関連審決 | 審判1997-19468 |
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関連ワード | 容易に発明 / 技術常識 / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
226号
審決取消請求事件
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原告 ヤマハ株式会社 訴訟代理人弁護士 田倉整 同 青木一男 同 田中成志 同 平出貴和 同 長尾二郎 同 内藤義三 同 三木浩太郎 訴訟代理人弁理士 飯塚義仁 同 神谷牧 被告 ブラザー工業株式会社 訴訟代理人弁護士 熊倉禎男 同 田中伸一郎 同 飯田圭 同 佐尾重久 訴訟代理人弁理士 富澤孝 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/03/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が,平成9年審判第19468号事件について,平成11年6月1日にした審決を取り消す。 訴訟費用は,被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨。 2 被告 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は,原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「電子音楽再生装置」とする特許第2508394号(平成2年10月2日出願。平成8年4月16日設定登録。以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。原告は,平成9年11月14日,本件特許を無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,これを平成9年審判第19468号事件として審理し,その結果,平成11年6月1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をして,同月23日,その謄本を原告に送達した。 2 本件特許の特許請求の範囲 本件特許の特許請求の範囲は,次の「請求項1」のみである。 「【請求項1】 楽曲のデジタル楽音情報を格納した楽音情報記憶部と, 背景情報を格納した映像記憶部と, 記憶された前記各情報を読み出し伴奏音の再生と共に背景映像並びに歌詞の画像表示を行うように装置の動作制御を行う制御部とを備える電子音楽再生装置において, 前記楽音情報記憶部に格納されるデジタル楽音情報は,種々の楽器の演奏情報と歌詞表示指示情報と,を有し, 前記歌詞表示指示情報は,歌詞の表示・消去指示情報と,前記演奏情報の主旋律の進行に適合した歌詞文字表示の色変化を行わせる色変え指示情報と,色変えを行う文字が所定の幅ずつ色変えが行われるように,前記演奏情報の主旋律の進行に適合する異なった色変えの幅を指示する色変え幅情報と,を含むよう構成され, 制御部は,前記各指示情報に基づき歌詞の画像表示制御を行うと共に,色変え幅情報に基づいて,現在色が変わっている位置から指定された幅だけ色変えを行うよう制御することを特徴とする電子音楽再生装置。」 3 審決の理由の要点 別紙審決書の理由の写し記載のとおりである。要するに,本件発明は,特開平2-242294号公報(審判甲第1号証。本訴甲第1号証。以下「甲第1号証刊行物」という。),特開平2-207683号公報(審判甲第2号証。本訴甲第2号証。以下「甲第2号証刊行物」という。),特開昭63-48595号公報(審判甲第3号証。本訴甲第3号証。以下「甲第3号証刊行物」という。)及び特開平2-185159号公報(審判甲第4号証。本訴甲第4号証。以下「甲第4号証刊行物」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできず,これらの発明と静岡県磐田郡<以下略>ヤマハ株式会社豊岡工場内で同社社員A氏によって保管されている,東京都品川区<以下略>を本店所在地とする「株式会社第一興商の製造・販売による,刻印番号「ED-1 2A1 86」の付された品番「ED(EDIT-A-VISION)1」の昭和63年6月製造,同年9月発売のカラオケCD(審判検甲第1号証の1。以下「本件カラオケCD」という。審判検甲第1号証の2,3(本訴甲第13号証の2,3)は,本件カラオケCDにおける実写資料及び解析結果を示す資料とされているものである。)に示された発明とに基づいても当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない,として,請求人(原告)の主張する無効事由をすべて斥けた。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は,甲第1号証刊行物ないし甲第4号証刊行物に記載された発明並びに本件カラオケCDに示された発明の認定を誤り,その結果,上記各引用例は,本件発明の不可欠の構成要件である「前記歌詞表示指示情報は,歌詞の表示・消去指示情報と,前記演奏情報の主旋律の進行に適合した歌詞文字表示の色変化を行わせる色変え指示情報と,色変えを行う文字が所定の幅ずつ色変えが行われるように,前記演奏情報の主旋律の進行に適合する異なった色変えの幅を指示する色変え幅情報と,を含むよう構成され,制御部は,前記各指示情報に基づき歌詞の画像表示制御を行うと共に,色変え幅情報に基づいて,現在色が変わっている位置から指定された幅だけ色変えを行うよう制御する」構成を具備していない,との誤った認定判断をしたものであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。 1 甲第1号証刊行物記載の発明の認定の誤り (1) 甲第1号証刊行物における「カラオケ情報」は,ディジタルの「楽曲情報」と「歌詞情報」とを含む(同刊行物3頁左下欄2行〜5行参照)。「楽曲情報」は,「トリガ信号」を混在させている(同刊行物3頁左上欄1行〜7行参照)。「歌詞情報」は,「コマンド」を含んでおり,「コマンド」には,タイミングを指示するデータとしての「トリガ数値」を含み(同刊行物3頁右上欄18行〜左下欄5行参照),かつ「コマンド」には,そのコマンド内容として「文字表示に関するもの」,「歌詞の色変更に関するもの」,及び「色変更の開始位置から終了位置までの指定」を含んでいる(同刊行物4頁右上欄7行〜17行参照)。 甲第1号証刊行物4頁右上欄7行ないし10行の「色変更の開始位置から終了位置までの指定された色をカラーコードを変更することによって文字の色変更を行い」との記載と,同刊行物4頁右上欄11行ないし17行の「このとき,変更された文字の色が背景と同一であれば文字が消去されるのと同じ効果を奏し,違うときには文字が徐々に色変わりするように見える。また,グラフィック処理を行っているので,一文字ずつ不連続に変更するのでなく,連続的に徐々に色を変更することが可能である。」との記載とを併せ考慮するならば,同号証には,「歌詞の色変更に関するコマンド」が「色変更の開始位置から終了位置までの指定」を含むことが実質的に開示されており,少なくともそのことが示唆されている,ということができる。 したがって,甲第1号証刊行物における,「歌詞情報」及びそこに含まれる「文字表示に関する」コマンドは,本件発明の「歌詞の表示・文字消去情報」に一致し,甲第1号証における「トリガ信号」と「歌詞の色変更に関する」コマンドとそこに含まれる「トリガ数値」は,本件発明の「前記演奏情報の主旋律の進行に適合した歌詞文字表示の色変化を行わせる色変え指示情報」に一致し,同号証の,「歌詞の色変更に関する」コマンドに含まれる「色変更の開始位置から終了位置までの指定」は,本件発明の「色変えを行う文字が所定の幅ずつ色変えが行われるように,・・・色変えの幅を指示する色変え幅情報」を開示している。 甲第1号証刊行物においては,「色変えを行う文字が所定の幅ずつ色変えが行われるように,・・色変えの幅を指示する色変え幅情報」が存在するとの明文の記載はない。しかしながら,同刊行物における「文字の色変更あるいは文字消去の場合には色変更の開始位置から終了位置までの指定された色をカラーコードを変更することによって文字の色変更を行い」(同刊行物4頁右上欄7行〜10行)との表現は,「色変更の開始位置から終了位置まで」という範囲を指定して,その範囲での,指定された色(つまり文字の色)を,変更することを必然的に意味する。 すなわち,「色変更の開始位置から終了位置まで」というからには,必ず,色変更の開始位置から終了位置までの範囲を「どこからどこまで」というように具体的に指定しなければならないのは技術の必然である。そして,電子的な装置が何らかの指定に従って何らかの動作を行うには,そこに必ず,何らかの指定を行う「情報」が介在することは,技術の常識である。甲第1号証刊行物において,「色変更の開始位置から終了位置まで」の範囲を指定して,その範囲での指定された色(つまり文字の色)を変更する,という処理を行うことになっている以上,「色変更の開始位置から終了位置まで」の範囲を指定する何らかの「情報」が,甲第1号証刊行物に記載された技術において存在することを意味しており,少なくともそのことを示唆していることは,当業者であれば明白である。このような同刊行物記載の技術における「色変更の開始位置から終了位置まで」の範囲を指定する「情報」が,本件発明における「色変えを行う文字が所定の幅ずつ色変えが行われるように,・・・色変えの幅を指示する色変え幅情報」に該当していることは明白である。 カラオケ装置において,主旋律の進行に適合していない色変えは技術的にあり得ないため,上記情報は,当然に「主旋律に適合する」「異なった色変えの幅を指示する色変え幅情報」を含むものである。 (2) 甲第1号証刊行物の,「グラフィック制御装置6」では,第2図に示されたフローに従って,ブロック27でYESと判定した「歌詞の色変更に関する」コマンドに基づいて,次のブロック31において「色変更の開始位置から終了位置までの指定された色をカラーコードを変更することによって文字の色変更を行」う。 これは,本件発明の「現在色が変わっている位置(色変更の開始位置)から指定された幅だけ(終了位置まで)色変えを行う」ことと一致する。 (3) したがって,甲第1号証記載の発明が,本件発明の上記構成要件を具備していない,との審決の認定は,誤りである。 2 甲第3号証刊行物記載の発明の認定の誤り (1) 甲第3号証刊行物記載(2頁左下欄4行〜15行,5頁左上欄16行〜20行,第8図)の「ライトフォント」パック,すなわち,「歌詞表示用のグラフィックスコマンド」は,本件発明の「歌詞の表示・消去指示情報」に一致し,「EXORフォント」パックすなわち「色替えのグラフィックスコマンド」は,「演奏情報の主旋律の進行に適合した歌詞文字表示の色変化を行わせる色変え指示情報」に一致し,同様に,「EXORフォント」パックすなわち「色替えのグラフィクスコマンド」は,本件発明の「色変えを行う文字が所定の幅ずつ色変えが行われるように・・・色変えの幅を指示する色変え幅情報」に相当する。 甲第3号証刊行物においては,「EXORフォント」パック,すなわち「色替えのグラフィックスコマンド」によって指定された色変え幅情報に基づいて,現在色が変わっている位置から指定された幅だけ色変えが行われるので,これは,本件特許請求の範囲中の「色変え幅情報に基づいて,現在色が変わっている位置から指定された幅だけ色変えを行うよう制御する」ことと一致する。 甲第3号証刊行物に記載された発明が「音楽の流れに同期してスムーズに色変えを行うことができないという問題点を解決すること」を目的として(同刊行物4頁左下欄2行〜13行),「再生音声信号に同期して表示色をスムーズに切替えさせることができる」という効果を奏している(同刊行物7頁右下欄13行〜20行)ものであることから,同刊行物における「色変え幅情報」が,「演奏情報の主旋律の進行に適合する」「色変えの幅」を指示することは,明白である。 (2) 被告は,甲第3号証刊行物においては,ピクセル幅が一個ないし複数個との記載はあるとしてもそれを変化させる旨の記載は一切存在しないから,結果として,色変えのなされる幅は「一定」である,旨主張する。 しかしながら,同刊行物には,一方で,「色変えの幅」が「一定」であるとは記載されておらず,他方で,複数個のピクセル幅で変化させる,ということが記載されているのであるから,多数の文字からなる一曲の歌詞全体の中に任意の文字においては,そのときの曲の進行具合に従って,1ピクセル幅に限らず,適宜複数個のピクセル幅で色変えがなされるものがある,と解するのが当時の色変え技術水準からみて自然であり,当業者であれば,一曲全体においては色変えのピクセル幅を必要に応じて適宜異ならせるように実施してよいことは,当然に理解できることである。 3 甲第4号証刊行物記載の発明の認定の誤り (1) 甲第4号証刊行物に記載された「楽曲メモリ5から出力されるデジタル信号の中に設定された色変更信号」は,「歌詞の色および背景色を適宜変更させる」ものであるから(同刊行物3頁右上欄5行〜19行),本件発明における,「デジタル楽曲情報」が有している「歌詞表示指示情報」に含まれる「色変え指示情報」と「色変え幅情報」に相当する。すなわち,楽曲の進行に応じて歌詞を進行(色変更)させるために,パルス状の信号として出力される「色変更信号」の機能が「色変え指示情報」に相当する。また,同刊行物中の,「なお,色変更信号は,各々1ビットの内容でパルス出力になるように楽曲情報に混在しておけば,この信号と同時に1文字づつ歌詞を進行させることができる。ただし,色の変更用には別個の色情報を混在させる必要がある。一方,色変更信号として複数ビットを割り当てておけば,複数文字を一挙に消去させたり,同時に色を変更させたりすることができる。」(同3頁右下欄8行〜15行)との記載を参照すれば,「色変更信号」のビット内容が,本件発明における「色変え幅情報」に相当するということができる。 また,「楽曲の進行と歌詞の進行を確実に同期する」との目的・効果(同4頁右上欄9行〜20行)から,同刊行物における「色変更信号」は,「演奏情報の主旋律の進行に適合する」ものである。 以上のとおり,甲第4号証刊行物における「色変更信号」は,本件発明の「演奏情報の主旋律の進行に適合する異なった色変えの幅を指示する色変え幅情報」に一致する。 (2) 被告は,甲第4号証刊行物に記載された,一文字又は複数文字の文字単位で色変えする技術は,色変更する幅と無関係な技術であると主張する。しかし,一文字を同時に色変えするのと複数文字を同時に色変えする場合とでは,1回当たりの「色変え幅」が当然異なってくるのであるから,これを色変更する幅とは無関係な技術と言うことはできない。 被告は,本件発明における「色変え幅情報」における幅が一文字幅未満であることを主張したいのかもしれない。しかし,そのようなことは,本件発明の特許請求の範囲において全く規定されていない。 4 本件カラオケCDに示された発明の認定の誤り (1) 審決は,甲第13号証の2(本件カラオケCDにおける歌詞色変え例を示すディスプレイ・スクリーンの実写資料)について,ピックアップされて写真撮影されているのは,「歌詞文字及び歌詞文字周囲背景部分表示画面」である,と認定した上で,「白色から黄色に順次変更されている」のは,「歌詞文字ではない歌詞文字周囲背景部分」であると認定した。しかしながら,同証で白色から黄色に変化しているのは,「歌詞文字ではない歌詞文字周囲背景部分」ではなく,歌詞文字の「文字の白抜き縁取り部分」である。この文字の縁取り部分は,歌詞文字の一部分であって,文字とは別の背景部分ではない。審決の上記認定は誤りである。 (2) 審決は,甲第13号証の3(本件カラオケCDにおける歌詞色変え関連情報の解析結果を示す資料)について,色変え制御用の記録データをコンピュータによって解析したものを「歌詞文字及び歌詞文字周囲背景部分表示画面」と認定し,また,同証中で「各色から黄色に異なるピクセル幅で順次変更されている」のを,「歌詞文字ではない歌詞文字周囲背景部分」と認定した。しかしながら,「白色から黄色に異なるピクセル幅で順次変更されている」のは,「歌詞文字ではない歌詞文字周囲背景部分」ではなく,「歌詞文字の白抜き縁取り部分」であり,文字の縁取り部分は,歌詞文字の一部分であって,文字とは別の背景部分ではないことは,(1)に記載したところと同一である。 |
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被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,審決を取り消すべき理由はない。 1 甲第1号証刊行物記載の発明の認定の誤りについて (1) 甲第1号証刊行物には,(歌詞情報中の)「歌詞の色変更に関する」コマンドが,色変更の開始位置から終了位置までの指定,を含むこと,すなわち,本件発明における「色変えを行う文字が所定の幅ずつ色変えが行われるように,・・・色変えの幅を指示する色変え幅情報」に相当することを開示,示唆する記載は存在しない。しかも,同号証刊行物の記載においては,色変更の幅を示す情報が当該コマンドに含まれているものかどうか,あるいはそもそもそのようなものがどこかに存在するのか,どのような形態で存在するのかについては,全く明らかではない。 甲第1号証刊行物は,演奏情報の主旋律の進行に適合するため色変えのタイミングを調整することのみを開示・示唆しているのであり,異なった色変えの幅を指示しているものではない。 したがって,同刊行物には,本件発明の「色変え幅情報」の開示も,示唆も存在しない。 (2) 原告は,甲第1号証刊行物において,「色変更の開始位置から終了位置まで」の範囲を指定して,その範囲での,指定された色(つまり文字の色)を変更する,という処理を行うようになっている以上,“色変更の開始位置から終了位置まで”の範囲を指定する何らかの「情報」が存在しているのは技術の常識であるから,“色変更の開始位置から終了位置まで”の範囲を指定する「情報」は,「色変え幅情報」に相当する,と主張する。 しかしながら,同号証刊行物中には,「楽曲情報に混在されたトリガ信号」が,「演奏情報の主旋律の進行に適合する異なった」「色変更の開始位置から終了位置までの範囲を指定する」ものであることを直接述べる記載はもちろん,それを示唆する記載も全くない。 かえって,同号証刊行物の第2図フローチャート及び「トリガ信号に応じてカウントを積算し(24),コマンドのトリガ数値がカウント値と一致もしくはカウント値が大きい場合には(YES)次処理に移行し」との記載(同刊行物4頁左上欄8行〜11行)からすれば,楽曲情報に混在されるトリガ信号の記録間隔(出現タイミング)を変化させること,あるいは,コマンドのトリガ数値を変化させることにより,「文字の色変更」処理(31)の実行タイミングを調整して,歌詞の色変えをカラオケ楽曲の主旋律の進行に適合させているものと理解するのが自然であり,同号証刊行物は,色変え幅情報を開示も示唆もするものでないことが,明らかである。 2 甲第3号証刊行物記載の発明の認定の誤りについて (1) 甲第3号証刊行物には,「EXORフォント」パックすなわち,「色替えのグラフィックスコマンド」の記録間隔を変化させるというCDグラフィックス特有の具体的な技術的構成を採用し,これにより歌詞の色替えを主旋律の進行に適合させ「再生音声信号に同期して表示色をスムーズに切り替えさせることができる」こと,1個のピクセル幅単位で色替えを行うこと,及び,複数個のピクセル幅単位で色替えを行うことが開示されている。 しかしながら,同号証刊行物には,色替え幅情報によって指示される色変えの幅を演奏情報の主旋律の進行に適合させて異ならせることについては,何ら開示も示唆もされていない。同号証刊行物においては,1個のピクセル幅単位で色替えを行うことも,複数個のピクセル幅単位で色替えを行うことも記載されてはいるものの,幅を変化させる旨の記載は一切存在しないから,結果として,そこに記載された発明においては,色変えのなされる幅は「一定」であるというべきである。 (2) 原告は,甲第3号証刊行物には,「色変えの幅」が「一定」であるとは記載されていないから,当業者であれば,ピクセル幅を必要に応じて適宜異ならせるように実施できるものである,と主張する。 しかしながら,同号証刊行物に記載されているのは,文字の1ラインに相当するピクセルの色変えについて,「EXORフォント」パック17の記録間隔を変える,すなわち,再生時におけるパックの出現タイミングを変えることにより,歌詞の色変えをカラオケ楽曲の主旋律の進行と適合させるように構成されているものであり,色変えの幅を示すような情報を一切持たないものであるから,そこに示されたものにおいては,1ピクセル幅単位であれ,複数ピクセル幅単位であれ,いずれにしろ色替えの幅は一定であるということになる。すなわち,同号証刊行物は,歌詞の色変えをカラオケ楽曲の主旋律の進行と適合させるという技術的構成しか開示していない。 3 甲第4号証刊行物記載の発明の認定の誤りについて (1) 甲第4号証刊行物に記載されているのは,色変えに際して,単に1文字又は複数文字を,幅とは無関係に,文字単位で色変えを行うものであるから,1文字の色変えを指定したときに,平仮名,漢字等幅が異なる文字においても1文字分の色変えを行うにすぎない。同号証刊行物は,「所定の幅ずつ」ということについては全く考慮を払っておらず,文字の単位のみで色変えを行っているから,「色変更信号」のビット内容が,「色変えを行う文字が所定の幅ずつ色変えが行われるように・・・色変えの幅を指示する色変え幅情報」であることを開示も示唆もしていない。 (2) 原告は,1文字を色変えするときと,複数文字を同時に色変えするときとでは1回当たりの色変え幅が当然異なるものであるから,これを「幅とは無関係」ということはできない旨主張する。 しかしながら,文字幅が異なるものとなることがあるとしても,これは,あくまでも,文字単位で色変えを行うこととした結果にすぎず,甲第4号証刊行物に記載された技術においては,「所定の幅ずつ」色変えが行われるように,色変えの「幅を指示する」ということについては全く考慮が払われていないから,原告の主張は失当である。 4 本件カラオケCDに示された発明の認定の誤りについて 審決は,本件カラオケCDにおける色変えは歌詞文字について行われているものではないと認定しているのではない。 審決は,甲第13号証の3のBに明確に示されているように,各ピクセル幅ごとに歌詞文字に当たるのか,その周囲背景部分に当たるのかを確認し,それぞれにつき色変えをする,すなわち前とは別の色を表示するように指示をなすかあるいは前と同じ色を表示するように指示をなすかが設定されていることを指摘しているものと解される。 言い換えれば,審決はビットマップデータにつき,それが本件発明の「色変え幅情報」に当たらないと判断し,上記の認定判断に至ったと解されるのであり,そこに何らの誤りもない。 |
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当裁判所の判断
1 甲第1号証刊行物記載の発明の認定の誤りについて (1) 甲第1号証によれば,同号証刊行物(特開平2-242294号公報)には,次の記載があることが認められる。 ア〔産業上の利用分野〕 「本発明は,カラオケ情報をデータベースとし,これを音楽再生するカラオケ装置に係り,音楽の進行に対応してディスプレイに歌詞を表示または制御するための歌詞表示装置に関する。」(同刊行物1頁右欄下から4行〜末行) イ〔従来の技術およびその課題〕 「一般に,カラオケではアンプを通してスピーカから楽曲が流れると共に,CRTなどのディスプレイに楽曲に対応した歌詞が順次表示されるものであるが,現在のところはこれらはコンパクトディスクなどに収容されたPCM信号を独立した装置によって再生しているものがほとんどであり,二進符号化したデジタル情報によって処理しているものはなかった。ところで,本発明では二進符号化された歌詞情報および楽曲情報をデータベースとしてホストコンピュータに保存し,これを公衆回線によってダウンロードする手段も予定しているが,従来のこの種の技術としては,ビデオテックス通信網を用いて視覚情報と聴覚情報とを伝送する手段が知られている。しかし,この手段では一画面中の一部分づつ表示していったり,一部分づつ消去しようとすれば,表示・消去の書き換え速度が遅くなるので,全画面単位で書換えをしなければ,楽曲の進行に適切に対応することができない。従って,一画面単位内で歌詞のみを適当に消去したり,背景色を適当に変更することはできないという欠陥がある。さらに,利用者側の端末の種類によって画面書換えの速度が異なるので,端末一様に所定の速度で同期させることは不可能である。 本発明はこのような従来の課題を解決しようとするもので,二進符号によってカラオケ情報を記憶・処理する構成において,ディスプレイ上に表示された歌詞のうち,音楽再生が終わった歌詞を一文字づつではなく,徐々に消去したり,表示された歌詞の背景色を適宜変更することができ,さらに楽曲と正確に対応した歌詞の進行が可能なカラオケ用ディスプレイの歌詞表示装置を提供することを目的とする。」(同刊行物2頁左上欄1行〜右上欄14行) ウ〔課題を解決するための手段〕 「本発明は上記目的を達成するために,二進符号化した楽曲情報および歌詞情報からなる複数のカラオケ情報をデータベースとしたカラオケ装置において,特定のカラオケ情報を演算・処理する中央制御装置と,この中央制御装置によって演算・処理された情報によって順次音楽再生を行うと共にディスプレイへの歌詞表示を制御するシーケンサと,常時必要な歌詞情報を記述するグラフィックビデオメモリと,上記シーケンサからの順次命令によってグラフィックビデオメモリを制御するグラフィック制御装置と,予め文字・記号などが図形として記憶され,上記グラフィックビデオメモリの記憶内容に対応した文字などを上記グラフィック制御装置を介して読み出し可能なパターンROMと,ディスプレイを制御するビデオ制御装置とからなり,音楽再生に対応して上記ディスプレイに表示された歌詞を進行させるという手段を用いた。また,楽曲情報に,音楽再生の進行に伴って歌詞表示を進行し,および任意に背景色を変更するトリガ信号を混在させるという手段も用いた。さらに,音楽再生の進行に伴って背景色のカラーコードを適宜変更することにより,背景色の変更を行うという手段も用いた。さらにまた,音楽再生の進行に伴って,再生が終了した部分に対応する歌詞を順次背景色と同一色に変更するという手段も用いた。」(同刊行物2頁右上欄16行〜右下欄2行) エ〔実施例〕(別紙図面参照) 「第2図は,本実施例の構成に基づいた歌詞表示の詳細な動作を示すフローチャートで,文字や記号を図形として扱い,これを処理する手順を示したものである。・・・先ず音楽の再生が開始されると同時に(21),当初の背景色を決定すると共に,トリガ信号のカウントをゼロに初期設定する(22)。次に再生が開始されると順次歌詞情報のなかの文字コード(コマンド)を読んで,あるいはソースポインタを参照しつつこれをバッファにいれる(23)。続いてトリガ信号に応じてカウントを積算し(24),コマンドのトリガ数値がカウント値と一致もしくはカウント値が大きい場合には(YES)次処理に移行し,そうでない場合にはブロック24に戻る(25)。YESのばあいにはコマンドが文字表示に関するものか否か(26),歌詞の色変更あるいは文字消去に関するものか否か(27),ディスプレイ画面のクリア,即ち音楽再生の終了に関するものか否か(28)をそれぞれ判断し,YESの場合にはそれぞれの分岐に移行し,全てNOの場合にはブロック24に復帰する。次に,文字表示の場合には文字数,文字の位置や文字パターンの指定によってパターンROM5からG-VRAM7の記憶に対応する文字(図形)を読み出し,文字サイズに応じてドットを拡大・縮小し,背景色のカラーコードと共にG-VRAM7に書き込み(29),続いてビデオ制御装置8を介してディスプレイ9に表示したのちに(30)ブロック23に復帰し,次のコマンドを処理する。文字の色変更あるいは文字消去の場合には色変更の開始位置から終了位置までの指定された色をカラーコードを変更することによって文字の色変更を行い(31),ディスプレイ9に表示する(30)。このとき,変更された文字の色が背景と同一であれば文字が消去されるのと同じ効果を奏し,違うときには文字が徐々に色変わりをするように見える。また,グラフィック処理を行っているので,一文字づつ不連続に変更するのでなく,連続的に徐々に色を変更することが可能である。」(同刊行物3頁右下欄17行〜4頁右上欄17行) (2) 上記(1)の認定によれば,甲第1号証刊行物には,中央制御装置等によりカラオケ情報を演算・処理し,演算,処理された制御用情報に基づき,制御装置が,音楽再生の進行に伴ってディスプレイ上に歌詞を表示し,表示された歌詞について,歌詞を1文字づつではなく徐々に色変わりさせる等の動作の実行を制御する歌詞表示装置を具備したカラオケ装置が記載されているということができる。 また,上記(1)エで認定したとおり,甲第1号証刊行物の実施例の項には,上記歌詞を徐々に色変わりさせる動作を,「色変更の開始位置から終了位置までの指定された色をカラーコードを変更することによって」(同刊行物4頁右上欄8行〜9行)実行するとの記載がある。 一般に,制御装置において,ある動作を実行させるためには,当該動作に関する制御用情報が具備されるべきことが技術常識であることは,弁論の全趣旨で明らかであるから,甲第1号証刊行物の上記カラオケ装置においても,「色変更の開始位置から終了位置までの指定された色をカラーコードを変更するとによって文字の色変更を行い(31),ディスプレイ9に表示する(30)」(同刊行物4頁右上欄8行〜11行)ために動作を制御する情報が具備されていることは,明らかであるというべきである。この色変更に関する情報には,行われるべき作業の開始位置及び終了位置を指定するだけの,単なる位置に関する情報(以下「位置情報」という。)と,この位置情報によって特定された範囲において行われるべき作業の内容(色変え)を指定する情報(以下「区間情報」という。)が存在することは,甲第1号証刊行物の上記認定の記載と,上記制御の対象となる動作の内容とから明らかである。 上記位置情報は,単に色変更開始及び色変更終了の位置を表すだけのものであるから,本件発明の「色変え指示情報」に,同刊行物記載の発明における上記区間情報は,上記位置情報によって特定された範囲において行われる作業が色変えであることを表すものであるから,本件発明の「色変え幅情報」に相当するものというべきである。 甲第1号証刊行物における中央制御装置などの制御装置は,本件発明と同様に上記各情報を実行処理するものであるから,本件発明と同様の制御を行うこととなることが明らかである。 (3) 被告は,甲第1号証刊行物に記載された発明においては,楽曲情報に混在されるトリガ信号の記録間隔(出現タイミング)を変化させること,あるいは,コマンドのトリガ数値を変化させることにより,文字の色変更処理の実行タイミングを調整して,歌詞の色変えをカラオケ楽曲の主旋律の進行に適合させているとした上で,同刊行物に示された「色変更の開始位置から終了位置までの指定された色をカラーコードを変更することによって文字の色変更を」行う,という情報は,本件発明の「色変え幅情報」に当たらないと主張する。 しかしながら,本件特許の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲において,「色変え幅情報」を規定するのは,「前記歌詞表示指示情報は,歌詞の表示・消去指示情報と,前記演奏情報の主旋律の進行に適合した歌詞文字表示の色変化を行わせる色変え指示情報と,色変えを行う文字が所定の幅ずつ色変えが行われるように,前記演奏情報の主旋律の進行に適合する異なった色変えの幅を指示する色変え幅情報」との文言のみであり,そこでは,「色変え幅情報」の内容を特に限定していない。そうである以上,特許請求の範囲のみに基づいてみる限り,本件発明における「色変え幅情報」には,歌詞の色変えをカラオケ楽曲の主旋律の進行に適合させるためにトリガ信号を用いる場合の情報も含まれると解すべきは当然というべきである。そして,念のために本件明細書(甲第11号証の2)の他の部分の記載を検討してみても,上記認定の妨げとなるものを見いだすことはできない。甲第1号証刊行物記載の発明が,トリガ信号を用いていることは,同号証の「色変更の開始位置から終了位置までの指定された色をカラーコードを変更することによって文字の色変更を」行う,という情報が,本件発明の「色変え幅情報」に当たると解することを何ら妨げるものではない。被告の主張は,採用することができない。 (4) 以上のとおりであるから,甲第1号証刊行物には,本件発明の「色変え指示情報」及び「色変え幅情報」が記載されていないとした,審決の認定判断は誤りであるというべきであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは,明らかである。 |
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そうすると,その余の原告の主張について検討するまでもなく,原告の本訴
請求は理由があることが明らかであるので,これを認容することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 阿部正幸 |