関連審決 | 審判1999-12755 |
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関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の判断 / 周知技術 / 慣用技術 / 技術常識 / 実施 / 拒絶査定 / 請求の理由 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
44号
審決取消請求事件
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原告 シチズン時計株式会社 訴訟代理人弁理士 吉田研二、金山敏彦、石田純、橋本信吾 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 麻野耕一、田良島潔、小林信雄、茂木静代 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/02/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年審判第12755号事件について平成12年11月13日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成3年7月4日、「磁気ディスク装置」なる発明について特許出願(平成3年特許願第164733号)をし、平成11年7月2日拒絶査定があり、 同年8月11日審判を請求したが(平成11年審判第12755号)、平成12年11月13日、本件審判請求は成り立たないとの審決があり、その謄本は平成13年1月10日原告に送達された。 2 本願発明(請求項1に係る発明)の要旨(請求項1には、「前記支持薄片」と記載されているが、「支持薄片」という記載はほかにないので「前記支持薄板」の誤記である。) 磁気ディスクのリードライトを制御するディスクコントローラ回路と、前記ディスクコントローラ回路と積層配置され、その内部に記録情報を磁気的にリードライト可能な磁気ディスクが内蔵されたディスクエンクロージャと、を含み、 前記ディスクエンクロージャは、 少なくとも、前記磁気ディスクと、この磁気ディスクを高速回転するスピンドルモータと、前記磁気ディスクの径方向にリードライトヘッドを移動させて所望のトラック位置に静止保持させるリードライトヘッドアクチュエータと、リードライトアンプ回路基板と、さらにこれらの各構成要素を気密状態で内蔵するハウジングとを含み、 前記磁気ディスクはその両面に磁気記録面を有する外形が約65mmの大きさからなり、 前記スピンドルモータは薄型軸受けを有し、 前記リードライトヘッドアクチュエータは、コイルを備えた低慣性小型ボイスコイルモータと、ハウジングに固定されたボイスコイルモータ回転軸の外周に回転可能に2個重ねて取り付けられたベアリングの外周部に前記ボイスコイルモータと前記リードライトヘッドとを支持可能に配置されたアーム体であって、前記ベアリングを2個重ねた高さとほぼ同じ高さを呈し、その高さ方向の中間位置が、前記ボイスコイルモータのコイルの厚さ方向の中間位置と前記リードライトヘッドの高さ方向の中間位置と前記2個のベアリングの高さ方向における中間位置とをほぼ一致させたアーム体を含み、 前記リードライトアンプ回路基板は、支持薄板に固定されたフレキシブルプリントサーキットで構成され、 前記フレキシブルプリントサーキットは、電子部品を載置する平面部と、当該平面部と前記アーム体とを結ぶ細長いリード部とからなり、前記支持薄板は、前記平面部を固定するための平坦部と前記平面部とリード部の切り替わり部分を固定するための平坦部から垂直に立ち上がった立ち上げ壁を含み、 前記ハウジングは外面がほぼ平坦なハウジングベースと、同様に外面がほぼ平坦なハウジングカバーと、両ベース、カバー間を気密にシールするパッキンとを含み、その外形は長さ方向約96mm、幅方向約70mmそして厚み方向が約8.5mmに設定され、 前記ディスクコントローラ回路は前記ディスクエンクロージャのハウジングに固定配置されたディスクコントローラ回路基板を有し、 ディスクエンクロージャとディスクコントローラ回路の合計厚みが約12.7mmに設定されていることを特徴とする磁気ディスク装置。 3 審決の理由の要点 (1) 引用刊行物記載の発明 原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前である平成3年2月21日に公開されたPCT公開パンフレット91/02349(引用例)には、ディスク駆動装置の発明に関して、概略次の事項が記載されているものと認められる。 (1-1)「ディスクの外形が約65mmの大きさである。」(請求項9等)(1-2)「ベースと、回転可能な記憶手段と、リード・ライト手段と、インターフェースと、外気から密閉するカバーとを有する。」(請求項6等)(1-3)「ディスク駆動機構は4インチ×2.75インチ×0.7インチである。」(請求項6等)(1-4)「ベース20とカバー24との間のガスケットが密閉環境をもたらしている。」(10頁24〜27行目)(1-5)「ヘッド40のピン42はPCB(プリント回路基板)36のコネクタ43に直接差し込まれる。第2,3図に示すように、制御された環境内にはディスク44,ディスク44の第1及び第2面に情報を書込み、そして読み出すトランスデューサ(またはヘッド)46、トランスデューサ46をディスク44に対して位置決めするアクチュエータ48、そしてディスク44を支持し回転させるスピンモータ50を有する。」(15頁10〜17行目) (1-6)「アクチュエータアーム56を回動させるのに必要な力は、コイル58と磁石100からなるボイスコイルモータによって与えられる。」(16頁25〜28行目)(1-7)「図14において、マイクロコントローラ224と最小数の制御支持回路がディスク駆動装置のすべての機能を指示する。」(19頁10〜12行目)(1-8)「スライダーと磁気要素との組合せ機構がヘッドとして知られている。」(27頁15〜16行目)(1-9)「リバースフレックス回路120は、ヘッダーピン42からの電気信号をヘッド46とアクチュエータの部品48へ伝達する。このリバースフレックス回路120は3つの部分からなる。1つ目の部分はアクチュエータコイル58に電流を送る部分であり、2つ目は第3の部分であるデータ搬送部分を第1の部分と分離するための接地面である。」(29頁19〜26行目) そして、引用例に記載された「ディスク駆動装置」は、そのヘッドがスライダーと磁気要素との組合せからなることから、「磁気ディスク装置」であることは明らかである。また、該磁気ディスクのリードライトを制御する回路を有することは自明の事項である。したがって、上記記載及び対応する図面を参照すれば、引用例には、 「磁気ディスクのリードライトを制御するディスクコントローラ回路と、前記ディスクコントローラ回路と積層配置され、その内部に記録情報を磁気的にリードライト可能な磁気ディスクが内蔵されたディスク駆動機構と、を含み、 前記ディスク駆動機構は、 少なくとも、前記磁気ディスクと、この磁気ディスクを回転するスピンモータと、前記磁気ディスクの径方向にリードライトヘッドを移動させて所望のトラック位置に静止保持させるアクチュエータと、リバースフレックス回路と、さらにこれらの各構成要素を気密状態で内蔵するベースとカバーとを含み、 前記磁気ディスクはその両面に磁気記録面を有する外形が約65mmの大きさからなり、 前記リードライトヘッドアクチュエータは、コイルを備えたボイスコイルモータと、ベースに固定されたボイスコイルモータ回転軸の外周に回転可能に2個取り付けられたベアリングの外周部に前記ボイスコイルモータと前記リードライトヘッドとを支持可能に配置されたアーム体とを含み、 前記リバースフレックス回路は、電子部品を載置する平面部と、当該平面部と前記アーム体とを結ぶ細長いリード部とからなり、 ベースとカバーからなる密閉構造は、ベースは外面がほぼ平坦で、同様に外面がほぼ平坦なカバーと、両ベース、カバー間を気密にシールするガスケットとを含み、その外形は長さ方向4インチ、幅方向2.75インチそして厚み方向が0.7インチに設定され、 前記ディスクコントローラ回路は前記ベースに固定配置されたPCBを有していることを特徴とする磁気ディスク装置。」の発明が記載されている。 (2) 対比 本願発明と引用例に記載された発明とを対比すると、引用例に記載された「スピンモータ」、「アクチュエータ」「アクチュエータアーム」「ベースとカバー」「ガスケット」及び「PCB」は、本願発明の「スピンドルモータ」、「リードライトヘッドアクチュエータ」「アーム体」「ハウジング」「パッキン」及び「ディスクコントローラ回路基板」に相当する。また、引用例に記載された発明では、ベースとカバーとから形成される密閉空間に上記磁気ディスクを内蔵しているので、 これらベースとカバー及び磁気ディスクからなる構成が本願発明の「ディスクエンクロージャ」に相当するものと認められる。さらに、引用例に記載された「リバースフレックス回路120」は、ベースに取り付けられた部分から立ち上がり、湾曲してアーム体に取り付けられているので本願発明の「フレキシブルプリントサーキット」に相当する。 したがって両者は「磁気ディスクのリードライトを制御するディスクコントローラ回路と、前記ディスクコントローラ回路と積層配置され、その内部に記録情報を磁気的にリードライト可能な磁気ディスクが内蔵されたディスクエンクロージャと、を含み、 前記ディスクエンクロージャは、 少なくとも、前記磁気ディスクと、この磁気ディスクを回転するスピンドルモータと、前記磁気ディスクの径方向にリードライトヘッドを移動させて所望のトラック位置に静止保持させるリードライトヘッドアクチュエータと、リードライトアンプ回路基板と、さらにこれらの各構成要素を気密状態で内蔵するハウジングとを含み、 前記磁気ディスクはその両面に磁気記録面を有する外形が約65mmの大きさからなり、 前記スピンドルモータは軸受けを有し、 前記リードライトヘッドアクチュエータは、コイルを備えたボイスコイルモータと、ハウジングに固定されたボイスコイルモータ回転軸の外周に回転可能に取り付けられたベアリングの外周部に前記ボイスコイルモータと前記リードライトヘッドとを支持可能に配置されたアーム体を含み、 前記リードライトアンプ回路基板は、フレキシブルプリントサーキットで構成され、 前記フレキシブルプリントサーキットは、電子部品を載置する平面部と、当該平面部と前記アーム体とを結ぶ細長いリード部とからなり、 前記ハウジングは外面がほぼ平坦なハウジングベースと、同様に外面がほぼ平坦なハウジングカバーと、両ベース、カバー間を気密にシールするパッキンとを含み、その外形は幅方向約70mmに設定され、 前記ディスクコントローラ回路は前記ディスクエンクロージャのハウジングに固定配置されたディスクコントローラ回路基板を有していることを特徴とする磁気ディスク装置。」である点で一致し、 (ア)スピンドルモータが、本願発明では「薄型軸受け」を有する点、及びボイスコイルモータが、本願発明では「低慣性小型」のものであり、回転軸の外周にベアリングが2個重ねて取り付けられている点、及び (イ)リードライトヘッドアクチュエータが、本願発明では「前記ベアリングを2個重ねた高さとほぼ同じ高さを呈し、その高さ方向の中間位置が、前記ボイスコイルモータのコイルの厚さ方向の中間位置と前記リードライトヘッドの高さ方向の中間位置と前記2個のベアリングの高さ方向における中間位置とをほぼ一致させた」構成であるのに対し、引用例に記載された発明では、この構成が不明である点、及び (ウ)本願発明では、リードライトアンプ回路基板が、「支持薄板に固定され」ており、この支持薄板が「平面部を固定するための平坦部と前記平面部とリード部の切り替わり部分を固定するための平坦部から垂直に立ち上がった立ち上げ壁を含」む構成としているのに対し、引用例に記載された発明ではこの点が不明である点、及び (エ)ハウジングの外形が、本願発明では「長さ方向約96mm、幅方向約70mmそして厚み方向が約8.5mmに設定され」「ディスクエンクロージャとディスクコントローラ回路の合計厚みが約12.7mmに設定されている」のに対し、 引用例に記載された発明では幅方向の数値が一致するのみである点で相違している。 (3) 相違点についての審決の判断 相違点(ア) 「薄型」及び「低慣性小型」という記載は、相対的な表現であって、モータの構成を限定するものではなく、かつ、装置の薄型化あるいは小型化のために薄型モータ、あるいは小型モータを用いることは慣用技術であり、また、磁気ディスク装置等のように短時間に位置制御する用途に用いるモータとしては低慣性である方がよいことは、当該分野の技術常識であるので、これらの点は構成の実質的な相違とは認められない。また、「ベアリングが2個重ねて取り付けられ」た点は、回転軸を軸方向に短くする場合にベアリングが大きいままであれば当然得られる結果にすぎず、この記載で軸方向の高さを限定することにはならないばかりでなく、ベアリング自体を何ら特定することなく単にベアリングを重ねる構成とするだけのことは単に軸方向を短くしたい長さにしたにすぎないものであって、必要に応じて適宜設計し得る事項といわざるを得ない。 相違点(イ) 「ベアリングを2個重ねた高さ」については、前記したように、高さ自体を限定する意味はなく、かつ、2つの軸受けの両端とほぼ同じ高さのアーム体を有する磁気ディスク装置は周知(例.特開平2-94183号公報(第3図に記載された上下アーム11の形成する高さは2つの軸受け14の両端のとほぼ同じ高さである。),実願平1-25139号(実開平2-117770号)のマイクロフィルム(図9に記載された軸受け部8とスイングアーム9の高さの関係はほぼ同じである)を参照)の技術である。したがって、相違点(イ)は必要に応じて当業者が適宜設計し得る事項と認められる。 相違点(ウ) フレキシブルプリント基板を補強するために支持薄板に固定する構成は周知(例.特開昭63-314884号公報(この文献には、フレキシブルプリント基板4の屈曲部を補強するための補強板5等を有する発明が記載されている。),実願平1-25137号(実開平2-117767号)のマイクロフィルム(この文献には、電子部品を載置する平面部と、この平面部とアーム体とを結ぶ細長いリード部とからなるフレキシブルプリントサーキット101の平面部を固定する平坦部89と、前記平面部とリード部の切り替わり部分を固定するためのケーブルガイド96を取り付ける、平坦部から垂直に立ち上がった立ち上げ壁97を有する発明が記載されている。)参照)の事項であり、フレキシブルプリント基板が平面部と、 該平面部から垂直に立ち上がった部分とからなる構成が引用例に記載されているので、この引用例に記載されたフレキシブルプリント基板に上記周知の構成を適用して本願発明のような支持構成とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。 相違点(エ) ハウジングの外形の寸法は、内部に収納する部品の寸法等に応じて最小値が決まるものであり、内部に収納する部品の大きさはまた、その構成要素に応じて決まるものである。そしてそれらの部品自体については、引用例に記載されたものと格別には相違しないことは上記のとおりであり、また従来の装置との互換性を得ようとすること自体は常套手段であるから、上記寸法の相違については必要に応じて任意に設計し得る事項にすぎない。 なお原告は、審判請求の理由において、本願発明では、アーム体の高さがボイスコイルモータの回転軸に取り付けられたベアリングの高さとほぼ同じになり、ハウジング内部に収納されるリードライトヘッドアクチュエータの高さ寸法を回転駆動に必要とされるベアリングの性能に基づくベアリング高さに応じて必要最小限度に押さえることが可能になり、磁気ディスク装置の厚みの低減に寄与することができる。さらに、アーム体の高さ方向の中間位置を、ボイスコイルモータのコイルの厚さ方向の中間位置と前記2個のベアリングの高さ方向における中間位置と前記リードライトヘッドの高さ方向の中間位置とほぼ一致させることによって、ボイスコイルモータの駆動トルクを効率よくリードライトヘッド側に伝達することが可能になる。等の効果を主張しているが、ベアリングと同じ高さという点については上記のとおり、回転軸の長さと同等の構成と認められるところ、このような構成及び厚さ方向の中間位置に配置する構成は上記周知例に記載されているように周知のもので、この点は格別なものとはいえず、得られる効果もその構成に本来的に備わっている範囲内のものと認められることから、原告の主張は採用できない。 (4) 審決のむすび したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 審決は、引用例の軸受構造が「軸固定型」であると誤認している。 審決は、引用例記載の発明について「前記リードライトヘッドアクチュエータは、コイルを備えたボイスコイルモータと、ベースに固定されたボイスコイルモータ回転軸の外周に回転可能に2個取り付けられたベアリングの外周部に前記ボイスコイルモータと前記リードライトヘッドとを支持可能に配置されたアーム体とを含み」と認定する。 しかし、引用例の図3においては、軸受カートリッジ54の外周がベース20に固定され、軸受カートリッジ54の内周部によって軸52が回転自在に支持されて、この回転軸52にアクチュエータアーム56が固定されている。かかる構造は、軸受けがその外周で固定され、その回転自在な内周で支持された軸が回転するもので、いわゆる「軸回転型」支持構造と呼ばれるものである。この「軸回転型」構造の軸受構造を用いて、アクチュエータアーム56を自由に回転させるためには、軸受カートリッジ54の外周はベース20に固定されているので、結局、軸受カートリッジ54の内周部で支持された回転自在の軸52を軸受カートリッジ54から突き出してその上にアクチュエータアーム56を取り付ける構造を取らざるを得ない。つまり回転軸を含めたアクチュエータアーム56の高さは、軸受カートリッジ54の高さをはるかに越えてしまい、軸受カートリッジ54とほぼ同じ高さにすることは不可能である。 これに対して、本願発明の構造は、本願図面の図1において明らかなように、ハウジング11に固定されたボイスコイルモータ(VCM)回転軸36の外周に回転可能に2個重ねて取り付けられたベアリング37、38の外周部に、アーム体40が固定される。かかる軸受構造は、軸が固定されて、その軸に軸受の内周が取り付けられ軸受の外周が回転自在であるところの、いわゆる「軸固定型」支持構造と呼ばれるものである。そして本願発明のアーム体は、その固定された回転軸の外周に回転可能に2個重ねて取り付けられたベアリングの、その外周部に配置されているのであるから、回転可能なベアリングの外周部にアーム体を取り付けることができ、アーム体の高さは容易に軸受けの高さに合わせることができる。 したがって、審決は、引用例に記載された軸受構造について、いわゆる「軸回転型」支持構造軸受であって、回転軸を含めたアクチュエータアームの高さを軸受カートリッジとほぼ同じ高さにすることは不可能なのに対して、これをいわゆる「軸固定型」支持構造であって、アーム体の高さを軸受部分の高さとほぼ同じ高さにし得るものと誤って認定し、本願発明との相違を看過したものである。 被告は、引用例に記載されたモータ回転軸が、中心軸を固定する軸固定型であるという認定はしておらず、そのゆえに審決では、軸と軸受けに関する部分については、相違点(イ)として摘示しているのであると主張するが、審決の相違点(イ)は、単に、本願発明のベアリングとボイスコイルモータ及びリードライトヘッドとの構造関係は引用例には明示されていないとしたものである。そうであるならば、 この審決の相違点(イ)の記述は、ボイスコイルモータ回転軸が軸固定型であるか否かとは関係がない。 (2) 審決は、引用例のリバースフレックス回路にリードライトアンプ回路が載置されていると認定するが、誤りである。 審決は、引用例記載の発明と本願発明との一致点として「前記リードライトアンプ回路基板は、フレキシブルプリントサーキットで構成され、前記フレキシブルプリントサーキットは、電子部品を載置する平面部と、当該平面部と前記アーム体とを結ぶ細長いリード部とからなり」と認定している。 一方で、審決は、引用例に「リバースフレックス回路120は、ヘッダーピン42からの電気信号をヘッド46とアクチュエータの部品48へ伝達する。このリバースフレックス回路120は3つの部分からなる。1つ目の部分はアクチュエータコイル58に電流を送る部分であり」との記載のあることを認め、次に「データ搬送部分」があるとし、もう一つは、これら2つの部分を「分離するための接地面である」との記載があることを認めている。この記載からは、リバースフレックス回路120は上記3つの部分からなり、リードライトアンプ回路を持たないことを示している。 このことは、引用例のディスク駆動装置のプリント回路基板36はコントロール手段であり(11頁22行〜26行、部分訳(3))、図14にはリードライトコントローラ236がそのコントロール手段であるプリント回路基板に含まれていることからも明らかである。 このように、引用例のリバースフレックス回路120はリードライトコントローラ236などの電子部品が載置されていない、いわゆる「フレキシブルな単なるリード線」であり、このことは図2において電子部品が一切示されていないことからも明らかである。リードライトコントローラ236は他の電子部品とともに、ヘッドから遠く離れたプリント回路基板36に載置されている。 これに対し、本願発明においては、名称自体がリードライトアンプ回路基板なるもので構成され、ヘッドの近くにリードライトアンプ回路を配置することで、ヘッドから得られる微小電圧信号に外部ノイズが混入することを防ぐ(本願明細書段落【0020】)ものであって、本願図面の図4にもその配置が明らかに示されている。 したがって、審決は引用例記載の発明の認定において、リバースフレックス回路はリードライトアンプ回路が載置されていない、いわゆる「フレキシブルな単なるリード線」であるのに、リードライトアンプ回路がある「電子部品実装基板」であると誤って認定し、本願発明との相違を看過したものである。すなわち、審決は引用例記載の発明の認定において、リバースフレックス回路は、電子部品が載置されていない、いわゆる「フレキシブルな単なるリード線」であるのに、電子部品が載置されている「電子部品実装基板」であると誤って認定し、本願発明との相違を看過したものである。 (3) 審決は、引用例のベースは外面がほぼ平坦であると誤認している。 審決は、引用例の「ベースは外面がほぼ平坦」と認定しているが、引用例の図1に「取り付け突起26a-d」(11頁2行〜6行、部分訳(2))、図3にはスピンドルモータ50(15頁17行、部分訳(4))及び軸52の突出部がある。 したがって引用例のベースの外面が多くの取り付け突起・突出部を有しているものであるところ、これをほぼ平坦であると誤って認定し、本願発明との相違を看過したものである。 2 取消事由2(相違点の判断の誤り) (1) 審決は、本願発明の小型化技術が単なる設計事項であると誤った判断をしている。 審決は相違点(ア)の判断の前半において、「「薄型」及び「低慣性小型」という記載は、相対的な表現であって、モータの構成を限定するものではなく、かつ、 装置の薄型化あるいは小型化のために薄型モータ、あるいは小型モータを用いることは慣用技術であり、また、磁気ディスク装置等のように短時間に位置制御する用途に用いるモータとしては低慣性である方がよいことは、当該分野の技術常識であるので、これらの点は構成の実質的な相違とは認められない。」と判断し、また相違点(エ)の判断の前段において、「ハウジングの外形の寸法は、内部に収納する部品の寸法等に応じて最小値が決まるものであり、内部に収納する部品の大きさはまた、その構成要素に応じて決まるものである。そしてそれらの部品自体については、引用例に記載されたものと格別には相違しないことは上記のとおりであり、また従来の装置との互換性を得ようとすること自体は常套手段であるから、上記寸法の相違については必要に応じて任意に設計し得る事項にすぎない。」と判断している。 しかし、引用例は、その9頁6行から20行にかけて、「現在におけるパーソナルコンピュータやワークステーションに用いられているディスク駆動装置技術につながる、数多くのディスク駆動装置技術における開発が5.25インチディスク駆動装置についてなされて、ついで3.5インチディスク駆動装置に取り入れられた。5.25インチから3.5インチディスク駆動装置へのこれらの開発成果の移転においては、ほとんどの部品が同じままで、何の工夫も無く3.5インチディスク駆動装置に移された。」(部分訳(1))が、しかし「3.5インチディスク駆動装置より小さいディスク駆動装置を設計することは、いくつかの工業的標準部品・・・の再設計の挑戦を意味した」(部分訳(1))と記載している。このことからも明らかなように、3.5インチディスク駆動装置から2.5インチディスク駆動装置の進化段階においては著しい技術課題の差がみられ、本願発明の2.5インチディスク駆動装置の実現には、従来技術の単なる設計変更では解決不可能な課題が存在する。 (2) 審決は、本願発明のベアリングを2個重ねた軸受構造を単なる設計事項と誤認している。 審決は、相違点(ア)の判断の後半において、「「ベアリングが2個重ねて取り付けられ」た点は、回転軸を軸方向に短くする場合にベアリングが大きいままであれば当然得られる結果にすぎず、この記載で軸方向の高さを限定することにはならないばかりでなく、ベアリング自体を何ら特定することなく単にベアリングを重ねる構成とするだけのことは単に軸方向を短くしたい長さにしたにすぎないものであって、必要に応じて適宜設計し得る事項といわざるを得ない。」と判断し、また相違点(イ)の判断において、特開平2-94183号公報、実願平1-25139号(実開平2-117770号)のマイクロフィルムを引用して、「「ベアリングを2個重ねた高さ」については、前記したように、高さ自体を限定する意味はなく、かつ、2つの軸受けの両端とほぼ同じ高さのアーム体を有する磁気ディスク装置は周知・・・の技術である。したがって、相違点(イ)は・・・当業者が適宜設計し得る事項と認められる。」と判断している。 しかし、本願発明のような2.5インチディスク駆動装置においては、薄型化の明確な課題が存在する。従来の装置は以下の二つの方向を目指すのみでいずれも前記課題を解決するに至らなかった。すなわち、第一の方向は、精度を保持するため2個の軸受けを従来のようにある距離を離して用い、薄型化を犠牲にすることである。そして第二の方向は、軸受けを1個にして高さを減少させるが、精度を犠牲にすることである。 引用例記載の発明は、この解決のために2個の軸受けを用い、その間隔を離した。したがって、軸受けはアーム高さで定まるベースの中には収まらず、この結果ベースから軸受部分が突き出る構造となりベース外に配置されて、ベースに軸受ハウジングを固定した「軸回転型」となった。これが引用例の軸受構造に関する技術的思想である。 これに対して本願発明は、軸受けを2個重ねてハウジング内に配置し、ハウジングの外面をほぼ平坦にした。さらに、かかる薄型構造を生かすためにはアーム高さと軸受け高さをほぼ同じにする必要があり、そのために回転軸を固定しその周りにアーム体が回転する「軸固定型」を採用した。したがって、本願発明と引用例記載の発明とは軸受構造の薄型化に関する技術的思想が全く異なる。 このように、本願発明は引用例記載の発明と全く異なる技術思想を採用することにより、2.5インチディスク駆動装置の厚みを19mm(3/4インチ)から12.7mm(1/2インチ)と33%もの薄型化を一気に実現するという顕著な効果をもたらしたものである。 したがって、審決は、軸受構造における本願発明の2.5インチディスク駆動装置で初めて生じた困難な固有の技術課題及びその顕著な効果を何ら考慮せず、ベアリングを2個重ねた軸受構造を、必要に応じて当業者が適宜設計し得る事項と誤って判断したものである。 (3) 審決は、相違点(ウ)の判断の後段で、実願平1-25137号(実開平2-117767号)のマイクロフィルムに示す周知技術について「電子部品を載置する」と判断している。 しかし、この周知例のどこにも、いかなる部分にヘッドアンプ部が載置されているかは明らかにされていない。したがって、審決が、引用例に記載されたフレキシブルプリント基板に上記周知の構成を適用して、本願発明のような構成とすることは当業者が容易になし得たことと認められると判断したのは、誤りである。 |
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審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対して (1) 審決は、引用例に記載された発明の認定において、軸受け構造に関して、 「前記リードライトヘッドアクチュエータは、コイルを備えたボイスコイルモータと、ベースに固定されたボイスコイルモータ回転軸の外周に回転可能に2個取り付けられたベアリングの外周部に前記ボイスコイルモータと前記リードライトヘッドとを支持可能に配置されたアーム体とを含み、」と認定しており、これは、「ボイスコイルモータ」自体が「ベースに固定され」ていることを意味し、「ベースに固定されたボイスコイルモータ(の)回転軸の外周に」、「回転可能に2個取り付けられたベアリングの外周部に・・・を支持可能に配置されたアーム体とを含み、」ということを意味する。したがって、審決は、引用例には、「ベースに固定されたボイスコイルモータの、回転軸の外周に回転可能に取り付けられた2個のベアリングよりもさらに外側には、ボイスコイルモータとリードライトヘッドとを支持可能に配置されたアーム体を含む」、という構成が記載されていることを指摘したものであって、引用例に記載されたモータ回転軸が、中心軸を固定する軸固定型であるという認定はしていない。そのゆえに審決では、軸と軸受けに関する部分については、相違点(イ)として摘示しているのである。 上記「前記リードライトヘッドアクチュエータは、コイルを備えたボイスコイルモータと、ベースに固定されたボイスコイルモータ回転軸の外周に回転可能に2個取り付けられたベアリングの外周部に前記ボイスコイルモータと前記リードライトヘッドとを支持可能に配置されたアーム体とを含み、」という記載が、日本語の表現の解釈として「・・・固定されたボイスコイルモータ(の)回転軸の・・・」と解釈でき、「モータ回転軸を固定」しているとしか解釈できないものではないことは、明らかである。 そして、本願発明をみても「軸固定型」とは記載されておらず、本願発明の「・・・固定されたボイスコイルモータ回転軸の外周に回転可能に・・・」という記載が、ボイスコイルモータの回転軸が「軸固定型」であるとしか解釈できないものではないことは上記のとおりであり、かつ、「・・・固定されたボイスコイルモータ(の)回転軸の・・・」と解釈した上で、この部分における構成上の相違点は、相違点(イ)として摘示しているのであるから、ここに相違点の看過はなく、 原告の主張は失当である。 (2) 原告は、審決が引用例のリバースフレックス回路にリードライトアンプ回路が載置されていると誤認している旨主張するので、この点について反論する。 そもそも、本願明細書の記載をみると、請求項1には「磁気ディスクのリードライトを制御するディスクコントローラ回路と、前記ディスクコントローラ回路と積層配置され、その内部に記録情報を磁気的にリードライト可能な磁気ディスクが内蔵されたディスクエンクロージャと、を含み、前記ディスクエンクロージャは、・・・リードライトアンプ回路基板と、・・・とを含み、」と記載されており、原告の主張する、「名称自体が「リードライトアンプ回路基板」」である基板自体は、ディスクエンクロージャ内に存在するので、ディスクエンクロージャと積層配置された、「磁気ディスクのリードライトを制御する・・・回路」を含まないものであることは明らかである。 そもそも本願発明の「リードライトアンプ回路基板」は「ディスクエンクロージャ」内にあって、積層配置される「磁気ディスクのリードライトを制御する回路」を有さず、名称自体が「リードライトアンプ回路基板」であっても「支持薄板に固定されたフレキシブルプリントサーキットで構成され」るものであり、「前記フレキシブルプリントサーキットは、(電子部品を載置する)平面部と、当該平面部と前記アーム体とを結ぶ細長いリード部とからなり」としか請求項1に記載されていないことからして、本願発明は「リードライトアンプ回路」を含んでいると認定することはできないのである。 (3) 原告は、審決が引用例のベース外面がほぼ平坦であると認定しているのが誤りである旨主張するが、「ほぼ平坦」とは、完全な平坦ではなく、凹凸の許容の程度が示されていない以上、何をもってほぼ平坦とするかは主観的なものである。本願明細書及び図面に記載された唯一の実施例において、ハウジングベース(12)は、固定ねじ穴部(12b)を設ける突出部を有しており(図3参照)、このようなハウジングベースを「ほぼ平坦」という以上、引用例の第1図に記載された突起26や、同第3図に記載された突起50のようにわずかな突出部を有しても「ほぼ平坦」ではないとはいえず、「ほぼ平坦」であるとした審決に相違点の看過はない。 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)に対して (1) 原告は、審決における、相違点に対する判断の(ア)の前半及び(エ)の前段について、小型化技術が単なる設計事項とする判断が誤りである旨主張するが、 原告が認め、引用例に記載されているように、(小型化、薄型化には)従来技術の単なる設計変更では解決不可能な課題が存在するのであり、これは、小型化、薄型化が構成を示すものではなく願望である。 したがって、審決の「当審の判断」において、「薄型」及び「低慣性小型」がモータの構成を限定するものではなく、構成の実質的な相違ではないとした認定に誤りはない。 (2) 薄型化自体が一般的な発明の目的として存在することは明らかであり、その達成のために軸を短くする手段が存在する。2個の軸受けを距離を離さずに配置すれば、これと同じ2個の軸受けを距離を離して用いた場合より高さが小さくなることは、周知の事項として原告が認めているものである。 そして、本願発明には、「ベアリングを2個重ねた高さとほぼ同じ高さ」と記載されているが、そのベアリングの大きさも種類も限定されておらず、この記載から厚さを認定することは不可能である。そして、「軸固定型」の構成が周知であることは前記のとおりであり、審決の判断に誤りはない。 (3) 原告は、審決が、相違点(ウ)の後段で実願平1-25137号(実開平2-117767号)のマイクロフィルムに示す周知技術に「電子部品を載置する」フレキシブルプリントサーキットが記載されていると判断していると主張し、この周知例のどこにも、いかなる部分にヘッドアンプ部が載置されているかは明らかにされていないから本願発明の構成とすることが容易とした判断が誤りである旨主張する。しかし、審決の相違点(ウ)に対する判断では、フレキシブルプリント基板を補強するために支持薄板に固定する構成が周知であることを示すために上記周知例を提示しているのであって、フレキシブルプリントサーキットが電子部品を載置しているとは認定しておらず、「いかなる部分にヘッドアンプ部が載置されているか」は、この部分の審決の認定とは無関係の事項である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 原告は、審決が引用例記載の発明について「リードライトヘッドアクチュエータは、コイルを備えたボイスコイルモータと、ベースに固定されたボイスコイルモータ回転軸の外周に回転可能に2個取り付けられたベアリングの外周部に前記ボイスコイルモータと前記リードライトヘッドとを支持可能に配置されたアーム体とを含み」と認定した点につき、審決は引用例記載の発明の軸受構造が「軸固定型」であると誤認していると主張する。 引用例記載の発明の軸受構造が原告のいう「軸固定型」でなく、「軸回転型」であることについては被告も争うところではないが、審決の引用例記載の発明に関する上記認定中には「軸固定型」とした部分はなく、上記認定中にある「ベースに固定されたボイスコイルモータ回転軸」との表現が必ずしも明確であるということはできないとしても、審決は、引用例記載の発明をもって「軸固定型」と認定したものでないことは明らかである。 審決は、リードライトヘッドアクチュエータの具体的な構造について、本願発明と引用例記載の発明との相違点(イ)として「リードライトヘッドアクチュエータが、本願発明では「前記ベアリングを2個重ねた高さとほぼ同じ高さを呈し、その高さ方向の中間位置が、前記ボイスコイルモータのコイルの厚さ方向の中間位置と前記リードライトヘッドの高さ方向の中間位置と前記2個のベアリングの高さ方向における中間位置とをほぼ一致させた」構成であるのに対し、引用例に記載された発明では、この構成が不明である点」を挙げている。そして、この相違点(イ)に関し、「「ベアリングを2個重ねた高さ」については、前記したように、高さ自体を限定する意味はなく、かつ、2つの軸受けの両端とほぼ同じ高さのアーム体を有する磁気ディスク装置は周知(例.特開平2-94183号公報(第3図に記載された上下アーム11の形成する高さは2つの軸受け14の両端のとほぼ同じ高さである。)、実願平1-25139号(実開平2-117770号)のマイクロフィルム(図9に記載された軸受け部8とスイングアーム9の高さの関係はほぼ同じである)を参照)の技術である。したがって、相違点(イ)は必要に応じて当業者が適宜設計し得る事項と認められる。」と判断しているところである。 甲第6号証によれば、特開平2-94183号公報に「従来の磁気ディスク装置の磁気ヘッド位置決め装置は、第3図に例示するように、下部基板18bに中心軸15の下端を固定し」(1頁右下欄11行〜13行)との記載のあることが認められ、甲第7号証によれば、実願平1-25139号(実開平2-117770号)のマイクロフィルムに「本考案は・・・ディスク駆動装置に関する。」(2頁2行〜5行)との記載、及び「このアクチュエータ駆動機構4は、第9図に示すようにピボット軸受部8を有し、このピボット軸受部8にスイングアーム9が回動自在に支持され、スイングアーム9の先端に磁気ヘッド2が装置されている。・・・このピボット軸受部8には第10図に示すように円筒状の内輪側ホルダ10を有し、この内輪側ホルダ10の貫通孔11には取付けネジ12が挿通され」(8頁13行〜9頁3行)との記載、さらに「取付けネジ12は・・・ベースプレート6のネジ孔42に螺合され、ピボット軸受部8がベースプレート6に固定されている。」(12頁10行〜13行)との記載のあることが認められ、審決は、これらの記載をもって、中心軸ないし軸受部を固定する磁気ディスク装置の具体的な構造が周知技術であるとして示しているのである。 このような審決の説示に照らしても、審決は、原告主張のように、引用例記載の発明の軸受構造が「軸固定型」であると認定したものとみることはできない。 (2) 原告は、審決が本願発明と引用例記載の発明との一致点として「前記リードライトアンプ回路基板は、フレキシブルプリントサーキットで構成され、前記フレキシブルプリントサーキットは、電子部品を載置する平面部と、当該平面部と前記アーム体とを結ぶ細長いリード部とからなり」とした点につき、引用例のリバースフレックス回路に電子部品が載置されていると誤って認定していると主張する。 なるほど、審決が引用する引用例の記載「リバースフレックス回路120は、ヘッダーピン42からの電気信号をヘッド46とアクチュエータの部品48へ伝達する。このリバースフレックス回路120は3つの部分からなる。1つ目の部分はアクチュエータコイル58に電流を送る部分であり、2つ目は第3の部分であるデータ搬送部分を第1の部分と分離するための接地面である。」との部分には、「電子部品」に関する記載は認められない。そして、審決は、他に引用例の「リバースフレックス回路」に「電子部品を載置する」との根拠を明確に示していないから、審決の上記認定の根拠は明確でない。 しかしながら、本願発明の特許請求の範囲には「前記フレキシブルプリントサーキットは、電子部品を載置する平面部と・・・からなり」との記載があるものの、 「電子部品」がどのような電子部品であるかについて、また「電子部品」が実際に載置されているか否かについての限定はない。原告は、本願発明においては、名称自体がリードライトアンプ回路基板なるもので構成され、ヘッドの近くにリードライトアンプ回路を配置することで、ヘッドから得られる微小電圧信号に外部ノイズが混入することを防ぐ(本願明細書段落【0020】)ものであって、本願図面の図4にもその配置が明らかに示されていると主張するが、本願発明の特許請求の範囲には、ヘッドの近くにリードライトアンプ回路を配置するとの構成に関する記載はない。 そうすると、上記のように審決の認定の根拠に明確でない点があるとしても、その点は、本願発明の構成に係るものではなく、引用例記載の発明との対比において審決がした本願発明の進歩性判断に影響を及ぼすものでもない。 (3) 原告は、審決が引用例の「ベースは外面がほぼ平坦」と認定した点につき、 引用例の図1に「取り付け突起26a-d」、図3にスピンドルモータ50及び軸52の突出部が示されており、引用例のベースの外面が多くの取り付け突起・突出部を有しているものであるところ、これをほぼ平坦であると誤って認定し、本願発明との相違点を看過したものであると主張する。 しかしながら、本願発明の特許請求の範囲には、「ハウジングは外面がほぼ平坦なハウジングベース(12)と・・・を含み」との記載があり、本願明細書及び本願図面の図3(甲第2号証)によれば、本願発明の実施例のハウジングベース(12)が固定ねじ穴部(12b)の突出部を有することが示されている。そうすると、本願発明のハウジングベースの「ほぼ平坦」とは突出部を有するものをも意味しており、引用例の図1の突起26や、図3の突起50を有するものも本願発明の「ほぼ平坦」の範囲に含まれるというべきである。したがって、審決に、原告主張の上記相違点の看過があるということはできない。 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 取消事由2の(1)における原告の主張も、審決の相違点(ア)の判断の前半における「「薄型」及び「低慣性小型」との点は相対的な表現であって、モータの構成を限定するものではなく」、「装置の薄型化あるいは小型化のために薄型モータ、あるいは小型モータを用いることは慣用技術」、「磁気ディスク装置等のように短時間に位置制御する用途に用いるモータとしては低慣性である方がよいことは、当該分野の技術常識である」との認定を争うものではないし、相違点(エ)の判断の前段における「ハウジングの外形の寸法は、内部に収納する部品の寸法等に応じて最小値が決まるものであり、内部に収納する部品の大きさはまた、その構成要素に応じて決まる」、「それらの部品自体については、引用例に記載されたものと格別には相違しない」との点、及び「従来の装置との互換性を得ようとすること自体は常套手段である」との点を争うものではない。そして、原告主張のように、 3.5インチディスク駆動装置から2.5インチディスク駆動装置の進化段階においては著しい技術課題の差がみられるとしても、その点が、相違点に関する審決の判断に影響を及ぼすものとは認められない。 (2) 原告は、審決は、本願発明のベアリングを2個重ねた軸受構造を単なる設計事項と誤認していると主張するが、従来の装置の目指す方向として、精度を保持するため2個の軸受けをある距離を離して用い薄型化を犠牲にすることは原告も認めているところである。これによれば、2個の軸受け間の距離と薄型化との関係は従来から考えられていたということができ、薄型化を犠牲にしないのであれば、2個の軸受けを距離を離さずに用いればよいことは明らかである。そうすると、原告主張の薄型化の効果は、このような従来から考えられていたことによるものであり、 また、薄型化自体が一般的な課題・効果であることを考慮すれば、これを格別のものということはできない。 したがって、原告の上記主張は理由がない。 (3) 原告は、審決が相違点(ウ)の判断の後段で実願平1-25137号(実開平2-117767号)のマイクロフィルムに示す周知技術について「電子部品を載置する」と判断した点につき、この周知例のどこにも、いかなる部分にヘッドアンプ部が載置されているかは明らかにされておらず、引用例に記載されたフレキシブルプリント基板に上記マイクロフィルムに記載された周知の構成を適用して、本願発明のような構成とすることは当業者が容易になし得たことと認められるとした審決の判断は誤りであると主張する。 しかしながら、審決は、相違点(ウ)について、「フレキシブルプリント基板を補強するために支持薄板に固定する構成は周知(例.・・・実願平1-25137号(実開平2-117767号)のマイクロフィルム(この文献には、電子部品を載置する平面部と・・・を有する発明が記載されている。)参照)の事項であり・・・引用例に記載されたフレキシブルプリント基板に上記周知の構成を適用して本願発明のような支持構成とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。」と判断しているのであって、審決は「フレキシブルプリント基板を補強するために支持薄板に固定する構成は周知」との認定の立証のために上記周知例を引用しているのであり、原告主張の上記の点は、「フレキシブルプリント基板を補強するために支持薄板に固定する構成は周知」であるとした審決の認定に影響を及ぼすものではない。 よって、上記原告主張の点をもってしても、審決の結論が左右されるものではない。 |
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結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。 (平成14年2月12日口頭弁論終結) |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 古城春実 |