運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2000-35436
関連ワード 新規性 /  29条1項3号 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  先行技術 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 13年 (行ケ) 244号 審決取消請求事件
原告 瀬戸内金網商工株式会社
訴訟代理人弁護士 對崎俊一、弁理士 林宏
被告 小岩金網株式会社
訴訟代理人弁理士 山口朔生、河西祐一、横山正治
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2000−35436号事件について平成13年4月17日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文第1項同旨の判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 被告は、名称を「布団篭」とする特許第2657900号発明(平成5年12月27日特許出願(特願平5-348458号)、平成9年6月6日設定登録。本件発明)の特許権者であるが、原告は、平成12年8月14日、本件発明について無効審判請求をし、無効2000-35436号事件として審理されたが、平成13年4月17日、本件審判の請求は成り立たないとの審決があり、その謄本は同年5月1日原告に送達された。
2 本件発明の要旨【請求項1】 底網と複数の側網で構成する布団篭において、1枚の側網の上辺に補助蓋を回動自在に取付けて構成することを特徴とする、布団篭。(本件発明1)【請求項2】 底網と複数の側網で構成する布団篭において、1枚の側網の下辺に補助蓋を回動自在に取付けて構成することを特徴とする、布団篭。(本件発明2) 3 審決の理由の要点 (1) 請求人(原告)の主張の概要 これに対して、原告は、本件発明2は、審判甲第1号証に記載された発明であり、本件発明1は、審判甲第1号証、審判甲第3号証又は審判甲第4号証に記載された発明であるから、特許法29条1項3号の規定に該当し、また、本件発明2は、審判甲第1号証に記載された発明に基づいてあるいは審判甲第2号証に記載された発明に基づいてあるいは審判甲第1,2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1は、審判甲第1号証に記載された発明に基づいてあるいは審判甲第2号証に記載された発明に基づいてあるいは審判甲第1,2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから、本件特許は特許法29条の規定に違反して特許されたものであると主張し、証拠方法として審判甲第1〜5号証を提出している。
(2) 本件発明 本件発明1、2は、前記本件発明の要旨のとおりのものである。
(3) 審判甲第1号証ないし審判甲第5号証 原告の提出した審判甲第1号証ないし審判甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(3)-1 審判甲第1号証〔仏国発明第466832号明細書〕(1914年)「蛇篭を互いに並べたり上下に重ねたりして、形成すべき構築物の骨組となるように保護すべき岸に沿って配置し、これらの蛇篭を防護に適した岩石質又はセメント質の材料で満たす。
場合に応じて、フタ又は底面又はいくつかの側壁の欠如した箱の形の蛇篭を使用したり、あるいはフランジが備わった箱の形の蛇篭と組み合わせて、フタの欠如した箱の形の蛇篭を使用したり、などする。例えば、上部蛇篭の底面が下部蛇篭のフタになるようにするとか、又はその壁の1つが隣りの蛇篭の壁にもなるようにするとか、あるいは、1つの蛇篭のフランジがもう1つの蛇篭のフタ又は壁になるようにするとかなど。当然のことながらこれらの組合せのうちの複数を同時に利用することもできる。」(1頁32〜51行)「調製され輪郭づけされた金網には同様に、折畳み線に沿って、折畳みがより容易に行えるようにヒンジ式継手が備わっていてもよい。この場合、調製済みの金網は、唯一の部品ではなく互いに連結された複数の部品で形成されることになる。」(2頁1〜7行)「図面の図1は、図2に表わされているような箱形の蛇篭を形成するための一つの金網部品を示す。金網部品の各部分b,c,d,eを単に持ち上げることによってこの蛇篭が容易に形成されることは明白である。」(2頁30〜36行)「図5は、一例として、3層の蛇篭を伴う護岸材を示す。第1層の各蛇篭Dは、図2に示されているような蛇篭であるが、地盤が許す場合には、底面なしであってもよい。第2層の各蛇篭Eは、一緒に第1層の蛇篭に対するフタとして役立つ底面とフランジtとを有し、フタはない。第3層の蛇篭Fは、一緒に第2層の蛇篭に対するフタとして役立つ底面と2つのフランジuとuとを有し、これにはフタも備わっている。」(2頁66〜78行) (3)-2 審判甲第2号証〔英国特許第726859号明細書〕(1955年)「本発明は、ワイヤが酸化から保護された任意のタイプの金網で製造され、河川、
山及び海岸防護構造のために、使用場所あるいはその近傍で入手可能なバラスト、
チップ、小石又は同様の材料が充填される篭ないし蛇篭に関するものである。」(1頁10〜17行)「本発明によれば、篭を形成する金網面の縁部分は、例えばロッド又は一般に金網のワイヤよりも太いワイヤによって補強されている。このように補強された縁部分はセルベッジと呼ぶ。」(1頁96行〜2頁5行)「図1は、カバーが充填準備のために開かれた状態にある断面長方形の平行六面体状の篭を示す斜視図である。
図2は、浸食を受ける状態に置かれた河川の堤を示す概略斜視図である。
図3は、図1に示した平行六面体状の篭を形成する金網の展開図である。」(2頁21〜30行)「図1、図3及び図4によると、直方体状をなすこの篭は、簡単な二重撚り又は三重撚りの亜鉛メッキ金網のケーシングからなり、その中に小石が充填される。
本発明によれば、このケーシングは、三つの部分、すなわち、矩形状の中央部A,B,C,D(図3)と、篭のヘッドを形成する二つの小さな側部Tとで構成される。
主要部ABCDは、丸い鉄製ロッド等8によって矩形体I,II,III及びIVに細分され、このうちの矩形体Iはケーシングのカバーを形成し、矩形体IIIはベースを形成し、矩形体II及びIVは篭の壁を形成する(図1及び図3)。
両方のヘッドTは、そのワイヤ縁部(セルベッジ)により、篭の下部IIIにおけるエッジAD及びBCの補強部に連結されている。この連結部分は亜鉛被覆鉄線ステッチfによりなされ、ヒンジとして機能して揺動を許容する。ヘッドは図8に示すものと同様の方法で側壁に連結される。」(2頁57〜83行)「構造物の強度を低下させずにコストを削減するために、本発明では、図6及び図7に示したタイプのフランジ付き篭が使用される。
このようなフランジ付き篭では、篭を形成する直方体の一つ以上の面が省略され、組立時に、バラストを保持する目的で、近接した又は積み重ねられた篭の金網面の延長部又はフランジがその面に配置される。この目的のために、篭は他の篭の省略面の大きさと一致するフランジを備え、その省略面には組立時にフランジが取り付けられる。
図6及び図7は、その上面と一方のヘッドはないが、図9に示す実施形態における千鳥状に配置された下部篭の全部又は一部を覆うようにされたフランジF,F′を備えた二つの篭を示している。」(3頁12〜33行)「3.篭のケーシングが三つの金網部分,すなわち細分時にロッド、丸線などによって篭底部、二つの側壁、カバーを形成するようになされた中央方形部分と、ヘッドを形成するようになされた方形状の二つのより小さな側部とで構成され、様々な側面上の金網ワイヤの先端部が、ケーシングに栗石などを充填できるように最後に接続されるカバーを除く柱状ケーシングの様々な面を互いに接続するワイヤ・ステッチを、セルベッジを形成する全体的に直径がより大きなワイヤの周りで撚ることによってクランプ止めされることを特徴とする請求項1又は2に記載の篭。」(4頁24〜40行;請求項3) (3)-3 審判甲第3号証〔実公昭36-31524号公報〕「揚蓋式フトン蛇籠」(考案の名称)「図面第1図は本案の全体斜面図、第2図は蓋を開いたものの斜面図,第3図は本案を展開したものの平面図、第4図は二重折曲結束部の詳細平面図である。」(図面の略解)「本実用新案はフトン蛇籠1を形成する底片2および側片3、4、5、6ならびに蓋片7を縦螺旋形列線により形成せしめ、各片の端部8、8′、9、10、11、
11′、12、12′の列先端を折り返えして二重線耳部を形成し、各列線の出あい隅13、14、15、16、17、18、19に縁枠線20を装着して成るフトン蛇籠である。
本実用新案は従来最も手数を要する列線端部の縁枠線取付操作を簡単化し、各出会隅部においてその出会い線を縫い合わせて縁枠線を挿通することにより蛇籠を形成するものであるからフトン蛇籠の輸送に便するとともに現場組立を容易迅速ならしめたるの実効あるものである。」(実用新案の説明) (3)-4 審判甲第4号証〔実願昭49-149548号(実開昭51-74324号)のマイクロフィルム〕「底網1に連設した左右の側網2、2の周縁に、コ字状の枠線3を底網1との境縁にその中間部3bを位置させて取付け、一方の側網2に連設した上蓋網4の周縁に、コ字状の枠線5を、側網2との境縁にその中間部5bを位置させると共に該中間部5bの両端を上記枠線3の両端に形成した輪環3a、3aに挿通させて取付け、底網1の前後縁には周囲に枠線7を取付けた端蓋網6、6を連結し、而して各網の接合する端縁における枠線を螺旋状金具で連結し、上記上蓋細4を連設していない側網2の枠線3と上蓋網4の枠線5の両端に、連結線10を挿通して両網を連結するための輪環を形成したことを特徴とする蛇籠。」(実用新案登録請求の範囲) (3)-5 審判甲第5号証〔新村出編「広辞苑」第4版第3刷(1993年)岩波書店発行、第2247頁〕「ふた【蓋】(1)容器や箱などの口・穴をおおいふさぐもの。……」 (4) 本件発明2についての対比、判断 (4)-1 特許法29条1項3号について 本件発明2と審判甲第1号証に記載された発明とを対比する。
審判甲第1号証に記載された発明においては、フランジtを有する蛇篭Eは「第2層の各蛇篭Eは、…底面とフランジtとを有し、フタはない。」と記載されているように、底網を有しているし、蛇篭というからには当然に複数の側網を有しているが、上蓋を有していない。すなわち、蛇篭Eは、「底網と複数の側網で構成」されている。
また、これらの蛇篭Eにおいて、各フランジtは、蛇篭本体の底網の延長方向に蛇篭本体から突出している(図5)ので、「側網の下辺に取付け」られた構成となっているし、また、「一緒に第1層の蛇篭に対するフタとして役立つ底面とフランジt」と記載されているように、蛇篭本体の底網と一緒になって、その下に存在する蓋を有しない別の蛇篭Dの蓋の役目をしている。一方、本件特許明細書に、
「【0017】【実施例2】図4に示すように、底網11の端部に形成する補助蓋14を長側網12bの下辺に回動自在に連結して布団篭10を構成しても良い。本実施例の場合、補助蓋14の端を下位の布団篭10の長側網12bの上縁と接続し、底網11と補助蓋14とにより下位の布団篭10の上口を閉塞することになる。」と記載されるように、本件発明2では、「補助蓋」は「底網と補助蓋とにより下位の布団篭の上口を閉塞する」ものである。すなわち、フランジtは、本件発明2における「1枚の側網の下辺に取付けて構成した補助蓋」に相当している。
そして、審判甲第1号証に記載された発明における「蛇篭」は、本件発明2における「布団篭」に相当する。
したがって、本件発明2と審判甲第1号証に記載された発明とは、
「底網と複数の側網で構成する布団篭において、1枚の側網の下辺に補助蓋を取付けて構成する布団篭」である点で一致しているが、
本件発明2では、補助蓋が1枚の側網の下辺に「回動自在に」取り付けられているのに対し、審判甲第1号証に記載された発明では、補助蓋はフランジとして取り付けられており、「回動自在に」はなっていない点で相違している。
原告は、審判甲第1号証には、「調製され輪郭づけされた金網には同様に、折畳み線に沿って、折畳みがより容易に行えるようにヒンジ式継手が備わっていてもよい。この場合、調製済みの金網は、唯一の部品ではなく互いに連結された複数の部品で形成されることになる。」と記載されているから、審判甲第1号証の図5に示すフランジt、uは、回動自在に取り付けられている蓋であることは明らかであると主張している。
しかし、フランジという用語は、被告が答弁書で示しているように、管における鍔型の結合用機械部分や鉄道車輪における外周の突縁部のように「本体から突出している鍔状の部分」のことをいい、本体と一体で動かないものについて使用される用語であるから、「フランジ」が「回動自在」であるというのは言葉の用い方からして矛盾している。したがって、審判甲第1号証の開示からは、各フランジt、
u、u、z、x、yが回動自在に取り付けられているということは導き出すことはできない。
また、上記記載部分は、折り畳むべき箇所については、「折畳み線に沿って、折畳みがより容易に行えるようにヒンジ式継手が備わっていてもよい」ことを示すにとどまるもので、折り畳むことを特に意図しないフランジ部分についてまで述べたものとは解されない。
原告は、また、フランジt、uがその下部の蛇篭D、Eの上蓋として機能することと、図5におけるフランジt、uが多少開いた状態で図示されている点を指摘し、フランジt、uが回動できないものであるならば、フランジt、uは開いたままで閉じることができず、蓋として下部の蛇篭D、Eを覆うことができないと主張する。
しかし、フランジt、uが多少開いた状態で図示されているのは、単に図面上フランジが存在することを明示するためであると認められるし、またt、uが回動自在であることが図面上示されているわけでもないから、原告の主張は採用できない。
したがって、本件発明2は審判甲第1号証に記載された発明ではない。
(4)-2 特許法29条2項について (4)-2-1 審判甲第1号証に記載された発明との対比 審判甲第1号証に記載された発明も、蛇篭を階段状に積み上げる(図5)際、各蛇篭の上口を閉塞する独立した上蓋を必要としないため、蛇篭の底網と上蓋の重合を回避でき資材の有効利用が図れるものである。
そして、本件発明2と審判甲第1号証に記載された発明とは、上記したように、
「底網と複数の側網で構成する布団篭において、1枚の側網の下辺に補助蓋を取付けて構成する布団篭」である点で一致しているが、
本件発明2では、補助蓋が1枚の側網の下辺に「回動自在に」取り付けられているのに対し、審判甲第1号証に記載された発明では、補助蓋はフランジとして取り付けられており、「回動自在に」はなっていない点で相違している。
原告は、調製され輪郭づけされた金網をヒンジ式継手により回動自在に取り付けることが記載されているから、審判甲第1号証の図5に示されたフランジt、uを回動自在に取り付けるようなことは当業者が容易になし得たことであると主張している。
しかし、ヒンジ式継手は「折畳み線に沿って、折畳みがより容易に行えるように備」えるものであり、折り畳むことを特に意図しないフランジ部分についてヒンジ式継手を備えることまでは記載されていないし、示唆されてもいない。
また、本件発明2に特有の効果は本件特許明細書には明記されていないが、補助蓋を1枚の側網の下辺に回動自在に取り付けて構成することで、本件発明2が審判甲第1号証に記載された発明では奏することができない効果を奏することは、当業者に自明であるから、とりたてて明細書の記載に整合性がないとはいえないし、本件発明2によって奏せられる効果は、審判甲第1号証に記載された発明からは予期できないものであると認められる。
したがって、本件発明2が、審判甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4)-2-2 審判甲第2号証に記載された発明との対比 本件発明2と審判甲第2号証に記載された発明とを対比する。
審判甲第2号証に記載された発明においては、フランジFを有する図6に示された蛇篭、フランジF′を有する図7に示された蛇篭は、ともに底網Tを有しているし、複数の側網II、IV等を有している。また、これらの蛇篭は、上蓋を有していない。すなわち、これらの蛇篭は、「底網と複数の側網で構成」されている。
また、これらの蛇篭において、各フランジF、F′は、蛇篭本体の底網の延長方向に蛇篭本体から突出しているので、「側網の下辺に取付け」られた構成となっているし、また、蛇篭本体の底網と一緒になって、その下に存在する蓋を有しない別の蛇篭の蓋の役目をしている(図9)。すなわち、各フランジF、F′は、本件発明2における「1枚の側網の下辺に取付けて構成した補助蓋」に相当している。
そして、審判甲第2号証に記載された発明における「蛇篭」は、本件発明2における「布団篭」に相当する。
なお、審判甲第2号証に記載された発明も、蛇篭を階段状に積み上げる(図9)際、各蛇篭の上口を閉塞する独立した上蓋を必要としないため、蛇篭の底網と上蓋の重合を回避でき資材の有効利用が図れるものである。
したがって、本件発明2と審判甲第2号証に記載された発明とは、
「底網と複数の側網で構成する布団篭において、1枚の側網の下辺に補助蓋を取付けて構成する布団篭」である点で一致しているが、
本件発明2では、補助蓋が1枚の側網の下辺に「回動自在に」取り付けられているのに対し、審判甲第2号証に記載された発明では、補助蓋はフランジとして取り付けられており、「回動自在に」はなっていない点で相違している。
原告は、図9におけるフランジF、F′が下部の篭の開口部に対し傾斜した状態で図示されている点を指摘し、フランジF、F′が回動可能であると主張する。
そして、ヘッドTがそのワイヤ縁部(セルベッジ)により篭の下部IIIにおけるエッジAD及びBCの補強部(セルベッジ)に回動自在に取り付けられていることは明らかであり、このような取付け手段を矩形体IVの下辺に取り付けられているフランジF、F′に適用することは当業者が容易になし得たことであると主張している。
しかし、フランジF、F′が下部の篭の開口部に対し傾斜した状態で図示されているのは、単に図面上フランジが存在することを明示するためであると認められるし、またフランジF、F′が回動可能であることが本文上にも図面上にも示唆されているわけでもないから、原告の主張は採用できない。
また、折り畳むことを特に意図しないフランジ部分について回動自在にする取付け手段を取り付けることは審判甲第2号証に記載されていないし、示唆されてもいない。
そして、本件発明2は、補助蓋を1枚の側網の下辺に回動自在に取り付けて構成することで、審判甲第2号証に記載された発明からは予期できない効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明2が、審判甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
なお、原告は、蛇篭の1枚の側網の下辺にフランジt、uを回動自在に取り付けることは審判甲第1号証に示すように公知の技術思想であるから、審判甲第2号証に記載の側網(矩形体IV)に取り付けられているフランジF、F′を回動自在に取り付けるようにすることは、当業者が容易になし得たことであると主張している。
しかし、(4)-2-1で検討したように、フランジt、uを回動自在に取り付けることは審判甲第1号証に開示されているとは認められないから、原告の主張は採用できない。
したがって、本件発明2が、審判甲第1号証及び審判甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(5) 本件発明1についての対比、判断 (5)-1 特許法29条1項3号について (5)-1-1 審判甲第1号証に記載された発明との対比 本件発明1と審判甲第1号証に記載された発明とを対比する。
審判甲第1号証に記載された発明においては、図6の蛇篭Iあるいは図8の蛇篭は、1枚の側網の上辺に回動自在に蛇篭の上面全体を覆う蓋を取り付けて構成されている。また、底網を有し、複数の側網を有している。
そして、審判甲第1号証に記載された発明における「蛇篭」は、本件発明1における「布団篭」に相当する。
したがって、本件発明1と審判甲第1号証に記載された発明とは、
「底網と複数の側網で構成する布団篭において、1枚の側網の上辺に回動自在に蓋を取付けて構成する布団篭」である点で一致し、
本件発明1では、蓋が「補助蓋」であるのに対し、審判甲第1号証に記載された発明では、蓋が蛇篭の上面全体を覆う蓋である点で相違している。
原告は、蓋であろうが補助蓋であろうが蓋であることには変わりはないから、実質的な相違点ではないと主張する。
しかし、本件特許明細書に「【0018】【実施例3】図5に示すように、補助蓋14をどちらか1つの側網の上辺に回動自在に連結して布団篭10を構成することも可能である。本実施例の場合、下位の布団篭10の補助蓋14を上位の布団篭10の底網11(長側網12b)の端部に接合する。」と記載されるように、本件発明1では、「補助蓋」はそれ自身だけでは布団篭の上面全体を覆う蓋とはなり得ないものであるのに対し、審判甲第1号証に記載された発明では、蓋は蛇篭の上面全体を覆う蓋であり、したがって、補助蓋とはいえないものである点で相違している。
したがって、本件発明1は審判甲第1号証に記載された発明ではない。
(5)-1-2 審判甲第3号証に記載された発明との対比 本件発明1と審判甲第3号証に記載された発明とを対比する。
審判甲第3号証に記載された発明においては、図面や明細書の記載からして、フトン蛇篭は、1枚の側網の上辺に回動自在に蛇篭の上面全体を覆う蓋を取り付けて構成されている。また、底網を有し、複数の側網を有している。
そして、審判甲第3号証に記載された発明における「フトン蛇籠」は、本件発明1における「布団篭」に相当する。
したがって、本件発明1と審判甲第3号証に記載された発明とは、
「底網と複数の側網で構成する布団篭において、1枚の側網の上辺に回動自在に蓋を取付けて構成する布団篭」である点で一致し、
本件発明1では、蓋が「補助蓋」であるのに対し、審判甲第3号証に記載された発明では、蓋がフトン蛇篭の上面全体を覆う蓋である点で相違している。
したがって、(5)-1-1で説示したのと同様の理由により、本件発明1は審判甲第3号証に記載された発明ではない。
(5)-1-3 審判甲第4号証に記載された発明との対比 本件発明1と審判甲第4号証に記載された発明とを対比する。
審判甲第4号証に記載された発明においては、図面や明細書の記載からして、蛇篭は、1枚の側網の上辺に回動自在に蛇篭の上面全体を覆う蓋を取り付けて構成されている。また、底網を有し、複数の側網を有している。
そして、審判甲第4号証に記載された発明における「蛇籠」は、本件発明1における「布団篭」に相当する。
したがって、本件発明1と審判甲第4号証に記載された発明とは、
「底網と複数の側網で構成する布団篭において、1枚の側網の上辺に回動自在に蓋を取付けて構成する布団篭」である点で一致し、
本件発明1では、蓋が「補助蓋」であるのに対し、審判甲第4号証に記載された発明では、蓋が蛇篭の上面全体を覆う蓋である点で相違している。
したがって、(5)-1-1で説示したのと同様の理由により、本件発明1は審判甲第4号証に記載された発明ではない。
(5)-2 特許法29条2項について (5)-2-1 審判甲第1号証に記載された発明との対比 本件発明1と審判甲第1号証に記載された発明とは、上記したように、
「底網と複数の側網で構成する布団篭において、1枚の側網の上辺に回動自在に蓋を取付けて構成する布団篭」である点で一致し、
本件発明1では、蓋が「補助蓋」であるのに対し、審判甲第1号証に記載された発明では、蓋が蛇篭の上面全体を覆う蓋である点で相違している。
原告は、蓋を補助蓋にした点は審判甲第1号証に記載された発明から当業者が容易になし得たことであると主張している。
しかし、審判甲第1号証には、蓋を蛇篭の上面全体を覆う蓋ではない補助蓋とすることは記載されていないし、示唆されてもいない。
また、本件発明1に特有の効果は本件特許明細書には明記されていないが、補助蓋を1枚の側網の上辺に回動自在に取り付けて構成することで、本件発明1が審判甲第1号証に記載された発明では奏することができない効果を奏することは、当業者に自明であるから、とりたてて明細書の記載に整合性がないとはいえないし、本件発明1によって奏せられる効果は、審判甲第1号証に記載された発明からは予期できないものであると認められる。
したがって、本件発明1が、審判甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(5)-2-2 審判甲第2号証に記載された発明との対比 本件発明1と審判甲第2号証に記載された発明とを対比する。
審判甲第2号証に記載された発明においては、図1に示された蛇篭は、1枚の側網の上辺に回動自在に蛇篭の上面全体を覆う蓋を取り付けて構成されている。また、底網を有し、複数の側網を有している。
そして、審判甲第2号証に記載された発明における「蛇篭」は、本件発明1における「布団篭」に相当する。
したがって、本件発明1と審判甲第2号証に記載された発明とは、
「底網と複数の側網で構成する布団篭において、1枚の側網の上辺に回動自在に蓋を取付けて構成する布団篭」である点で一致し、
本件発明1では、蓋が「補助蓋」であるのに対し、審判甲第2号証に記載された発明では、蓋が蛇篭の上面全体を覆う蓋である点で相違している。
原告は、蓋を補助蓋にした点は審判甲第2号証に記載された発明から当業者が容易になし得たことであると主張している。
しかし、(5)-2-1で説示したのと同様の理由により、本件発明1が、審判甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、同様の理由により、本件発明1が、審判甲第1,2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(6) 審決のむすび 以上のとおりであるから、原告の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることができない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(本件発明2と審判甲第1号証記載の発明との相違点についての認定判断の誤り) (1) 審決は、特許法29条1項3号の該当性に関し、本件発明2と審判甲第1号証(本訴における甲第1号証)記載の発明とを対比して、「本件発明2では、補助蓋が1枚の側網の下辺に「回動自在に」取り付けられているのに対し、審判甲第1号証に記載された発明では、補助蓋はフランジとして取り付けられており、「回動自在に」はなっていない点で相違している。」と認定し、本件発明2が審判甲第1号証に記載された発明ではないと判断したが、誤りである。
(2) 審決の根本的な誤りは、審判甲第1号証に記載された発明では、フランジが回動自在となっていないと認定している点である。
審判甲第1号証には、「本発明の主要な目的を成しているこれらの蛇籠は、任意のシステムの網目を伴う金網部品で構成されており、これらの部品は、それらを単に折り畳むことによって蛇籠すなわちフタ付き又はフタなし、底面付き又は底面なし又は単数又は複数の側壁が欠如し、かつフランジが備った又は備わっていない箱を形成することができるような形で調製され輪郭づけされている。ケース及びニーズに応じて、これらの蛇籠は工場内であらかじめ調製され完成されていてもよいし、又は都合よく輪郭付けされた金網部品を現場に送り、蛇籠の形に折り畳むことによりその場で加工することも可能である。蛇籠を互いに並べかつ上下に重ねて、
それらが形成すべき構築物の骨組となるように保護対象の岸に沿って配置し、これらの蛇籠に防護に適した岩石質又はセメント質の材料を満たす。場合に応じて、フタ又は底面又はいくつかの側壁の欠如した箱の形の蛇籠あるいはまたフランジ等の備わった箱の形の蛇籠と組み合わせてフタの欠如した箱の形の蛇籠を利用して、例えば、上部蛇籠の底面が下部蛇籠のフタを形成するか、又はその壁の1つが隣の蛇籠の壁も形成するようにするか、又は、1つの蛇籠のフタがもう1つの蛇籠のフタ又は壁を形成するようにする。当然のことながらこれらの組合せのうち複数のものを同時に用いることもできる。」(甲第3号証訳文1頁18行〜2頁5行目)と記載され、この記載によれば、審判甲第1号証には、蛇籠が金網部品で構成されていること、これらの部品(すなわち、金網部品)は、それらを単に折り畳むことによって、蓋があったりなかったり、底面と側壁があったりなかったり、フランジが備わったりなかったりする蛇籠としての箱が形成されること、工場内であらかじめ完成されたり現場で折り畳んで作製されたりできること、蛇籠を現場で並べたり上下に重ねたりして蛇籠に岩石質等の材料を満たす技術が開示されており、
審判甲第1号証記載の「フランジ」が、箱を形成する「金網部品」の一つとして折り畳めるものであることは明らかである。
(3) 審判甲第1号証には更に、「調製され輪郭づけされた金網には同様に、折畳み線に沿って、折畳みがより容易に行えるようにヒンジ式継手が備わっていてよく、この場合、調製済みの金網は、唯一の部品ではなく互いに連結された複数の部品で形成されることになる。」(同2頁12〜14行)との記載があり、この記載によれば、「調整され輪郭づけされた金網」に、フランジが含まれるものと理解される。
審判甲第1号証には、実施例について、「垂直中間面内でも壁が二重になるのを節約したい場合には、フタのみならず対応する壁も欠如した蛇籠を折畳みによって得るような形で金網部品を構築するが、例えば、各々にフランジが備わった図4に示された形の蛇籠A及びBを構築することなどによって、その他の要領でも同じ目的を達成することが可能である。2つのフランジが相対する側にくるような形で2つの蛇籠を配置することにより、図4に示されているように、第3の中間蛇籠Cが得られる。図5は、一例として、3層の蛇籠を伴う護岸材を示す。第1層の蛇籠Dは、図2に示されているような蛇籠であるか、土壌が許す場合には、底面なしであってもよい。第2層の蛇籠Eは、一緒に第1層の蛇籠に対するフタとして役立つ底面フランジtを有し、これらにはフタがない。第3層の蛇籠Fは、底面と2つのフランジuとuを持ち、これらは一緒に第2層の蛇籠に対するフタとして役立ち、これらには同様にフタも備わっている。図6は、この護岸材のもう一つの例を示す。
この図は、互いの間に岩石質材料を充てんできる空間が残るような形で配置された2連の基礎蛇籠Gで構成された護岸材を表す。これらの基礎蛇籠の上には、それ自体第3の蛇籠層を支持するその他の蛇籠Hが横方向に配置されている。蛇籠H及びIにはフランジv,z,x,y等々が備わり、これらのフランジは各々独自の要領で、隣接する蛇籠の構造の補完するのに役立つ。」(甲第3号証訳文3頁9〜27行)との記載があり、この記載によれば、「壁が二重になるのを節約したい場合には」として、フランジを活用する様々な態様が例示されており、これら様々な態様のフランジ付きの蛇籠を、現場で折り畳んで形成するとき、フランジのみは固定されていて折り畳めないはずはないのである。
審判甲第1号証には、必ずしも箱としての六面を備えたものではなく、蓋又は底面又は側面が備わったものでなくとも、十分に機能を果たす蛇籠が開示されている。
(4) 審決は、審判甲第1号証に記載された une bride をフランジとした訳文から、「フランジという用語は、・・・管における鍔型の結合用機械部分や鉄道車輪における外周の突縁部のように「本体から突出している鍔状の部分」のことをいい、本体と一体で動かないものについて使用される用語であるから、「フランジ」が「回動自在」であるというのは言葉の用い方からして矛盾している。したがって、審判甲第1号証の開示からは、各フランジt、u、u、z、x、yが回動自在に取り付けられているということは導き出すことはできない。」と認定するが、そのように限定された語義であるとする理由はなく、用語の意味は、文脈の中で把握されるべきである。
審判甲第1号証の記載の全体からみると、箱を形成する「金網部品」の底面、側面、蓋が折り畳めること、すなわち、回動することが読み取れるから、フランジについても同様に理解すべきである。しかも、図5、図6には、フランジが傾斜して図示されている。審決は、この図示を、「フランジt、uが多少開いた状態で図示されているのは、単に図面上フランジが存在することを明示するためであると認められる」と認定したが、そのように図示しなくともフランジが存在することは十分説明可能であるし、明示のためとはいえ、本来固定されて動かないものを、わざわざ斜めの構成上あり得ない形に図示することは、明細書の記載として極めて不自然不合理である。むしろ、フランジが回動するからこそ、斜めに図示されたと認定すべきである。
(5) 以上のとおり、審判甲第1号証には、回動自在のフランジが開示されていることは明らかであるから、本件発明2と審判甲第1号証記載の発明との相違点として、後者では補助蓋が回動自在になっていないとした審決の認定は誤りである。そして、審判甲第1号証には、本件発明2の構成要件が全部開示されているから、本件発明2は、審判甲第1号証に記載された発明である。
2 取消事由2(本件発明1と審判甲第1号証記載の発明との相違点についての認定判断の誤り) (1) 審決は、特許法29条1項3号及び特許法29条2項の該当性判断において本件発明1と審判甲第1号証記載の発明とを対比し、「本件発明1では、蓋が「補助蓋」であるのに対し、審判甲第1号証に記載された発明では、蓋が蛇篭の上面全体を覆う蓋である点で相違している。」と認定し、本件発明1が、審判甲第1号証に記載された発明でもないし、審判甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと判断したが、誤りである。
すなわち、本件発明1では、「補助蓋」を備えた構成となっているが、「補助蓋」の大きさが何ら限定されていない。そうすると、審決が「補助蓋」の大きさが限定されるとの前提に立って、本件発明1と審判甲第1号証記載の発明との相違点を上記のように認定、判断したのは、明らかに誤りである。
(2) 審判甲第1号証には、回動自在のフランジを用いて、「壁が二重になるのを節約する」技術思想も、現場で蛇籠の中に岩石質等の材料を詰めるように使用されることも明確に開示されているし、フタ付き又はフタなし、底面付き又は底面なし又は単数又は複数の側壁が欠如し、かつフランジが備った又は備わっていない箱を形成することができるような形で調整される蛇籠、すなわち、「節約」も含む様々な需要に応じて、フタ、側面、底面、更にフランジを活用することが示されており、審判甲第1号証第5図に図示されたフランジu,tは、本件発明1の補助蓋と同一の機能を備え、同一の効果を奏する。両者の相違点は、補助蓋(フランジ)が、側網の上辺に取り付けられたものか、下辺に取り付けられたものかだけであり、この程度の相違であれば、当業者であれば極めて容易想到可能な範囲である。
(3) 被告は、本件発明1では、回動自在の「補助蓋」を取り付けたことにより、
施工後も状況に応じて布団篭内の中込材を補填したり、又は減らすことができるという特有の作用効果を奏するが、審判甲第1号証記載の発明からは、かかる効果を期待することができないと主張する。
しかし、積み重ねて施工された後は、補助蓋を開扉して下段に位置する布団篭内に充填された中込材を一部取り出そうとしたり、追加して充填しようとしても、上段に重ねられた布団篭の大きな圧力の抵抗によりできないし、補助蓋の直下の中込材の調整は可能であるが、ここには上段の布団篭の重量がかからないので本来沈下等が問題がない部分であるから、そこを調整する意味がない。そうすると、被告の主張する本件発明1の上記効果は何ら存在しない。
審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1(本件発明2と審判甲第1号証記載の発明との相違点についての認定判断の誤り)に対して (1) 審判甲第1号証に記載された事項を理解する上では、全体の文脈の中で理解することが肝要であるが、いかに文脈を重視するといっても、単語の本来の意味と全く反対の意味を生み出すことはできない。フランジとは、管を他の部材に連結するための鍔、車輪の外周の突縁部、回転軸と軸とをボルトなどで結合するための鍔状の部材である。仏和理工学辞典(白水社)の une bride の項には、「フランジ、
クランプ、継輪」と記載され(甲第7号証)、いずれの意味においてもパタパタと回動しないものをいうから、審判甲第1号証記載のフランジが回動自在であるとみることはできない。
審判甲第1号証第6図には、中段の蛇籠Hは、蓋、底面、側壁を欠いて図示されているが、図示のとおりの構成であるとすれば、蛇籠としての機能を到底果たすことはできないから、説明のために蓋、底面、側壁が省略されたものと解される。そうすると、同図において、フランジが傾斜して多少開いた状態で図示されていることも、単にフランジが存在することを示すためであって、回動自在であることを示すものではない。
布団篭の工事では、実際上、布団篭の内部に詰める転石が大小混在し、形状もきれいな円形のものを準備できるとは限らないし、作業員もこの作業に熟練しているとは限らないので、工事が一応できあがっても、遠方から見ると転石の充填が、一部の篭では過剰であり他の一部では不足であるという現象が発生するから、工事の一応の終了後の微調整が必要となるのが現状である。
(2) 本件発明2は、本体と強固に一体化した「フランジ」ではなく、回動自在の「蓋」を取り付けて蓋を開閉することができるようにした構成により、布団篭内への中込材の充填に過不足がある場合や充填した中込材が長年のうちに締まって沈下した場合に、回動自在な補助蓋を開けて、中込材の追加や引出しを簡単にできるので、強固な布団篭とすることできるという特有の作用効果を奏する。
したがって、本件発明2は、審判甲第1号証記載の発明ではないし、それから当業者が容易に発明し得たものでもない。
2 取消事由2(本件発明1と審判甲第1号証記載の発明との相違点についての認定判断の誤り)に対して (1) 本件発明1では、上位の布団篭の底網と、下位の布団篭の側網の上辺に取り付けられた補助蓋とで、下位の布団篭の上面を覆うものであって、下位の布団篭の上面全体を覆うことは予定されていない。これに対し、審判甲第1号証記載の発明では、蓋が蛇籠の上面全体を覆うものであるから、本件発明1の補助蓋と審判甲第1号証記載の上面全体を覆う蓋とは、その予定される機能が全く異なるものである。
本件発明1では、回動自在の「補助蓋」を取り付けたことにより、施工後も状況に応じて布団篭内の中込材を補填したり、減らすことができるという特有の作用効果を奏するが、審判甲第1号証記載の発明からは、かかる効果を期待することができない。
したがって、本件発明1は、審判甲第1号証に記載された発明ではないし、審判甲第1号証記載の発明から当業者が容易に発明し得たものでもない。
(2) 原告は、世界のすみずみまで文献を探し、90年前の仏国の特許公報である審判甲第1号証を見付けて、本件発明1及び2の新規性進歩性がないと主張するが、90年前の外国文献を探す努力よりも、本件発明1及び2のような90年振りの発明をした努力を認めることが、特許法の目的に適うものである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明2と審判甲第1号証記載の発明との相違点についての認定判断の誤り)について (1) 審判甲第1号証に記載された「蛇籠」が本件発明2における「布団篭」に相当し、本件発明2と審判甲第1号証記載の発明とは、「底網と複数の側網で構成する布団篭において、1枚の側網の下辺に補助蓋を取付けて構成する布団篭」である点で一致するとの点は審決が認定するところであり、これに反する特段の主張、立証はなく、審決が説示するところに照らし、当裁判所もこれを支持することができる。
そして、甲第3号証によれば、審判甲第1号証には、審決の理由の要点(3)-1で認定された各記載があることが認められ、これらの記載と審判甲第1号証の図5、
図6(本判決3頁)が図示するところによれば、審判甲第1号証には、金網部品が折り畳まれて、蓋、底面、側面があったりなかったりする種々の形状の蛇籠が三層に積まれ、第1層(下層)に置かれた蛇籠のフタとして機能し、フランジを底面に備えた第2層(中層)の蛇籠と、第2層の蛇籠のフタとして機能し、フランジを底面に備えた第3層(上層)の蛇籠において、各フランジがフタとなる蛇籠の上面から幾分開いた状態で積まれている技術が開示されていると認められるところ、審決は、このフランジが回動自在となっていないと認定している。
しかし、審判甲第1号証には、上記引用した審決認定のとおり、「調製され輪郭づけされた金網には同様に、折畳み線に沿って、折畳みがより容易に行えるようにヒンジ式継手が備わっていてよい。この場合、調製済みの金網は、唯一の部品ではなく互いに連結された複数の部品で形成されることになる。」との記載とともに、
「図面の図1は、図2に表されているような箱形の蛇籠を形成するための金網部品を示す。金網部品の部分b,c,d,eを単に持ち上げることによってこの蛇籠が容易に形成されることは明白である。」との記載がある。
これらの記載及び審判甲第1号証の図1、図2(本判決3頁)が図示するところによれば、金網部品の部分b,c,d,eの各部分は、金網部品の底面部分に対して、回動自在であることは明らかであり、そのためのヒンジ式継手も従来周知の機械要素であると認められる以上、蛇籠を形成する金網部品の一部を回動自在とすることは、この技術の分野における周知の技術に属するものであったと認められる。
(2) 被告は、仏和理工学辞典(白水社)の記載を引用して、審判甲第1号証に記載された une bride の訳語の技術的意味によれば審判甲第1号証記載のフランジは回動自在ではないと主張する。
しかし、仮に、審判甲第1号証記載のフランジ(brides)が回動自在でないとしても、甲第3号証によれば、審判甲第1号証には、
「本発明の主要な目的を成しているこれらの蛇籠は、任意のシステムの網目を伴う金網部品で構成されており、これらの部品は、それらを単に折り畳むことによって蛇籠すなわちフタ付き又はフタなし、底面付き又は底面なし又は単数又は複数の側壁が欠如し、かつフランジが備った又は備わっていない箱を形成することができるような形で調製され輪郭づけされている。ケース及びニーズに応じて、これらの蛇籠は工場内であらかじめ調製され完成されていてもよいし、又は都合よく輪郭付けされた金網部品を現場に送り、蛇籠の形に折り畳むことによりその場で加工することも可能である。」(1頁17〜25行)「要約 本発明は、フタ、又は底面又はいずれかの側壁又はこれらの要素の余地の複数のものが欠如し、いずれにせよ突出するフランジが備わっているか又は備わっておらず、また都合よく調製され輪郭付けされた1つの金網部品又は互いにヒンジ又はその他の類似のあらゆる方法で連結された都合よく調製され輪郭付けされた複数の金網部品を折り畳むことによって仕上げ加工された、任意の幾何形状を持つ箱の形で構成された護岸工事用の金網蛇篭に関する。」(3頁1〜14行) との記載があることが認められ、この記載によれば、審判甲第1号証に記載の発明の部品は折り畳まれることが予定されているものであって、ヒンジ式継手で連結されることも開示されているということができ、フランジの部分についても、例えば従来周知のヒンジ式継手を適用することにより、折畳み可能とすることは、当業者であれば当然に予想可能な技術的事項であったということができる。そうすると、当業者が審判甲第1号証を見たとき、そこに記載の発明におけるフランジを回動自在とすることは自明であったというべきである。
(3) 他に本件発明2と審判甲第1号証記載の発明との間に相違点があるものとは認められず、本件発明2は、審判甲第1号証記載の発明におけるフランジに周知の技術を適用したものにすぎないと認められるから、実質的に審判甲第1号証に記載された発明であったというべきである。被告の準備書面中には、本件発明2の作用効果について触れる部分もあるが、構成が審判甲第1号証記載の発明と同一である以上、この主張をもってしても、上記判断は左右されない。
2 取消事由2(本件発明1と審判甲第1号証記載の発明との相違点についての認定判断の誤り)について 審判甲第1号証に記載された「蛇籠」が本件発明1における「布団篭」に相当し、本件発明1と審判甲第1号証記載の発明とは、「底網と複数の側網で構成する布団篭において、1枚の側網の上辺に回動自在に蓋を取付けて構成する布団篭」である点で一致するとの点は審決が認定するところであり、これに反する特段の主張、立証はなく、審決が説示するところに照らし、当裁判所もこれを支持することができる。
そして、審判甲第1号証の図6(本判決3頁)が図示する第3層(上層)の蛇籠及び同じく図8(本判決3頁)が図示する切頭角錐の形状の蛇籠では、蓋が蛇籠の上面のほぼ全体を覆うような大きさのように図示されているのに対し、本件発明1は「補助蓋」と規定するだけであって、その大きさに関し特許請求の範囲で規定するところではない。そうすると、審判甲第1号証が開示する蛇籠の上面のほぼ全体を覆うような大きさの蓋も、本件発明1の「補助蓋」に相当するものと認められる。したがって、本件発明1の「補助蓋」と審判甲第1号証記載の蛇篭の上面全体を覆う蓋は相違しているとした審決の認定は誤りである。
他に本件発明1と審判甲第1号証記載の発明との間に相違点があるものとは認められず、本件発明1は、審判甲第1号証に記載された発明であるというべきである。被告の準備書面中には、本件発明1の作用効果について触れる部分もあるが、
構成が審判甲第1号証記載の発明と同一である以上、この主張をもってしても、上記判断は左右されない。
被告の主張中には、90年前の仏国の特許明細書である審判甲第1号証を原告が見付けたことに関して述べる部分があるが、90年前の文献であっても、その文献が開示する技術が本件発明の先行技術であることに変わりはなく、被告の主張は理由がない。
結論
以上のとおり、本件発明1、2はいずれも審判甲第1号証に記載された発明であるということができ、これに反する審決の認定、判断は誤りであるから、審決は取消しを免れない。
(平成14年2月28日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実