,引用刊行物1の「本発明による光学的情報読取装置は,少なくとも2以上の照明が重複することで,光学的情報読取装置の読取可能な対物距離を指示するようにしたため,光学的情報読取装置を表示情報に接触させることなく,表示情報を読取ることができる。」(甲第4号証2頁左下欄17行〜右下欄2行)との記載を根拠に,同刊行物の「読取可能な表示情報の範囲」が対物距離を示す「読み取り可能な範囲」であるとしている。 しかし,上記「光学的情報読取装置の読取可能な対物距離を指示するようにした」との記載は,そのようにしたことによって,「光学的情報読取装置を表示情報に接触させることなく,表示情報を読み取ることができる。」というに留まり,読み取り可能な「範囲」について述べているものではない。まして,読み取るべき「表示情報」の「範囲」について言及しているものでもない。 2 上記のとおり,本件決定の行った引用発明1の認定は正しい。これが誤りであることを前提に,訂正発明と引用発明1とが同一でない,引用発明1に基づいて当業者が容易に訂正発明をすることができたものでない,訂正発明と引用発明2との相違点に引用発明1を適用することによって当業者が容易に訂正発明をすることができたものでない,とする原告の主張は,いずれも,失当である。 |
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当裁判所の判断
1 訂正発明の概要 甲第3号証によれば,訂正明細書には,次の記載があることが認められる。 【産業上の利用分野】 「本発明は,バーコード等の光学的情報を読み取る読取装置に係り,特に読取り口径よりも大きな読取対象の読取りをも可能にした光学的情報読取装置に関する。」(第1段落) 【従来の技術】 「従来より,バーコード,OCR文字等の光学的情報を記録したラベル等の読取対象に対し,照明手段により照明光を照射し,その反射光による情報映像を結像用光学系により読取手段(イメージセンサ)の表面に結像させ,この映像を読取手段の電子走査方式による読取作動により電気信号に変換する光学的情報読取装置が知られている。そして,操作者が読取装置自体を動かして読み取りを行う場合,走査している場所が操作者に分かり難く,主に勘に頼るため,狙った読取対象に走査位置を合わせられなかったり,読取対象同士が密集している場合,誤って他の読取対象を読み取ってしまうという不都合が生じる。そのため,読取手段の表面の一部,詳しくは読取ラインの両端よりガイド光を発し,結像用光学系を通して読取対象上にガイド光表示を行い,現在の読取位置及び読取可能範囲を認識すると共に,ガイド光表示の大きさ,コントラスト等により焦点距離が合っているかどうかを認識可能にしたものが知られている(例えば特開昭63-184179号参照)。」(第2〜3段落) 【発明が解決しようとする課題】 「しかしながら,上記ガイド光表示は,現在の走査位置や読取可能範囲,焦点のずれを操作者が認識することはできるが,大きな読取対象を読み込むために光学的情報読取装置と読取対象との距離を離すと,ガイド光表示が大きくなると共に暗くなり,周囲の環境が明るいとガイド光表示自体を判別できなくなる。本発明は,こうした問題に鑑みなされたもので,読取対象からの距離にかかわらず,ガイド光表示を確実に判別できる光学的情報読取装置を提供することを目的としている。」(第6〜7段落) 【課題を解決するための手段及び作用】 上記の目的を達成するために,訂正発明は,特許請求の範囲記載の構成を採用しているものであり,「上記のように構成された本発明の光学的情報読取装置においては,照射手段が光学的情報の記載された読取対象に光を照射し,結像用光学系によって,読取対象から反射してくる反射光による情報映像を所定の読取位置に結像させ,読取手段により,映像情報を電子走査型の読取作動により電気信号に変換して光学的情報を読み取る。この読み取る際,ガイド光表示手段が,ガイド光を読取対象の表面に照射してガイド光表示を行うので,現在の走査位置及び読取可能範囲が一目で判り目的の読取対象を確実に走査することができる。そして,このガイド光表示手段は結像用光学系よりも読取対象側に設けられており,従来のもののように結像用光学系を通していない。そのため,読取装置と読取対象との距離を離しても,読取対象上においてガイド光表示が大きくなりその結果暗くなることもほとんどなく,ガイド光表示を確実に判別できる。」(第8〜10段落) 【発明の効果】 「以上説明したように本発明の光学的情報読取装置によれば,読取対象からの距離にかかわらず,ガイド光表示を確実に判別できるという効果を奏する。」(第29段落) 2 訂正発明の「現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめる」の技術的意義について 訂正発明の「現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめる」とは,読み取り対象の表面の区域に関する現在の走査位置及び読み取り可能範囲を知らせることを意味するものであることは,当事者間に争いがない。 訂正発明の特許請求の範囲中には,「上記結像用光学系よりも上記読取対象側に設けられ,ガイド光を上記読取対象の表面に照射して,現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめるガイド光表示を行うガイド光表示手段と,を備えた」との記載があることは,前記(第2の2)のとおりであり,上記記載によれば,ガイド光が照射されるのは,読み取り対象の表面であり,当該照射によって現在の走査位置及び読み取り可能範囲を知らせるということになる。そして,読み取り対象の表面に関する「読取可能範囲」というとき,読み取り対象の表面の区域的な範囲を意味していることは明らかである。 3 引用発明1に訂正発明の「現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめる」が開示されているか否か,について (1) 引用刊行物1に,レンズ11よりもバーコード19側に設けられた「指示用LED(発光ダイオード)14aによる点照明と,指示用LED14bによる点照明とは手持ち式バーコードリーダー10の開口部10bより遠方に移動し,レンズ11によって,イメージセンサ12上で焦点が合う距離にて重複する。これらの各点照明が重複する距離まで,手持ち式バーコードリーダー10を離して,読取開始スイッチ16を押せば,バーコード19が読取られる。」(3頁左下欄11行〜18行),「17は,電源18によって作動し,イメージセンサ12で読取った情報を解読し,一時的に記憶する電子回路である。」(3頁左上欄19行〜右上欄1行),「また,2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい。」(4頁左上欄9行〜10行)との記載があることは,当事者間に争いがない。 甲第4号証によれば,引用刊行物1においては,「表示情報」という語について,「従来より,表示情報としては,所定長さの線分を複数平行に並べ,その線分の太さおよび間隔で所定の情報を表すバーコードや,所定桁の数字などが知られており,これらの読取装置としては,光学式のものが多く用いられている。」(2頁左上欄7行〜11行),「本発明は,読取面を接触させることなく,光電変換素子上に焦点が合う,表示情報の位置を指示することができ,操作者が容易に焦点を合わせることができる光学的情報読取装置を提供するためになされたものである。」(2頁右上欄3行〜7行),「本発明による光学的情報読取装置は,少なくとも2以上の照明が重複することで,光学的情報読取装置の読取可能な対物距離を指示するようにしたため,光学的情報読取装置を表示情報に接触させることなく,表示情報を読取ることができる。」(2頁左下欄17行〜右下欄2行)などといった記載があることが認められ,これらの記載によれば,引用刊行物1にいう「表示情報」は,「所定長さの線分を複数平行に並べ,その線分の太さおよび間隔で所定の情報を表すバーコードや,所定桁の数字など」を意味することが明らかである。 そうすると,引用刊行物1において,「また,2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい。」というとき,「表示情報の範囲」とは,上記バーコード,所定桁の数字等の範囲のことであるから,「読取可能な表示情報の範囲」とは,バーコード,所定桁の数字等の表示情報がその一部を占める読み取り面の表示面内における読み取り可能な範囲であると解するのが自然であるというべきである。 また,甲第4号証によれば,引用刊行物1には,「以上に述べた実施例では,点照明を2つだけ設けたが,これを4つ,あるいは6つ設け,2つずつを1組として重複するようにしてもいい。また,点照明に限らず,イメージセンサ12上に焦点が合う位置のイメージセンサ12の読取ライン上で重複する2つの線照明でもよい。複数の点照明のすべてが重複する位置,または2つの線照明が重複する位置では,イメージセンサ12と表示情報との平行も,容易に合わせることができる。」(3頁右下欄19行〜4頁左上欄8行)との記載があり,その後に,上記の「また,2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい。」との記載が続いていることが認められる。 一般的な用語法に従えば,上記の「また,2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい。」との文言は,「また」という接続詞で始まっており,その文脈からすれば,説明を変えるために用いられていることが明らかである。そして,「読取可能な表示情報の範囲をも」における「をも」は,「を」という格助詞と「も」という係助詞からなっていて,先に述べてきた事項とは,関連してはいても,別の事項を取り上げるときにしか用いられない語である。 したがって,「また」の先の文章において,原告主張のとおり,光軸方向での読み取り可能範囲に関して説明されていたとしても,「また」の後においては,光軸方向での読み取り可能範囲に関する事項の説明ではなく,それと関連はしていても異なる事項である「読取可能な表示情報の範囲」についての記載となっているものと解するのが相当である。 甲第4号証によれば,引用刊行物1において,原告のいう「光軸方向での読み取り可能範囲」に関しては,「光電変換素子上に焦点が合う,表示情報の位置」と表現しており,「表示情報の位置」と「表示情報の範囲」とで用語を明らかに使い分けていることが認められる。このことも,上記の認定を裏付けるものというべきである。 甲第4号証によれば,引用刊行物1のその他の部分にも,上記解釈を妨げるような記載を見出すことはできないことが,明らかである。 (2) 原告は,引用刊行物1に記載されている引用発明1は,指示用LED14a,14bを用いて光軸の軸線方向の距離についてのガイドを行う技術であるとし,これを根拠に,引用刊行物1にいう「読取可能な表示情報の範囲」は,光軸方向での読み取り可能範囲を意味しているものであり,当業者においても,それが,バーコード等の範囲を示すものであるとは読み取ることができない旨主張する。 しかしながら,原告の主張は,光軸の軸線方向の距離についての行う技術であることと,読み取り面の表示範囲内におけるバーコード等の表示情報の読み取り可能な範囲を明らかにする技術であることとが,互いに排斥し合う関係にあることを当然の前提にして,初めて成り立つものであるのに,そのような前提が認められないことは,何ら明らかにされておらず,むしろ,このような前提が認められないことが,弁論の全趣旨で明らかである。 原告の主張は,採用できない。 (3) 原告は,被告が取り上げる,引用刊行物1の「2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい」との記載は,それ以前に,一貫してなされている光軸方向の距離についてのガイドの実施例についての説明に引き続いてなされているものである,このような記載に接した光学的情報読取装置の分野の当業者は,上記の「また,2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい。」との記載についても,引き続いて,光軸方向のガイド,すなわち,読み取り深度を示していると理解するものというべきである,と主張する。 しかしながら,前述したとおり,一般的な用語法に従えば, 「また,2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい。」との文言は,光軸方向での読み取り可能範囲に関する事項の説明ではなく,それと関連してもそれとは異なる事項である「読取可能な表示情報の範囲」についての記載となっているものと解すべきものである。したがって,このような記載に接した光学的情報読取装置の分野の当業者が,当該文章の前の説明と同じ事項を説明していると誤って理解することはないものというべきである。 (4) 原告は,引用刊行物1の第1図ないし第4図によれば,同刊行物に記載された指示用点照明14a,14bは,バーコード19の周囲でなくバーコードの中央部を指示していることが明らかである,確かに,引用刊行物1には,他の例として点照明を複数用いてもよいという記載はあるものの,その点照明の位置は,全く明らかでなく,少なくとも,指示用点照明がバーコード19の周囲を照射する技術が開示されていないことは,明白であると主張する。 確かに,引用刊行物1の第1図から第4図までの図の記載によれば,指示用LED14a,14bはレンズの主光軸上で重複するように主光軸に対して対称に配置されている(別紙図面(2)参照)。しかしながら,第1図ないし第4図は,引用刊行物1における,レンズの主光軸上で光線を重複させるという,指示用点照明に関する技術に対応して記載されているのであるから,それに対応するものがそれらに示されていることは,当たり前のことである。 そもそも,引用刊行物1における,レンズの主光軸上で光線を重複させるという,指示用点照明に関する技術は,点照明によってバーコードを照射するという技術を前提とするものであることは,いうまでもないところである。そして,点照明によってバーコードを照射するという技術おいて,照明対象である照明位置を,バーコードの中央部に限定しなければならないものでないことは,いうまでもないことである。 要するに,バーコードの中央部であるにせよ,その周囲であるにせよ,その目的に応じて適宜照射し得るようにすることは,点照明によってバーコードを照射するという技術を適用するに当たっての単なる設計事項にすぎないものというべきであるから,引用刊行物1に,指示用点照明がバーコード19の周囲を照射する技術そのものは具体的には開示されていないとしても,引用刊行物1に,「2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい」という記載があれば,当業者であれば,当然に,ガイド光が読み取り対象の周囲を照射するものと理解することができるものというべきである。 原告の上記主張は,失当である。 (5) 原告は,点照明を4つあるいは6つとした読取装置において,各点照明が読み取り視野を指示するようにすると,多数の光がバーコードの周囲に向かって照射されることになる,そのため,読み取り対象の面に照射された多数のガイド光点の位置関係が,光軸方向の距離によって複雑に変化し,操作する者にとまどいを与える結果になり,読取装置の総合的な性能を損なってしまうものと推察される,したがって,引用刊行物1の,「2組以上の点照明で,読取可能な表示情報の範囲をも指示するようにしてもよい」という記載から,ガイド光が読み取り対象の周囲を照射するものと理解することはできない,と主張する。 しかしながら,本件全証拠によっても,読取装置において,点照明を4つあるいは6つとして読み取り視野を指示することで,操作する者が,使用するに耐え難いほどの,とまどいを与えたり,読取装置の総合的な性能を損なったりするという事情を見いだすことはできない。 したがって,原告の主張は,前提において既に誤っているものというべきである。 (6) 以上によれば,引用発明1について「この2組以上の点照明が現在の走査位置及び読取可能範囲を知らしめていることは明らかである。」と認定した本件決定に誤りはない,というべきである。 4 以上のとおり,本件決定の,引用発明1の認定には誤りはないから,この認定の誤りを前提とする,訂正発明と引用発明1とが同一でない,引用発明1に基づいて当業者が容易に訂正発明をすることができたものでない,訂正発明と引用発明2との相違点に引用発明1を適用することによって当業者が容易に訂正発明をすることができたものでない,とする原告の主張は,いずれも,理由がないことに帰する。 5 結論 そうすると,原告主張の本件決定の取消事由は,いずれも理由がないことが明らかであり,その他本件決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 宍戸充 |