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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成15ネ653特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成14ネ1089特許権に基づく製造販売禁止等請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ2376特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ1223特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成13ネ943特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
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事件 平成 13年 (ネ) 3684号 特許権侵害差止等請求控訴事件
控訴人 旭化成株式会社
訴訟代理人弁護士 小坂 志磨夫
同 小池豊
同 櫻井彰人
被控訴人 日本鋼管株式会社
訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/02/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2)ア 被控訴人は、原判決別紙目録(一)記載の鋼管杭を製造し、使用し、販売し、貸し渡し、販売若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
イ 被控訴人は、その保有する前項記載の鋼管杭を廃棄せよ。
ウ 被控訴人は、同目録(二)記載の工法を使用してはならない。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
本件は、鋼管杭及び鋼管杭の施工方法についての特許権者である控訴人が、
被控訴人による鋼管杭(被控訴人製品)の製造、販売等及びこれを用いた施工方法(被控訴人方法)の使用が控訴人の特許権の侵害に当たると主張して、被控訴人に対し、その差止め等を求めた事案であり、控訴人の請求を棄却した原判決に対し、
控訴人が取消しを求めている。
本件の当事者間に争いのない事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、
以下のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」のとおりである(ただし、原判決17頁12行目の「設けられていている」を「設けられている」に改める。)から、これを引用する。
1 控訴人の主張 (1) 本件各発明の「ラセン翼」の該当性について 建設業界においては、幾何学的に厳密な意味でのラセン面を有するものでなくとも、鋼管杭に対し傾斜した角度で取り付けられ、鋼管杭を回転させて地盤に貫入するに当たりネジとしての作用を有するものであれば、平板形状の翼(以下「平板翼」という。)を含め、これを「ラセン翼」、「螺旋翼」、「螺旋状羽根」等と称している。このことは、実開昭55-40053号公報(乙10)、特開平8-81953号公報(甲5)、特開平10-280403号公報(甲6)のほか、被控訴人製品に関するものを含むパンフレットや雑誌(甲3、7、10、11)の記載から明らかである。また、本件明細書において従来技術として引用されている特開昭59-85028号公報(乙2)の第1、3、4図に図示された「螺旋翼5」は、取付部を示す波線部が直線で示されていること、本件特許に係る願書添付の図6のラセン翼2は、その両端が鋼管杭1に対して直角に取り付けられていないことから、いずれも厳密な意味でのラセン面を有しないものというべきであり、さらに、同図1、3のラセン翼2は平板として描かれている。
しかも、被控訴人製品のように鋼管に対する平板の傾斜角が7.2°程度の場合、半周で比較する限り、平板も厳密な意味でのラセン面も実質的に同一の形状となり、同一の作用効果を奏する。被控訴人自身、その出願に係る特許第2861937号の明細書(甲8)において、ねじ込み機能を果たす構成部分の形状が平板であるとラセン面であるとで等価であることを自認している。なお、新日本製鐵株式会社は、被控訴人製品と同様に平板翼を備えた鋼管杭である「SPパックS」(甲11、12参照)を製造販売していたところ、控訴人の警告を受けてその製造販売を中止している。
被控訴人は、「ラセン翼」は一巻きで1ピッチ進むという意味で文字どおりのラセン翼でなければならない旨主張するが、被控訴人製品の突出部分4も1回転すれば1ピッチ進み、ネジとしての作用を有するのであるから、これが「ラセン翼」に当たることは明らかである。また、被控訴人は、「ラセン翼」の意味は、本件各発明の構成要件Bの数値限定が意味を持つように解釈しなければならない旨主張するが、当該数値限定は、杭体積分の土を翼のすき間を通じて杭側方に押し出すに当たって、土の通るすき間を確保するために翼の重なりを限定したものであって、「ラセン翼」の意味を限定する趣旨ではない。さらに、被控訴人は、文字どおりのラセン翼と平板翼の作用の相違を殊更に強調した主張をするが、現実にはきわめて近似したものにすぎない。
(2) 翼の固定位置に係る構成の文言充足性について 本件各発明の構成要件A中の「複数枚の・・・翼が鋼管杭の下端部外周面の同じ高さ位置で・・・固定され」るとの構成の充足性について、原判決は、本件各発明においては翼と底板とが別の部材として区別されているとの認定に基づいて、翼が固定されている位置である「鋼管杭の下端部外周面」と底板が固定されている位置である「杭先端」とは別の位置であって、「鋼管杭の下端部外周面」が「杭先端」を含むと解することはできないと判断する。しかし、本件明細書の特許請求の範囲にいう「翼」と「底板」が別個の作用と機能を果たす部材であるとしても、両者が物理的にも分離した別個の部材でなければならない必然性はない上、本件明細書の特許請求の範囲の「複数枚の・・・翼が鋼管杭の下端部外周面の同じ高さ位置で・・・固定され」るとの文言自体から、翼の固定位置は「鋼管杭の下端部」であって、これが杭先端を含むことは明らかである。さらに、本件各発明の上記構成は、翼を「下端部外周面の同じ高さ位置」で固定することを規定するものであって、具体的な固定態様及び固定手段を何ら規定するものではないから、翼が外周面状に固定された場合であっても、それ以外の態様で固定された場合であっても、「下端部外周面の同じ高さ位置」である限り、本件各発明の技術的範囲に属する。すなわち、本件各発明の上記構成における「外周面」とは、高さ位置の基準を指すにすぎず、翼の固定位置をいうものではない。
さらに、上記構成に係る作用効果についても、原判決は、被控訴人製品においては、半円形板と底板とが一体の構造となっているため、杭が地中に貫入するに当たってラセン翼がより一層の強度を備えるという本件各発明にない作用効果を奏し、本件各発明とは技術思想が異なると判断するが、杭が地中に貫入する場合に翼に掛かる力は、翼を鋼管からはがそうとする方向への力であり、この力に対抗して翼を保持する強度は翼の鋼管への溶接強度に依存し、翼と底板が一体構造になっているかどうかとは関係がない。
そうすると、被控訴人製品において、半円形板の突出部分4(ラセン翼)が「鋼管杭の下端部外周面の同じ高さ位置で・・・固定され」るとの構成を充足することは明らかである。
(3) 翼の固定位置に係る構成に関する均等論の適用について 仮に、本件各発明の構成要件A中の「複数枚の・・・翼が鋼管杭の下端部外周面の同じ高さ位置で・・・固定され」るとの構成が、翼を「外周面上」に固定する趣旨であるとしても、翼に相当する被控訴人製品の突出部分4が外周面の下に固定されている構成は、本件各発明の上記構成と均等なものとして、その技術的範囲に属する。
すなわち、@本件各発明においては、鋼管杭の下端部の同じ高さ位置に複数枚のラセン翼を固定するとともに、杭先端が底板により閉塞された構成を採用することにより、杭芯のずれの防止、安定した推進力の確保、ラセン翼のすり減りと地盤搬出の抑止、無排土沈設の実現といった作用効果を奏する点に本質的部分があるところ、翼が「外周面上」に固定されているか、「外周面の下」に固定されているかという点は、上記本質的部分ではなく、また、A本件各発明の上記構成を被控訴人製品の上記構成と置き換えても、本件各発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏する。さらに、B被控訴人製品のように、鋼管杭の下端部外周面を同じ高さ位置までレ字状に切り欠いて、下端部外周面の下からラセン翼と底板とを一体化した半円形板を取り付けることは、設計上の微少な変更にすぎないものであって、格別困難なものとはいえない。そして、C被控訴人製品は本件特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではなく、D被控訴人製品の上記構成が本件特許出願時において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない。
(4) 本件特許の明白な無効理由の存否について 被控訴人は、原審において、公知文献1(乙2)記載の発明の「ラセン翼」に代えて、公知文献3(乙5)記載の発明の「拡径翼」を適用して、本件各発明の構成を得ることは当業者の容易に想到し得たところである旨主張し、原判決もこれを採用して、本件特許には特許法29条2項に違反してされた同法123条1項2号所定の無効理由が存在することが明らかであり、控訴人による本件特許権の行使は権利の濫用であって許されないと判断した。
しかし、公知文献1、3記載の各発明は、いずれも本件特許の出願過程で特許庁が認識していた公知技術であって、特許庁はこれを前提としても本件各発明の特許性を肯定したのであるから、そもそも侵害事件において権利濫用論を適用すべきケースではないし、その進歩性に関する判断自体、以下に述べるとおり誤りである。
まず、構造物を支持する杭には、杭に掛かる荷重を主に杭先端の抵抗で支持する支持杭と主に周面摩擦力で支える摩擦杭とがあるところ、公知文献3記載の発明は、杭先端に「くい部材11」(本件各発明の「鋼管」に相当)の外形より大きな外径の「先端シュー1」を取り付けたため、杭が地盤中にねじ込まれると、杭外径より大きな外径の土砂を緩め、杭本体と土砂との間の周面摩擦力が低下してしまい、摩擦杭としての役割が減じることから、周面摩擦力の低下を補うため杭の中間に拡径翼を設ける構成を採用したものである。したがって、本件各発明のラセン翼と異なり、先端支持力を増すものではないし、本件各発明の課題である杭芯のずれを解決するものでもない。
しかも、公知文献1記載の発明では、ラセン翼によって杭先端の抵抗力を増大させて先端支持力を増大させるとともに、掘削した杭体積分の土砂を杭外周面に押し出し、杭側面の土を圧縮して地盤を圧密させ、周面摩擦力を高めるという効果を奏するものであって、公知文献3記載の発明とは基本的な技術思想を異にするものである。
したがって、公知文献1記載の発明の「ラセン翼」に代えて公知文献3記載の発明の「拡径翼」を適用することにより本件各発明の構成を得ることは、当業者の容易に想到し得たこととはいえない。
2 被控訴人の主張 (1) 本件各発明の「ラセン翼」の該当性について ア 一般に「ラセン」とは、ラセン階段などの用語に見られるように、旋回しつつ進行する筋をいうから(「広辞苑(第2版)」〔甲4〕、「岩波理化学辞典(第5版)」〔乙1〕参照)、本件明細書の特許請求の範囲の「ラセン翼」との用語は、このようなラセンの形をした翼という意味を有するものとしてその辞書的意味は明確である。したがって、本件各発明の技術的範囲の確定に当たっても、このような辞書的意味に従って解釈されるべきである。
イ 本件明細書の発明の詳細な説明の記載も、「ラセン翼」の上記の辞書的意味と矛盾するものではなく、むしろこれを前提としている。すなわち、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると、本件各発明は、公知文献1(特開昭59-85028号、乙2)に開示されている、一巻きのラセン翼が使用されている公知技術を改良し、当該ラセン翼を複数に分割する構成としたものとされているところ、上記公知技術に示された一巻きのラセン翼が、一巻きで1ピッチ進むという意味で文字どおりのラセン翼でなければならないことは明らかである。
ウ 控訴人は、本件特許の審査過程で、本件各発明は構成要件Bの数値限定に意義があることを主張している(拒絶理由通知に対する平成10年8月26日付け意見書〔乙12〕)から、「ラセン翼」の意味も当該数値限定が意味を持つように解釈しなければならない。そこで、翼の枚数を2枚として、構成要件Bが規定する巻き数を見ると、下限が0.33、上限が0.55となる。ここで、円筒を展開して見ると、辞書的意味におけるラセンの場合には直線として現れるのに対し、被控訴人製品のように平板を用いた場合、円筒の外周面と平板が接する線は曲線として現れる(別紙図2参照)。しかも、巻き数が0.55の場合、最大傾斜部分を中心としても、両端には反対の傾斜を含む部分が生ずることになる。このような反対傾斜は、杭体を回転させて地中に貫入させる際に無駄な抵抗を生じさせるものであって、控訴人の主張するようなねじり込み作用は生じない。したがって、本件各発明を特徴付けている上記数値限定が意味を持つためには、「ラセン翼」は文字どおりの意味に解さなければならない。
エ 控訴人は、平板も厳密な意味でのラセン面も半周で比較する限り実質的に同一の形状であって、同一の作用効果を奏する旨主張するが、少なくとも巻数が0.5(半周)の場合、ラセン翼と平板翼では異なる作用を奏するというべきである。
まず、回転する杭体の水平方向と翼とがなす角度について見るに、別紙図2に示されているように、ラセン翼ではどこでも角度は一定であるのに対し、平板翼の場合、下端部及び上端部では水平となり、中間部が最大となる。平均すればラセン翼と同様にも見えるが、平板翼では、下端と上端はねじり込み作用に寄与しておらず、中間部はねじり込み作用に寄与するものの、その傾斜は他の部分よりも急であるから、ラセン面のように斜面に沿って進むことはできないものであって、
その作用はラセン翼とは異なるというべきである。
また、半径方向における傾斜角の変化を考えるに、別紙図1に示されているように、ラセン翼では外側に行くに従って傾斜が緩くなり、その結果、一巻ごとに進むピッチは半径方向の位置に関係なく一定(L)であるのに対し、平板翼では傾斜が半径方向に一定であるため、下端と上端の高低差は半径に比例して大きくなる。杭体の径の2倍の径を有する平板翼が半回転した場合を考えると、内側がL進もうとするのに対して、外側は2L進もうとするから、内側は翼の下から抵抗を受け、反対に外側は翼の上から抵抗を受けることになる。このように平板翼を回転させた場合にはきわめて複雑な力が働くことになり、ラセン翼の奏する作用とは異なる。
(2) 翼の固定位置に係る構成の文言充足性について 本件各発明の構成要件A中の翼の固定位置に係る構成が、翼を「下端部外周面の同じ高さ位置」で固定することを規定するものであって、具体的な固定態様及び固定手段を何ら規定するものではないことは被控訴人も争うものではない。しかし、翼が鋼管杭の下端部の下に位置している場合には、「下端部外周面」に位置するといえず、上記構成を充足しないというべきであるから、控訴人の主張は失当である。
(3) 翼の固定位置に係る構成に関する均等論の適用について 控訴人の主張は争う。
(4) 本件特許の明白な無効理由の存否について 控訴人は、公知文献3記載の発明は先端シューを有する点で本件各発明と異なる旨主張するが、本件明細書(原判決添付、甲2)においても「鋼管1の下端には地盤によって掘削刃を設けても良い」(4欄46行目〜47行目)と記載されていること、公知文献1記載の発明にも掘削刃が存在することから、公知文献3記載の発明における先端シューの存在は、その拡径翼を公知文献1記載の発明に適用することを妨げるものではない。
当裁判所の判断
1 本件各発明の「ラセン翼」の該当性について (1) 被控訴人製品及び被控訴人方法に係る鋼管杭は、平板である半円形板2を備えるところ、当該半円形板2のうち鋼管杭1の外周面より外側に突出している部分、すなわち突出部分4が、本件各発明の構成要件Aに規定する「ラセン翼」に当たるかどうかについて検討する。
(2) まず、「ラセン翼」との文言自体からその意義を考えるに、一般に「ラセン」とは、「円柱に巻きつきながら円柱に沿って一定の歩みで進んでゆく形の空間曲線」(「岩波理化学事典(第5版)」、乙1)をいうものと認められるから、
「ラセン翼」とは、このような曲線が径方向に連続して形成された曲面(以下「ラセン形状」という。)を有する翼という意味に解すべきであり、このことは、本件各発明の構成要件Bにおいて、ラセン翼の長さを巻き数をもって規定していることとも符合する。ところが、平板は、円柱に斜めに取り付けたとしても、その外周を一周すれば元の場所に戻ってしまい、円柱に沿って一定の歩みで進んでゆく形にはならないから、平板がラセン形状であるとはいえない。したがって、「ラセン翼」との文言自体の解釈として、平板翼は含まないとする被控訴人の主張は首肯するに足りるものである。
この点について、控訴人は、建設業界においては、平板形状のものを含め「ラセン翼」等と称している旨主張するが、その論拠として挙げる証拠は、控訴人の主張を何ら裏付けるものとはいえない。
すなわち、まず、実願昭53-122663号(実開昭55-40053号)のマイクロフィルム(乙10)は、明細書の全記載を通じて、「螺旋状翼片」が平板であるとか、平板を含み得るといった記載を見いだせず、また、第3図においては、円筒状構造体1の周面に斜めに取り付けられた螺旋状翼片2が直線状に描かれているものの、円筒の周面に斜めに取り付けられた平板を水平方向視で見た場合に、平板の中央、すなわち円筒の軸芯と扇形の平板の外周の中心点が見かけ上一致する方向から見ない限り、直線に見えることはあり得ないところ、同図は、このような方向視での図示でないことは明らかであるから、当該螺旋状翼片が平板であることを示すものとはいえない。なお、明細書中の同図の関連記載(3頁14行目〜4頁12行目、5頁末行〜6頁1行目)を併せて読めば、同図が、螺旋状翼片2に係る推力fが同翼片の傾斜面と平行な分力f′と同面と直角方向の分力f′′との2方向力に分解されることを説明する「作用説明図」であって、当該説明の便宜として螺旋状翼片を直線状に描いたものにすぎないことは明らかである。次に、特開平8-81953号公報(平成6年9月12日出願)(甲5)は、その出願日も公開日も本件特許の出願日(平成6年4月27日)以降のものである上、明細書のどこにも「螺旋翼」が平板であるとの記載は認められず、各図面に示された「螺旋翼」も、これが平板を図示するものと認めることはできない。また、特開平10-280403号公報(平成9年4月8日出願)(甲6)、「’99.7.改訂」の記載のある被控訴人製品のパンフレット(甲3)、「日経アーキテクチュア1999年5月3日号」の記事(甲7)及び平成12年3月発行の「基礎工Vol.28,No.3」(甲10)については、いずれも本件特許の出願日(平成6年4月27日)から約3年ないしそれ以上後に作成及び刊行されたと認められるものであり、また、「SPパックS」のカタログ記事(甲11)は発行時期が不明なものであるから、本件特許の出願当時における当業者の用語法を示すものとして採用することはできない。さらに、控訴人は、特開昭59-85028号公報(乙2)の第1、3、4図に図示された「螺旋翼5」は、取付部を示す波線部が直線で示されている旨主張するが、上記螺旋翼5がラセン形状を有することは、第4図の「螺旋翼の回転軌跡6」の図示から疑いの余地はない。
以上のとおり、建設業界においては、平板形状のものを含め「ラセン翼」等と称していたとの控訴人の主張は理由がなく、「ラセン翼」との文言自体の解釈としては、上記の辞書的な意味でのラセン形状を有する翼であると解すべきであるが、控訴人は、被控訴人製品の平板翼も、本件各発明のラセン翼と同様のネジとしての作用を有する旨主張するので、以下、本件明細書の記載も参酌しつつ、上記主張について更に検討する。
(3) 本件明細書(原判決添付、甲2)の発明の詳細な説明には、以下の記載があることが認められる。
ア 【産業上の利用分野】欄 「本発明は、中低層住宅等の建築物あるいは小規模構造物等の基礎として用いられるラセン翼付きの鋼管杭とその施工方法に関するものである。」(段落【0001】) イ 【従来の技術】欄 「従来より、中低層建築物基礎杭として鋼管製の杭本体の先端、あるいは先端と一定間隔を隔てた杭本体に一巻き以上に連続するラセン状の翼を持つ杭が使用されている。この杭は例えば特開昭59-85028号公報に示されているもので・・・杭頭に回転トルクを与え、ねじり込みによって地中に埋設されるものである。」(段落【0002】) ウ 【発明が解決しようとする課題】欄 「しかしながら従来の杭では、1枚のみラセン翼が連続した状態で一枚のみ取り付けられているため杭芯に杭先端をセットしても、杭を回転すると同時に杭芯から杭がずれてしまい、杭ずれが発生しやすいといった問題があった。また、従来の杭はやや硬い地盤を掘削する場合には、貫入性が悪くなり杭体に傾斜が生じると共に時間がかかるといった問題もあった。更に、ラセン翼がレキに当たって変形したり、あるいはレキとの摩擦によって擦りへってしまい、所定の鉛直支持力が発現できないといった問題もあった。そこで本発明の目的は、施工精度を向上し、やや固い地盤においても充分に大きな支持力が発現可能な鋼管杭とその施工方法を提供することである。」(段落【0004】〜【0005】) エ 【作用】欄 「本発明は、複数枚のラセン翼が鋼管杭の下端部外周面の同じ高さ位置でラセン方向を同じにして周方向に等間隔に固定されているので、掘推開始時に杭芯のずれが防止できる。且つ、安定した推進力を得ることができると共に施工能率を上げることができる。やや硬い地盤を掘削する際にも杭体の傾斜がなく施工能率もまた上げることができる。更にまた、ラセン翼の変更および擦り減りと土砂の地上搬出を抑止でき、摩擦力が発現されるため極限支持力も向上することができる。」(段落【0007】) オ 【発明の効果】欄 「本発明の鋼管杭は、従来のラセン翼を有し先端が底板により閉塞された鋼管杭と比較して、レキ等の硬い地盤においても掘削開始時の杭芯のずれや推進時の杭体の傾斜がなく施工精度が高い上、安定した推進力を上宇ことができる。また従来のラセン翼を有し先端が底板により閉塞された鋼管杭と比較して、掘削刃の擦り減りや変形及び排土量も少なく、ラセン翼の回転数も少なくて同じ掘削効果を発現できる。このため支持力の向上につながる。また本発明の施工方法によれば、先端には底板を取り付けて閉塞され且つ上記特定条件のラセン翼を取り付けた鋼管杭に回転力を与えて掘削することによって、杭体積分の土を杭側面に押し出し、杭側面の土を圧縮して地盤を圧密しながら無排土で推進沈設されるため、本発明のラセン翼付きの鋼管杭の所期の目的が達成されるとともに上記した施工上の効果が発現される。」(段落【0014】) (4) 本件明細書の上記の記載に基づいて、まず、従来技術との関係から「ラセン翼」の意義を見るに、本件各発明は、従来の技術である「杭本体に一巻き以上に連続するラセン状の翼を持つ杭」では、「ラセン翼が連続した状態で一枚のみ取り付けられているため」、杭ずれが発生しやすい等の問題があったことから、これを解決するため、複数枚のラセン翼を等間隔に固定するなどの本件各発明の構成要件を採用したものであって、この構成によって、掘削開始時の杭芯のずれを防止するなどの作用効果を奏するものと認められる。
そして、平板翼が一巻きを超えるということはあり得ないから、上記の従来技術にいう「一巻き以上に連続するラセン状の翼」が、平板翼を含まず、ラセン形状の翼を指すことは明らかであり、このことは、本件明細書が上記の従来技術として掲げる特開昭59-85028号公報(公知文献1、乙2)の第1、3、4図、特に第4図の「螺旋翼の回転軌跡6」の図示に明確に示されていることは前示のとおりである。すなわち、本件各発明は、従来技術においても備えられていた底板に関する構成を別にすれば、上記のような本来の意味のラセン形状の翼が「連続した状態で一枚のみ取り付けられている」ことからくる芯ずれ等の問題を解決するために、これを複数枚に分割して不連続に取り付けるとともに、当該複数枚のラセン翼の固定位置(構成要件A)及びラセン翼の長さ(構成要件B)を具体的に規定したにとどまり、従来技術に示されている「ラセン翼」の形状の変更を示唆する記載はない。そうすると、「杭頭に回転トルクを与え、ねじり込みによって地中に埋設される」という基本的な作用を担う「ラセン翼」の形状そのものについては、従来技術を踏襲したものと考えるのが相当であって、従来技術との関連において本件各発明を位置付けた場合に、これに平板翼が含まれると解することは無理があるといわざるを得ない。
控訴人は、本件特許に係る願書添付の図1、3ののラセン翼2は平板として描かれている旨主張するが、その図示のみから控訴人の主張するように解することはできず、また、図6のラセン翼2の両端が鋼管杭1に対して直角に取り付けられていない旨主張する点についても、上記の認定判断を左右するものではない。
(5) 次に、本件各発明の作用効果の点から、「ラセン翼」が平板翼を含むといえるかどうかを検討する。
ア まず、本件各発明において「ラセン翼」の構成が採用されたのが、「杭頭に回転トルクを与え、ねじり込みによって地中に埋設」することを主たる目的とするものであることは、本件明細書中の上記(3)イの記載に照らして明らかであり、
控訴人の主張もこのことを前提とするものと解される。そして、このようなねじり込み作用が奏されるためには、杭の回転に伴って、翼面が軸方向下方への分力を生じさせる形態である必要があるから、水平方向に対して翼の各部が一定方向の傾きを維持していなければならない。そして、このようなねじり込み作用を安定的、効率的に発揮するためには、翼の上記傾きが一定であること、すなわち、杭の回転角(θ)に比例してラセンの高さ位置(z)が上下することが望ましいことが明らかである。前記のラセン形状は、まさにこのような条件を満たすものであって、このことは、前掲「岩波理化学事典(第5版)」(乙1)において、ラセンが「円柱座標系(r、θ、z)でr=定数、z=aθと表わされる」と説明されているとおりである。同式中のaが傾き(単位角度当たりの高さ変化)を表し、ラセン形状の翼では、この傾き(a)は、翼のすべての部分において、すなわち、周方向及び径方向での位置の変化にかかわらず一定である。これを別紙図1のラセン形状の翼を例に見ると、翼の内周側(左下図のa〜b〜c)でも、外周側(同a′′〜b′′〜c′′)でも、半周当たりの高さ変化はL(一定)であるから、ラセン形状の翼面の傾きは径方向の位置に変化にかかわらず一定であることが理解される。また、別紙図1に示されたラセン形状の翼のa〜b〜c、a′〜b′〜c′、a′′〜b′′〜c′′の回転軌跡を周方向に展開したのが別紙図2の点線の表示であるが、これがいずれも直線となることから、ラセン形状の翼面の傾きは周方向の位置変化にかかわらず一定であることが理解される。
イ これに対し、平板翼においては、下記のとおり、翼の各部分によって上記の傾きが異ならざるを得ない。すなわち、径方向での位置に応じた傾きの変化を、別紙図1の平板翼の例で見るに、A点では半周当たりの高さ変化がLであるのに対し、A′′点では半周当たりの高さ変化が2Lとなっている。すなわち、翼の内側から外側に行くに従って傾きが大となり、上記の例では単位角度当たりの傾きで最大2倍の差が生ずることとなる。なお、同図の例は、翼の径長(水平面に投影した長さ)を杭の径長の2倍としたものであるが、これは被控訴人製品のものにおおむね相当する(控訴人従業員作成の解析結果報告書、甲17)。次に、別紙図1に示された平板翼のA〜B〜C,A′〜B′〜C′、A′′〜B′′〜C′′の各回転軌跡を周方向に展開したのが別紙図面2の実線の表示であるが、半周の平板翼の下端(A、A′、A′′)と上端(C、C′、C′′)では傾きがなく、ねじり込み作用に何ら寄与しない一方、中間部(B、B′、B′′)では顕著に大きい傾きとなっている。
以上のように、平板翼は、その各部によって看過し得ない傾きの違いがあり、このような全体として不均一な傾きを持った翼が杭頭の回転トルクに伴って回転した場合に、極めて複雑な力が翼の各部に働くことは、被控訴人が主張する(前記第2の2(1)エ)とおりであって、ねじり込み作用が皆無とはいえないまでも、少なくとも、翼面の傾斜に沿って回転進行するラセン形状の翼の奏する作用とは異なり、むしろ、周囲の土をかき乱すというに近い挙動となることも考えられるところである。
ウ しかも、別紙図2は、平板の長さが半周(周方向の角度180°)の場合を示したものであるが、被控訴人製品と同様に翼を2枚とした場合、本件件各発明が規定するラセン翼の巻き数の上限は、構成要件Bに定めるとおり、[1÷2×1.1=0.55]巻き、周方向の角度にして198°となり、同180°を相当程度超える長さのものがその技術的範囲に属することが予定されている。ところが、平板翼においては、周方向の角度が180°を超えた場合に、上記の翼の傾きは180°以内の部分とは逆方向に傾斜する(別紙図2の左端(A、A′、A′′)から左方に向けて、右端(C、C′、C′′)から右方に向けて、それぞれ逆勾配の曲線となる。)こととなる。当該逆傾斜部分の存在は、杭の回転に伴って、
杭をねじ込む方向とは逆方向の分力を生じさせることを意味するから、本件各発明の予定する翼のねじり込み作用に明らかに反するものといわざるを得ない。そうすると、このような180°を超える翼の長さ(巻き数)を含むものとして本件各発明が規定されているということは、本件各発明にいう「ラセン翼」が平板を含まないと解する重要な論拠となるというべきである。
エ ところで、本件各発明におけるラセン翼は、枚数の上限を定めない「複数枚」とされているところ、本来の意味でのラセン形状をした翼であっても、これを細かく分割していけば、個々の翼の形状は限りなく平板に近づくということができるから、翼の長さいかんによっては、平板が本件各発明の規定する「ラセン翼」に該当することもあり得ないわけではない。
しかし、本件においては、被控訴人製品の平板翼の長さは、半周(周方向の角度180°)であって、上記ウで述べた逆傾斜は含まないとはいえ、明らかに杭のねじり込み作用を阻害する逆傾斜の生ずる形態との限界的な長さである上、
おおむね被控訴人製品の突出部分4と同様の平板翼を示している別紙図1、2に基づく検討において、翼面の各部によって看過し得ない傾きの違いがあることは前示のとおりである。そして、この翼の傾きは、翼の回転に伴うねじり込み作用に直結するものであるから、「ラセン翼」という構成を採用することによって杭の回転トルクによるねじり込み作用を期待する本件各発明の技術的な意義に照らして、極端に短い翼であればともかく、被控訴人製品におけるような半周の平板翼が、本来の意味でのラセン形状の翼と同視することができるとは、到底いうことができない。
オ 以上のとおり、本来の意味でのラセン形状をした翼と平板翼とは、杭の回転に伴うねじり込み作用においても、これを同一視することはできないというべきである。
(6) 控訴人は、被控訴人自身、その出願に係る特許第2861937号の明細書(甲8)において、ねじ込み機能を果たす構成部分が平板であるとラセン面であると何ら相違がないことを自認している旨主張するところ、同明細書には、「鋼製板が平坦面又は螺旋面である」(特許請求の範囲の請求項5)、「本発明は・・・鋼管の先端部に複数の鋼製板を傾斜して取り付けた鋼管杭に回転力を与えることにより、無排土で地中に埋設することのできるねじ込み式鋼管杭に関するものである」(段落【0001】)との記載があることが認められる。しかし、上記の記載は、むしろ、翼に相当する鋼製板が平坦面であるか螺旋面であるかを意識的に書き分けているものであって、平板翼であってもねじり込み作用が皆無といえないことは前記のとおりであるから、ねじり込み作用の質的な相違を踏まえつつ、鋼製板を平坦面にしたものも螺旋面にしたものも特許請求の範囲に取り込むという特許戦略を採ったとしても、控訴人のいうように、被控訴人自身がねじ込み機能を果たす構成部分の形状が平板であるとラセン面であるとで等価であることを自認しているなどということはできない。なお、控訴人が主張するように、新日本製鐵株式会社が、控訴人の警告を受けて、平板翼を備えた鋼管杭の製造販売を中止した事実があるとしても、本件の判断を何ら左右するものではない。
(7) 以上の認定判断によれば、被控訴人製品及び被控訴人方法に係る鋼管杭の平板翼は、本件各発明の規定する「ラセン翼」に当たらないというべきであるから、その余の構成の充足性について判断するまでもなく、被控訴人製品及び被控訴人方法は、それぞれ本件第1発明、本件第2発明の技術的範囲に属するものとはいえない。
2 本件特許の明白な無効理由の存否について 上記1の判断に基づけば、被控訴人が主張する本件特許の明白な無効理由の存否いかんは、本訴請求の結論を左右するものとはいえないが、本件訴訟の経緯にかんがみ、念のため、明白な無効理由の存否について判断する。
(1) 本件第1発明と本件特許出願前に頒布された刊行物である公知文献1記載の発明との「相違点1」として、ラセン翼の枚数及びその固定に関し、前者では「複数枚のラセン翼が下端部外周面の同じ高さ位置でラセン方向を同じにして周方向に等間隔に固定」されているのに対し、後者では「1枚のラセン翼が下端部外周面に固定」されているとの点が挙げられることは、原判決(21頁20行目〜24行目)の認定するとおりである。
他方、公知文献3(実開昭62-138740号公報、乙5)の第1図には、2枚の「拡径翼」が外周面の同じ高さ位置で勾配方向を同じにして周方向に等間隔に固定された構成が図示されていることが認められるので、公知文献1記載の発明のラセン翼に代えて、公知文献3記載の発明の拡径翼の上記構成を適用して、
相違点1に係る本件第1発明の構成を得ることが、当業者の容易に想到し得たものかどうかにつき、以下検討する。
(2) 上記相違点1に係る本件第1発明の構成が、掘削開始時の杭芯のずれを防止することを主眼とするものであることは、上記1(3)の記載から明らかである。そこで、この同一課題を解決するという技術思想が公知文献1、3に示されているかどうかについて見るに、まず、公知文献1(特開昭59-85028号公報、乙2)には、「ラセン翼5は不連続状態に分断し、全体として螺旋状に形成したものであってもよい」(4欄8行目〜9行目)との記載はあるものの、当該記載は、
「全体として螺旋状」に形成されていることを前提に、「不連続状態に分断」することをいうものであるから、当該記載は、本件第1発明に係る上記課題についても、また、その解決手段としての「複数枚のラセン翼が下端部外周面の同じ高さ位置でラセン方向を同じにして周方向に等間隔に固定」する構成についても、何ら示唆するものとはいえない。
(3) 次に、公知文献3についても、その記載の発明の拡径翼は、杭の先端に設けられることが予定されているとは認められず、かえって、その実施例においては、「外殻12の長手方向略中央」(4頁18行目、第4図)に溶接されるものとされているのであるから、掘削開始時において何らかの技術的意義を有するものではなく、掘削開始時の杭芯のずれを防止するという本件各発明の課題との関連性も何ら見いだすことはできない。さらに、掘削開始後、拡径翼が地盤中に進入した後においても、公知文献3(乙5)の「この考案のねじ込みぐい用くい部材11は円筒状の外殻12内にコンクリート13を充填したもので、前記外殻12の長手方向所定位置の外面には回転方向に下り勾配の傾斜を有する1または複数枚の拡径翼18を設けてある。・・・ねじ込みによる施工は通常、くい部材11よりわずかに外径が大きく、外周面に螺旋状またはねじ状の刃7を有する先端シュー1を下端のくい部材11の先端に取り付け、地盤中にねじ込んで行くことにより行なわれる。この考案のくい部材11を用いたくいは主として、周面摩擦力を支持力として期待したもので、さらに拡径翼18を設けてあることにより、拡径翼18と地盤との機械的な摩擦力を支持力として加えることができる。・・・拡径翼18に勾配を設けたのは、くい部材11を回転させて地盤中へねじ込む際の抵抗を少なくするためである。・・・拡径翼18はくい長手方向に1ケ所または数ケ所設けるものとする」(3頁1行目〜4頁7行目)、「この考案のくい部材では拡径翼と地盤との間で機械的な摩擦力が得られるため、これをくいの支持力に加えることができる。また、
拡径翼はくい回転方向に下り勾配となっているため、地盤中へのくいのねじ込みに対し、障害とならない」(7頁末行〜8頁5行目)との記載によれば、公知文献3記載の発明の拡径翼は、掘削推進時においては、ねじ込み作用を担う先端シューが別途設けられているため、くいのねじ込みないし推進に何ら寄与するものではなく、かえって、ねじ込む際の抵抗となることが考えられることから、その抵抗を緩和するために回転方向に下り勾配となる傾斜を有するものとされているにすぎないことが認められる。そうすると、公知文献1記載の発明の「ラセン翼」と公知文献3記載の発明の「拡径翼」とは、杭の鉛直支持力を補強するという点で共通する機能を有するとはいえ、ねじり込み作用を担うという公知文献1記載の発明のラセン翼が担う基本的な機能において共通するものでなく、前者に代えて後者を適用することは困難であるといわざるを得ない。仮に、杭の鉛直支持力を補強するという両者に共通する機能に着目したとしても、翼を複数枚に分割して同じ高さ位置に等間隔に固定するとの構成と、杭の鉛直支持力との間に、何らかの相関関係があることを示唆する記載もない。
(4) そうすると、公知文献1、3記載の各発明が、ともに基礎杭に係る同一の技術分野に属するものであるにせよ、公知文献1記載の発明のラセン翼に代えて、
公知文献3記載の発明の拡径翼の構成を適用して、相違点1に係る本件第1発明の構成を得ることが当業者の容易に想到し得たものということはできない。そして、
被控訴人の主張する本件第2発明に係る本件特許の明白な無効理由の主張は、本件第1発明に係る主張と同趣旨であるから、本件第2発明についても、上記と同様の理由により、当業者の容易に想到し得たものとはいえない。したがって、本件特許の明白な無効理由をいう被控訴人の主張は採用することができない。
3 結論 上記1のとおり、控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却した原判決は結論において相当であって、本件控訴は理由がない。
よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利