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関連審決 審判1999-35555
関連ワード 創作性(創作) /  29条1項3号 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  周知技術 /  公知技術 /  発明の詳細な説明 /  置換 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  移転登録 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 504号 審決取消請求事件
原告 日本ゲームカード株式会社
訴訟代理人弁理士 河野登夫
同 中尾真一
原告 日本レジャーカードシステム株式会社
訴訟代理人弁護士 小林幸夫
被告 クリエイションカード情報システム株式会社
訴訟代理人弁護士 山上和則
同 尾崎英男
同 弁理士 鈴木由充
同 稲岡耕作
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 特許庁が平成11年審判第35555号事件について平成12年11月15日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは、名称を「遊技設備」とする特許第2688700号発明(以下、
この特許を「本件特許」といい、本件特許に係る発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
本件特許は、昭和62年10月5日に株式会社ソフィアがした出願に係り、
平成9年8月29日に設定登録がされた後、平成10年12月14日、原告らにおいて同会社から本件特許に係る特許権を譲り受け、平成11年2月8日にその旨の移転登録がされたものである。
被告は、同年10月12日に原告らを被請求人として、本件特許につき無効審判の請求をし、平成11年審判第35555号事件として特許庁に係属したところ、原告らは、平成12年2月10日、願書に添付した明細書(以下、単に「明細書」という。)の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載を訂正する旨の訂正請求をした(以下、この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)。
特許庁は、同審判請求につき審理した上、平成12年11月15日に「特許第2688700号発明の特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年12月6日、原告らに送達された。
2 特許請求の範囲の記載 (1) 本件訂正前の明細書の特許請求の範囲の記載 少なくとも固有の識別符号を記憶する記憶媒体が挿入されることに関連して当該記憶媒体の金額情報の範囲内で遊技可能とする遊技装置と、
前記記憶媒体の金額情報に基づいた精算処理を実行可能とする記憶媒体精算装置と、
前記記憶媒体の識別符号に対応して少なくとも前記記憶媒体の金額情報を記憶する記憶手段を有する管理装置と、
を備え、
前記記憶媒体精算装置と前記管理装置とが通信可能に構成されてなる遊技設備であって、
前記記憶媒体精算装置は、
前記記憶媒体の有する識別符号を少なくとも読み取る記憶媒体読取手段と、
前記記憶媒体読取手段によって読み取られた少なくとも識別符号を前記管理装置へ送信可能な送信手段と、
前記送信手段による識別符号の送信に対する管理装置からの応答に基づいて当該記憶媒体の金額情報に対応する貨幣を払い出し可能な貨幣払出手段と、
を備え、
前記記憶媒体精算装置による記憶媒体の精算処理の実行に基づいて、少なくとも当該精算処理に関わる情報を前記送信手段によって前記管理装置へ送信し、
前記管理装置が受信した情報を前記記憶媒体の識別符号に対応して前記記憶手段に記憶するようにしたことを特徴とする遊技設備。
(2) 本件訂正に係る明細書(以下「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の記載(以下、この記載に係る発明を「訂正発明」という。) 固有の識別符号を記憶する記憶媒体が挿入されることに関連して当該記憶媒体の金額情報の範囲内で遊技可能とする遊技装置と、
前記記憶媒体の金額情報に基づいた精算処理を実行可能とする記憶媒体精算装置と、前記記憶媒体の識別符号に対応して前記記憶媒体の金額情報を記憶する記憶手段を有する管理装置と、
を備え、
前記記憶媒体精算装置と前記管理装置とが通信可能に構成されてなる遊技設備であって、
前記記憶媒体精算装置は、
前記記憶媒体の有する識別符号を読み取る記憶媒体読取手段と、
前記記憶媒体読取手段によって読み取られた識別符号を前記管理装置へ送信可能な送信手段と、
前記送信手段による識別符号の送信に対する管理装置からの応答に基づいて当該記憶媒体の金額情報に対応する貨幣を払い出し可能な貨幣払出手段と、
精算終了後に記憶媒体を回収する手段と、
を備え、
前記記憶媒体精算装置による記憶媒体の精算処理の実行に基づいて、
当該精算処理に関わる情報を前記送信手段によって前記管理装置へ送信し、
前記管理装置が受信した情報を前記記憶媒体の識別符号に対応して前記記憶手段に記憶するようにしたことを特徴とする遊技設備。
3 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、@本件訂正の適否につき、訂正発明が、特開昭62-170279号公報(審判甲第1号証、本訴甲第3号証、以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正は、同法134条5項で準用する同法126条3項の規定(注、
「平成6年法律第116号附則6条1項が、同法の施行前にした特許出願に係る特許の願書に添付した明細書又は図面の訂正については、なお従前の例によるとすることにより、平成11年法律第41号による改正前の特許法134条5項において準用する同法126条4項が読み替えられて準用される平成6年法律第116号による改正前の特許法126条3項の規定」の趣旨と解される。)に適合しないので、認められないとし、A本件発明の要旨を本件訂正前の明細書の特許請求の範囲の記載のとおり認定した上、本件発明は引用例発明と同一であるから、本件特許は、特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであり、同法123条1項1号(注、「平成5年法律第26号による改正前の特許法123条1項1号」の趣旨と解される。)に該当し、無効とすべきものであるとした。
原告ら主張の審決取消事由
1 審決の理由中、訂正発明の要旨の認定、引用例の記載を摘記した部分(審決謄本2頁32行目〜3頁35行目)の認定、本件訂正が実質上特許請求の範囲変更するものとは認められないとする判断(同3頁37行目〜4頁5行目)並びに訂正発明と引用例発明との一致点及び相違点の各認定は認める。
審決は、訂正発明と引用例発明との相違点についての判断を誤り(取消事由)、訂正発明が引用例発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨誤った判断をして、本件訂正を独立特許要件を満たさないとして認めず、ひいて、本件発明の要旨の認定を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(相違点についての判断の誤り) (1) 審決は、訂正発明と引用例発明との相違点として認定した「前者(注、訂正発明)が、精算終了後に記憶媒体を回収する手段を備えるのに対し、後者(注、
引用例発明)がカード処分機構を備えている点」(審決謄本4頁末行〜5頁2行目)について、特公昭47-42226号公報(甲第5号証、以下「周知例1」という。)、特開昭52-148337号公報(甲第6号証、以下「周知例2」という。)、特開昭54-27837号公報(甲第7号証、以下「周知例3」という。)及び実願昭57-181900号(実開昭58-108889号)のマイクロフィルム(甲第8号証、以下「周知例4」という。)を挙げて、「パチンコ遊技システムにおいて、使用済みのカードを回収すること」(同5頁4行目)が周知であるとし、さらに、特開昭61-172574号公報(甲第9号証、以下「周知例5」という。)を挙げて、「精算機105では、精算後、カードをカードスタッカに回収すること」(同頁8行目〜9行目)が周知であるとした上、「パチンコ遊技システムにおいて、使用済みのカードを回収すること、及び精算後、カードを回収することは上記のように周知であるから、これらの不要となったカードを回収するという技術思想を適用して、後者(注、引用例発明)においても、精算終了後に記憶媒体を回収する手段を、カード処分機構に代えて採用することに格別の困難性は認められない」(同頁10行目〜14行目)と判断した。
しかしながら、以下に述べるとおり、審決の上記判断は誤りである。
(2) 審決の上記周知技術の認定は、その周知と認定される技術の属する技術分野の認定に誤りがあり、当該技術は、訂正発明と技術分野を異にするものであるから、これを引用例発明に適用して、訂正発明の相違点に係る構成とすることに格別の困難性はないとした判断も誤りである。
ア 審決は、周知例1〜4を挙げて、「パチンコ遊技システムにおいて、使用済みのカードを回収すること」が周知であるとしたが、以下のとおり、周知例1〜4は、訂正発明と同様の「パチンコ遊技システム」の分野における発明が記載されたものではない。
(ア) 周知例1(甲第5号証)には、「数字もしくは記号化したパンチを穿設した遊技カードで遊技するパチンコ機において、遊技後該カードにパチンコ機で穿設するパンチを解読表示し、かつ集計するようにした遊技カードの得点表示装置に関する」(1欄17行目〜21行目)発明が記載されているが、当該得点表示装置は、訂正発明のような、データ搬送路を通じて有機的に結合されている精算装置及び管理装置のようなものではなく、単に、遊技カードで遊技するパチンコ機の得点を表示する装置である。
したがって、周知例1には、「パチンコ遊技システムにおいて」使用済みのカードを回収する技術が示されているのではなく、「遊技カードでのみ遊技がされるパチンコシステムにおいて」使用済みのカードを回収するという技術が示されているにすぎない。
(イ) 周知例2(甲第6号証)には、実球をパチンコ機内に一定数封入した電子制御式パチンコ機の各台に対応して設けられるカード処理装置に関する発明が記載されているが、訂正発明のような、データ搬送路を介して精算装置及びこれと通信可能に構成された管理装置についての記載はない。
したがって、周知例2には、「パチンコ遊技システムにおいて」使用済みのカードを回収する技術が示されているのではなく、「封入式パチンコ機におけるゲーム開始手段としてのカード」を回収するという技術が示されているにすぎない。
(ウ) 周知例3(甲第7号証)には、「循環式パチンコ機において、パチンコ台の所定箇所に個人認識票挿入口を設け、該入口奥に、遊技者の持ち球がゼロになったとき・・・個人認識票等を機内に取り込む回収装置を設けた・・・パチンコ遊技装置」(特許請求の範囲)の発明が記載され、封入式パチンコ機の一般的な構成が示されているが、訂正発明のような、データ搬送路を介して精算装置及びこれと通信可能に構成された管理装置についての記載はない。
したがって、周知例3には、「パチンコ遊技システムにおいて」使用済みのカードを回収する技術が示されているのではなく、「封入式パチンコ機におけるゲーム開始手段としてのカード」を回収するという技術が示されているにすぎない。
(エ) 周知例4(甲第8号証)は、周知例3に係る特許出願の変更出願であり、実質的に周知例3と同様の記載があるだけである。
イ また、審決は、周知例5(甲第9号証)を挙げて、「精算機105では、精算後、カードをカードスタッカに回収すること」が周知であるとした。しかしながら、周知例5には、カードから読み取った店コード及び日付データを、自機に設定したデータと比較し、一致した場合にカードに記録した得点データを表示するとともに、この表示に基づいて精算がされ、精算後のカードは内蔵するカードスタッカに回収される発明が記載されているが、訂正発明のような、データ搬送路を介して精算装置及びこれと通信可能に構成された管理装置についての記載はなく、
精算装置と管理装置とは、それぞれ独立に機能するものである。
したがって、周知例5には、「精算機で、精算後、カードをカードスタッカに回収する」という漠然とした技術ではなく、「封入式パチンコシステムにおいて、独立した精算機が、精算後にカードをカードスタッカに回収する」という技術が示されているものである。
なお、審決は、周知例5(甲第9号証)のみを挙げて、「精算機105では、精算後、カードをカードスタッカに回収すること」が周知であるとしたが、
一般に、周知技術とは、その技術分野において一般的に知られている技術であって、これに関し相当多数の公知文献が存在するようなものをいうから、根拠とされる公知文献が周知例5の1件のみである上記技術はそもそも周知技術ということはできない。
(3) また、審決の相違点についての判断においては、本件特許出願当時の技術水準が適切に考慮されていない。
すなわち、訂正発明を含む本件発明は、カード供給機関等の第三者機関等を介在させてパチンコホール等の経営の健全化を図ることを目的として、昭和61年ころから開発が進められ、平成2年にプリペイドカードの導入に至ったシステムに関するものである。
これに対し、周知例1〜5は、昭和40年代前半から昭和60年代前半ころにかけて開発された封入式パチンコ機、すなわち、パチンコ機の内部にのみ遊技球を循環させて、遊技者が遊技球に触れなくとも遊技できるようにしたシステムに関するものであり、このようなシステムにおいて、遊技の開始及び遊技結果の記録にカードが用いられていたものである。もっとも、このようなパチンコ機は、結局、ほとんど実用化されなかった。
このような技術開発の背景を考慮すれば、上記のようなプリペイドカードシステムに関する技術の草分け的な発明に係る本件特許出願当時の公知技術は、本件発明と全く相違するシステムに関するものであり、本件発明と関連するカードシステムについての公知技術はほとんど存在しなかったことが明らかである。
したがって、周知例1〜5によって把握される周知技術に基づいて、本件発明(訂正発明)の進歩性を否定することはできない。
(4) 被告は、訂正明細書(甲第11号証)の「実施例」の欄に、封入式パチンコ機が記載されているから、訂正発明が、封入式パチンコ機に関する各周知例記載の技術と技術分野を異にするものではない旨主張する。
しかしながら、訂正発明は、カードの金銭的管理に主体が置かれるものであって、カード発行機、カード読取機等が管理装置と通信可能に接続されており、
管理装置によって金銭管理が行われるシステム、すなわち、通信技術を利用したカードシステムである。これに対し、各周知例に記載された技術の属するシステムは、おおむね封入式パチンコのゲーム開始手段としてのカードシステムであるにすぎない。したがって、両者のシステムは、異なった開発動機の下で創作されたものであり、訂正発明が属するシステムで使用される遊技機が封入式パチンコ機であるか否かは問題ではない。
被告の反論
1 審決の認定及び判断は正当であり、原告ら主張の審決取消事由は理由がない。
2 取消事由(相違点についての判断の誤り)について (1) 周知例1(甲第5号証)には、パチンコ機における遊技カードをカードプールに没収することが記載され(3欄12行目〜13行目)、周知例2(甲第6号証)には、電子制御式パチンコ機用カード処理装置において、零カードが没収されること及びその効果が記載され(5頁右下欄16行目〜末行)、周知例3(甲第7号証)及び同4(甲第8号証)には、パチンコ遊技装置において、パチンコ遊技の際に使用するカードとしての個人認識票を回収装置62により個人認識票挿入口14の奥に取り込んで回収することが記載されている(甲第7号証3頁左上欄8行目〜9行目、甲第8号証8頁18行目〜末行)。また、周知例5(甲第9号証)には、弾球遊技装置に用いるカードを精算する際に、精算後のカードが内蔵するカードスタッカに回収されることが記載されている(6頁右下欄17行目〜18行目)。
このように、パチンコ機やパチンコ遊技システムにおいて使用したカードを回収すること、及び精算機で、精算済みのカードを回収することは、本件特許出願当時において周知であり、この周知技術を引用例発明に適用して、相違点に係る訂正発明の構成とすることが容易であることは明らかである。
(2) 原告らは、審決の認定した周知技術が訂正発明と技術分野を異にする旨主張するが、以下のとおり、誤りである。
すなわち、訂正明細書(甲第11号証)に、「実施例」として、「第1図に遊技設備の一例としてのカード式パチンコ遊技システムの一例を示す」(3頁22行目)との記載があるとおり、訂正発明はパチンコ遊技システムの技術分野に属するものである。
これに対し、周知例1〜5に記載された技術は、いずれもパチンコ機やパチンコ遊技システムにおいて、使用済み、精算済みのカードを回収することに関する技術という点で共通しており、これらが訂正発明と同一の技術分野に属するものであることは明白である。
原告らは、周知例1〜5に、訂正発明のような、データ搬送路を介して精算装置及びこれと通信可能に構成された管理装置についての記載がないから、周知例1〜5が訂正発明と技術分野を異にする旨主張するが、原告ら主張のような構成を有するパチンコ遊技システムも、そのような構成を備えないパチンコ遊技システムも、発明として異なるだけであって、ともに「パチンコ遊技システム」という技術分野に属することに変わりはない。
また、原告らは、周知例2〜4に記載された技術が、封入式パチンコ機に関するものであって、訂正発明と技術分野を異にする旨主張するが、訂正明細書(甲第11号証)の「実施例」の欄に、「本実施例の遊技機本体は、機内に封入された遊技球を循環使用する密閉型遊技機として構成されており、封入球を循環させる循環装置を有している」(6頁10行目〜11行目)との記載があるとおり、訂正発明は封入式パチンコ機を含んでいるから、上記主張が誤りであることは明らかである。
さらに、原告らは、「精算機105では、精算後、カードをカードスタッカに回収すること」は、周知であることの根拠とされる公知文献が周知例5の1件のみであるから、周知技術ということはできない旨主張するが、審決は、周知例1〜4により、パチンコ遊技システムにおいてカードを回収することが周知であることを示し、精算後にカードを回収することも周知例5に記載されているから、不要となったカードを回収するという技術思想は、それがパチンコ機によって回収されるものであると、精算機によって回収されるものであると、いずれにしても周知技術であると認定したものである。なお、精算後にカードを回収することは、特開昭54-120046号公報(乙第1号証)にも記載されており、それ自体周知である。
(3) 原告らは、訂正発明を含む本件発明は、昭和61年ころから開発が進められ、プリペイドカードの導入に至ったシステムに関するものであり、周知例1〜5は、昭和40年代前半から昭和60年代前半ころにかけて開発された封入式パチンコ機に関するものであって、本件発明と全く相違するシステムに関するものであるから、周知例1〜5によって把握される周知技術に基づいて、本件発明(訂正発明)の進歩性を否定することはできない旨主張する。
しかしながら、訂正発明が封入式パチンコ機を含んでいることは上記のとおりであり、周知例1〜5が本件発明と全く相違するシステムに関するものであるとの上記主張は誤りである。
なお、特許庁の特許・実用新案審査基準(乙第2号証)は、発明の課題解決のために、関連する技術分野の技術手段の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、関連する技術分野に置換可能なあるいは付加可能な技術手段があるときは、当業者が請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となるとしている(14頁7行目〜9行目)。したがって、仮に、訂正発明と周知例1〜5とが異なった技術分野に属するとしても、関連する技術分野であることは疑いないから、周知例1〜5によって認められる周知技術を引用例発明に適用し、相違点に係る訂正発明の構成とすることが容易であることは明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由(相違点についての判断の誤り)について (1) 周知例1(甲第5号証)には、「この発明は、数字もしくは記号化したパンチを穿設した遊技カードで遊技するパチンコ機において、遊技後該カードにパチンコ機で穿設するパンチを解読表示し、かつ集計するようにした遊技カードの得点表示装置に関する」(1欄17行目〜21行目)、「上述した装置によりカード1のパンチ要素を表示器で確認した後リセツト装置4′を操作すれば、読取装置5に位置されていたカード1はカードプール10に没収されるようになつており」(3欄10行目〜13行目)、「本発明によれば、カードによる数字パチンコ機に於て遊技終了後遊技者が残つている得点を景品と交換する場合に遊技者および係員がカード上の数を確認するのに便利であり」(同欄15行目〜18行目)との各記載があり、これらの記載によれば、周知例1には、遊技カードで遊技するパチンコ機において、遊技終了後、景品交換の際に、遊技カードに記録された得点を表示し、表示後に当該カードを回収する遊技カードの得点表示装置が開示されているものと認められる。
次に、周知例2(甲第6号証)には、「本発明は例えば磁気記録等の手段によつて各種信号要素を記録したカード等の実記録媒体を用いる電子制御式パチンコ機において当該カードの処理装置に関するものである。最近、本出願人においては、遊戯者が実際に弾発する実球はパチンコ機内に一定数封入したものを循環使用し、遊戯開始当初の遊戯者の持玉数、打発球数、フアール球数、入賞球数乃至それに伴う換算賞球数、更に遊戯中止乃至終了後における遊戯者に提供すべき賞球数等は総て数理信号に変換して電子的に演算し、遊戯者は上記のカード等を持歩くだけでとかく嵩ばりがちであった実球に手を触れる必要のない電子制御式パチンコ機の開発を期している実情であるが、本発明はこのような電子制御式パチンコ機の各台に対応して設けられるカード処理装置を提供せんとするものである」(2頁右上欄13行目〜左下欄9行目)、「遊戯中に当該遊戯者の持玉数が零となつた場合に就いて考えてみよう・・・スイツチS2自身もオフとなると共にカードのストツパとしての機能を解除して上述のモータ正転に伴いカードをカードプール11に向けて移送するようになる。この実施例ではある程度送り出された後は傾斜したカード通路4′を自重滑走してカードプールに落込むようになつている」(5頁右上欄末行〜右下欄2行目)、「このようにして持玉数零となつたカードは処理装置内部に没収され」(同頁右下欄11行目〜12行目)、「零カードが没収されることにより遊戯者は持玉を打尽くした台をカードを取出す手間なく離れることができるし、不正カード作成の材料となる零カードが遊戯者間に拡散することもなく、防犯上もそのメリツトは大きい」(同欄16行目〜末行)との各記載があり、
これらの記載によれば、周知例2には、実球をパチンコ機内に一定数封入し、遊技者は、持玉数、打発球数等を信号に変換して記録したカード等の実記録媒体を用いる電子制御式パチンコ機用のカード処理装置において、カードに記録された持玉数が0となった場合に、当該カードを処理装置が回収すること及びその効果が開示されているものと認められる。
また、周知例3(甲第7号証)には、「本発明は・・・遊技者に賞球を解放せずに、電気的な回路によって球の循環を制御するようにしたパチンコ遊技装置を提供するものである」(1頁右下欄3行目〜6行目)、「遊技者はまず・・・券を購入して、必要数の球の代金を支払うが、その金額またはそれに対応する球の数が・・・記憶装置38の該当する番地にセツトすると同時に、さらに券には、このセツトした番地に相当する番号を記入することができる。この記入の方法はサン孔、磁気方式等各種の方法がある。遊技者は自分の券の番地により、以後どのパチンコ台で使用する時でも特定される」(2頁左下欄2行目〜12行目)、「この券すなわち個人認識票を挿入口14・・・に挿入する」(同欄12行目〜13行目)、「ゲームの途中で遊技実績『購入した球の数+当り球の数×賞球倍数-外れ球』がゼロになつたとき、それを・・・検知し・・・回収装置62に送り、その回収装置62により個人認識票を個人認識票挿入口14の奥に取り込んで回収する」(3頁左上欄3行目〜9行目)との各記載があり、これらの記載によれば、周知例3には、遊技者に賞球を解放せず、電気的な回路によって球の循環を制御するようにしたパチンコ遊技装置において、遊技者の持玉数が0となったときに、パチンコ遊技の際に使用する個人認識票をパチンコ遊技装置が回収することが開示されているものと認められる。
なお、周知例4(甲第8号証)には、上記周知例3と同旨の記載があり(2頁9行目〜13行目、6頁6行目〜18行目、同頁19行目〜20行目、8頁13行目〜末行)、これと同様の事項が開示されているものと認められる。
さらに、周知例5(甲第9号証)には、「本発明は、遊技者が発射操作部を介して発射した遊技球を通じて当該遊技に参加する弾球遊技装置に関し」(1頁右下欄10行目〜12行目)、「遊技中に遊技者によって、ゲームを終了させるための精算スイッチ98を、遊技盤20の上方に設けている。この精算スイッチ98が遊技者により操作されると・・・店コード設定スイッチ99及び日付スイッチ100のコード出力を・・・カードに磁気的に記録し、同時に得点表示器63の表示得点をカードに磁気的に記録する」(6頁左下欄6行目〜15行目)、「遊技者はカードを持って精算所に配設された精算機105に行き・・・獲得した得点に対応する精算を受けることができる・・・上記精算機105は・・・挿入されたカードをカードリーダー108に位置まで(注、「108の位置まで」の誤記と認める。)運んで、その記憶内容を読取る。そして、リーダコントローラ109は、カードから読取った店コード、日付データを内蔵する店コード設定スイッチ110及び日付設定スイッチ111の設定内容と比較し、一致すればカードから読取った得点データをゲーム回数表示器112に表示する。かくして、この表示に基づいて精算がなされ、精算後のカードは内蔵するカードスタッカに回収される」(同頁右下欄4行目〜18行目)との各記載があり、これらの記載によれば、周知例5には、
弾球遊技装置において、遊技終了後、カードに記録された得点データを表示した上、その表示に基づいて精算をし、精算後のカードを回収する精算機が開示されているものと認められる。
上記周知例1〜5の各開示事項によれば、カードを用いてするパチンコ遊技システムにおいて、一般に当該システムに係る装置が、使用済みで不要となったカードを回収することが、本件特許出願当時周知であったことが認められ、特に周知例5によれば、上記周知技術中には、当該カードに記録された得点を精算することによって使用済みとなったカードを回収することも含まれるものと認められる。
そうすると、引用例発明において、そのカード処分機構、すなわち、「精算済のカードに例えば穴を開けたり、マーキングを行なったり、又はデータ記録部分を塗りつぶす等、再使用防止処理を行なうカード処分機構319」(審決謄本3頁17行目〜19行目)に換えて、上記周知技術を適用し、訂正発明の精算終了後に記憶媒体を回収する手段を備える構成とすることは、当業者が容易にし得ることと認められる。
したがって、「不要となったカードを回収するという技術思想を適用して、後者(注、引用例発明)においても、精算終了後に記憶媒体を回収する手段を、カード処分機構に代えて採用することに格別の困難性は認められない」(同5頁12行目〜14行目)とした審決の判断に誤りはない。
(2) 原告らは、周知例1には「遊技カードでのみ遊技がされるパチンコシステムにおいて」使用済みのカードを回収するという技術が、周知例2〜4には「封入式パチンコ機におけるゲーム開始手段としてのカード」を回収するという技術が、
それぞれ示されているにすぎないから、周知例1〜4に基づき、「パチンコ遊技システムにおいて」使用済みのカードを回収することが周知であるとした審決の認定は、周知技術の属する技術分野の認定に誤りがあり、当該技術は訂正発明と技術分野を異にするものである旨主張し、さらに、周知例5について、「精算機で、精算後、カードをカードスタッカに回収する」という技術ではなく、「封入式パチンコシステムにおいて、独立した精算機が、精算後にカードをカードスタッカに回収する」という技術が示されているから、「パチンコ遊技システムにおいて」とした審決の技術分野の認定は誤りである旨主張する。
しかしながら、周知例1に記載された発明が遊技カードで遊技するパチンコ機であり、周知例2〜5に記載された発明が封入式パチンコ機であると認められることは原告ら主張のとおりであるが、遊技カードで遊技するパチンコ機や封入式パチンコ機が、パチンコ遊技システムの一種であることは明白であり、したがって、遊技カードで遊技するパチンコ機や封入式パチンコ機に係る上記周知技術が、
パチンコ遊技システムの技術分野に属する技術であって、訂正発明と技術分野を異にするものではないことも明らかである。
このことは、訂正明細書(甲第11号証)の「実施例」の欄に、「本実施例の遊技機本体は、機内に封入された遊技球を循環使用する密閉型遊技機として構成されており、封入球を循環させる循環装置を有している」(6頁10行目〜11行目)との記載があり、訂正発明が封入式パチンコ機を含んでいると認められることによっても裏付けられるところである。
原告らは、周知例1〜5記載の発明が訂正発明と技術分野を異にする根拠として、同各周知例に、データ搬送路を介して精算装置及びこれと通信可能に構成された管理装置についての記載はないことを挙げ、さらに、訂正発明は、カードの金銭的管理に主体が置かれるものであって、カード発行機、カード読取機等が管理装置と通信可能に接続されており、管理装置によって金銭管理が行われるシステム、すなわち、通信技術を利用したカードシステムであるのに対し、各周知例に記載された技術の属するシステムは、おおむね封入式パチンコのゲーム開始手段としてのカードシステムであるにすぎないから、両者のシステムは異なった開発動機の下で創作されたものであり、訂正発明が属するシステムで使用される遊技機が封入式パチンコ機であるか否かは問題ではないとも主張する。
そして、訂正発明が、記憶媒体読取手段及び貨幣払出手段を備える精算装置と、記憶媒体の金額情報を記憶する記憶手段を有する管理装置とが通信可能に構成されて成り、精算装置が記憶媒体の金額情報に対応して行う貨幣払出等の精算処理の実行が、管理装置がその記憶手段に記憶する当該記憶媒体に係る金額情報に従ってする応答に基づいてされる構成であることは、訂正明細書(甲第11号証)の特許請求の範囲の記載によって明らかであり、原告らの上記主張のうち、訂正発明のシステムに関する部分はこれと符合する限度で誤りがない(なお、カード発行機が管理装置と通信可能に接続されていることは、上記特許請求の範囲に記載されていない。)。
しかしながら、周知例1〜5記載の発明と訂正発明との開発動機が異なり、周知例1〜5記載の発明が訂正発明に係る上記構成を有していないとしても、
それは単に、訂正発明が周知例1〜5記載の発明と構成要件を異にする別異の発明であるということを意味するにすぎない。そして、一般に、発明として別異であるからといって、それだけで、その属する技術分野が異なるとはいえないことは明らかであり、訂正明細書(甲第11号証)及び周知例1〜5(甲第5〜9号証)の各記載によっても、訂正発明が、上記構成を備えるがゆえに、上記のとおり、パチンコ遊技システムの技術分野に属する技術であると認められる周知例1〜5記載の発明と、その技術分野を異にするに至るという根拠を見いだすことはできない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
(3) 原告らは、さらに、審決が「精算機105では、精算後、カードをカードスタッカに回収することが特開昭61-172574号公報(注、周知例5)に記載される如く周知である」(審決謄本5頁8行目〜9行目)と認定したことに関し、根拠とされる公知文献が周知例5の1件のみである上記技術は周知技術ということができない旨主張する。
しかしながら、審決が、「パチンコ遊技システムにおいて、使用済みのカードを回収することは、特公昭47-42226号公報、特開昭52-148337号公報、特開昭54-27837号公報、実願昭57-181900号(実開昭58-108889号)のマイクロフィルム(注、周知例1〜4)に記載される如く周知である」(同頁4行目〜7行目)旨の認定に引き続いて上記認定をしていること、及びその認定に係る各周知技術の内容にかんがみて、審決は、パチンコ遊技システムにおいて、一般に当該システムに係る装置が、使用済みで不要となったカードを回収することが、本件特許出願当時周知であったこと、及び上記周知技術中には、周知例5に記載されたもののように、当該カードに記録された得点を精算することによって使用済みとなったカードを回収することも含まれる旨を認定したものであって、精算後のカードを回収することを、使用済みで不要となったカードを回収することとは全く別の周知技術として、周知例5のみによって認定したものではないことが明らかである。
そして、審決のそのような認定は、上記(1)の当裁判所の認定とも符合するものであって、誤りはなく、原告らの上記主張は採用することができない。
(4) 原告らは、訂正発明を含む本件発明は、昭和61年ころから開発が進められ、プリペイドカードの導入に至ったシステムに関するものであり、周知例1〜5は、昭和40年代前半から昭和60年代前半ころにかけて開発された封入式パチンコ機に関するものであって、本件発明と全く相違するシステムに関するものであるから、周知例1〜5によって把握される周知技術に基づいて、本件発明(訂正発明)の進歩性を否定することはできず、審決の相違点についての判断においては、
本件特許出願当時の技術水準が適切に考慮されていない旨主張する。
しかしながら、原告らの主張する「システムの相違」によって、周知例1〜5に記載された発明と訂正発明とが技術分野を異にするものとはならないことは上記(2)のとおりであり、また、上記「システムの相違」によって、引用例発明のカード処分機構に換えて、周知例1〜5によって把握される「使用済みで不要となったカードを回収する」周知技術を適用することに技術的な困難が生ずるとする事由も見いだせないから、上記(1)のとおり、上記周知技術を引用例発明に適用して、訂正発明の精算終了後に記憶媒体を回収する手段を備える構成とすることは容易であるというべきである。
また、周知例1〜5が、昭和40年代前半から昭和60年代前半ころにかけて開発された封入式パチンコ機に関するものであるとすれば、同各周知例によって把握される周知技術が本件特許出願当時の当業者の技術水準内にあることは明白である。なお、仮に、審決の判断において本件特許出願当時の技術水準が適切に考慮されていない旨の原告らの主張が、本件特許出願当時、開発が進められていた新規の技術に基づく発明に、過去の技術を適用することが困難であるとの趣旨であれば、その主張自体が誤りというほかはない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
2 以上のとおりであるから、原告ら主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利