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関連審決 異議2000-72453
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 320号 特許取消決定取消請求事件
原告 富士ゼロックス株式会社
訴訟代理人弁理士 佐藤清孝
同 押野宏
同 前川純一
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 水垣親房
同 石川昇治
同 小林紀史
同 山口由木
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が異議2000−72453号事件について平成13年5月25日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「画像記録装置」とする特許第2993141号発明(平成3年1月28日特許出願、平成11年10月22日設定登録、以下、この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許につき特許異議の申立てがされ、異議2000-72453号事件として特許庁に係属したところ、原告は、平成12年11月29日に明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載を訂正する旨の訂正請求をした。
特許庁は、同特許異議の申立てにつき審理した上、平成13年5月25日、
「訂正を認める。特許第2993141号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は同年6月18日原告に送達された。
2 上記訂正請求に係る訂正後の明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲に記載の発明の要旨 【請求項1】 OHP用紙と合紙を交互に排出するOHP合紙機能を備えた画像記録装置において、
合紙として用いる用紙のサイズを選択する合紙サイズ設定ボタンと、
OHP合紙機能が選択されたことを条件として、画像記録されたOHP用紙と前記合紙サイズ設定ボタンで選択されたサイズの合紙を交互に排出する動作と、
前記合紙とは別の用紙へのOHP用紙の画像と同一画像の画像記録を会議資料用の必要枚数につき行う動作とを、一連に実行する制御手段と、
を有する画像記録装置。
【請求項2】 OHP用紙と合紙を交互に排出するOHP合紙機能を備えた画像記録装置において、
合紙として用いる用紙のトレイを選択する合紙トレイ設定ボタンと、
OHP合紙機能が選択されたことを条件として、画像記録されたOHP用紙と前記合紙トレイ設定ボタンで選択されたトレイの合紙を交互に排出する動作と、
前記合紙とは別の用紙へのOHP用紙の画像と同一画像の画像記録を会議資料用の必要枚数につき行う動作とを、一連に実行する制御手段と、
を有する画像記録装置。
(以下、請求項1、2記載の発明を、請求項の番号に対応してそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」といい、これらを総称して「本件発明」という。) 3 本件決定の理由 本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、上記訂正請求に係る訂正を認め、本件発明の要旨を上記2のとおり認定した上、本件発明1、2は、いずれも特開平2-146569号公報(審判甲第2号証、本訴甲第3号証、以下「刊行物1」という。)及び特開平1-117141号公報(審判甲第1号証、本訴甲第4号証、以下「刊行物2」という。)記載の各発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができず、本件特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるので、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により、取り消されるべきものとした。
原告主張の本件決定取消事由
本件決定の理由中、訂正の適否についての判断(決定謄本2頁2行目〜10頁1行目)及び相違点の認定(同13頁22行目〜31行目)は認める。ただし、
後記一致点の認定の誤りに伴い、他にも相違点が生ずることとなる。
本件決定は、刊行物1記載の発明の認定を誤ったため、本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点の認定を誤る(取消事由1)とともに、相違点についての判断を誤り(取消事由2)、また、本件発明2の容易想到性についても同様の誤りがあり(取消事由3)、その結果、本件発明1、2が、いずれも引用例1、2記載の各発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 本件決定は、刊行物1記載の発明の「制御動作は、制御手段によって一連の動作として実行されており、また、OHPシートの画像と同一画像の画像が形成された記録紙が、会議資料用として使用され得ることは明らかである」(決定謄本11頁25行目〜28行目)との認定に基づいて、「刊行物1には、『OHPシートを排出するOHP機能を備えた画像形成装置において、OHPモードの選択がされたことを条件として、画像形成されたOHPシートを排出する動作(第4C図におけるステップS23乃至S42)と、記録紙へのOHPシートの画像と同一画像の画像形成を必要枚数(例えば5枚)につき行う動作(第4B図におけるステップS13乃至S22及び第4D図におけるステップS43及びS44乃至S49)とを、一連に実行する制御手段を有する画像形成装置。』(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる」(同11頁29行目〜37行目)と認定するが、誤りである。
(2) 刊行物1記載の複写機は、原稿に対する相対的な露光部の往復動を積極的に利用して、往動時における記録シートへの記録動作と、復動時におけるOHPシートへの逆向き記録動作を混在して実行するものである(上記「記録シート」及び「OHPシート」は、それぞれ本件発明の「記録紙」及び「OHP用紙」に相当することが明らかであるので、以下、刊行物1記載の発明に関しても、「記録紙」及び「OHP用紙」の用語を用いる。)。例えば、記録紙の必要枚数を5枚、OHP用紙の必要枚数を2枚と設定した場合、「記録紙1(往)→OHP用紙1(復)→記録紙2(往)→OHP用紙2(復)→記録紙3(往)→記録紙4(往)→記録紙5(往)」の順に記録される。また、刊行物1(甲第3号証)の「第1画像形成制御手段(注、記録紙への画像形成)と第2画像形成制御手段(注、OHP用紙への画像形成)とは、いずれを先に作用させてもよい」(2頁左下欄18行目〜19行目)との記載を参照し、OHP用紙への画像形成を記録紙への画像形成より前に行うと、「OHP用紙1→記録紙1→OHP用紙2→記録紙2→記録紙3→記録紙4→記録紙5」の順に記録される。以上の結果、排出後は、必要枚数分の記録紙の間にOHP用紙が入り込んだ状態となっており、「画像記録されたOHP用紙」と「必要枚数分の画像記録された記録紙のセット」が一連に排出されてはいない。
そうすると、刊行物1記載の発明は、露光部の往復動に着目し、記録紙へ記録した後にOHP用紙へ記録することを前提として、記録紙への記録工程中にOHP用紙への記録工程を挿入したものということができ、記録紙への記録及び排出と、OHP用紙への記録及び排出とを、交互に実行するように制御する制御手段を有するものであって、本件決定の上記認定にいう「記録紙への・・・画像記録を・・・必要枚数につき行う動作」を実行するものではなく、また、当該動作と「OHP用紙を排出する動作」とを「一連に実行」するものでもないから、本件決定がした刊行物1記載の発明の上記認定は誤りというべきである。
(3) 本件決定は、刊行物1記載の発明の上記の誤った認定に基づき、本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点として、「OHP用紙を排出するOHP機能を備えた画像記録装置において、OHP機能が選択されたことを条件として、画像記録されたOHP用紙を排出する動作と、合紙とは別の用紙へのOHP用紙の画像と同一画像の画像記録を会議資料用の必要枚数につき行う動作とを、一連に実行する制御手段を有する画像記録装置」(決定謄本13頁17行目〜21行目)との点を認定するが、刊行物1記載の発明が、「画像記録されたOHP用紙」と「必要枚数分の画像記録された記録紙のセット」とを一連に排出するように制御するものでないことは上記のとおりであるから、「画像記録されたOHP用紙を排出する動作と、合紙とは別の用紙へのOHP用紙の画像と同一画像の画像記録を会議資料用の必要枚数につき行う動作とを、一連に実行する制御手段」が一致点といえないことは明らかであり、上記一致点の認定は誤りである。
被告は、OHP用紙への画像形成を先に行い、OHP用紙の枚数を「1」に設定すれば、「OHP用紙→記録紙→(必要枚数)→記録紙」の順に排出されると主張するが、この順については刊行物1に明確な記載があるわけではない。刊行物1は、OHP用紙の枚数を設定する手段を有するため、OHP用紙の枚数を複数に設定することを前提とするのものである。したがって、OHP用紙の設定枚数は「1」に限定されず、これを「2以上の数」とした場合には、「OHP用紙1→記録紙1→OHP用紙2→記録紙2・・・」となり、複数枚数の記録紙の間にOHP用紙が混在することとなることは明らかである。被告主張の排出順は、たまたま特殊なケースにおいて予想される見掛け上の結果にすぎず、その主張は失当である。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) (1) 本件決定は、本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点として、「OHP機能が、本件発明1ではOHP合紙機能であるのに対して、引用発明1(注、刊行物1記載の発明)では単にOHP機能である点」(決定謄本13頁22行目〜23行目)を認定した上、当該相違点につき、「引用発明1(注、刊行物1記載の発明)のOHP機能として、引用発明2(注、刊行物2記載の発明)のOHP合紙機能を用いると、『OHP用紙と合紙を交互に排出するOHP合紙機能を備えた画像記録装置において・・・画像記録されたOHP用紙と・・・合紙を交互に排出する動作と、前記合紙とは別の用紙への・・・画像記録を会議資料用の必要枚数につき行う動作とを、一連に実行する制御手段と、を有する画像記録装置。』が構成され、これは本件発明1そのものである。それ故、本件発明1は、刊行物1に記載の発明におけるOHP機能に関する構成を、刊行物2に記載のOHP合紙機能に関する構成で置き換えることによって、当業者が容易に構成できたものと認められる。
また、本件発明1の効果も、刊行物1乃至2の記載から容易に予測できる以上のものではない。よって、本件発明1は刊行物1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる」(同14頁19行目〜34行目)と判断するが、誤りである。
(2) 本件発明は、従来の複写機が、OHP用紙と合紙を交互に排出するものの、合紙とは別の用紙への画像記録を会議資料用の必要枚数につき行う機能を有しておらず、作業効率に問題があったとの技術的課題に対処するものである(本件明細書〔甲第2号証の3〕の段落【0003】参照)。これに対し、刊行物1(甲第3号証)の「本発明の目的は、構造が複雑化せず、しかも複写時間を短縮できる画像形成装置を提供することにある」(2頁左上欄11行目〜13行目)、「〔発明の効果〕 本発明に係る画像形成装置によれば・・・複写時間を短縮することが可能となる」(5頁右下欄18行目〜6頁左上欄1行目)との記載によれば、刊行物1記載の発明は、複写時間の短縮を目的とするものである。この目的に照らせば、刊行物1記載の発明において、露光部の動作停止を伴う合紙の挿入工程を記録動作中に採用する余地はなく、したがって、刊行物2に記載のOHP合紙機能に関する構成を適用することはできない。
また、刊行物1記載の発明では、複数枚の画像記録された記録紙の間に同じく画像記録されたOHP用紙が混在することとなり、複数枚の画像記録された記録紙が連続して排出されることがあり得ないことは上記1のとおりであるから、会議用資料の作成、配布を容易にするという本件発明の上記課題の認識はない。
3 取消事由3(本件発明2の容易想到性の判断の誤り) 本件決定は、本件発明2について、「本件発明1では選択されたサイズの合紙が用いられるのに対し、本件発明2では選択されたトレイの合紙が用いられる点で相違するのみであるから、本件発明2は、引用発明1のOHP機能に換えて、選択されたトレイの合紙を用いる引用発明3のOHP合紙機能を用いることによって、本件発明1におけると同様に、当業者が容易に想到できたものと認められる」(決定謄本14頁37行目〜15頁3行目)と判断するが、本件発明1に関する上記1、2と同様の理由により、本件発明2も、刊行物1、2記載の各発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、誤りである。
被告の反論
本件決定の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 原告は、本件発明1と刊行物1記載の発明との動作の違いを主張するが、本件明細書(甲第2号証の3)の「各原稿とも設定枚数2枚目からはOHP用紙27へのコピーは中止し、合紙用の用紙27に当該原褐(注、「原稿」の誤記と認める。)のコピーを行うために合紙トレイからのみ用紙をフィードする」(段落【0026】)との記載及び図11(甲第2号証の1)の図示によれば、本件発明1においては、図11の40〜44の合紙モードに引き続いて、45の通常の記録紙への複写モードを行うとされているから、同一の原稿について1枚のOHP用紙への記録と必要枚数の別の用紙(記録紙)への記録とが行われ、「合紙→OHP用紙→記録紙(必要枚数)」の順に排出される。これに対して、刊行物1記載の発明は、
ステップ1でコピー枚数を入力し、ステップ2でOHPモードキーを押し、ステップ4でOHP枚数を入力し、ステップ5でコピーキーを押すと、OHPへの必要枚数の記録と記録紙への必要枚数の記録動作が連続して行われる。この場合において、OHP用紙への画像形成を記録紙への画像形成より前に行い(甲第3号証2頁左下欄18行目〜19行目参照)、かつ、1枚のOHP用紙と必要枚数の記録紙へ画像形成を行うときは、OHP用紙への記録に続いて、記録紙が必要枚数分連続して記録され、「OHP用紙→記録紙(必要枚数)」の順に排出される。
そうすると、原告の上記主張は、刊行物1の記載を、複数枚の記録紙の間にOHP用紙が混在している態様に限定して把握したものにほかならず、このような混在の生じない上記の態様を無視したものであるから、失当である。本件決定の刊行物1記載の発明の認定に誤りはなく、原告の主張する一致点の認定の誤りもない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について 一般的に、技術者にとって発明の改良は普通の要求であり、その際、周知の機能を新たに付加する程度のことは格別の困難を要することなく適宜なし得ることである。そして、透明なOHP用紙上の画像を見易くすることは、OHP用紙における一般的な技術課題ということができ、OHP用紙への記録を行う際に自動的に合紙を排出させることは、刊行物2(甲第4号証)のほか、特開昭62-59971号公報(甲第5号証)や特開平2-22677号公報(甲第6号証)に示されるように普通に行われていることであるから、刊行物1記載の発明に合紙機能を持たせることに格別の困難性はなく、容易に想到できたものというべきである。
3 取消事由3(本件発明2の容易想到性の判断の誤り)について 本件発明2の容易想到性について、本件決定の当該判断に原告主張の誤りがないことは、上記1、2で述べたところがそのまま妥当する。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 原告の取消事由1の主張は、刊行物1に、本件発明にいう「一連に実行する制御手段」に相当する構成が記載されているか否かに係るものであるから、まず、その前提問題として、「一連に実行する制御手段」の意味について検討する。
ア 本件発明の要旨は、「画像記録されたOHP用紙と・・・合紙を交互に排出する動作」(以下「動作A」という。)と、「合紙とは別の用紙への・・・画像記録を・・・必要枚数につき行う動作」(以下「動作B」という。)とを、「一連に実行する」と規定するところ、まず、当該文言自体から考えた場合、動作Aと動作Bとは、それ自体はそれぞれに別個独立の動作として規定しつつ、その実行手順が順次連続的に行われることをいう趣旨と解するのが相当である。そして、このような解釈は、本件明細書(甲第2号証の3)の目的に関する記載、すなわち、
「特開平1-117141号公報に開示された作像装置(注、OHP合紙機能を持つ従来の画像記録装置)は、OHP合紙機能が選択されたことを条件として、画像記録されたOHP用紙と、合紙を交互に排出するものの、その際、会議用コピーとして使用する合紙とは別の用紙へのOHP用紙の画像と同一画像の画像記録を会議資料用の必要枚数につき行う機能を有しておらず、作業効率に問題があった。そこで、本発明は、合紙機能が選択された場合に、会議用資料を作成する際の作業効率を向上させる画像記録装置を提供することを目的とする」(段落【0003】)との記載にも沿うものである。
この点について、以下、念のため、本件明細書に示された実施例も参照して検討する。
イ 本件発明に係る願書添付の図9(甲第2号証の1)の図示及び本件明細書(甲第2号証の3)の関連記載(段落【0018】、【0019】、【0024】、【0025】)によれば、本件発明の「OHP合紙モード」では、設定枚数を1枚とした場合、各原稿ごとに、順に、合紙のフィード開始、チャージオフ(コピーしない)、合紙の排出、トレイの変更(合紙トレイからOHP用紙トレイへ)、OHP用紙のフィード開始、チャージオン(コピーする)、OHP用紙の排出、トレイの変更(OHP用紙トレイから合紙トレイへ)という一連のステップ24〜29が1回行われ、次いで、ステップ30(原稿の終了の判定)及び同31(次の原稿を引き込む)を経て、原稿の終了するまで、各原稿ごとに上記ステップ24〜29が繰り返されること、その結果、用紙の排出は、「合紙→原稿1の画像記録されたOHP用紙→合紙→原稿2の画像記録されたOHP用紙・・・」の順に行われることが認められる。
ウ 次に、「会議資料作成を伴うOHP合紙モード」について、本件明細書(甲第2号証の3)には、「次に会議等で用いる資料作成時のLLM48のOHP合紙機能のフローチャートを図11に示す。ステップ40〜44は前記図9と同一手順を示す。そして、各原稿についてのOHP合紙作業が終了しても、設定枚数が1以上あると、各原稿とも設定枚数2枚目からはOHP用紙27へのコピーは中止し、合紙用の用紙27に当該原褐(注、「原稿」の誤記と認める。)のコピーを行うために合紙トレイからのみ用紙をフィードする。・・・このときOHPと合紙はソータ3のノンソートビン301に出力し、残りの複数の会議資料用のコピーされた用紙27はソートビン302またはステイブル機能を選択して出力させることもできる。・・・こうして、OHP合紙モード中に複数枚の各原稿のコピーを行うことができる」(段落【0026】)との記載が認められる。そして、上記「ステップ40〜44は前記図9と同一手順を示す」の記載は、図9の「ステップ24〜29」と図11の「ステップ40〜44」とが同一手順であることを示すことが明らかであるから、この記載及び図11(甲第2号証の1)の図示によれば、「会議資料作成を伴うOHP合紙モード」においても、まず、OHP合紙作業(ステップ40〜44)を実行し、次いで、これに連続して、会議用資料を必要枚数まで作成する(同45、47の繰返し)という作業が実行されること、その結果、排出トレイには、各原稿ごとに、合紙及び画像形成されたOHP用紙のセットと、必要枚数の会議用資料のセットが、順に排出されることが認められる。
そして、上記OHP合紙作業(ステップ40〜44)が本件発明の要旨に規定する動作Aで、会議用資料を必要枚数まで作成する作業(ステップ45、47の繰返し)が動作Bにほかならないから、上記の実施例においても、動作Aと動作Bとは、それぞれ独立した手順としつつ、これらが順次連続的に、換言すれば直列的に実行するものとされており、本件発明が、これと異なる実行態様を含み得るとの趣旨の記載も見当たらない。
なお、このように動作Aと動作Bとがそれぞれ独立した手順で行われる結果、排出トレイには、動作Aに対応する合紙とOHP用紙、動作Bに対応する必要枚数の会議用資料とが、それぞれのセットして得られることは上記のとおりである。
エ 以上によれば、本件発明の「一連に実行する制御手段」の意味は、それぞれ独立した手順である動作Aと動作Bとを、順次連続的に、換言すれば直列的に実行する制御手段をいうものと解すべきである。したがって、本件決定の認定するように、OHP合紙機能以外の点で本件発明1と引用例1記載の発明とが一致するといえるためには、刊行物1に、「画像記録されたOHP用紙を排出する動作」(動作AからOHP合紙機能を除いたもの。以下「動作A′」という。)と、動作Bとを、上記の意味で「一連に実行する」制御手段が記載されていなければならない。
(2) 上記の観点から、刊行物1の記載について検討する。
ア 刊行物1(甲第3号証)の〔発明が解決しようとする課題〕欄には、
「普通紙とOHPシートとに2回の原稿走査によって夫々複写を行う前記従来の構成では、露光部を2往復させる必要があるため、複写時間に充分な短縮を図ることができない。2種類の固体撮像素子を用いた前記従来の構成では、構造が複雑化し、製造コストが高くなるという問題がある。本発明の目的は、構造が複雑化せず、しかも複写時間を短縮できる画像形成装置を提供することにある」(2頁左上欄4行目〜13行目)との記載が、〔作用〕欄には、「本発明に係る画像形成装置では、第1画像形成制御手段による制御に基づいて、記録シートに対し画像形成が行われる。この場合には、第1画像形成手段が、原稿と露光部を第1方向に相対移動させて原稿に対し露光を行わせるとともに、給紙部から記録シートを供給して、
画像形成部で画像形成を行わせる。一方、第2画像形成制御手段に基づいて、OHPシートへの画像形成が行われる。この場合には、第2画像形成制御手段が、原稿と露光部を第2方向に相対移動させて原稿に対し露光を行わせるとともに、給紙部からOHPシートを供給して、画像形成部で画像形成を行わせる」(2頁右上欄16行目〜左下欄8行目)との記載が認められる。
イ 上記記載によれば、刊行物1記載の発明は、露光部を一往復させ往動時に記録紙への記録動作を行う複写機において、普通紙とOHP紙との複写をそれぞれ往動時に行った場合、露光部を二往復させるために複写時間の短縮を図ることができないという問題に対処するため、露光部の往動時に普通紙への複写を行い、復動時にOHP紙への複写を行う構成とすることにより、一往復の間に普通紙とOHP紙とに複写を行い、構造の複雑化を伴うことなく複写時間を短縮するものであることが認められ、これに、刊行物1(甲第3号証)の第4A〜D図、第5図の図示及びその関連記載(3頁左下欄19行目〜5頁右上欄19行目)を総合すれば、その具体的な動作手順は、所要のコピー枚数を、記録紙5枚、OHP用紙2枚と設定した場合、以下の順(下線部は注記である。)に画像が形成されると同時に、画像形成された記録紙及びOHP用紙は、そのままその順に、すなわち、下記に下線部で表示した記録紙及びOHP用紙の順に排出トレイ32に排出されることが認められる。
(ア) モード及び必要枚数の設定(S1〜S5) (イ) プレスキャン(S6〜S12) (ウ) 記録紙1への記録(S13〜S22) (エ) OHP紙の残り必要枚数(=2)の判定(S23) (オ) OHP用紙1への記録(S24〜S42) (カ) 会議資料用の残り必要枚数(=4)の判定(S43) (キ) 記録紙2への記録(S13〜S22) (ク) OHP紙の残り必要枚数(=1)の判定(S23) (ケ) OHP用紙2への記録(S24〜S42) (コ) 会議資料用の残り必要枚数(=3)の判定(S43) (サ) 記録紙3への記録(S13〜S22) (シ) OHP紙の残り必要枚数(=0)の判定(S23) (ス) 光学系リターン(S44〜S49) (セ) 会議資料用の残り必要枚数(=2)の判定(S43) (ソ) 記録紙4への記録(S13〜S22) (タ) OHP紙の残り必要枚数(=0)の判定(S23) (チ) 光学系リターン(S44〜S49) (ツ) 会議資料用の残り必要枚数(=1)の判定(S43) (テ) 記録紙5への記録(S13〜S22) (ト) OHP紙の残り必要枚数(=0)の判定(S23) (ナ) 光学系リターン(S44〜S49) (ニ) 会議資料用の残り必要枚数(=0)の判定(S43) ウ そうすると、刊行物1記載の発明においては、動作B(記録紙への画像記録を会議資料用の必要枚数につき行う動作)に相当するのは、「S13〜S22→S23→S44〜S49→S43→S13」を繰り返す動作であると考えられるところ、当該動作は独立した手順とされておらず、S23のOHP紙の残り必要枚数の判定結果によって、動作A′(S24〜S42)へ手順が分岐し、結局、両動作は並列的に結合されているということができる。このため、動作A′と動作Bとは、それぞれが独立して完結することなく、その一部が交互に実行され、その結果として、排出トレイ32への排出順序は、必要枚数分の記録紙の間にOHP用紙が入り込んだ状態となっており、OHP用紙と必要枚数分の記録紙とを、それぞれのセットとして得ることもできない。そして、このことは、露光部の往復動を利用して動作A′と動作Bを実行するという刊行物1記載の発明の根本的な制御方法に由来するものであるから、両者を直列的に実行することは、刊行物1記載の発明の想定するものではなく、刊行物1が、動作A′と動作Bを直列的に実行するように制御するという技術思想を開示するものとはいえない。
したがって、刊行物1記載の発明は、動作A′と動作Bとを「一連に実行する制御手段」を備えるものではないというべきである。
(3) 被告は、OHP用紙への画像形成を記録紙への画像形成より前に行い、かつ、1枚のOHP用紙と必要枚数の記録紙へ画像形成を行うときは、OHP用紙への記録に続いて、記録紙が必要枚数分連続して記録され、複数枚の記録紙の間にOHP用紙が混在しない態様がある旨主張する。
確かに、刊行物1(甲第3号証)には、「なお、第1画像形成制御手段と第2画像形成制御手段とは、いずれを先に作用させてもよい」(2頁左下欄18行目〜左下欄19行目)との記載があり、OHP用紙への画像形成を先に行った場合において、OHP用紙の枚数を「1」と設定したときは、OHP用紙の排出動作(動作A′)と記録紙への画像記録を必要枚数につき行う動作(動作B)とが、結果的に直列的に「一連に実行」されたのと同じ結果になっているということはできる。しかし、刊行物1(甲第3号証)の「ステップS4においてOHP枚数がテンキー41の操作に基づいて入力される。ここでは仮に、『2』が設定されたとする」(3頁右下欄16行目〜18行目)との記載から明らかなように、刊行物1記載の発明においては、OHP用紙の設定枚数が「1」に限定されておらず、これを複数枚に設定し得ることは当然の前提となっているところ、所要のOHP用紙を複数枚と設定した場合には、もはや「一連に実行」されたといえなくなることは、前示のとおりである。
これに上記(2)の認定を総合すれば、刊行物1記載の発明は、露光部の往動に係る動作A′と、復動に係る動作Bとを、交互に、すなわち並列的に実行する制御手段を備えるものとして理解するほかなく、被告の主張するような特殊な条件設定を与えた場合に、たまたま必要枚数の記録紙の間にOHP用紙が混在しない態様が想定されるからといって、刊行物1からは、「動作A′と動作Bとを一連に実行する制御手段」という独立した技術思想を読み取ることはできない。したがって、
被告の上記主張は採用することができない。
(4) 以上のとおり、本件決定の「刊行物1には、『OHPシートを排出するOHP機能を備えた画像形成装置において、OHPモードの選択がされたことを条件として、画像形成されたOHPシートを排出する動作(第4C図におけるステップS23乃至S42)と、記録紙へのOHPシートの画像と同一画像の画像形成を必要枚数(例えば5枚)につき行う動作(第4B図におけるステップS13乃至S22及び第4D図におけるステップS43及びS44乃至S49)とを、一連に実行する制御手段を有する画像形成装置。』(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる」(本件決定謄本11頁29行目〜37行目)との認定は誤りであって、したがって、本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点として、「画像記録されたOHP用紙を排出する動作と、合紙とは別の用紙へのOHP用紙の画像と同一画像の画像記録を会議資料用の必要枚数につき行う動作とを、一連に実行する制御手段」(同13頁18行目〜20行目)の点を挙げた本件決定の認定も誤りであり、原告主張の取消事由1の主張は理由がある。
2 取消事由3(本件発明2の容易想到性の判断の誤り)について 本件発明1と刊行物1記載の発明との一致点の認定に係る誤りとして上記1に述べたところは、本件発明2に関しても、そのまま妥当するから、本件決定の本件発明2の容易想到性の判断についても誤りがあるというべきである。
3 以上のとおり、原告主張の取消事由1、3は理由があり、この誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件決定は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利