関連審決 | 審判1997-8502 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
386号
審決取消請求事件
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原告 東洋システム開発研究所株式会社 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 斉藤操 同 飯田清司 同 小林信雄 同 大橋良三 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/03/12 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成9年審判第8502号事件について平成11年10月15日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「コンピュータによる移動物体の動作解析方法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき,昭和62年11月16日に特許出願をしたが,平成9年4月24日に拒絶査定を受けたので,同年5月21日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを平成9年審判第8502号事件として審理し,その結果,平成11年10月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をして,同月27日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲 「まずビデオ等の撮影機により時刻の変化に伴う移動物体の一連の動きをある一定時間連続撮影することにより移動物体の一連の画像と該画像に対応した一連の時刻データを取り,次に,該画像のうち某時刻の画像と某時刻から微小時間後の画像とをコンピュータ6に入力して該某時刻の画像と該微小時間後の画像とを比較させることにより前記某時刻及び前記微小時間後の移動物体の画像データのみを抽出させ,その後抽出された某時刻の画像データと微小時間後の画像データを比較させることによりほぼ重なり合う画像データを同一移動物体の画像データであると同定させ,該抽出及び同定作業を微小時間おきにコンピュータ6により繰り返し行わせることにより移動物体の一連の動作の追跡を行わせ該移動物体の軌跡を知り,前記時刻データをもとに移動物体の時間変化に伴う一連の動きを解析可能にしてなることを特徴とするコンピュータによる移動物体の動作解析方法。」(別紙図面(1)参照) 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開昭59-99580号公報(甲第2号証,以下「引用刊行物」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づき,特開昭58-79392号公報(甲第3号証,以下「周知例刊行物1」という。),特開昭62-44275号公報(甲第4号証,以下「周知例刊行物2」という。)に示されている周知技術を参酌することによって,当業者が容易に発明をすることができた,というものである。 |
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原告主張の取消事由の要点
審決は,引用発明を誤認し,これにより,本願発明と引用発明との間の一致点でないものを一致点であると誤認して,結果的に両発明の間の相違点を看過し(取消事由1),しかも,審決がそれ自体は正しく認定した相違点についても,その推考困難性を誤認した(取消事由2)。審決の犯したこれらの誤りは,いずれも,本願発明の進歩性を否定した審決の結論に影響することが明らかであるから,審決は,違法として取り消されなければならない。 1 取消事由1(引用発明の誤認に基づく相違点の看過) (1) 本願発明の「解析」の構成が引用発明にないこと (ア) 審決は,本願発明と引用発明とを対比して,両者が,「移動物体の時間変化に伴う動きを解析可能にしてなることを特徴とするコンピュー夕による移動物体の動作解析方法。」(審決書6頁5行〜8行)であるという点で一致すると認定した。しかし,引用刊行物には,本願発明にいう「解析」に該当する構成が開示されていないから,上記認定は,誤りである。 本願発明は,特許請求の範囲に,「該抽出及び同定作業を微小時間おきにコンピュータ6により繰り返し行わせることにより移動物体の一連の動作の追跡を行わせ移動物体の軌跡を知り,前記時刻データをもとに移動物体の時間変化に伴う一連の動きを解析可能にしてなることを特徴とする」と記載されていることから明らかなように,移動物体の軌跡を求め,これを基に当該移動物体に対する時刻データをパラメータとして所望の解析を行うことを可能にするものである。 このように,本願発明にいう「解析」とは,検出や認識では得られない対象の特性などの性質を把握する作業であって,対象物体の特性を,所定のパラメータに関して複数調べ,このパラメータに対応した特性データの変化から軌跡,加速度などを求める処理をいうものである。 甲第8号証(大辞林第2版)によると,「解析」という語の一般的な意味は,「@物事を分析して論理的に明らかにすること。分析。」とされている。したがって,「解析」とは,「分析して論理的に明らかにすること」であり,事実,法則,仮説などに対して,「解析」の手段を通して,だれもが納得せざるを得ない帰着を,すなわち,事実,法則,仮説の正しさを,ときには,立てた仮説そのものの間違いを導き出すための手法である。 (イ) 一方,引用発明においては,移動物体について形状,傾き,速度,進行方向等の諸元や車両番号を検出し,認識するものの,検出及び認識によって得られたデータをどのように処理するかについては,何らの記載もない。要するに,引用発明は,「解析」以前のデータ作成に関する技術であって,「解析」の構成を具備していない。 引用発明にいう「検出,認識」をもって「解析」ということもできない。本願発明にいう「解析」といい得るためには,対象となる移動物体に対して,目標の一連の画像データと時刻データを得るとともに,これ以降の処理として,一連の時刻データに対して画像データがどのような変化(例えば軌跡)をしていくかを求めるものでなければならない。 (2) 本願発明の「同定」の構成が引用発明にないこと 審決は,本願発明と引用発明とを対比して,両者が,「ほぼ重なり合う画像データを同一移動物体の画像データであると同定させ」(審決書6頁4行〜5行)るという構成を有する点で一致していると認定した。しかし,引用発明は,近接した二つの時刻の映像信号の差を取ることによって移動物体のみに関する情報を抽出して,上記抽出された情報によって対象とする原画像を切り出し,上記抽出された原画像を用いてパターン認識を行っているだけであって,本願発明のような「同定」作業を行うものではないから,審決の上記認定は,誤りである。 (ア) 本件発明の「同定」は,コンピュータによる同定作業であり,自動的に,人の手を介さずに行われていることに特徴がある。一方,引用発明においては,その特徴は,同一の移動物体であると「同定」するのが撮影者であることである。撮影者が,同一の移動物体を時間をずらして二度撮影し,それぞれに映っている二つの画像が同一の移動物体であることを知っていて,この二つの画像に対して「差」を施して,「ある幅をもった輪郭」の画像を得るのである。本願発明において,コンピュータによって同定作業がなされるのとは明白に異なる。 (イ) 本願発明にいう「抽出された某時刻の画像データと微小時間後の画像データ」に含まれるものは,特許請求の範囲に記載されているとおり,「移動物体の画像データのみ」である,すなわち,本願発明においては,静止物体と移動物体が映っている一連の画像の中から移動物体のみを取り出しているものであり,このことは,本願明細書の発明の詳細な説明中に,「該某時刻の画像と該微小時間後の画像とを比較させることにより移動物体及び静止物体を含めた一連の画像の中から移動物体の画像だけを画像データとして抽出することができるのである。」(2頁左下欄8行〜11行)と記載されていることからも明らかである。 一方,引用発明においては,同一の移動物体を2回撮影し,その差を取って移動物体の輪郭を求めたものが「画像16,17」で,「画像16,17」は画像16,画像17が二つ存在しているのではなく,抽出(切出し)で得られた輪郭を指す一つの画像である。画像16,17は,それぞれ,同一の移動物体を2回撮影して得られた差である領域情報を示す「ある幅をもった輪郭」の画像の一部であり,画像16と画像17がそれぞれ個別の画像であるわけではない。「ある幅をもった輪郭」の画像である「画像16,17」を,本願発明にいう抽出された「移動物体の画像データのみ」と同視することはできない(別紙図面(2)参照)。 (3) 本願発明の「一連の動作」,「一連の動き」という構成が引用発明にないこと 審決は,本願発明と引用発明とを対比して,「まずビデオ等の撮影機により時刻の変化に伴う移動物体の一連の動きをある一定時間連続撮影することにより移動物体の一連の画像を取り,」(審決書5頁15行〜17行)という点で一致すると認定した。しかし,この認定は誤りである。 本願発明にいう「一連」は,抽出された画像データを「一連」に求め,この「一連」の画像データに対して,ほぼ重なり合うものを同一のものとする同定作業を「一連」に行い,移動物体の軌跡を知り,上記画像データに対応した時刻データを基に移動物体の時間変化に伴う「一連」の動きを解析するという意味での「一連」である。これに対して,引用発明においては,近接した二つの時刻の映像をとっているだけである。単に近接した二つの時刻において撮影した二つの映像では,前者の移動物体の軌跡を求めることはできない。 2 取消事由2(相違点についての認定判断の誤り) 審決は,本願発明と引用発明との相違点として,「前者は「画像に対応した一連の時刻データを取り、抽出及び同定作業を、微小時間おきにコンピュータ6により繰り返し行わせることにより前記時刻データをもとに移動物体の一連の動作の追跡を行わせ該移動物体の軌跡を知る」ようにしているのに対して、後者は、そのように明示されていない点。」(審決書6頁10行〜16行)を挙げた上,この相違点につき,「移動物体の動きを連続的に認識するために,画像データに記録用時刻データを取り込むことは,例えば,原審で引用した特開昭58-79392号公報,特開昭62-44275号公報の如く本件出願前に周知技術であったので,上記引用例の認識装置においても,移動物体の動きを連続的にトレースした軌跡を知るために,記録用の時刻データを取り込んで,抽出及び同定作業を,微小時間おきに繰り返し行わせて移動物体の一連の動作の追跡を行わせるようにすることは,当業者が,容易に推考できたものと認められる。」(同6頁18行〜7頁9行)と認定判断した。しかし,この認定判断は誤りである。 本願発明は,時刻データをデータ処理用のデータとして取り込んでいるものである。一方,審決が指摘する各刊行物(周知例刊行物1及び2に記載された各技術)は,いずれも,時刻データをデータ処理用のデータとしては取り込んでおらず,これを取り込む手法は,これらの刊行物のいずれにも記載されていない。周知例刊行物1及び2の時刻データは,観察対象データと対応づけられておらず,単に,画面に,記録用時刻データとしてスーパーインポーズで表示されているにすぎない。 そうである以上,当業者は,周知例刊行物1及び2を参酌しても,上記相違点に係る本願発明の構成に容易には想到し得なかったというべきである。 |
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被告の反論の要点
審決の認定判断は,正当であり,審決を取り消すべき理由はない。 1 取消事由1(引用発明の誤認に基づく相違点の看過)について (1) 本願発明の「解析」の構成が引用発明にないこと,について 引用刊行物には,「現在の移動物体13の映像信号と,一定時間前の映像信号の差」(2頁右上欄12行〜13行)を取ること,「移動物体検知手段25は,移動体によって変化した部分,すなわち差分画像によって,容易に移動物体の形状,傾き,位置,速度,進行方向等の諸元を認識することができる。」(2頁左下欄16行〜19行)ことが記載されている(別紙図面(2)参照)。そこで,例えば,諸元として移動物体の速度を認識しようとするならば,必然的に,移動物体の単位時間当たりの位置座標の変化分を求めることになり,そのために,位置座標の時間微分を演算することになる。移動物体を撮影して速度を求める装置において,撮影間隔を時間データとして移動速度の計算を行うことは,本願出願時において周知の事項であったことである(乙第1,2号証参照)。上記周知技術を勘案すれば,引用発明において,速度を認識するために,撮影時間間隔である「一定時間」を時間データとして利用することは明らかである。 そうすると,移動物体検知手段25は,時間データをパラメータとした移動物体の抽出データの変化を求めていることになり,当然に,移動物体の動作解析を伴うことになるのである。 (2) 本願発明の「同定」の構成が引用発明にないこと,について (ア) 引用刊行物の第1図(a)に示された移動物体13が,一定時間後に第1図(b)に示す位置まで移動したとすると,同図中13’は一定時間前の時刻における同移動物体の画像である。移動物体の図中左右の輪郭に相当する部分の「画像16,17」は,それぞれ背景の情報を除去して移動物体の画像のみを抽出した画像データである。上記画像16,17は,それぞれ,同一の移動物体を,ある単位時間間隔で撮像した画像であるから,上記画像16,17は,互いに同一の移動物体の画像データであると「同定」される画像データである(別紙図面(2)参照)。 原告は,引用発明においては,同一の移動物体であると「同定」するのが撮影者であると主張するが,失当である。引用刊行物には,画像処理において人間が介在するということについては,何らの記載もない。 移動物体を撮影して移動物体の動きを解析する画像処理技術においては,二つの時点で撮影された画像が重なって連続している場合に,それらの画像が同一の移動物体であると同定することは,一般的に行われていることである(乙第2,3号証参照)。 引用発明においても,画像16,17が連続しているのであるから,画像処理の過程で互いに同一の移動物体の画像データであるとの同定が行われることは,当然である。 (イ) 原告は,引用発明の「画像16,17」が移動物体の周辺を含んだある幅をもった輪郭の画像であると主張する。 しかし,そもそも,引用刊行物には,「ある幅をもった輪郭」という用語の記載はない。「画像16,17」が移動物体の周辺を含んだ,ある幅をもった輪郭であることを示す記載もない。 引用刊行物には,移動物体の速度を求めるために必要な「差分画像」を算出する記載として,「現在の移動物体13の映像信号と,一定時間前の映像信号の差を取れば,第1図(C)に示すように背景となるガイド板12等の情報は消去され,移動物体の図中左右の輪郭に相当する部分の画像16,17がある幅をもって残される。 コンベヤベルト11は移動しているが,移動しても情報は変らないからその差分は0である。」(甲第2号証2頁右上欄12行〜19行)との記載がある。引用刊行物の上記記載によれば,引用発明では,「差分画像」を算出するための演算としては,現在の映像信号と一定時間前の映像信号の差を取ることしか行っていないので,当然,差を取った残りの画像は移動物体のみのものとなり,移動物体の周辺を含んだ画像が残ることは,あり得ない。引用刊行物の「輪郭に相当する部分の画像16,17がある幅をもって残される」という記載は,輪郭の周辺を含んだ「ある幅をもった輪郭」を意味するのでなく,移動物体の映像が重なった部分を含んで画像16,17が残されることを意味するにすぎないのである。 (3) 本願発明の「一連の動作」「一連の動き」という構成が引用発明にないこと,について 本願発明の「まずビデオ等の撮影機により時刻の変化に伴う移動物体の一連の動きをある一定時間連続撮影する」というときの「一連」とは,後の処理として,抽出された画像データを一連に求め,この一連の画像データに対して,ほぼ重なり合うものを同一のものとする同定作業を一連に行い,移動物体の軌跡を知り,上記画像データに対応した時刻データを基に移動物体の時間変化に伴う一連の動きを解析するために必要なだけの「一連」である。次に,本願発明の「移動物体の一連の画像・・・を取り」というときの「一連」とは,単に近接した二つの時刻において撮影した二つの映像では,前者の移動物体の軌跡を求めることはできないので,同定作業を繰り返し,微少時間の移動をつなぎ合わせて移動物体の軌跡を求めるというものであり,「一定時間連続撮影することにより」というときの「連続」も,撮影及び同定作業を繰り返し行い,軌跡を得るために必要な分だけ「連続」することを意味しているのである。 審決は,抽出及び同定作業において,繰り返しによる一連の動作の追跡を行うために一連の時刻データを取るという構成の有無を,本願発明と引用発明との間の相違点として認定しており,審決によるこの相違点の認定を,原告は争っていないのである。原告の主張は,主張自体,失当である。 2 取消事由2(相違点についての認定判断の誤り)について 周知例刊行物1(甲第3号証)には,第1日第1レースを表す表示,出走後の経過時間を表す表示,競馬場-コーナ番号を表す表示とにより,画面にスタート後の経過につれてコーナ,時間が表示されるようになっていて,途中経過を知ったり順位判定をしたりするために,テレビ受像器等で,上記画面を観るというシステムが記載されており,周知例刊行物2(甲第4号証)には,@撮影と同時にタイマカウントはカウントを開始し,タイマカウント表示信号がビデオ映像信号にスーパーインポーズされること,A映像信号に加重の大きさ,重心の位置等のデータもスーパーインポーズされること,Bゴルファのスイングにつれて生じる左右足の重みの変化が棒グラフの上下の変化として画面に表示されるため,これを目視することができること,及び,Cタイマカウント数値のタイマ文字,体重の配分比としての棒グラフの上下変化,重心の位置変化等が画面に重畳されて表示されていること,がそれぞれ記載されている。このように,周知例刊行物1,2のいずれにも,画像に記録用時刻データを取り込み,時間の経過に応じて移動体の動作を解析し,その結果を画像と併せて表示することが記載されている。 しかも,周知例刊行物2(甲第4号証)には,「画面の上部右角にはタイマカウント数値が表示されている。・・・テイクバック時のスイングフォームを示している。この画面では,ゴルファの体重が右足に多くかかっていることが判る。・・・映像は録画装置19の通常の再生処理により連続的に見ることができるが,スロー再生,コマ送り再生,停止等の操作により見ることもできる。」(6頁左上欄2行〜右上欄5行)と記載されており,そこでは,あるタイマカウンタ数値の時刻と,その時刻のゴルファのスイング映像と,その時刻でのゴルファの体重配分という移動体の解析結果とが対応付けられて表示され,しかも,その解析に観察者であるゴルファが介在するわけではなく,また解析結果は何度でも再現できるものとされている。このように,周知例刊行物2に記載されたものは,明らかに,時刻データをパラメータとした移動体の動作解析を行っているのである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明の誤認に基づく相違点の看過)について (1) 甲第1号証によれば,審決は,本願発明と引用発明とを対比して,両者は, 「まずビデオ等の撮影機により時刻の変化に伴う移動物体の一連の動きをある一定時間連続撮影することにより移動物体の一連の画像を取り,次に該画像のうち某時刻の画像と某時刻から微小時間後の画像とをコンピュータ6に入力して該某時刻の画像と該微小時間後の画像とを比較させることにより前記某時刻及び前記微小時間後の移動物体の画像データのみを抽出させ.その後抽出された某時刻の画像データと微小時間後の画像データを比較させることによりほぼ重なり合う画像データを同一移動物体の画像データであると同定させ,移動物体の時間変化に伴う動きを解析可能にしてなることを特徴とするコンピュー夕による移動物体の動作解析方法。」(5頁15行〜6頁8行) である点で一致し, 「前者は「画像に対応した一連の時刻データを取り,抽出及び同定作業を,微小時間おきにコンピュータ6により繰り返し行わせることにより前記時刻データをもとに移動物体の一連の動作の追跡を行わせ該移動物体の軌跡を知る」ようにしているのに対して,後者は,そのように明示されていない点。」(6頁10行〜16行) で相違すると認定していることが認められる。 (2) 本願発明の「解析」の構成が引用発明にないこと,について (ア) 「解析」の一般的な意味が,「@物事を分析して論理的に明らかにすること。分析。」といったものであることは,甲第8号証(大辞林第二版)及び弁論の全趣旨により明らかである。 本願明細書の特許請求の範囲において,「解析」の語が,「移動物体の時間変化に伴う一連の動きを解析可能にしてなる」,「移動物体の動作解析方法」という形で使用されていることからすれば,本願発明にいう「解析」は,時間変化に伴う移動物体の一連の動作を分析することである,ということができる。 (イ) 甲第2号証によれば,引用刊行物(特開昭59-99580号公報)には, @ 「移動物体13が,一定時間後に同図(判決注・第1図)(b)に示す位置まで移動したとする。同図中13’は一定時間前の時刻における該移動物体の画像である。現在の移動物体13の映像信号と,一定時間前の映像信号の差を取れば,第1図(c)に示すように背景となるガイド板12等の情報は消去され,移動物体の図中左右の輪郭に相当する部分の画像16,17がある幅をもつて残される。コンベヤベルト11は移動しているが,移動しても情報は変らないからその差分は0である。上記画像16,17を用いれば,移動物体13の形状,傾き,位置,移動速度,進行方向等の諸元および原画像の存在する領域等を容易に認識することができる。」(2頁右上欄9行〜左下欄2行) との記載があり, A 第1,2図には,「撮像器21」によって,「ガイド板12」で案内される「コンベヤベルト11」上に置かれた「移動物体13」を撮影し,その画像情報を処理してパターンを認識する「認識装置」が示されており, また,上記の認識の手法に関して, B 「第2図は,本発明の一実施例を示すブロック図である。すなわち,撮像器21は,背景を含めて移動物体を撮像し電気的な映像信号として出力する。・・・移動物体検知手段25は,移動によって変化した部分,すなわち差分画像によって,容易に移動物体の形状,傾き,位置,速度,進行方向等の諸元を認識することができる。これには,従来のパタン認識技術がそのまま用いられる。なお,上述の処理によって原画像中の移動物体が存在する領域を求めることができる。この領域情報が原画像切出し部26に供給される。原画像切出し部26は,・・・移動物体のみの情報を切り出してパターン認識部27に供給する。パターン認識部27は・・・入力情報によって所要のパターン認識を行なう。」(同2頁左下欄6行〜右下欄9行)との記載がある, ことが認められる(別紙図面(2)参照)。 引用刊行物の上記認定の記載によれば,引用発明は,コンベヤベルト11上を移動する移動物体を撮像し,これによって得られた,背景を含めた,移動する前の移動物体の映像信号13’と移動した後の移動物体の映像信号13の差をとると,変化のない背景等の情報は消去され,移動する前の移動物体の映像信号13’の輪郭に相当する画像16,移動した後の移動物体の映像信号13の輪郭に相当する画像17が残るので,この画像16,17を従来技術であるパターン認識技術を利用することによって,移動物体の形状,傾き,位置,移動速度,進行方向等を容易に把握することができる,というものである。 そうすると,引用発明が,移動物体の時間変化に伴う動きを解析していること,移動物体の動作解析方法であることは,明らかである。 (ウ) 原告は,引用発明においては,移動物体について形状,傾き,速度,進行方向等の諸元や車両番号を検出し,認識するものの,検出及び認識によって得られたデータをどのように処理するかについては,何らの記載もないから,引用発明は,「解析」以前のデータ作成に関する技術であるにすぎず,「解析」という構成を有していないと主張する。 しかしながら,上記のとおり,引用刊行物には,「移動物体検知手段25は,移動体によって変化した部分,すなわち差分画像によって,容易に移動物体の形状,傾き,位置,速度,進行方向等の諸元を認識することができる。これには,従来のパタン認識技術がそのまま用いられる。」,「パターン認識部27は・・・入力情報によって所要のパターン認識を行なう。」と記載されており,移動によって変化した部分(差分画像)によって,従来のパターン認識技術を利用して,移動物体について形状,傾き,速度,進行方向等を把握するというものであり,時間変化に伴う移動物体の動作を分析していることは明白であるから,これが「解析」に当たることは,論ずるまでもないところである。 引用刊行物に記載されている発明がどのようなものであるかを決定するのは,引用刊行物に記載されている技術内容そのものであって,その技術内容を表現するための用語ではないことは,いうまでもないところであるから,同刊行物中において,「認識」,「検知」という語が使用され,「解析」という語は使用されていないからといって,そのことは,何ら,同刊行物に本願発明にいう「解析」に当たる技術が開示されているとすることの妨げになるものではない。 原告の上記主張が失当であることは,明らかである。 (エ) 原告は,本願発明にいう「解析」といい得るためには,対象となる移動物体に対して,目標の一連の画像データと時刻データを得るとともに,これ以降の処理として,一連の時刻データに対して画像データがどのような変化(例えば軌跡)をしていくかを求めるものでなければならないとも主張する。原告の上記主張は,「一連の時刻データ」に基づく「解析」のことを述べていることと思われる。 しかしながら,審決は,上記のとおり,「画像に対応した一連の時刻データを取り,抽出及び同定作業を,微小時間おきにコンピュータ6により繰り返し行わせることにより前記時刻データをもとに移動物体の一連の動作の追跡を行わせ該移動物体の軌跡を知る」との構成の有無を,本願発明と引用発明との相違点として摘示しているのであり,このことからすれば,審決が行った一致点の認定における「解析」の語は,上記一般的な意味で用いられているのであって,本願発明におけるように,一連の動作の追跡を行うこと,の意味で用いられているのではないことが,明らかである。 原告の上記主張は,前提を欠いており,失当である。 (3) 本願発明の「同定」の構成が引用発明にないこと,について (ア) ある画像データと他の画像データが同一であるかどうかを調べるために最も簡単な方法は,両者を重ねてみることであり,この手法は,当業者のみならず一般人の間においても周知となっていることは,当裁判所に顕著である。 本願発明にいう「同定」とは,「その後抽出された某時刻の画像データと微小時間後の画像データを比較させることによりほぼ重なり合う画像データを同一移動物体の画像データであると同定」するというのであり,時刻により異なる画像データを比較し,両者が「ほぼ重なり合う」場合に,同一の画像データとみなすというものであって,まさに,上記の周知技術そのものであるということができる。 したがって,本願発明の「その後抽出された某時刻の画像データと微小時間後の画像データを比較させることによりほぼ重なり合う画像データを同一移動物体の画像データであると同定」するという構成は,極めてありふれた周知慣用の事柄の範囲を出るものではない,ということができる。 (イ) 引用刊行物に,移動する前の移動物体の映像信号13’の輪郭に相当する画像16,移動した後の移動物体の映像信号13の輪郭に相当する画像17が残るので,この画像16,17をパターン認識技術を利用することによって,移動物体の形状,傾き,位置,移動速度,進行方向等を容易に把握することができる,という技術が開示されていることは,前述したとおりである。 移動する前の移動物体の映像信号13’の輪郭に相当する画像16,移動した後の移動物体の映像信号13の輪郭に相当する画像17の変化した部分(差分画像)を利用して,移動物体の形状,傾き,位置,速度,進行方向等の諸元を求めるということは,その前提として,移動する前の移動物体の画像13’と移動した後の移動物体の画像13とが同一物体であることを要するものである。なぜならば,同一物体でないものを比較しても,そこには物体が移動しているという現象が存在していないので,移動物体の速度,進行方向等を把握することもできないからである。 引用刊行物には,前述したように,「現在の移動物体13の映像信号と一定時間前の映像信号の差を取れば,」,「移動によって変化した部分,すなわち差分画像」と記載されており,ここに「差」を取るという以上,移動する前の移動物体の映像信号13’と移動した後の移動物体の映像信号13とを重ね合わせることが前提となっているものということができ,そこでは,当然に,同定作業を行うべき機能が具備されているものということができるのである。 (ウ) 原告は,引用発明は,近接した二つの時刻の映像信号の差を取ることによって移動物体のみに関する情報を抽出して,上記抽出された情報によって対象とする原画像を切り出し,上記抽出された原画像を用いてパターン認識を行っているだけであって,本願発明のような「同定」作業を行うものではないと主張する。 しかし,上述したとおり,本願発明の「同定」の構成は,極めてありふれた周知慣用の事柄である。 一方,引用刊行物に,「現在の移動物体13の映像信号と,一定時間前の映像信号の差を取れば,」,「移動によって変化した部分,すなわち差分画像」と記載されていることからすれば,引用発明は,移動する前の移動物体の映像信号13’の輪郭に相当する画像16,移動した後の移動物体の映像信号13の輪郭に相当する画像17の「差」を利用していることが明らかであり,その場合,必然的に,両者を重ね合わせることになり,同定作業がなされることになるのであるから,その「同定」は,本願発明のそれと変わるところがないというほかない。 (エ) 原告は,本件発明の「同定」はコンピュータによる同定作業であるのに対して,引用発明においては,その特徴は,同一の移動物体であると「同定」するのは撮影者である,と主張する。 しかしながら,引用刊行物には,「パターン認識部27は・・・入力情報によって所要のパターン認識を行なう。」(2頁右下欄7行〜9行)と記載されているから,引用発明における同定作業が,原告のいうように撮影者によってなされるものでないことは,明らかである。引用刊行物中の「パターン認識部」,「入力情報」といった語からすれば,引用発明においても,コンピュータ又はそれに類する装置によって電気的に同定作業がなされるものであることは,明らかである。 (オ) 原告は,引用発明においては,画像16,17は,それぞれ,同一の移動物体を2回撮影して得られた差である領域情報を示す「ある幅をもった輪郭」の画像の一部であり,画像16と画像17がそれぞれ個別の画像であるわけではない,「ある幅をもった輪郭」の画像である「画像16,17」を,本願発明にいう抽出された「移動物体の画像データのみ」と同視することはできない,と主張する。 引用刊行物には,「なお,上述の処理によって原画像中の移動物体が存在する領域を求めることができる。この領域情報が原画像切出し部26に供給される。原画像切出し部26は,・・・移動物体のみの情報を切り出してパターン認識部27に供給する。パターン認識部27は・・・入力情報によって所要のパターン認識を行なう。」(2頁右下欄1行〜9行)との記載があることは,前示のとおりである。 上記記載によれば,切り出される「移動物体のみの情報」は,移動物体が存在する領域を求めるためになされることが明らかである。しかし,移動速度を調べようとすれば,その前提として,画像16と画像17とを個別の画像として扱うことが必要となることは,自明である。 (4) 本願発明の「一連の動作」,「一連の動き」という構成が引用発明にないこと,について 原告は,本願発明にいう「一連」は,抽出された画像データを「一連」に求め,この「一連」の画像データに対して,ほぼ重なり合うものを同一のものとする同定作業を「一連」に行い,移動物体の軌跡を知り,該画像データに対応した時刻データをもとに移動物体の時間変化に伴う「一連」の動きを解析するという意味での「一連」である,これに対して,引用発明においては,近接した二つの時刻の映像をとっているだけである,単に近接した二つの時刻において撮影した二つの映像では,前者の移動物体の軌跡を求めることはできないとして,審決が,引用発明においても,本願発明と同様に,「移動物体の一連の動きをある一定時間連続撮影することにより移動物体の一連の画像を取り」という構成を有すると認定したことを非難する。 しかしながら,審決は,前述したとおり,「前者は「画像に対応した一連の時刻データを取り,抽出及び同定作業を,微小時間おきにコンピュータ6により繰り返し行わせることにより前記時刻データをもとに移動物体の一連の動作の追跡を行わせ該移動物体の軌跡を知る」ようにしているのに対して,後者は,そのように明示されていない点。」で相違すると認定しているのであるから,審決が,両者は,「移動物体の一連の動きをある一定時間連続撮影することにより移動物体の一連の画像を取り」(審決書5頁16行〜17行)という構成を有する点で一致するとしているとしても,そこにいう「一連の動き」,「一連の画像」とは,抽出及び同定作業を繰り返し行わせる場合のものを除外したものであることが明らかである。 原告の上記主張は,審決の誤解に基づくものであり,失当である。 2 取消事由2(相違点についての認定判断の誤り)について (1) 原告は,本願発明は,時刻データをデータ処理用のデータとして取り込んでいるものである,一方,審決が指摘する周知例刊行物1及び2は,いずれも,時刻データをデータ処理用のデータとして取り込んでおらず,取り込む手法を記載してもいないと主張する。 しかしながら,本願発明の特許請求の範囲には,時刻データに関して,「まずビデオ等の撮影機により時刻の変化に伴う移動物体の一連の動きをある一定時間連続撮影することにより移動物体の一連の画像と該画像に対応した一連の時刻データを取り・・・前記時刻データをもとに移動物体の時間変化に伴う一連の動きを解析可能にしてなる」との記載がある。 本願発明の特許請求の範囲の上記記載によれば,本願発明においては,時刻データは,「画像に対応し」て取られ,「時刻データをもとに」,「解析可能にしてなる」というだけである。特許請求の範囲のその余の記載によっても,時刻データに基づくデータ処理の仕方を限定する記載を見いだすことはできない。 (2) 甲第3号証によれば,周知例刊行物1(特開昭58-79392号公報)には,「これによりビデオ録画した画面は,60分の1秒毎の静止画像を連続的に録画して動画を構成するものになるため,個々の静止画像を取り出した際に,画面の細部は流れる事無く明瞭に判別できるものとなる。」(2頁右上欄6行〜11行),「本発明により得られる画面の一例を第6図により説明すると,画像により判別できる馬番号ゼッケン並に通過順位の他に,日付・・・を表示する事ができ」(同欄16行〜左下欄2行)との記載があることが認められる。 また,甲第4号証によれば,周知例刊行物2(特開昭62-44275号公報)には,「画面の上部右角にはタイマカウント数値が表示されている。第7図(a)はアドレス時のスイングフォームを示している。・・・第7図(b)はテイクバック時のスイングフォームを示している。・・・第7図(c)はボールインパクト時のスインググフォームを示している。・・・第7図(d)はフォロースルーの状態を示している。・・・第7図(a),第7図(b)及び第7図(d)におけるスイングフォームの映像はビデオ撮影装置11により撮影されたものである。第7図(a)から第7図(d)までの映像は録画装置19の通常の再生処理により連続的に見ることができるが,スロー再生,コマ送り再生,停止等の操作により見ることもできる。」(6頁左上欄2行〜右上欄5行)との記載があることが認められる。 周知例刊行物1及び同2の上記認定の記載によれば,同各刊行物には,「移動物体の動きを連続的に認識するために,画像データに記録用時刻データを取り込む」との技術が記載されていることは,明らかである。 そして,周知例刊行物1が本願出願の約4年半前に,同2が本願出願の半年以上前に,それぞれ公開されていること,しかも,上記各刊行物には,上記技術自体が格別目新しいものとして記載されているわけではないこと,を併せ考えれば,上記技術は,本願出願前に周知となっていたものというべきである。 したがって,上記周知技術に基づいて,「上記引用例の認識装置においても,移動物体の動きを連続的にトレースした軌跡を知るために,記録用の時刻データを取り込んで,抽出及び同定作業を,微小時間おきに繰り返し行わせて移動物体の一連の動作の追跡を行わせるようにすることは,当業者が,容易に推考できたものと認められる。」とした審決の判断に誤りはない。 3 結論 以上によれば,原告主張の審決取消事由は,いずれも理由がないことが明らかであり,その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 宍戸充 |
裁判官 | 阿部正幸 |